気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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さてさて、いよいよあと数話も書けば、墳墓編に突入できるかも?という流れ。

今日という日が過ぎ、翌日になれば、その日が、ワーカー連中が集められ、おびき寄せられる「墳墓編」に突入。

 まぁ、その前にちょっとしたことが起きるかもしれませんが、それも書いてるうちに「やっぱりナシだな、コレ」と筆者が思い、ぶち込もうと考えていた話を急に取りやめにする可能性もありますが…。

 まぁ、とりあえず、自動的にヴァイエルさんのカルマがクリティカル成功をおさめ、総ボスは、「アルシェや妹たちからは」借金の取り立てはしないようにしよう…という結論になった模様。


第29話 その剣客の名は…、そして新たなる訪問者。

 オレはブレイン・アングラウス。

 己の剣の腕を高め、戦士として自分を負かした男を超える為、あいつに負けたあの日から…ずっとそのことだけに自分の全てを費やしてきた…。

 

 そして、あらゆる人間を相手にして戦ったが…自分と並ぶ相手と会えたことはなかった。

 

 一時期、腕っぷしの強い者と戦いたいがため、用心棒をやったこともあった、そいつらがろくでもない事をして居るのは知っていた。

 …だが、自分はそれには加わらない…「用心棒」としての仕事が必要な時だけ、それに全ての意識を向けた。

 自分の実力を高めるためのポーションや、強化系のマジックアイテムが見つかったら、それを都合してもらうこともあった。

 しかしそれらは、横流しをしてもらうのではなく、用心棒としての報酬から、それを「買う」という形でもらい受けていたし、基本その悪事に直接関わってはこなかったつもりだ…。

 

 だがそれも長くは続かなかった、数年様子を見ていたが、自分が戦う機会というものはそうそう訪れることはなかった。

 

 時々、冒険者が乗り込んでくることもあったが、それだけだ…挑んでくる者には容赦しない、だが女子供には手心を加えることもあった、それは強者を相手にすることを望みとする自分には、決着をつける意味もない相手だったからだ。

 

 どのみち、その程度の者しか相手にできないのであれば、わざわざ長居して用心棒を続けていても自分の実力が停滞することは目に見えて明らかだ…だからおれは、ソコを抜けた。

 

 

 それからは「人間との戦闘」にこだわらず、人間種の類であれば、亜人種であろうとも戦いを挑むこともあった、一番手ごたえがあり、数日の長丁場になった相手はトロールだった。

 

 ダメージの回復という特性があり、上背もあるため、喉元に剣が届きにくいこともあり得意の切り札としての技も難しい、ダメージを与えては距離を保たれ、回復され、またダメージを与え…のジリ貧状態だったが<領域>を使っていたため、こちらがダメージを受ける事態はトロール程度の攻撃速度ではそもそも起きなかった。

 

 差し当たって、「大森林」の中で考える限り、一番強かっただろうトロールに勝って、(勝った後、「オレらのボスに勝ったんだからあんたがオレらの新しいボスだ」とか言って、オーガやホブゴブリン共が従って着いてきたりもしたが、まぁ、目立たないなら好きにしろ…と言って好きにさせていた。)それからどうしようかと思っていた時に知った、「ゴブリンの大将軍」の名前…始めは話半分に聞いていたが、数日に渡りその噂話が大きくなっていくにつれて興味が出始めた。

 

 それはどんなヤツなんだろう…と…一説ではゴブリンの…と言いながら2mを超える大女という話も出ていたし、明らかに話を盛ってるだろうという内容もあった。

 

 それでも、もしも、本当に強いなら…という淡い願いもあり、探そうと…どうせ他にすることもないし、時間つぶしにはなるか…程度に思って、捜し歩き、あらゆる情報を集め、ようやく1つの村にたどり着いた。

 

 そこは明らかに、見た感じ「村のレベルの防備じゃねぇだろう!」と思った…が、あの噂の「ゴブリンの大将軍」が根城にしているなら、これくらいの防備は当然かもしれねぇな…そうも思った。

 

 

 そこの村で、ある女と対戦することになった、変なカッコの魔法詠唱者(マジックキャスター)らしいヤツが色々交渉してきたが、折り合いをつける形で「ゴブリン将軍の最も近くに位置する」としてその一見、ただの村娘としか思えない小娘と戦うことになった…が、結果は俺の負けだった。

 

 その女の体の動かし方、軸のブレ、歩き方、立ち居振る舞い、それらから判断し、総合的に見て「戦士ではない」そう決めつけた。

 そのための油断だった…というのは言い訳だろう。

 

 自分の落ち度があった部分と言えば…目の前で戦うことになった女の子が、実は戦闘するタイプではなく、『指揮官』タイプの構成だったと思いもよらず、相手の行動を一方的に許してしまったことだ。

 

 自分なら、どんな攻撃でも<領域>の効果で、すぐに察知できるし、打ち落とせる…そう過信してしまったのが敗因だ…。

 

 だからこそ、オレは甘んじて、その女の『命令』された行動をずっとしている…。

 

 命令された行動の持続時間はとっくに切れていて、動かそうと思えば体のどこでも動かすことは出来る…だが、そうはしなかった。

 

 あの男との対戦を…再戦することがあれば…勝ちたい! その願いは…渇望は未だにオレの中にある。

 

 だがしかし、それでも、そこに至るまでの経過として、実力を高めるための足掛かりとして…やってみてもいいかもしれないという、「1つの方向性」を思いついてしまった。

 

「あの指揮官…もしくは大将軍と呼ばれるものの側近…又は部下として、力をつけていきたい。」

 

 そう思ったからだ…だからこそ、オレはそのまま跪き、ドゲザの姿勢を未だに続けている、誰が見ていようと、見て居なかろうと関係はない。

 

(惜しむらくはあの時、彼女は強くない…そうタカをくくって名乗りさえしなかったことだ…今更後悔しても遅いが…彼女の中では名無しの雑兵以下という認識だろう…。)

 

 そう思いつつも続けているこの行動…、かの「十三英雄のおとぎ話」の中にあった一節、まだ力もそんなになかった主人公の(…後にその十三英雄たちのリーダーとなる)若者がたまたま巡り会った名のある戦士との出会いを果たし、弟子入りを志願するために、3日3晩、門前で「ドゲザ」をして弟子入りの許しを請うた、という話をなぞらえての行動だった。

 

 ただの自己満足かもしれない…、物語のように3日でなんとかなるかどうかもわからない…だが、この身1つしか持っていない自分では…示せる何かは他にない…だからこれを続ける。

 

 そう決意してのドゲザを続けるその姿勢は誰にも理解はされなかったが、門の前でずっとその姿勢で身じろぎ1つしない為、カルネ村の見張り台から見ている夜番の2人からは「あの人、動いてねぇけど、死んでるんじゃねぇよな?」「まさか、あのまま寝てるってことはないだろうしな…」なんて話されている程度には話題にはなっていた。

 

 そして、やっと平穏が戻ってきたカルネ村の夜が更けていく……。

 

 

                   ☆☆☆

 

 

 カルネ村の朝は早い、ほとんど日の出と同時に目を覚ます。という日常になっているエンリはさっそく、キッチンに歩みを進め、顔を洗い、手をすすぐ。

 

 ゴウン様の恩恵のおかげで、この村での生活はずっと前より楽になった。朝一番で井戸に水を汲みに行く、という行動を一つ省略できるのだ…起きてすぐ顔を洗えるという行動は昔からすれば考えられないこと…、今のカルネ村は、きっとどの村よりも恵まれているのではないだろうか?

 

 そしてこれも日々の日課になりつつある、「ゴウン様への感謝」を捧げ、祈りが終わると、隣の部屋ごしに眠る夫の寝顔を思い出す…。

 エンリは昨夜も…「夜の時間」もあと少ししかないということは分かっていただろう自分の夫が、自分の為にずっと愛してくれていたこと自体、嬉しくもあり、感謝もあるのだ…その疲れを少しでも回復させてあげたいと…、そう思って、しばらくは寝かせてあげることにした。

 

 それはそうだろう…今となってはエンリという存在は、「カルネ村の村長」であり「カルネ部族の族長」でもある…、そしてもちろん、そっちの方は意識したくもないが…忌まわしい二つ名…「血塗れエンリ」または「鮮血のゴブリン大将軍」などなど…色んな肩書きを与えられてしまったこともあり、いい意味でも悪い意味でも「うなぎのぼり」なのだ。

 

 どちらにしろ、一歩家を出たら「エンリ」としての自分は村を導き、リーダーとして…、みんなと接していかなければならない。

 元からこの村に居たみんなからすれば、「親しみのあるエンリ・エモット」としか見ていない「年上の村民たち」ばかりなのであるが、入ったばかりのゴブリンたちを始めとする、亜人の村民たちはそうではない。

 

 亜人達には亜人たちなりの、「上に立つ者として相応しい振る舞い」というものがあるようで…それに即した行動をとり、それなりの態度を続けて行かなければならないのだ…、それに対する少しの精神的重圧もあったりするのだが…、それは家に戻って、夜になればたくさん夫に甘えることでバランスをとっている。

 自分のありのままを受け入れて、認めて、考えてくれているのは、今となっては「村長」としての自分ではなく、ちゃんと今でも「エンリ・エモット」として見ていてくれる夫の存在が大きいからだ。

 

「あ…そうだ…」

 思うところあって、念入りに体も洗い…というより手ぬぐいで拭き始める…ずっと前のように朝一で、ルプスレギナさんと出会い頭にからかわれたくないため。というだけの行動だ。

 

 手早く、しかしキッチリと体をくまなく拭いていくという器用なことをやり遂げ、服を身に纏うと、外に出て、鶏小屋へと移動する。

 

 これもゴウン様のお知恵をお借りして作った物…、雌鶏が卵を産んでくれれば、定期的に新鮮な卵が手に入る。これを朝食の1つにしたりもできる。

 朝の忙しい時間、野菜を切ったり、なんなりと…ただでさえ、自分を護るために日々、側近として守ってくれているゴブリントループ達みんなにも同時に朝食を作ってあげるというのが、もはやエンリの中で確定事項であるために「今日はみんながケンカしないように卵スープとかの方がいいかしら?」などと考えていると、後ろから不意に声がかかる。

 

「姐さん、今日もお早いですね、こちらでしたか!」

 

 声を掛けてきたのはゴブリントループの1人、ゴブリン兵士のスイギョだ。

 

「あ、おはようございます、スイギョさん。今日もいいお天気ですね。」

 

「姐さんの方もお元気そうでなにより…今日は卵料理ですか?」

 

「えぇ、一応見に来たんですが、今日はあまり卵が産まれなかったようで…、少なくてもみんなに均等に行き渡る卵スープがいいかなと…。」

 

「あぁ、そりゃ~いいですね。 あれなら量の多い少ないの話題が出ることはないでしょうから。」

 

「それにしても、昨日の騒ぎで、また何名かカルネ村入りしちゃった亜人さん達が出たもんだから、この先の食糧問題が心配ですよ…どうしましょうね…。」

 

「あぁ、たしかオーガが2体に、ホブゴブリンが2体の、ゴブリンが2体でしたか?」

 

「いえ、ゴブリンさんが4体の、ホブゴブリンさんが2体ですね、オーガさんは2体で間違いないですが…」

 

 力なく、「どんどんゴブリン所帯が多くなってきています、いつか人間の数より多くなるんじゃないかと気が気じゃないですよ」とつぶやくエンリ。

 

「まぁ、そこいら辺は、あと数日もすりゃ、新入りゴブリンたちもレンジャーLVを習得できる個体が数名出そうですからね、そうしたら、ラッチモンさんにブリタさん主導で、森の動物たちを狩ってくるなりして凌げるようになります、姐さんがそんな心配するこたないですって。」

 

「まぁ…コボルトさん達はレンジャーの覚えがいいみたいですよね…ひょっとしたらゴブリンさんはレンジャーを覚えさせるより、戦士系の方が覚えやすいんでしょうか?」

 

 エンリは話しながら、何個かの卵を拾い上げ、カゴに移し、家方向に移動する、一応家庭菜園のようなものも作ってはいるが、村長の仕事が忙しく、最近はもっぱらゴブリントループのみんなが手のすいてる時に水をあげに来てくれたりしているので、枯れることはないが同時に申し訳なく思う。

 

「みなさんが水を与えてくれてるおかげですね、私は最近お世話が難しくなってるのでありがたいですよ。」

 

 そういってスイギョにお礼を言うと、「お礼などはいりません、姐さんを手伝えるのはみんなも嬉しいんですから」と言われてしまった。

 

 手ごろな野菜を一本引っこ抜き、植えておいた芋も一本引っこ抜いてこれもおかずとして一品作っちゃおう、などと思いながら家へと歩みを始める。

 

「そういや、昨日の姐さんの気迫は凄かったですね、今まで見たこともないくらいの凄みがあって震えが来ましたよ」

 

 少しバツが悪そうに…とも、照れくさそうにともとれる表情を浮かべながらエンリが顔を少し背けてしまう。

 

「あぁ…あれは、その…たまたまあの時は…気持ちがイライラしてたタイミングだったから…その…つい…。」

 

「や~、でもみんな「すげぇ、すげぇ。」とか、「恐ろしい、さすが部族の族長。」って褒めてましたよ?」

 

 なんか、褒めてくれてるつもりなんだろうけど、女としては微妙だなと思いながらも、「そう?…それならいいんだけど…。」というだけに留める。

 

「ところで、姐さん知ってます? 昨日のアイツ、あれからずっと地面に突っ伏したまま動かねぇ。って夜番の見張りが言ってたって話ですよ?」

 

「えぇ? あれからずっとですか? いくら遠慮なしに叩きつけたとしても…私の号令って、一晩はもたない…ですよね?」

 

 スイギョへと顔を向けると、スイギョの方も腕を組み、顔を傾げている。

 

「そうなんですよね…オレらも、そんな長時間効き目があるなら便利だろうなって思う場面も今までに何度かあったんですが、そうでもなさそうなので…とすると、夜通しのその行動は、ソイツの…自発的な行動ってことになりゃしやせんかね?」

 

「えぇ? だって、外ですよ?門の外…いつ、誰…じゃなくても獣に襲われるかもしれない場所に…ずっと…ですか?」

 

「えぇ…もしかしたら、エンリの姐さんのことを待ってるのかもしれやせんね…。」

 

「えぇぇ?私のことを…ですか?」

 

「いや、聞いたわけじゃないので、本当のところはどう思ってるのかは何とも言えやせんが…、この村で唯一接点が出来たのって姐さんお一人じゃねぇですか?」

 

 言われてみればその通りなのだ、そしてその行動をさせてしまったのも自分だし…、村の中に戻る直前、「しばらくそうして反省してなさい」とまで言ってしまったのも自分なのだ…。

 であれば、その指示から解放してあげるのも、きっと自分からの言葉だけ…ということになる。

 

「う…ぁぁ、まぁ、そうです…よね。」

 

 エンリは少し気持ちが沈みそうになりながらも…仕方ない…朝食が終わったら…リィジーさんに用意した分でも余ったら、門前の名無しさんに持って行ってあげて、門の内側で話を聞いてあげよう…と思うのだった。

 

 

                   ☆☆☆

 

 

「いつまで、そうしているつもりなんです?」

 そう言って、ウンライとマツの2名を護衛に連れたエンリが、小さなお盆を手に、門前の…名無しの剣客に声を掛けた。

 

「あんたが頭をあげるのを許してくれるまでだ…。」

 

「別に一晩中、そうしていろと言ったつもりはないですよ?」

 

 目の前の剣客が頭を下げているそのそばに器を置き、その男の横に腰かける。

 

「だが、再びあんたはオレの前に来てくれた、それだけでもオレの行動は報われたというものだ」

 

 ふぅ…と短くため息をつき…

 

「実直なんですね…、そこまでして何をしたいんです?」

 

「力が欲しい…そのためには何でもするつもりだ…たとえそれがゴブリンの大将軍という存在の部下になろうとも…な。」

 

 護衛として着いてきた二人のゴブリンの空気が変化する、何かに反応したようにピクリとした動きがあったが、それ以上はなにもなかった。

 というより、オレに話しかけて来た…たしか、エモットさんと言ったか? この女性が制止したような動きを<領域>によって感知が出来た。

 

 やはり…このゴブリンはオレよりは強くはないだろう…だが、間違いなく並のホブゴブリンよりは強いと言い切れる。

 それを従えることのできる、見た限りではただの村娘…、恐らく昨夜、あのローブの男が言っていたことは本当なのだろう。

「ゴブリンの大将軍さまに最も近しい距離に居る人物」という言葉にウソはなさそうだ。

 

 でなければ、明らかに自分より力のない者に従う亜人など…居るはずはない、今までの亜人達との接触によりその点は絶対に「ありえない」ということはわかっているだからだ。

 

「お話は分かりましたが、昨夜、この村を救ってくださった恩人、ゴウン様も言ってらしたように、今のあなたをこの村の一員として認めるわけにはいきませんね。」

 

 ホンの迷いもなく、目の前の女はそう言い切った。

 

「なぜだ? なんなら、俺の持てる全ての力を使ってくれてもかまわない、どんな…イヤ、女子供を切り捨てろって言うのはやめて欲しいが…強い者と戦わせてくれるんなら、足止めとして、みんなが逃げるまでの間、犠牲の捨て石として使いつぶしてくれてもかまわない…、それでもダメか?」

 

 すがるような目をした後、すぐにまた頭を下げ、頼み込んでくる剣客に、エンリは再び同じ返事を返す。

 

「えぇ…ダメですね。」

 

「なぜだ! オレの何が足りない!」

 

 思わず、ガバリと頭をあげ、目の前の女を見つめてしまった。

 

「いえ、戦力的には、恐らくこの村の誰もあなたには敵わないでしょう…ですが、あなたの第一としている目標と…、この村の存続が関係してくるのであれば、話は別です。」

 

 目の前の女はずっと村の方向を見たまま、一瞥もこちらに視線を向けようとしていない…、どういう心情で言っているのか読みにくい…。

 

「ど…どういう…こと…だ?」

 

「この村は他の村とは異色の村です…異端と言ってもいいでしょう、それはあなたも昨夜、この村の門からゴブリンたちが出てきたこと、その者らが、人間と共存していること…それを目にして居るはず…、このことが別の…有力者の耳に入ったら…、この村の存在自体が危うくなります。」

 

「お…オレはこれでも口の堅い男だ、軽はずみにそんな情報は…」

 

「魔法をかけられても、そんなことが言えますか? <魅了(チャーム)>や、<支配(ドミネート)>の魔法にさらされた後でも貴方は隠し通せますか?」

 

 自分へと目を向けてきたその少女の目は、どこか冷たいものを感じた、この少女は、その年齢で、どんな凄惨な光景をその目に映してきたというのだろう。

 

「そ…それは…」

 

「それに貴方は「ある人物」と決着をつけたい…、勝つために強さを求めている…そう言いました。 間違いはないですよね?」

 

「あ…あぁ、その通りだ…間違いはない。」

 

「…であるならば、もしあなたがその人物以上の実力を身につけ、「今なら勝てる」という自信が出来た時、この村を出て行って、その者との再戦をしに…飛び出してしまうのではありませんか?」

 

 何も言えなくなってしまった…それを否定することも出来ない…かと言って肯定してしまえば、この村の門は閉ざされてしまう。

 

「な…なら…それならば、あんたがオレを…、オレを…。」

 

 何か言おうとするもなかなかその先が出てこない…その言葉を本当に言っていいのだろうかと…、自分でもバカげている言葉を言おうとしているというのは自覚している、そんなことのできる存在は居るはずはないと思っている…だが、居ないのだとしても、それだけの譲れない決心があることだけは分かってもらいたい、その気持ちがその言葉を後押しする。

 

「あんたがオレを…好きなように改造でもなんでもしてくれ…魔法的な制約をかけてくれてもいい、誓約を誓わせて、この村から出ないようにしてもいい、命令違反をしたら、心臓が破裂して死に至るような魔法をかけてくれてもかまわない…どうか…オレを…。」

 

 エンリは呆れたような表情を一瞬だけして見せ、そして普通の目に戻る。

(この男は「魔法」というものを何だと思っているんだろう…普通の魔法詠唱者(マジックキャスター)にそんなことが出来るはずもないのに…、まぁ、お一人、出来そうな方は知ってますが…、これはルプスレギナさんに相談した方がいい案件ですかね…)

「あなたはどうしてそこまで、こんななんの場所的価値もなく、特産品も、資源的な意味もない村に固執するんです? 今なら村から離れてさえくれれば記憶の操作もしないままに、何もしないで見逃しましょう…そう言っているというのに…。」

 

 

「記憶の…操作…? あんたは…そ、そんなことも出来るのか…?」

 

 目の前の剣客が、何やら異質な者でも見るような目をこちらに向けているのが分かる、まぁ、私ができるわけではないけれど…、あんな言われ方されたら、誤解するのも仕方ないか…。

 

「それが出来るのは私ではありませんよ、それが可能なのは昨夜のローブの方です。 私はただの村娘ですからね…、そうそう、あなたのお申し出ですが…ちょっと村で話をしてきます。」

 

 腰を上げて、かるくお尻についた草や土を払うと、そう言葉にし、村へと足を向けると背中から剣客の声がかかる。

 

「本当か?! ありがとう…ありがとう。」

 

「お礼を言うのはまだ早いですよ?話をするだけで、結論が出るのはまだ先の話かもしれませんからね…、それまでお待ちいただくことになるかもしれません。」

 

「あぁ…オレはかまわない…、それで、これはそのこととは別のことで相談なんだが…」

 

 目の前の剣客が今までの言葉以上に言いにくそうに何かを伝えようとしている雰囲気を感じる…なんだろう…まだなにかあるのだろうか?

 

「その…外で待たされるのは問題ないのだが…よかったら、村の…(かわや)(トイレ)を使わせてもらえるように、言ってもらえないだろうか?」

 

 そうか…、一晩中、ここでずっと地面に跪いていたんだ…そりゃ、さぞかしガマンしていたのだろう…、これはすぐにでも手配してあげなくては…。

 

「わかりました、その話の方を優先的に村の者に知らせましょう。 案内の者に従ってください。 それまではその朝食でも召し上がっててください。 それまでに事情は伝えておきましょう。」

 

 そう言ってエンリはいそいそと村へと急ぎ、村の「人間用」の(かわや)(トイレ)への誘導を見張りの1人に案内を、そしてお目付け役として一緒に行ってあげて欲しいと依頼するのであった。

 

 

                   ☆☆☆

 

 

 結局、エンリが剣客の男に都合できたのは、見張り台の円塔、その中にある、見張りの当番用の簡素な肥え容器であった、それでも用を足せたという満足感は男に安心をもたらしたらしい。

 

「ありがとう、エモットちゃん、やっとこさホッと一安心ってところだ。」

 

 にこやかに微笑む目の前の剣客に、もう一度エンリは、確認として提案を持ちかける。

 

「本当にいいんですか? なんなら見張りのお手伝いをしてくれるのなら、屋内にいてもいいんですよ?村の中に入るのはまだまだ許すことは出来ませんが…。もちろん、お食事も出しますし、用を足すのに困ることも…」

 

「その心遣いには感謝するよ、しかしそれは遠慮する。 なぜなら、さっきまでのオレはあんたへの誠意ってやつを示したかっただけだ…あの時のあんたを侮っていた自分…そして不必要な反感を買うような言動をしたことを許してもらえれば、あとは俺自身の問題だ…。」

 

 そこまで言うと、目の前の剣客はすらりと刀を抜くとビュッと素振りをして、こう言いのける。

 

「オレはこれさえあれば、外でだって大丈夫だ。なんならそこいら辺に居るトカゲや大森林の獣でも食べて生きていけるからな…」

 

 その男はそう言うと流れるような動作で武器を収め、エンリをしっかりと見て、こう言った。

「村の一員に認められてからじゃなきゃ、例え見張り台からとは言え、村の中のことを見られたくはないだろ?…それに、見張りだけの毎日なんて、考えるだけで体がなまっちまう。」

 

 そう言うと、背中を向けて、森林の方へと歩き出す。

「心配しないでも勝手に居なくなったり、死んだりはしないさ。 昨日の反省を踏まえて、朝と昼の2度、生きてる証拠にこの門の前まで顔を見せに来るよ。 もし朗報があるなら、その時教えてくれ。 あ、そうそう…オレはブレイン…ブレイン・アングラウスって言うんだ、良かったら覚えておいてくれ!」

 

 そう言いながら、背中をエンリに向けながらヒラヒラと手を振り、歩いていく男の姿に、「変なところで律儀な人ね。」と感心するのであった。

 

 

 

 

 エンリは村に戻ると、ブレインと名乗った剣客の言葉を村のみんなに伝えていた。

 

 それと同時に、魔法詠唱者(マジックキャスター)であるンフィーレアにも、ブレインが希望していたような魔法は存在してるのかの確認も忘れない…が、やはり予想通り、そんな魔法はなかった…さらにそんな魔法は多分ゴウン様くらいしか知らないだろうという結論も、エンリと同じであった。

 

「それじゃ~どうするんだい?エンリ…ゴウン様に、お願いするって形を取るつもりかい?」

 

 何気ない夫からの問いだが、やはり心に申し訳なさは残る…恩をまだほんの少しも返せているという実感もないのに、また頼ろうとしている自分がどうにも頼りなく思えてもどかしい…。

 

「それはまだわからない…だからルプスレギナさんが村に来たら、一応、この剣士さんの事情は知ってるはずだから、事後報告っていう形を取って、『そんな手段』がとれるのかどうか、聞こうと思ってる。」

 

 どこか浮かない表情の妻の気持ちが伝わったのか、ンフィーレアがエンリに代替案を提示してくれた。

 

「それなら…これからくるお客さんに、タイミングが合ったら聞いてみたら? たしかゴウン様と近しい人だったはずだよね?どういう感じの人なのかは教えてもらってないけど、エンリがもらったネックレスと同じペンダントトップを持っている人なら、きっとその人のはずなんじゃないかな?」

 

 ぱっと顔を上げて、エンリはンフィーレアを見る…、いつもではないが、時々、こういう自分でもどうしたらいいか…って心境の時に思いもよらない提案をしてくれることがある。

 こういう時は本当に頼りになる人だと思う、素直にそう感じた。

 

 

 カルネ村に於いて、<伝言(メッセージ)>を使える人員は1人として居ない。

 なので、メッセンジャーは、アインズから派遣されているルプスレギナ一人であるのだが、そのルプスレギナ本人も、毎日、それも定期的な時間にちゃんと見回りに来るわけではなく、気まぐれに来たい時に見回りに来る。というスタイルなのだ…なので、一度会う機会を逃すと、次にいつ来るかわからない。

 

 可能性としては、ウィザードの職も持ち合わせているンフィーレアが覚えられれば理想的なのだが、その当のンフィーレアも、詰まるところ、この世界の現地人である。

 必然的にその魔法の精度は「ノイズの激しいラジオ音声」のような大変伝わりにくいものとなる…となれば、尊敬し、敬愛する村の救世主、アインズ・ウール・ゴウン様に使うのに相応しいか?と言われれば頭を抱えてしまうだろうことは考えなくても予想が出来てしまう。

 

 だからこそ、エンリは、「ルプスレギナに報告して、伝えてもらう」という認識が第一に頭に浮かんでしまい、その発想以外を思い描けなくなっていたのだ。

 

 ンフィーレアの提案を採用するなら、もし、今日ルプスレギナさんがカルネ村に来なかったとしても、午前中に来るという話であった「ゴウン様と面識のある者」との関わりで橋渡し役になってもらえるかもしれない。

 …もしルプスレギナさんが同時に…でも、もしくは訪問者の方々が来るより前に彼女が見回りに来てくれるなり、そうなってくれるならルプスレギナさんに伝えればいいだけなのだ。

 

 どちらにしても、今日の内に伝えたいことが伝わるという安心感はある。

 

 

「うん、ありがとう! ンフィ…そうするね、その人たちが来る前にルプスレギナさんに会えたら、その時はルプスレギナさんに言えばいいんだしね。」

 

 そういう風に思えば、気持ちが軽くなった。

 

 うじうじと悩むのは性に合わない、妙にスッキリした気分で事に当たれるという心境になれたのは素直に嬉しい。

 

 

 そこでエンリは考える、まず朝食は終わった、ブレインさんという人との会話をしてる間、ゴブリンさん達が洗い物はしてくれた。

 

 さっきまで頭を悩ませていた懸念材料は、ンフィの提案によって、今は悩むほどのことはなくなった。

 

 さらにまだ昼までは時間がある。

 

 …となれば、最近出来なかった自分の所有している畑の手入れでも始めた方がいいだろうか?

 それとも村長として、見回っている方がこの村にとっては、いいことなのだろうか?

 

 これからの午前中の行動はどうしようと思っていると、偵察として外を見回ってくれていたゴブリンライダーの1人であるチョウスケがカルネ村の門を入り、エンリ達、村人たちのそばまで近づいて来て、偵察した上での報告をエンリに伝えてきた。

 

「姐さん、ご報告です、恐らくは、先日のお話でありました一団…が居るのではないかと思われる馬車を確認しました。 もうすぐでカルネ村が見える位置まで来るだろうと思われます。」

 

 エンリは思考を切り替える、来客が来ないのであれば先に済ませようかと思っていたことだが、じきに訪問者らがカルネ村に到着するというのなら、そのための出迎えをしなければならない。

 

「すみませんが、クレリックのコナーさんはネムを探してアルシェさんの下へと使いをお願いします、今見えてる馬車内の人たちが話しの通りなら、アルシェさんとは顔見知りのはずですから…。」

 

「はい、承知しました」

 クレリックのコナーがエンリの言葉に従い、ネムを探しにエンリ宅へと向かう、コナーも知っていることだが、もしそこに居なければ、親友のクーデリカ、ウレイリカの家に居るのだろう、そこに行けばいい。

 そう判断して、行動を開始する。

 

「リーダーのジュゲムさん、メイジのダイノさんは万が一、その訪問者が話通りの者たちでなかった場合に備えて、村周辺の葦の高い麦の穂にゴブリン兵士の皆さんを配置、警戒に当たらせてください。もちろんその中にアーチャーのシューリンガンさんにグーリンダイさんも同行してあげてください ジュゲムさんとダイノさんは門の内側にて待機…でお願いします。」

 その声に、周囲に居たエンリ親衛隊でもある、ゴブリントループの面々がそろって了承の声を出し、指示に従う。

 

「ゴブリンライダーのチョウスケさんと、キュウメイさんは引き続き、周辺の警戒、偵察の方に力を注いでください。」

 

「はい、わかりました。」

 ゴブリンライダーの2人は乗騎であるウルフにまたがると、颯爽と村の外へと駆け出し、偵察に向かう。

 

「どなたか、村民の方は、ブリタさんとラッチモンさんに連絡を、お客さんの出迎えをします、私のそばに居てもらうように伝えてあげてください。」

 

 先程まで村人がエンリの周りに集まり、昨夜の騒ぎの張本人である剣客についての話を聞いていたのだ。その面々の中から数名、駆け出し、1人は、自警団の詰め所、1人はブリタのよく行きそうな、村人も良く訓練の際に使用する射撃場、ラッチモンは自警団の責任者として、色々と村の中で飛び回っているはずだ、猟に出るという知らせは受けていないので、カルネ村から出ていないのは確定なので、その指示なのだ、それは当然、村民も心得ていて、探しに各方面に展開している。

 

「ボクも一緒にいなくて大丈夫かい?…エンリ。」

 心配そうにこちらを見ているンフィーレア、その気持ちだけで嬉しいので、ちゃんと彼の仕事もあると伝えておく。

 

「大丈夫よ、ンフィはもし、お客さんが『女だてらに村長だと?』って言いだすような人達だった場合、私の代わりに〝村長〟として振る舞ってもらうから、それまで待機してて?」

 

 普段はそこまでの来訪者は居ないが、時々、村の調査に来る「徴税官」としてくる一団の中に…とは言っても、貴族の流れとか…そういう血筋の者にはそういう認識の者も時折り混じっていることはあるのだ。

 その時は、「自分は対応するための副村長的な立場で…」と伝え、名目上の村長として、ンフィに村長の代役をお願いすることもあるのだ。

 

「それじゃ~、とりあえず、安全だとは思うけど…あ、ちょっとそこのオガ沢さん、オガ田さん、ンフィーのボディーガードお願いします、お礼に後でお昼にでも動物のお肉、あげますからね」

 

 遠くで、材木運びをしていたオーガ2体を呼び寄せ、そのよく通る声で指示を出す、カルネ村の亜人種で、新入りでもエンリの指示を軽く見る者は一体として居ない。

 代わりの報酬などなくても指示されれば、すでにおとなしく従ってくれるのだが、エンリの性格上、命令ではなく「お願い」という形なので、せめてお礼は…とつい思ってしまうのだ。

 

「ウガ…チイサイノノシュジン、オレラ…ガンバル。」

 

 すでにオーガの数も、以前までは一桁だったとは言え、前夜の騒ぎでカルネ村入りしたオーガのせいで二桁に突入してしまい順調に増えているのだ…最初に作ったオーガ小屋はもう手狭になりつつある。

 また新しく、2つ目のオーガ小屋でも作った方がいいのだろうか?

 そう思いつつも、それよりもまずは来客への対応だ、オーガ小屋の件は、また後日でもいい、今日考えるべきことでもないと思いなおし、エンリは門へと移動を始める。

 

「じゃ~、行ってくるね、ンフィー! もしもの時は、村長の代役お願いね?旦那様♪」

 

「あぁ、わかったよ、行っておいで? 気を付けるんだよ?」

 

「まっかせといて!」

 

 そう言って、袖をめくり肘から先を上に曲げる、俗に言う「力こぶを作るポーズ」をとっているエンリの筋肉が、男の自分より見栄えのいいものになっていることに苦笑をしながらも、妻の元気な笑顔を送り出すンフィーレアであった。

 

 




今回も、読んでいただきありがとうございます。

いやいや…長かったですねぇ~…帝国編…カルネ村の話なのに「帝国編」とはこれいかに?
っていう感じですが、まぁ、何はともあれ、今話での一日が終わり、翌日にもなればワーカーホイホイと化した「某墳墓」のご登場です。

 墳墓の中の表現やら、描写やらが、自分の表現力でうまく表せるかが甚だ疑問ではありますが、頑張ろうと思います。

 それはさておき、今のままのエルフさんらのレベルって、POPするアンデッド達にも苦戦するのではないだろうか?

 なんていう心配をしている自分…そこらへん、どうなんでしょうねぇ~…。
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