気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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前の話で、腕輪のルビを「バックル」と書いてしまっていましたが、正しくはバングルだったという事に気づき、修正しました。


今回でやっと修行編は終了、次からはいよいよ墳墓の方へと向かうことになります。

ここまで来るのに全50話…長かったです。


第46話 みんなで特訓、レベリング![帰還!カルネ村]

 カルネ村の朝は早い。

 

 

 とは言っても、それは、自然に染みついてしまった行動のようなものだ。

 

 時間になると、なんとなく目が覚めてしまう。

 

 ゆうべはあれから、騒ぎと言ったような騒ぎもなく、夜の方も平穏な時間で過ごすことが出来、昨夜は心行くまで愛しの夫との時間を満喫することが出来た。

 

 

 そんな隣では、夜のうちに体力も…男性としての活力も、全てエンリの求めに応じて張り切りすぎた結果、泥の様に眠って起きてくれない夫であるンフィがいる。

 

 

 無防備に眠りこけている夫を見ているとつい「可愛い」と思ってしまうのは妻の欲目であろうか…。

 

いつまでも、こんな日々が続いてくれればいい…そう思いながら夫の髪を優しくなでる。

 

 ンフィとの生活は最初こそぎこちなかったり、不安だった部分もあったが最近はそういう部分も少なくなっていた。

 

 自分もンフィに無理を言うつもりはないから、出来ないことを要求することは無い。

 

 しかし、家の事や、私生活での様々な場面、村長代理としての役目、村では貴重な…難しい文字を読めたり貴族や王家などの紋章などの知識を知る者は全くと言っていい程ココには居ない、その為、商取引や、政治的な駆け引きなど(ただの村なので、そういう話は今のところ来ていないが…)や、村内の在庫のチェックや発注など…挙げればキリがないが、私の及ばない部分のかなりの面を彼はフォローしてくれる…そんな優しく頼れる人。

 

 そして、その仕事も終えて、夜になると私の要望を「必ず」受け入れてくれ、こなしてくれようと毎日「励んでくれる」彼の…昼夜のギャップが今ではエンリを「クセになっちゃったかも」状態にしていた。

 

(エンリ自身は気づいていないが、これも夜の方のお願いは、ほとんどエンリの「望み」であり「要望」である…、言い換えれば『上官からの指示』に等しいものがある。そのため、従わざるを得ない状態に追い込まれているのが実情であるのだが、夫であるンフィーレア自身も心底惚れた女との毎日である…『期待に応えたい』という想いがある為、"指示に従わされている〝という認識がなく、需要と供給が一致してるがために全く違和感すら覚えず、こなしている…だからこそ、朝、起きられなくなっているのだが…)

 

 

 …そう、特にそういう意味ではンフィとの夫婦生活には不満は無い。

 

 不満は無いのだが、たった一つだけ、気になることはあった。

 

 

 それは最近朝起きて、自分の一糸纏わぬ体をしげしげと見て気づいたこと…。

 

 エンリは最近、左胸ばかりが育ってきている気がする。

 

 そこが育つこと自体は、悪いことではないし嬉しいのだが…左右とのバランスが気になっているのだ。

 

(まぁ…彼は右利きだし?しょうがないことはわかってるんだけど…)

 

 そのおかげ…と言ったら言い方は変なのだが、左と右で、感度に差が出来ている気もする…だからついつい、そっちばかり求めて来られるのがイヤで無くなってる自分はいるし、気が付いたら、「もっと」と口走ってる自分を思い出し、赤面してしまう…のだけど…ンフィの攻めも日に日に上手になっていくんだから仕方ないじゃない! と、自分をごまかし、夫の所為にする。

 

(そりゃ~、私の方も、結婚式を挙げたその夜から、今まで以上に感度が良くなってるから、ついンフィの頭を抱え込んじゃうようになったし…ンフィも私の両腕くらい引きはがして右の方だって求めてくれてもいいような物なのに…)

 

 ンフィーレア自身は魔法詠唱者な訳で、力があまり強いわけではないのはエンリもよく知っている。

 

 だが、一応、男なんだし「ただの村娘」である自分の力くらい跳ね返してくれてもいいと思って居るエンリなのだが、夫は優しいため、それをしないだけ、そうせずに、ずっと私に抱き寄せられたままで居てくれる。…と彼女の中ではそういう認識で今に至っている。

 

(実際は、力で勝てないくらいの差が出来ているため、抱えられたら身動きが取れなくなってるだけなのだが、エンリはそのことに全く気付いていない。 それに夫の攻めがうんぬんというのはエンリの『指揮』能力が上がっているため、指示されたンフィも、上官の望む対応、痒い所に手が届くような…ピンポイントを突くような巧妙さ、それら全ては何を隠そう、エンリ自身の力なのだということは、夫婦そろって自覚していない。)

 

 

 朝の目覚めでとりとめのない考えを、ひとまず頭から振り払い、まずは水をオケに入れ、タオルを絞り、いつものように体を拭くことから始める。

 

 不思議と、こういう時にドアがバン!と開いたりすることが一度としてないのは、きっと、カイジャリさん達が気を付けてくれているのだろう、と思う。

 なぜなら、一通り準備が済んで「さて…」とエンリが思うタイミングで彼らは朝の挨拶に来るのだ。

 

 

 

 

 とは言っても、そろそろ服を着ないと、ゴブリンさんたちが本当に朝の挨拶をしに来ちゃう。

 

 えぇ…と、今日は確か、ノスリさんだったかな?

 

 ゴブリントループの19名の中では、見た目、最年長っぽいのだが、なぜか難度が25(LV8)という人数の多いゴブリントループ内でも、構成人数の多く、一番難度の低い「ゴブリン兵士」という立場に居る不思議な人(?)だ、あまり戦いの場に出る機会が少なかったのだろうか?

 

 でも他のみんなは割とバカ騒ぎをしたりするのが好きで、時々、周囲をそれで和ませてくれるメンバーが多い中、ノスリ本人はそれに乗っかって場をかき混ぜること自体は好きではないようで、みんながそういうやりとりを(芝居だとしても)始めてようと、彼だけは『我関せず』という空気を纏っている。

 

 ゴブリン兵士12名が同時に行動することになれば、ノスリさんが暫定的にまとめ役になることもある。

 

 

 朝一番でエンリの元に訪れ、朝の挨拶&周辺警備及び、エンリの様子伺い、そして夜から朝までに村内であったことの近況報告、そういった役割を12人で一日ごとに交代制で…ということになったのは最近のことだ。

 

 なぜなら、少し前まではジャンケンなど、色々なことでその日の当番を決めていたのだが、勝つ者が偏ることがあって、なかなかエンリの朝の挨拶役に就けない者がほとんどだった時期があり「それなら…」とンフィが提案したのだ。

 

「交代制なら、順番が来るまでの辛抱だから…」とンフィも説得し、ゴブリン兵士のみんなも納得した形が今の状態になっている。

 

 もちろん朝一番で緊急事態などがあれば、第一発見者のゴブリンライダーのどちらかや、見張り台で日中、日没~日の出まで、という当番で村人を補佐しているゴブリンアーチャーさんが知らせに来る場合もあり、その都合上、同時にその挨拶役を代行することもある。

 

 もちろんその時は緊急性が高い状況のため、「当番なのに飛ばされた」などの非難の声は出たことは無い。 …ただ、その次の日に延期になるだけなので、「しゃーない」という雰囲気でまとまっている。

 

 やはりそれは『自分たちの望みより主の安全こそが第一』という共通認識があるからだろう。

 

(それが時々、重いんだけどな…)

 

 

 

 支度をしながらボンヤリそんなことを考えていると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「どうぞ?」とエンリが許可を出すと、ドアを開けたノスリがエンリと視線を交わし朝の挨拶を告げる。

 

「おはようございます、エンリ姐さん!今日もいい天気ですよ、良い表情をされているようで…よく眠れたようですな。」

 

 『村長』としての一日は、まずこういった挨拶からスタートという流れが既に出来てしまっていた。

 

 

「はい、おはようございます! 今日も1日がんばりましょう、みなさん!」

 

 エンリは扉の近くに居ないゴブリントループの全員に声をかけるように張りのある声で朝の始まりを告げた。

 

 

 

                 ★★★

 

 

 

「ところで姐さん、あの裏手の方のどでかい扉はなんです?昨晩は「何も危険はないので、放置で大丈夫。」という事でしたが…」

 

 ノスリがカルネ村の裏口、その扉を出て、少し先、トブの大森林との境界あたりに不自然にそびえ立っている3枚の大きな扉の件について聞いた来た。

 

「えぇ、あれは、新入りのブレインさんや、アルシェさんたちのチームのみなさんが修行?するために創られたものだそうで…、この『ゴブリン将軍の角笛』みたいなマジックアイテムで出した扉のようですよ?」

 

(私も「アングラウスさんを貸してくれないか?」って言われただけで、その時は…取り込み中だったし…、詳しく聞かないで了承しちゃったけど…あの時詳しく聞いておくべきだったよね…でも、あの時はそれどころじゃなかったし…)

 

「そうですか、それの正体とか効果、安全性が分かるまでは迂闊に近づかない方がいいようですな、特にンフィーレアの旦那には言わない方がいいでしょう、どうせ今日も起きてくるのは遅くなるでしょうし、朝食の時、みんなが集まった際、話しますか…。」

 

 

「そうですね、その方がいいでしょう、みんなはわざわざ裏口の方には行かないと思いますが、まだ幼い…焼き討ちされた村からの移住者のお子さんたちや、アルシェさんの妹さん達はお構いなしに近づいちゃうかもしれません、教えることに不安はありますが、事件が起きてからでは遅いですからね。」

 

 

「承知致しました、ではそう致しましょう。」

 

 

「ばあさんの方はどうします?」

 

(ばあさんとはもちろん、カルネ村ではすでに有名(生活面が謎、私生活もカルネ村での研究自体も詳細は謎と言う意味でも…)な人であるリィジーさん、村長代理として働く孫のンフィの代わりにポーション作成に尽力してくれている。)

 

 

「そうですね、いつものように朝食を即座に食べに来るとは思いませんが…一応、声はかけましょう…数回呼びかけて返事がなければ、研究中で、それどころじゃないんでしょう、その時はそのままで…。」

 

「はい…わかりました。」

 

 

 などのとりとめのない会話を差し挟みながら、野菜や、生まれた卵、じゃがいもや…最近、ゴウン様の保護を約束されたということで、時々売りに来てくれる蜥蜴人(リザードマン)の一団の方々が持ってくる魚なんかも一応、候補に入れておく。

 

 蜥蜴人(リザードマン)さんは、お金ばかりじゃなくてもいいようで、物々交換の様に、野菜や果物、臭みや血抜きをした肉でも融通してくれることは普通で、そこまでお金に執着はしていないようだ。

 

 しかし、1年を通して決められた額の年貢としての金銭額は決められており、その額さえ貯まればそれ以上は、これと言って必要ないと言う…。

 

 余ってる交易通貨は、村の中に設置した「アインズ・ウール・ゴウン様像」の下に作られた簡易的な「気持ちの(しるし)箱」という場所に、日々の礼拝などの際、入れる人もいる様だ。

 

(お金がある時にソコに入れておくことで、後々、年貢を納める額の足しにしている様子)

 

 人間との交易が出来る集落や村はそこまで多くないようで、通貨の集まりは少ないらしいが、年に一度納める額自体は決められている為、危険は承知で、ココ、カルネ村まで遠征して行商にやってくるらしい、本来は沼などの場所が行動しやすい為、森の中を移動するなど危険度が高まるのだが、そこは胸に赤い印のある氷の剣を持った蜥蜴人(リザードマン)に守られ、危険を承知で来てくれる。そこまでのことだと言われればこちらもどうにかして報いてあげたい、なにしろゴウン様からの紹介と言ってもいい程なのだ…

 

 ゴウン様つながりと知って、村人も偏見の目は向けないが、ただ買い物をして「ありがとう」で済ます訳には行かず、ゴブリン兵士さん数名と、鼻の利くコボルトさんらで、安全な地点まで送っていくので、「帰りは安心で助かる。」と、よく感謝される、そうするとこちらも嬉しいので、そうすることがいつものことになっていた。

 

 

 基本的に、年に一度の支払い以外は強制されてるわけでもないので、蜥蜴人(リザードマン)さん達が自発的にし始めたことに関しては、ゴウン様も好きにさせているそうだ。

 

 

「いつも思いますが、この魚すごいと思いやせんか?、最初から骨がないんですよ? リザードマンが抜いてから売ってくれてるんですかね?」

 

「どうなんでしょう…話してみると皆さん穏やかな人たちが多いみたいですし、そうかもしれませんね。」

 

 

 

 

 一般的には穏やかに見えようと、友好的だろうと、異種族と言うのはそれだけで普通は偏見の目で見られやすいのが当たり前の通念なのだが、すでにこのカルネ村ではそういう常識自体が廃れ、薄れてしまっている。

 

 精々、抵抗を示す態度に出るのは、新しい移住者くらいだ。

 

 徴税官などが来る時は必ず、人間以外は全員避難させているので、王国内ではほとんどカルネ村の実態を知る者は居ないと言ってもいいだろう、ごく少数の例外を除いて。

 

 

(今度、徴税官が来るのはあと4か月後か…、その時は、最初にオーガ達を一回り大きくして作った2号小屋と、最初の1号小屋に分けて…ゴブリン達と、コボルトさん達は森の中…よね、何かあった時の為に、コナーさんは元村長さんの家の床下ね、元村長さんはほとんどアルシェちゃんのお世話でそっちの家にいることが多いから、ほとんど使ってないそこがいい、ウチの床下にはジュゲムさんとダイノさんに…って感じにするしかないよね…。)

 

 

 考え事をしながらでもエンリの食材を切る速度に衰えは無い、すっかり主婦として、料理の腕前も普通の主婦と比べて遜色はないくらいにはなっていた。

 

 かまどの火はノスリさんに点火してもらった、最近移住してきたフォーサイトのメンバーが移住する際の手土産として、帝国のマーケットで購入して来た物だ。

 

 「チャッカーワンド」という名前で、使うときは先端をクルリと一度回し「チャッカー」と言えば、生活魔法でも有名な「ティンダー」が先の方で発動するという優れモノ。

 

 農村では火を起こすのも技術が必要でコツもある、元村長の奥さんは手際がいい方だが、私なんかはまだまだ時間がかかる方だと言っていい、ゴブリンさんなんかは、火を起こすなんてもちろん出来はしない。

 

 だが、この生活用マジックアイテムなら、簡単に火を点けることが出来、扱いも容易、点火された先端の火を消す時は何も言わず、もう一度、クルリと回せば消火される…。

 

 

 使用回数制限はあると言う話だが、もし反応しなくなったら、魔法詠唱者(マジックキャスター)のダイノさんに頼んで<火の矢(フレイムアロー)>1発分の魔力を注いでもらえば、再使用も可能という至れり尽くせり仕様…、魔力を込める人の『魔力』(数値上の大小次第)で、使用回数にバラ付きは出てしまうようだが、何度でも繰り返し使えるのならばありがたかった。

 

 

 薬草採集でも、通常のかまどへの点火作業程度でもまるで役に立つことのできないゴブリン兵士のみんなもこれならば手伝える。と割と高評価だったりもしていた。

 

 

 

 

 

「さて、みなさ~~ん、朝食ができましたよ~!」

 

 ゴブリン兵士数名と、ノスリ、そしてエンリが寸胴の鍋いっぱいに作った煮物、主菜ともいえるメインは魚料理、そして、スープも運ばれてくる、さらには野菜サラダ、そっちの方は別枠で既に運ばれてきていた。

 

 

 エンリの家の周囲だけでは収まり切れない程の数。なので、最近は村の広場に集まる形となりある意味毎日の光景と化していた。

 

 その数…。

 

 ゴブリントループ19名。

 

 森で保護、そして、時折り森から「避難先」としてカルネ村に亡命してくる野良ゴブリン達。

 

 オーガは大きいので、ラッチモンさんとブリタさんがレンジャー修行でよく狩ってくれる動物たちを小屋の方で食べてもらう。

 

 そして野良ゴブリン同様、カルネ村に避難してくる野良コボルト。

 

 オーガの数を除いて数えても60は超えている。

 

 ほぼ、毎朝、エンリはこれだけの数に朝食を作っているのだ、そうなって思う事。

 

「ホント主婦って、大変、そんな苦労も知らないで昔はごめんなさい、お母さん」

 

 そう心の中で、すでにこの世には居ない母に謝罪を送っていた。

 

 

 

                 ★★★

 

 

 

 食事をする前に、事情を一通り説明し、みんなにも理解してもらえた。

 

 食事の時は、大体、村民みんなが集まってくる、今日の族長のおかずはなんだ?とか、また今日もすごい量だな…とか…色々口にしながら、食事が終わったコボルト、もしくはゴブリンに今日は何をする…とか、これから訓練に参加する者は…だとか、色々と指示を出す人がチラホラと出てくるためだ。

 

 防衛訓練としての弓の練習は手のすいてる村民も参加しているし、ゴブリンもコボルトも参加している。

 

 特にコボルトは犬の頭をしてる関係上、追跡を得意としている、ニオイで個体差を見分けることが出来るためだ、その為レンジャーの習得が早く、それに次いで、ニオイに関係する毒物に関する事にも鼻が利くため、やはり植物系や木の実などの(食べられるか、そうでないか程度だが)知識を持ち、野草サラダなどの材料の足しにしたり、かつて村が襲われた時に、襲った騎士達が置いていった馬も10頭ばかり居るので、その飼い葉などを確保するためにも彼らの力は必要なのだ。

 

 その用事で集まった村民たちにもその「謎の扉」の事情は聞かせてある。

 

 「どんなマジックアイテムでも使用可能」そういう能力を持つンフィーレアは村では貴重な存在だ。

 

 何しろ覚えたてではあるが<医師(ドクター)>の職を取得してるのはこの村では彼だけであり、深い傷などを負った際、応急処置、治療、必要があれば治癒系のスクロールなどを使えるのもンフィーレアだけなのだ、本来は治癒のスクロールは神官系や、森祭司などの関連職を持つ者しか使えないが…ンフィーレアなら使えるのだ、それがマジックアイテムであるならば…。

 

 なので必要不可欠な存在であると同時に、逆の意味では取扱注意の存在でもある。

 

 仮に、例を挙げておこう…。

 

 何かの拍子に、荷物の中に間違ってマジックアイテムが混じってしまったとする。

 

 その中に、<爆裂(エクスプロージョン)>の魔法が入っている魔石が鉄鉱石と混じっていたとした場合、ンフィーレアがそれを手伝おうとして持ち運ぼうとした場合、なにかの手違いで発動してしまうかもしれないのだ。

 

 そうなったら被害も大きい、村で済むなら復興させればいいが、エ・ランテルなどの大都市で買い出しに行った際、そんなことが起こったら、犯罪者にされるばかりか…村にまで被害の損害を弁償する費用を請求されるかもしれないのだ。

 

 なので、効果のしっかりわかる、安全だと判明したマジックアイテムでないとンフィーレアに近づけるのは危険だという認識は常にカルネ村では周知徹底させておかないと、何かあってからでは遅いのだ…とはいえ、彼個人は性格に問題がある訳でも人格がどうの…という事は無い為、村人の彼ら親子に対する対応にまでは響いていないが、不必要に不審物には近付けるな。というのが、村の中での数あるルールの中の一つ、覚えておいてもらわなければ困るのだ。

 

 

 

 

 とりあえず、食事も終え、みんなもそれぞれの役目に解散したころ、ンフィーレアが目を覚まし、遅めの朝食に参加しに現れる。

 

 あとはのんびりと夫婦二人で、食事する番だ。

 

 エンリも、村の人たちに説明をずっとしていたため、口の中が乾いていた、なので、スープを一口、吸ってから食事に入る。

 

 

「今日は何から始める?ンフィ?」

 

「そうだね…まずは、一通り、村の中の資材の在庫数を数えて回ろうか?建築系の方はこの前数えたから、今日は違う方だね、馬や鶏なんかの動物たちのエサ関係かな?」

 

 

 

                 ★★★

 

 

 

   …そして時間は少し巻き戻る

 

 と言ってもカルネ村時間での話。

 

 扉の向こうの時間ではかなり巻き戻ることになる。

 

 それは、朝を迎えたカルネ村と同時刻の扉の世界を基準にして時は遡る。

 

 

 

 

 

「それで?こいつの処遇がどうなるんだって?」

 

(もうこいつは死に体も同然なんだからボク一人でもいいのにな…みんな来るのか…)

 

「イヤ、ちょっと試してみたいことがあってな…ひょとしたら少しレベルも上だし、物分かりもいいんじゃないかと思っての実験だよ。」

 

「僭越ながら私の力も必要だと言われましたので、私は同席を許されていましたが…皆様はまだ休んでおられてもいいのですよ? 精神力の回復はともかく、消費した魔力の回復にはまだ時間がかかるのでは?」

 

 

 ゾロゾロと興味深げについてきたみんなの目の前でする程のことでは無いんじゃ?と思うベルの想いに同調したのか、フレイラが彼らを少し遠ざけようとしてくれている。

 

(ボクってそんなに心とか考えてることとか読まれやすいのかな…)

 

「まぁまぁ、フレイ、彼らも悪気がある訳じゃない、もし何かあった時にと来てくれたんだろう、これからフレイのすることを見られるのが恥ずかしいというのなら、遠慮してもらった方がいいかもしれないが…、一応これは、カルネ村のポーション職人の役目を担っている人に手土産として渡そうと思って居るだけだからね…。そんな大がかりなことはしないと思うよ?」

 

 

「ますますワケがわかんないんだけど? 一体何をするつもり?」

 

 イミーナが焦れたように「結論を言ってよ」と促してくるので、少しネタバレをしてやる。

 

「【雷精】の魔力を吸ってもらうのさ、そしてそれを私が用意したポーションの空きビンでフレイの涙を受け止めるという寸法さ。」

 

 

(あぁ、あれをするのか…と言う顔だね、やっとわかってくれたか…)

 

 

「ちなみにそういうわけでさっきの腕輪(バングル)はこの件が終わるまではフレイにつけていてもらうよ?」

 

 そう言って、自分の手でフレイラの両腕に装着させてあげた。

 

「感謝いたします、その期待に相応しい結果を見せられるよう、覚悟して臨ませていただきます。」

 

(そんな気負わなくてもいいんだからな?)

 

 と、軽くそれだけを<伝言(メッセージ)>で伝えて、すぐに切る。

 

 

 実際はそこまで固執してるわけじゃない、材料は多ければ多い程いいだろう、ポーションの作成はボクがフレイラに託した夢の産物…目標としていた物が、なにで作られているのか…わからない以上、素材は多い方がいい、そう思ってのことだ。

 

 だから、魔力の素、つまり命名「魔素の溶液」を絞り出せる機会があるのならそのチャンスを逃す訳には行かない、その程度の想い入れに過ぎなかった。

 

 

「さて、始めようか…ではフレイ、こいつの胴体から魔素を吸い上げろ!」

 

「は!」

 

 そう言うと、わずかに上に出ている首の部分と、肩とのちょうど境目に爪を食い込ませ、【雷精】の身体を片腕で持ち上げる。

 

 持ち上げながら、食い込んだ爪をソコだけ、人獣族(ライカンスロープ)の爪に戻し、さらに深部まで食い込むようにすると、炎蜥蜴(サラマンダー)の時にも使用したスキル【星幽体の接触(アストラル・タッチ)】そして【魂の吸い上げ】と【生体濾過】を併用させ、【雷精】の身体を構成している魔素を吸い上げていく。

 

(な…なんだ、なんだコレは…こんな感覚、今まで誰からもされたことは無いぞ…何者だ、一体お前はなんだぁぁぁ!)

 

 余程、衝撃的だったのだろう、炎蜥蜴(サラマンダー)の時はここまで聞こえるような規模で意識が流れ込んできたことはないのだが、恐らくはこの分なら、この辺一帯にこの声は聞こえているんじゃ?と思い、少し振り返ると、他の8名のメンバーも、耳を疑うような仕草をしている。

 

「やっぱりね…」

 

 それなら、コッチの言いたいことはフレイを通して、通訳してもらうとするか…それまでは彼女に任せよう。

 

 

「あぁ、大変失礼いたしました、不躾ながら今、貴方の魔素を吸い上げて「魔素溶液」を作り出すのに使わせていただこうと…首がなかったので了承は取れないかと思ったのですが、意識はおありなのですね、安心いたしました。」

 

 

(なんだ一体? そんな丁寧な言葉遣いでも全く吸い上げる速度は緩んでないぞ! このまま枯渇させるつもりかぁぁぁ!!)

 

 

 そして【雷精】は、残されている魔力があるうちにフレイラに<雷撃(ライトニング)>や、<雷撃球(エレクトロスフィア)>などを使っているが、第6位階までの位階魔法を無効化させているのだ、1ダメージも通っていない。

 

「そうですか…とっても活きがよろしいのですね、吸い甲斐があっていいですよ? さぁ、もっと好きに暴れてくださいませ。」

 

(楽しんでるな~…そんな性格の設定付けた覚えないんだけど…これって製作者の内面とか、自覚してない闇の部分が反映とかしてるんだろうか…?)

 

 すると、そろそろ危険を感じ始めたのか、【雷精】が訴えかけ始めてきた。

 

(な、なぁ…この辺で止めてくれるならまだ許してやるぞ? なんならお前たちに協力してやってもいい、だから…な? 全ての魔力がなくなってしまえば力を貸したくてもできなくなる、そうなってはそちらも都合が悪いだろう!)

 

「あぁ、「元素石」のことを仰っておられるのですね?ご心配なく、そうなれば新たな元素と融合させたり、根源の火精霊(プライマル・ファイアエレメンタル)にず~っと抱えて、温めてもらうとかはどうでしょう?かなり上の炎の精霊になれるかもしれませんよ?」

 

 

(やめてくれ…あ、いや、ください、まさか…従えているのですか?あの存在を…)

 

「私が…ではありませんけどね? 私の主の更にその上、最高位の御方が…呼び出して従わせることが出来るんですよ? よかったら、貴方もその序列に加わってみたいとは思いませんか?」

 

(従います! 従いますから…どうか…どうか、枯渇させるのだけは…お願いします、あなたさまのお名前に誓って、決して裏切るような真似は致しません!!)

 

 

「そうですか…それでは、私の名前に於いて誓いなさい、今よりお前は私の下、そして、私の主たる者の所有物として、その力となると…」

 

(はい…従います、あなたさまと…あなたさまの主さま…そして、その最高位の方にも…我が身、我が魔力…その全てで従います。)

 

「いいでしょう! 私の名前はフレイラ・ルアル・アセンディア…主の名前はベル…ベルリバー、最高位の君臨者の名はモモンガ

(そこはさすがに声を抑えてくれたんだな…ボクの方はどっちでもよかったんだが…さすがにモモンガさんを本名で告げるのは…って、精霊との契約って真名じゃないとダメなんだったっけ?)

 

 …そういえば百科事典(エンサイクロペディア)にそんなようなこと書かれていたような気がしたな…予備知識的なページの下の数行しかない説明の中で…。

 

 

(ご尊名、伺いました。 フレイラ・ルアル・アセンディア様、そしてその上位の方々、軽々しく名前を口にするのも憚られる圧倒的絶対者、そのお二方にもわが名に於いて永遠の忠誠を誓います、我が名は「イナズ」…お好きな時に我が力、お使いくださいませ…)

 

 

「その言葉、忘れず、刻み込んでおきなさい「イナズ」、決してその言葉を違えることのないように…期待していますよ?」

 

 

(は! これより我が身は、御身の方々の末席に置かせていただく身、どのようにでもお使いくださいませ)

 

 そう言うと、フレイラの手の平の中にゴロンと【雷の精霊石】となり、大人しくしている。

 

 それを確認すると、すぐにベルは、フレイラの左右の目元にポーションの空き瓶の口をあてがう。

 

 

 すると【生体濾過】により、純粋な魔素溶液となった雷属性の液体がみるみるうちに2本のポーション瓶を満たしてしまった。

 

 

「我が使命、たしかに成し遂げられてございます、マスター。」

 

「あぁ…よくやった、フレイ…予想以上の成果だ…。 ところで、それ…フレイが身に着けてみる気はないか?」

 

「え?私がでございますか? 我が身よりもマスターの方が身に着けた方がよろしいのでは?」

 

(そういえば、さっきこいつに弱音を吐いたばっかだったっけ…うわぁぁ、思い出したら恥ずかしくなってきた!)

 

 

「いや、自分に必要な時は改めて借り受けよう…だが、今は自分の戦い方を…私が一番、やり込んでいた最盛期の戦い方の勘を先に取り戻したい、受け取るのはそれからでかまわないか?」

 

 ベルがそう言うと、何も言わず、しばらく「じ~~…」とベルの顔を見上げている、まるで、今かぶっている仮面の下の表情を見極めようとするかのように…。

 

 しばしの時間が経過し、目を下へと伏せるとフレイラが胸元に、【雷の精霊石】を包みこんだ。

 

「承知いたしました、それまでは、この精霊石、私が大切に保管させてもらいます、ご用命の際はいつでも仰ってください。」

 

「まぁ、しばらくはソイツを休ませておけ、お前に魔素を吸い上げられて、相当消耗してるだろう。」

 

 

「はい、すでに残り魔力は、全体の1割を切ってましたから…契約が終了した時点でそれだったのでギリギリでしたね」

 

 …と、笑顔でしれっと言いのける。

 

「フレイ…せめて契約の宣言の時くらいは吸い上げるの止めてあげても良かったんじゃないか?」

 

 

「油断はいけません! 最後の最後で宣誓がどもったり噛んだりすれば、その時点で契約は不成立で、2度と同じ手順を試みることは出来ないのですから…一瞬でも気は抜けないのですよ?」

 

「そ…そうだったか…それは、大変だったな、お疲れさまだ…フレイ、ありがとう」

 

 そう言って、再び頭をなでてやると、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

「さて、それでは、第2ラウンドだ…フレイ、ちょっと、この腕輪(バングル)貸してくれ、これから装備させて、安全に戦わせたいメンバーに使ってもらいたいからな。」

 

 すると、少し名残り惜しいような表情になりがらも、そっと手渡して返してくれた。

 

「すまないな…用が済んだらまたお前に着けてやるから…。」

 

 小声でそう言うと、すぐに顔を上げたフレイラが微笑みを浮かべながら

 

「わかりました、それまでお待ち申し上げております。」

 

 と、送り出してくれた。

 

 

 

                 ★★★              

 

 

 

 3体目の【雷精】の処遇が決まった直後、後ろから歓声が上がる。

 

 何事かと思い、聞いてみるとイミーナの難度が、このタイミングで上がったらしい。

 

 どうやら呼び出したモンスターの全てをどうにかしないと戦闘終了という扱いにならないらしかった。

 

(まぁ、それはそうだろうな…、戦闘画面が終わる時、経験値の振り分けがされるんだし、それも当然か…)

 

 

 後ろでは難度が上がったメンバーが色々、何を取得しようか?などの談義をしている。

 

 難度が上がったのは、2体目の【雷精】の身体を焼き焦がしていたヘッケラン。

 同様に頭を突き刺したブレイン。

 

 1体目を<穿ち撃ち>の武技でとどめを刺したイミーナ。

 

 

 おまけで、第3位階相当の「彗星落下」を発動させたセピアが魔法詠唱者(マジックキャスター)の難度がやっとこさ一つ上がったらしい、喜びで飛び跳ねている。

 

 

 ロバーデイクがうらやましそうな視線を送っているが、大丈夫、これから死ぬほど経験詰ませてあげるから…とは口では言わない。 

 

 

 

 

 

 …というやり取りがあって、それからは、ロバーデイクの両腕に腕輪(バングル)を装着してもらい、屍者の召喚者(ネクロ・サマナー)をとりあえず、一体呼び出した。

 

 22のLVの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が、骸骨戦士(スケルトンウォーリアーチ)を4体呼び出すのに対し、LV35の屍者の召喚者(ネクロ・サマナー)骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を魔法の力で1体呼び出すことが出来る。 それは魔力の続く限り…だが召喚できる数は戦闘に参加している人数分に比例する。 前回は8体まで呼び出されてしまったが今回は2人だ、多分同時に呼び出すのは2体までだろう…

 

 それにしても骸骨戦士(スケルトンウォーリアー)とLVの数値は同じなのだが、魔法が通じるか通じないかの差は大きい。

 

 なので、今回は魔法での攻防戦にはあまり期待できない。

 

 となれば、直接的な物理攻撃、離れた距離からの物理攻撃に訴える必要がある。

 

 見た感じ、ロバーデイクさんは距離を取って戦闘するタイプには見えない。

 

 なら、自分が離れて攻撃する必要があるか…そうなると不安が残る。

 

 

 エルフであるディーネ、セピア、ルチルは3人とも、射手の心得はある。

 

 しかし、得ているクラスの種類が違い、セピアはレンジャーのクラスで、弓を打つ。

 

 対して、ディーネとルチルはどちらも信仰系に属する職業、弓自体の練度が違う。

 

 だからと言って扱えない訳では無く、子供の頃、冒険者としてのクラスを得るより前、里で普通のエルフとして弓を使っていた名残り、猟師入門生(ノービスハンター)の技術は持っている為、専門性には欠けるが扱うことはできる。

 

 と言っても、ディーネが選んだ弓は、ショットボウ[ブリザード]。つまり氷属性のため、スケルトンやアンデッド、リッチなどには効果が薄い、もちろんスケリトルドラゴンにもだ。

 

 自分の主武器はホーリーフレイル、55LV金属で創られた「属性:殴打、神聖」のため、武器としては効果が高いと思うが…ロバーデイクさんのメイスは見たところ、そこまでの打撃力は無いように見える。

 

 ベルさんがイメージしてるのは多分、ロバーデイクさんの難度アップ、となれば、私がこの武器を持っていても仕方がない、これをロバーデイクさんに貸すとして、私の攻撃手段は?

 

 

 得意の<中傷治癒(ミドルキュアウーンズ)>では、相手の魔法無効化の能力でかき消されてしまう…せめて…炎系の弓でも選んでいれば…

 

 そう思って居ると、外野からディーネに声がかかる。

 

「お~~~い!!! ディーーーーネ~~~! こいつ必要でしょ? 氷の弓と交換ねぇ~~~!!」

 

 

 その声に後ろを振り返ると、セピアが自分の「ショットボウ[ボルカノ]」を私に放り投げる所だった。

 

 

「ちょっと~! いきなりすぎるでしょ~?セピア!!」

 

 そう言いながらも、受け取った弓を持ち換え、セピアにショットボウ[ブリザード]を投げ返す、その際、「こうなったら仕方ない!」と覚悟を決め、ロバーデイクの方に近づき、自分のホーリーフレイルを渡す。

 

 どの道、自分の装備はベルさんから渡されたもの、性能も折り紙付き、武器がロバーデイクさんの貧弱なメイスだとしても、セピアの[ボルカノ]ならきっと攻撃は通じるはず。

 

 防具である鎧の方も、防御性能は高い、滅多な攻撃が来ない限りダメージはかなり防げるように思えた。 敵のダメージが私に通ったら、回復すればいい。

 

 そう割り切って、有無を言わさず、ロバーデイクさんに私の武器を握らせた。

 

 

「あの…これは?」

 

 

「それは神聖属性と殴打の攻撃が出来て、「シュート」って言うと、2m先にフレイルの鉄棍が相手の方に飛び出すの、戻るのは勝手に戻る魔法の武器だから、今回の敵には効果的なはず、貸してあげるから、メイス貸して…まさかフレイル使えないってことないわよね?男の腕力なら簡単でしょ?」

 

 と、時間がないので早口でまくし立てた。

 

 なぜなら、すでに敵は目の前に姿を現して、骨の竜(スケリトルドラゴン)の1体目を召喚しているのだ、これが第1ターンの相手の行動なら、猶予はない。

 

 呼び出し終わって、召喚した存在が私たちを敵だと認めるまでの時間でなんとか体勢を整えるしかない。

 

 

「状況は切迫してるようですね、わかりました、これがどれ程の武器かはよく知りませんが…今回はお借りすることとしましょう!」

 

 

「準備はいいわね? なら行きますよ?」

 

 

「えぇ、お互い信仰系同士のコンビプレイ、見せてやりましょう!」

 

 

「相手の召喚主には回復魔法のダメージは通るけど、骨の竜(スケリトルドラゴン)には通じないこと、忘れないでよね、それで殴り殺して!」

 

 

「えぇ、解りました、少々お言葉が荒い様子ですが…緊急時です、言葉を悠長に選んでる場合じゃないことは承知です。 では行きましょう!!」

 

 

 

 そう言って、二人は敵に向かって走り出す。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「やあぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

                 ★★★ 

 

 

 

 そんなこんなで、カルネ村でのお昼が終わり、さて、午後からもあとひと踏ん張りか!

 

 そうエンリが思って居ると、裏口の扉から、ぞろぞろと帰ってきた人たち…ブレインさん達、10人だ。

 

 なぜか、夜の訪問ではいなかったはずのエルフさん3人が居る。

 

 

 でも、なんでだろう…前の時に村に来たベルさんに付き従っていたエルフさんとは別人に見える。

 

 なのに、なぜか共通するパーツが大部分なのが気になる、よくよく見てみると、別人のように見えるのは顔のパーツに一つか二つ、印象の違う見た目がある所為であり、もしそれが私の知ってるパーツ通りなら、きっと、あの人たちに間違いない!と確信できるのに…

 

 と頭が混乱していると、フレイラさんが胸に下げているネックレスを見せてくれた。

 

 

 まちがいない、偽物じゃなく、本物だ、という証明はそれで充分だった。

 

 

 ベルさんも本人だというのを証明するため、あの紋章が入った指輪を見せてくれる。

 

 そして軽く私に耳打ちをし…「エルフの3人は事情があって顔のパーツに幻を魔法でつけていてね…騒ぐと面倒になるから、ナイショにしてて?本人たちも別人の顔みたいなのはもう知ってるから。」

 

 

 ちょっと、耳に息がかかることを想像するとビクッとなりそうで警戒したが、ベルさんの声からは吐息がかかってこなかった…気を使ってくれたんだろうか…こういう少しの気遣いが出来るのってすごいなとエンリは思った。

(実際は種族特性で、呼吸不要という特徴がある為なのだが…)

 

 

「みなさん、お疲れじゃないですか? 夜通し特訓なんて、よければ少し休まれません?」

 

 そう提案すると、ヘッケランさんが軽く手を上げ遠慮してきた。

 

「あぁ、大丈夫、休息ならたっぷりと二日分は取らせてもらったから…その分何度も死ぬかと思った場面はあったけどな…」

 

「でも、最後の方は結構、順調だったじゃない? 最初こそ何度も「これもう死んじゃうよね」って場面は確かにあったけどさ」

 

 と、イミーナさんも同じ意見のようだ。

 

 

「私ももう、お腹いっぱいですよ…敵さんは魔力切れがないのは卑怯です…骨の無限増殖はもう勘弁してもらいたいですよ…。」

 

 二日はたっぷり休んだと言っていたはずのチームの中で年上ポジションのロバーデイクさんが一番精神的に疲労しているようだ。

 

 

「でも、この中で一番成長の伸びが凄かったのはイミーナ…すっかりその鎧も馴染んでるようにしか見えない…。」

 

 アルシェが、イミーナを評価する言葉を言うと、イミーナもそれに返答する。

 

「まぁね…でも不思議と威力が当初のまま上がってないのはちょっと残念だけどね、防御の面ではかなり助かってるかな? それに、魔力が自動で充填される宝珠?みたいなのもやっとこさ付けてもらえたしね…」

 

(イミーナ自身、魔力の数値がほとんどないと言ってもいい、それなのに、それなりに威力が出せるのは最初に装備したアルシェの魔力を基準とする設定がデフォルトになっているためだ、とことん女性には優しい仕様になるらしい…。)

 

 

 フォーサイトの面々がそんな会話をしていると、後ろを歩いているエルフ女性3人組もそれぞれが思い思いの会話をしている。

 

「私たちだって、それなりに難度上がってますし、私たちは今の装備で充分ですもんね~? ディーネ?」

 

「そうね、ルチル、私たちは自分の好きな物を、ってベルさんから選ばせてもらった物ばかりなんですから、重みが違いますものね。」

 

「そうだよ~、私なんかこの「風迅の外套」に魔法の効果が宿ってること、すっかり忘れてましたけど、なんとか使えるようになりましたからね、風の操り方次第では炎の威力も違ったりして、後半は色々試せて面白かったりして、応用性が広がりましたしね」

 

 

 

 そうすると、大きな声が村中に響き渡るような声で「雄たけび?」と思いたくなるような叫びが轟いた。

 

 

 

  「出来たよぉーー!!! 新しいポーションが完成したよぉ~~~!!!!」

 

 

 

 

 ビックリして振り返ると、手に数本の見たこともない色の瓶を持って駆けて来るリィジーさんの姿があった。

 

 

「あ、リィジーさん、こんにちは、今日もいい日和で…」

 

「そんなことはイイんだよ! 出来たんだよ、新しいポーション!!これは凄いんだよ!!」

 

(あ、やっぱりンフィのおばあちゃんだ…ンフィそっくり…)

 

 エンリはそう思ったが、実のところ、ンフィーレアの方が祖母に似てしまったのである。

 

 

 

「ところで何がそんなに凄いんですか?」

 

 興奮気味のリィジーさんの熱を軽く冷ましてあげようとそう問いかけると、ヤブヘビだったようだ。

 

「なにが凄いかって?そりゃ~ね、こいつはね、うちらが持ってる普通のポーションの材料だけじゃなく、トブの大森林で採れる素材だけで、これが作れるって事なんだよ!  しかもだよ?調合することが出来たんだよ! いいかい?今まではそれぞれの強い効果を合わせると、お互いが喧嘩し合ってうまく行かなかった…、それを新しい可能性に気づかせてくれたのがこのレシピさ!! それもね! エンカイシはもちろん、いつものように紅玉の粉末に魔力の羽根、それだけじゃなく 他にもニュクリ、アジーナ、それとエリエリシュ、それに精神を落ち着かせる効果のジョンズワースも入れることに成功したのさ!! これはある意味、改革が起きたのと同じことなんだよ!!実はどれも必要な要素だったのに私たちが気づかなかっただけなのさ!」

 

(ごめんなさい、リィジーさん、ほとんどが何を言ってるのか全く理解が追いつきません…)

 

 「そ、それで、今度はどんな色になったんですか?」

 

 滝のようにとめどなく溢れて来る言葉にうろたえながらも、このままでは話が終わらない!と判断したエンリが、ホンのわずかに出来た言葉と言葉の間に、自分の言葉を滑り込ませる、実は色に関してソコまで興味がなかったのだが…、差し当たって、話の方向を変えられる可能性はそれしか浮かばなかったのだ。

 

 

「良いところに気が付いたね、エンリちゃん、それで出来たポーションがこれさ!」

 

 そう言ってリィジーが持ち上げて見せたポーションの瓶は紫よりも少しだけピンクっぽい色が濃くなり、しかもどことなくどろりとした濃さではなくうっすらと透けて見えるような透明感を持っていた。

 

 一瞬、エンリもそのポーションに目を疑った、前に見たポーションは「どムラサキ」と言っていい程の濃厚そうな色だったからだ、それに比べたら、今回のはいつもの青のポーションの透明度のまま、水の中に少し薄い紫を垂らし、そこにピンクっぽい色に近づけたような…なにか美味しそうな色をしている。

 

 ありていに言えばラベンダー色をかなりピンクっぽくして、それに透明感を出した様な感じなのだ。

 

「それで…これって、前のとどこか違うんですか?」

 

 つい口にしてしまった!と思うももう口に出してしまってからでは遅い。

 

 またあの濁流のような説明が…と思って居ると、逆に落ち着いたような声が返ってきた。

 

 

「実は今回もそこまで効果の方が高まったわけじゃないのさ…」

 

 

 珍しく落ち込んだようなリィジーの様子に心配になったエンリは「こんなにキレイなのに…なんでですか?」と聞いてみたくなり、声をかけた。

 

 

「それがね…回復する分は前の青いポーションとそんなに変わらない、ちょっと上かな?って程度なんだけどね…こいつは、即効性がある、飲んだり体に掛けたりすればすぐに効果が現れる…それは嬉しいことなんだけどね…」

 

 

「なら、そんなに落ち込むことは無いんじゃ…」

 

 と言いかけると、エンリが最後まで言い終わらない内にリィジーが声に出して叫んだ。

 

 

「それでも劣化してしまうことは止められないんじゃよ!」

 

 

「ムラサキのを開発した時は、鑑定してみた結果、劣化速度が遅く、通常のポーションより2倍長持ちすることがわかった、つまりそれに<保存(プリザベイション)>を掛ければ、効果期間が失われるまで2倍長持ちするという嬉しい結果だった…だが、今回のはうまく行ったのはすぐに効果が表れること、見た目が青のポーションを少しピンクっぽい感じに近づけ、毒々しい色じゃなくなったこと、それとこの土地にある材料だけで作れるということくらいなんだよ、利点と言えるのは…」

 

 

 その言葉のやり取りを後ろで聞いていたベルが、ポーション業界のことはよくわからないが…と前置きを言ってからリィジーに声をかけた。

 

「でもそれ、怪我の功名ってやつじゃないですか? それ、市場に出してもいいんじゃ?って気がしますけども…」

 

 

 しかしそれに対して過剰に反応したようにリィジーがその言葉を遮った。

 

「な…なにを言い出すんじゃ!!お前は…いくらゴウン様の姿を真似ることを許してもらえる立場でも言って良いこととそうでないことが…」

 

 そこまで言われたベルが、何かを思い出したように頷きを返した。

 

「あぁ、そうでしたね、大丈夫です、その辺の事情は分かってますよ。何も知らない若造が勝手なことを口走ってるわけじゃないので安心してください。」

 

 

 呆気にとられたリィジーには短く言葉を返すのだけで精いっぱいだった。

 

 

「お…おぬしは何を言って…?」

 

 

「混乱させてしまったようですね、実は、私の後ろに居る彼女、フレイラは、ゴウン様とは面識がございます、彼女の口沿いがあれば、多少はこちらの言い分もご理解して頂けるかと思いますよ?、全ての研究を独占してしまうような欲深な方ではないのはご承知の上でしょう? キチンと説明すればわかって下さる方ですから…それに青のポーションの開発許可だって出してくれて、通常の店舗経営の方も認めて下さっているんですから、その延長として提案すること自体は罪じゃありません、ですが、許可が出なかったら、次に頑張ればいいんですよ、」

 

 

「おぬしは何者なんじゃ?今回のポーションも元をたどれば、その女が残してくれたレシピ通りに作ったらこれが出来たんじゃぞ?」

 

 

「ん? ということは純粋に、ゴウン様から支給された器具を使わずに、今回の新しいポーションが現地の材料だけで作れたと?」

 

 

 

「いや、通常通りの青いポーションを作る際は、ゴウン様に下賜された器具は使わずに…という指示を受けておるからの、ゴウン様へ進呈するポーションを作成する際のみ、専用の器具を使うことを許していただいておるのじゃ…つまりこのポーション自体は器具の使用を前提としてでなければ作れん代物…ということじゃの。」

 

 リィジー自身は伏せている内容で、実は赤いポーション自体を決められた比率に応じて数滴混ぜると、色の変わったポーションは作れるのだが…そこまでの企業秘密をおいそれと口にするつもりも、信用してるわけでもない為、その部分だけ故意に隠し、ベルには伝えないようにしていた。

 

 

 しかしそうとは知らないベルは、内心で自分の考えを勝手に構築させていく。

 

(そうか…だから、ユグドラシル要素の器具や成分が関わることによって、その色や効果、出来栄えに影響を及ぼすようになったと…それに応じて内容も変化が起きて…となると…)

 

「わかりました、それなら、その話、少しこちらで預からせてもらえませんか? そのポーションをもって、直接伺いをしに行ってみますよ。」

 

 

 

「しかしの…いかに私とて、そう言われて即座に信用してポーションを手渡すほど耄碌はしておらんつもりじゃが?」

 

 

「それはそうですね、信用されないのは当然です、ならば、このフレイラに2本だけ預からせてもらえませんか?見たところ、全部で5本できたご様子ですが?」

 

 

 確かに、興奮冷めやらぬ内に飛び出した為に、リィジーはそのままポーションを持ってきてしまっていた。

 

 

「意外に目ざといの…」

 

 

「いえいえ、私たちが信用されないという事でしたら、そもそも、彼女の力添えがなければそのポーションは創ることが出来なかった…、ならばとりあえず、その5本の内、2本を彼女に預けるという形を取るのは、必ずしも丸々、大損しているというワケではないのでは? 1本はこの目で実際にその効果があるかの検証用、そして、ゴウン様に手渡し、判断を仰ぐ用。」

 

 そこまでまくし立てた後、ベルはリィジーの手にあるポーションを指さして、最後の言葉を語りだす。

 

「残った3本はリィジーさんとンフィーレア君の保管用、そして私が持ち逃げした場合、リィジーさんが直接見せに行く用に…の1本ってところで問題ないのでは?」

 

 

「人の好みまで考慮に入れてくれるのかい…わかったよ、おヌシの言葉通り、そちらのお嬢さんの力がなければこのポーションはそもそも作れもしなかったし、作り方のアイデアも引き出せなかったのは事実じゃからの…1本は預けよう…だが、検証用って言うのは誰に試すんだい?」

 

 

 周囲を見回しても、そこまで怪我をしている様子の者は一人もいない。

 

 

「いえいえ、体の傷ではなく心の方でね、少し影響が残ってる人が…ある意味重症なのが1人いますので…。」

 

 

 そう言って、後ろで顔色を悪くしているロバーデイクに手の平を向ける、「あそこにいるあの方です」とでもいいたげに…

 

 

「ほほぉ…そっちの人は先日移住希望でカルネ村入りしたもんかい…わかったよ、村民希望者なら無碍にも出来ないしね…」

 

 そう言ったリィジーは、テクテクと歩いていくと、ロバーデイクに新しいポーションを頭からぶっかける。

 

 すると、みるみるうちにロバーデイクの顔色が良くなっていき、表情も明るくなっていった。

 

 見るからに、今までの青のポーションとは違い、即座に効果が表れた、これなら戦闘中でも使えるかもしれない…と、見ていた全員がそう思った。

 

「効いたようだね…。どうだい?わかっただろ? 一応、疲労とか心の衰弱にも効くっていうのがある意味強みかね…まだまだ病気やら状態異常にまで応用は出来ていないみたいじゃがの…」

 

 

 

 そこまで言うと、「ホレ」とフレイラに薄紫のポーションを渡す。

 

 

「嬢ちゃん、しっかり頼んだよ?」

 

「ではフレイ、頼んだ、それを見せに行ってくれ、そして今の説明もちゃんと伝えるんだぞ? 作るための器具は専用のを使用する必要はあるが、素材は全て現地産で作れた初の、青以外のポーションで、市場でさばければ,御方にも、純利から1割程度だとしても新開発品なので、割高で売れる計算も見込める。 そちらへの得にも成り得るんじゃないか?とな…。」

 

「は…それでは、そのように御方にはお伝えしておきます。」

 

「それでは、ベルさま、私が戻るまでの間、これを預かってもらってよろしいでしょうか?」

 

 

 そう言い、差し出したのは通称「イナズの珠」、つまり【雷精の精霊石】だ。

 

「ふ…しょうがないな、解ったよ、無茶はしないさ、お前も早く戻ってくるんだぞ?」

 

 

「はい、すぐに戻ってまいります。」

 

 

 そう言って、少し意識を何かで反らしたかと思ったら、「これで、御方へ『これからそちらに参ります』という言づては済みました…では」と言って、まるで猫の様に高く跳躍し、地を駆ける…そしてみるみる内に見えなくなってしまっていた。

 

 

 ただ、その様を呆然と見つめていたリィジーに「そうだそうだ…」と言ってベルが何かを手渡してきた。

 

「?? なんじゃ?これは? ポーション瓶? じゃが、中身はポーションじゃないようじゃの…」

 

 手渡された物をシゲシゲと見るリィジー、ポーション関係ではエ・ランテルでも指折りの彼女でも、それ以上の事は解らないようだが、ポーションではないことがわかるだけでも大したものだとベルは思った。

 

「えぇ、それも彼女、フレイラからの手土産でしてね…彼女の特技…タレントとでも言えばいいのでしょうか?そういうので、精霊の魔力を吸い上げて、濾過させることで、純粋な魔素に変換、それを溶液にして、その瓶に詰めた物です。」

 

 よく見ると、片方は2本の赤々と燃えるような色をした…完成された神のポーションとは違っていて、透き通るようで、それでいて揺らめくような成分が内封されていた。

 

 その光景に吸い込まれるような感覚を覚えながらリィジーが尋ねる。

 

「それで? なんの効果だとかはわかるんかの?」

 

 

 わずかに首を振るベルが「申し訳ないが…」と伝えてから説明に入る、その赤いのは「炎の精霊」から抽出された魔素溶液で、そういう属性が付与されることになるってくらいしかわからない…と。

 

 そして、あと2本の瓶には、青々とした空のような色の溶液、そして、時折、黄色いスジが縦に何本か走っているそんな見た目の液体もあった。

 

「そちらは風の属性の中でも雷撃の方に特化している雷の精霊、それから抽出された魔素溶液ですよ…それもどれと組み合わせればどうの…という説明は私ではわかりません、フレイラ…彼女ならわかるとは思いますが…」

 

 

「おヌシらはこれからどうするんじゃ? これからもちょくちょくこっちに顔を出したりするんかい?」

 

 と問いかけるリィジーに、そばに居たエンリが事情を説明する。

 

「あ、リィジーさん、この人たちはこの後、用事があるそうでして、そちらに移動することになるようですが…それが何事もなく進めば、またこちらに顔を出してくれることもあると思う…って話ですよ?」

 

 エンリとベルの方へと交互に視線を向けていたリィジーは短くため息をついて、表情をゆるめ、こう言うに留めた。

 

「ま、いいじゃろ、このカルネ村の村長が認めとるんじゃ、ワシからは何も言うことなんぞないよ…身の保証の方は村長が確認済みなら問題はないからの…しかし…次に来るときは、そのナリ…改めておいた方がいいぞ? いつまでもゴウン様のマネをされとると、どうにもいい感情を持たん村民は多いと思うからの…」

 

 そこまで言うと、「エンリちゃん、うちの孫のこともこれからも頼んだよ? アレもわざわざ男としての能力を引き上げるポーションなんぞ、自作してまでアンタに付き添っとるんじゃ…あまり夜中まで酷使しないでやってくれると嬉しいんじゃが…まぁ若い内は仕方ないのかの…」

 

 そう言い残して、リィジーは背中越しにひらひらと手を振りながら、自分の工房へと歩きだしていく。

 

 これからまた開発しはじめるんだろうか…、それとも少しでも休むのだろうか…?

 

 そう心配するエンリが「あ、そうだ、リィジーさん! お昼! まだ余ってますよ?いかがですか?」

 

 と、声をかけると…

 

「あぁ、それじゃ、工房まで持ってきておくれ…今なら、そこまで臭くはないはずじゃ…今回のは特殊な工程じゃったからの、そこで食べながら色々手掛けてるとするよ。」

 

 

 とだけ言い、工房の中に入って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃ、私たちも行くとしましょうか?ヘッケラン」

 

「あぁ、そうだな…イミーナ…そろそろ移動し始めないとな、早めにあっちについた方がいいだろう…なにしろ迎えの馬車がくる帝都には俺らは居ないんだ…すれ違いなのは確実なんだし、いくらココから近いって言ってもそろそろ移動し始めないとな。」

 

「そうですね…ちょっとスッキリさせてもらったコトですし、行きますか…ちなみにヘッケラン、証明プレートはちゃんと持ってるんでしょうね…、行ってみたはいいが追い返される、なんてのは御免ですよ?ここまで準備して来たんですから。」

 

 と、立ち直ったばかりのロバーデイクがリーダーに、肝心のものはあるのか?と問いかけている。

 

「あぁ、ホラ、このポーチに入れてあるから大丈夫だって! な?アルシェ?」

 

 ヘッケランがアルシェに声をかけると、アルシェは自分の腰に着けているベルトポーチを開けてプレートを見せた。

 

 それはジエットが彼女の為にと、渡したベルトポーチ、何気に便利なので、それなりに大切に使っている。

 

 

「うん、この通り、ここにあるから大丈夫。」

 

「まったく、リーダーが持ってなくてどうするんですか? いつの間に渡したんです?」

 

「まぁ、いいじゃねぇの! 細かいことはさ、大事なのは無くさないことさ!」

 

「そういえはヘッケラン、あいつの件は話を詰めなくて大丈夫だったの?」

 

 と、イミーナが急に話題を変えてきた。

 

 

「あいつ?」

 

 

 単純に思い浮かぶ人物に心当たりがなく、首をかしげるとイミーナが教えた。

 

 

「ホラ、ルーズィンタールの領主、カストクーズ候から頼まれていた件があったじゃない、アレよ。」

 

 と、言ったイミーナの言葉に、「あぁ…」と初めて思い出せたものの…。

 

「あっちはいいや、キャンセルキャンセル! 欲を出して命まで取られたくなんざ無いっての!」

 

 という言葉にメンバー全員が肯定の言葉が上がる。

 

「たしかにそれはそうだね…」と。

 

 

 

 

「それじゃ、ベルさん、今まで世話になって何もお礼も出来てないけど、無事に帰ってこられたら一緒に飲みましょうや! その時はうちらがツマミやら酒やら用意しますから。」

 

 

 実はベルも姿を変えて、墳墓には行く予定なのだが、それは秘密にしてあるので、まだみんなはそれを知らず、ここでお別れだけど…という前提でフォーサイトからの言葉を受け、ベルも返事を返した。

 

 

「えぇ、楽しみにしていますよ、その時はご一緒しましょう! それよりも早くお会いできる気はしますけどね…」

 

 

「そうですね…、もしそうなら嬉しいんですけどね、ご一緒出来ないのが残念です、うちらのメンバー4人で、依頼主にもその契約となってるんで、ベルさんの入る余地が無いのが心苦しいですけど…大丈夫! ここまでしてくれたんです、生きて戻ってきますって!」

 

 

「えぇ、私もそう願っています、及ばずながら…ですけど、陰ながら応援していますよ!」

 

 という会話をしていると、それを聞いていたエンリが声をかけてきた。

 

 

「あの…それなら簡素ではありますが、カルネ村で買い出しに行くときに使う馬車があるので、良ければそれに乗って行かれません? 歩いていくより早く着くと思いますよ?」

 

 

 そう申し出てくれた村長の言葉をありがたく受け止め、「それじゃ、お願いできますか?」というやり取りをしている。

 

 

 村の奥の方から引き出してきたのは、薬草の壺を乗せるのによく使う、荷馬車。

 

 ギリギリ4人が乗っていけるか?という程度のものだが、それに見合わないくらい上等な馬が繋がれている。

 

 違和感が尋常じゃないな…と思いつつも、それを敢えて口にはしなかったフォーサイト。

 

 

「それじゃ、道案内の方はよろしくお願いします、フォーサイトの皆さん。」

 

 そう口を開いたのは、エンリではなくンフィーレア、結局、村長が村を空ける訳には…というトループの面々の制止もあって結局、彼が馬を操り、近くまで付き添う形となった。

 

 村の在庫管理自体は、そこまで緊急ではない為、こっちの方を優先しても一日二日くらいはズレ込んでも大丈夫だろうという村民の意見もあり、どっちにしろ彼の役割と認識されていたのは決定事項のようだ。

 

 

「おぉ!任せてくれ!地図の方はバッチリもらってるからよ。道中、護衛の方は俺らがなんとかするから安心しなって!」

 

「それじゃ、村長さん、俺も一緒に行って良いかい? 荷馬車内は狭いと思うから、ンフィーレアの旦那の隣にでも座って、帰りの護衛は俺がするってことでどうだい?」

 

 

 と、言い出したのは一緒に扉から外に出てきたブレインだ。

 

 送っていくと言うのなら、もちろん帰りの移動もあるのは当たり前の事だ。

 

 行きは、フォーサイトが居て安心でも帰りの道中にモンスターに襲われては、ンフィーレア1人では第2位階の魔法までが精々だ、多数で襲われれば厳しい状態となるだろう。

 

 

「お、ブレインが居れば、道中安全だろうな、武技で<空連斬>だっけ? あれで範囲外の敵も攻撃できるようになったんだし、心強いな、ンフィの旦那!」

 

 

「あ、すみません、それじゃよろしくお願いします、エンリもそれでいいかな? ブレインさん借りるけど…問題は無い?」

 

「えぇ、大丈夫よ、ンフィの安全の為ですもの…ブレインさん、ンフィの護衛、どうかよろしくお願いします。」

 

 

 そう言って手を振るエンリの言葉に「あぁ、任された!」と言ってひらりと荷馬車に乗り込むブレイン。

 

 

 見送る様に手を振って、それを見守るベル。

 

 

 そして、その光景を目にしてしまい、戦慄している村民が1人…顔面蒼白にして呆然と立っているのに気が付く者は周りに1人もいなかった。

 

 

「なんで? …なんであいつがいるのよ…、冒険者を辞めてまでこんな田舎の村に来たっていうのに…まさか、私のことを追って来たんじゃないよね…」

 

 

 予め、自己紹介などはまだだったため、思いっきり不意打ちを食らっている女性。

 

 エンリはフォーサイトのメンバーが全員無事に帰って来てからでいいよね、と思って居たため、そこまで頭が回っていなかったのもあるし、ブリタの過去を細かく聞いたりしていなかったからこそ起きてしまった今の状況…、それから数日は生きた心地のしていなかったカルネ村の自警団の1人、元冒険者のブリタ。

 

 

 彼女は冒険者時代、ギルドの依頼で「死を撒く剣団」のアジトにチームを組んでいたパーティで飛び込んだことがあった。

 

 

 強い者との戦いに飢えていたブレインにパーティメンバーは返り討ちに遭い、自分以外は全滅、「女に手をかける趣味は無い」と言われ、「また挑む覚悟があるなら、何度でも来い!」と逃がされた過去があった。

 

 

 その記憶は今でも強く刻み込まれている。

 

 だからこそ、自分の力の限界を知ってしまい、冒険者を辞めてこんな村にまで避難したって言うのに…

 

 なんでそのアイツがここに居るのよ! …と、誤解が解けるまでとにかくブレインと会わないように努めてしまう彼女であった。

 

 

 

 

 

 




実は、顔見知り…と言うよりかなり衝撃的な関係だったブリタとブレイン。


多分、ブレインは顔を見れば思い出すかもしれないが、ひょっとしたら思い出さないかもしれない?と言う程度。


だが、命の危険を覚えた者はきっとその相手を忘れることは無いでしょう。

書籍版のブレインとシャルティアのように…。

(このお話ではブレインとシャルティアは対面、戦闘などしていないことになってます。)
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