気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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本編に…というより、この話の流れの陰で不幸な人生を歩むことになった、某冒険者チームのリーダーさんが、微妙に闇落ちした環境で登場。

その流れも一応、書かれていますが、こっちの世界線では、漆黒の2人は何も手を下していません。

彼が勝手に自滅しただけという、本編よりも悲しいかもしれない流れ…。

そして、その「彼」が抜けた穴は、割と簡単に努められる存在が見つかり、漆黒のチームとも友好的に行くようになり、たま~に漆黒の2人&一匹が助けてくれる恩恵もあり、今はオリハルコンまで目の前まで来てるとか、来ていないとか…。

 そして、その「彼」はナザリックの為に寿命が来るまで一生を捧げることに???


第26話 新たなるリーダー…そしてその結末。

 …かくして、フォーサイトのメンバーがジエットの鑑定室長としての部屋で一連の話が展開されている頃。

 

 すでに周囲は夕暮れどころか夕闇がそこかしこにでき始めている頃、ソリュシャンとセバスは帝都の中では良くも悪くも評判の『黄金色(こがねいろ)の菓子亭』にまで『馬』で到着していた。

 

 これが真昼間であればさぞや野次馬に囲まれ、好ましくない視線にさらされていただろう…しかし今は夕闇に包まれんとしている時間、そんななか夕食の支度もせずに表をほっつき歩いている者など、仕事上でやむなく移動中か、依頼を終えて、戻ってきたワーカーや、細々と毎日の食い扶持を確保してホッとしている冒険者くらいであろう。

 

 つまりは、昼間ほどの人ごみも、好奇の視線もほとんどない、夜とは言え、馬のいななきなどがあれば窓からでも様子を見ようとする者らは居るだろう…ということで、アインズが常に守護者に抱いている〝過保護的精神〟を見事に発揮して用意したソウルイーターに乗った2人は、空から帝都上空より、今回のターゲットになった建物の上辺りにまで移動していた。

 

「空からでは、どの建物がアインズ様に言われた場所なのか、見当もつきませんね、セバス様」

 

「そうですね…あまりにも似たような古びた建物ばかりです…が…、どうやらあの建物の様ですよ? ごらんなさいソリュシャン、屋根の上で私たちを発見し、手を振っている者が居ます。」

 

「あら…おっしゃる通りですね、でも誰でしょう…ここから見た感じ、黒ずくめの衣装なので、ハッキリ誰か…までは判別できませんね。」

 

「まぁ…そこらへんはあの屋根にまで行けばわかることです、声の感じからでもいいですし…同胞の者ならば、顔くらいは見せてくれるでしょう…見せてくれなくても我々だけに通じる雰囲気でナザリックの者かはすぐにわかるのではありませんか?ソリュシャン…。」

 

「まさにその通りですわね、ではセバス様?それではあそこまで近づきますか?」

 

 

 するとソウルイーターを操っていたセバスは、ゆっくりと現場の建物の屋根の上、少し上空まで降下をし、その者の確認を始めた。

 

 

 

 目の前には、自分達が上空から降下し始めたあたりから、ナザリックの者にふさわしい臣下の礼をとり、跪いている者が微動だにせず、頭を垂れている。

 

「見た所、あなたも私たちの同胞、ナザリックに属する者の様ですね、その身に纏う空気でわかります、そのような臣下の礼など不要ですわ、私たちは皆アインズ様にお仕えするという点で同じ立場の者たち…創造主様による与えられた地位の差こそありますが、それ以外は上下などはありません…」

 

 ソウルイーターから屋根の上に降り立ちながらソリュシャンが諭すようにそう言うと、静かに顔を少しだけあげた、その黒装束の者が初めて口を開いて声を発する。

 

「ありがとうございます、ソリュシャン様…それにようこそお出でくださいましたセバス様も…我が主の命により、このあばらやの監視、及び、皆様への出迎え、さらには現状の報告という任を与えられましたので、こちらにてお待ち申し上げておりました。」

 

「あら…初めて聞く声ね…でも間違いなく、その雰囲気は私たちと通じるものを感じられる…外部の者でも、この世界の者でもないようですね…名前を聞いてもよろしいかしら?」

 

「申し遅れました、ソリュシャン様、私は今朝方、至高なる御身、アインズ様の御手により起動を命じられ、長き眠りより目覚めさせていただきました、「フレイラ=ルアル=アセンディア」と申します。 以後、お見知りおきを…」

 と言うと、再び深々と頭を下げる。

 

「あぁ、もう立ち上がっても大丈夫よ? 私たちは共に至高なるアインズ様を奉ずる志で集う者、という点で平等です、公式な場ではないんだし、堅苦しい挨拶はよしましょう。」

 

 そこで会話が一区切りついたのを見計らい、屋根の上にソウルイーターを座らせ、降り立ったセバスが冷静な声でフレイラにこの場所に来た最大の目的について疑問を投げかけた。

 

「ところで…こちらに監禁されているという人質の件はどうなりましたか?」

 

 

                   ☆☆☆

 

 

「…ということで、アインズ様がご親交のあるような口ぶりをされていたジエットなる者が、自力で人質は救出できております。 …ただ待ってアインズ様のお手を煩わすことを良しとしなかった様子ですね。」

 

 この建物内で起きたこと、そしてその結果どうなっているかの説明を一通り終えたフレイラに、うなずくようにソリュシャンがジエットへの評価を口にする。

 

「そう…その精神は立派ですね、人間とは言え、アインズ様御自らナザリックにご招待をされ、歓待された物の1人、きっとなにかの利用価値があるのだろうと思って居ましたが、それなりの使い道はありそうですね。」

 

「それで…あなたがここで継続的に命じられていることは先程、言われていた「アリの群れ」の話のような事態になるかどうか…それを確かめるため…ということですね?」

 

 セバスがフレイラに、解決している事件の後始末ではなく、経過観察のみが今ここに居る理由かどうかの問いを発していた。

 

「はい、それもございますが、我が主はこう申されていました、『もし野心のある者が出てきて、一団のトップに上がろうとする者でも出た場合は今後も帝国でよからぬことをしでかす可能性がある、その時はどの程度の団体か…、規模は…? そして、首魁はどのような輩か…それを可能であれば見極めろ』…と。」

 

「そうですか…それならセバス様?もしその中で興味深い者が居れば、1人、私がいただいてもかまわないでしょうか?」

 ぐにゃりと崩れたような笑みを浮かべるソリュシャンに、小さく「ふぅ」とだけ発したセバスが即答する。

 

「そうなるに相応しい末路を迎えることが当然の者であれば許しましょう。 私も共に行きますが…館の中では私はソリュシャンお嬢さま…あなたのお付きの執事…そのように振る舞うことを忘れてはいないと確信していますが、よろしくお願いしますよ? ソリュシャン…。」

 

 先程の歪みきった笑顔はどこへやら、普通の表情に戻り、優雅な礼をわずかに腰を曲げることで示す。

「了解いたしました、セバス様。」

 

 同じ屋根の上での会話ではあるが、今のフレイラにはヤシチとして身に着けている装備の早着替えのローブ、そこに<静寂化(サイレンス)>をかけていたため、二人が屋根に下りる際、自らが背負った無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)内にそのローブを収納し、会話を成立させていた。

 

 ローブを脱いだら、そこには当初、己が着ていた和服系の聖遺物(レリック)級の装備の上に黒ずくめの忍者装備を身に着けている。 もちろん見えているのは目の周囲だけで、顔全体の造作はあまりよくわからないようになっている。

 

「あら…あなたはニンジャとか…だったの?」

 

 興味深げにソルシャンが問いかける、ユグドラシル基準なら、その職になるには最低でも60LVは必要だからだ。

 もしそうなら自分よりもレベルは上ということになる。

 だからこその問いかけだった。

 

「いえ、この身はその職を取っておりません、これは夜の行動にはこれが相応しかろうと過分にも主より賜った物です。」

 

 それだけ聞くと、少なくとも60LVまでは行っていないのだろうと予測をつけたため、少し興味を失ったソリュシャンは話題を変える。

 まだそれ以上のレベルかもしれないという可能性はあるが、それはそれで、同じナザリックの者であれば警戒の必要もないからだ。

 

「そう…ま、それならあなたのことを知るのは後々でもいいでしょう…それで? 中の人間はどうなってるの?ナザリックの者をつけて監視でもさせているのかしら?」

 

「は…私が呼び出したシェイド・スピリットを4体、中の人間どもに潜ませ、動向を逐一報告させています。」

 

「あぁ、あの子達ね、あれらは念話の代わりに<伝言(メッセージ)>に近い会話方法だったわね、それなら今回の人選は適役でしょう…わざわざ影から出て、報告しに来る手間が省けるでしょうからね。」

 

 ソリュシャンがそう評価を出していると、フレイラがこめかみに指を当て、なにやらブツブツと話をし始めた。

 

「ソリュシャン様、セバス様…どうやら一団に、遅れて合流しに来た者がいるようです、どうやら、そいつが我が物顔で仕切り始め、現場は混乱しているようですね。」

 

 シェイド・スピリットからの報告を受け取ったフレイラがセバスとソリュシャンに状況の変化を報告したところ、なにやら上機嫌な様子に表情を変化させたソリュシャンがセバスに聞こえるように問いかける。

 

「そう…それなら、多分、そいつが、大元の首魁の情報を少しでも知っていることでしょう…それを期待して乗り込むとしましょうか?セバス様?」

 

「そうですね、ここでただ立ち尽くしていいるだけでは芸もないというもの…、虎児とまでは行かなくとも、せめてなんらかの有効な情報は欲しいものですからね…」

 

「決まりね、では行きましょう、セバス?」

「ハイ…お嬢さま…。」

 

 即座に「金持ちの令嬢とその執事」の芝居に入った2人は屋根から音もなく地面に下りる直前、フレイラに1つ指示をする。

 

〝あなたは屋根から見張り、外に逃げ出す者などが居たらその者らの確保をお願いね〟…と。

 

 そして、思いっきりこのような裏通りには似つかわしくない程の上等な衣類に身を包み、豪華な装飾具をこれでもかと言わんばかりに身に着けた2人が、建物の中に入って行った…もちろんソリュシャンは戦闘メイドのメイド服ではない…。

 とは言え、その衣服だけでも、セバスもソリュシャンも、最上級のレアリティの物を身に着けている。

 

 一般メイドが身に着けているメイド服が、この異世界ではミスリル製のフルプレート並の硬さだとすると…今回この二人が身に纏っているのは、オリハルコン以上、アダマンタイト弱、といった装備だ…、現地のナイフ程度では傷1つ付かないだろう逸品で身を飾って堂々と中に入っていった。

 

                   ☆☆☆

 

 

「おら、おまえら、何してんだ! 人質を確保したんじゃねぇのか? 連絡役からそういう報告があったから俺が来たって言うのによぉ!」

 

 明らかに、神経質そうな声を張り上げる男が、来たばかりで場を仕切るように声を張り上げている。

 

 ここは裏通りで、あまり人も通らない区域だとは言え、そんな大声でまくし立てていたら、誰に聞かれてしまうかわかったものでもないのに、こいつはそんなことも理解できていないのか?という想いを手下の一同…無論全員から、そういう目で見られているのにも気づかず、相変わらず、自分が気に食わないと思った何かが視界に入るたびにダメ出しを繰り返していた。

 

「まぁまぁ、リーダー、来たばかりでまだ自己紹介や、誰がどんな役割かもお互いにわからないんですから…とりあえず、どういう役割分担なのか分かり合った方がいいんじゃ…と、すみません、もちろんリーダーなら、そのくらい先にわかってましたよね、横から余計な口を挟んじゃってすみません。」

 

 そうなだめるように間を取り持とうとしているのは、そのリーダーに着いてきた筋肉の盛り上がりに反比例して、物腰は柔らかく、どこか幼げな雰囲気をまとう…わかりやすく言うならば、明らかにそのリーダーと呼ばれる男の古くからの弟分なのだろう…そいつの気質を知った上で、プライドを傷つけないように毎度、助言をしている。

 

「まぁ、わかっちゃいたけどよ、こういうのは始めが肝心だからな…どの世界で生きていくにしたって舐められちゃ生きていけねぇってことはお前だってわかってるだろう? もぅ俺らはあんな失敗はできゃしないんだからな…わかってるな?」

 

「そうですね、兄貴なら、前の失敗を材料に今回のことに活かせる人だと思っているからこそ…でしたが、余計な口を挟んだみたいで、許してください。」

 

「あぁ、オレだって、あんな情けねぇ想いはもぅコリゴリなんだよ…お前の心配もわかるってもんだ。 お前を責めやしねぇから安心しろ。」

 

 と、ここまでのやり取りでようやく頭の中がある程度冷静になってきた「兄貴」と呼ばれていた、リーダー格(と言っても二人組なのでその2人以外は居ないのだが…)の男が気を取り直して再び口を開く。

 

 

「すまねぇな…大人げなく声を荒げちまって…オレはイグヴァルジ、最近、ボスに身内にさせてもらってな…、小口の稼ぎとは言え、細く長く安定した継続利益をたたき出してるお前らの評価はボスも決して悪く思ってはいねぇんだ、だからこそ、力を貸してやってくれって頼まれてここに来たわけだが…」

 

「そして、おいらはヴァイエル、兄貴が今のボスに認められるよりも前からのチームメイトだ。 兄貴に救われて…拾われてなかったら、今のおいらはない、だからおいらは何があっても兄貴の助けになろうと決めた、それがおいらの生きる道と決めたから。 ってわけだから、とりあえず、みんな、よろしくな。」

 

 

 

 賢明な読者の皆様は、なぜこんな時に、こんな場所(帝都)などに、こいつが居るのかと不思議で仕方ないだろう…それもこれも、全部このイグヴァルジ自身が、自分の成長しきれて居ない精神年齢を抑え切れなかったが故だろう、よく言えば「英雄願望が強すぎ、自分がそうでありたいという一心からの暴走」であり、悪く言えば「ただのガキっぽい高望みに己の能力が及んでいないことを認められなかった」というだけである、どちらにしてもどうしょうもないヤツという評価以外ないのだが…。

 

 

 

 そもそも、これも自分より後に冒険者として登録し、先日までカッパー級だったはずなのに、気がついたら、数千のアンデッドが発生した事件を自分のチームだけで解決し、ほんの数日で自分たちのかつて所属していたチームと同等のミスリル級に昇格…その後は、定期的にトブの大森林にて、モンスターの間引きをずっとしていることにより、実力をつけてきたことを正式に認められ、冒険者組合長と、魔術師組合長の二人を相手にし、2VS2の模擬戦闘で圧倒した件を経て、オリハルコンに昇格。

 

 その直後に発生した王都への悪魔襲来事件に参加して、他の冒険者達とも協力することになった上、これまた自分らのチーム+別のアダマンタイトチームの1人、魔法詠唱者(マジックキャスター)のゲストというただの幸運に恵まれただけのクセしやがって、悪魔を撃退できたことを自分の手柄みたいにふるまって、しかも王様から短剣を貰ったっていうじゃねぇか!

 

 うちらだって、その気になれば悪魔くらい恐れず、立ち向かえたんだ…という、その悪魔の実態も強さも、凶悪さも全く知らないからこそ言える勝手な言い分を振りかざし、すでにアダマンタイトになってしまっていた『漆黒』を名乗るチームにコトあるごとにつっかかり、わざわざ敵対するかのようにケンカ腰の口調で煽っている。

 

 大物の『漆黒』のリーダーは「やれやれ…」と言った風ではあったが、いい加減エ・ランテルの都市長、そして初めてエ・ランテルで生まれたアダマンタイト冒険者のチームを手放したくない冒険者組合長に、魔術師組合長まで出てきて、クラルグラに注意勧告がなされたのだ。

 

 都市長が介入してきたのは、せっかく現れたアダマンタイトチームが…、あらわれた直後に別の国か、街にでも移籍などしてしまったら、エ・ランテルの評判はもちろん、この街の護りという意味でも、住人の精神的な支柱という意味でも、もはや『漆黒』は無くてはならない存在となっていたのだ、それに比べたらクラルグラレベルのチーム1つくらい、減った所で『漆黒』とは比較にもならなかったのだ。

 

 そして、普段は魔法のことに関してのことに重きを置き、滅多に政治的なことに関与しない魔術師組合長までが顔を突っ込んできた理由は、悪魔退治の時にさかのぼる…、悪魔退治の際、当時まだオリハルコンだった『漆黒』が悪魔撃退の先陣として切り込むことに対して、共に行くから大丈夫だ、と保証している「王国のアダマンタイト冒険者」の、仮面をつけた小柄な魔法詠唱者(マジックキャスター)が着いていくとは言え、あまりに無謀だとほとんどの参加者が否定する中…「切り札ならある」として出してきたのは大きな水晶のような塊、その中には第9位階魔法が封じ込められているという…。

 

 試しに参加者の中で道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)が使える者が調べてみた結果、<付与魔法探知(ディテクト・エンチャント)>を使用しなかったせいで中の魔法までは分からないが、確かに第9位階魔法が入っているという証明がされてしまったのだ。

 

 結局、悪魔騒動の際、撃退するのにそれを使用したという話は聞かなかったため、魔術師組合長としては…あわよくば、恩を感じてもらうことでその水晶のような塊を…と内心計算しての行動なのだが…そのようなことをイグヴァルジは知るはずもなく…彼の中では「あの野郎、目上の者にゴマをすることばかり得意みたいで、気に食わねぇ」という印象が新たに根付いてしまい、さらにこじれてしまう…。

 

 

 結局、彼の『漆黒』への対応に変化があるわけもなく…というより悪い方向で変化は起きてしまい、尚更ヒートアップするイグヴァルジを見かねた冒険者組合長アインザックがイグヴァルジをクラルグラから追放処分にし、他の冒険者組合に所属できないように布令を出し、情報共有を図ることによって、冒険者としての資格を剥奪されてしまったイグヴァルジは、どこの都市、国、からも冒険者組合に登録できなくなってしまう。

 

 そのため、図らずも彼は「目の上のたんこぶ」扱いしていた『漆黒』チームとは全くの別次元で〝漆黒の名簿〟(ブラックリスト)入りという、周囲の者に聞かれたら、雲泥の差がある評価をその身に背負うことになり…、王国には居場所はなく…聖王国は獣人たちとの争いごとでそれどころじゃない、どころかそんな国に行ったら自分の身の上もあやうい。

 そして竜王国でもそれは同様、というより、聖王国よりも竜王国の方がもっと深刻という話をすでに冒険者時代から聞いていたので、消去法により帝国に来るも、どうしてもワーカーという…ある意味「脱落組(ドロップ・アウト)」になってしまうことに抵抗を示し、なけなしのプライドを維持していたのだ。

 そこに声を掛けてきたのが今回の話に出て来た「ボス」なる人物だ…、「ワーカーも、冒険者も目指す地位としては小さい…キミのような野心を持つ者は、上に立つべき宿命を持っているのだ、それは1チームで収まる器じゃない…裏の社会を踏み台にして、さらにそこから国を裏から操る、影の存在として君臨するべきだ!」という言葉にコロっと説得され(騙され)てしまい、今に至る、という経緯で、帝都の影の一部門を掌握するところからコツコツと段階を踏んでいる最中の彼は、異様に張り切って、それが空回りしていることなど、全く気にしていないのだ。

 

 

 

 そして、そのイグヴァルジに着いてきたのがヴァイエルという男…この男は、イグヴァルジを「恩人」と思っていて、そのためならどのような苦労も厭わない!と考えるほどに、イグヴァルジを慕っているのだ。

 

 それもそもそも、彼が冒険者として駆け出しとして成長中だった鉄級冒険者チーム「コン・グラツィア」その中で、回復担当だった彼は、後方&最後の命綱扱いされていたので、最後まで生き残っていたのだが、大森林での薬草採取の依頼中、不幸にも2体のオーガ、そしてウルフに乗って機動性でかく乱してくるゴブリンが2体、普通に足での移動で、接近戦を挑むゴブリンが3体という不幸な事故が起きてしまったのだ。森の中はモンスターの得意な地形であり、地の利も向こうにある、仲間には森祭司(ドルイド)魔法詠唱者(マジックキャスター)、重装戦士や、槍使い、野伏(レンジャー)、さらに盗賊も居たのだが、ウルフに乗ったゴブリンを1つと数えたとしても個体で〝7〟それに対して、こちらは同じ〝7〟とは言え、近接戦闘が安心して出来るのは、重装戦士と、槍使いの2名のみ…あとは遠近を使い分ける為、戦闘力ではやや不安のある野伏(レンジャー)に、盗賊、後方支援は森祭司(ドルイド)魔法詠唱者(マジックキャスター)、そして回復役のクレリックの自分だ…。

 

 物量としては難しかった、オーガ2体は戦士系の2名がブロックしてくれているも、ウルフに乗ったゴブリン2体が野伏(レンジャー)に、盗賊という素早さを活かした戦いをする者らに挑み、その機動性で、長所を潰してしまっている、しかも森の中…樹木に隠れたり、藪の中から飛び出してこられては対応も一瞬遅れてしまう、森祭司(ドルイド)魔法詠唱者(マジックキャスター)、そして私がうまく支援しても…いつ、残った3体のゴブリンが肉迫してくるかわからない……、最初こそ対等に渡り合えていたが、次第にスタミナの面で開きが出てきた。

 

 ウルフに乗ったゴブリンを何とか一体仕留めた野伏(レンジャー)と盗賊だが、トドメを指す瞬間を読まれ、もう一体のウルフに乗ったゴブリンに、森の中では要注意な野伏(レンジャー)が最初の標的にされ、犠牲になった。

 

 残された盗賊も、その流れを見ていた、徒歩ゴブリン3体に囲まれ、多勢に無勢、魔法詠唱者(マジックキャスター)森祭司(ドルイド)の支援を受けながらも最終的にウルフを仕留め、徒歩ゴブリンの2体を片付けた段階で、横から突き出されたウルフから降りたゴブリンのショートスピアが脇腹に刺さってしまった、そのゴブリンは突き刺さったままの槍の先を盗賊の体内に残したまま自ら槍を折ると、倒れたゴブリンのショートソードを拾い、再度盗賊に襲い掛かる、回復をしようにも、体内に槍の先が残っていたのでは、体内にそれが残されてしまい、回復に意味がなくなってしまう。

 

 それを察知したのか、最初からそうするつもりだったのかは知らないが、盗賊はショートソードを持ったゴブリンの攻撃を正面から受け止め、深々と刺さった武器を抜かない内に抱きしめにかかり、首の後ろに自分の武器をめった刺しにして、相打ちになった。

 

 徒歩ゴブリン3名の内、2名はやられたものの、最後の一匹は、魔法詠唱者(マジックキャスター)の近くにまで、接近、襲いかかろうとするも森祭司(ドルイド)の<植物の絡みつき(トワイン・プラント)>に阻まれ、身動きが出来なくなっているところを<魔法の矢(マジックアロー)>で、仕留められる。

 

 しかし、ここで最悪な事態が起こる、襲いかかってきたゴブリンに気を取られていたのもあるし、恐らく、戦闘の気配に誘われて…というのもあるだろう…もしかしたら、血の匂いか何かに誘われたのかもしれない。唐突に背後から、足元にまで接近していた「森林長虫(フォレストワーム)」の大型が最後尾に居た魔法詠唱者(マジックキャスター)を丸呑みにする。

 

 回復役の自分はと言えば、まだ息が残っている盗賊の身体から槍の先を引き抜き、治療をしようとしていたため、森林長虫(フォレストワーム)の近くに居なかったのが幸いし、難は逃れたが、ドルイドだけでは決定打に欠けていたため、ジリ貧で森祭司(ドルイド)も倒れて丸呑みされてしまう。

 

 それを見ながら、しかしオーガ2体をブロックすることに精一杯の戦士2名は、他に力を割ける余裕はなく、どうしようもなかった。

 

 その時、ようやく傷口は塞がってきたが、まだダメージが完全に癒しきれていない盗賊が、ヴァイエルの前に立ち、森林長虫(フォレストワーム)に向かっていく。

 

 勝負は目に見えているように思えていたが、予想以上に森祭司(ドルイド)の彼が善戦していたようで、森林長虫(フォレストワーム)の反応もかなり遅くなっていた。

 

 最後の力を振り絞ったのだろう、盗賊の彼は、森林長虫(フォレストワーム)の頭の部分にショートソードを突き立てると、敵も最後の力を振り絞ったのか、盗賊を締めあげ、お互いにコト切れたようだった。

 

 これで残されたのは戦士の2名が受け持つオーガが一体ずつ…そっちに回復を専念すれば勝てるかも…と思ったのもつかの間、一歩遅く、槍使いの戦士がオーガの剛力によって振り下ろされた棍棒を防ごうとした槍ごと折られ、絶命してしまう。

 

 これで、傷つきながらもまだ余力を残しているオーガが2体と、重装戦士と自分だけ。

 

 即座にクレリックの彼は<祝福されし護り(ブレスド・ガード)>を重装戦士に発動させ、防御力の底上げ、そして<祝福(ブレス)>も使用し、わずかながら攻撃力にも威力の向上を上乗せさせた。

 

 しかし出来るのはそこまでだ…ポーションくらいは持って来ているが、これは戦闘終了時に飲んで(飲まずとも体にかけてもいいが…)、時間をかけてようやく効力が発揮される、戦闘中では準備している最中に攻撃を受けてしまうし、回復の見込みもなく、意味はない。<軽症治癒(ライト・ヒーリング)>をかけようにも、重装戦士とオーガが近すぎる為、回復魔法の範囲にオーガも入ってしまう。

 

 どちらにしろ、今の自分に手伝えることは見守ることだけだ…いや、1つだけあった。

 

 そう思いなおし、オーガ2体を相手に、1人で防戦一方の重装戦士の支援をするため、スリングを用意する、購入時に専用の弾石は購入済みだ。

 

 槍使いが戦っていた方のオーガの方がややダメージはあるっぽいと見たヴァイエルは、そっちのオーガにスリングの支援でなんとか対応した。

 

 しかし、結局は速度が乗ったという程度のただの石だ…、オーガにとっては煩わしい程度だし、直接目に当たったり、額や鼻に当たったりしない限りはそこまでの脅威ではない。

 

 とは言え、ずっと放置していると、ホントにイヤなタイミングでスリングの弾が邪魔をしてくる、なかなか目の前の重装戦士に集中ができない。

 

 そう考えると、「あのスリングの男を先に始末した方がいいだろうか?」という考えがオーガの脳内に浮かぶ。

 

 そんな考えが浮かぶと行動は早かった。 そのオーガが、目の前の重装戦士から目を逸らし、自分にイヤらしい笑みのような歪んだ表情を向けて来たと思った瞬間にイヤな予感がした。

 

祝福されし速攻(ブレスド・スピード)>を自らに発動させる、するとそれと同時にオーガはやはり自分に向かってきた。

 

〝速攻〟となっているが、攻撃に特化された魔法ではなく、普通の移動、そして走る行動だけにも恩恵が入る、そのため、オーガに追いつかれない為に必要だった。

 

 まだオーガとの距離があるうちに、もう一つ、効果は一点タイプより上昇率は劣るものの、オールマイティに全てに効果がある<祝福(ブレス)>もかける、ほんの僅かだろうが、これで移動速度や、ダメージ減少に防御の微上昇もかかっただろう…かけ終わりふと前を見ると、あと2~3歩走ることを許せばオーガが自分にたどり着けるのではないか?という距離だったため、ヴァイエルは駆けだした。

 

 後ろでオーガと一対一になった重装戦士に届くように声を張り上げて…

 

「こっちのオーガはおいらがひきつける、だから、そっちを片付けたら応援お願い!」とだけ言い残す。

 

 重装戦士の返事を待っている余裕はない、あとは、自分が少しでも長く生き延びることが出来れば…そういう淡い想いを抱きながら、ひたすら森の中を駆け出し、オーガに追いつかれないようにする。

 

 もぅスリングを撃つ余裕はない、それならと、走りながらスリングを仕舞い、オーガから少しでも離れることに専念し、走りながらも躓いたり、転んだりしないようにだけ注力し、森を駆ける。

 

 

 

 

 果たして、あとどれくらい走れるだろうか…そう思っていた時に突如、声が掛けられた。

 

 

「こっちだ、そのまま全速力でこっちの方に逃げろ! とにかく後ろは振り返るな、足が千切れても走れ!」

 

 

 その声で、声のした方に向かって逃げ出したヴァイエルは、とにかく後ろを振り返る余裕はなく、走りに走った、そうすると後ろから悲鳴が聞こえた…恐らく重装戦士がオーガを仕留めたのだろうと、考える。

 

 あとは、自分がこいつを引きつけ、追いつかれなければ、戦士が追い付いてきて、なんとかなる…そういう希望が自分に力を与えてくれた。

 

 逃げに逃げている間、自分を追いかけてくるオーガに対して、恐らく、声を掛けてくれた相手が、自分の狩場で仕掛けておいたものだろう…そのワナがオーガにかかり、かかった罠からオーガが抜け出す。そこから抜け出そうともがいてるうちにヴァイエルは余裕のある距離を保つことに成功した。 まとわりつく分銅付きの投網からオーガが抜け出したと思うと、再びトラップ、躓き、転んだすきに矢の雨を降らし、体力を削る。

 

 起き上がったオーガは、それでもこっちを追いかけてくる、その間、恐らくどこかの木の上に居るのだろう姿の見えない存在より、目に見えている逃げ出している獲物を追った方がいいと判断したのだろう…追いかけてくるのはやめてはくれない。

 

 「よし、そこで、目の前のヒザくらいまである石を右側に迂回して、岩の少し左の方にまっすぐに逃げるんだ。」

 

 その声のままに従い、目の前の大振りな石を迂回するように回って、少し斜めにまっすぐ進むように逃げる。

 

 しばらくすると、大きな悲鳴が聞こえた。

 

 あの声は自分を追っていたオーガの声、なにがあったのだろうと思っていると、自分が迂回して回った石の真横、左側(振り向いた自分から見たら石の右側だが…)に大きな落とし穴があり、オーガがそこに落ちている、かろうじて上に伸ばした手は見えるも、指が淵にかからないようだ…恐る恐る穴をのぞき込むと、落とし穴の下に無数の竹が鋭角に切られて、ヤリのように地面から突き出したように埋め尽くされている落とし穴に見事に落ちてしまったようだ、尻や背中に竹ヤリが刺さっている。

 

 それを上から見降ろしていると、いきなり姿を現した見知らぬ男が、数人の仲間らしき者らと共に弓矢を雨あられのようにオーガにお見舞いしている。

 

 たったそれだけで、ことは済んでしまった。

 

「大丈夫か? 仲間のみんなは大変だったな…、1人だと冒険もできないだろう…彼らを一緒に弔ってやるから、俺らの所に来ないか?」

 

 自分を助けてくれた男に対してのお礼を言っていると、後ろから声が聞こえた。

 

「良かったな、お前の方も無事だったか…。こっちもなんとかできたよ、さすがに2体は厳しかったが、1対1なら装備の差で補えた。防御支援と祝福の魔法にも助けられたよ。」

 

 そう言いつつ姿を現したのは、同じチームで最後に残った仲間、重装戦士の「ブリランテ」だった。

 

 それを見て確認すると、自分を助けてくれた男は二人に声を掛けてきた。

 

「あぁ、その戦士くんも無事だったようだね、良かった、それじゃ~良ければキミもどうだい? また一からメンバーを集め直すのは手間だし時間もかかって大変だろう。」

 

 その声はどこまでも優し気に聞こえた、自分らにとっては命の恩人だ…そう思って、その申し出を受けることにした。

 

 どの道、薬草採取の用事は済んで、帰り際の痛ましい事故に見舞われただけで、戦闘に入る前に下ろしたカゴを回収するだけで、今回のクエストはこなせたという名目は成立しているも同然なので、気も楽だった。

 

 自己紹介で、イグヴァルジと名乗ったその恩人は、快く自分たちをチームに迎え入れてくれ、共に実力をつけるのを手伝ってくれた。

 

 

 

 それからの自分は『回復役』と自分を決めつけないでそれ以外にも何かできないかと模索し続けた…。

 

 その結果が今の筋肉に身を固めた体躯だ…そして、通常の倍の長さの柄の先に球状の鉄球にスパイクを全周から生えさせているモーニングスター。

 

 これで剣が届かない間合いの相手にも、攻撃は届く…、持ち手となる柄の部分だけでも通常のロングソードと同じくらいの長さがある。

 そして、かいくぐって接近してきた相手には逆の手に握っているスパイク付きメイスで攻撃をお見舞いするという攻撃方法。

 

 もちろん攻撃だけじゃなく支援魔法、強化魔法、回復系の魔法にも手を広げた。

 

 無論、それだけでは武器で両手が塞がり、アンデッドに襲われた時<聖印/ホーリーシンボル>を取り出す時に1アクション行動が遅れる…そのため、考え付いたのが、バックルのように手首に装着し、わかりやすく言えば腕時計の時計部分に<聖印/ホーリーシンボル>を固定させるような仕様となるよう身に着けている。

 

 これで、万が一のことがあっても武器を持ったまま、手首を返し、上の方に掲げるだけでアンデッドに対しすぐに〝ターンアンデッド〟を発動できるようにしていた。

 

 一風変わった装備群だし、二刀流ならぬ、二棍流だが、それで、防具さえしっかりしていれば、充分にみんなの役に立つ。 そう思い、ヴァイエルはそれに満足していた。

 

 

 

 もちろん、それらの行動の全てがイグヴァルジさんが居てくれたからこそ、ここまで来られたのだと心から感謝している男が、このヴァイエルという男。

 

 しかし、イグヴァルジも言わず、ヴァイエルも知らないことだが…この時彼は、森に入る前に賭けをしていたのだ。

 

 同じ時期に冒険者チームを立ち上げ、共に競い合っていた『天狼』のベロテ、彼に持ちかけられた、というより一方的にイグヴァルジをからかって、煽っていただけだったのだが…。

 

 その内容は、今日一日で、新しくメンバーを多く増やせた方のチームが、今日一日の儲けを総取りできるって言うのはどうだ? …という内容。

 

 ベロテにしてみてばいつものからかい半分の冗談であって、乗ってこようが断ってこようがどっちでもよかった。

 

 事実、イグヴァルジ自身はこの時から色々と難がある人物という感じは時々見えていたのだ、そんなヤツに従うやつなんてそうそう居ないだろうというタカをくくった理由があったため。

 

 それにこの時『天狼』はクラルグラの倍の人数だったのだ、万が一、その日の儲けがなくなろうと、翌日に、倍がんばればいい。

 それというのも、この賭けを持ちかけたのが、黄金と呼ばれる王女が言い出して、それを基にして法律となった『モンスター討伐の部位に応じた報奨金』の件が本格的に始動された翌日のことだったからだ。 

 

 イグヴァルジも、自意識過剰という点に於いては他の追随を許さない、「オレらのチームが負けるわけはない!」とばかりにその賭けに乗った結果が、今回の気まぐれな救出劇につながったのだ。

 

 そうとは知らずに、未だにヴァイエルはイグヴァルジを慕い、冒険者資格を剥奪された今でも…自分は剥奪まではされていないのに、ずっとイグヴァルジのそばにいる。

 

 「自分のことを見つめ直したい」という理由でしばらく冒険者組合には顔を出さないことを告げ、言わば『休職』扱いにしてもらい、ひっそりとイグヴァルジのそばにいる。

 

 イグヴァルジからして見れば、ヴァイエルは何を指示しようとイヤとは言わないし、逃げる間、足止めをしていろ!と命じても喜んで火の中に飛び込むようになっている。

 イグヴァルジからすれば全てが謎の行動なのだが、ヴァイエルからすれば、あの時、オーガの腹の中に納まっていたかもしれないはずの命なのだ、ならばイグヴァルジの為に命を投げ出そうとも、それは今までの礼の形だ。と思っているのだ。

 

 イグヴァルジからすれば、よくわからない男だが、自分をよく盛り立ててくれるし、都合よく使われてくれるし、まぁ邪魔さえしなければいいだろう、いらなくなったら肉の壁として、どこかの戦場で殿(しんがり)として、置いてきてもいい。

 

 その程度にしか思っていないことをヴァイエルは気づいていない、どこまでも温度差の激しい二人なのだった。

 

 

                     ☆☆☆

 

 

「ところでよぉ…報告にあった人質ってのぁ、どこにいるんだぁ?どこにも居ねぇみたいだが?」

 

 来た時から探している、確保したと報告にあった人質がどこにも居ないことを不審に思ったイグヴァルジが手下のBに問いかけるも、もちろん手下のBはこの時、外の見張りをしていた。

 

「自分は、外を見張ってたので…あ、でもAの奴が、見張りを交代するって言って変わってくれた後は、どうなってるかわからねぇですね。」

 

 手下のAが内心で冷や汗をかく、たしかに<魅了>の魔法の支配下にあった時、見張りを変わるということにして、自分が見張り役になり、その隙に誰にも見つからず、人質を解放してしまったのだ。

 

 しかしそれがバレたら、組織にどういう目に合わされるかわからない…だからココはその場しのぎを実行する。

 

「あぁ、はい、その時は人質の姿は見てません、ただ…リーダーの兄貴がちょっと外に出てくるって言って、お客人らを連れて行ったはずです、その後は知りませんが…」

 

 そんな言葉を言っていると、手下のCが口をはさむ。

 

「あれ?お前、オレと人質の見張りを変わってくれなかったっけか?」

 

 どっと冷や汗が浮かぶ…どうしよう…どう言い訳しようと思っていると、もぅどうにでもなれ!という心境になり、口から出るに任せて言葉を吐き出していく。

 

「えぇ、はい、リーダーの兄貴に呼ばれて、人質の見張りの交代を指示されたんです、そして、少し見張りをしていたら、すぐ隣で「お客人」と話をしていた兄貴から呼ばれて、『今からちょっと外に出てくる、その間、人質を起こさないように少し強めの睡眠効果のポーションを嗅がせとけ…そしたら表の見張りと変わっていいから…そんじゃ俺はお客人と一緒に、裏口から出させてもらうぞ?』って言って、外に出てっちゃたんです。」

 

「さっきから言ってるけど、その「お客人」って言うのはなんだ?」

 

「あぁ…それは、その人質の関係者っす、うまくすりゃ身代金どころか、行方不明になっている金蔓と、買い取った幼女2人を一気に手にできるかもって算段だったんすよぉ」

 

「あぁ…そうすりゃ、金の方の心配はなくなるってことか…そんで?その兄貴とやらは今どこなんだ?」

 

 手下A、手下B、手下Cがそろってお互いを見て、どちらも知らないという顔をする。

 

「おめぇら!1人くらい、その兄貴の護衛でもなんでも着いていかなかったのかよ!」

 

 バン!とテーブルに両手を叩きつけ、盛大な音が周囲に響き、AもBもCも一様に恐縮している。

 

 …すると、外に通じる扉をノックしている音がする。

 

「なんだ? なんか用か?」

 

 扉の方を開けもせずに、ノックした者にそう告げる、すると遠慮がちに扉から顔を出した手下Dが恐る恐ると言った感じで、用件を告げる。

 

「あのぉ~…イグヴァルジさん…今、この家に用事があるって言うすっげぇ金持ちっぽい二人組が来ましてですね、責任者に会いに来た、って言ってるんすけどぉ~…」

 

「あぁぁ~~ん??」

 

「どこの誰だ?」

 

 心当たりのないイグヴァルジからすれば、本当にそういう感想しか出てこない、一目見ただけでわかるほどの金持ちがオレに会いに来た?

 今の状況と何か関係が…そうとすれば、その元リーダーとやらが一緒に居るはずだ…。

 しかし、その用件を伝えに来た者は一言も「兄貴」なり「リーダー」とは口にしなかった、ということはウチラとは関係のない二人組だろう…益々、謎が深まっていく。

 

「さぁ~~?」

 

 もちろん、この用件を伝えに来た者も、当然そうとしか答えられない、それ以外の情報は全くわからないのだから…。

 

 

 実は、話題の主役である「元リーダー」が、客人の魔法によって『ぬいぐるみ』にされた挙句、魔法空間に閉じ込められ、いずれ、ナザリック送りにされる可能性が濃厚なことなど、ここの訪問した2人以外は誰にも知り得もしない事なのだから、致し方ない事なのではあるが…。

 

 

                    ☆☆☆

 

 

「やっと通してくれたのですね…この犬小屋みたいなホコリっぽくて汚らしい場所には長く居たくはないというのに…セバス! なんとかなさい!」

 

「お嬢さま…ここはどうぞ、ご辛抱ください…ここに居るのは平民の中でも少し…慎ましい者らなのです…お嬢さまと同じ生活が出来る者どもではないのですから…」

 

「わかってるわよ! でも臭いものは臭いの!まるでこっちにまでその匂いがついてしまいそうで我慢がならないの!!」

 

 癇癪を起こしたようにいきなり、お付きの執事にあまりにも無謀な要求を突きつける金髪の女…これほどの上玉は今までだって見たことはない、帝国4騎士の紅一点だって、まともであればさぞや美しいだろうが、それでもこの目の前の女にはかなわないだろうというほどの美貌を持ち合わせている。

 第一印象の言動で、いかに内面が残念であるかはココに居を構えている者らからすれば一目瞭然であるが、このような見るからに「金持ち」がこんなところに何の用だろう…

 

 そう思っていると、その女が目の前に居た男に鋭い目を向けて、声を荒げた。

「ちょっとそこのあなた? 何を見ているのかしら? いったいいつになればここの責任者と話ができるというの!」

 

「あぁ…オレが、今の所、ここでの責任者だが…あんたはここに何の用だ? こんな所に用もなく来てタダで帰れるとは思っちゃいねぇだろうなぁ?」

 

 元冒険者でもあるイグヴァルジは、腐ってもミスリルの実力は持っているのだ、その男に凄まれでもしたら、大抵の者は何かしらの反応はあるはずなのだが…

 

「そう…あなたがそうなの…全く、こんな場所にいる者にふさわしい下卑た言葉しか使えないのですね…まぁ、下々の者に一々目くじらを立てても話は先に進みませんから、とりあえずは大目に見ましょう。」

 

 目の前の女は、怯えるどころか、全くこちらの言葉に何の関心も示さない…せいぜいが、そこいらのいきがった子供のギャング気取りが威勢よくこちらを威嚇してるんだろうな…程度にしか受け止めていないのだろう。

 

「あなた方が、こともあろうに、ウチが経営している傘下の従業員の親族を誘拐したとかいうじゃない? 部下の親族と言えば、家族も同様…見過ごせはしないでしょ? …それで? どこにいるのかしら?」

 

 計算も何もなく、単刀直入に告げる真相…きっとさっき言ったように一分、一秒だってここに居たくないがための反応なのだろう…ずうっと、口元にハンカチを当てている。 少しでもこのむさ苦しい匂いを感じないようにしたいのだろう…。

 

「さぁ~て、なんのことやらわかりませんねぇ…こっちとしても身に覚えのない事で、急にそんな話をされてもねぇ~…これは迷惑料として、いくらかもらわなけりゃ、割に合わないってもんでしょ?違いますか?」

 

 何も知らないのに、言いがかりを付けられた風を装い、この金持ちから、いくらふんだくれるか…という皮算用を立てていると…

 

「悪いけれど、猿芝居に興味などないわ…こっちは従業員から報告を受けて、ここまで〝わざわざ〟出向いてきたの…知ってることは洗いざらい話しなさい…今、正直に話すのなら悪いようにはしないわ?」

 

(目の前のお嬢さまは、どこか楽しげだな…いや…オレの勘が正しければ、これは楽しんでいるのではない…正確に言えば、先の展開を予想してすでに『勝ち』を確信していたぶっている…と言った方が近いかもしれない…、なんかシャクだな…どう言えばコイツの思惑通りに行かずに、こっちの有利に話が進む?)

 

 イグヴァルジはどう考えても現状ですでに詰んでいることにはまだ気づいてすらいない、見えない銃口がすでに額に突き付けられ、セーフティなど初めから存在しない部類の警告をされているようなものだ…だというのに、まだ自分は何とか切り抜けられるという淡い望みを持っている…ソリュシャンはそれを楽しんでいるのだ、どう答えようが、すでにこっちの思う壺、こいつらがなにもかも洗いざらい答えるはずはないが…、

答えてくれてもそれはそれでいい…、答えなければ、あの拷問官(すきもの)に引き渡すだけだ…、どうせ一部だけ答えて、大部分は隠すという手段に出るのだろう…アサシンとしての職を持ち、マスターアサシンも取得している私からすれば、相手の表情からだけでも〝ソレ〟を見抜けないはずはない…偽証の看破など容易なのだ…。

 

 もちろんそれは確証のない自信などではなく、かつて王国にて『帝国からの商家から来た娘』という立場から、あらゆる商人たちとの会合を持ったからこそ、その経験から裏打ちされている自信なのだ…。

 

(仕方ない、少々痛い目を見てもらわなきゃ、どうにも展開はこっちの良いようには進みそうにねぇな…)

「おい…ヴァイエル…このお嬢さまはオレらのことを誤解されてるようだし、口の利き方もご存知ないようだ…、ちょっとオレらと同席するときの言葉遣いを身体に教え込んでやれ?」

 

 いきなり話を振られた、「イグヴァルジのブレーキ役」、そして彼の<致命的大失敗(ファンブル)>を素で踏み抜いてしまう能力は、危険を感知する能力同様、同じくらい高いため、時々、『危険を感知する能力の感度が鋭すぎて振り切れた程の大きな危険には反応してないのか?』と疑いたくもなることがしばしばなのだ…。もちろんそうはさせじと、それの回避こそが自分の役目であるのに、どうしてこうも〝やりすぎ〟をスキ好んでしでかそうとするのか…ヴァイエルには全く理解できなかったが…これだけは言える…これは手を出してはならないものだ…と。

 

 額に汗が浮かび、冷えたものになり…頬を伝っていく。 一応は、回復役、神官としての仕事が中心だったとはいえ、イグヴァルジの指示で、何度も戦場の最後方、彼を逃がすための足止めをしてきたから…、だからこそわかる…どんな局面での戦場でも逃げ場はあった…ここを切り抜ければ、なんとかなる。その目利きも自分は磨いてきた…だがこれはダメだ…ダメな存在なんだ…と体の奥から、あらゆる身体反応が警告を発している…だというのに彼…イグヴァルジには、どうやらそれがわからないらしい…。

 

 ヴァイエルがソレを感じるのは、なにもソリュシャンからだけではない、後ろでただ何も言わず、気弱な感じで直立している鋼のような執事…彼の方がよほど、底が知れない…どう言ったらいいのだろう…自分たちがいるこの建物、これが今…ただの檻のように思えている、その上で、彼女は自分たちを捕食しようとするなにか得体のしれないもの…そしてその後ろに控えている執事…彼を例えるなら…虎、いやそれに収まるものじゃない…生物上で最強、頂点とも言えるドラゴン、それに例えてもいいかもしれないという重圧。

 ヴァイエルはそれを肌で感じ取っていた。

 

「悪いですけどリーダー、そりゃ~まずいですわ、この方は口ぶりからして、どっかの大商人の娘さんじゃないですか? 執事さんもいることからして、かなりの有力者だ…しかもこんなところに二人だけ…ってことはこの執事さんは腕に自信もある…それを下手に刺激したら、上にも危険が及ぶ可能性がありますよ? ボスに迷惑かけて、尻ぬぐいをさせるおつもりですか?」

 

 遠回しに〝こいつらは危険なんだって、やっべぇんだって!〟と訴えているヴァイエルの必死の抗議の声も、イグヴァルジの耳にはどうやら届いていないようだ…、昔から、こういう『人の言葉に機微を感じ取る能力』の欠如はどうにかできないものかと、良く頭を抱えたくなっていたものだが…ここに来て、それが悪く作用するとは…と頭を本当に抱えたい衝動に駆られる。

 

「お前は、俺に命を助けられて感謝してるんじゃなかったのか? 俺のために働くんじゃなかったのかよ?!」

 

 額に青筋でも浮かべてるんじゃないかってくらいの表情でイグヴァルジは、ヴァイエルを睨んでいるが…ヴァイエルも目の前の相手に話は充分に聞かれている会話内容であったため、踏み込んだ本題は切り出せない。 …よもや、相手がバケモノじみているので命が危ないなんてことを言おうものなら、自分らに訪れる未来が明るいモノには感じられないからだ。

 

「いや…ですから、大商人の娘さんに傷でも負わしたら、やつら、金にモノを言わせて来るでしょ? そうしたら、どんな勢力が割って入ってくるかわかったもんじゃねぇでしょ? どっかの裏社会から、八本指みたいな連中が出てきたらどうするつもりです?」

 

 必死に頭を働かせ、なんとか言い訳が通りそうな説明をしようと脳内の情報をこねくり回して、言いくるめようとするも、イグヴァルジはどうやら、それを上回る〇〇〇だったようだ…。

 

「そんときゃ、そん時だろうがぁ! ボスに迷惑を掛けず、オレらで対処して、闇から闇に…でいいんだろ?」

 

 ヴァイエルは思いっきり手の平を額に当てた…コレは何を言ってもダメなようだ…となると…自分が何とかしなければ…と、脳内を働かせ、イグヴァルジにこう言うに留める。

 

「それじゃ~、こいつらに口の利き方ってもんを教えてきます…しかし、なにも手下のみんなにそんな痛ましい場面を見させなくてもいいでしょう?こいつらは現地で雇っただけの内情も知らない面々なんでしょ? だから、奥の部屋で精々、頑張ってきますって。」

 

 なんとかそう告げて、刺激しないように「お二方、お話がございますので、どうぞこちらへ…」と言うと、今までのやり取りを目の前で見ていて、自分らがどうなるかは理解していそうなものなのに、平然とこちらのさせたいようにさせるつもりのようだ、全く抵抗する様子もなく、大人しくついてくる…その態度に「やはり…」と確信する…こいつらはどんなことになろうと、自分らが傷つくなんてことはありえない、という確信があるんだ!と心底理解してしまった。

 

 

                  ☆☆☆

 

 

「それで? あなたは私に何をしようと言うのかしら? この私に口の利き方を教えるのでしたか?」

 

 先程まで話していた部屋を出て、見張りもいない部屋…本当はさっきまで居たのだが「その必要はない」と言って下がらせた…なので、今の部屋に居るのは、目の前のお嬢さまとその執事、さらに当事者である自分、という3名のみだ。

 

 なんで、リーダーはこの二人を目の前にして、あそこまで普通にしていられるのだろうと、不思議に思う…、自分からしたら、『この部屋にこの二人と一緒に居る』という状況だけで…その圧力だけで倒れてしまいそうなのに…と思いながらも、精神力を総動員させて、その問いの答えを返す。

 

「いえ…先程のアレは、リーダーに対しての言い訳…みんなの目から…そして耳から私たちの会話を遮断するために用意した苦しい言い訳だったので、お二方に何かをしようとか、危害をくわえようなどと言ったつもりはありません。」

 

(どの道、あなた方2人に私程度が何か出来るとは思えませんしね…、恐らくは肌の表面にすりむいた程度の傷すら付けることは出来ないでしょうし…)

 

 そう思っていると、この狭い部屋の中、他には声も音も発する存在が居ない為か、つぶやくよりも聞きにくい小声であっても聞こえてしまったのだろう。2人が意外そうな顔をしている。

 

「あら…それは面白い評価ね…、あなたには私たちがどんな風に見えているのかしら…興味深いわ…。」

 

 今まで、どこまでも、何に対しても興味どころか無関心だった目の前のお嬢さまが、自分の一言で、意識を向けてしまったことに背中に大量の水を浴びせられた気分になる。

 こんな想いは、どんな集団の前に『足止め』として盾になってきた自分でも味わったことのない、得も言われぬ恐怖だった、これは言葉では表せない…本能として…生物としての根源的なモノに由来する何かなのだろうか…?

 

「いえ…ただの勘…なのでしょうかね…リーダーはそういった感覚は感じていないようでしたし…他のみなさんも何も感じていないようでした…私の勘違いかもしれませんので、気に障ったのなら許して下さい。」

 

 とりあえず、自分に向けられてしまった『興味』という意識を少しでも逸らせようと言葉を操る。 しかし一度向けられてしまった興味はなかなか外れてはくれないようだ。

 

「ワタクシめはどこかで聞いたことがございます…。お嬢さま…人というものはあまりにもレベルがかけ離れすぎた相手だと、自分が対峙している相手の力量を図る力を有していない…そういう恐怖すら感じる強さもない…そこに思い当たらず、『自分より強そうじゃない』と…そう判断する者もいるのだそうですよ?」

 

 そう言ったのは後ろにいた執事だ…立っているだけで、その周囲の空気が違う気がする…なにも敵意など向けられていないのにも関わらず、コレなのだから…その気にさせたら自分は卒倒してしまうかもしれない…本気でそう思っていた。

 

「あら、それではさっきのあの男よりも、こっちの方が単純な強さという面では上ということ?」

 

 恐らくはこっちに意識は向けたままなのだろうお嬢さまが執事に意識を少し向けている…、逃げられるものなら逃げたいが、逃げられるとは思えない…だから下手なことはしない方がいいだろうという結論に至る。

 

「恐らくはそうでしょうな…見た感じ神官風ですから、直接攻撃力という点だけでは分かりませんが、総合レベル…修羅場をくくりぬけてきたことによる明らかな危険を察知する能力、それに秀でているのかも知れませんな。」

 

 執事の男に、そんな評価を受けながら、唯々、ひたすらに自分が悪い展開にならないようにと祈るしかない状況下なのは変わっていないことに、予断は許されない気分にさせられている真最中である。

 

「ところであなたはさっき『命を救われた』から『働いている』みたいな言われ方をされていたけど…? あの恩着せがましい言い方を見た感じ…、あの男が〝好んで人助けをするタイプ〟には見えなかったのだけれど?」

 

 そのお嬢様からの声に、後ろの執事がなぜかしきりに「うんうん」とばかりに首を何度も縦に振っている。 たしかに見た目や、行動からしてそういうタイプではないが、自分が救われたことがあるのは事実なのだ…。

 

「いえ、確かにそういうタイプには見えないと思いますが、なにかの手違い、もしくはただの気まぐれ…、何かの運命のいたずらであったとしても、私が助けられたのは事実ですから!」

 

 背筋を正し、そう答える…それは自分の中の譲れない一点、どんなに軽く扱われようと自分が助けられたことは事実、命を救われたことを恩義にすら感じないような存在にはなりたくはない…そう必死に自分に言い聞かせ、その恩に応えられる力が欲しいと、自分を鍛え上げてきた…それこそが自分という男の信条、一番に信じている道だから、それを否定することは自分自身を否定することになる。

 

「あなたという人間の人となりが見えたような気がしますね、私としては大変好ましい人物のように思えますが…、しかし、それ故に惜しいですね…。」

 

 すこし雰囲気が柔らかいものになったような気がした執事が先程よりは温かめな視線を自分に向けているのがわかる。

 

「えぇ…そうね、私もこういうタイプは決してキライではないわ…、こういうタイプだから…と言うのもあるわね…。」

 

 それに対し、このお嬢さまからの視線は、先ほどよりも自分を見る目に、『獲物』とは別のなにかに認識されたような方向性の意識を感じる…。 それが何なのかがわからない為、どこまでも気持ち悪い感覚が抜けてくれない。

 

 

 それもそうだろう…基本、(カルマ)が悪に寄っているソリュシャンが、明らかに善である彼に向ける感情としてはある意味では正しくはない…しかし悪であるからこその楽しみ方と言うのもあるのだ…。

 

 ナザリックの中でも嗜虐性という点では、どちらかと言えばシャルティアの方と話が合いそうな面もありはするが、それでも特別情報収集官(ニューロリスト)のような趣味を持ち合わせている訳ではない…だからこそ、楽しみ方の方向性というのはそれぞれなのだが…そんなソリュシャンは下等生物(ニンゲン)に対して、手を汚すことはキライではない…だが、好んでその返り血をその身に浴びたいとは思わない。

 

 そのため、自分の体内に収納し、体内の様々な酸による効果で、色々な苦しみにのたうち回り、暴れる様をその身で感じるのが楽しいのだ…無駄な抵抗だと知りつつもそうしてしまう弱者へと向ける…歪んだ哀れみにもにた感情を覚える瞬間も楽しくて好きなのだが…、それとは方向性が違うが、明らかに善人である者が、今まで好意的に見ていた相手に対する認識が一気に反転した結果、今まで向けていた以上の悪感情に飲まれてしまうニンゲンという存在も居ることをソリュシャンは知っている。

 それによる同士討ち的な仲間割れも好きなのだが…、今まで信じていた存在にいきなり憎悪を向けられ、何が起きたか理解できないという絶望を抱いたような目をしながらコト切れる瞬間を見るのも好きなのだ。

 

 なぜ好きなのか?と言われても説明できないが…好きなものは好きなのだとしか、ソリュシャン自身にも言えないのだから仕方のない事なのだろう。

 

 

「それで? あなたは私たちに一体、なにをしたい…もしくはさせたいのかしら?こんな場所にまで連れてきて、ただのおしゃべりがしたかったわけではないのでしょう?」

 

 そう聞かれ、どう言おうかしばし悩みながらも…しかし結局言わなければどうにもならないと理解したのか、ヴァイエルと呼ばれていた男は意を決して、それを言葉にした。

 

「では…大変に不躾ですが…私個人が感じ、達した『個人的主観』をお伝えします。それが合っているか、間違っているかを問いたいわけではありませんので、ただ聞いていただければ…それで構いません!」

 

 それは冷や汗か…それともあぶら汗か…自分でもわからない何かを感じながら、自分が推理してきた内容を聞いてもらう、もしその推理が合っていたならば、どの道、自分にも未来はないのだから、この時点でジタバタしても始まらないのだ。

 

 彼が言いたかったことはこういうことのようだった。

 

・まずは自分が感じた…今まで生きてきた中で感じたことのないこの感覚は『商人の血筋の者と使用人』としては明らかに異質なものを感じたということ。

・ならば、なぜそれを名乗ってまでここに来たのか…?

・それはきっと、もっと、より上位の誰かの指示があったからという線が濃厚。

・ならば、それは誰なのか…だが、恐らく、人質にした者の家族が所属している組織のトップからの指示だろうことは想像に難くない。

・誘拐して、人質にしたのは自分らではないが、この件に関わってしまった以上、ただの出会いがしらの不幸な事故とするにはあまりに理不尽に感じる。

・恐らく、自分らを雇っているボスも、いい顔はしないだろうが、この件に関してだけはなんとしても手は引かせる方向で話を進めたい。

・だから、せめて、ここに事情もあまり知らされず、現地調達されてしまった人員には何もしないで解放してやって欲しい。

・そして、リーダーのイグヴァルジであるが、彼はボスのような上役にすりよることは上手だが、物申すことは苦手…なので、自分が事情の説明、そして手を引くメリットを説きに行く…その後で、自分はどうなっても構わないから、イグヴァルジの命だけは助けてやって欲しい。

 

 というようなことを言ってみた。

 

 するとどうだろう…途中、途中で、言っている内容はよくわからなかったが、概ね、悪いような内容の言葉には感じられない話題が二人の間でされていた。

 

 話されていた内容はこうだった。

 

「どうする?セバス…私はどちらでも構わないんだけど…、『命だけは奪わずに』っていうのは飲んでもいいんじゃないかしら?」

 

「そうですね…、まぁ、何も知らない構成員の方々は元々、これに関わる組織の者ではないようですし、さすがに無関係に近い者らを罰するのは心が咎めますね。」

 

「それならば、畏れ多いですが、御方に協力を頼めるか…セバス…それはお願いできますか? 何も知らない構成員とは言え、このまま解放したのでは、どこから情報が漏洩するかわかりません、口止めをさせましょう…もし都合がつかない場合は…そうですね…大変お忙しいあの方に協力を頼むのは気が引けますが…『牧場の管理』をしてるあの方にお話を…。」

 

「なら、この件は、『自分はどうなってもいい』と言ったこの者が、無事にこの件の解決が成された段階で、処遇を決めることにする…ということでよろしいですか?お嬢さま。」

 

「そうね、その方向で進めましょう」

 

「ならお嬢さま、リーダーと言われたイグヴァルジなる者の処遇は?」

 

「それは考えてあります、万が一、彼の交渉が決裂に終わった場合に備えて、そのイグヴァルジなる者から大元の組織である存在の内情、そしてトップに君臨する者の詳細など…を「特別に情報を収集する」必要があるでしょうから…前もって「専門の担当官」に調べさせましょう。

 そして無事にこの件が片付き次第、その身は『がしょくこちゅうおう』に任せます。 あの者ならば何があろうと命まで奪うことはないはずですからね。」

 

 

 それはそれは、今までに聞いたことのない、そのお嬢さまと呼ばれる存在から聞いた、温かみの感じる言葉であった。

 

 まさか、あのような条件が受け入れられるとは思っていなかったヴァイエルからすれば、ありがたいの一言にしか感じられなかった。

 

 イグヴァルジの方も、『命は奪われず』に済むという話だし…それなら悪い結果ではないのだろうという安心感が生まれた。

 

 帝国の民から徴収された構成員も、無事に解放されるという話だし…、口止めくらいならば、相手にお任せしても大丈夫なのだろうという「基本的な常識の範囲内」の行いはお任せすることにした。

 

 

 ヴァイエルが伝えた内容を受け入れる為の条件として、このまますぐにこの建物を出て、組織のボスの下へ行き、事情を説明し、某元貴族の親族からの取り立ては辞めるようにさせなさいと言われた。

 その為、それに関して全面的に了承はしたが、「もしそのボスがどうしても利益が欲しいなら」という内容で、その元貴族の親の持つ資産の全てを差し押さえ、更には身元を抑え、資金を稼がせるようにした方がいいという助言を、そのお嬢さまからもらっていた。 もしそれでもボスが首を縦に振らなければ、『私たち』も動くことになるでしょう。 と言い残し、部屋を移動し始め、執事と共に、元のリーダーの待つ部屋へと動き出していた。

 

 

 そして、部屋から出る際、その執事からくれぐれも「私たちの期待を裏切ることのないように…いつでも『影』から見ていますからね。」とだけ…意味することは分からないが恐らく「神は何でもお見通しですよ」という意味なのだろうと思うことにした。

 

「それでは、無事、この件がうまく解決した際は、どのように連絡を取れば?」と聞いたところ、その執事は、こともなげにこう言った。

 

「それはその時になればわかります、無事にコトが進んだなら神が私たちを引き合わせるでしょう…しかし、くれぐれも注意をしてください、うまく行かなかった時は…どうなるかわかりませんよ?」

 

 …と、鋭い視線だけを残して、部屋を去り、再びイグヴァルジの待つ、元の部屋に移動し、まとめて彼らをナザリック送りにする流れになっていることになど…馬に乗り込み、拠点に急ぐヴァイエルには知る由もない事であった。

 更に…、その影にセバスの影から移動し、つぶさに内情を報告する役目を負った存在をも、共に連れていることにも気づかず…、彼は馬をボスの居る拠点へと急がせるのであった。

 

 

 その後のイグヴァルジを見た者は、近辺の者ではおらず、ヴァイエル本人も「きっとどこかで無事に生きているだろう。」と気楽に思えるような未来がイグヴァルジ自身には決して訪れないだろうことは誰にも知らされず、静かに展開は進められていった。

 




ようやっと書きあがった、26話…、イマイチ、ソリュシャンとセバスをうまく書き切れなかったかなと、ちょっと残念感…。

とりあえず、アルシェの実家はこれで、解決&この先の人生決まっちゃったね。

 って感じです。

はてさて、次は、再びのカルネ村編かなぁ~?

あ、そうそう、ヤシチ(本人)さんは、みんながナザリック送りになる際、お役御免になって、自由行動となり、再び、創造主のマスターの下へと移動しております。

 ソリュシャンの影に潜ませていたシャドーデーモンからの報告を受け、ヴァイエルのことは、建物の外に逃がすことはちゃんと伝わってるので、捕獲はしていません。

 それと、身分不相応ですがぁ~…感想など、お待ちしておりますぅ~><
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