気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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改めてのお詫び…。

この話で…と、前回の前書きで言っていたことですが…約束を果たせませんでした。

次こそは…次こそは、ちゃんとカルネ村に到着する予定です。

某ドライアードの下りを入れるのに、ムリヤリ感を感じていた人が居たらすみません。

ちょっと思うところあって、本編に絡ませてみたくなっただけです。

 そして…また今回も、ベルリバーさんの犠牲になってしまう人が1人…。
 悪人ではなかったんだけど、無駄に逆鱗に触れてしまった哀れなお人…。


第31話 カルネ村行き、当日早朝。

 夜のとばりが次第に明るさを帯び始め、闇から光が覆い始めた頃、エルヤー姿でベッドに寝ていたベルリバーが、いそいそと支度を始める。

 

「ん~~、さすがに夜が明けて早々、馬車の業者が働き始めているとは思えないが…いや、馬の世話や、エサの用意とかを考えれば、ひょっとしたら、ひょっとするのか?」

 他のメンバーが起きないように囁くような独り言をつぶやきながら、みんなを見ると、3人娘は安らかな眠りの中…。

 そして、自らが作ったNPCは、ジャガー姿のまま、床に丸まって寝ているも、今のつぶやきに反応したのか、耳だけをピクピク動かし、しばらく見ていると、音がしないからか、立てられていた耳が力なくへたり込んでいく。

 

(多分、寝ながらでも警戒はしているということか…どこまでも忠実な…って、まぁそれがNPCたる所以なのかもな…。)

 

 そう思いながら、アイテムボックスの中に手を突っ込み、馬車を手配する際に必要かと思われるアイテムを探し出す。

 

 もちろん、エルヤーがしこたま貯めこんでいた帝国金貨が入った袋なども、このアイテムボックスに入っているので、金銭はそこから払うつもりだ。

 

 朝のうちに前払いで支払いを済ませるとして…、身分証代わりの物を提示する必要はあるだろう。

 予約を入れても、受け取りに来る者の証明ができないのでは、別の者が馬車を使ってしまう可能性も無くはないからな。

(自分は姿を消して、着いていくんだし…、手配を予約しにきた下男とでも…、いや、そうは思われないか…こいつのことはこの帝都ではそれなりに名前も顔も知れ渡っるってことだしな。)

 

 そう思いつつ取り出したのは、かつて、もう戻ることはないだろうと思いながらも、思い出として大切に保管しておこうとして、しまい込んだ指輪。

 

 「トラップ機構つき宝箱」という単純な名前のアイテムの中から、所定通りの手順でワナを解除、蓋を開き、中にあるたった一つの指輪を取り出す、今となってはその指輪をはめる資格を放棄したとは言え、今もあの輝かしい想い出は自分の中にある…会社勤めで、会計の手伝いをしていた時、あんなものをうっかり見つけたりしなければ、きっとサービス終了まで、みんなと一緒に居られたんだろうな…なんて一瞬、感慨深い感傷にとらわれながら、キャラ設定として作った指輪、魔法執行の指輪(リング・オブ・マジックキャスター)を外す。

 

 この指輪は、杖を持たず、素手の状態でなく、鎧や武器などを装備していても魔法詠唱の邪魔にならないという設定をより強くしようとして、キャラメイク用アイテムという意味を持たせた指輪…それをずっと身に着けていたのだ。

 

 実際は…たしか、プレアデスのガンマが、同じ職業を持っていたな、ウォーウイザード…だったはずだよな、あの子が持たされていたクラス。

 剣や防具を装備していても詠唱の邪魔をしないクラス、自分も一応、それを取得して、武装していても詠唱は出来るようにしてあった。

 

 

 とりあえず、自分もアインズさんのようにギルメンのみんなと同様、指輪を10本の指に装備できるように課金はしていたのだが、見た目からして成金趣味の空気ぷんぷんな「全部の指に指輪」という絵面はあまり好きではなかったため、こっちの世界に来てからは好みとして、片手に1個、両手で計2個と何となく決めている。

 

(効果の高い指輪関連はユグドラシルを辞める際、まとめてあげるか売るかしちゃったしな…今じゃ、どっちにしろ10個もないんだけどね。)

 

「まぁ…エルヤーの姿をしていて、魔法なんか使っちゃったら偽物としてバレちゃうかもしれないからな…。」

 

 部屋から出る前に、以前、このエルフの3人を助ける為に一度だけ使用した…、アイテムボックスの中にあった「メッセージボード」。

 

 それに念のためにと、エルフさんたちから習った帝国語と、そして日本語で書いた文章を書いていく。

 

 〝みんなが寝てるうちに馬車の手配に行ってきます。 すぐ戻るからそれまで寝てていいよ?〟

 

 と、帝国語で書いたものはボードの上段に、日本語は下段に書いた、恐らくフレイラは帝国語は読めないだろうしな…反対にエルフたちは日本語は読めないだろう。

 これで、どっちが先に読んでも大丈夫なはず。

 

 その「メッセージボード」を部屋のテーブルに置き、部屋の窓際へと歩みを進める。

 

 魔力系のみ有効な探知阻害の指輪と、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装着し、窓から外を見て、人通りがないこと、周囲に人の目がない事を確認する。

(ここはジエット氏の自宅なんだし、屋上に人目があるとは思えなかったし、いいんだけど一応確認はしておいて損はないからな)

 

 外に心配する要素はないことを確認して飛び降りる。

 

 飛び降りる瞬間に<浮遊(レビテート)>の魔法を唱え、地面から数十cm程の地点で、かすかな浮遊感を覚えた時に魔法の効果を解除、華麗に着地した風を装う。

 

 

 そうして、偽エルヤーとして、帝都の街並みを歩き、「まずはこんな朝早くでも人が居そうな場所って言えば、入口の詰め所にいる衛兵くらいだろうな…。」と判断して、衛兵の居る詰め所に行き、道を聞いて、目印の看板の絵柄を頼りに歩き始めた。

 

 

                     ☆☆☆

 

 

 偽エルヤーが幌付きの馬車、5~6人乗りの物を予約しているその頃、その者は、そこに現れた。

 

 

 その者は鬱蒼とした森の中に居た。

 

 遠くから見れば、樹の陰に隠れているため、あまり目立たないが、人型はしている。

 

 しかしながら、人とは言えないその存在は、樹の陰から、ずっと一点のみを見つめている。

 

 「やっぱり、あの時話しかければ良かったかな?…でもおっかない弓を使ってた人が居たからな…あんなので撃たれたら、燃えちゃうし…。」

 

 そう一人ごち、今日も、目の前にある館のような物の前…と言っても館が建っているのは樹々の切れ目から先、そこだけ故意的に樹々が伐採され、根が除去され、野営に最適となるように造られたような場所だった。

 

 そこだけ、ポッカリとくりぬかれたように更地のスペースとなっている。

 

 しかし、樹の陰に隠れている存在は、決してそこから出てこようとはしない。

 

 これでも、限界ギリギリまで本体から離れているのだ、これ以上は一歩でも足を踏み出そうとすると、本体からの繋がりが薄れ始めるのが感覚でわかる。

 

 もし本当に踏み出したら、どうなるか…考えただけでも恐ろしい。

 

「ホンの少し前まで森の樹々が枯れ始めてたのがウソのように他の樹たちも生き生きとし始めてるのは嬉しいけど…早く帰ってこないかな…この家の人…、今度は勇気を出して話しかけなくっちゃ! うん、そうだよ、やっと会えた自分以外で話しが出来る生物なんだから。」

 

 

 

 なぜこの人型のナニかが、こうして、ここに居るのかと言えばこの前、お日様がいくつか沈んでいく前、いつものように本体と一緒に、自らの身体の一部に止まる子鳥たちが…、そして小さい小柄な鳥たちなども優しくさえずり、いつものような落ち着いた時間を過ごしていた時のことだ。

 

 いきなり、鳥たちが何かに吸い寄せられるかのようにどこかに飛び去って行ったことに驚いて、つい、人型の姿の自分が、飛んで行った後を追う。

 

 すると、「その者たち」が居た。

 

 そこまで来たが、本体から離れすぎていたため、さすがにそれ以上は進めず、樹の陰からうかがう様子になったが、その者たちは、自分には気づいていないようで、鳥たちを変な魔法のような効果があるっぽい弓矢で、射っている。

 

 次々と、色々な鳥たちが犠牲になる中、一番心配していた小さな鳥や、子鳥たちは決して射られることはなかった。

 

 どうやらその者たちは、大きな鳥、そして数を競っているらしく、ある大鷲は矢が当たった瞬間、渦を巻く氷の粒に翼をボロボロにされ、墜ちていく。

 

 ある鷹は、飛んでいく矢先がいつの間にか、真っ赤に燃える石のようなものに変わり、それが直撃し、矢先の石が破裂した後、体を燃やしながら、地面に墜ちる。

 

 そして、ちょうど、そこを通りかかったのだろう渡り鳥の群れたちは、別の者の撃つ矢がキレイな光の線を描き飛んでいくと、それに当たった刹那、その矢を中心に球状の光が包み、光の範囲の中に居た渡り鳥たちは、まとめて地面に墜ちて行った。

 

 

 その様子をずっと見ていた…怖かったというのもある、あの燃えるような石が当たったりしたら、きっと自分など、すぐさま燃えてこのかりそめの命も燃え尽きてしまうだろうと思った。

 

 だから、声もかけられなかった、そして一通り鳥たちを仕留めた後、彼らは館の中に入ってしまった。

 

 小鳥たちも元の場所に戻り、周囲に落ち着きが戻ったと思ったその後、しばらく様子を見ていたら、弓も持たない新しいニンゲン?のような存在が、その館の中に入っていった。

 

 それからしばらくその館を見ていると、さっき入った者なのだろうけど、入った時と違う服を着た者が、1人で出て行った。

 

 さらに、気が付いたら外に出てきた様子もないのに館の中に居たはずの気配が全員で掻き消えている。

 

 どうやったのかはわからないが、それからずっとこの建物の中は無人のようだ…。

 

 その時からずっと、陽が沈めば本体の下に帰り、朝日が昇るとこうして、限界ギリギリまで近づいて、遠くから、「彼らが戻って来たか」の確認をする毎日だ。

 

「ちょっと話掛けるだけだよ…そうだよ、ちょっと声を掛けて、怖い感じだったら、すぐに逃げよう。 うん、それでいいじゃないか! ちょっとお話をしたいんだって言えば…わかってくれるかもしれないし…。」

 

 少し及び腰になりながらも、自分に言い聞かせるように消え入るような声を出し、徐々に自らを奮い立たせるような言葉を紡ぎ、決心が揺るがないようにする。

 

「そ…そうだよ、鳥を弓で射ってたのだって、子鳥や小柄な鳥には手を出してなかったじゃないか…きっと、無差別に…って訳じゃないよ…そうだよ…、話をすればきっと…聞いて…くれると思うんだけどなぁ…。」

 

 本日何度目かの独り言を呟きながら…、今日も、そこに帰ってこない館の主をひたすら待つことになる『樹の精霊』がその場に佇んでいた。

 

 

                     ☆☆☆

 

 

「はいよ、それじゃ~、その指輪の中にある『紋章の絵柄』と同じものを持った人たちが来たら、この馬車を都合してやればいいんだな?」

 

 そう答えた男は、馬車の管理をして居るという話で、その男に手配してもらう馬車についての話を付けに来ていた。

 

 初めは、こんな朝早くから…という顔をしていたが、「5~6人の幌付き馬車」という言葉と、「予約分として、設定された値段より多く払おう」という言葉に目を白黒させていた。

 

 それはそうだろう…ワーカーの中でも指折りの評価…(良くも悪くも…)のある天武のエルヤーが、そんな羽振りの良いセリフを言うなんて思っても居なかったからだろう。

 

 そこからは話が早かった。

 

 馬車の馬番にも話を済ませ、馬車の管理している者にも、同様に話を共有させる。

 

 もちろんチップの方も、馬番の男と、馬車の管理者に渡しておいた。

 

 偽エルヤーからすれば、本家エルヤーが貯めてくれたもので自分が貯めたものじゃないという理由からだ。

 なので、ある程度は羽振りをよくしても懐は痛まないという認識であるせいもある。

 

 すぐさま、「予約済み」と、帝国語で書かれた羊皮紙が、馬車の方に貼られた。

 

 それを確認した偽エルヤーが、「それじゃ~、くれぐれも頼みましたよ? 違う誰かに勝手にその馬車を使わせたら、私がどんな手段をとるか…わかりますね? これだけ私が多額の資金を渡した意味も…、それを無意味にしたら…どういう目に合うか…覚えておいてくださいね?」

 

 と、久々のエルヤーロールだ。

 

 この芝居も、最大の見せ場となるのは、多分墳墓調査に入る直前、ワーカーたちが集まる場での顔合わせの時だろう。

 

 墳墓に入るまでは前金を受け取るという名目がある手前、もらえないと、墳墓の中に入る資格を失うという危険だってある。そのため、中に入るまでは「天武」でいなければならないのだ…。

 

 業者の者達に睨みをきかせると、怯えたような表情になり、こう答えてきた。

 

「ま、任せてくださいよ! これでも仕事柄、貴族の方の家にも手配されることはあるんです! 紋章の絵柄を間違えて違う派閥の有力者のとこになんて行ったら、店ごと失う可能性もありますからね、一度見たら間違えたりしません。」

 

 という頼もしい言葉を聞き、安心するも…

 

「そうですか…それなら大丈夫ですね…それから…、この依頼が無事に済んで、御者もそろって帰ってきた場合、この紋章のことは忘れてください、外部にも一切漏らさないように…頼みましたよ?」

 

「は…はい、わかりました!」

 

 

 そこまで念を押しておけば、魔法でも使われて尋問でもされない限りは大丈夫だろう。と考え、話を切って店を出ていく。

 

 魔法を使われて、深い事情まで到達する者が居るとしたら、それはそれで、有能な人間として見てもいいが…協力できそうな人格ではなく、始末した方がいい人間であれば…、その時は遠慮なく…アインズさんに報告して、どっちが手を下すか相談してみよう。

 

 なんて、物騒なことも考えながら、帝都を歩き…「早朝の清々しい空気」というものを人生で初めて経験した男、かつて「鈴川」と名乗っていた男が生活していた世界では失われた情景、環境で、大気汚染されていない空気の味を肺いっぱいに吸えるという贅沢を、全身で感じていた。

 

(あぁ、そうか…そういえばアインズさんって飲食できないってことは味を確かめることも出来ないんだよな…という事はこういう「空気の味」と言うのがあることも知らないんだろう…それも一緒に感じて、その感動を分かち合えるようになりたいな…。)

 

 そんな朝の空気で、上機嫌な偽エルヤーの前に、台無しな光景が展開されていた。

 

「お前ら、私を誰だと思っている! 貴族であるフルト家の主と、その妻なのだぞ? その私を…こら、押すな…どこに連れて行く気だ!」

「どこがだよ?『元』ってつけるの忘れてるんじゃねぇか? 没落したアンタにゃ、もう何の力もねぇってこと、まだわかってないみたいだな?」

 

 わめき散らす中年はとうに過ぎているだろう男と女が、後ろ手にされたり、羽交い絞めにされたりなどされながら、朝の爽やかな気分を台無しにしてくれている。

 

「まったく…夜逃げなんてしようとするから、連れて帰って来るのがこんな時間になったんじゃねぇか…こっちだって眠いんだ、さっさとしろや。」

 

(まったく…なんでこう…出歩くとやっかいごとに巻き込まれるかなぁ~…)

 

 時間も時間のため、周囲の店もまだ開いておらず、開店準備にすら入っていないため、まだ、家の中の住人もみな大体はまだ寝ているだろう時間帯、そんな中、歩いている自分という存在は、イヤでも目立つだろう、少し離れた場所から見ているだけだが…、向こうからもこちらに気が付かれてしまった。

 

「おい! なんだ? 見世物じゃねぇんだぞ? とっとと…って、旦那じゃねぇか? こんな朝から何してんだ?」

 

「なんですか?あなた方は…私はあなた方のような後ろ暗い人間に知り合いなどいないはずですがね?」

 

 言い終わってから「しまった!」と思うも、言ってしまったものは仕方ない、とりあえず、言い終わった後に「ニヤ」っとした表情を浮かべてみる。

 

(ギルドの誰だったかな、そんなことを言ってたな…「男だったら、苦しい時こそ、ニヤっと笑え。」だったか…、それとも「ピンチの時こそニヤッと笑っとけ、それだけでも相手は勝手に深読みしてくれる」だったかな…、そんなことを言っていた気がする…ユグドラシルでは、ポップアイコンを浮かべるだけで表情は変えられなかったんだけどな…。)

 

「あぁ…そうだな、俺たちはそういう関わりで居ようって話だったもんな、すまねぇ旦那。つい口が滑っちまった…、オイ!オメェらも見習っとけよ?これが本当のクールな対応ってやつだ。」

 

(あぁ…よかった、なんとかなったみたいだな…こいつらがどんなやつらで、エルヤーとどんな関係だったかは知らないが…とりあえず失言とはとられなかったようだ…。)

 

「ところで、珍しいじゃねぇかよ旦那、いつもの腰巾着ども…あ、いや悪い、ただの肉壁だったっけか?そいつらは連れてねぇのか?」

 

(あいつは…本当にそんなことを本人達の居る前で堂々と言ってのけてたのかよ…それじゃ~失望して、「どうせ遅かれ早かれ死ぬ身なんだ」って思って死んだような目にもなるよな…)

 

 出会った時の彼女たちの瞳を思い出し、エルヤーという人間性はやはり、相容れないものだと認識を新たにする。

 

「いつまでもくっつかれてるとこちらも気が滅入ることもあるのですよ、あいつらは疲れて眠っています…それにこの帝都内で命の危険にさらされるような場面はそうそう起きないでしょう…こんな早朝ならなおさらでしょう? それに私がそんな状況に陥るとでも?」

 

「へっへっへ…そりゃ~そうでしょうな…あのエルヤーウズルスさんですからね…そうですか…そんな疲れて起きられないくらいに昨夜はお楽しみだったと…いやいや、いつもながらほれぼれするってもんですわ、その姿勢には。」

 

(何言ってるんだ?こいつ…?)

 

「さて、なんのことだか、わかりませんね…どなたかと勘違いしているのでは?」

 

 言いながら、内心の心情が表情に出てしまったようだ…しかめられた顔を向けられた男たちは少し距離をとっているが、目の前で会話している顔見知りであろう者は、怯まずに会話を続ける。

 

 

「や…すまねぇ、そういう探られるような物言いは好きじゃなかったよな、旦那は…オイ、オメェら!ボサッとしてねぇで、そいつを連れていけ! こっちはこっちで見られたことについての対処はしておくからよ」

 

 そいつがそう言うと、周りの手下らしき者たちは「ヘイ、兄貴!」と言ってその場を離れ、つかまってる男女は、ずるずると連行されていく。

 

「あの迷惑な怒鳴り声はなんですか…せっかくの気分が台無しですよ…なにかもめごとですか?」

 

「いやいや、旦那の手を借りる程のこっちゃありませんって、ただでさえ、旦那の故郷、スレイン法国さんには普段から儲けさせてもらってますからね。」

 

「……今、なんて言いました? もう一度言ってくれませんかね?」

(今、たしかにスレイン法国って言ったよな、聞き間違えじゃなかったはずだ…)

 

「あ…済まねぇ!! 旦那にゃ、その話は禁句だっての忘れてた、もう言わねぇから…命ばかりは…」

 

(どうやら聞き間違えじゃないようだな…スレイン法国…人間以外をどこまで虐げれば気が済むって言うんだ…)

 

「かまいませんよ…私とあなたの仲じゃないですか、命なんてとりません…ですが、やつらに儲けさせてもらってるとは? そこの所がどうも聞き流せなくってね…」

 

「あぁ、その話は旦那にゃ、お耳に入れるなって言われてたんで、うっかり口走っちまいましたが…内緒にしといてくださいよ? じゃないとこっちの首が飛んじまうってもんで…」

 

「えぇ…大丈夫ですよ、あいつらの弱みになることなら、こっちにとっても好都合です…誰かに知られずにいた方が何かあった時、交渉もしやすいでしょうからね。」

 

「相変わらずですねぇ、旦那は…、まぁ実際のところ、いまだにエルフ国と、スレイン法国との戦争が続いてくれてるおかげで、おこぼれのエルフ奴隷が尽きることなくこっちに流されてくるもんでね…、それを買ってくれる者は必ず居ますから…、こっちも遠慮なく値を付けられるって寸法で…。」

 

「そういうことでしたか…、まぁ、私が腹を立てる程のこともない内容でしたね。」

(エルフの国か…、彼女たちの故郷なら、なんとかできないかな…?)

 

「まぁ、戦争なら、どの国でもどこかしらで起こってますからね、王国と帝国、聖王国と亜人種達、竜王国とビーストマン、法国とエルフの王国。みんな似たようなもんですが…、一番深刻なのは竜王国ですかね、あそこはスレイン法国の支援がなかったら、いつビーストマンに国民全員が食い尽くされても不思議じゃねぇ…最近は、なんか、とにかくバカでけぇ樹木みてぇなバケモンを法国の連中が連れて来て、ビーストマンを薙ぎ払ってるらしいから、しばらくは大丈夫だとは思いますがね…。」

 

「噂じゃ、そのバケモン、樹木みてぇなナリしてるのにビーストマンを喰ってるらしいですぜ?」

 

(優先順位としては、エルフの国を何とかできないかな…って思うけど、深刻さでは「竜王国」…か、そこらへんはアインズさんを焚きつけて、救世主にさせてあげれば、竜王国も手に入っちゃったりして…って、そこまで単純じゃないか…さすがにそう上手くはいかないだろうな…。)

 

「そういうことでしたか…、まぁ、こちらもエルフの件に関しては恩恵に預かっている部分はありますからね、敢えて藪をつついてドラゴンを出すこともないでしょう…。」

 

「ところで…スレイン法国がエルフの王国と戦ってるのは…そもそも、何が原因でどこらへんが解決すれば、戦争自体終わるんでしょうか…?」

 

「あれ?それ、旦那が私に教えてくれたじゃないですか、エルフの国がちょっかいかけて攻め入って来たから、初めは自国を守るための戦いだったんだって…」

 

(あ…やばいか…さすがにこの質問で地雷になったかも…)

 

「いや…それは承知の上ですよ、もっと深い問題です、なぜエルフの国の王はスレイン法国にケンカを売ったのか…、何を満足させれば…いや、なにが欲しくてスレイン法国にケンカを売ったのか…」

 

「まぁ…そりゃ~…前に旦那が言っていた仮説、あれがかなり近いんじゃないか?って思いますよ?」

 

「なんでしたっけ?」

 

「ほら~、言ってたじゃないですか、まだスレイン法国とエルフの王国が戦争をしてなかった時、エルフ王が、スレイン法国の巫女姫をさらって、子供を孕ませちまったって…その子供が実はとんでもねぇ強さを持って生まれたってことで、国宝として扱おうとしたところに、スレイン法国の特殊部隊の中でも指折りの実力者が、『巫女姫の子供なら我々の子供も同然』って言って、攫い返したんだって…、多分、きっかけはそこいら辺じゃないですか? どっちが所有権を持つか…そこが始まりで…今は何を争ってるかまでは知りませんが…。」

 

 

「…私もずいぶんと口が軽いものですね…そんな国の内情まで、国外の人間に触れまわっていたとは…」

 

「イヤ、それはこっちがムリ言って聞かせてもらったんだし、口が軽いってことでもないでしょ?エルフ1人を半額にする代わりに…って条件でやっと聞き出せた情報でしたからね。」

 

(そうか…金を値切るためなら、国の事情も簡単に漏らすようなやつだったか…)

 

「他にも武技のことも聞かせてもらいましたしね、その時は2人目のエルフを3分の1の値段にするって約束をした時でしたか…特に、あの≪流転三斬≫って武技のことを聞いたときは震えましたね。」

 

(ん? なんだそれ?聞いたことないぞ?)

 

「はぁ…何もこんな所で…、その話は誰にも言ってないでしょうね?」

 

 気を良くしたのか目の前の男の口がどんどん滑りが良くなっていく。

 

「もちろんですよ、エルヤーさん自身も、他の人の目がある時は絶対に使わないって言う、秘中の秘って言ってた武技ですからね。」

 

(ますます心当たりがない…どんな武技なんだ?)

 

「まぁ、今度、自分、本でも出そうかと思ってるくらいですよ、その名も「武技大辞典」…ね?いい名前だと思いません?」

 

「まさか、私の武技も全て載せるつもりじゃないですよね?」

 

「まさか…、でも、原本になってるこの日記に書いてある項目の武技は一通り乗せるつもりですよ…闘技場に通って、あらゆる国の御前試合とかにも顔出して、色んなやつの武技の名前と、おおまかな効果も書いてあるヤツは書かせてもらうつもりですけどね。」

 

(…今、持ち歩いてるのか…その日記。)

 

「よかったら、見せてもらえますか?」

 

「えぇ、イイですよ? エルヤーさんにも協力してもらったおかげもありますしね。」

 

「じゃ~見せてもらいます。」

 

(すごいな…攻撃手段に、防御の武技、身体向上系の武技に、その他? それから耐性向上の武技に、弱点看破系?…あ、ちゃっかり、巻末に≪流転三斬≫の説明もある…なるほど…そういう技なのか…勉強になった。)

 

「すごいですね…よくこれだけの武技を調べ上げたものです…素直に驚きましたよ…。」

 

「いや~、それほどでもないですよ」

 

(しかしまずいな…これを一般に書籍にして販売されるとなると…どういう武技を持っているかさえ知られてしまえば、どんな武技にも対策されてしまう恐れもある…これは…危険だな。)

 

「よかったらコレ…売ってもらえませんか? もちろんお代は色を付けせてもらいますよ?」

 

(断られたら、断られた時で…それなりの対応は必要かな…)

 

「あぁ、いいですよ? その本の内容は全部暗記してますし、頭の中に入ってますから、一日もあればまた同じの書けますからね」

 

(ダメだ…、こりゃ…やりたくないけど、口を封じる手段に出るしかないか…)

 

「ありがとう…ところで、これからどちらに行かれる予定です?」

 

「あ、それなら、これからさっきのヤツを奴隷市場で、どの強制労働の責任者に買い取らせるかの商談なので…、いつもの奴隷売買場に行きますよ。」

 

「そうですか…それなら少し待っててもらえますか? 今…人を呼んでお金を持ってこさせます。」

 

「あ、旦那、すまねぇな…旦那がまさかその本の読者一号だなんて光栄ってもんだ。」

 

 そう言うと偽エルヤーはこめかみに指を当て、申し訳ないと思いつつも、<伝言(メッセージ)>を発動させる。

 

「すまないな…フレイ…寝ているところ悪いが、少しこれから出て来られるか?」

 

「は…はい、マスター…今そちらに参りますが…どの形態がよろしいでしょう?」

 

「あぁ、人の姿でかまわない…それからヤシチの時の装備で来てくれ…ちょっとやってもらいたいことがある。」

 

「は…ではそのように…すぐ、そちらに参ります。 気配のある方に向かいますのでしばしお待ちを…。」

 

 その返事がされた後、すぐに回線が途切れてしまう、恐らく急いでこちらに向かっていることだろう…、さて、それでは金の準備でもするか…。

 懐に手を入れ、アイテムボックスの中から、貨幣を入れる小袋を取り出し…本の金額ならこのくらいか?…と適当に金貨10枚を袋に入れる。

 

「マスター…フレイラ、御前に参上致しました。」

 

 と、声はすれども姿は見えない…どうやら<透明化(インビジビリティ)>で、透明になってくれてるらしい。

 気が利いてる子だ。

 

「フレイ…かまわないから姿を現していいぞ? どうせこの時間、当事者以外は誰も見ていないだろう。 話しながら、人目のない裏路地に移動済みだしな。」

 

「は…それでは失礼して…」

 

 という声が聞こえると、しばらくして、裏路地の入口からフレイラの姿があらわれる・・・。

 

(不自然じゃないようにわざわざ曲がり角まで移動してくれてたのか…、色々考えてくれてるな…。)

 

「エルヤー様、仰せの通り、呼びかけに応じ、来させてもらいました。」

 

「あぁ、わざわざすまないな…、ありがとう…。」

(悪いが、フレイ、あの男の姿をシェイドスピリットに真似させろ、そして、制限時間が切れるまで、これからその男がしようとしていたことを代行するのだ。)

 

 そう言って、会話をしていた男の目の前に自分の背中を見せ、フレイラとの視界をふさぎ、さも金貨の袋を受け取りましたよ?という風を装い、それを持ったまま、男に近寄る。

 

「それじゃ、これが約束の代金だ…大事に使わせてもらうよ…。」

 

 という言葉と共に手の平の上に金貨が入った袋を渡す。

 

「おぉ…すまねぇな、旦那、こんなに…本一冊で10金貨なんて思わなかったよ。 それじゃ、オレはこれからやることがあるから…」

 

 すると、男は偽エルヤーに顔を寄せ、こそこそと小声で語り掛けてくる。

 

「旦那もすみにおけねぇな、エルフが3人も居るのに、今度は黒髪のローブ纏った女性かい?見た感じエルフよりいい体つきしてそうじゃねぇか?いくらだったんだい?」

 

 エルヤーの姿をとったままでも、中身はベルリバーだ…その一言で、彼の中にあった良心の呵責は吹き飛んでいく。

 己が情熱を注いで造り上げ、ようやく動かせ、こうして夢のような毎日を過ごせるようになったというのに、この男はそんな下世話な目で、我が娘を見ている…、そう思うと、遠慮するつもりはなくなっていた。

 

「まぁ、その話は、また次にドレイを用立ててもらう時にでも話して聞かせますよ…」

 

「そうですか?なら楽しみにしてますよ、旦那。」

 

 そう言って、男は踵を返して表通りの方に駆けだそうとする。

 

 その瞬間、あらかじめ金貨の袋を渡すより前に<認識阻害>を周囲にかけているため、心配の必要がないことを知っているベルリバーが、本来の姿になる。

 

 その畏怖すべき姿は、エルヤーに背を向け、駆けだそうとしていた男には見えていない。

 

 後ろで展開されているそんな光景には全く気が付いてない男を背後から一呑みにする…。

 

「腹の中にある男と、所持品か…この小袋は吐き出しておくか…。」

 

 そう言って、飲み込んだ男が持っていた、自分が渡したばかりの所持金を取り返す。

 

「…別にこんなのはデータとしてもいらないが…『捕獲』…。」

 

 所持金を取り返してから、その男を捕獲して、身の内で捕縛状態にしてやる…ナザリックのみんなからすれば、こんなの優しい方だろうな…。

 

「じゃ~フレイ、この男の姿に変わったシェイドスピリットを制限時間一杯まで、この男がこれから予定していた行動の通りにさせるのだ。」

 

「は…了解しました。」

 

 そうして、一人の男が、現時点で一般に知られている全ての武技を記した日記という功績だけを残し、この世から掻き消えた。

 

 

 そうして、寝起きのはずなのに、キチンと身だしなみの整っている我が娘を連れて、朝の散歩としゃれこみ、フレイラは自らの主人との初めてのデートに内心ウキウキしてゆっくりとジエットの家まで歩いていた。

 

 しばらく歩き、ジエットの家にまで到着してしまった二人は、エルフの3人を<警報(アラーム)>の効果で起こしてしまわぬよう…ベルリバーの魔法で<上位転移(グレーター・テレポーテーション)>を使い、フレイラを優しく抱きかかえた偽エルヤー姿の主人と共に、何ごともなかったかのように部屋に戻ったのだった。

 

 




※捏造設定、シェイドスピリットは、シャドーデーモンの半分のレベル、なので、それ自体は超弱いが、目の前の敵の姿を真似る事により、その相手のレベルと同じになる。
 更に全ての能力(ステータス)は姿を真似する相手の数値から2割減少。
 覚えてる全ての魔法、スキル、技はオリジナルが10割として、8割の威力で使用することが出来る。

 異世界に来た今では、真似をした相手の記憶も、全人生の中で新しい物から順番に8割まで記憶しておくことが出来る。

HP、MPなども姿を真似た相手に応じたものとなる…しかし、純粋に本来の姿より真似をする相手の方が数値的に弱くなるようであれば、本来のステータスより弱くはならない。

 …ということになってます。

 自分も、武技大辞典…欲しいです。

 ちなみにお部屋に戻ったベルリバーさんは、さっそく「メッセージボード」は回収して、書いた文章は消しちゃってます。
 恐らくは見たのはフレイラだけでしょう。
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