気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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 この物語って、ホント、一日が経過するのがすごい長いですよね。

 一体、ブレインさんの運命はどこらへんで着地するのか…気になりますね。

 さて、それでは始まり、始まり…です、どうぞご覧ください。


第35話 カルネ村のお昼どき-Ⅱ

「お? やっと出て来てくれたな、エモットのお嬢さん。」

 

 カルネ村の門を開け、中から出て来たエンリ・エモット…、目の前のブレインは「血塗れエンリ」という名称を噂話で知っているため、現状、彼の前では「エンリ」という名は使っていない。

 

 それ故、ブレインの中では村から出て来た女の子が実は、ここの村長だということも知らない。

 もちろんそれは村のみんなにも伝えてある、自分をうっかり村長だとか、「エンリ」だとか言わないようにと言い含めてある…だから今もって、「エモットさん」という呼び方なのだ。

 

「お?今度は黒髪のお嬢さんかな? この村はずいぶんと女性比率が多いのか?ゴブリン以外で見たのは見張りの人らと、変な仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)だけだったからな、村の中は見てないから違うかもしれないがね。」

 

 

 さりげなく世間話から村の話題へと繋げやすいように話を振ってくれる、元々、人間関係に支障のあるタイプではないようで、一度気さくな対応を始めればそこまで尊大というほどではなく、何となくの親しみやすさをエンリは感じ始めていた。

 

「えぇ、初めましてブレインさん、お噂はかねがね…私はフレイラ・ルアル・アセンディア。どうぞフレイラとお呼びください。」

 

「あぁ、俺は…名乗らなくても知ってるかもしれないが、名乗られた以上、こちらも名乗らなくては失礼ってもんだ、こっちはブレイン・アングラウスだ。」

 

「それにしても…洗礼名までついてるのか?…それともただのミドルネームかな? …まぁ、詮索するのは性に合わないのでね、そこはいいさ、それじゃフレイラさんと呼ばせてもらおうかな?」

 

「えぇ、どうぞ、お好きにお呼びください。」

 

 ペコリと腰を軽く曲げ、会釈をする。しかし顔の向きはブレインから逸らしていない、微笑んでいるような表情だが油断はしていないというコトか…とブレインは判断する。

 

「黒髪のお嬢さんも強そうだね。歩き方からも真ん中に芯が通ってるみたいで揺らいでない感じが一目でわかる…、おっとイケネ、今は戦いを挑もうとしてる場合じゃなかったな…、で、どうだい?エモットさん、話は進んでるかい?」

 

「えぇ、今のところは順調ですよ? 先程このフレイラさんからお話を聞けまして、ブレインさんがこの前言われていたのとかなり近い魔法に心当たりがあるそうです。」

 

「ホントかよ…こっちは本気の度合いをわかってほしかっただけで、本当にあんな無茶な魔法を知ってる人を連れて来てくれると思わなかったぞ。」

 

「……ということは、この村の仲間入りをするためなら我が身も顧みないとおっしゃっていた内容は「心にも思っていない」と…そういうことでしょうか?」

 

 会釈から、背筋を伸ばした凛とした姿勢に角度を戻したフレイラがブレインに問いかける、どれだけ本気かの見定めを改めて自分の目で判断するためだ。

 

「いや? オレは自分が強くなれる可能性があるなら、それがどんな状況でも自分だけの力で切り開きたい、自分の目標とする場所まではまだまだ遠いという自覚はある、だからこそ自分を磨くための努力は惜しまないつもりだ、エモットさんの大事なものはこの村にある…それは理解しているし、オレの大事にしているものは…自分の力量を高めてくれる環境ただ一つ、それさえ整えてくれれば…まぁフレイラさんの言う魔法がどんな魔法だかは知らないが…、その魔法のせいで弱くなろうと、オレはまた自分の力で、元の力を取り戻し、さらにその上を目指すつもりだ。」

 

「そうですか、ブレインさんは勇敢なのですね、その精神を忘れなければ立派な武人となれるかもしれません。」

 

「世辞なんていいさ、それよりもその魔法とやら、どんなのなんだい? 大体の所を教えてもらえたらありがたいんだが?」

 

 〝「それには及ばない、それは私から答えるとしよう。」〝

 

 

 どこからともなくいきなり聞こえて来た重々しい男性の声、ブレインは聞き覚えのないその声に警戒の姿勢をとる。

 

「そう警戒しなくてもいいとも、今見えるように姿を現すから、緊張をほぐしてくれたまえ。」

 

 その言葉と同時に、昨夜の出来事が思い出される、今ブレイン達の目の前に現れたのは…エモットとの腕試しで、色々と自分に交渉を申し出て来た、一見、魔法詠唱者(マジックキャスター)に見えるが、しかしそうとは思えないくらいガタイのいい仮面の男(?)の姿だった。

 

「ブレインくんと言ったね、昨夜以来かな? ケガも無い様子で何よりだ。 それで、その魔法の事なんだが…」

 

 目の前の仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)が説明を始めようとしたところ、ブレインがそれを止める。

 

「ちょっと待った! あんたあの夜の人とは別人だろう? 何もんだよ…?」

 

 いきなり現れたゴウン様に驚いたエンリだが、なんとなくの違和感を覚える程度には「あれ?」という気分がぬぐえないエンリの中で、どこがどう…とまでは分からなかったが、目の前のブレインには目に見えて違う人だと分かるらしい、腰に佩いた刀に手を伸ばし、腰を落とすブレイン、一触即発の空気になるかとエンリが心配をしていた矢先、どこまでも軽やかな笑い声がその場に木霊する。

 

「はっはっは、あぁ、すまない、早くもバレてしまったか…キミらを騙そうとしていたわけじゃないんだ、一応魔法を使う者ってことでそれっぽい姿になった方がいいと思って真似をしてみただけなんだがね…、ボクもまだまだってことみたいだ…でもどうだい?見た目だけで装備品の効果は全く無いようなものだから…そんなに圧迫感は感じないだろう?」

 

「あぁ、だから分かった、声も違う感じで別人みたいだし、あの夜に感じた…その身に着けてる物から感じる圧力を全く感じなかったのも確信じみた印象をより強くしてくれたよ…。」

 

「そうか、声は真似をしようと思えば真似を出来たんだが…さすがに装備品まで同じのを再現は出来ないからな…まぁ、いいさ、キミらを騙そうというつもりは無くってね、自分が真似できる中で威厳のありそうな魔法詠唱者(マジックキャスター)のイメージがこれしかなかったんだよ。 まぁアインズさんとは別人だというのは隠すつもりもなかったから、バレたのならバレたでかまわなかったんだ、しかし見事なまでに見破られてしまったな、うんうん、ブレインくんは豪快そうな見た目にそぐわず、警戒心も高く、注意深い、この村の力になるようなら、アインズさんも喜ぶかもしれないな…。」

 

「あの…あなたはどちら様ですか?」

 

 そうおずおずと聞いてきたのはエンリだ、それはそうだろう、村の恩人、救世主であるゴウン様が現れたと思ったら実は別人だという…ゴウン様を真似している…つまりはバレなければそのままゴウン様に「成りすまそうとしていた。」というコトのように思えたからだ。

 

 もしそうならば…内心、返答次第では許しておけないという部分もあったが…。

 

「いやいや、エn…モットくん、キミには一度、会ってるはずだよ?この村で式を挙げた翌朝、アインズさんと一緒に居る所を見てるし、会ってるだろう?エルフと一緒に居た私だよ。」

 

「えぇぇぇ? あの時の方ですか? …あの、でも体格が…その…」

 

「あぁ、すごいだろ? ボクはね…変装の名人なのさ♪」

 

 無邪気に明るい声を出しエッヘン!とでも言いたげなふんぞり返り方…これはもう…変装というレベルじゃないと思うんだけど…と思っていると、エンリの中で確信じみた直感が芽生える。

 

(間違いない、このどこかずれた常識の持ち主、それを変だとも思っていないところ、この人は絶対にゴウンさまの身内、もしくはかなり近しい人だ。)…と、そんな認識を新たにしていた。

 

 

                 ★★★

 

 

「ところでよ、話の最中で悪いんだが、変装の名人さんよ、魔法の話って事だったと思うんだが、どんな内容なんだ?」

 

「あぁ、済まないね、それを話そうとしていたんだった、そうそう、その前にボクの名前はリバー・ベル…「ベル」って呼んでくれ」

 

「あぁ、俺の名前は…「あぁ、キミの名前は姿を消しながら聞いていたから大丈夫だよ、ブレインくん」

 

 名乗ろうとした矢先、食い気味に「別に知ってるからいいよ」とでも言いたげな返答をもらってしまうアングラウス。

 

「……そうか…それなら自己紹介もいらないな…それにしてもいきなりブレインと言われるとは思わなかったよ。」

 

「そうか…そうだね、親しき仲にも礼儀ありというからね、さすがに初対面で、名前呼びは馴れ馴れしかったか…それじゃ、改めてよろしく頼むよ、アングラウス君。」

 

 ヴェール像と、偽エルヤー像を知っている者らからすれば明らかに饒舌になっている感じだが、彼も「偽エルヤー」としてエルヤーロールを気にせずにのびのびと会話が出来るのはかなり久しぶりなのだ。 恐らく半分以上は、素の話し方に近くなっているのだろうと、腹の中のエルフ3名はただただ、状況を見守っていた。

 

 そして、門の前で、エンリとフレイラ、その後ろに静かに門柱に寄りかかり、いざという時があれば…と待機しているゴブリン兵士2名。

 

 そして、ブレインと対峙して、魔法内容を説明している、いきなり現れたベルという魔法詠唱者(マジックキャスター)

 

 エンリ自身は心のどこかで確信を得ているから警戒はかなり無くなってきているが、どうやらゴブリン兵士の2人。 

 

 ライマツとパイポは、今も、油断しないようにと、ジリジリ動きながらエンリのそばまで来ようとしている。

 

(ゴブリンさん達はゴウン様に会ったのは式の当日の昼間だけだろうから、特に親近感とかないだろうし、私みたいにゴウン様になりすますって理由で怒るとも思えないよね…となると、やっぱり私の身の安全?…ってことなのかな?)

 

 などとぼんやり思っていると「…とまぁ、こんな感じだね、魔法の効果の方は分かってくれたかな?」という声が聞こえた。

 

 どうやらアングラウスさんに魔法の説明は終わったみたい、私には魔法がどうのなんて、よくわからないから聞き流してしまった。

 

「今の話からすると、俺は誓わせられる必要が有るみたいだな…何を誓えばいい?」

 

 真剣な眼差しでベルさんを見るアングラウスさん、それに返した回答はあっさりとしたものだった。

 

「いや、そんなに気負うことはないと思うよ? カルネ村を裏切らない、っていうのでもいいと思うし…でもそれだと判断基準が難しいよね、どこからどこまでが「裏切った」という線引きで判断されるかわからないからある意味危ないし。」

 

「それだと…こういうのはどうだ? エモット嬢ちゃんの指定した…又は指示以外で村の外に出た場合に発動…とかは。」

 

「あ、それはいいかもしれないね。でもそれだと魔法的に…例えば支配系の魔法、魅了、拘束系の魔法に…あとは意識を失わせるとかの効果を使われて、自分の意に反して村の外に出る事になった場合を除いて。って入れておくのは必要でしょ?万一を考えてそこは必要じゃないかな?」

 

「そんな複雑な条件は有効なのか?」

 

「この魔法を使ったのはもう5年前くらい?いや、もっと前だったか…まぁ、でも受け入れられなかったら、何も効果は起きないだろうし、そこはやり直して考えよう。」

 

「…魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのに、意外と適当なんだな、あんた…。」

 

「まぁ、そこら辺はこっちの国に来て初めて使う魔法だからね、何とも言えないのさ、国が違うだけで効果がまるっきり変わるとは思えないけど…、ちょっとした言い回しで変な結果に終わっても困るだろう?」

 

「ま、そりゃ~な、俺自身の身体のことだし?万全を期してくれるのはありがたいが…。」

 

「それに材料をそろえる必要もあるのはさっき言った通りだけど…、まずは確定なのはコウモリの羽根が一対、あとは、アングラウスさんが呪われの効果を発生させた時、どんなモノに変えさせられたいか、って言うのもある程度考えておかないとね…なりたいモノの身体の一部が触媒として必要だから…。」

 

「その一部って言うのは何でもいいのか?」

 

「そうだね、例えば、毒ガエルに変えてやりたいって思ってるけど、相手にそれを悟らせたくない場合、カエルの耳腺あたりから分泌される体液や、毒液なんかをこっそりコウモリの羽根に染み込ませておくとかかな…、あとは、わざと相手が普段している行動…それも無意識でやっちゃうようなクセを指定して、相手が「一度なってみたいよな」って言ってた動物に変えてあげちゃうとか…って使い方もある。」

 

「おいおい…この魔法って一生ものなんじゃないのか? 一度呪われたら、解呪できないんだろ?」

 

「そんなこともないよ? 術者が心の中で「解呪条件」を指定しておけば、呪われた後でも「その条件」が整えば勝手に効果は消失することもある、って、説明文に書いてあったような気もするしな…、まぁ、かけられたのが女性だったら王子様のキスで元に戻るとか、そんな定番なものから…、ヒキガエルに変えさせられた王子様が、清らかな乙女の口づけで呪いの解除っていうのも出来なくはない仕様になってたはず…うん、多分そうだったはず。」

(ユグドラシルでもアバター同士が顔を近づけるくらいは問題なかったはず、唇がついたかどうかは、発光エフェクトで隠されてたからBANはされなかったギリギリラインだったろうし…。)

 

 ポカンと口を開けていたブレインが、苦笑したような顔になり、「どこの世界のおとぎ話だよ、そりゃ!」と、つっこみを入れている。

 

「とは言え、特に術者が指定しなかった、指定するのを忘れた場合、もしくはコウモリの羽根しか用意できなかった場合なんかの時は、自動的に最初に設定されてる「ヒキガエル」になるからね。 それに対して同じ材料を揃えてから、「対抗呪文」を唱える必要がある。」

 

「あんたはその「対抗呪文」って使えるのか?」

 

「いや、ボクはそっちは覚えてない。」

 

「オイ!!」

 

「や~、問題ないって、「対抗呪文」の方はアインズさんが覚えてるから、頼めば、戻りたい時は戻れるって…とは言え、ちゃんと「戻りたい」って意思表示が出来る生物になってる必要はあると思うけどね。」

 

 この「対抗呪文」というのは、ユグドラシルで開催されたイベント…新規加入勢を視野に入れての、難易度の低いストーリー形式、そして面の最後にでるボスを、そのイベントで得た魔法を使い(その魔法を中心に組み立てなければ勝てないようになっていた。)倒すことで面クリをし、徐々に「そのイベント」で悩んで苦しんでいる。という設定のNPCを救っていく、という流れのものだった。

 

 それは必ずしも呪う方でしか…というコトはなく、「対抗呪文」の方であっても一連の行動の中で組み入れておけば問題はなかった。

 

 そのイベントで、一つの舞台をクリアするために、その舞台ごとにクリアする条件として必須だった複数の魔法(1つのステージで1つが原則)があったが、全員が覚えている必要はなく、パーティメンバ―の中で1人が覚えていればいい。

 

 必然的に全員が全員、覚えたくもない魔法を覚えなくては…という無駄なデータを圧迫することにはならず、それぞれの状況に応じたイベント魔法を覚えていくことが出来た、ベルリバーが覚えたのが、契約、もしくは誓約を守らせるために本人の忌み嫌う、それにだけはなりたくない、という忌避感を利用して服従させるための物。

 

 そしてギルド長であるモモンガが覚えたのが、それぞれのイベント魔法の効果を個別で打ち消せるよう「触媒」に同じものを使用することで「対抗」して呪いを解いてみせるものだ。

 

 本来は、趣旨に沿って、嫌がる姿にするぞ?という脅しを持ち掛け、従わせるのが運営の用意したあるべき姿なのだろうが、彼、ベルリバー自身は全く違う使い方を良くしていた。

 

 種別としては「呪い」になっているが、相手に喜んでもらうため、敢えて解呪条件を相手に知らせることで、ちゃんと元の姿に戻れるように…というある意味、変身願望を満たしてあげる為、という使い方がメインだったのだ…。

 

「さて、アングラウス君は何になりたい? ずっと、滅ぼされない限り寿命もなく…でも無力な存在、って言う事ならスケルトンの骨、を材料にすればいいし…」

 

「いやいや、さすがに冒険者に速攻で滅ぼされそうじゃないか?…そんなレベルのスケルトンにされたら武技も使えなそうだし…まず解呪される前に死ぬ…いや、滅ぼされるって言った方がいいのか? …なんだろ?」

 

「そうか…なら死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)…それか異形なる大魔法使い(デミ・リッチ)とか…いや、アングラウスさんは剣士だし…そうなるとデスナイト?とかかな?」

 

「おいおい、さっきから、なんでアンデッドにしようとしてるんだ? 間違っても間違わなくても討伐の対象じゃねぇかよ!!」

 

「ん? あぁ、いやいや、そのくらいの方が、「そんな姿になるくらいなら」って気持ちが働いて、契約を破ろうとは思わないでしょ? 好都合じゃありません?」

(ホントは、NPCとか召喚モンスターとかみたいな「レベルが完結」してる存在は、どんなに戦闘させてもレベルは上がらない…それならアングラウスさんをデスナイトにしたら…レベルは上がるかな? って言うのもあるし…デスナイトのレベルなら、武技も失ってないだろうし…でも自我の方はどうなるんだろう…こっちの世界だと…。っていうイレギュラーがどんな進歩を見せてくれるか…それとも何も変わらないのか…

 でもそれが解決できるなら、「体はデスナイト!頭脳は人間、その名もブレイン・アングラウスデスナイト!」とか名乗れるようになるかもしれないよな…。な~んて考えてるからなんだけどね…。)

 

「理屈からしたらそうだろうけどよ…ちょっとアンデッドから離れてくれねぇ?」

 

「すみません、リバー様、私からも1つ案を申し上げてよろしいでしょうか?」

 

 珍しくフレイラから率先して、乗り気な姿勢が言葉で表されている、これは何かいい案でもあるのか?

 

「あぁ、いいぞ?どんな内容か聞いてみたいな。」

 

巨身ウサギ(ジャイアント・バニー)などはどうでしょう?」

 

「え?いきなり動物か…理由を聞いてもいいかな?」

 

「はい、ウサギという種は聞くところによると繁殖力が非常に旺盛らしく…性欲の塊、年中発情しているそうで…しかもメスは身ごもっている最中も、さらに妊娠できるとも言います。」

 

「ん? なんか着眼点がおかしくないか? …いや、まぁ中断させてすまない、続きを聞かせてくれ…」

 

「それでは続きを…、アングラウスさんにはその姿になった時、目印になるものを身に着けていただき、群れのリーダーに…そして、巨身ウサギ(ジャイアント・バニー)はゴブリンさんや、村のみんなで協力し飼育、そして繁殖を繰り返せば、オーガさん達への食糧問題も同時に解消できる妙案になるのではないかと…幸いカルネ村は平原で植物も育ちやすい…繁殖が危険レベルの…できればイネ科か、牧草と言った植物を村の外で育てれば、巨身ウサギ(ジャイアント・バニー)のエサの心配も必要なく、日々、適度に間引きもできて、ちょうどいいのではないかと…。」

 

「あぁ、それはいいかもしれませんね、大きさ的にも、オーガさんが食べる分には問題なさそうですし…そんなに増えやすいなら…」

 

 そうエンリが素晴らしい話を聞けたとばかりにフレイラの案に飛びついている時、冷静な声が二人の間を切り裂く。

 

「なぁ、あんたらさ…本当に俺をすぐ元の姿に戻してくれる気…あるんだよな?…あるんだよな? …な?」

 

 少し気まずい雰囲気になってしまった3人であった。

 

 

 とりあえず、結論はアングラウスさんに考えてもらって、夕暮れを過ぎ、夜になってからもう一度聞きに来る。ということで話は落ち着いた。

 

 その間、彼は門柱の横、そびえたっている壁に背を預け、座り込みながら、ずっと「なににしようか…」と考えてるようだった。

 

 

 ゆっくり考えてもらって差し支えない、こちらもコウモリの羽根をどこかで調達しなければいけないしな。とベルリバーも思っており、それなら昼間っから洞窟なんか探し回るよりも夜を待って、スキル《誘引の色香》を使っておびき寄せた後、必要な分を材料としてストックしておけばいいかな…と考えていた。

 

 

                   ★★★

 

 

「おまたせ、フレイラさん、お婆ちゃんの許しは出たよ?とりあえずはボクが案内して、説明することになったから…よろしく。」

 

 そう扉を開けてンフィーレアが飛び込んできたのは、ブレインとの会話を終えて、再びゴウン様姿のベルリバーが姿を消した直後だった。 フォーサイトのみんなは食事を終え、カルネ村を見学して回っている。

 

「あ、もうお許しが出たのですか? それは喜ばしい限りですね、よろしくお願いします。」

 

 そう言ってすぐにンフィーレアさんの後を追おうとすると、エンリさんに服の裾をつままれる。

 

「どうかされましたか?」

 

 後ろを振り向いてエンリさんの方を見ると心配そうに小声で忠告してくれる。

 

「フレイラさん、気を付けてね、あそこは…匂いだけは別の世界みたいな感じだから…しかも部屋の中はもっとすごいことになってるからね…。」

 

「ありがとうございます、気を付けておきましょう。」

 

 そう短くお礼を言うと、ンフィーレアに着いていく最中、<風のささやき(ウィンド・ヴォイス)>を使用して、ベルリバーにも一応報告、「悪臭注意、だそうです、マスター。」

 

 すると、透明となって傍に着いていて下さる我が主から返答がすぐに帰って来た。

 

「お前の<無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)>に、無臭(オーダレス)の効果のポーションが入ってたろ?それを出して、数本使っていいぞ?」

(ネコ科で、犬科とは違い、そこまでの鋭敏嗅覚は無いとは言え、女の子だからな、匂いとかそこらへんがキツいのはツライだろう。)

 

「は…御身の思し召しのままに…」

           ・

           ・

           ・

「さて、着いたよ?ここが僕とお婆ちゃんが使ってるポーション工房さ」

 

「これは…たしかにエンリさんがおっしゃることが理解できますね、すごい所です…。」

 

 外から建物を見ているだけで独特の匂いが立ち込めている、これで残り香だというのだから、中に入ったらさぞや濃厚だろう。

 

「あの…ンフィーレアさんはここに…その…マスクもナシで?」

 

「ますく? …何のことかわかりませんが、いつも身につけてるのはこの服とエプロン姿なのは日常通りですよ?」

 

(この世界にはまだマスクが開発されていないのか…となるとニオイ自体には毒性はないみたいだ、毒に対する耐性を持っている自分でさえ、これが匂ってくるんだからな…さて、どうするか…自分はいいが、さすがに自分の娘(フレイラ)にこの悪臭で長時間を過ごさせるのは…色々と考えてしまう…。)

 

(仕方ないな…1個しかないが、使い道も他にないし、アレをフレイラに使ってもらおう…多分効果を発揮してくれるはず…)

 

 そう思い、ベルリバーは姿が見えないのをいいことに手を中空に突っ込み、無遠慮に、警戒することもなくごそごそと中をひっかきまわし、かつて、アニメ好きだったギルメン…ちょっと厨二病っぽいポーズがふんだんに盛り込まれてた作品に熱を上げていた彼に「よかったらコレ…」と言われ、贈られた物を探し出す。

 

 それは、「修行のマスク」と彼に作成時名づけられたもの、なんでマスクなのに修行なのか未だ自分にはわからないが…説明されていた時、波紋がどうの…修行する時に力を制限することで…とかなんとか…かつて大ブレイクしたという『〇ラゴン〇ール』の修行みたいなものだろうか…重い物を身に着け生活することで装備を外した際の能力値の向上を期待できるとか…そういう感覚に近いのだろう…それでなんでマスクになるのか、答えは出ていないのだが…

 

 見た目はゴツイ感じで、柔らかい布性ではなくガーゼっぽくもない、ただただ怪しい金属風のマスクだ…。

 まぁ、ユグドラシル製でガーゼにしたりとかすると世界観が…っていう意見もあったんだろうな…。

 

 一応<道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)>を発動して、効果を見ると説明文にも申し訳程度に「悪臭もシャットアウト?」と書いてある…。

 

 断言されてないところが少し不安だが…

 

 実際はそのマスク、アインズが持っていたドレイの首輪の外装をしていたアレと原理は同じだが、呼吸の量を調節させることで、能力値のダウン数値が10%ダウンにまで減少率を抑えられる。その代わり、あまりに激しい運動量を課されると、疲労の消費率が格段にアップするという特性がある。

 因みに魔法の詠唱は全く障害にはならないので魔法詠唱者(マジックキャスター)には倒した敵の経験値がアップするという利点とステータスのダウンを天秤にかけてどっちが得か…という損と、得、どちらを優先するか、という基準でしか恩恵はないのだが…。

 さらに毒性の空気で有名なナザリックの宝物殿…そこへと向かう途中にある「ブラッド・オブ・ヨルムンガンド」の猛毒効果内でもダメージ量を3分の1にまで減少させることが出来るという効果もある、それくらいなら「毒に対する完全耐性」を持っている方がいいだろうと思うのだが…選んだ種族的にそれを取得できない場合、アイテムで取得するか、わざわざ特殊条件を手間をかけて、自分の理想とするビルドから遠回りしてまで「毒に対する完全耐性」を身に着ける必要が有るか…? それだけの労力を割くよりも…という葛藤もあってのアイテムだった…らしい。

 

 ベルリバー自身、そこらへんは特に意識してはいなかったが、二戦級で細々とプレイしていた彼はギルドメンバーからすればある意味救いであった…。

  

 それもギルド内でベルリバーよりも上に行けたか、まだそこにまで至っていないか…という基準として…特に悪い意味で言われた事は無かったため、ベルリバー自身思う所はなかった、そのせいで一部のプレイヤーを除き、同じギルメンでも、罪滅ぼし的な意味も含め、罪悪感、後ろめたい想い、などもあるが、単に可愛がられ体質だった彼は、よく色んな人から贈り物をされるのが日常であった。

 

 そのため、自分で取得した、もしくはドロップさせた物は自分の判断1つで売りさばいたりも出来たが、人からもらった物は「その人の想い」が込められてるという感覚から、1つも売りに出すことは出来ない性格だった。

 

 そう、それが例え、処分品扱いで「これやるよ。」程度の認識でもらったものだとしても…。

 

 その、ある意味「防毒マスク」に見えなくもない外装のアイテムをフレイラに握らせる。

 

「あ…あの、これは…?」

 

 思わず声に出してしまったフレイラだが、扉の鍵を開けることに意識が向いているンフィーレアはその声が届かなかったようだ。

 

風のささやき(ウィンド・ヴォイス)>の効果時間はまだ続いているため、その効果を使い、返事を返す。

 

「それは仲間からもらった物で、悪臭を軽減させる効果があるらしい、自分はもう一つ持ってるから、フレイラも一緒に身に着けておくといい。」

(もちろん、フレイラに遠慮させないための方便だけどな…それ一個だけしか持ってないし…)

 

「ありがとうございます、大切に使わせていただきます。」

 そう言いながらそれを身に着けるフレイラ。

 

 ベルリバーの感想は、何と言うか…大人しい清楚な和風女子が、そこだけパンクロックにしてるような…そんな微妙なミスマッチ感を覚えるが…実用的な面で仕方ないよな…とあきらめる。

 

「さぁ…開きましたよ。 フレイラさん、どうぞ…って、それが…ますく、という物ですか?」

 

「えぇ、材質を表すものではなく、このように、鼻と口を覆う物、それで、口や鼻に悪い菌が入らないようにするために開発された物が「マスク」です。」

 

「キン…ですか…フレイラさんは博識ですね、今度そのキンという物についても教えてくださいね?」

 

 笑顔でそう言うンフィーレアの後に着いていくフレイラ、そしてフレイラに着いていくベルリバー。という隊列を組んで歩く三人パーティ(1人は透明だが…)みたいな構図になっており、扉をくぐる際、さりげなく匂い消しのポーションを一本、通路の中ほどに一本、さらには工房内部…実験室だろう場所にも一本という計3本をンフィーレアに見えないように振りまいて、空き瓶をこっそりしまい込んだ。

 

 

 そこは薄暗い、という程ではないが、灯りが行き届いているというには少し心許ない。

 

 光や、灯りの熱で、薬草成分の変質を抑えるためだろうか…それぞれの薬効成分が変わらないようにそれぞれの材料ごとに瓶に入れられている。

 

 フレイラ自身はまだマスクを装着中だ、匂いを消すためのポーションを振りまいたが、いかんせん、空気中の匂いは消せても、長い間、壁に染み込んだ匂いまではどうにもできなかったようだ…さすがに見ている前で(瓶に入っているとは言え)薬草のある中、そこらの壁にポーションの液体をかけるのはマナー的にまずいだろうと、出来ないでいた。 

 

 

「それぞれの瓶に名称などはついていないのですね…」

 

 ふと漏らしたフレイラの言葉にンフィーレアが親切に説明を返してくれる。

 

「すみません、今までお婆ちゃんと二人での作業だったので、その必要がなかったんですよね、お互いに素材になる材料の名前を言えば、何を持ってくればいいかわかるので、必要性も無かった…と言った方が近いでしょうか…」

 

 と、申し訳なさそうに言うンフィーレアは、ご丁寧に端から端までの瓶の中に入っている素材を薬効成分から何から…応用に使う時には…とか別の材料と組み合わせると、こんな風に変質する…だとか、ベルリバーには聞いても分からない知識だが、フレイラなら理解できるだろう…と思っていた、そのために作成者(プリペアー)というクラスを持たせているのだから。

 

 ふんふん、としきりに頷いているフレイラ。

 

 その脳内では知識を教えてもらうたびに「learning…」「learning…」と、響いている。

 

 作成を得意とする「作成者」そのスキルはあらゆる意味があり、用意する、準備をする(させる)、調理する、作る、調剤する、調合するというモノの他にも心構えをする(させる)などの意味も含まれることから、それらの行動を効率的に行えるクラスである。

 更には1LVのコックしか持たないフレイラが通常の料理もそれなりに作れるのは「作成者」の調理技能も多少加算されているという側面もある。

(レンジャーのように採取する能力までは備わっているか…甚だ疑問ではあるが…)

 

 そういう面もあり、この世界に来て初めての薬草知識、それらを言われるたびにそのままを学んでいく。

 

 ラーニングという「作成者」独自のスキル、それをふんだんに使い、説明に矛盾を感じる点が脳内でヒットすると、すぐにそれを疑問としてンフィーレアに問いかける。

 

 ンフィーレアも自身のポーション知識をいくら披露してもイヤな顔一つせず…しないどころか突っ込んで聞いてくれるフレイラに、説明のし甲斐を感じ、彼自身も知る限りの知識を披露する。

 

 それは知らない者からすれば、ウンザリするほどの仕事内容への自慢にも聞こえるようなモノばかり、さらに専門用語まで遠慮なく使ってくるものだから、その専門用語も一緒にフレイラはラーニングで覚えてしまう、普通の人であれば理解が追い付かず、話をすること、説明を聞くこと自体を投げ出してしまうような情報量を吸収し、一度言えばすぐに覚えてしまう彼女を見直しているンフィーレアは、フレイラにとって有意義な情報源として活用し甲斐のある相手、教えられた内容はそのままどんどん吸収していく。

 

 

 

 

 そして、説明を聞き終わる頃には、瓶の中にある薬草はそれぞれが目で見るだけで、瓶の上に付箋のようななにかが空中にプカプカと浮かび、その名称が表示されて見えるようにまでなっていた。

 

 もちろん、使うための器具、ビーカーのようなものからフラスコのようなもの、ユグドラシルでポーションを使う際に必要だった器具もその中に混ざっている。

 それらももちろん、名称がプカプカと浮いて見える為、準備するのにかなり役立つ、

 

 彼女からすれば、初めて聞くこの世界での薬草知識であるため、話し始めれば止まらない彼の、微に入り細に入る説明は、先入観すら持ち合わせないフレイラにはありがたいものだった。

 

 すでにいくつかのポーションの作成手順は頭の中で「レシピ」として候補に挙げられているが、まだ実験もしていない為、どれだけの手間か、そして、それにどれだけの期間が必要か…

 彼女には全くそこら辺の感覚は実感として身についていないのでわからない…。

 

 そこで彼女が一つンフィーレアに聞いたこと、「ここになにか書き留めるモノというのはありますか?」という問いだった。

 

 ンフィーレアが魔力の込められていない、店売りの物で購入した一般的な羊皮紙、それに羽根ペンにインクを用意してくれたため、それに一番上の候補にあがったレシピを書き写していく。

 

「あの…それは?」

 

 そう問いかけるンフィーレアを取り合えず放置して、書き終わるまで書き終えてからンフィーレアに説明をする。

 

「とりあえず、私が今の説明を一通り聞いて、思いついたいくつかの配合例の1つです、可能な限りわかりやすく書いたつもりですが…よかったら試してみて下さい、すでに試されていたのであれば未熟者のお目汚しで申し訳ありませんが…。」

 

「でも、あの…これって、どこの国の言葉ですか? …その文字が…読んだことないものばかりで…。」

 

「え? …あ、そう…です、か…、すみません、私の国の文字をそのまま書いてしまいました…あの、<言語読解(リードランゲージ)>の魔法とかは?」

 

 そう申し訳なさそうに頭を下げるフレイラにンフィーレアは、その名前に聞き覚えがあることを思い出す。

 

「あぁ、その魔法なら、たしか似たような名前のを…お婆ちゃんが使えたはず…だったと…思う。」

 

「それならお婆さまに読んでもらってください、お力になれれば嬉しいですが、もし御不用であれば、捨ててください。」

 

「あ…はい…」

(なんのポーションを作るための配合なんだろう…?)

 

 

「さて…と、それではンフィーレアさん、そろそろ行きましょうか?」

 

「え?どこに…ですか?」

 

 素で、何のことを言われているのかわからないンフィーレアが何のひねりもない返答を返すと…

 

「もしかして、お忘れですか? エンリさんにお夕食の際にはちゃんとお戻りになると…そのように仰せだったのでは?」

 

「あぁぁ~~~~!!!」

 

「お忘れだったんですね…、もう陽も傾いて、外は暗くなり始めてる時間ですよ?」

 

 いたずらっぽく、くすくすと口元に手をやり笑うフレイラに対し「ごめん、お婆ちゃんに一言だけ言ってくる!」

 

 そう言って駆けだすンフィーレアに苦笑交じりではあるが、「世話の焼ける子」という風な目が混じっていることには当の本人も分かっていない感情であった。

 

 

                   ★★★

 

 

 工房の一角、とある一室の扉がガチャリと開く。

 

「さて…と、やっと行ったかい…ずいぶんと長い間居座っていたもんだが…ンフィーレアのあんなまくし立てる説明で、どこまでわかっているのやら…」

 

 ンフィーレアと、孫が気に入ったという女が工房から消えてからしばらく…静寂が戻って来たその実験室にふらりと現れた人影…「部屋にこもる」、そう言っていたリイジーが扉を開け、その部屋から出てきてつぶやいた後、先ほどまで続いていた様子を思い出していた。

 

 孫のンフィーレアに家庭を大事にするという認識が出来ていることは喜ばしいことだが…くれぐれも彼の父親母親のような道を歩んで欲しくないリイジーは特に「夕食までに帰りたい」という孫の言い分には難色は示さず、「あぁ、いいよ、いっといで?」と、短く端的に呟き、送り出していたのだ。

 

 さすがに扉の外でもあれだけ興奮して説明していれば孫の声が工房中に響き渡ってるのでは?と思うほどに扉ごしにも何を言っているのかは伺えたからである。

 

 それは、最初こそ聞き流していたが、時折孫の言葉に反応し、逆に説明の穴をついて質問をするという行動、そして成分から配合まで本当に理解しているかのような言葉に少しばかり興味を持ち始め、とりあえず、実験をしながら、聞くとはなしに孫の講習を聞いていた。

 

「さてさて、思いついた配合例だって?ずいぶんなことしてくれるじゃないか…基礎知識を聞いたくらいで思いつく程度の…」

 

 と言ったところで手が止まる。

 

 たしかに今まで見たこともない文字だ、どんな規則性があってこんな言語が完成されたのかわからないが…。

 

 しかしポーション職人として、どんなことが書かれているのか…興味がある。

 その内容が、取るに足らないにしろ、新しい配合例だったにしろ、自分に見ないという選択肢はないとばかりに、どんな文字でも、例え異国語でも亜人語でも読むことのできる魔法を唱え、それを読む…。

 

「こりゃ…」

 

 そう一言だけ言うと、書いてあった材料を一通りひっつかみ、リイジーは元の部屋に移動し、扉を閉める動作ももどかしいらしく、荒々しい音を立てて扉を閉め、中にこもってしまった。

 

 

                   ★★★

 

 

「こちらにも、あの星は明るく照り付けているのですね。」

 

 そう感慨深く漏らす言葉はフレイラの本心であり、ある意味喜び…、自分が創造され、その真価を発揮することができる環境だったということが初めて理解できたからである。

 

「あぁ、月ですか…キレイですよね、夜は特に映えて見える天体ですから…夕月も悪くはないですけど、やっぱり夜の方がきらめいて見えますね。」

 

(こちらでもあれは「月」という名前で通じるのですね…、会話が通じる以上、名称も翻訳されて伝わっている可能性もありますか…。)

 

 心の中でそう思いながら、ンフィーレアの言葉に「そうですね。」と肯定の意を示すフレイラ、そうして歩いていると村の中なので、すぐにエンリの家にたどり着く。

 

「それではこれで…ンフィーレアさん、また明日の朝に時間があればお会いしましょう。」

 

 エンリの家の扉の前にまで来たンフィーレアにそう告げて、フレイラはどこかへ行こうとしていた。

 

「あ…あの…フレイラさん、どちらへ?」

 

 急に居なくなろうとしているフレイラを心配して呼び止める。

 

 昼間の話の流れでは、この村に泊まるとも、空き家のどれかを使うかどうかなどの話もしていなかった筈だ、野宿でもするつもりなのだろうか?…と不安になったためだ。

 

 くるりと振り向き、足のくるぶしまで隠れている裾の長い異国風の服を翻すような動きでンフィーレアの方へと振り向いたフレイラがふわりと微笑む。

 

「あぁ…、もういい時間なので、村の外に出て、多分今も悩んでらっしゃる剣士さんの様子でも見に行こうかと思いまして…それに新婚の家に居座るほど図々しくはないつもりですからね?」

 

「え…えと…それなら…この村の空き家でもどこかお貸ししましょうか?エンリにも伝えますので、さすがに夜の屋外は寒いでしょうし…。」

 

「大丈夫ですよ? お申し出はありがたいですが、そのような事を帰宅早々切り出したりなどされてはまた、エンリさんのご様子が昼間のようになったりはしませんか?」

 

「あ! …そうだ…まだ怒ってるかな…エンリ…どうしましょう…フレイラさん。」

 

 ふふ…という笑みがつい出てしまったフレイラからすれば「もうエンリさんは怒ってなどいませんのに…」という気持ちはあるが、エンリの意志を尊重して、そこは敢えて言わないでおく。

 

「それならこれをどうぞ…」

 横にいるベルリバーが、余りに余りまくってる<無臭(オーダレス)>のポーションを2~3本あげてみたらどうだ?との言葉をフレイラに語り掛けたため、創造主のお望みどおりに…とばかりに3本のポーションをンフィーレアへと手渡す。

 

「あの…これは? 見たところ、無色透明の様ですが…?」

 

「それはどのような匂いも消せるポーションですよ、同様にいい香りも消してしまうので、使い方は考えた方がいいですが…エンリさんも女性です、時には自分の匂いが気になることもあるでしょう…それを1本お土産として差し上げてください、もちろん私からなどとは言ってはいけませんよ? あとの1本はンフィーレアさん用、3本目のは、現物保存用として…同じものが作れるように残しておいてくださいな。」

 

「これを…ですか? …まだ青いポーションしか作れていないというのに…出来るでしょうか…?」

 

「え? こちらでは赤いポーションは一般的ではないのですか?」

 

「はい…あ、あの…もしかして…フレイラさんもゴウン様と近しい方だったのですか?」

 

 思わず自分の口を手で覆ってしまう…。

 

 どうしよう…どう返事をしよう、誤魔化そうか…それとも黙秘権でも…と思っていると、自らの主、ベルリバーから肩をポンポンとされ、背中に「OK」というサインが指でなぞられる。

 そして耳元で小さく「だが内密にな…と言うのを付けてな?」と耳打ちされる。

 

「それは…ご想像にお任せします…ですがそのことは軽々しく口にしない方がいいですよ?」

 

 と、優しく言い含めるに留めておいた。

 

 ンフィーレアにはなんとなくそれだけで、「何かの事情で今は…」という意味は伝わったようだ。

 

「はい、わかりました、それでは、これは僕からのお土産として…ってことでエンリに渡しますね?」

 

「くれぐれも、昼間のお詫びとして…それと、あの時はごめんね?と言うのを忘れてはいけませんよ?」

 

 笑顔でンフィーレアに軽く指を突きつけるようにしたフレイラに「はい!」と返事をしてンフィーレアは扉を開けようとし…。

 

「でも本当に、空き家の件はお世話しなくて大丈夫なんですか?」

 

 そう言ってくれるンフィーレアに、うなずきながら…

 

「ご心配なく、私のことは自分で何とでもできますから。」

 

 とだけ言って、ンフィーレアにおやすみの意味を込めて手を振ってドアをくぐるのを見守る…しばらく心配そうな目を向けられたが、意志が固いのが伝わったんだろう、扉を開けて家の中へと入っていく。

 

「ただいま、エンリ。 」

 

 そう言いながら家に入ったその姿を見届けると、安心して村の入口で頭を悩ませているだろう剣士の元に歩いて行くのだった。

 

 




一応、書きながらでしたが、思ったこと、ンフィーレアはフレイラには好印象こそありますが、アインズに言われたこと、「紫のポーションのことは伏せた方がいい」という事が念頭にあります。

さらに彼の中では変にそのことが広まれば、トロールに村が襲われた時のように、またあの騒ぎの再来が起きるのでは…という想いがあるため、フレイラには「青いポーションしか…」と言うに留めています。

生まれたばかりで青いポーションなど見たこともないフレイラ自身は、まさか赤いポーション以外の物が一般的などとは思っていなかった、という側面があります。

ちなみにエンリとンフィーレアは2人で、エンリの住み慣れた「エモット家」に新婚暮らし。
その家と「現村長の家」は別の場所で、元村長の家を使わせてもらってます。
その方が村民も「村長の家」を覚え直す必要がないだろうというコトで…
 つまるところ、プライベートと、仕事の住み分けですね。 

アルシェは、エンリの結婚式直後は、式を挙げた家に泊まっていましたが、今は自分達3人が住むための家を融通してもらえました。 元村長夫婦はアルシェのお世話係のように、(孫に対するように)日々の生活を手伝っています。

ヘッケラン、ロバ―デイクは一件の空き家をあてがわれ、そこにお泊まり。
翌日の夕方から墳墓調査があるので、そこから戻ってきたら、正式に村への移住を申し出るつもりの様です。

イミーナは、厚意で「アタシんとこに来なよ。」と言ってくれたブリタさんの家に身を寄せてる感じ。
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