気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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やっとカルネ村に到着することとなるフォーサイトの一行。

実はもう少し、長く書きたいとも思っていましたし、せめてお昼くらいまでは…とも思っていましたが…。

お昼に起きる出来事も書いていたら、どれほど長くなるかが読めないので、一度、区切りを入れました。

 次話になってフォーサイトがやっと4名揃ってカルネ村入りを果たします。

 しかし、本人の意図していないところで急転直下、カルネ村前でどん底状態で放置される1人の男の子。

さてさて、そのあと、どうなるんでしょうね?


第32話 カルネ村行き、当日AM

 朝から幌付きの馬車に揺られ、あまり舗装も行き届いていない道を進む一行、フォーサイトの内、3名と、案内役のジエット、そして、フレイラ…というメンバー構成で一路、カルネ村までの道のりを進んでいる。

 

 ベルリバーは、<捕食>の内、『消化』の効果によってエルヤーの姿に身を変えているが、魔法で『透明化』を使い、さらには<擬態Ⅱ>の効果を使って、体温や匂いでも(魔法以外では)感知されないよう気を使いながら<飛行(フライ)>の魔法で、馬車の少し上を飛んでいる。

 

 透明になり、景色にも溶け込んでいるため、まずバレないだろうが、声など出せば<不可知化(アンノウアブル)>までは使っていないのでバレバレになってしまうだろう、変に声を出すようなことは控えている。

 

 声を出す時は一行から少し離れた場所で、イミーナさんでも聞こえない距離まで離れてから<伝言(メッセージ)>を使うか、フレイラの耳元で囁く程度にした方がいいだろう。と彼女と話して、そう決めていた。

 

 さて、その当のフレイラはと言えば、フォーサイトの面々には自己紹介は済んでいる。

 

 元々、ジエットが<伝言(メッセージ)>を「ベルリバー」から受け取っての会話であったため、相手が誰だかはフォーサイトにもわからなかったという点も手伝い、彼らのすぐそばで公然と通話していたわけじゃないので『女装』というキーワードはフォーサイトの彼らに聞かれていない。

 

 そのため、「ヤシチ」という名称は、あくまでも正体にたどり着かれない為に必要だった『偽名』ということで話は終わらせている。

 

 同じ馬車で移動中の今となってはすでに「フレイラ」という名前であるということは伝えてある。

 そして、馬車に乗り込む前、フレイラが自己紹介をしている隙にジエットにも(透明になった状態のまま)ベルリバーは耳元で彼に事情を説明し終えていた。

(もちろん、その際に前夜に依頼していた香辛料の方は、袋詰めにされてベルリバーに渡っている。)

 

「それにしても、ずいぶんとこの馬、移動が速いんじゃないかしら…こんなに早くして、バテたりしない?」

 

 そう幌の中から、馬を扱う御者に告げているのはフォーサイトの(現時点では)紅一点のイミーナだ。

 

「いや…なんでかわからないんですがね?妙に今日は馬が張り切ってるみたいで、調子がいいんですわ、信じられないくらいのペースで走ってくれてますよ。」

 

「あ、そうなの?…まぁ、ムリの必要はないからね、馬に途中でバテられても困るから…、ほどほどでいいよ?」

 

「ありがとうございます…ですが、はりきってるのに、速度を緩めさせたりしたら、馬たちの負担になる場合もあるんです。 今日は調子いいみたいだし、お客さんラッキーってやつですよ」

 

「それに、幌の前から通りすぎる風が涼しいでしょうし、換気にもなっていいんじゃないですか?」

 

「まぁ、それは否定しないわ、馬の快調ぶりに感謝ね?」

 

(そりゃそうだ…みんながフレイラと話し込んでる間に、透明化と<擬態Ⅱ>を併用した状態で2頭の馬の間に立って、左右の手をそれぞれの馬に乗せて<早足(クイック・マーチ)>と<軽加速(スライト・ヘイスト)>を掛けてあるんだ、早くならない方がおかしいってもんだよ…。)

 

「この状態が続くんであれば、お天道さまが上天に上がるよりずっと前にその村についちまうんじゃないかな?」

 

「あぁ、それなら「マ」の時刻より前に着いちゃうんじゃない? それならいいかもね。」

 

 さらりと初めて聞く単語にフレイラが疑問の声を発する…それと同時に<風のささやき(ウィンド・ヴォイス)>をベルリバーに唱えているため、ベルリバー自身にもフレイラの周辺5mの範囲の声、そして音も即座に拾えている、その為、今聞いた単語が気になった。

 

(「魔の時刻」…か、どんな謂れがあって、そんな名前がついたのか気になるな…魔族の活動が活発にでもなるか…、それとも悪魔の属性の者はその時間だけ強化状態にでもなるのか…?)

 

 ベルリバーが様々な可能性について考えている内にもフレイラ側の話は進んでいく…、なので「今は確定されてない情報に意識を奪われてる時じゃない」と考えを切り替え、こちらの世界での時間の表し方を知れるいい機会かも…という思いも生まれたので、フレイラの言葉はちょうどいいタイミングであった。

 

「あの…その「マ」の時刻とは?」

 

「あれ? フレイラさんは知らない? 帝国じゃ、もうかなり前から浸透してる時間の言い方よ?」

 

「え…そうなんですか、すみません、海の向こうからこちらに渡ってきてまだ間もないもので…。」

 

 海の向こうという部分は明らかにウソであるが、この際、手っ取り早く常識が分からないということに対しての言い訳に使うようにと指示に出していたため、フレイラはベルリバーの指示に忠実に従っているのみなのだ。

 

「それならしょうがないかな? あれも俺らだって、初めて教えてもらう時は「そういうものだ」って理解するまでは意味が分かんなかったしな。」

 

 ヘッケランが、時間というものの複雑さと覚えることの難しさを前置きとして教えてくれる、とりあえず、心の準備は必要なようだ。

 

 そして、それを引き継ぎ、注釈を入れてくれるロバ―デイクの言葉が続く。

 

「そうですね、帝国の市場で出されているマジックアイテムの中には、かつて「口だけ賢者」と言われた、ミノタウロスの賢者が広めたマジックアイテムの流れを汲み、それを上手く活用して、効率よく使えるように苦心してる人の作品も多くあります、『トケイ』と言われるそれもその中の一つですよ。」

 

(時計? …そうか、となると…時刻は…時代劇とかでも使われていた「刻」とか言われていたモノでも使われてそうだな…、「フレイラ、もう少し詳しく聞いてみてくれないか?」)

 

「あの…その時間というのはどういう風に分けられているんですか?」

 

「えぇ、それはですね…陽が昇って、周囲に朝の気配が漂い始めると、そのトケイというアイテムが、周囲に満ち始める朝の魔素(マナ)を感じ取り、動き始めます、その時点で「ウ」の時間と表示されます、時間には『ジョ』と『チュウ』。そして『ゲ』というのがあり、動き始めた時点が『ウのチュウ』ということですね。」

 

「『ウ』?」

 

「あぁ、それが俺らも未だにその規則性がよくわかってないんだが、そのトケイにそう表示されるんだから、そういう物だって受け入れるしかなかったって感じだな、今では抵抗なく覚えられてるよ。」

 

 ウ、という一文字に疑問を感じたフレイラに「気持ちはわかる」とばかりに気を使ってくれているヘッケランの言葉を聞きながら、耳を傾けているフレイラが続きの説明を待っている。

 

「我々にも、何が始まりの文字かはわからないので、トケイが動き始める『ウ』から始めさせてもらいますが…。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「ウ、ツ、ミ、マ、ジ、ル、リ、ヌ、イ、ネ、シ、ラ」の12の文字が当てられ、時間の表記が変わると、「ウのチュウ」から「ウのゲ」という表記になり、ゲの時間が過ぎると「ツのジョ」という時間が始まります。 ちなみに「マのチュウ」という時間はちょうど、空のお陽さまが上天に位置する時間の事ですね。」

 

 そこまで聞いていたジエットもその言葉に頷くようにして同意の言葉を間に入れてきた。

 

「そうですね…だいたい、「マ」の時間が始まると昼の用意に家の中があわただしくなるのが普通でしたね。」

 

 ジエットさんもどうやら帝国の中での生活で、その感覚は浸透しているらしい、ならば少なくともフォーサイトの彼らでさえ物心つく前からその「トケイ」というものはあったようだ。

 

 さらに、その会話をなんとなく聞こえていたのだろう御者からも馬を操りながら、声が掛けられる。

 

「今となっちゃ、どの家も店も、その「トケイ」に頼らなくっちゃ、仕事の都合合わせも難しくなっちまってるからね、置いてない場所の方が珍しいんじゃないかな?」

 

(「ちょっと悪いが、フレイラ…そのトケイという物の時間の言い方は、帝国以外でも通用するのか聞いてもらっていいか?」)

 

「あ、ハイ…、すみませんが、その時間の言い方というものは帝国以外でも通じるものなのでしょうか?」

 

「え? さぁ…私たちは今まで帝国から外の国にまで出てったことはないし…どう思う?ヘッケラン…。」

 

「そうだな、俺らはみんな帝国を拠点にしてその領内でワーカーしてたからな…多分それはロバーも同じだろうが…、ねぇおっちゃん!、おっちゃんなら帝国以外にも行ったことあるんじゃねぇの?」

 

「あ? そうだな…どうだろうな、さすがに法国にまで足を延ばしたことはないが、少なくとも王国じゃ、無かったんじゃないかな? あそこは魔法やらマジックアイテムやらはあまり力を入れてないというか…どちらかと言えば軽視するお国柄だからな…。 王国領の「エ・ランテル」の魔術師組合だって、ある意味あそこじゃなきゃ組合として成立してなかっただろうし…。」

 

「そうですか…、ということは帝国の方が色々な面で生活するのに、便利なことは多そうですね。」

 

 フレイラがそう言うと、イミーナがそれに対して、1つだけ不便な点を挙げる。

 

「でも、帝国じゃ、王国と違って「職業軍人」さんがいるからね…、組合にわざわざ依頼して仲介料まで取られたりなんなりしてまで冒険者をやりたいって人は少ないのが難点と言えば難点かもね…冒険者の出番の前に軍人さんで用が足りちゃうし…まぁその分、ワーカーの出番が多いけど…よく選ばないと、ならずもの上がりの人間も多いからさ、帝国じゃ冒険者の実力は育たないし、かと言って変なワーカーに依頼でもしようとしたら、身ぐるみはがされるってことも珍しい事じゃないからね、そこらへん注意した方がいいかもよ?」

 

 フレイラがイミーナの方に向き、好意的な笑みを向ける、その笑顔は今まで接してきた中で一番、吸い込まれそうな笑顔であった。

 

「ありがとうございます、イミーナさん…心配してもらって嬉しいですが、私にはその心配は必要ないかと…」

 

「お? ずいぶんな自信みたいだが…それだけ強いって意味かな?」

 

 おどけるようにヘッケランがフレイラにその言葉の真意を問いただす意図を込めた発言を向けるが

 

「いいえ? 私にはもうフォーサイトの皆さんという信頼できる知己が得られましたので、わざわざ他のワーカーを探す必要はないからです。」

 

「お、そりゃ嬉しいね、ワーカーなんてどうしようもない連中しか居ない!なんてひとくくりにされることも多いからな?ロバーもそう思うだろ?」

 

「そうですね…私みたいな動機はワーカーとしてはむしろ異例でしょうし…普通のワーカーからしたら明らかに胡散臭い目で見られることは想像に難くないでしょう。」

 

「あの…ロバ―デイクさんはどのような理由でワーカーに?」

 

「笑わないでくださいね? 大変青臭い…世の中のことなど分かっていない…現実から目を背けている理想論者だとよく言われます。」

 

「オレらは、そういうロバーだからこそ、一緒に居てイザという時も、背中を任せて最後まで踏ん張れるんだけどな。」

 

「茶化さないでもらえますか?ヘッケラン、私は本気なのですから…。」

 

「知ってるさ、それをずっとお前が夢にしていた生き様で、「叶うはずがないだろう」とみんなに言われても、それを曲げずに突き進もうとする姿に俺たちは共感することが出来た、だからこそ、こうして一緒にパーティを組んで、窮地の場に陥っても踏ん張れるんだろ?」

 

「あなたはいつから、そんな恥ずかしいセリフを照れもせずに言えるようになったんですか?ヘッケラン。」

 

「まぁ、いいじゃねぇか、フレイラのお嬢さんにも教えてあげなって。」

 

「私がワーカーになった理由は、簡単です…誰の指図も受けず、どんな権力の圧力にも屈せず、利益の多寡に関わらず、せめて自分の目に映る場所にいる…誰からも助けが得られない者たちに救いの手を差し伸べられる…そんな風になりたかったからです…ギルドや神殿に管理されて、通りすがりの死にそうな目に遇っていても、富を持ってないが為に、神殿の利益にもギルドの収益の役にも立たないからと…見捨てることを強要するような組織に縛られたくはなかったのです、だから、神殿に何も言わせないため、言われる筋合いはないと好きに救いを施せるようになるため、ワーカーになりました。」

 

 フレイラはしばらく無言でその言葉を噛みしめるように自らの中でかみ砕いていくと、ロバ―デイクに正直な感想を返す。

 

「そのお心は大変すばらしいと思います!私はその精神に大変近しい方を知っています。…その生涯を理想の為に費やし、最後までそれを貫いていた方を…。 残念ながら、直接お声を交わしたことはありませんが…、その高貴なまでの精神は今でも私の中で『伝説の勇者』のように刻み込まれています。 ロバ―デイクさんもその方に近しいお志をお持ちなのですね。」

 

「え?そのような人が私以外にも? どのような方だったのですか?」

 

「その方は…、例え見ず知らずの…「自分には関わり合いのない」程度の相手でも、困っているようであれば、どんな時でも、どんな相手にでも立ち向かい、救いを差し伸べる…純銀の鎧に身を包んだ聖騎士でした。 今でも私や…私の知り合いで、その方を知ってる者たちはその人の生きざまを一言で表したお言葉を今でも覚えています。 輝かしいそのお言葉は…出会った者たちの誰もが心打たれ、その人に対して大きく心揺さぶられない存在などいなかった程でした。」

 

(まぁ、それはその通りだよな…彼のその理想論は好意的な者達には心を鷲掴みにされたように感動を与え、ウルベルトさんのように「悪」に美学を求めるような人には、悪い意味で、激しく心を揺さぶってたもんな…。)

 

「そ…その一言とは…?」

 

『困っている人が居たら、助けるのは当たり前!』

 

「そう…たったその一言を生涯に渡って体現されていた方でしたわ」

 

 実際は、そこまで大きな声で言われたわけではないのだが、ロバ―デイクにとって、自分の理想よりももっと高い壁に挑戦し続けていた先達の言葉だったのだ…その言葉は、衝撃は…心の中に大きく、重く響いていた。

 だからこそ、心中に沸き上がった気持ちそのままを深く考えずに言葉にしてしまった。

 

「そう…ですか…それは…どこまでも高い壁に…挑まれていた方だったのですね…、もし会えるのなら、会ってみたいものです。」

 

 例え知らなかったとはいえ、その言葉に答えられる存在など、どこにも居ないのだということをわかるはずもなく…。

 

 そして、フレイラはその一言に複雑そうな顔を向け、何も言わず、ただ寂しげな微笑みを返すのが精いっぱいであった。

 

 

                   ★★★

 

 

 それから空を飛びながら、アイテムボックスから取り出した「メッセージボード」に、先ほど聞いたことを忘れない内に書き留めていた。

 

それは、「トケイ」というアイテムに書かれるという時間の表記、そして、12という数…思いつく限りの可能性を考えるも、まとまらない。

 

「ウ、ツ、ミ、マ、ジ、ル、リ、ヌ、イ、ネ、シ、ラ」…これがまた難問だ…、プレイヤーが広めたのなら、恐らく何らかの規則性はあるはずなのだが…時計がらみ、時刻がらみなら、そこまで突拍子もない発想は出ないだろう…なら…なんだ?

 

 12と言えば、わかりやすいもので言えば、12支か…それとも12星座とかだが…さすがに星座を時刻に当てはめるなんてよほど変な趣味でもない限りしないだろう…妥当な要素を挙げるなら12支だが…、しかしあれは最初が「子」だったはず…、しかし「トケイ」では朝の始まりが『ウ』ということだったし…。

 

 12支で、『ウ』と言えば、単純に考えるなら、「卯」、「丑」、「午」のどれかなのだろう…、ならその中で当てはまる何かとは…?

 

 現状わかっているのは「ウ」の次なら「ツ」…という事実だけ。

 

「丑」の次に来るのなら「寅」。

 

 そして「午」の次に来るならば、「未」となるんだが…しかし、これがなんだ…そのどれかならば、「辰」「寅」「未」のどれかの中の共通する要素がどこに…って…、あれ?…ん?

 

 辰年…で、読みが「タツ」…、トケイの読みが「ウ」の次が「ツ」、12支なら、『卯』の次が『辰』…。

 

 分かった気がしてきたぞ?

 

 ツの次がミ…なら間違いなく「巳」だろう…、なら「マ」というのは午か…もしかして、最後の一文字を当てているってコトか…それなら全ての説明は出来る…。

 

 ひらがな表記にして、最初の一文字だと、「ウ」の段階で今言った「ウシ」「ウマ」「ウサギ」の3つの『ウ』がダブるし、「イヌ」と「イノシシ」も「イ」がダブることになる。

 しかし、それならば、最後の一文字だけを当てれば、全部違う一文字で完結させることが出来る…ということなら、結論は簡単だ。

 

 やはり、単純にベースにしたのは「12支」だ。 まちがいない…、しかし、この時計を作った奴はずいぶん面倒なことをしたもんだ…、単に数字を当てた方が楽だろうに…。

 

 まぁ…あれだ…、そういう考えもあったが、多分その口だけ賢者さんにも何らかの譲れない何かがあったんだろうな…。

 

 どれほどの時間がかかって浸透をしたのかまでは分からないが…ここまでみんなに知れ渡ってしまったなら、今更数字に置き換えられても困るだろうからな…、そう決まってしまったのなら仕方ないな…これもまた、コトが済んだら、報告の必要アリだな…。

 

  

 とかなんとか思っていると、御者のおっちゃんから威勢のいい声がかかる。

 

「見えて来たぜ? あそこがカルネ村だ…ココからでも見えるだろう? 村にしてはえらい頑丈で高い…まるで要塞か?ってくらいの外壁に囲まれてるあそこが、お前さんらの目的地さ。」

 

「え~~? おいおい…ホントだよ、あれで村かよ…何から守ろうって言うんだ?」

 

「まぁ…お隣にトブの大森林がそびえてますからね…恐らくあそこから出てくるモンスターを警戒しての防備なのでしょう…、そんなに頻繁に襲われるとは思いませんが…。」

 

「あ~~、そんでな? そこに麦穂を植えられてる場所があるだろう? あれは村の外にあるものなんだが…、一応、あそこまでがあのカルネ村の警戒範囲らしい、これはあまり公表されてないんだがな…数年前、この村は帝国の騎士に偽装された一団に村ごと虐殺される寸前まで行ったことがあるらしい…。 かなり前、そんな話を『あやうく、濡れ衣を着せられるとこだった、アリバイがなかったら、粛正されてたかもしれない。』って巡回の騎士から聞かされたことがある。」

 

「おいおい…平気か?それじゃ、あそこの村って、反帝国って感じなんじゃないか?」

 

「いや、どうやらそうじゃないらしい…これもウワサなんだが…周辺国家最強と名高い、かの王国戦士長が助けに来てくれて、その鎧を見定めた結果、帝国の鎧に良く似ているが違うものだ。って証明してくれたらしい、村のみんなも、それを信じているから、反帝国って思想でもないらしいが…ただそう言うことがあってから異様に防衛意識が強くてな…ただの馬車でも、この麦穂の土地より先に行こうものなら弓矢で威嚇されることは普通なんだ、あの高さの見張り台からだったら、ここまで届かない距離じゃないのは理解できるだろう?…だから、悪いが、俺たちはここから先には…。」

 

「あぁ、わかったよ、おっちゃん、俺たちはここから歩いて行くことにするよ。」

 

「ありがとう…、悪いな、ちゃんと前払いで一日分もらってるのに、こんなところで降りてもらう形になっちまって…。」

 

「いいって事よ、おっちゃんに死なれでもしたら、さすがにオーナーに見舞金やら、謝罪金やら、賠償金やらで、いくらかかるかわからねぇからな、そこまではカンベンってことさ。」

 

「わりぃな、それじゃ、お詫び代わりにもう一つ、これは眉唾な話だが、確実に保証できる情報を教えておく、これは絶対に心に留めておいてくれ。」

 

「なんだい?おっちゃん、そんな改まって…。」

 

「実はな…その王国戦士長がこの村に来た際、それより早くこの村に着いて、その偽装騎士団を撃退し、追い返した『仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)』が居たらしい、その者は数人の護衛を連れていて、その一体が、見たこともない相手で、ゴーレムとも、モンスターとも言えないそんなのを同行させていたらしい…、それでそいつは王国戦士長と同じくらいかそれより大きいかくらいのタワーシールドを持ち、それに負けないくらいの長さのフランベルジュを持った全身真っ黒な騎士風の姿だったらしいんだがな…、なんと連れ達の中でもそいつが一番弱いって話だったんだが…王国戦士長は…そいつと戦って『勝ちを譲られた』らしい。」

 

「「「は?」」」

 

 フォーサイトの3人が揃いも揃って、間抜けな表情をして、今言われた言葉をもう一度思い出すも、どうにも信じられないでいる。

 

「周辺国家最強」という肩書きを持つ…あのエルヤー自身でさえ、あの男と並び称されるなど…と普段から比べられることを忌々し気に思っているほどに、ある意味で「認めている存在」である男がだ…正体もわからないポッと出の…しかも一団の中で一番弱いやつに『勝ちを譲られた』というのだ…ということはそれを連れていた〝魔法詠唱者(マジックキャスター)〟の実力も推して知るべし…と言ったところなのだろう…ということは頭では理解ができる…しかし、あまりにもな内容に、感情が着いていかない…。

 

 そんなことあるはずがない! そう言えればどれほどいいか…そう思いながらも、力なくヘッケランは御者のおっちゃんに返事を返す。

「ウソだろ? …なぁ…それって冗談だよな? な? おっちゃん?」

 

「だから言ったろ?眉唾な話だって…だがオレが言いたかった「確実な情報」っていうのはこれから伝えることの方だ…これだけは心に刻み込んでおいた方がいい。」

 

「な…なんだよ? おどかさねぇでくれよ?」

 

「あの村では、絶対にその『仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)』を悪く言うな…、実力を疑うような発言も…しない方が賢明だ…、その一点だけは信じられる事実なんだ。 あの村ではその『仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)』は救世主として、崇められているに等しい。」

 

「おっちゃん、なんでそんなこと知ってるんだよ…。」

 

「オレの娘はな…王国の方に嫁いでるんだよ…それで、その旦那がな…その王国戦士の一団の1人なのさ…、だから、目の前で起きた事ということと、後日、「帝国兵に偽装した鎧」を買い取ったという話で、その時は払えなかったお金を手渡しに村を訪れた際、その魔法詠唱者(マジックキャスター)の像でも、そのお金で作ろうか…なんて話にもなっていたらしいんだ…あの村ではそれくらいの重要人物なんだ…くれぐれも…刺激しない方が身のためだ…。」

 

 グビリと…3人のノドから生唾を飲む音が聞こえた時、そのおっちゃんは元の人のいい感じの笑みに戻る。

 

「まぁ、それさえ気を付ければ大丈夫ってことさ、悪口や軽はずみな事さえ口走らなけりゃ、すぐに村の人間達とは打ち解けられるよ。」

 

 おっちゃんはそう言って軽やかに手を振って、馬車に乗り込み、カルネ村の警戒範囲から離れていく。

 その様を見届けたフォーサイトの面々は(入る前からや~なこと聞いちまったなぁ…)という気持ちで一致していた…。

 

 

                   ★★★

 

 

 重い足取りながらも、なかなか足が進まないフォーサイトの一行、その前を軽やかな足取りで進むのが以前にもこの村に来ているジエット、そして、初訪問のフレイラだ。

 

 もちろんフレイラのそばには透明になって匂いも温度も誤魔化しているベルリバーも一緒だが、フォーサイトの3人にはそのことは気づかれていない。

 

「なぁ…あの話を聞いて、なんでそんな軽やかな足取りなんだ? ジエットさんよ~?」

 

「え?…いや、私は、既に一度、この村に来ていますからね、なんとなく感じていたことに確信が持てた、って程度だからでしょうか?」

(まさか、その『仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)』が私の主だ…だなんて言ったら、腰でも抜かしちゃいそうだから秘密にしておきましょう。)

 

「フレイラさんは大丈夫ですか?」

(さっき、ヴェールさんから「その子はもうボクが女装した姿じゃなく、実在している本物の女性だからな…勘違いしないで接してあげて欲しい、よろしく頼んだよ?」だなんて言われてるからな…。)

 

ハイ…ヴェールさm…んから話を聞いて、ずっと来たいと思っていたので…今からたのしみです♪

 

 ジエットにだけ聞こえるようにと、気を使って耳に口を寄せ、声を落として答えを返してくれる。

 

 それも、フォーサイトのメンバーの1人、ハーフエルフのイミーナはレンジャー持ちだ、彼女の聴力の範囲がどれほどなのかがわからない為の安全策なだけというのはもちろんジエットも言われなくてもわかっていた。

 

 そんなジエットが…

「それは良かったです」

 

 という言葉を発言した瞬間、ジエットの足元に数本の<魔法の矢(マジックアロー)>が飛んできて、地面に突き刺さった。

 

 いきなりのことに驚き、思わず飛びすさると…、飛んできたのは上の方…というのは軌跡からして分かったため、見上げる…。

 

 すると、そこにはジエットの方を燃えるような瞳で見つめ…というより睨んでいるような目をしたアルシェが見張り台の上にいた。

 

 彼女は馬車が近づいて来たあたりで、ラッチモンとブリタに呼ばれ、そこから、(村への来客の魔力診断のため、念のためにと呼ばれていた)遠くを見、次第に近付いてくる一行を見つめていると…明らかに初めて見る女と仲良さげに耳打ちなどをして(耳打ちをしたのはフレイラだけなのだが…)会話をしている良く知る人物、ジエットを見つけた。

 喜びもつかの間、耳打ちをされていたコトに対して笑顔を浮かべた彼の表情にイラ立ちを感じた瞬間、思わず<魔法の矢(マジックアロー)>の威嚇射撃を敢行していた。

 

 

                   ★★★

 

 

「よ…ようこそ…カルネ村へ…私がカルネ村、村長のエンリ・エモットです…。」

 

「ホラ…アルシェさんもお詫びしてください? 来てくださったお客さんにいきなり宣告もなしに威嚇射撃だなんて…もう!」

 

 そう言って、アルシェの首の後ろに手を伸ばそうとした瞬間、ジエットの後ろの方を見て、むりやりな笑顔を浮かべたアルシェが、ジエットの横をわざとすり抜け、懐かしいメンバーの3名の下に走っていく。

 

「イミーナ、ヘッケラン、ロバー…来てくれた…… もう…会えないと思ってた…のに、…でも…大丈夫? ここ、許しが…その…。」

 

 と、イミーナに抱きつくように再会を喜んでいながらも、不安げな表情を浮かべていた。

 

「あぁ、そのことなら大丈夫だ、アルシェ、これでも一応、適性の方は及第点はもらってる、合格とまでは行ってないが、見に行くことの許可くらいはもらってるから問題ないよ。」

 

「えぇ、それにアルシェだけを一人にさせる訳にはいきませんからね、私達も帝国を飛び出してきましたよ。」

 

「え? なぜ?みんな何も悪い事なんて…」

 

 

 とかなんとか、後ろで呆然としているジエットは放置のまま、フォーサイトの面々との再会の盛り上がりを見せている頃。

 

 エンリとフレイラはお互いに、首に提げられている「ネックレス・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」を見せ合い、お互いの親睦を深めている。

 

 そしてアルシェに放置されたままのジエットは、透明のままのベルリバーに優しく肩をポンポンとされ、慰められていたのだった。

 




今回は、話には直接関係ありませんが、ブリタさんの今の難度はどれくらい?っていう所を
決めておきたくて、後書きのこの部分に書いていきます。

 参考にしたのは、WEB版の記述、書籍ではもうちょっと感覚は違うのかも?

難度1~10がカッパークラス。    LVで、1~3
難度11~20がアイアンクラス。    LVで、およそ4~6ちょい(引退時のブリタさんこの辺。)
※書籍版ではこの辺でシャルティアと交戦、普通に考えて、並のヴァンパイアでもムリゲーなのに
 シャルティアに挑むなんて、ナザリックポーションなかったら、間違いなく死んでましたね。

難度21~30がシルバークラス。   LVでは7~10  漆黒の剣チームがこの辺だった…。
(カルネ村でレンジャー修行したブリタさん、この時点のお話で3LVアップして見習いは
とりあえず卒業…ということで「難度9アップ」、合計難度は(多分)28くらい?
レベル換算では9以上、10LV未満
(森の中での戦闘ならゴブリン兵士とは互角。
平野の単純なぶつかり合いなら、ゴブリン兵士:ブリタで6:4の勝率。)

難度31~40がゴールドクラス。    LV10ちょい~LV13
         ゴブリン兵士以外のトループ全員がココらへんの実力はあると思われ…。
難度41~50がプラチナクラス。   LV14前から17直前くらい
難度51~60がミスリルクラス。    LV17~20       元々のクラルグラはこのへんw
難度61~70がオリハルコンクラス。  LVが20ちょい~23

これ以上はアダマンタイト       LVが24を超えたら、だいたいアダマンタイト。

ラッチモンさんのレベルがわからないので、なんとも絡ませにくいのが難点…ですな。

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