気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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まずは、これでアルシェの借金問題はひとまずは収束…あとは総ボスとの交渉で、ヴァイエルさんがどこまで粘れるか…ですね。

さてさて、今回は、カルネ村に「フレイラの姿を借りたベルリバー」が姿を隠さずに訪問する、『初の機会』なので、そのための舞台設定を整える為、アインズさんがカルネ村に…

時間は人質の件が落ち着いた夜…に訪れることになったため…その時間が村長にとって、どんな心境を及ぼすやら…でしょうな。

今回は他にも、ちょこちょこと、小話的な話題が含まれています。

それでは楽しんでいただけたら幸いです。


第27話 突撃!夜のカルネ村!

 いつものナザリック地下大墳墓。

 

 そこには新たに、後々「貴重な苗床」となる予定のイグヴァルジが運び込まれていた。

 それというのも、今回の騒ぎの首謀者に関しての情報を吐き出させるため、ありとあらゆる手を尽くしても良いが…くれぐれもショック死や、直接的な原因としての死以外の手段で…という条件が、愛しのダーリン(アインズさま)から出されているため、『どんな趣向をこらそうかしらん♪』とウキウキしている。

 

 そんな中、当のイグヴァルジはと言えば、呑気に寝ていた…というより眠らされていたのである…そうなった背景は実に簡単だ。

 

 あの時、ソリュシャン達がイグヴァルジ達の居る部屋に戻った瞬間、部屋の中にいるメンバー全員を範囲に入れ、<睡眠(スリープ)>の魔法をスクロールで…もちろん盗賊系のスキルにより、発動条件をうまく騙して発動させた。

 

 相手があまりにもなレベル差があったため、全員が抵抗(レジスト)のタイミングすらも与えられず、眠らされてしまう。

 

 ソリュシャン自身は、魔法職を取っていない為<魔法抵抗突破化(ペネトレートマジック)>などはもちろん覚えていない…ので、そのまま、素の<睡眠(スリープ)>の効果しかなかったのだが…。

 

 ただの第一位階魔法程度に…不意打ちとは言え、抵抗(レジスト)も出来ずに一人残らず眠ってしまうとは予想外であった…というよりも拍子抜けをした。

 

 恐らくは情報通りで言えば、ミスリルの実力はあったというリーダーのイグヴァルジならきっと余裕で抵抗(レジスト)するだろうから…あとは時間をかけてじっくりと…と内心表情が崩れそうな程の「あれやこれや」を考えていたのだが…眠ってしまわれてはさすがにその必要がなくなってしまった。

 

 一応、数を数えてみる…手下A、手下B、手下C…は居る、この建物に入った時に取次ぎをした男、こいつも居る。そして最後は私たちがヴァイエルなる興味深い男と話をした部屋、そこに見張りとして立っていた者…それもちゃんといる。

 そしてイグヴァルジも…、話はこの眠りの魔法に関してのコトに移るが、意外にもかなり優秀で一度かかったら自然に目覚めるということは…「魔法の効果時間の消失」が発生しない限りはありえない。

 

 途中で目覚めるとしたら…外部から直接的な干渉…ほっぺを叩く、攻撃でダメージを与える、他にはバードの使う呪歌の1つ、<鳥のさえずり(バードソング)>、あとはモンクの持つ技の1つ、『喝入れ』という技のみでしかありえない。『喝入れ』は眠りだけでなく、気絶や失神状態にも適用されるので、「眠りへの対策手段」という認識としては厳密には違うものなのだが…。

 

 この建物内に居ただろうフルメンバーがそろっていることに満足したソリュシャンは、他に聞いているものなどは居ないだろうが、ここで気を緩めて取り返しのつかない失敗をしては創造主であるヘロヘロさまより『そうであれ』と命じられ、創られた〝できるメイド〟としての矜持、さらには御方の失態にもつながりかねないという想いから、芝居を続行する。

 

「セバス?この者らは一旦、残らずナザリックに〝贈る〟ことにします、その上で、この者らの処遇はアインズさまに判断を仰ぐようにしましょう…、一応、約束は約束ですからね…念のため、このイグヴァルジ以外のメンバーの全員は、現地で徴収されたほぼ一般人とのことらしいですし、その辺の説明は任せましたよ?」

 

 ソリュシャンは一度、そこで話を区切ると、1拍置いて話を継続させる。

 

「それからは…そうね…、私はアインズさまに<記憶操作(コントロール・アムネジア)>を使ってもらって、この一件はなかったこととしてメンバーらを放逐してもいいでしょうし、アインズ様のご都合がつかなかったら、〝牧場の管理主〟にお伺いを立ててもいいでしょう…そこら辺の段取りは私が致します。 どちらになるにせよ、ナザリックのことさえ現時点でバレなければイイ…ということにしましょう。」

 

 ソリュシャンからの言葉に執事として対応するセバスも、それに同意する。

 

「そうですね…あと2日後に…いや、今日の夜が明ければ、もうその翌日になりますか…恐らく大詰めの段階で、トラップの配置や第一階層の霊廟区画に、宝物殿にあるレアリティの低い武具や貨幣を置くという最終段階に入っているあの者にその時間があるかは不明ですが、私が言うよりは、あなたからの提案の方が彼も受け入れてくれる可能性は高いでしょうし…よろしくお願いします、お嬢さま。」

 

 

                       ☆☆☆

 

 

 という顛末があって、団体様御到着~♪ とばかりに眠りこけている《ニンゲン》どもを…一般メイドには荷が重いので、疲労のしないPOPするアンデッドのスケルトンウォーリアーに指示を出し、それぞれの場所に運び込んでもらう。

 

 さすがに眠っている者を恐怖公あたりに贈ってもあまり喜ばれない…どうせなら起きている者たちの反応、悲鳴、絶叫…をあげようとしている侵入者(おろかもの)どもの口から眷属の者らが埋め尽くして行き、黒い波に飲まれていく瞬間が楽しみの彼からすれば、何の反応もない時にそれをしたところで、まったく楽しくない、という事情があるからである。

 

 

 

 かつての記憶…恐怖公はナザリック史上で、唯一第8階層にまで侵入を許してしまった、あの「1500人の人間種プレイヤーによる大侵攻」の折、生き永らえた数少ないNPCである。

 

 もちろん蘇生などされていないので当時の記憶も持ち合わせている。

 

 たしかその当時は女性の姿をした人間種が限定で、この場所…自分の領域に飛ばされるという設定のはずだったが…至高の存在、ギルドの総まとめ役のモモンガ様が、アインズ様に名を変えられた辺りから…男も贈られてくるようになった。

 

 女性の姿をしたプレイヤーは、この部屋に入るなり、悲鳴…絶叫をあげた…それは大変歓迎なのだが、その大きく開けた口に眷属を…と思った時には姿を消していて、物足りない想いがずっと内心で残っていた。

(かなり後になって、アインズ様に「それは『ログアウト』というものだ…それを誘発させる目的で、お前は創られたのだから、不満に思うことはない、お前は自分のすべきことをちゃんとこなせているとも…」と言われ、自分のナザリックでの価値はまだある…存在していいのだ…と、女性NPCの大半から忌避されていることを知っている彼からすれば、これが承認欲求と言うものでしたか…という新たなステージに立っていた。)

 

 

 領域守護者としてここに居て、御方の役に立てることは、この眷属たちを共食いで尽きぬようにすることと…、『眷属喰い』のあのメイドがオヤツ扱いして、食べつくさないようにの両面が現状、恐怖公の仕事の大半である。

 

 それでも、今度、催される大イベントでは…何組かのワーカーメンバーがもしかしたら、私の領域まで来るかもしれないというお話が、アインズ様ご自身が直々に私に会いに来てくださり、教えてくださった内容であった。

 

(その時、転移前からの私の記憶が鮮明にあると知った時のアインズ様は、なにか非常に驚かれた、というか…狼狽されていたような…いや、絶対の神たる御方に限ってそのようなことはあり得ませんね、そのような印象を抱くこと自体が不敬でしたか…。 この私に会いに来てくださった、その想いに応えるためにも…この恐怖公、尽力いたします、アインズ様!)

 

 それならば…その時までに、この領域を、我が眷属たちで溢れさせんばかりに満たして御覧に入れましょう。

 

 中途半端では、御方のお名前を汚してしまいかねません…そればかりは私としても我慢がなりませんからね…、

 

 

                    ☆☆☆

 

 

 恐怖公が、そんな風にテンションが爆上がりしている中、ソリュシャンから直接話があるということで、謁見を申し入れられた…アインズは内心「ソリュシャンが?珍しいな」と思ったが、NPCが必要ならばそうすることになんの弊害もない、会おうじゃないか!という流れで、すぐに会うことになった。

 

 以下は謁見してからの2人の会話である。

 

「我らが至高たる…絶対なるアインズ様、この度は私のわがままを聞いて下さりありがとうございます。」

 

 扉が開けられ、足が部屋の境界を踏み越えた瞬間に深々とした礼を取られてしまった。

 

「いやいや…そのような礼など不要だぞ?ソリュシャン…お前がわざわざその様に申し出たということはその必要が有ってのことなのだろう?ならば会わない理由などどこにあるというのだ?」

 

 支配者としては、〝できるメイド〟として創られた彼女の性格は悪く思ってなどいない、それどころか王国での情報収集に於いては、その高い演技力で、ほぼほぼ、期待通りの結果をもたらしてくれ、渉外活動にも文句の付け所のないほど尽力してくれている。

 その中でもイプシロン商会の社長令嬢という立場と、戦闘メイドと言う2足の草鞋(わらじ)を苦も無く、両立させているのだ…大変重宝していると言ってもいい…。

 

 だがアインズからすれば、もう少し…こう…、とも思う。

 

 誰がどう見ても、「無い物ねだり」なのは分かっているが、せめてもう少しその極振りされた、圧倒的カリスマって立ち位置をちょっぴりだけハードル下げて欲しいとも思う。

 

 ソリュシャン達NPCからの対応に合わせる度に、支配者としての自分はこれで合格点なのだろうかと、日々、悩み通しだったりするのだ…。

 

「まぁ、このようにいつまでも仰々しい挨拶ばかりでは先に進まないな…せっかくだ、ソリュシャン、お前からの話を聞くとしようじゃないか。」

 

「は、それでは失礼します。」

 

 部屋の中に入り、中央まで歩み出ていたソリュシャンは一瞬、アインズを見て戸惑ってしまう。

 

 それもそのはず、この部屋はアインズの執務室、そしてその部屋の隣にはソファーのある、ある意味「仕事上の取引相手との交渉」に使うためのソファーがおかれた一室が存在すると聞いたことがある。

 

 アインズはまっすぐにそこへと歩みを始め、その扉を開けようとしている。

 

「ア…アインズ様! そこは…そのような場所を、私のような者の要件を聞くことに使うには、相応しくないのでは…」

 

 その言葉を受け、アインズは鷹揚にして、ゆっくりとソリュシャンの方を振り向き、こう告げる。

 

「そのようなことはない、今のような時期だからこそ、わずかな内容であろうとも軽く扱うことなどは出来ん。 人払いもしよう…私と二人きりでしっかりと話を聞こうじゃないか」

 

 

 その言葉に過剰に反応したのは、アインズの執務中は大抵の場合、そばに居るアルベドだ…すごい勢いでその中に割って入ってきた。

 

「いけません、アインズ様! ナザリック内の者と二人きりなど…決して、危険はないとは言え、護衛も居ない中では危険です! 万が一との言葉もございます。どうか…、護衛がムリならば私を…このアルベドを…どうか、共にお連れ下さい…どんな危険も、万難すら排してご覧に入れましょう。」

 

 どこまでも熱く自分を売り込んでくるその態度に「お前は自分が一緒に居たいだけじゃないか? それとも『ソリュシャンとの二人きり』に自分だけノケ者にされるのが面白くなくて入ってきてるだけなのか?」と思っているアインズに、肉迫するように進言を繰り返しているアルベドへとソリュシャンが「そうではありません、アルベド様…」という言葉を投げかける。

 

 

「そうではない?そう聞こえましたが…ソリュシャン、それはどういうことです?まさかエイトエッジアサシンが天井に居るからとか、一般メイドが扉前に「アインズさま当番」としているから…とは言わないわよね?」

 

 少し牽制するように目で威嚇してくるアルベドに、「伝え遅れまして、申し訳ありません、今回お話を…と申しましたのは何もアインズ様だけに…というわけではなく…実はもう1人、情報の共有という面でも知っておいてもらいたい方がおりまして、その方とアインズ様、私と同席していただきたいという…そういうことなのです。」

 

「あら…そう、それはそれでいいのだけど…そのもう1人というのは?」

 

 その時、アインズの執務室の扉がノックされる…今日のアインズ当番であるデクリメントがゆっくりと扉を開けて、来客の確認をした後、アインズに訪問者の名前を告げた。

 

「アインズ様、デミウルゴス様が参られております。」

 

 

                    ☆☆☆              

 

 

「おぉ、よく来たな、デミウルゴス。お前もソリュシャンの話を聞きに私の所へ来たのか?」

 

「はい、アインズ様、大変遅れまして申し訳ございません。このデミウルゴス…今回、面白い人材が手に入ったということで、ソリュシャンから事情を聞かせてもらうべく来た次第でございます。」

 

 そうか…とだけ短く受け答えをすると、アインズはアルベドに向き直り、今一度、アルベドに念を押すことを忘れない。

 

「どうだ? アルベドよ…これなら文句はあるまい? よもや、階層守護者が共にいて、警備に難が…などと言うつもりではあるまいな!」

 

 その一言を聞いただけで、ナザリック随一の頭脳を持つデミウルゴスは自分の来ていない時にどんな話が展開されていたのかを即座に悟る。

 

「やれやれ…アルベド? キミはまたアインズ様を困らせていたのかい? キミはアインズ様の「正妃筆頭候補」…そんな些事にイチイチ感情を荒ぶらせては『慎みのない女性』という烙印を押されてしまうよ?」

 

 そこでアルベドに、落雷のような衝撃が走る…「正妃筆頭候補」つまりは…「花嫁」!

 

「正妃…花嫁…第一妃、正室…となれば当然…ふふ…くふふふ…」

 

 という発言を繰り返しながら、アルベドは次の瞬間にはひたすら妄想の世界に浸ってしまった。

 

「さて、ソリュシャン…聞かせてもらいましょうか? アインズ様…貴重なお時間を我々共の為に浪費させてしまう不敬をお許しください。 さて…みなさん、早く部屋に入りますよ。」

 

 こうして、最初に「アインズ様当番」のデクリメントが先に扉を開け、アインズが先頭、次がデミウルゴス、最後尾にソリュシャンを引きつれ、室内にエイトエッジアサシンが3体居る、3者会議の部屋に入り、デクリメントがその扉を閉める…。

 

 扉が閉まった後も、しばらくの間、アルベドは至福の妄想世界にどっぷりハマり込み…、は!と意識が戻ってきたのは、会議の全てが終わり、外に出る為に扉が開け放たれた瞬間であった。

 

 

 

 

★会議室内、3者会議、会場。

 

「さて、それでは聞かせてもらいましょうか? 私は最近、牧場運営とスクロールの材料の確保、さらにはこのナザリックを防衛システムの見直しという観点から作り直すという作業以外、あまり関わっていなかったのでね。」

 

「はい、それではまず、アインズ様もご存知である、ことの顛末から…つい先日、数年程前、アインズ様に現地の言語を主に教授するという僥倖に恵まれた、ジエットなる者…その母親が拉致、誘拐されまして…今回、私たちはそれの後始末をしに行ったのです。」

 

「ん?? おかしくはないかい?助力を頼まれたのではないのかい? 後始末?」

 

 最初のピースから観点が変だと思ったデミウルゴスは素直に疑問を浮かばせる。

 

「はい、頼まれたのは初めから助力ではなく、経過報告のようなもので、ジエットという者は、上司であり雇い主であるアインズ様に、報告をし連絡、相談した上で、自らの手で…アインズ様に頼りきりにならず、自らの力で救出に乗り出したようです。」

 

「ほぉ…下等生物にも、そのような見上げた者が居たのだね…あまり印象にないが…どのような者だったか…」

 

 デミウルゴスにしてみればただの独り言だったのだが、聞こえていたソリュシャンはそれをまじめに受け取り、返答を用意する。

 

「一時期、アインズ様と共に、経験値上昇の首輪を身に着け、料理長の所で香辛料の作成に尽力させていた者です…それならば覚えていらっしゃるのでは?」

 

 その言葉でようやく名前と記憶が一致したのか、デミウルゴスは小気味よくパンと自分のヒザを叩き、「あぁ、あの者ですか、あれはなかなかに利用価値の高い者だった記憶がありますよ」と答えて、少し機嫌がよくなったように見える。

 

「デミウルゴス様までもがそう思われますか? あの者はどのような脅威を?」

 ナザリック1の知恵者が認めるのだ…どれほどの…という関心が生まれるのは当然だろう。

 

「ん?ちっとも脅威なんかじゃないよ? それどころか、楽に始末しようと思えばいつでもできる…だがそれをするのはどう考えてももったいなくってね…。」

 

 ソリュシャンからしたら不思議であった…デミウルゴスは、よほどの価値がないと、その真価を他人…それも下等生物に見出すことなどはない…、精々が実験動物とばかりに色んな関心ごとを人間の身体で実験するくらいだろう。

 

 そう…例えば、人間の背中、肩甲骨の辺りに大きな傷をつけ、その傷口にジャイアントバットの羽を押し付け、治療してみたり…。

 痛みを倍加…というより、痛覚過敏状態にして、背中の皮をはぎ取り、その精神状態と、身体にかかる負荷…それらの兼ね合いでスクロールにどのような変化があらわれるかとか…。

 さらには馬の頭を首ごと斬り落とし、その傷口に、それなりに実力のある冒険者の成人男性の下半身を斬り落とした後の、上半身を乗せ、治療させた場合、それはセント―ルになるのだろうか?などと言った冗談半分の実験に使用するか…くらいの利用価値ほどにしか基本、評価することはない。

 

 そんな中、普通に実力もないのに評価されるという意味が解らないソリュシャンは素直にデミウルゴスに問いかける。

 

「それではそのジエットなる者の利用価値とは?」

 

「ん? そうだね…一言で言えば、香辛料の作成技術、これに尽きるね。」

 

 他意もなくデミウルゴスはそう答える、ソリュシャンはデミウルゴスからの言葉なのかどうか、本当に疑問だった、そんなことがなぜ重要なのかと…。

 

「デミウルゴス…さすがにそれではスライム種であるソリュシャンには解釈の難しい所だろう…優しく説明してあげなさい、わかりやすく…そう、わかりやすくな?」

 

 ソリュシャンは感動した、私などの為にアインズ様がお心を砕いてくださっている、これは是が非でも理解せねば!と心を新たに、デミウルゴスの言葉に耳を傾ける。

 

「そうですね…ソリュシャン、あなたは食事の必要は感じないかと思いますが、あなたが楽しいと思うことは、身の内に生物を収め、酸で焼きながら、その反応を感じるのがある意味嬉しいと感じる…そうですね?」

 

 その言葉に首を縦に振ることで、それを肯定する。

 

「人間や…、まぁ、一般メイドのホムンクルスのみんなもそうなのだが、「食料を食べる」ということと、ソリュシャンの好きな、「体内の生物を酸で焼く」ということの共通点を比べてみよう。」

 

 デミウルゴスは少し思案した後、話し出す。

 

「ソリュシャン、キミは仮に、手足をもがれ、首から上の感覚を麻痺させた胴体だけのニンゲンをその身の中で焼いたときと、五体満足の者とで、やはり反応の違いで楽しみを満たせたという感覚に差はあるかね?」

 

「あると…思います、全く反応がない相手だと…、楽しみ甲斐がないなと…思ってしまいます」

 

 それを聞くとデミウルゴスは「そうだね。」と首を縦に振る。

 

「つまりはそれがニンゲンの言う所の、食事をした際の「美味しい」とか「うまい」という感覚と似ているとも言えるんだよ。」

 

「どういう…ことでしょうか?」

 まだまだデミウルゴス様の認識には程遠いと再認識させられながらも、順を追って説明してくれているのだと信じ、ソリュシャンは次の説明を待つ。

 

「キミにとって、体内で暴れられたり、もがいてくれたり、のたうち回る反応を感じられるというのが、普通に食事をする者にとっては、『より味わいを深めるスパイス』と同義になるわけだよ、そこは分かるね?」

 

「はい、それはわかります。」

 ようやく自分でも理解できる話になってきた。そこからどうすればナザリックにとって有益なことと、香辛料が結びつくのだろう…

 

「つまりは味を深め、美味しくするためにはスパイスの存在という物が結果を大きく左右すると言っても過言ではない…そして、スパイスとは…イコール香辛料のことなのだよ。」

 

 一旦そこで言葉を区切り、ソリュシャンの反応を見る。

 

「ここは分かっているようだから、次に進むよ? ここからナザリックの利益につながる話になる…現在、ナザリックは以前とは違う場所に転移をし、かつての世界で普通に補充できていた材料が、ほとんど入手できなくなったと言ってもいい状況なのは皆も知ってのことだろうが…」

 

「アインズ様もご承知の通り、今は潤沢な在庫があるので、資金も資源も…さして心配の必要もないが…寿命のない我々異形種は…いつかはその潤沢な資源を食いつぶしてしまうだろう…特に、ナザリックを美麗な姿に保つことに日々、苦心している一般メイドの彼女らの働き無しでは、恐らくそう遠くない内にホコリまみれのナザリックと言う考えたくもない事態に見舞われることは否定できない「可能性の1つ」なのさ…」

 

 そこで、ようやく、口をはさめる内容になってきたため、アインズがソリュシャンに語り掛ける。

 

「そうだぞ?ソリュシャン、だからこそ、少しでもそれを阻止するためにデミウルゴスにはスクロールの、この世界での作成方法、そしていずれは効率よく作れる技術の確立にも励んでもらうつもりで、働いてもらっている、さらにポーションの方はカルネ村で作らせている…しかし、料理の調味料のことにまで心配をしていようとは…さすがはデミウルゴスだな。」

 

「いえいえ、アインズさまもその程度のことはご存知だったはず、優先順位として下だったから敢えて緊急性を説いて来なかっただけ、本来であればどれもナザリックの状態の維持という側面からして見過ごせない案件でございます。」

 

「ふむ…まぁ、私とお前とのやり取りはここら辺にしておこう、ソリュシャンに対する説明がまだ途中だったからな、続けるといい、デミウルゴス。」

 

「は…御身の御心のままに!」

 

「それで、どこまで話しましたか…そうそう、一般メイドのホムンクルスたちの食欲の旺盛さは知っているね?ソリュシャン。」

 

「は、ダグザの大釜というナザリック所有のアイテムが無ければ、食材という点ではきっと、いつかは底をついてしまうだろうという恐れを抱くのに充分な摂取量なのは良く知っております。」

 

「ふむ、そこまでわかっているなら話は早いね…。 料理というものは決して食材だけでは完成させることは出来ない…そこは説明の必要もないと思うから次に行こう。 素焼きや、水炊きとかでない限りは、どのような料理でも調味料や香辛料という者は必要不可欠なのだ。 …という結論までは理解できたかな?ソリュシャン。 もちろんそのような料理がこのナザリックに相応しくないと言うのは説明するまでもないね?」

 

「は…そうなるとナザリック内での香辛料や調味料などの調達は、一般メイドたちの労働環境、息抜き的な意味での『食事』で、意欲の活性化を図るために必須と言うことですね。」

 

「うん、そういうことだよ…さらにもう一歩踏み込んでみよう、ナザリック内にある香辛料や調味料で、この世界の店で買えるものはどの程度あると思う?ソリュシャン?」

 

 ソリュシャンは考え込む…それは考えようとしたことはなかったからだ。

 

 それはそうだろう…自分が摂取するのでも、使う訳でもない在庫の心配など…戦闘メイドたる自分には無縁の内容だったからだ。

 

「えぇ~…半数程度でしょうか?」

 

 それでも充分に死活問題ではあるが、半分もあれば料理長ならば、きっとどうにか出来るのでは?という希望的観測も入っている。

 

「残念…正解は、ほとんど存在していない…だ。」

 

 あまりにもな内容だった…まさか、この世界はそこまで文化レベルの低い世界だったのか…と思うと、デミウルゴスから、今の言葉に注釈が入る。

 

「いや、正確に言うと、無いことはない…と言った方が近いかな…恐らく代用できる物自体の存在は確認されている…ただ…」

 

「ただ?」

 ソリュシャンも続きが気になる、食事などしないこの身でも…ナザリックの将来という点が左右されるのであれば、真剣にならざるを得ない。

 

「我らがナザリックに所属する者たちが食べるにふさわしい…もしくは限りなくそれに近いレベルに完成された料理の質を維持するために必要な調味料、香辛料という物が市場に出回っているかと言うと…そこまでの物は…この世界には…ないのだよ。」

 

「そんな…」

 

 あまりにもな内容に絶望感に打ちひしがれる。

 それではいずれ、彼女らは今食べている普通の料理すら、口にできなくなる日が来るのではないだろうか…という暗い考えに陥りそうになり…そもそもの話の流れのきっかけを思い浮かべた。

 

「もしや…デミウルゴスさま…まさか…あのニンゲン…そのジエットなる者は…?」

 

「そう、ようやくそこに思い至ったようだね、私もそれを発見した時は驚いたものだよ。 彼にあんな稀有な才能があったなんてね…あれはある意味、世界単位での才能だよ。 彼自身は全くその重要性に気づいてはいないようだがね。」

 

 そこで、何となく話の方向性が分かってきたアインズがデミウルゴスに問いかける。

 

「デミウルゴスは、あの者がどの程度まで作れると見た?」

 

 デミウルゴスは、メガネを押し上げ、姿勢を正し、返答をする。

「全てはやらせてはいませんが…香辛料という限定した範囲であれば…おそらくナザリック内の全ての香辛料は、作成できるでしょう。」

 

「よもや、実物をひとナメしただけで、それと寸分たがわぬ、完全なる複製品を生み出せるなどとは…想像だにしておりませんでした! あのような貴重な存在を、アインズ様ご自身が学院に編入されるより前から、目を付けられていたとは…アインズ様のご慧眼…まさに並ぶ者なき、智謀…このデミウルゴス、そんな至高の御身に仕えられる喜びにうち震えております。」

 

「そ…そうだ…デミウルゴスは、香辛料だけか?試したのは…調味料とかは作らせてはいなかったのか?」

 

「は?…申し訳ありません、そちらは試すまでもなく、恐らくは出来ないだろうと…」

 

「はっはっは! さすがのデミウルゴスもそこまでは考えていなかったか…知ってたか?あのジエットは確かにそこは苦手分野だと言っているが…、香辛料を作る時の倍の時間と魔力を掛けさえすれば、ポーションの瓶で言えば4~5本程度の量に留まってしまうが…調味料の方も作り出せると言ってたぞ?」

 

「ま…まさか…そのようなことまで…アインズ様…なんという…なんという、言葉で表現しようという認識すら超越するほどの卓越したその才能…まさに敬服に値します。」

 

 

「ん…まぁ、今回は彼の能力自慢ではあるまい?先の話をしようではないか…、それではソリュシャン、最初の話の続きを聞かせてくれるか? 無事助け出されたのだろう?」

 

 そうアインズが促すと、ソリュシャンがコトの経緯を説明し始めた。

「は…私とセバスさまがその現場に到着した時はすでに、人質の解放がされ、中に居たのは…当事者たるリーダー格の男に金で雇われただけのほとんど帝都民と言っても過言ではない者ら数人…と、そして、そのリーダー格の男と入れ違うようにして後発で合流したイグヴァルジという男です。」

 

「そうか、捕えたのはその者らだけなのだな?」

(ん?なんか聞き覚えあるような名前だったな…まぁ、自分が元居た世界でも、同じ名前の奴なんて、探せば居たくらいだし…こっちでは珍しくもない名前なんだろうな…)

 

「はい…そして、今は保留にしておりますが、泳がせている者はおります。そのイグヴァルジという男を尊敬し、命の心配までして「自分はどうなってもいいから」という条件を付けてまで嘆願をした男がいます…そいつは、この事件の首謀者である、首魁に手を引くように説得するということでして…もしその説得が決裂したら…我らナザリックの者らで、解決に乗り出すという話をしており、シャドーデーモンに追跡もさせているのでまず、うち漏らすことはないかと…。」

 

 

(うん!よし!やはり記憶の片隅にあった奴じゃないのは確定だな! アイツだったら、そんな尊敬を集められるはずはない…なんといっても同じメンバ―だった者達ですら「あの悪い癖さえなければ…」って言われてたし…名前のよく似た別人で決まりだ!)

 

「うむ、そうか…それで?私に話ということは、その報告が全てということでもないのだろう? 遠慮せずに言うといい。」

 

 己の支配者にそう言われると、ソリュシャン自身も身の引き締まる思いでいるが…その前に…ナザリックにとってのメリットを先に報告することにした。

 

「その前にアインズ様に、朗報がございます! そのイグヴァルジなる男を尊敬していた男が言うには「命だけは奪わずにいてあげてくれ」というような条件を言ってきたので了承しました、その条件を満たすためによほどのことがない限りは命を失うことのない、餓食狐蟲王(がしょくこちゅうおう)の眷属らの苗床として生かし続けることを許そうかと考えております。」

 

(えぇぇ?それ、多分違う意味で言ったと思うぞ? 解釈が全然違う感じに聞こえるんだけどぉ~?)

 アインズが内心で、盛大にツッコミを入れているが、キラキラした瞳で、自分を見つめてくるソリュシャンの…張り切りようを見ていると、どうしても即座に否定するのはどうかと思ってしまう。

 

「そ…そうか…、それはすぐに、ということか?」

 

「いえ、先ほどの男が、事件の首魁に対する説得に決裂した際、必要になると思われるアジトの数、構成員の総数や、強さ、タレントの有無や、平均難度と、最高難度の情報を引き出すために、ニューロニストの下で、尋問中です。」

 

「そ…そうか…それが朗報だったのだな…それではそうでない方の情報は…どんな内容なんだ?」

 

「そ…それについて…なのですが…アインズ様のお力をこのようなことにお借りするのはあまりに不敬かもしれません…しかし、一応、選択肢の一つとして、お話を聞いていただきたく…」

 

 ソリュシャンが、先ほどまでのキラキラした瞳と打って変わり、オドオドした表情に変わっている、それに思わず「なんとかしてあげられないか?」という〝親心〟的ななにかを発揮したアインズは優しくソリュシャンの頭に手を置いて軽くなでてやる。

 

「なにを遠慮することがある? 選択肢の一つ…という可能性の段階なのだろう? 聞くだけ、聞かせてはくれないか?」

 

 

                    ☆☆☆  

 

 

「そうか…そういうことか…なるほど、それでデミウルゴスにも話を聞いて欲しいという内容になったのだな」

 

「はい、申し訳ございません、アインズ様」

 

 どこまでも申し訳なさそうにしているソリュシャンに再び声を掛ける、「大丈夫だ…」と…、別に責めてはいないという意味を込めて背中をなでてやると、少し落ち着いたようだ…。

 

「で? どうする方がいいと思う? 記憶を操作するのは簡単だが…どのみち、金で雇われているとは言え、そのような後ろ暗い組織に雇われるのを良しとする環境下にあったのでは、またいつ、同じような手合いに誘われて、雇われるかわからん…ならば、私の使う魔法の中でも、ある意味かなりレアな、強制服従系魔法でも使って、2度とそのような者らに協力することの無いよう、釘を刺して置いてもいいかもしれん、こっちの世界に来てからはまだ未検証だが、テキスト設定では材料さえ全て整っていれば<解呪>されない限り、効果は有効で、時間経過での効果消失もなかったはずだしな…」

(とは言え、ユグドラシルでは、わざと指定された「強制条件」を破った行動をして、ペナルティアバターになったりして遊べてた程度のモノだったが…テキスト通りの効果になったのなら…「そうはなりたくない」がために言う事を聞かせることができそうな点で使い勝手はありそうだからな)

 

 元々はイベントを効率的にこなすために配られた、アイテムを使用することにより覚えられた魔法で、その名は<青爪邪核呪詛(アキューズド)>、アインズが同じ手段で覚えた<大致死(グレーター・リーサル)>同様、魔力量による効果増大も、魔法職レベルを上げることによる上昇も期待できないという点で、使いどころが難しい魔法だと思っていたのだが…

 

 

「いえいえ、アインズ様にそこまでのことをさせる訳には参りません、ここはやはり、私の牧場で働かせ、ナザリックに対する害をなした者に施す「下等生物(ニンゲン)として相応しい振る舞い方」という物を教えておきましょう。」

 

「そうか…デミウルゴスがそう言うなら、その方がいいかもしれんな…牧場で新しい世界を見せることで、今までの自分を見直す機会を与える…か、なかなかいい考えだぞ?デミウルゴス。」

 

「は…ありがとうございます。アインズ様…そのお言葉だけで、このデミウルゴス、今までの尽力の全てが報われる思いでございます。」

 

 

 そして、3人のそれぞれの思惑を乗せ、ただのチンピラ的な仕事を手伝えば高給がもらえるという甘い蜜に誘われた哀れな者達は…丘陵という見晴らしのいい土地で、牧場の運営に関わる犠牲者(ろうどうりょく)として、連行されていくことになるのであった。

 

 ほぼ同時に特別情報収集官(ニューロニスト)の下へと連れていかれた『未来の苗床(イグヴァルジ)』とどちらが人間基準で軽い処分なのかは本人たちに判断を任せるしかないのだろう…。

 

 

                    ☆☆☆

 

 

 アインズとの新婚生活を妄想していたアルベドが、正気に戻るきっかけとなる扉の音が響き、アインズ当番のデクリメントが開いた扉から、アインズ、デミウルゴス、ソリュシャンが出てきたのを視界に収め、即座に腰を折った守護者統括、アルベドは、自らの地位に相応しい出迎えをアインズに向ける、それをアインズが片手を挙げることで「ご苦労」の意思を言葉としても伝えた後…

 

「これから少々、ルプスレギナと所用を済ませてこようと思う。まずは…そうだな、以前私が地位を与えることを許した『エイトエッジアサシン・リーダー』に連絡を取れ、目印となる腕章をつけているはずだ、そいつに私の護衛、それと天井のエイトエッジアサシン…1人ついてこい…ルプスレギナの護衛を命ずる。」とノリノリで指示を出すと、アルベドに視線を向け…

 

「では、行ってくるぞ?アルベド…我らが家(ナザリック)の護りは任せた。」

 

 そう言われると、先ほどまでの妄想が再び頭の中をかすめ、思わずこう言ってしまっていた。

 

「行ってらっしゃいませ、お早いお帰りをお待ちしております。」

 

 

 

 そして、そばにいたソリュシャンに命じ、ルプスレギナに連絡をして、すぐ自室に来させるようにという指示を出す、天井のエイトエッジアサシンは、エイトエッジアサシン・リーダーを呼びに行った。

 そして両者を待っている間、デクリメントを伴い、自室に移動しながら、魔法発動の準備をする、もちろん行使するのは<伝言(メッセージ)>だ。

 

 

 現在はとっぷりと陽が暮れた夕闇が支配する夜…さすがにこの時間では女性の家に連絡をとるのは非常識だろうか?という意識が脳内をよぎるも…とりあえず寝ているようなら、あまりしつこくせずに<伝言(メッセージ)>を切ってしまおうと思いながらも、発動をさせる…もちろん相手はカルネ村の責任者(エンリ)だ…ネムが寝ているなら、起こすこともないという意識もあるので、万が一、起きていたら用件だけを伝えて、朝からお邪魔することにしよう…と心に決めていると…すぐに通話状態となる。

 

『あ、はい…エンリです、もしかして…ゴウン様ですか?』

 

 しかし、アインズはこの時、まだ知らなかったことだが、ネムはすっかりアルシェの妹2人と仲良くなり、よくお泊まりをしに行くようにまでなっていた。

 養母代わりであるリィジーも、それは普段から知っているし、アルシェ自身はまだカルネ村に馴染めて居ないとは言え、日ごろからみんなに溶け込もうとし、出来ないながらも村での仕事を覚えようと頑張っている姿は認めていた、だからこそ、可愛いネムの初めてできた同世代の友達との仲を温かく見守っていたのである。

 

 エンリの所にも時々は遊びに行っているが、リィジーから言われているのか、自分でも何かを察しているのか…、夜になると大人しく帰っていくので、頻度的にはアルシェの家に行くことの方が多い。

 

 

 

「お…おぅ…早いな、エンリ…さすがにこの時間だと、眠っているかとも思って反応がなければ、すぐに切るつもりだったのだが…その…今は、大丈夫か?「お取込み中」ならば…さすがに今度にしても良いのだが?」

 

 言わんとしている内容を頭の中で浸透させているのか…しばらくの沈黙があり…『え…ぁ、その…ぅ、だ…だいじょうぶ…です…』といううわずった返答が戻ってきた。

 

 アインズもさすがに新婚夫婦の夜に連絡を取るという状況が、どういうタイミングになりやすいかということくらいは理解している…だからこそ、念のため、だったのだが、どうやら当たってしまったようだ…。

 

「そうか…なに、そんなに長い時間はかからない…、ルプスレギナと共に、翌朝の来客がそっちにいくという報告と…それに伴い、そちらに来訪する際の担当者に持たせる物と同じものを村長であるエンリに託したい…という用件だけを済ませたいのだ…済まないな、こんな時間に非常識だとは思うが…許してくれ。」

 

 そう言って、営業マンだった頃のクセで通話している姿勢のままわずかに首を下に下げる仕草をとった瞬間、(アインズ的には何気ない行動だったのだが)横でデクリメントが目を見開いている。

 

(あ…まずったか?)

 と思うも、後の祭りだ…とりあえずの時間稼ぎとしてデクリメントに手の平を向け、腕を伸ばす、NPCの一般メイド達には割と評判がいいというアンケ―トでも上位の方にあった「まぁ、待て…」のポーズだ。

 

 これをされると、言葉に出されなくても御方直々に『命令されている』という実感があるのだそうだ…自分にはよくわからない世界だが、本人らがそう言うのなら、そうなのだろうと、取り入れることにしたという経緯がある。

 

 それに対するエンリの言葉は予想とはちょっと違う反応をされ戸惑った、というよりカルネ村の住人であればまずこの言葉以外は出てこないのだが、村の救世主であるアインズ(ほんにん)からすれば全くそこまでのことをしたとは思っていない為、過分な評価という認識以外は出てこない。

 

『いえ、カルネ村の救世主であるアインズ・ウール・ゴウン様のご要望であれば、いつであろうとなんなりと…村のみんなもきっとそう言ってくれるはずです。』

 

「そ…そうか…まぁ、それならばその言葉に甘えよう…このような時間に村全体の騒ぎにするのはどうも気が引ける…なのでこれから10分程したら、エンリが村長宅として使ってる方の玄関先に転移するので、身支度が整ったら来てくれるとありがたい。」

 

「それではな…夜分にすまなかった。 ンフィーレア君も良かったら連れて来てもいいぞ…一応彼にも伝えたいことがあるからな。」

 

『は…はい、ンフィも…ですか?わかりました…何かイヤなお知らせだったりはしませんよね?』

 

「それはない…ンフィーレア君は貴重な存在だと我々の部下…まぁ家族のような者達も皆、浸透している共通認識だ…日頃のねぎらいと…念のための通達事項さ。」

 

 そこまで通話していると、自室の前にまで来たのでデクリメントに扉を開けてもらう。

 

 そして、話しながら、そのまま自室に入るとエンリからの返答が返って来るところだった。

 

 

『は…はい、わかりました…それでは…10分後に…お待ちしております。』

 

「うん…ではな…」

 そう言って通話を切ると、引き伸ばしたデクリメントへの言い訳を頭の中で高速回転させる。

 

 どう言って言いくるめようかと思っていると、口を先に開いたのはなんと、デクリメントの方からであった。

 

「アインズ様…さすがです…そのような対応をされてまで…我らがナザリックの維持を続けるために頭を下げる事もいとわないとは…このデクリメント、言葉もありません」

 

「え?…」

 何を言っているのだろうとただ茫然としていると、その反応をどう受け取ったのか、デクリメントが再び言葉を発していく。

 

「この期に及んで、誤魔化されずとも…私も先程のナザリックの維持のためにあらゆる手を尽くされているというお話、矮小なこの身なれど、聞かせていただいております…もちろんそれに関わる事項であるためにあそこまでニンゲンなどのために下手に出られているアインズ様のご心中…いかばかりか…。」

 

「あ? あのな? デクリメント?」

 

「大丈夫です、この件はあの時、あの場でだけの会話、私共は背景のように想っていただければ…決して、口外などは致しません…このことは私だけのムネの内に秘め、日頃からそのような想いをされているアインズ様のご苦労に報いるためにも…このデクリメント…ナザリックの為に日々、精進して参ります!」

 

 あまりに着いていけない展開に話が飛んでいったため、まだ沈静化されるほどの驚きではないこともあり、ポカンとしているが、なんとかデクリメントへの言葉は返しておく。

 

「うむ…ナザリックの為に、精一杯励むのだぞ? 期待している。」

 

「は! ありがとうございます、必ずや、そのご期待に沿える様、己を高めてまいります。」

 

 お前はパンドラズアクターか!と思うほどに見事なピンとした姿勢の後に彼女がとった姿勢に、アレを幻視したかと思うほどの腕の位置…(さすがに敬礼では無かったが)、一般メイドがヤツのことをそこまで知るはずもないが…なんかじわじわと来るものがある。

 

 と思っていると、精神の鎮静化が起こって抑制された…そこまでだったか…と思っていると、ドアをノックする音が響く…新たに意を決したデクリメントが、ドアの外にいる者の確認をし、しばらくお待ちを…と訪問者に告げ…「アインズ様…ルプスレギナさまがご到着されました。」と凛々しい表情で報告してくれた。

 

「うむ…それでは行くとしよう…部屋を出る。」

 

 NPC達は基本、よほどのことがない限り至高の41人達の私室などは決して足を踏み入れようとしない…それは神域であるからだ…決して汚してはならない聖域であり神域…だからこそ、その場所は御方々だけの為に尊重されるべきであり、許されるのは日々の掃除などの為、出入りする一般メイドたちだけなのだ…。

 

 

 そして余談だが、ニンゲンとして初のナザリック所属のメイドとして、今は昔ほどの軋轢はないが、微妙な壁が一般メイド達との間に存在しているツアレは、現在、エ・ランテルのアダマンタイト冒険者『漆黒』の為に用意された…ナザリックの守護者達によれば簡素過ぎ、質素極まる館、アインズからすれば充分すぎるほど快適なのだが…、そこに人間社会用の専属メイドとして勤めてもらっている。

 

 一時期はナザリック内でしか心の平静を保てず、人間社会に出てみるか?とでも言おうものなら、顔面が蒼白になり過呼吸、過度な体の震え、止まらない発汗などが起き、「ここで…ナザリックで、メ…メイドの…勉強を…」と涙ながらに訴える程だったから、あの時は相当心配したものだが…数年のリハビリ期間を経て(ツアレをセバスが救いだしてから、八本指吸収直後、悪魔騒ぎが起き、そこでアダマンタイトになり…そこでしばらくパンドラズアクターと、(ナザリックNPC達にも)内緒で交代しつつ、帝都魔法学院に編入、途中編入なので2年と少し経過し、ジエットの卒業を待って…そのタイミングで館が進呈されたため)、晴れてツアレはナザリック所属の人間社会出向用の専用メイドとして、第一号、メイド長的立場として働いている。

 

 ちなみに人間社会用という限定された条件下とは言え、メイド長就任にまで至る彼女の努力は並大抵ではなかったのは、彼女をメイドとして教育するのに力を注いでいたセバス、ユリからも聞いていたため、そのお祝いとして、第五階層で凍結保存してあった、彼女の妹であるニニャを「ワンド・オブ・リザレクション」で蘇生させ、感動の対面をさせた。

 もちろん、盛大に喜んでいたのは妹のニニャの方で…、ツアレの方は、そこまでの感情の起伏はなかったものの、優しく(ニニャ)を抱きしめて、泣きながら感動している妹をなだめていた。

(もちろん、それからはニニャもナザリックに取り込まれている。 思いっきりレベルダウンしてしまったが、辛うじてレベルは消失まではいかず、タレントも失っていなかったため、寿命をなくし成長させれば、どれほどの成長につながるだろうか?と、内心、ちょっとワクワクして期待してるのをナイショにしてる支配者がいるなど、きっとニニャ本人は知ることはないだろう。)

 

 そしてツアレの中ではメイドの仕事中とそうでない時は、一定の折り合いをつけているようで、メイドの仕事中は毅然とした態度で普通の人間など寄せ付けない雰囲気を出している(近づけさせるのはモモンと親しくしてる人間だけ)、そのためかどうか、その反動で、シフト制&交代制を導入し、週に2日程の休日を与えている時は、メイドモードがオフ状態の為、外には出たがらず、思いっきりインドアの引きこもりになっている。

 

 その間、買い物などの生活全般の補助をしているのは主にニニャだ…嬉々として姉の世話を買って出ている。

 

 まぁ、彼女が自分の休日をどう過ごそうが、彼女の自由、踏み込むべきじゃないし、踏み込まれたくはないだろうと思い、モモンであるアインズも何も言わないし、好きにさせている…メイドの仕事さえキッチリできてさえいれば何も問題はないのだ…。

 

 思いっきり話が逸れたが、そんなわけでアインズの部屋に「入れ!」と命じてもルプスレギナだけでなく、他の守護者達も遠慮して、決して入ろうとはしない。

 

 だからこそ、アインズから先に部屋の外に出て、そこに<転移門(ゲート)>を開く必要が有ったのだ。

 

 そして、隠密化して姿を消しているエイトエッジアサシン達を連れ、ルプスレギナと共に転移するアインズ一行は、こうして夜のカルネ村…現村長宅の前に訪れることになった。

 

 

                    ☆☆☆

 

 

「ようこそお出でくださいました、ゴウン様…このところ頻繁にカルネ村までご息災なお姿を見せに来ていただき、大変うれしく思います」

 

 さすがに10分後という時間を指定しただけあって、すっかり身支度を整えたエンリとンフィーレアが、結婚式の時に用意し、結婚指輪として2人に渡したそれぞれ特殊な効果が宿っているあの指輪をして、自分を出迎えに来てくれていた。

 

「うん、エンリもよく勉強しているようだな…言葉遣いからして、以前との見違える差がよくわかる…もう立派な村長だ…もぅ迂闊に『族長』などと言ってからかえなくなってしまったな。」

 

 堅苦しい挨拶は、こちらに来て支配者ロールをしていても未だに慣れていないアインズは、気軽に接してほしいがため、大抵はそう軽い感じで接しているのだが…恐らく、後ろにルプスレギナも連れているためか…、今日はいつも以上に「村長らしく」と言ったらいいか、「私はちゃんとしております」的な空気を感じる。

 

 そう言えば、さっきからカルネ村に来てずっとルプスレギナが静かだな…カルネ村でのルプスレギナもこんな感じなのだろうか…?

 

 

 アインズの中では、エンリの雰囲気に少し、思う所はあったが、実はエンリの中ではかなり心中、穏やかではなかった。

 

 なぜなら、今はゴウン様と一緒に居るからなのだろう、いつものおちゃらけた感じの雰囲気は全く感じさせない振る舞いだが…、ゴウン様が居ない単独でのルプスレギナを見ているエンリからすれば、いつもの空気感が全く感じられないルプスレギナの方が、ずっと怖いのだ…「何も言わないだけで、ぜぇ~んぶ分かっちゃってるっすよぉ♪」と、内心思われているような気がするからだ。

 

 ゴウン様からのご厚意により、カルネ村でのインフラ整備はかなり向上している、上下水道の整備も結構整っていて、見た目こそ牧歌的な『村』にしか見えないが…その実、各家にはマジックアイテムの「蛇口」が設置されていて、もちろん付随して、インテリア用のアイテム、キッチンシンクも備え付け、下水に至るまで、しっかり手が行き届き…一応、外からの徴税官らが見回りに来た時用にと、井戸自体はまだ残されているが、基本、そっちは『その日』以外は皆、あまり使用していない。

 

 なぜなら一日で、数十ℓはその蛇口から出る水で生活が事足りるからだ…なぜそのような話が今出たかと言えば…

 

 結婚式を挙げた数日後、いつものように普通に生活していたエンリが朝を迎えると、その日の朝一で来訪したルプスレギナとバッタリ顔を合わせてしまったことがある。

 

 その時の…少し鼻を鳴らしたかと思うと…「ニタぁ~~…♪」とでも表現できそうな意味ありげな笑顔を向けられ、「な…なんですか?」と聞いたところ…「ん?なぁ~んでもないっすよぉぉ~」とシレっとその笑顔のまま、横を通り過ぎ…自分を通り過ぎる際に小声で「ま、夫婦仲がいいのは喜ばしい事っすよねぇ~♪」と…かなり意味ありげに言われてしまったことがあるために…、連絡があってから10分で、身支度だけでなく、急いで水を用意し、全身を水ですすいだり、タオルでぬぐったりして、これでもか…と言うほどに徹底して身だしなみを整えたのだ…それでも、今のルプスレギナには全部、お見通しな気がするので、気が気ではない。

 

 護衛として、エンリの後ろにはカイジャリとジュゲムが居る。それぞれ、エンリとンフィーレアの護衛として来てもらったのだ、その為、少しは心に余裕は出来たが、どうにもいつもと違う雰囲気のルプスレギナに不気味さを感じてしまうのだ…、そっちが気になり、それどころではない…もちろんンフィーにも、全身、洗ってあげたり、拭いてあげたり、一番ニオイが香りやすいと思われる場所も念入りに洗ってあげたため、大丈夫だとは思うが…。

 

「私はもぅ、すでに覚悟はできております、私はこのカルネ村の村長でもあり…そして『カルネ部族の族長』でもあるということは整理ができております、どのようにでもお呼びください。」

 

(おぉぃ…なんか、変だぞ?エンリ…今まであんなにイヤがっていたのに…急にどうした?)

 

「それはそうと、ゴウン様、このような時間にいつまでも玄関先ではあまりに不自然かつ、失礼…まずは中にお入りください。 どうぞ、ルプスレギナさんも中へ…。」

 

 一瞬、「このエンリはもしかしてドッペルゲンガーか何かか?」と疑い掛けてしまうほど、全くいつもと別人のようなエンリに、アインズもちょっとだけどう接したものかという気持ちにさせられたが、大人しく室内に招かれることにした。

 

 エンリにしてみれば、これでもまだ足りていないのでは?ってくらいではある…だが、アインズからして見れば明らかにやりすぎであり、いつものエンリらしさが全く見えないのが逆に怖かったりもするのだが…、エンリにそれを感じる余裕は今はない…。

 

「それでは、ゴウン様、狭い家ですが、こちらの椅子へどうぞ」

 

「うむ…ではそうさせてもらおう…この家でこの椅子に座るのはこれで2度目だな…いや、懐かしい…」

 

 そう言いながら、椅子に腰かけるが…あの時に感じた「今にも壊れそうな軋みの音」がない事に違和感を覚える。

 

「ん? エンリ…これは新しい椅子でも新調したのか?」

 

「え? あ…いえ、先ほど、ルプスレギナさんの使いだと言ってやってきた「狼のビーストマン」っぽい方が持ってきた物です、ゴウン様用に…とのことだったので…ゴウン様の指示かと思っておりましたが…違ったのですね。」

 

 〝狼のビーストマンっぽい〟ということはアレか…先日、デミウルゴスから「念のためのご報告と相談で…」と言われたあの一件でルプスレギナが牧場から身請けしたビーストマンか?

 

 他のプレアデスには似たような種族や、同胞っぽいのが居るのに、自分にはこのナザリック内では見かけないから…、ビーストマンでも「狼タイプ」なら譲ってほしいと、ルプスレギナにねだられたのだそうだ。

 まぁ…たしかにユリはアンデッドだから、デュラハン自体の数はそう居ないが…アンデッドは豊富に居るし…同胞と言えなくはない…

 ナーベラルはドッペルゲンガーだから、まぁアイツの例を除いても、テンパランスさんが創造したNPCでちゃんとドッペルゲンガー種はいるしな…

 ソリュシャンにとっては、三吉くんが一応、同じスライム種で同胞…と言えなくもない…。

 エントマに関しては、蟲という種類からして、恐怖公も居るし、コキュートスだっているわけだから、似ている種族なのは確かだろう…

 

 そうなると、シズはいないじゃないか…と思うのだが、「シズっちにはあのペンギン野郎が居るから大丈夫だと思うんです!」がルプスレギナの言い分だったらしい。

 

 まぁ、とにかく自分と似たような存在がナザリック内に居ないというのが「ベータ」という…一応『姉』的立場なのに、妹には居て、自分には居ない、というのがイヤだったのだろう…と思い、一体なら…とデミウルゴスに許可を出したのだったか…。

 

 アインズとしては、椅子1つで、そこまで気を回さないでも…とは思ったが、気持ち自体は嬉しいものだったし、この程度なら『ホウ・レン・ソウ』がされなくてもいいだろう…とは言え…カルネ村に行くとは言ってないのに…よくわかったものだな…。

 

「ルプスレギナ…こちらに来るとは言ってなかったにも関わらず、よく見抜けたものだ…、相談もなく行動した点についてはあまり良い事ではないが…今回のこの点のみにおいては褒めておこう…よくやった。」

 

「はい…アインズ様…ありがとうございます。 所要にお出かけになるとのお話で今回のお呼び出し…ならば、その場所はこちらであろうと…、予想が外れないで幸いでした。」

 感極まっているのか、腰をものの見事に90度に折り、深く頭を下げている。 …そこはさすがにナーベラルとは違うな…そこで跪いたりされなくて本当に良かった…。

 

「それに、一瞬見ただけではわからない程の、この家の雰囲気に調和してあるかのようなデザイン…わざわざこのように作ってもらったのか?」

 

「はい…アインズ様はあまり飾り立てすぎた装飾はお気に召さないようだと、デミウルゴスさまにお聞きしたことがあったので、もし、今回のようなことが起きた時の為にと…素材の在庫的に数の少ないのは避け、LV20程の木材を使用し、予め創っておいたのが幸いしました。」

 

(あぁぁ~~~…それはきっと、あのリザードマン侵攻の時だな…、あの骨の玉座には参った…、とりあえず「骨のデザインだと、他者が見た時に『今にも折れそうな骨だな』という印象を抱かれかねん。

 その上でそのような玉座に座って、椅子の方が無事ならば…、きっとデミウルゴスなら、なんらかの強化魔法で問題などないのは理解しているだろうが、それを知らぬ者からすれば私が『そんなに軽いのか?』と、侮られる可能性もある…なので、デミウルゴスが折角作ってくれた物に手を入れるのは心苦しいが…「デザインに手を加えてもいいか?」と、ムリヤリの理屈で押し切って、ナザリックの玉座に見た目だけは同じようにしたんだよな…たしかLV50石材を基礎にして、それを覆うようにLV35木材で、ナザリックの玉座風に仕上げたのだったか…。)

 

「そうか…ならば、せっかくルプスレギナが作ってくれた椅子だ…今回だけの為に使い捨てでは、お前の手柄を台無しにするようなもの…これは、今後もカルネ村に来た際は、この椅子に座らせてもらうとしよう」

 

 …と、そこまで言って、はた…と気づく…そういえばこの家主になんの承諾も得ずに、今の発言をしてしまったことに…

 

「勝手に私がこのように話を進めてしまってから尋ねる形になって申し訳ないが、エンリとしては…どうだろう?ここに、この椅子があって邪魔ではないか?」

 

「いえ! とんでもない…このような素晴らしい…ゴウン様の為の椅子を置かせていただけるなど…光栄なことです…ぜひ、ここに置かせていただきたいくらいです。」

 

「ん…そうか…ならば問題はないな…エンリもそう言ってくれるなら、この椅子は、カルネ村のこの「村長宅」で使う来賓用にするといい!」

 

 上機嫌でそう言ったアインズだが…彼からすれば、この椅子は別に自分専用で…という風にする必要はないと思っていたので…だからこそ「来賓用」…つまりは「自分以外でもお客様用に使ってもいいぞ」という意味だったのだが、ルプスレギナもエンリもそうとは受け取らず、それ以降、この椅子はカルネ村に訪れた際の「アインズ専用椅子」という扱いになってしまうことには、まだ気づくことの無い支配者だった。

 

 

                    ☆☆☆

 

 

「それで、ゴウン様、今回、このような時間にカルネ村にお出でになられた用件とは?」

 

 ずっと雑談をしていても、さすがに夜の時間では家と家同士があまり密集していない『村』とは言え、あまりに声が響いては夜の静かな時間ではどこまで響いてしまうかわからない為、タイミングを見計らい、アインズに本題を切り出した。

 

「あぁ…すまないな…肝心の用事を後回しにして、すっかりこっちの話を優先させてしまった…」

 

 そう言うと、閉じられたローブの中に手を入れ、懐あたりを探すような仕草をしている仮面の魔法詠唱者(アインズ・ウール・ゴウン)様は、「そう…これだこれだ…」と言われると、1つのネックレスを目の前に出して見せてくれた…それの先端に吊り下げられているトップ部分には、鮮やかな血のようでもあり、初めて命を救っていただいた際に差し出してくれたあのポーションの色のようでもある吸い込まれそうな程に深い色の宝石?のようなものがはめ込まれ、それが目の前で揺れていた…。

 

 そのペンダントトップの表側には何かの紋章がある。

 

(この紋章の絵柄は…どこかで見覚えがあるような…、でも私が知ってる何かの紋章なんて…そんなに多くはないはずなのに…、あともう少し、何かあれば…思い出せそうなのに…)

 

「どうしたの?エンリ…?」

 

「あ、あのね…このペンダントトップの紋章…何かで見覚えがある気がするんだけど…どこだったかな?って…」

 

「あぁ…これはアレだよ…、初めてゴウン様のご自宅に招待された時に見た…ゴウン様が座られていた玉座の間上にあった旗の紋章さ。」

 

「あぁぁ!! それ? そっか、それでなんとなく見覚えがあったんだ…、私の知ってる紋章の数なんてたかが知れてるから…見覚えはあるなと思ってたの…。」

 

「これでも一応、魔術師のはしくれだからね…、必須科目の中に[紋章学]っていうのもあるんだよ、だから覚えていたのさ。さすがに左右に並んでいた全部の旗の紋章までは覚えてないけどね…。」

 

 

「ほぉ…さすがだな、ンフィーレア君は…、一度見ただけであれを覚えていたか?」

 

 エンリの手の上に「ネックレス・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を乗せたアインズは、ンフィーレアの方に向いて声を掛ける。

 

「えぇ…さすがに壮観でしたからね…あれだけの眺めは、王城に行ったってお目にかかれないでしょう…まさに夢の中に迷い込んだのかと思ったくらいでしたから」

 

「はっはっは、そうか、そう言ってくれるとこちらも嬉しいよ、ンフィーレア君。 そうだ…ポーションの方はどうなっている?最近の出来具合はどうだ?」

 

 本題の前に軽い話題を振ることで、次の話を引き出しやすいようにと…営業マン時代の時に良く使っていた手段で、雑談を兼ねた情報収集に入る。

 

「あぁ…はい…初めにお渡しした時のムラサキ具合よりは気持~ち、赤紫っぽく感じられなくはないかな?って程度までは来られたかなと…でもなかなかうまくは…すみません」

 

 アインズからしたら、この世界の材料だけでムラサキだけでもすごいと思うが…さらにそこから気持ち程度とは言え赤紫に近づけているなら、充分な成果とは言えるのではないだろうか?と正直にそう思い、ンフィーレアに声を掛けた。

 

「そうか…、こっちの世界の材料だけで、そこまで段階を進められるとは…、こちらが専用の器具を貸し与えているとは言え充分にすごいことだよ? 技術的には正に革命が起きたと言っても言い過ぎじゃないと思っている。 ンフィーレア君、これからも期待しているよ…。」

 

 そうやって声を掛けたのは、決して彼に対するお世辞ではなく、本心なのだが、それでもンフィーレアからすればアインズでありモモンでもある彼は憧れ以上の存在である。

 そんな声を掛けられれば、感情も高まってしまうのは仕方ない事だろう。

 

「いえ! まだまだ赤には程遠い段階です! これに満足せずに、もっともっとお役に立てるよう…赤いポーションに近づかせつつ、資金的にもお役に立てるよう、青のポーションの方の品質向上にも力を注いでいくつもりです!」

 

「そうか…それでこそ、私が見込んだンフィーレア君だ…あ、そうそう、ポーションの話もそうだが、エンリにも伝えたい話の延長でもある、二人ともよく聞いて居て欲しい話があるんだ。」

 

 

 そう話を切り出すと、二人の視線が自分に集まったのを確信してから、本題に入る。

 

「それは、明日の…恐らくは午前中からお昼の間のどこかになるだろうが…この村に私が親しくしている者が来ることになっている。その時、数名「この村へ移住した者に面会する」という理由でこの村に来たいという者らが居てな? その者らを引率する存在として…、一緒に来ることになっているんだが…当日じゃなくなるべくなら前日にそのことを知らせておきたくてな…急な話ですまない。」

 

 

 そう言うと、エンリが少し驚いた様子を見せる。

 

「え? 移住者ってことは…先日のアルシェさんのことですか?…その人への面会…って、大丈夫なんですか? その面会に来る人達…この村の内情を知って、攻撃してきたりしないでしょうか?」

 

 そこがこのカルネ村の難しい所だ…移住者を求めて、出来れば人数がまとまったものになってほしいというのは本心だが…だからといって誰でもいいって訳ではない。

 

 今の村の現状を受け入れて、みんなと仲良くできる資質が要求されるのだ…。

 

 しかしそれに対して、目の前の仮面の魔法詠唱者は、こう答える。

 

「大丈夫だ…私の『友』が選んで、ちゃんと適性に関しては問いただしてある…現状を見ると、最初は驚くだろうが…、エンリがいつものようにみんなに指示を出す場面を見せればイヤでもみんな認めざるを得んさ。」

 

 アインズからすれば、誉め言葉のようなものでしかないその言葉も…心に整理をつけたと(目の前のルプスレギナの手前)そう発言したとしても、本心からケリをつけた訳ではない。

 

 アインズ自身からそう言われると…「女」としての自分は、もう終わりを迎えており、「村の支配者」的な立場として、今後も生きることを要求され、それどころか、とっくにそれが決定づけられている気がする。

 

 少し沈んだ気分でいるエンリの横で、ンフィーレアが、エンリの背中をなでて、元気づけながらアインズに質問をしてくる。

 

 

「あの…それでゴウン様…その流れで、ポーション関連の話とは?」

 

 

「あぁ、そうそう、その引率としてやって来るその者は、エンリに渡したのと同じ物を持っている…それでな、実はポーションとか、錬金溶液とか…そういうものを作り出すためのアルケミスト系の職を少し持っている、ひょっとしたら、今までのンフィーレア君の知識に新しい風をもたらしてくれる存在となるかもしれないぞ?」

 

「えぇぇ? そうなのですか?そんな方が…いらっしゃるのですか? どんな方で?」

 

 髪の下に隠れたはずの目が爛々とした輝きになっているのが分かるほど近くに顔を寄せるンフィーレアが、ずずいとアインズへと迫る。

 

「いや…落ち着きたまえ…そんなに慌てずとも明日になればちゃんとわかるさ、その者は、ちゃんとその目印を見せれば、同じものを提示して見せてくれるはずだからね…。」

 

 

 とりあえず、ンフィーレアを落ち着かせるためというのもあるが、ちょっとだけもう少し離れて欲しいという気持ちのアインズはまるで「明日の遠足が待ちきれない小学生」に『ちゃんと明日になれば』と言い聞かせる親のように、ひとまずは気分の高揚を抑えさせるべく言葉を発していた。

 

「あの…ところで、ゴウン様…先程、おっしゃってましたが、その人って、ゴウン様の『友』ってことは…ご同郷の方…なんですか?」

 

 

 言葉の中で気になっていた部分をエンリが問いかける、エンリにしても目の前のゴウン様は本当に謎が多い、どんな時に飲み物や食べ物をお出ししても…水や、お湯であっても、一口も口を付けようとしないのだ…

 

 

 それで、ンフィと話をしたことはあるが…、恐らくは魔法使いとしての何かが左右しているのかもしれないという結論になった。

 

 エンリは魔法が使えるわけではないので、詳しい点についてはンフィの話に納得するしかないのだが…多分、魔力やら、魔法を行使するための儀式や、誓い?などの為に自分の厳選した材料や、飲食物でなければ食べるわけにいかないとか…そういう理由でもあるのかもしれない…という話だった。

 

(この時間軸では、まだンフィーレアはアインズ・ウール・ゴウンという存在はモモンという冒険者と同一人物であるという認識はあるが、アインズ=不死の超越者(オーバーロード)だとまでは気が付いていない…そのため、まさか飲食自体ができない存在だとはまだ、わかりもしないのである。)

 

 

「ん~~~~…難しいな…、何と言えばいいか…そうだとも言えるし、そうでないとも言える…現状ではどちらとも言えないな…」

 

 なんとも歯切れの悪い言葉を出し、普段のゴウン様らしくない言い方に、不思議な感覚を覚えていると、何かを思いついたように再び言葉を紡ぎだす。

 

「まぁ、確実に言えることは、その錬金術系の職業を持っている者と、私の『友』は同一人物ではない…ということかな…」

 

 エンリは、少し、自分が考え違いをしていたことに気づく…確かにこの村に来る適性を調べた『友』という人が、このカルネ村に来る引率者『私が親しくしている者』と同じ人間とは一言も言ってなかった…。

 

 いつの間にか、どっちも同じ人物として考えていたことに申し訳なくなる。

 

「すみません、ゴウン様…ご同郷のお友達の方と別の方を一緒に考えてしまうだなんて…」

 

 アインズとしては、まぁ…わかりにくい説明の仕方だったし、自分でも姿をある程度自由に変化させる『友』の外見に対して、言いにくかったことは事実なのだ…説明しても翌日には違う姿をとっているのかも知れないのだから…。

 

「まぁ…私の説明の仕方が分かりにくかったのだろう? 仕方ないさ…気にすることはない、」

 

「あぁ…それからこれだけは伝えておこう…もしその『錬金術職持ちの者』と話すことがあるとしたら…、その人にはちゃんと仕えている主人が存在している、その忠誠心は並の軍人や武人など比較にならない程だからな…まぁ、滅多に「その主人」を話題に出すことはないだろうが…あったとしても変に刺激しないようにした方がいいぞ?」

 

 そう言うと、エンリの後ろに護衛として立っているゴブリンに視線(仮面がゴブリン方向に向いただけだが)を向けると、一瞬、そのゴブリンたちに緊張が走る…が、次に発せられた言葉で自分らに向けられた視線の意味を知り、緊張を解く。

 

「そのゴブリンたちがエンリに捧げている忠誠心と、似たようなものだが…それより一段、強く、濃いものだ…とだけ言っておこう…、くれぐれも扱いには注意してくれ…それ以外は、まぁ良心的な子だろうが…、まぁ、あんまり警戒しないで居てくれるとありがたい。」

 

 そこまでで言葉を切ると、椅子から立ち上がったアインズは、いきなり立ち上がったことに呆気にとられるンフィーレアとエンリ、そして驚き、緊張するゴブリンらに対して、謝罪の言葉を口にする。

 

「さてさて、こんな夜更けにお邪魔して、長々と話し込んでしまって悪かったね…それではこれでお(いとま)するとしよう」

 

「あ…あぁ…すみません、ゴウン様、お構いも出来ませんで…」

 

(なんか、妙に表情が晴れやかな感じになったな、エンリ…。 なんだ? 少しだけさっきより彼女の肩の力が抜けたんじゃないかって気がするんだが…?)

 

「いやいや、毎回、水もお湯も出す必要はないと伝えてあるのは私の方なのだ…、それより急用とは言え、このような時間に来てしまったお詫び…いや、わざわざ対応してくれた礼は今度するとしよう…それでは夜はまだ長い…、ゆっくりとするがいい…。」

 

 アインズからしたら、夜になったら普通は眠るものだろう…という認識は、すっかり薄くはなったが、そういう感覚は忘れてはいない。

 だからこそ、そういう風に語り掛けたのだが…エンリはどう受け取ったのか…こう答えていた。

 

「はい! まだ夜の時間はありますよね…ありがとうございます。 ゆっくりと…はい…そうします。」

 

(なんか声のトーンが、アルベドの声音とどことなくダブる感じが今、ちょっとだけしたんだが…、いや、まさかな…エンリと彼女ではタイプが違う…恐らくは気のせいだろう…うん。)

 

「そうだ、そのネックレスは、いつ来客があり、目印として提示されても、見せられるよう、ちゃんと首にかけておくといい…まぁ寝る時にまでする必要はないがな? くれぐれも無くさないようにしてくれ。」

 

 そう言ってエンリに『ナザリック関係者』としての窓口証明として託したネックレス…(そのアイテム自体はまだユグドラシルが全盛期だった頃、まだ日が浅い新規参入組、まだレベルが高くないプレイヤーがギルドの参入したいと言って来た時用にと…、初心者に対する支援効果を乗せながらも、ギルドメンバーとしての証として作ったアイテム(クランだった時代、ギルドの指輪すら存在しなかった時期、クラン内の仲間同士で身内の証明として使っていたアクセサリを改造した物)だが…残念ながら、ギルド内で資材や資源、クリスタルや、希少金属、ギルド内情報などの流出を目的とした者達ばかりの参入希望が目立っていた時期でもあった為、歓迎する意味で作ったものだが、結局使われることなく死蔵されるに至った経緯のあるアクセサリだ…)についての注意を促すと、「さて、帰るか!」と<転移門(ゲート)>を発動し、そこに入ろうとした…、その時、急に村が騒がしくなる。

 

 夜だというのに、高い音、警告の鐘の音が村中に響き渡るように鳴らされているのだ。

 

(なんだ? 厄介ごとか? 今回はどんな来訪者がこんな夜中に…、まぁちょっとだけどんな奴らだか、見てみるか…このカルネ村の対応力も見てみたいしな。)

 

 なんて、お気軽な気持ちで、入り込もうとした<転移門(ゲート)>を解除し、さて、何が起きているやら…と外に出たアインズは全く気が付いていなかった…。

 

 自分の背後、この村での最高責任者の背から、赤黒いとも思える怒りのオーラが幻視出来そうな程に肩を震わし、伏せた顔にピクピクとした痙攣が見て取れる。

 そんな彼女が(怒りにより)震える手で今、アインズから託された「ネックレス・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を身に着け、ゆらりと外へと歩き出す。

 

 ユグドラシル基準では、ほんのちょっぴりという程度の効果しか上がらなかった認識の、このネックレス…こっちの世界では<下級抵抗力強化(レッサー・レジスタンス)>の効果の倍の数値が上昇するため、あらゆる抵抗(レジスト)力が上がり、さらにほんのわずかだが、防御の数値も上昇する…それはこの世界では普通の服が、鉄のフルプレート並みの強度になるという認識にはまだエンリには伝わっていない効果である。

 

「あ…これ…」(かなりヤバイやつだ…)

 

 今までンフィーレアが見たこともないエンリのその表情に、鬼気迫るものを感じた彼は、とにかく、この夜中の襲撃者という名の被害者に、「穏便に済みますように…」と祈るのみであった。

 




とりあえず、今夜のカルネ村への訪問者が「襲撃者」なのか…「亜人の避難民」なのかによって、エンリの対応も変わるかと思いますが…もし、襲撃だった場合は…どうなるんでしょうね…。

現状、国を相手にできるほどの戦力はありませんが、村を襲おうとするレベルの一団程度であれば、問題なく倒せる戦力を所有している「血塗れの女将軍」さま…。

さてさて、「夜、ゆっくりと…」出来る時間が残っている内に解決できるのか…?

乞うご期待…というところでぇ~…。

ご感想、ツッコミ、軽いチャチャ入れなど…いつでもお待ちしておりますw
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