気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
遅くなってしまい、待っていた方がいらっしゃるかはわかりませんが、
待たせていたらすみません。
ようやく、ブレインさんがご到着するお話。
さてさて、彼の運命はどうなりますやら…。
「さてっと…まぁ、こんなもんか?」
そう言うと森の中にいた男はひょいと肩に今まで自分が取り掛かっていた作業の結果をしょい込む。
「結構な大荷物になっちまったが、このくらいの重さがないと自分への負荷にもならないからな…。」
そうつぶやきながら、それらを背負う、もちろん「それら」とはもう身動き一つしていない自らの戦果である。
とは言え、自分から率先して狩っていたわけではない。
森の中に居るというだけで、彼の方が森の中に棲んでいた者らの領域を冒したも同然なのだ。
そりゃ、襲われもするが、彼はそれ等のことごとくを撃破した。
狼たちは…頭数が多いから、運ぶことはま~…やぶさかでもないが、ひとまとめにするのに手間がかかるのでやめた。
今、彼が背負っているのは自分よりも少し大きめの
突進が当たっていれば状況は変わったかもしれないが、バカ正直な突進など、避けながら斬り付けて行けば問題はなかった。
「これだけじゃ足りないかもしれねぇが…あいつらに土産の1つや2つ持って行ってやらなきゃ腹減らしてるだろうからな」
あいつらとは、短い期間であるが勝手に自分に着いてきてしまったオーガ達のことである。
オーガは力はあるものの、俊敏性に欠けるので、すばやい小動物などを獲ることにかけては非常に不器用なのだ。
「まぁ大きい獣でも逃げの一手に入ったやつらに追いすがることも難しいしな…あの巨体じゃ。」
などと言いながら、筋力トレーニングついでのようにそれを背負って、森の中を歩く。
歩くのはもちろん自分が地面につけて移動していた刀傷…通って来た道をその刀の切っ先で道筋をつけていたため、それを辿れば安全に森の外に出られるはずだ。
その道筋なら一度森の先住者たちを撃退してすぐなので、再び襲われることも少ないだろうと見越してのことだが、読み通りに森の出口まで来られて安心していた。
「さ~て…と、そんじゃ、約束通り、行きますか?」
朝この森に入る際に「昼に顔を見せる。」そう自分から約束した手前、一度は顔を出さないとならないし、かと言って間違ってお昼前についてしまったり、昼食中に呼び出すのも悪い。
一応、昼メシを済ませて、後片付けも一段落したくらいに訪れた方がいいだろう。
「まぁ、こいつらを背負ってるから、今から歩いて行けばちょうどいいかもな。」
そう言うとその男は目の前に広がる草原、そのはるか向こうに見える、遠間からでもよくわかる城壁にも似た「村の防壁」に向けて歩き出した。
★★★
「え?見学をされたい…ですか?」
ンフィーレアが驚きの目でフレイラを見る。
みんながお昼の準備を一通りすませ、食卓に全員分の(もちろんトループのゴブリン兵士6人に、アーグもそこにはいるが別のテーブルだ)主食におかずなどを並べ、それぞれがそれぞれで歓談しながら食事をしていたときにその話を切り出されたので、みんなが聞いている前での受け答えになる。
ついエンリが「それを聞いてどう思ってしまうか」を気にしてしまい、彼はチラ…と見てみるも、いつも通りで、特に彼女に変わりは無いように見える。
「あの…ポーション作成なんて、女性が見て面白いことなんてないだろうと思いますよ?」
所帯を持つようになってンフィーレアの見識も、昔とは少し違っていた。
女の子にポーションへの情熱をぶつけても、あまりいい反応はない、ということが分かってきたため、自然とそういう言葉が出るようになって来ていた。
「いえ、そのようなことはありません、これでも一応、ポーション系の作成は興味のあるところだったのです。」
フレイラからのその言葉を聞いたンフィーレアの悪い虫がうずきだす…エンリにはどれだけの知識を伝えても、それがすごいことなのかそうでないのかの判断も良くわかってくれないために自然と家庭内でポーションの作成に関することも口にしなくなっていた。
そのせいか、家に帰ってからあの、少し当惑したような表情を見ることはなくなったのは恐らくいい事なのだろうが…ンフィーレア自身はそれに物足りないものを感じていた。
自分の「好きな仕事内容への理解」が得られていないのでは…という想いがあるためだ。
しかし、だからと言ってすぐにそれに食いつき、ガッつくようでは共感は得られない。
不本意だが、それはゴブリンに教えてもらったことで、それが人生経験となり見識も深まった…などと村外の人間が聞いたなら嘲笑の的になるのは確実だろうが、もしもそれがなければ今のエンリとの関係は築けて居なかったことを考えると、感謝してもしきれない。
だからこそ、今はそれをグッと堪えるべきだとンフィーレアは判断する。
「そ、それで、フレイラさんはどんなポーションに興味があるの?」
(この程度なら、相手の興味を聞くだけだし問題ないかな?)
「えぇ、私が興味のあるモノは魔力の回復薬、マジックポーションと言えばいいのでしょうか?それともメンタルポーション?まぁ、そう言った物ですね。 いつかそういうのを作るのが夢だったのです。」
「えぇ? 魔力の回復…ですか? そんなことが! ど…どうすればそんなこと…が!」
つい衝動を抑えきれずに詰め寄ってしまったものの、フレイラは特に気にした風もなく問いに答える。
「わかりません…私の元居た場所でも、そのようなものは未発見のままでしたし…だからこそ作り出したいのです。」
もしかしたら、向こうには無くてこっちにはある…そういう材料が見つかるかもしれない…そういう一縷の望みを持って臨むつもりだが、今は時間がない、一日で出来るものではないだろうし…と気持ちを切り替える。
「そういうことなので、もしよろしければ、こちらの方ではどのような作り方が一般的なのか、それを是非見せていただきたいのです。」
「そういうことなら喜んで、参考になるかわからないけど、お婆ちゃんにはボクから伝えておくから。」
と、そこまで言ったところで「ハ!」と、とあることに気づく。
「と…いうことらしいんだけど…いいかな?エンリ?」
恐る恐るそう尋ねる。
ンフィーレア自身は決してバカではない…ポーションに関わることで周りが見えなくなることはしばしばあるのだが、それでも今までの生活から、例えポーション作成の方がゴウン様から言われている協力条件で、村長代理より優先順位は上なのだということは理解していても…、だからといって家庭をないがしろにしていいという気持ちで居るわけではないのがエンリだということは分かっていたことだ。…だと言うのに、嬉しさの余り意見を求める前に応えてしまった自分の浅はかさを苦々しく思う。
「…好きにしたら?」
(あちゃ~…機嫌を損ねちゃってるよ…、どうしよう…)
返事をして一瞬ジエット君の今までの様子が頭をよぎったので、エンリに同意を求めたのだが…どうやら一歩遅かったらしい。
「どうせ、私にはポーションのすごさなんて解りはしないんですから? ど~ぞ、同じ話題で盛り上がれるフレイラさんとご一緒に仲良くしていればいいんじゃありませんか?」
(やっぱり怒ってるし~…)
「そ…そんなことないよ?エンリには感謝しているよ?家の中のことまでしてくれて、村のことまで考えてもらってる、ゴブリンのみんなだってエンリが居るから村のみんなとも上手くやっていけてるんだし、エンリが居ない世の中なんて考えられないよ。」
「エンリの居ないカルネ村」では無く「居ない世界」なんていう規模にまで言わなければならないくらい彼らにとっての今の状況は大変な事態なのだろうか…と、可哀そうな目でフォーサイトの4人がンフィーレアを見つめているが、当人はそんなことは気にならない、エンリを怒らせたら後(…特に夜)が恐ろしいのだ…、エンリの甘えモードや、おねだりモードの時はまだなんとかなる。
だが、それが「上官モード」に突入した時には、ンフィーレアにはそれに対抗できる精神力は持ち合わせていないと自覚しているし、断言できる…だから、それだけは絶対に避けたい事態だった。
「あのさ…だからエンリ? 何も心配しなくても…ボクはいつでもキミを想っているよ? それは誓ってウソじゃないからね?」
必死に目の前の怒りを少しでも冷まそうと彼の中での精一杯の言葉を紡ぐ。
エンリはと言えば、さっきより表情が強張っているようだ。
「ンフィ…今、ここには他の人も居るんだから、言葉には注意してちょうだい、私たちは村長であり、村長代理でもあるのよ?」
そうして、ジト…と
「いいから、行ったらいいんじゃない?リィジーさんにお伺いを立てるんでしょ? あの人が選ぶことなら私が口出しすることでもないんだから、変に私の顔色なんて見なくていいの。」
(どうやらさっきよりは落ち着いてくれたようだけど、まだどこかで一押しは必要なようだね、帰りまでになにか考えておこう。)
そして、そんなエンリがンフィーレアに顔を向けず、時折頬の辺りがピクピクし始めているのはフォーサイトの面々でも分かった。
すかさず4人がそれぞれのゼスチャーで、ンフィーレアを外に送り出そうと『がんばれ!大丈夫だから、行ってこい』とばかりに背中を押そうとしてくれている。
(距離があるので物理的に押せている訳ではないが…)
「じゃ…じゃ~…約束通り、お婆ちゃんには夕食までには戻らないと…ってことはちゃんと言うからね?ね?…行って…来ます。」
そうして、唯一の出入り口でもある扉がぱたんと締められ、充分に足音が離れただろう時間が過ぎてからようやくエンリの表情が一変する。
意外にも満面の笑顔だ。
「あ~、よかった、さすがにあれ以上は不機嫌な表情保ってられなかったから、すっごい危なかったぁ。」
何かから解放されたようなスッキリした表情、それに朗らかな声だった。
「あれ?エンリさんって、怒ってたんじゃないの?」
イミーナが不思議そうに問いかけてくる。
「ん? そんなことあるわけないじゃない? さすがの私もンフィーの人となりは知ってるつもりだし?あんなことで本気になったりしないよ。」
室内に居たゴブリン兵士のみんなも一時は緊迫した表情だったが、その一気に弛緩した空気に全員が肩の力を落とす。
「驚いた、私はあの一瞬でなにが変わったのか全然理解が出来なかった、エンリさん、なんでいきなりあんな言葉が出て来たの?」
アルシェもなんとなく、興味を覚えたようだ、と言うのも、何となくだが、エンリのさっきの対応の変化は今日ずっと感じて来たジエットに対する感情の答えを導き出すヒントになるのでは?という確証もない直感からだった。
「ん? ん~~、なんて言ったらいいかな? そうね、手綱を握る感じって言えばわかりやすいかな?」
さらっと、悪びれもなくあっけらかんとそんなことを言い出すエンリ。
「手綱……あの、馬…の、ですか?」
「うん、そうそう、ンフィーってね、今でこそ何とか、さっきみたいに私に声を掛けてからって言うのが定着してきてるけど…所帯持った時は平気で何も言わずに『それじゃ行ってくるよ?エンリ。』って言って、ポーション作成の助手に行ったっきり、気づいたら朝帰りとかよくあったからね。」
「はぁ~ん、なるほど、そういうことなのね。」
意味深な表情を浮かべながらイミーナが一人納得したような言葉を1人でいいながら、頷いている。
「イミーナ…どうしたの?」
「あぁ、要するに「怒っている妻」を演じて、それに対する旦那さんの対応を上手く誘導しながら、自分の望む展開に…生き方から言動から、少しずつ直していってる最中ってことですよね?村長さん?」
「え? まぁ、そこまで大それたコトじゃないですよ? ただ…彼のあのポーションに対する情熱は危ない気がするの…、何かのよからぬことに巻き込まれるとき「未知のポーション」ってものを材料にされたら、今のままのンフィーだとホイホイついて行っちゃいそうな気がして…、だから無条件に信じるんじゃなくて、少しは冷静になって立ち止まって考える習慣を身に着けて欲しくってね。」
「愛されてるんですね、旦那さんを、エンリさん…。」
アルシェがしみじみと微笑を浮かべながらエンリの照れたような顔を見る。
「そりゃそうよ、ま~…ヤキモチが全く含まれてなかったか?って言われたら、「そんなことない」っていうのはウソになっちゃうけどね。」
そう少し照れくさそうに言うエンリさんはまるでお日さまのような笑顔を浮かべていた。
アルシェは思う…。
(私がさっきからずっと感じていたのはヤキモチ…嫉妬だったのだろうか…、たしかにフレイラさんはキレイだし私よりも年上のお姉さん的な…それでいて、どこか神秘的な雰囲気もまとわせている。 自分ではかなわないのでは…という意識がナイ訳では無い。 ジエット君が彼女をどう思っているのか…そう考えると、どうにも胸のモヤモヤが気持ち悪いと感じるのは確かだ。)
そこで、アルシェもすかさずその流れに乗っかろうと、フレイラに問いかけたかったことを口にしてみる。
「それにしてもさっきのフレイラさんはすごいと思った、先ほどの手際からすると神官のようだけど…決まった方とかは?」
ついさっきまでエンリに声をかけていたのに、いきなり自分に水を向けられたフレイラが一瞬、意外な表情を見せるも、すぐに答えに詰まることなく返答を返す。
「え?私ですか? 私は信仰の道を進むと決めた時…いえ、もっとずっと前からこの身、そして心の全ては私の信仰する神ただお一人…私の住んでいた場所では「41柱の神」がおりました、その中でも私の中でかけがえのない神にして創造主、ただそのお方のためだけに生涯を尽くすと決めたのです、異性のことになどかまけている余裕はありません、ご期待に添えず、すみませんね? アルシェさん。」
「(天地の)創造主ですか…それは確かに信仰に値するでしょう。」 …とロバーデイク
「えぇ、(私の)創造主様です。」 …とフレイラ…、微妙に認識がずれているのに二人は気づいていないのだった。
その言葉を聞いて、心の中のモヤモヤが少しだけ晴れた気がしたアルシェは、「もしかして、本当に…私ってそうなのかな?」という意識が目覚め始め、認めようか目をそらそうかとつい考えてしまう中、ずっと感じていたフレイラに対する何とも言えない気分も軽くなっていることに気づいてしまっていた。
★★★
ワイワイと、食事を食べ終えたみんなは、食器を片付けたり、洗い物をしたり…と作業をしながら、色んな話題を交わしている。
「それにしてもエンリさんはなんでンフィーレアさんを旦那さんとして選んだんです?」
素朴な疑問として、珍しく女性陣ではなくロバーデイクからの質問がエンリに届く。
「そうですね…最初は、私のことを心配してくれたり、何かあると元気付けてくれようとしてくれる、私にはもったいない友人って思っていましたよ?」
と答えたエンリにヘッケランがからかうようなツッコミを返している。
「そりゃ~…村長代理さんも報われてなかったもんだ、さぞや苦労しただろうな」
わずかな含み笑いをしながらエンリが懐かしそうに少し上の方を向きながら、答えてくれる。
「そうね…でも、私の中で、状況が少しずつ変わっていったのは、ゴウン様からいただいた角笛を村のために…と思って吹いた瞬間から…運命のいたずらが動き出してしまったんでしょうね。」
エンリのどこか懐かしげな、でも複雑そうな声音にアルシェが心配そうに声をかける。
「なにが起こったの?」
「最初はね…呼び出したゴブリンさん達が私のことを突然「姐さん」って言い出して、私の命令でなんでも動き出すようになって…、だんだん周りの村のみんなも私のことを村娘じゃなくて、ゴブリンを率いる「エンリの姐さん」って言う目で見るようになって行くのにそう時間はかからなかったって感じね。」
「あぁ…」と、今までのカルネ村でのことで心当たりのあるアルシェはなんとなく納得するも、他の3人は意味がまだ分かっていないようだった。
「それが、いつの間にか、「エンリの姐さん」から…「カルネ部族の族長、エンリ」ってなって、気がついたら知らないうちに、周辺の大きな町や、小さな村、お隣の大森林の野良ゴブリンさんやオーガさん達にまで「ゴブリンの大将軍」とか「血染めの女大将」、酷いのになると「血塗れエンリ」…、まぁね…「村長」って立場を引き継いでからは「村長」っていう目で見られるのは仕方ないとしてもよ? 「族長!」って呼ばれたり…そういうウワサでの好ましくない評判越しとかで見るんじゃなくて、ありのままの私っていう人間を見ていてくれたのは村の同世代ではンフィーだけだったしね。」
「や~、だからさっきのは危なかった~、ンフィーったら、私の居ない世の中…だなんて、もぅ…大げさなんだから…ふふ♪」
(あぁ、あの時の顔がピクピクしてたのは、崩れそうな表情を必死に抑えていた?)
アルシェがそんなことを考えていると、横に居たメンバーの男2人が別のことに驚き始めた。
「え? なんだそれ? エンリさんってもしかして有名人だったりするのか?」
「人は見かけによらないとはこういうコトの様ですね」
そこで、今の失言に気づいたエンリが慌てて否定する。
「そ…そうじゃないの! それは私自身の功績とか、そういうんじゃなくってね…その…いつの間にか広まっていた噂話がどんどん森の中やら、周辺の街やらですごい勢いで広まっていってですね、先ほど言った剣士の方もその噂話で、ここに訪れて来たっていう経緯があるくらいなんですよ」
と…そこまで黙って聞いていたフレイラがまたもいきなり爆弾発言を投下してきた。
「まぁ、エンリさんは遥か昔に…将軍職で戦場を駆ける偉丈夫だった時もあったようですからね、今の「皆に慕われるリーダー」というのも、名声が広まる速度も…そのカリスマ性が手伝ってのことかもしれませんね」
「「「は?」」」 ← フォーサイト
「え??!」 ← エンリ
「…、え?」 ← ジエット
「あ、すみません、口が滑りました、今のはどうか聞かなかったことに…。」
そう言いながら自分の顔の横、エンリの側に片手を上げ、話を打ち切ろうとするが、さすがにそれをそこで終わらせたくないのがエンリだ。
「いやいやいや、待って待って! ちょっと待って! なに?フレイラさん何か知ってるの? 私の最近のおかしな原因なにか知ってるなら教えて?気持ち悪いの…自分になにが起こってるのか全然心当たりがなくって…。」
「あの…私の見えてるのは断片的なものなので、そこからのことは皆さんの「この土地で昔なにがあったのか」の知識におすがりするしかないのですが…私の話に心当たりがあるかどうか…第三者の視点から聞いてもらってもいいですか? フォーサイトのみなさん。」
「あぁ、そのくらいなら、まかせとけ! って言いたいところだけど…オレらが知ってるのは今も残っている有名な話とか、神話とかおとぎ話で残ってる逸話くらいだぞ?」
「それでもかまいません…恐らく、国も関わっている内容が…含まれていると思いますので…。」
「「「国???」」」
「え? 国に…私が?将軍として?……」
(どうやらエンリさんは混乱しているみたい…そうだと思う、いきなりそんな大きい話になったら、それはビックリするよね。)
「私が視えているのは、エンリさんの…、いえ、エンリさんとして生まれるより前、それよりも前に人として生まれ、生活していた、エンリさんの過去の魂です。」
「私として、生まれるより前? それってどういう?」
「つまり生まれ変わり、という物です、誰かが死んでも、その人が人として生まれ、人として死ぬまでにしておかねばならない課題を果たせなかった場合、もう一度やり直すためのチャンスとして、今度はどんな性別、どこの親の子供として…生まれていくか…それが決められ、また今度はその魂が生きていたより未来の時代に、新しい人間として、魂の内に秘められた生き方、性格、趣味嗜好、などなどが引き継がれ、同じ魂でありながら、違う人間として、果たせなかった課題を果たすため、生まれてくるのです。」
「それが…今の…私?」
「そういうことですね、今回はそのエンリさんの素になった、過去の魂、それを『前世』と表現するとしましょう。」
「…前世………」
言葉を噛みしめるようにエンリさんが呟く。
「その前世でのエンリさんは、どうやら、とある国の中でもかなり重要な立場に居た将軍だったようです、しかもそこは分類としては恐らく魔法兵団、その将軍である自分以外の部下のほとんどが魔法詠唱者…信仰系や魔力系、森祭司など…種類は豊富でしたが、前衛と言える戦士系は全体の3分の1に満たなく、主に魔法での集団詠唱からの<
「あの…なんでその将軍…その時の私は魔法を使わなかったんですか?」
「その将軍本人に「魔法の才」がなかったようです、主に魔法をことの他重んじるお国柄だったようですね。 魔法に対する憧憬が非常に強かったようです。 子供のころからずっと魔法の才がないことで肩身の狭い思いをしていたようですね。」
「え? それなのに国お抱えの将軍になんてなれるんですか?」
「それが…前世の将軍さんは特殊な力をお持ちで…、周囲の敵の血を…返り血として浴びれば浴びる程、強い力…、攻撃力、防御力、速さに、攻撃するため武器を扱う技量、それに体力が尽きることもなかったみたいですね、ライフも上昇していたのでしょう、血を浴びることで回復がされていた可能性もありますが…とまぁ、色々な面で爆発的に上がっていったようです。」
「一兵卒や下士官だったころ、上官から、
「あの…それでも、その方にもご家庭はあったとか?」
「いいえ、魔法の才もなく、単騎駆けを得意とする彼の戦い方はいつか命を落とす、と思われていたため誰からも縁談の話はなかったようですよ。」
「そんな…。」
「でも、その常勝無敗の将軍にも敗北をする時が訪れます。 自国の魔法技術を逆手に取られ、戦地での情報伝達が正常に働かず、大混乱に陥った…みたいな感じでしょうか…?」
「ねぇ…ヘッケラン、もしかして、その国ってさ…。」
「あぁ、俺もチラっと心当たりが思い浮かんじまった。」
「そうですね、あそこの国の名前は知らない人がいても、起こった惨事は今でも語り草ですからね…。」
ボソボソとエンリには聞こえないように言っているフォーサイトだが、元々が獣人種であるフレイラは、その言葉に気づいていたものの、ここはエンリへの説明の方を優先させ、事情は後で聞かせてもらおうと説明に戻る。
「あの…魔法の、なにかを失敗させられたんですか?」
魔法のことがよくわからないエンリは思いつく限りでなんとか考え付いたことを口に出す。
「いえ、残念ながらそうではありません…つまりは<
(「「「やっぱり…」」」)
「何かの魔法で、その将軍の声に似せる事が出来たか何かで…、軍全体に響かせるほどの声を望んだ場所に展開できる<
「え? どうなってるんです?声が届いてないんですか?」
「それも違いますね、指示は届いているからこそ、混乱している師団の方々の様子がわかります…どうやら同じ声の指示が次から次へと違う命令で届いていたようです、声の模写ができる魔法でも開発していたのかもしれません。」
「魔法の支援が得られないと判断した将軍は単騎で特攻を試みます、おそらく内側から正面突破できれば、状況は変えられると思ったのでしょうね、今までの戦いで、一度も帰れなかったことはなく、負けたこともない、その自信も仇になりました。」
「え?今度はなにがあったんです?」
「数千の兵たちの全てが
「普通のゴーレムさんとはなにか違うんですか?」
「そうですね、普通のゴーレムは創ろうとすれば、材料費が膨大にかかります、1体作るだけでも…、それを数千も作るとなると魔力を注ぐ時間もそうですが、鉄ならゴーレム一体分の鉄を買い占める費用が必要にもなります、石なら石、木なら木を…、しかし人肉なら…おそらくは将軍が
「え?そんなにその
「いえ、巨体のモノだったり、石や鉄のゴーレムからしたらそこまでの脅威ではありませんが…、彼の力の源、生きて帰れた原因は、「血を浴びれば」どこまでも強くなれるという特性があったからこそです。 …しかし
「勝ち続けて、斬り続け、展望が見えている中なら、そこまで疲労は感じない物です、しかし圧倒的な絶望を目にすると、人は今まで感じなかった疲労をいきなり感じるようになることもあるのです。」
「え?ではその将軍は…そこで?」
「そうではないようですね、
「魔法が撃てなくなった人たちは撤退しなかったんですか?」
「将軍を置いていくなどできなかったのでしょう、高台に築いた陣を維持していたようですが…
「そうですか…、それであっけなく…。」
「そうですね…しかし将軍の窮地を救ったのは副官として常に将軍を支えてきた魔法詠唱者の女性、その彼女が、<
「えぇ? まだ続くんですか?」
「首都は…炎の海でした…その国はいつも最前線で勝ち続けていた将軍が居れば…という状況に慣れきってしまい、まったく警戒らしい警戒をしてなかった様子…、それに将軍の部下たちを背後から襲ったのは二手に分かれた部隊の1つで、本体は、いち早く首都に攻め入っていたようです、あらかじめ偽の<
「その将軍が…私…?」
「えぇ、ちなみにその副官の女性
「そうですか…それで、なんでそれが私の今の「変な力」に関係してくるんでしょう…。」
「それは、将軍に副官、さらには部下、という条件がそろい、前世の状況に近い環境が整ってしまったせいで、エンリさんの中に眠っていた「魂の記憶」が呼び覚まされて行ったせいなのではないでしょうか?」
そこまで聞いたエンリが諦めたようなつぶやきを漏らす。
「ということは、この力は…無かった頃に戻りたいと思っても無駄ってこと…ですよね?」
悲観半分、自嘲気味半分のエンリにフレイラは「決して悪いことばかりではありませんよ?」と慰める。
「例えばフレイラさんは、どういう部分が救いだと思います?」
ニコリと微笑んだフレイラが、ゆっくりと言い聞かせるように語り聞かせる。
「上官としての経験が出来るという事は、村長としての振る舞い方、考え方から、ひょっとすればこの村の発展についてもなにか役立つかもしれませんよ?」
元気づけようと言ってくれてるのはわかるけど…と、どこか素直に喜べないエンリにさりげなく他のいい点についても挙げておく。
「そういう上官…というか、将軍としての魂が奥底にあったからこそ、ンフィーレアさんも魂でそれを感じ、エンリさんが村のトップになった今でも、見る目を変えたりせずに一人の女性として扱ってくれてるのでしょう? それで充分じゃありませんか?」
肩に手を置きポンポンとするフレイラに、決まってしまったのなら仕方ないか…と、お得意の切り替えの早さで思考を新しい認識に移行させるエンリ。
「そうよね…普通は、男よりも女が偉くなったりしたら…きっと嫉妬だったり、もっと偉くなって見返してやろう…って感じになりそうなものなのに、ンフィーってそういうのは無かった…今まで当り前に受け止めてたけど、それって当り前じゃないよね?」
感じたことをそのまま声にしてしまっているエンリに、フレイラも、同意の返答を返していた。
「そうですよ、妻が村長で、夫が代理、だなんて、普通はあんな風に当たり前に受け入れて納得できる男性はなかなかいないものですよ? ンフィーレアさんは、あなたにとっての財産とも言えますね。」
そう断言されると、そうなのかもしれないと思ったエンリは改めて我が夫の大事さを一段アップさせる。
「でも、とりあえず、さっきの事はさっきの事として、帰ってきたらチクっと言わせてもらおう、謝ってくれたら、すぐに許しちゃうけど♪」
「そうですね、そういうのもお互いの信頼関係が成り立ってないと、出来ない事ですからね、お二人の親密さがよく分かります、羨ましい限りです。」
(私も…そうなんだろうか…好きだから、モヤモヤして?…でも、この「好き」はどういう「好き」なんだろう…)
どうやらアルシェ自身の中で結論が出るのはまだまだ先の話になりそうである。
★★★
「という訳なんだけど、どうかな?お婆ちゃん」
カルネ村内に作られたポーション開発用の工房、兼住居、その中で祖母のリイジー・バレアレに、カルネ村に訪れた、ポーション作成に興味がある人物が、作り方を見せてもらいたいと言っているというコトを伝え、了承をもらおうとしていた。
「ふん、ポーション作成に興味があると言いながら、作成手順も知らない小娘にあたしゃ何も教えないからね?」
そんな風な事を言うリイジーだが、それもそうだろう、敢えて言うならばそれは社外秘と言ってもいい物。
同じような業種のポーション店でも、バレアレ店ほど出来のいい店はエ・ランテル内でもまず居ないと言っていいほどだったのだ、カルネ村はポーションを作るための材料、薬草の種類が豊富なトブの大森林が近く、わざわざ毎回冒険者を雇って調達をしに来なくても
逆に言えば、そうでなければここまで店を大きくすることは出来なかっただろう、彼女自身、第3位階魔法を使えるようになるまで上り詰めた…そんな「たたき上げ」の努力の末、編み出した手順を親切に手取り足取り教えるつもりもなかったというのは無理からぬことだろう。
「でも…おばあちゃん…。」
そう食い下がろうとする孫の言い分も分かる、まだ誰にも開発出来ていない幻とも言えるポーションが作れるのならば、それは大きな発展にも寄与できるだろうという部分は理解できる。
だが、それならそれで、基礎程度の準備から器具の使い方、作成手順など、そういう道を志すならば…自己流でもいいから理解してから言って欲しかった、という認識もリイジーにはある。
それに対して、まだ何も知らないからこそ、スポンジが水を吸収するように、大きな可能性が生まれるかもしれないという言い分があるのがンフィーレアの認識であった。
同時に、変な知識を自己流で学んでいたら、その「自己流の知識」が邪魔をして、逆に遠回りになってしまうのではないかという心配があるのがンフィーレアの考えである。
「まぁ、そこまで孫のお前が認めるなら、とりあえず、見せるだけ見せればいいさ、ただ、アタシのやり方は見せたりしないよ? アタシャ~アタシで、自分が試そうと思っていた今日の分の研究があるんだ…、勝手に部屋にこもってやらせてもらう…だから、ンフィーレアや…、責任はあんたが持ちな? 自分の中で教えられる程の御大層な知識だと思えるものがあるなら、それをアンタが教えりゃいいさ。」
妥協できる部分があるとしたら、ここまでだ…、基礎的な作成手順、なにを材料にするか、それらはンフィーレアでも教えられるだろう、そこから先を全部、人から教えられなきゃ作れない人物か…。
それとも基礎さえ覚えれば、後は勝手に自分で応用まで出来てしまう人物か…、それは追々判断して行けばいい、使えない者だったら、ポーション職人なら誰でも知ってるような知識くらいは教えて、勝手に店でもなんでも自分の力だけで出来る道を見つければいいさ。そうリイジーは思っていた。
だからと言って、自分の研究する時間を犠牲にしてまで教えてやる義理はない。
彼女自身、別に冷たい人間ではないのだが、経営者として、譲れないものがあり、競争相手になりそうなら、自分の立場を揺るがすような可能性は潰しておきたい、そういう思惑もあった。
とことん、リアルストな面もある彼女のそれが孫を相手に譲ってやれる最大限の譲歩だった。
「ありがとう、おばあちゃん。」
孫の顔に笑顔が灯る…ホントに大丈夫だろうか…、リイジーは思う…孫のンフィーレアに限ってそこまで心配することはないだろうが…今の夫婦生活にヒビを入れることになりはしないか?
異性を相手にする時、ポーションの事ばかりを教え込んで来たため、対人関係では意外に抜けていることがあることを心配していたが、カルネ村に来てやっと孫が持てた家庭という形、それが崩れたりしないようにと、リイジーはそのことも危惧していた…。
妻であるエンリ自身は、あのンフィーレアが、素で女性を口説くなんて姿を想像できなかったため、周りの心配をよそに、のほほんと構えていた、全くそういう心配などしてなかったのである。
★★★
「さて…やっと着いた、まぁ、ここまでゆっくり来てりゃ、もう見張りが見つけてくれてるだろうが…一応、声を掛けてみるか…」
そう言ってカルネ村の門の前まで来た1人の剣客、昨日の今日ですっかりカルネ村内ではウワサが行き渡ってしまったブレイン・アングラウスだ。
本人は噂になろうがなるまいが別にそこはどうでもいいと思っていた、どっちにしろ、自分の力量が上がるのなら、そのための努力は惜しまない、どのような状況でもそれを利用し、自らの力で切り抜けたい。それが彼という人間の原動力だった。
「お~~い、もう見張りからは丸見えだろ? 一応、昼にまた来るって伝えてあるんだが、あのお嬢ちゃんに伝えてくれないかな?」
下から見張り台を見上げ、そう声を掛けると、やはり上からずっと見張られていたのだろう、すぐに声が返って来る。
「わかった、朝に言ってた件だろ? ちょうど今、来客中なんだ、少しだけ待っててくれ?」
「あぁ、頼む…そんで、とりあえず、俺が肩に担いでるコレ、見えるだろ?この村に仲間入りさせてもらった新入りのオーガ達への差し入れだ、持って行ってくれないか?」
「えぇ? …それらかい? そんな大きさの
そう返答しながら、ちょうどお昼交代なのだろう、新しく来た2人を見張り台に残し、その場から2人、門番として下りて来てそれを受け取るも、さすがに戦士としての力量があるわけではないので、大人の男2人でやっと持ち運べる様子であったそれらを、軽々と渡すブレインと、よろつきながらも懸命に運ぼうとする大人2人の様子が対照的だった。
「よろしくな~?」
まだ村の中には入らない、そう約束した手前、肩に担いでいたモノは、彼らで運んでもらうしかないという仕方のない状況だが、さすがに荷が重かったか?と思うも、まぁ、何とかするだろう、とヨタヨタ歩く見張り番たちを温かく見守るブレインはどこか気楽そうだった。
それはまだ自分が持ちかけた条件を聞き届けられるのは当分先のことだろうと思っていたからなのだが、実はそうでもないというコトには彼自身まったく思いもよらない展開だった。
★★★
「あ、やっと来たようですね、フレイラさん、今話していた人が、今…門の外に居るという彼なんですが…、どうでしょう? そんなことって可能なんですか?」
先程、どうしようか散々に悩んでいた話をンフィーレアの知恵を借り、フレイラに相談する、という選択肢を見出していたため、ンフィーレアがリイジーの承認をもらうための説得をしている間、その話をしていた。
(フレイラのそばにベルリバーも居る為、必然的にベルリバーもその事情を聞き、耳打ちでフレイラに返答の通訳をしてもらっている形になる。)
「そうですね…、さすがに約束を破ったら心臓が破裂…なんていう魔法はありませんが…「ある条件」を強制的に認めさせる呪い…というのはあるらしいです、その条件を破ったら呪いが発動するという…約束を破らなければ「呪い」としての実害はないようですが…こっちに来てから試してはいないようですので…どういう形で作用するかわからないですよ?」
エンリからして見れば「あるんだ…本当に…」というある種、別世界のような次元の話だが、なんてことはないという風情で返答されてしまってはさすがに「そう…ですか…」としか言えなかった…。
現状、カルネ村のオーガはブレインがカルネ村に来るまで連れていた2体を入れたら
総勢で10体、二ケタに入ってしまっています。
1.オガ川
2.オガ村
3.オガ畑
4.オガ助
5.オガ平
6.オガ山
7.オガ沢
8.オガ田
9.オガ森(新入り)
10.オガ林(新入り)
こんな感じの名前でかなり安直。
防壁の建て増しをする、村の中で小屋を建てるための木材を運んだり、などで大活躍
コボルド勢は数としては多くなく30体程。(因みにゴブリンはトループを除いて50体程度)
コボルドは元々鉱山に住む土の妖精の出身という設定があり、鉄を腐らせるという性質がユグドラシルではあったがその設定を活かしてもらえる攻撃手段はなかった。だが、こちらの世界では問題なく普通の鉄製の武具ぐらいなら腐食させられる。(魔化されてる物はムリ)
なので、もったいなくて鉄の装備は与えられない。なので犬並みの嗅覚を活かしてレンジャーが適任だとカルネ村では思われている。
ちなみに石の細工や坑道掘りは抜群に上手い。それが今後活きるかどうか…。