気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
今回の話で出てくるのは、もう「某団体の用心棒」に飽きてしまった、とある剣客。
結局、あのままでいても、数年に一度、手ごたえのある相手がくるかどうか…。
それもやっぱり手ごたえも感じられず、あっさり終わってしまう。
これではいつまでも自分は強くなれない…と見切りをつけ…武者修行の旅に出た…
という顛末。
きっと成長した、この村の村長さんなら、これくらいは出来るようになるだろうという、
筆者の勝手な願望も混じってます。
どうか、気に障った方が居たらお許しをぉ~…><
カンカンカン…カンカンカン…と高らかに鳴る警告の鐘の音、その中をいつものような感じに住民たちが避難場所へと移動を始めている。
その様は、もうすでにカルネ村の住人たちにとっては慣れてしまったもので、未だに慣れていないのはアルシェ達3人だけである。
そのため、今日もアルシェの家に…というより、クーデリカとウレイリカという親友同然となった存在の家に泊まりに来ていたネム…そのネムに手を引かれ、アルシェを含めた総勢4名で避難場所への移動を誘導している。すでにネムもこういう時はどこに避難すればいいのか、理解してしまっているので、村の新入りで、まだよくわかっていない一家を連れて移動している最中なのだ。
最近では避難する必要あるのかな? という想いも無いではないが…それでも、一応、念のためということで、移動を開始している。
こんな中でも人の波にもみくちゃにされてないのは、村の住人達も…「これは避難訓練のようなもの」とばかりに日常生活でのそれとそう変わらない移動速度で、とくに慌てず行動出来ているからだ。
しかも避難している最中の者の中には「今度はどんな奴らだと思う?」だの…「エンリちゃんの前でヒザをつかない人数が何人か賭けないか?」とまで談笑しながら移動している者まで居る。
もちろん、その中には「それって賭けが成立するのか?」という声を出す者まで居て、失笑が漏れるほどだ。
そんな中、人ごみとまでは行かない程度の場所を目立たないように移動している大柄な上背を誇る、住民たちよりは頭二つ分くらいは高い身長に、豪奢なローブ、そして仮面の姿を認めたネムは、そちらを歩いているローブ姿の者へと声を掛ける。
「あぁぁ~~~!! ゴウン様だぁ~♪」
ネムがそう声に出した瞬間、避難しようとしていたカルネ村の住人たち全員が、ネムの方を見、そしてネムの視線を追いかけるようにして、ローブの者を目に映す。
その瞬間、わぁ~っと人波が、そのローブの者に集まって行った。
「ゴウン様だ! ゴウン様、今回も我々をお救いに来てくださったのですか?」
「ありがとうございます、ありがとうございます、ゴウン様はやはりこの村の守り神です!」
「ありがたや…ありがたや…」
と、口々に褒め称える者、手を合わせ、拝んでしまう者、もはや、カルネ村にとっての「アインズ・ウール・ゴウン」と言うのは「救い」の象徴となっていた。
そうやって人々に囲まれる中、人波をかき分け、二つの小さな影がアインズに近寄って行った。
「ゴウンさま~♪ ひさしぶり~…さいきん会えなかったねぇ、なにしてたのぉ~?」
「ゴウンさま~…クーデもウレイもいい子にしてたよぉ~♪」
そう言って、左右から、抱きついていく姿に微笑ましいものを感じ、住民皆が見守る中、それを横切るように、モノも言わず、幽鬼のようにわき目も振らず歩みを進める存在がアインズの目の前を通り過ぎていく。
言わずとも住民全てがその存在を知らぬ者はいない…
いつもであれば、皆それぞれに声を掛け、「急がないでください、慌てず、助け合いながら行動をお願いします。」という言葉で皆を安心させることを優先する村長が、今はどこを見ているのかすらわからないような…今まで村に居た者たちですらみたことのない表情をしているエンリが…ただただ、ある一点へと移動している。
「エンリはどうしたんだ?いつもの彼女とずいぶん様子が違うようだが…?」
という、当たり前の感想を出す〝救世主〟に住民の皆も、同じ感想の様で、あまりちゃんとした答えが返せないようだ。
「えぇ…私達も同感です…あんな村長は始めてみます…何があったんでしょう…今回のはそんなヤバイ奴らなのか?」
「イヤ、まだどんな奴らだか、知らせも来てないはずだよ? エンリちゃんだって、まだ聞いても居ないはずさ…」
「なら、あの近寄りがたい表情はなんだ…あんな顔、どんなことがあったってしたことなかったはずだろう?」
「でもホラ…やっぱり後ろに従ってるのは、あのゴブリンさん達だろう、ならきっと行く先はあそこに決まってるさ…」
「あぁぁ…なるほどな…警戒をしておくのは当然の行動だしな…村の責任というものを自覚しているからこそのあの表情なのかもしれないな…。」
そう感想を漏らす
「それはそうと、みんなも早く避難場所に移動しておかないと、危ないぞ? さぁ…騒ぎが収まるまで隠れているといい。」
そう言うと、アインズは両わきから抱え、両肩に肩車をしていたクーデリカにウレイリカを下ろすと…「さぁ…行きなさい…」と優しく促してあげた。
すると、クーデリカがアインズのローブの裾をくいくいと引いてくる。
「ん?どうした? 大丈夫だよ…ここは安全だ、危ないことはないから、隠れて…」
とまで言うと、「ちがうの…そうじゃないの…」と最後まで聞くことなくアインズに話を短く告げる。
「エンリのお姉ちゃん、すっごくおこってる、いろんなのがぐちゃぐちゃになってわからないけど…すっごくおこってるみたいだから…」
そう、おずおずと
「あぁ…ありがとう…クーデリカ…覚えておくから、ネムに着いて行ってちゃんと隠れているんだよ?」
そう優しく促し、背中を軽く押してやると…「うん! ゴウンさまもきをつけてねぇ~?」と答え、元気にネムに着いていく。
そうすると、周囲に響き渡るほどの…、そこまで大声ではないはずだが、良く通る声が周囲に指示として行き渡る。
「偵察部隊! 集合! 状況はどうなっていますか?」
偵察部隊とは、もちろんゴブリンライダー1体を中心にして、ゴブリンアーチャー1体が入る形で編成された部隊、文字通り主に偵察を想定に入れた人員構成をしている。
当然、部隊の構成はその2体だけではない。野良ゴブリンも一応、居ることは居るが、それよりも一緒に森から逃げてきて、カルネ村入りを果たした、コボルドの方がよほど偵察部隊としては役に立っている。
そもそもが森から追い出され、カルネ村に「血塗れ伝説」の望みにすがり、『ゴブリンを率いている』のなら、自分らも拒否はされないだろうという理由でカルネ村に逃げてきたのがきっかけでコボルドも共に、今はカルネ村の一員となっている。
コボルドはゴブリンと戦闘能力自体はそこまで変わりはないが、ゴブリンよりは少しだけ知恵が働く、そして犬の頭をしている関係上、ゴブリンライダーの乗っている狼ほどではないが鼻は利く…なので、偵察部隊に編成し、鼻の良さを活かす役割も合わせ、ラッチモンの指導の下、レンジャーのレベル上げにいそしんでいる。
その上で、「追跡部隊」にもコボルドは配属され、主にコボルドの護衛役的な扱いでゴブリンは日々、エンリ親衛隊のゴブリン兵士たちに稽古を受けている。
森から抜け出してきたばかりのゴブリン、コボルドたちは、あまり高い能力はないので、コボルドはレンジャー見習いという名目を返上させたブリタ…、3LV程度だがレンジャー技能を取得出来た彼女が新入りの最初のレベル上げのために指導していた。
現在構成人数自体はそこまで多くで編成できるほど、充分な人数、難度に達していない為、少数精鋭という形ではあるが…
それぞれ「防衛部隊」「遊撃部隊」「斬り込み隊」「偵察部隊」「巨壁部隊」「追跡部隊」の6部隊に大きく分けられる。
その中でも「斬り込み隊」は戦力不足の為、いまいち戦力的に不安が多いが、「巨壁部隊」はオーガ5体編成+カルネ村でも貴重な回復役、ゴブリンクレリックのコナーで構成されている、他にも3体のオーガが居るが、そちらは「遊撃部隊」の方に割かれ、そっちにはゴブリンメイジが入っている。
「追跡部隊」の方は、ゴブリンライダーとゴブリンアーチャーの2体目達が中心として動かし、指示されて動く形となるのが、コボルドレンジャー達だ。
こちらは普段から活動しているわけではなく、必要に応じて、他の部隊の応援に協力したりもしている。
「その必要はないですよ?村長、こちらで確認はしています。」
偵察部隊の代わりに歩み出てきたのは、カルネ村では人間の…という意味では一番戦闘経験の豊富なレンジャーのラッチモン。 そして、その後ろに居るブリタがエンリの前に進み出ていた。
「…ラッチモンさんでしたか…それで? 外にはなにが来ているんですか?」
「えぇ…それなんですがね…一応、こちらの反応を待っていてくれているので、正確に言えば襲撃ではありませんが…こっちに避難しに来た…という手合いでもないようでして…」
どう説明したらいいか…という雰囲気のラッチモンとブリタが視線を交わしながら外に来ている何者かについて話しにくそうに教えてくれる。
「え? どういうことです? その事情を説明する時間…余裕はありますか?」
相手の動機がいまいちよくわからないエンリからすれば、こんな夜中に来たと言うのに、外で出方を待っているというそのチグハグさに疑問を感じ、事情を問いただす。
「えぇ…まぁ、こっちに用事があって、会いに来た人物がいるそうなんですがね…、どう返答したものやら…という所でして、むこうは、この村に『確信』を持っているようですが…。」
「ますます、意味がわかりません…、その相手はこんな時間に、誰に、何の用で会いに来たと? まさか…新しい移住者のアルシェさんがらみですか?」
エンリからすれば、思い当たるのはその辺りだろう存在の名を挙げる…、そうであってほしいのが半分、あってほしくないのが半分…の半々といったところなのだが…。
「いえ、どうやらそうではないらしく…ですね…詳しい事情まではわかりませんが、今、外に居るのは間違いなく人間の訪問者です…ですが、友好的かどうか…と言われると…どっちなのか不明なのが…少々厄介な感じだなと…」
「結論から言ってください、一体、どなたに用事だと?」
一向に話が先に進まないことに苛立ちを感じてきたエンリが、「結局、誰に、何の用事?」の回答だけ教えてくれればいいのに…!という感情を乗せて、話を急がせる。
「……、その…村長です…。」
重い口を開いたのはブリタである…、彼女は外に居る人物に見覚えがある…というよりブリタが己の限界を思い知らされ、冒険者から離れることとなった原因が、今、門の外に居る人物なのだ。
自分は見張り台から見ただけであるが、その容貌は忘れられず、今も時々、夢に出てくることがあるほどなのだ…あの時はパーティを組んでいたメンバーと一緒にその者と戦ったが、全く歯が立たなかった。
それどころか、『自分より弱い女をいたぶる趣味も、差を見せつけて見下ろすつもりもない』と告げられ、パーティで唯一女であった自分は見逃されたのだ…。
その時の依頼は結果、失敗に終わり、報酬も得られず、パーティも自分以外は全滅…という目に遭ったブリタが、失意の中、見つけたのが「村への移住者募集!」という告知だった。
概要をボォ~っと見ていると、その村は災害によって村人が激減したため、村人を募集しているらしい。
自警団に入ってくれる人も同時に欲しいらしく、そういう人も「初心者でも、経験が無くても大丈夫。」という文句が書かれていた。
それを見た瞬間、「それもいいかもな…。」と漠然と思った。
どうせ、冒険者としても限界だったのだ、とてもじゃないがアイツみたいな剣の腕になるには、自分は婆さんになるまで修行してもムリだと悟ってしまったから…それなら自警団くらいならがんばれば務まるだろう…と思いついたからだ…。
問題は、その村は「トブの大森林」と隣接しているということ、村に住んでいるレンジャー以外にその森へ入ってもらうつもりはないということだが…森から出てくるゴブリン程度なら、私でも相手が務まるだろう…と軽く思った。
「私にはもぅ冒険者を続けるほどの何かはもうない…この際、のどかな田舎に引っ込んで平穏に余生でも送るかな…、あ、そうだ…バレアレ商店の婆ちゃんに「あのポーション」買い取ってもらおう…。」
あの時は、「自分に売ってくれるなら色を付けるよ?」と薬師のあの婆ちゃんは言っていた、田舎に引っ込んでしまうなら、一応蓄えとして、ひと財産…とまでは行かなくても、当座をしのげる程度の生活費は必要だろう…と思ったからだが…結局、その婆ちゃん…こと、リィジーはこの時まだカルネ村入りをして居なかったので、買い取ってもらった。
結果、金貨30枚になって、リィジーからすればやっと待望の『神の血を示すポーション』を入手でき、一本だけの永久保存版として保管することになり、その後の研究にも大いに役立つのだが、それはまた別の話だ…。
「え? 目的は私…ですか?」
唐突すぎて、意表を突かれたエンリは素っ頓狂な声をあげた…なんで自分なんかに知らない来客が来るのだろう…と思っていると、「そっちの方の用事か…」と冷めかけた怒りが再燃してしまうことになる。
「どうやら…、武者修行で…人間では相手が居なくなっていたという話で、大森林で『人型であれば、亜人種でもかまわない』とばかりに…まぁ、常に1対1での戦いをしていたらしいですが…」
もう少し話を聞いていると、その者の周囲には、おそらく倒してきた中で従える流れになった者達だろう…、ゴブリンメイジに<
「勝負を断るなら、こいつらに命じて、村を襲わせてもいいんだが?」とまで言っていたそうだ…きっとそこまでするとは思えないが…かといってそう決めつけるのは早計かもしれない。
「それで、大森林の者らから私のウワサか何かを聞いたということでしょうか?」
「そのようです、村長を名指しではありませんでしたが…「『血塗れのゴブリン大将軍』に会いに来た! ここに居るんだろう? 相手をしてほしい!」とのことでしてね…確信してはいるようでして…「盛大に警鐘をならしてくれてかまわないぞ?」とまで言ってましたね。 なのでどうしたものやら…と。」
と、そこまで話をしていると、後ろから急に話に加わってくる声が聞こえた…その声は聞き間違えようはない…この村の救世主本人からの直々の言葉だったからだ。
「おもしろそうじゃないか…エンリ…相手をしてあげてもいいんじゃないか?」
「え? ゴウン様…なにをおっしゃるんです? 私、戦士とかでも何でもない…ただの村娘ですよ?」
「ん? とは言え、この村でせめて自分の身は守れるようにと護身術程度にはゴブリントループのみんなから手ほどきは受けているのだろう?」
「それは…そうですが…私の使える武器って言ったら、日頃から使い慣れている、土を耕すためのクワか…草刈り用の鎌くらいですよ?」
「ん?…まぁ、そうか…エンリは純粋な戦士系の経験は詰んでいないもんな…、どうだろう? その話、すっとぼけて「この村にはそんなヤツは居ない」って言ってみるのは?」
「ん~~…それは難しいんじゃないでしょうか? この時間まで話し合いで、時間を食っちゃったんじゃ、相手にも「居ないはずはない、居るからこその話しあいの時間」ってバレてるでしょうし…」
「そうか…それだとすると、勝機はエンリの得意分野による短期決戦…、勝負が長引くと、純粋に戦士としての経験も体力も豊富な相手に有利な状況に転んでしまう恐れが大いにあるだろうからな。」
「そんなこと言われても…私、身を守るものなんて…鎧とかなんとか…着たこともないんですよ?」
「それは大丈夫だ…先程渡したネックレスを装備しているのだろう?それを身に着けていれば、普通の衣服でも、鉄製のフルプレート並みの防御力に底上げされる効果はあるし…、最近、戦闘に限らず、いろんな面で勘がよくなっているんじゃないか? 反射速度が上がってたり…?」
「えぇぇ? まさかそれも…ゴウン様のおかげだったんですか?」
「よかった、ちゃんと効果は出ていたようだな…それなら、恐らくは外にいる相手となら、いい勝負が出来そうな感じはするぞ?」
「そんなぁ~…ゴウン様…ご自分が戦われないからって、そのお言葉はずるいです…。」
「大丈夫だ、なんなら私がその相手との交渉役として一緒に着いて行ってもいいが? 必要か?」
「え? よろしいんですか? ゴウン様が近くに居るなら心強いです! ぜひよろしくお願いします。」
「そうか…なら舞台を整えるためにも、協力者は必要だな…、万が一のために、エンリの撤退を支援する存在として…ゴブリントループらもいた方がいいだろう…、エンリ、彼らも全員一緒に居てもらってはどうだ?」
「そうですね、ゴウン様と、ゴブリンさん達、みんなが居ればきっと大丈夫!って感じがします! みなさんもお願いして大丈夫ですか?」
「「「えぇ! 姐さん! オレ達で力になれるなら喜んで!」」」
ゴブリントループたちの元気な声が重なる。
「さてと…あまり相手を待たせて、しびれを切らすことになっては村が危ない…今はオーガやトロール程度ならば、ジャンプしても村の壁に手もかからないだろうが…、オーガがオーガを肩車する…などの指示をされては、手が届いてしまう恐れもある、とりあえずは相手の出方を窺おう、もし有利にコトが運べるようなら、私からの心ばかりの支援魔法もかけられるかもしれん。」
☆☆☆
「やっとお出ましかい?ずいぶんと待たせてくれ…って、おいおいなんだい、ずいぶんと団体さんだなぁ…」
門を開いて出てきたのは先頭に仮面をつけたローブを来た男…ローブと言っても、見るからに価値のある物だと分かる…価値だけではない、恐らくは性能も鉄の鎧など比べ物にならない程なのだろうという…なんとなくの予測はできるくらいの物を着ている、戦士である自分でもそれが分かるのだ…きっとただモノではないのだろう。
続いて、ローブの男の後に続くのは…20? …いや正確に言うと19体か? やけにガタイの良い…そこいらのホブゴブリンどころじゃないゴブリンも半分とは言わないがかなり混じっている。
5…いや6?…ちがうな、7体か…まぁそれでもオレの本気には敵わないだろうが…、なんだ?一番後ろの女は…見るからにこの中じゃ~一番戦闘向きじゃない…ただの村娘…って感じだが…?
「いやいや…待たせてしまってすまないね、こちらにもちょっとした事情があってね、本来はそちらの希望する人物一人でお相手させるのが礼儀なのだろうが…」
「いやいや、こっちこそ、約束もなく押しかけて来たんだ…わがままを言ってる手前、ある程度はそちらの要望は飲むつもりだったさ、にべもなく断られるのは避けたかったからちょっとした脅しはさせてもらったが…、本気でするつもりはなかったことくらいわかってくれればそれでよかったんだ。」
「そうかね…まぁ、それなら必要のない被害が出なくてよかったよ、こちらとしても自分がわざわざ手をかけてまで救った村が争いの場にならずに済んでよかったと思っているよ。」
「ところで…どちらさんが「ゴブリンの大将軍」さまで?どれも、部分的な要素は満たしているが…全部の条件が合うのは1人も居ないようにしか見えないんだが…?」
「ふっふっふ、こちらもその件が興味深くてね…私たちが広めている話じゃなく勝手に広がってる内容だから、手の出しようがない…だから聞きたいのだ。 今はどのような話でまとまっているんだ?」
「あ? あぁぁ、そりゃそうだよなぁ、こういうのは尾ひれがついて、どんどんおっきくなるのが相場ってもんだ、オレの集めた範囲でよければ話せるぜ?」
「あぁ…集めたということは、諸説ある…と言ったところみたいだね…聞かせてくれないか?」
目の前の男が言うのはこういう話になって行ったようだ。
・最初は「血塗れのゴブリン将軍」といううわさ話だった、もちろん「ゴブリン程度じゃ将軍って言っても大したことがないだろう」程度だったが、日増しに話が違っていったらしい。
・次に聞いたのは身の丈2mは超える大女で、片手で
なんだそりゃ…そんな女が居るわけねぇだろ?って言うのが感想だったらしい、それはそうだろう、有名なアダマンタイト級冒険者チームの戦槌使い…「性別分類としての女」だってそこまでできるわけじゃない…という認識だったとのことだ。
・日に日に大きくなっていく話は、どこまでが真実で、お前、それどこから得た情報だ?って話が多くなっていった。
・最終的には、王国内のとある土地、それも一番悪目立ちのしない「村」に潜伏して、ゴブリンのみならず、あらゆる亜種族の者達をも支配して、村の人間達の頂点に立って日々を過ごしているらしい。 という話になって行った。
・そして、トドメはその話が最終段階に入ったくだり…「血塗れエンリ」という話にまで広がっていった時だ…。
期待はできない話だが、大森林での亜人決闘の毎日にも飽きてきて、たまたま寄った場末の酒場で聞いた面白い情報…キーワードは「王国内に存在する村」で、「本名かはわからないがエンリという呼び名」…ただそれだけの情報で、王国内の村々を渡り歩き、情報を集めて回っていたらしい…。
「やれやれ…ずいぶんと遠回りをしてきたようだが…そこまでの苦労をして、キミは何を求めて、その『将軍さま』とやらに会いたいのかな?」
そう言われた男は、わずかな迷いもなく、こう答える。
「ん? そりゃ~強い奴と戦って、自分をもっと強くするためさ…オレの目標はまだまだ遠い…そのための「対戦の機会」ならいつだって大歓迎だ。」
目の前の仮面の(…声からして男だろうが…マジックアイテムや幻影で姿を変えるという手段もある、一概にそう決めてかかるのはまだ早いが…、その直感は外れていないだろうという不思議な確信はある。)者から怪しい眼の光が見えた気がした…仮面で目は外には見えていないにも関わらず…だ。
「そうか…その目標と言うのは…聞かせてはもらえないかな?」
「そりゃ~もちろん、オレを負かした男と再度戦う機会が来た時の為に…そいつを超えたいがためだ! …あの、周辺国家最強の…あいつに!」
「そうか…そうか…そういうことか…なるほどな…理解した…」
「ところで…さっきの話だが、本当にどれがその『将軍さま』なんだか、そろそろ教えてくれねぇかな? こっちはずっと待ってるんだが?」
「あぁ…、すまないな、こちらの話ばかりで…そこを教えずにいたことを許してほしい…だが、今の君にその正体を明かすことは悪いができないのだよ…。」
「はぁ? なんでだよ…この村にも居ねぇってことはねぇんだろ? 今までの口ぶりからして居るってことは分かるってもんだ。」
「まぁ…そうなのだが…、結論から言うと、今の君にその『将軍』に合わせても真面目に信じてはもらえないだろうということが一番の理由だ。」
「おいおい、そりゃ~ないだろ? ここまでさせといて、門前払いかよ?」
「いやいや、それではさすがにそちらの気が済むまい…悪いがこちらの方も、この時間、しかもこのタイミングで…流れてしまった時間を取り戻すことは出来ないその苛立ちで収まらなくなっている者も居るのだ…お相手はさせてもらうよ…ただ…私は見届け人。 …そして、ここにいる19体のゴブリンは、戦いの場…その舞台を作るための人員だと思ってくれたまえ…。」
「あん? どういうことだ?」
「悪いがゴブリントループのみんなは、その目の前の戦士を中心にして、大きな輪を作るように一定距離ずつ離れて、立っていてもらいたいのだが…エモット? そのように命じてくれないか?」
今までずっと、自分のことを「エンリ」と呼んでいてくれた恩人が「エモット」呼びになっていることに寂しさを感じるものの、今の話の流れからして、たしかに今の時点で「エンリ」とバレるのは色々と問題がありそうなのはわかるので、従うことにする。
「それではみなさん、今、言われたように、よろしくお願いします…そうですね…20~30mくらいの円周を作るような感じで…よろしくお願いします。」
そうエンリから指示されると、ゴブリントループ達は言われるままにその距離を保ちつつ、大きく円を作り、その中にアインズ、エンリ、そして目の前の男…という構図になる…。
「あれ? ちょっと?あんたが相手してくれるんじゃないの? オレの相手、この子?」
「あぁ、そうだ…見かけに惑わされない方がいいぞ? これでもその子はこの村の中ではその「ゴブリンの大将軍」さまに最も近しい距離に居る人物だ。 侮ると痛い目を見ることになる…とだけ忠告しておこう。」
「へぇ…そうなんだ…そりゃ~どんな戦い方が飛び出すか楽しみだ…。」
「あ、ちなみに私が彼女に支援魔法などで、強化したりするのは問題ないだろうか?」
しばし、考え込んでいた目の前の男は、「んん~~~~~…」と悩んだ挙句、「彼女の力量を台無しにするくらいの大幅な強化なんかはやめてくれよ? もしそんなことがあったら反則ってもんだ。」と、だけ条件を付けてきたので、それを了承する。
「そうか…了解した…」
という声と同時に外周に立っていたカイジャリがエンリに向かって何かを放って投げてよこした。
「これを使って下せぇ…姐さん!」
「ありがとう、カイジャリさん…」
そういって、得物を受け取ると…その手には日頃からよく使い、エンリにとっては使い勝手のいい護身用武器でもある「草刈り鎌」を
「へぇ…お嬢ちゃんの得物はその武器って訳かい…だが、こっちはさすがに女の子に刃物まで使っちゃ、寝覚めが悪い…手刀で勘弁してもらうぜ?」
「じゃ~がんばるんだぞ?」
という声と共に、エンリの肩に手を置く
「それでは…両者、距離を置いて、立つように」
アインズにそのように指示されたエンリはその言葉に従うべく、円周の端の方へと歩いていく、そして、相手に目を向けると、左に持った鎌を相手に突きつけるような構え方をする。
そして右腕の方は、わずかに引いて腰の位置だ…もちろん右手には何も持っていない。
対する相手の男は、エンリと逆の位置、正反対の位置を陣取るようにして、腰を落とし、左腕と右腕を自分の左腰に…エンリとは違う角度で腰に添えている…それはまるで、今にも刀を抜くぞ、とでも言いたげな構えに見える。
「では…始め!!」
掛け声と同時に飛び出したのはエンリだ…相手はまだ開始位置から動いておらず、まるで待ち構えるように腰を落とした姿勢のまま微動だにしていない。
「そこまでなめられているのなら、余裕に見られている内に決着を…」
と思っているエンリにゾクリとしたものが襲う…それは実際に起きた危険ではない…が〝予感〟とでもいうべきものだ…このまま一直線に行ったら危ない…という認識が不意に浮かんだ。
それはもちろんエンリの戦闘経験に裏打ちされたものではない、装備している結婚指輪…その中に付与されている「鋭敏感覚」を強化する魔法がエンリの身に危機として知らせて来たのだ。
エンリは、あと一歩踏み込めば相手に攻撃が届く、という間合いで…その踏み込みをムリヤリ横方向に体を急速に方向転換させた。
そうすると、自分の首筋のすぐ手前を相手の手刀が光のような軌跡を描いて振りぬかれたのが分かった。
前に進みながらの横っ飛びだったので、結果的にナナメ前方向に行くことになってしまったが、直進していたら、きっと今の手刀が頸部に当てられた自覚もないまま意識を無くしていたかもしれなかったと思うと、大丈夫だろうか…自分はこの男に本当に勝てるのだろうか?という思いがよぎる。
だが…こんなことで負けるわけにはいかない…夫が門の向こう側で待ってくれているのだ…、そう…こんなことさっさと終わらせて、まだ朝までは時間がある…それまでの時間、残された朝までの時間を二人で一緒に過ごさなきゃ!という意識一色に染まるも、まるで手立てが浮かばない…自分が教えられたのは初手で油断している相手に一撃を加え…できればアゴ先に拳をヒットさせること…それが有効な手段であったのだ…、だからこそ体の向きは左利きの動きを意識して鎌を構えた…が、相手は迎撃の手段が得意だとは…相性は最悪である。
しかし、なぜ拳になったかというと下手な武器でより、エンリの力はかなり…エンリが思っているより強力なのだ…、まだサージェントの職業もコマンダーも取得してなかった…あの襲撃事件の際、エンリは怒りの感情をこめて…「お前なんかに負けるか!」の気持ちを乗せて、相手の
普通は、今まで拳をふるった経験のない女の子が下手に拳を振るおう物なら、不自然な殴り方により手首を痛め、恐らくは鉄よりも魔法的な強化を付けた防具、しかもヘルム部分を素の拳で打ち抜こうというのだ、当たり前だが、「殴る」という行為に耐えられるだけの構造になっていない場合、皮膚が破れ傷つき、肉が露出し、血がにじむ程度では恐らく済まないだろう…、それでもエンリは、妹のネムを救うため、一秒でも命を長らえさせるため、それを敢行し…大人の兵士をそれでもよろめかせ、反応をほんの一瞬でも遅らせることが出来たのだ。
そして今は、その頃よりも、ずいぶん筋肉がついてしまい、ゴブリンたちにその筋肉の付き方を褒められるくらいなのだ…それが不意打ちでアゴ先にヒットすれば、大体の者は、脳を揺らされ、立っていられなくなる。
もっと言えば、そのまま意識を刈り取ることも不可能ではないだろう…。
だからこそそこに賭けたのだが、見事に当てが外れた…これでは初手からして失敗、こちらの手の内を読まれてしまったことになる。
「まぁ、そう来るだろうなと思っていたが…やっぱりあんた、本当は右利きだろう? ムリに左構えなんて途中からやるから不自然さが隠せないんだぜ?」
余裕を見せるように相手はこちらの失敗をわざわざ教え、教師のように至らなかった部分を言い聞かせてくる。
(そうか…だますなら、最初から左利きの身のこなしをすればよかったのか…)
そう思うもエンリはそこまで器用じゃないし、演技派でもない、本人曰く、〝ただの村娘。なのだ…。
「ホレホレ?どうしたい?ずっと見つめ合ってたって決着は終わらないぜ?このまま朝までオレとにらめっこかい?」
彼からすれば、相手を挑発し、冷静な判断を失わせるための言葉…これが勝負を決定づけた。
エンリからすればその言葉は…踏み込んではならない領域に土足で踏み入られた気分になったのだ…
その気分はとてもじゃないが穏やかではいられない…が怒り狂うという段階をすでに超えている。
怒りすら通り越し、沸点すらすでに突破している、沸騰ですらなく水分は蒸発しているようなもの…ぎゃくに怒りが達しすぎて、冷静に相手を威圧していた。
「それを…とうとう言ってしまいましたね…、今の私にとっては一番…、踏んではいけないモノをあなたは今踏み抜いてしまいました…」
「いいでしょう…そこまで言うのなら、私の本気を今からあなたにお見せしましょう…、これは今の私には手加減は出来ません、覚悟はいいですね?」
まだわずかに残っていた相手への最後の、最終警告、しかし、それも相手には通じなかったようだ…〝待ってました、それこそ望むところ〟とばかりに反応が返ってきた。
「おぉ! できるもんならやってみな…どんな攻撃だって、打ち落とせる自信がオレにはある!!」
その言葉を聞いて、エンリは決断した…それならばその身で受けるがいい…と、今までもずっとどんな亜人種でも相手にしてきたこの能力…初めて使った時のような脱力感は、二度や三度使ったところで、今はもう疲れもしない…言葉への力の伝え方で強弱のコントロールもできるようになってきているのだ…それを全開放してあげよう…と強く決断した目に、もう迷いはない。
「後悔しなさい!!!」
まるでエンリの背後から、滝が逆流でもしたかのような圧倒的な裂帛の気合、威圧、気迫…それらのない交ぜになった全てのものを叩きつけてくるような圧迫感。
自分は彼女に対して、ここまでにさせるようなことを言っただろうか?という一瞬の逡巡が、さらに勝敗を決定づける。
もう、すでにエンリの中には相手に対する気づかい、できれば平和に…という段階を超えてしまっていたのだ…すでに彼女の中には「遠慮」という文字は消失してしまっている。
「ひれ伏し、跪きなさい!!!」
目の前の相手の手刀の間合いよりも外からなので、相手も迎撃の体勢を維持していたのも手伝っていた、その為、間合いの外からの影響をモロにかぶってしまった形になる。
今のエンリは、かつて、オーガをひれ伏させた、あの時のような、父親を殺されたシーンを思い浮かべての「仮想敵」へと向ける感情での「命令」ではない…。
遠慮する必要のない、情け容赦のない上官的思考一色に染まってしまっている。
しかし、相手も歴戦の戦士、あらゆる修羅場を通ってきた自負もある、そうそう目の前の女の子の言葉1つからかかってくる、こんな訳の分からない重圧に屈するわけにはいかなかった。
必死にその言葉に全身で抵抗しているも、精神力を総動員して耐える必要が有るようで、攻撃の方に意識を少しでも向けると、全部の主導権を持っていかれそうだと…ずっと身体を震わせながら、すんでのところで自分を保っていた。
しかし、それを面白く思っていないのはエンリである…、さっきまで夫との夜を共に過ごし、一番幸せな瞬間に達しようとした瞬間、<
それでもなんとか、話が終わり、恩人からも「まだ夜は長いのだから…」と言ってもらえ、「ゆっくりと」…と気遣いまでしてもらえたというのに…それなのに、目の前のコイツは…その私の行き場のない想いをあざ笑うかのように、今夜というタイミング、寸止めからの再開が期待出来たという想いから突き落とされるような瞬間を狙ったような襲撃…この今までの苛立ちの全てをぶつけてやる…という半分は八つ当たりであるのだが…
だが今のエンリにはそれすらも関係はない…「朝までオレとにらめっこかい?」とまで言われたら黙っていられない、こんな夜中にやって来て、夫と過ごしたい夜を邪魔したお前が言うセリフか!!という感情がどんどんどす黒いものに変化して行っているエンリは、いい加減イライラしてきた…なにをこいつはがんばっているのかと…。
すぐに夫のムネに飛び込みたい気持ちのエンリは、心から湧き出た感情のままを言葉にして、相手に叩きつける…奇しくもその言葉は、アインズもよく知る、某、守護者が発したこともある言葉と全く同じものであった。
「抵抗するな!!!」
その瞬間、「どしゃぁ!」という音と共に、ヒザどころか、両手を地につけながらも、それでも背中に大きな岩でも乗せられているかのように地面に貼り付けられたようになっている男の喉元に、さっきから持っていたままの草刈り鎌の切っ先を当てる…、さすがに殺そうとまでは思ってなかったのだが、もしこれでも負けを認めないなら…きっと、エンリは最後の一線すら超えてしまっていただろう。
そしてその様子を見ていたアインズは驚いていた。
さっきの命令を下していた様子は、まさに…「デミウルゴス」を彷彿とさせるものだったのだ…、思わずエンリの背中に、彼のスーツ姿が幻視出来てしまったほどには…。
そして、最初にアルシェをカルネ村まで送ってきたときにエンリが言っていた「自分はどうなっているのか?」という悩みはこれだったのか…という、ある意味で納得させられる一シーンを見せられた気分だった。
だが驚きはしたが、決して悪い気持ちはしない…これはこれですごいことだ…と思うからだ…きっと、結婚指輪で送った、「鋭敏感覚の強化」の他にも付加されている、「指示、指揮系能力の向上」という面もきっと大きく作用しているのだろう…、まさか、これほどになるとは…という、下手をしたら、ンフィーレアへの評価の付属物(想い人、妻)としてのエンリではなく、彼と同じくらい貴重なレアケースとして受け止めてもいいかもな…と思い始めている程度には、エンリのことを見直していた。
まぁ、もちろん『ゴブリンの大将軍』としてではなく、エンリがそのまま敗色濃厚のままだったら、
『勝負あり!!』
と高らかに宣言をし、決着を告げると、その男を放置して、村の中へと移動…。
エンリをンフィーレアへと預け、「まだ夜は少しだけ続くから…まだゆっくり寝ているといい」と言った、そのねぎらいの言葉も…今のエンリには…全く意味が違って聞こえていたのだった。
そうして、やれやれ、やっと帰れるな…でもまぁ、なかなかに面白い勝負だったな…と満足げな想いで居ながら…、後ろにルプスレギナを連れていたことを半分以上忘れていた支配者の夜は
ナザリックにて過ぎていくのであった。
いつもお読みくださり、どうもありがとうございます。
今回は、なるべくだらだら、他の要素を入れず、シンプルに書くことを意識してみました。
果たしてどうだったでしょうか…
今回の話は、多分本編…墳墓編ではまったく影響の与える話ではないので、気軽に読んで
頂けたら幸いです。
ちなみに、今回の話の剣客に着いてきた亜人達は、「やはりうわさ通りだ…」とばかりにカルネ村入りを即座に決定してしまいましたとさ。
それでは、拙作になにかありましたらいつでも感想、よろしくお願いしますぅ…