気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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 誤字報告 じゃんでる様、対艦ヘリ骸龍さま、、忠犬友の会さま、見過ごしていた部分を教えて頂きありがとうございました。
 大変助かっております。

過ぎてしまった話でも、誤字の報告が来るのは「見てくれている」「読んでくれている」という実感がわくので嬉しいです。

アップして直後の内容でもそれを見つけてくれるありがたさに頭が下がる思いです。
今後ともお付き合いの程、よろしくお願いします。


今回はタイトル通り、「ヘビーマッシャー」が終わるまで続きます。

ちなみに今話で、新しい要素が追加されます。

タグ付けした方がいいのでしょうか…今後も出すかどうかは不透明すぎて足踏みしています。




第49話 グリンガムの運命

   そこは玉座の間、至高なるアインズが座り、

   目の前にはモニターにも似た、いくつもの画面のパネル。

 

 

 アインズはそれにそれぞれ目をやりながら、隣に位置するアルベドに語り掛ける。

 

 

「招待客には心ゆくまで楽しんでもらえる宴にしてあるのだろうな?」

 

 

 そう質問すると、「はい、万全でございます…今回使用させていただくトラップの類は全て問題なく、通常通りの効果で発動するという結果が得られましたので、皆様にはきっと喜んでもらえる趣向となるのは確実かと…。」との返答が戻った来た。

 

 

「そうか、ならばアルベドの歓待の宴、その趣向を楽しみにさせてもらうとしよう。」

 

 

 そう言って、支配者はモニターへと目を向け、アルベドに告げておくべき事項が新たに出来たことを告げておく。

 

「そうだ、アルベド…今回、招待した客の中にひと際、年を召された者が1人いる…そいつの監視を強めろ…、そのチームが、我がナザリックの財を持ち逃げする気があるならば当初の予定通りだが…その老人個人が懐に1枚でも自分の物にした際には…わかるな?」

 

 アルベドは恭しく頭を下げ、それに了承の姿勢をとった後、一つの懸念を口にする。

 

「ならば、もし…その老体が、一枚も個人として手にしなかった場合は…いかがいたしましょう…?」

 

 

「……そうだな…それは、その時の状況にもよるが…、最後まで懐に入れなかった場合は、「その者だけ」死亡確定の条件は満たさないこととなる…しばらく監視…影の悪魔(シャドーデーモン)でも潜ませ、後々、分け前としてナザリックの財を受け取った場合は、その時対応することにしよう…。」

 

 

「は…それではそのように…」

 

 

 そう短く指示を受けたアルベドの声を聴き、アインズは再び、各モニターへと視線を向けた…。

 

 

(デミウルゴスは非消費タイプのトラップの中でもトリガーが条件になっていない罠の発生をさせるために「拠点防衛時の指揮官」としての役目を担い、待機してもらっている、拠点(こっち)側で発動させる必要がある罠を展開させる際の指揮を任せているからな。)

 

 

「それではじっくりと見させてもらうこととしよう…アルベドとデミウルゴスの主導の下、開かれる宴…気に入ってもらえれば最高なのだがな…。」

 

 

 そう不敵に笑うような声音で、アインズが含み笑いをしたようにアルベドには聞こえていた。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

「ちっくしょぉぉ!!! なんだよこの墳墓ぉぉ! くそったれがぁ!!」

 

 悪態をつき、急ぎ足で、その場を離れることとなったヘビーマッシャー、つい先ほど、何が起きたかわからない手段で犠牲者が出た。

 

 そのため、その場から急いで移動するべく、足を進めている。

 

 

 最初の一人は多分、何もわからない内に…自分に何が起きたのかを把握するより前にあっけなく「物言わぬ塊」となっていた。

 

 自分たちも予想外であった、まさか最後尾を歩いていた、いざと言うとき殿(しんがり)の役目を務めるはずだった…背後からの急襲に備える役のアイツが狙われたと言う認識に至れたのは「それ」が起きてから…冷静に考えられるようになるまでの時間が必要だった。

 

 その「仲間だった『物』」となり果てた塊を調べた結果、ぶすぶすと焦げ臭いにおいがまだ残っていた。

 

 これは炎系のトラップか?とみんなが思ったが、判断材料が足りない。

 

 …これはきっと最初の警告だ。

 

「うまく行きすぎだと思って居たんだ…出てくるのは難度30にもならない雑魚ばかり…そう思わせてのコレか…どうする?今から引き返すか?」

 

「だからと言って、ここまで来て素直に帰らせてくれるとは限らん…我らのするべきは少しでもコイツから、打開策を見い出すことのみ! 汝らはそうは思わんのか!」

 

「それはそうかもしれねぇが…殿(しんがり)の戦士が最初の犠牲者だぞ?それもリーダーを除けば一番硬い防具で身を固めた戦士がこのザマだ…俺らなんてイチコロなんじゃないのか?」

 

 

 

 このパーティたちは知らなかった、こうして居る間にも、今回デミウルゴスの考案し、立案、そして検証を重ねた結果、限定的に浅い階層でのみ実験的に行われるようになったトラップの事を…

 

 その発動条件が、魔族の魔力をトリガーとして発動されるチャージ型のトラップ、これは一度罠を展開させると、また同じ起動待機状態に戻るまでは少しの間チャージ状態になり、一切の起動が利かなくなる。

 

 即効性はないが、待機時間が過ぎ、起動可能になったなら…魔族由来の魔力を使用することで再度、同じ罠が使用できるようになる。

 

 

 なので、こうして、被害者の検証という時間を侵入者たちが浪費している時間こそが、ナザリック側にとってありがたいことだったのである。

 

 

 起動展開中(作動中)の罠は、効果が終わるまで消えることはない、消えれば即座にチャージ状態に戻る。しかし、息をつかせぬ連続連携(コンボ)につなげないことには、上位レベルの体力を持つ相手を仕留めるには火力不足なのだ。

 

 だからこその、今回の侵入者に対しての手段としては相応と言う結論が下された。

 

 これらのトラップはあらゆるトラップを管理、そして保管してある部屋とは別の部屋。

 

「廃棄待ち」と書かれた部屋に置いてあったモノ達。

 

 性能から、何から確かに着想としては(悪魔的観点で)素晴らしいものだが…悪魔由来の魔力を使える者でなければトラップ起動のスイッチ役は務まらない。

 

 しかも、連続連携(コンボ)に繋げるには…「3HIT」までは容易に可能だ。

 

 壁からの発動の罠。

 

 天井からの発動タイプ

 

 そして床からの発動タイプ。

 

 大きく分けて、その3つを駆使して罠を仕掛ける必要があり、この罠の最大のデメリットとして、ほとんどは対個人を想定して作られている。

 

 例外はあるにはあるが…最大の効力を発揮するのは、やはり個人に対して連続連携(コンボ)に繋げられた時だ。

 

 1パーティが全員片付くまでは、次の新しいトラップの組み合わせの画面を呼び出せないのも大きなデメリットだが、それでも天井、壁、床からのトラップの候補は最大3つ分までの候補をストックしておくことが出来る。

 

 繋げようによっては9つの罠を一人に集中させることもでき、トラップの内容によっては一度の罠で2回当たったという判定のモノも存在する。

 

 それをうまく使えば対象のHPゲージが途中でゼロになっても、体のどこかが「生命活動」を続けている間は連続連携(コンボ)の対象として認められる。

 

 途中でタイミングを逃し、最大の罠でとどめを刺す瞬間に至らず、死なせてしまっては不完全燃焼だ、最大の功績は残せない。

 

 デミウルゴスの中では、最大の連携で結果を出すこと、それに意識が向けられていた。

 

 が、何より至高の御方の指令は絶対だ。

 

 流れを無視して、自分の欲求を優先しては今回の自分の立案した「そもそもの」展開に支障をきたす恐れもある。

 

 そう言う意味では細心に細心の注意を払って、事に及ぶ必要がある。

 

 

「それは解っているのですがね…早く次のターゲットに仕掛けてみたいものです。」

 

 

 そうつぶやき、次のポイントとなる最高の設置場所に「どんな連続連携(コンボ)が一番いいでしょうか…?」と、彼にしては珍しく…「ワクワクという気持ちとはこういう事でしょうか…?」と言うくらいには気分が高揚していた。

 

 

 …そう、一度に展開できるのは3つまで…しかし、最初に起動させた罠を発動させた瞬間、待機チャージの状態になるのと同時にトラップの種類の変更をして、同系統の別の罠を仕掛けることにより、連続連携(コンボ)の連続HIT数が稼げ、得点につながる。

 

 同じ罠を連続連携(コンボ)の最中に、もう一度当てるだけではどういう理屈かわからないが、積み上げていた得点がゼロに戻ってしまうのだ、これでは今まで積み上げていた成果が、そこで打ち切りになったのと同様だ。

 

 連続連携(コンボ)に繋げ、連続ヒット数を稼ぎ、最終的にいくつダメージを与えたかで出て来る点数、それに応じた金額が、ユグドラシルコインとして自然発生するという現象が起きたのはデミウルゴスにとって嬉しい誤算だった。

 

 なぜ、こんな素晴らしいものを「廃棄待ち」扱いにされたのか…

 

 それは使い勝手が悪すぎたからだ。

 

 一つは、起動役は付きっ切りでなければならない点。

 

 離れていても発動できるが、タイミングがシビア…そのため今回のようなモニター越しでは恐らく対応できるのはデミウルゴスしか、このナザリック内ではいないだろう。

 

 悪魔の種族を使っていた「ウルベルト」ですら、これらの凶悪ともいえる効果の全てをコンボとして使いこなすことはできなかったし、使いこなそうという情熱が続かなかった。

 

 こんなチマチマやってるのなら、自前の高火力で、一気に殲滅した方が早かったからだ。

 

 ユグドラシルコインというのも、課金アイテムに使える物ではない。

 

 こんなに苦労して、コンボ決めて…資金を僅かに得ても、それなら外に出てモンスターを狩って居た方がずっと獲得資金的には天地ほどの差があった為…というのもあった。

 

 廃れていくのも仕方がなかったと言える。

 

 …そう、この異世界に転移して、効果や性能自体の変質は無かったが、新たに陽の目を見る好機にありつけた、不遇のトラップ達がこのナザリックに於いて今!侵入者たちにその産声を響かせていた。

 

 そして、次の犠牲者として選ばれたのは〝ヘビーマッシャー"の中で、レンジャー兼盗賊の職を使える弓使いの予定だ。

 

 初めの実験台として、戦士を選んだのは正解だった。

 

 メンバー達が先に歩いている中、最後尾で背後からの敵に備えていた彼を捉えるのは容易過ぎた。

 

 初めは「スプリングフロア」…バネ仕掛けにより、トラップにかかった相手を四方のどちらかに吹き飛ばすことが出来る。

 

 しかし設置する時にどちらに飛ばすのかを選ぶ必要があり、再設置するまでは変更が出来ないという不便な点はあったが、それは地形を利用すれば簡単に解消できた。

 

 

 T字路をターゲットが歩いている中、交差ポイントを先に歩く4人が通り過ぎるのを待ち、最後尾の戦士がポイントに脚を踏み入れたのを確認した瞬間、それは静かに足元からせりあがって、元来た方向に2mほど戦士を吹き飛ばした。

 

 まさか床が跳ね上がって、鎧を装備した自分を吹きとばす場面など誰が想像できるだろうか…?

 

 「警備監視室」のモニターからその状況を見ていたデミウルゴスはまず初撃が問題なく起動したことにひとまずは満足しつつ、次の手に想いを馳せる…、床の次は天井か、壁からの罠にしなければ、連続連携(コンボ)に繋げられなくなる。

 

 そのため、3手先の罠の為に…と「足挟み」(ベアトラップ)に切り替え、戦士が吹き飛ばされてくれた場所より一つ後ろの「その場」に設置し直す。

 

 床から跳ね上げられ、後方に飛ばされただけの戦士にはそこまでダメージは無かったが今の状況を混乱させるには充分だった。

 

 

 床から放り出されるという常識ではありえない異常事態に困惑しながらも、剣を取り落とすこともなく、よろよろと起きあがろうとした戦士に、天井から「花瓶」が落ちて来る。

 

 

 カポンという音と共に、視界をふさがれ、ふらふらと歩くしか出来なくなった戦士は進行方向の突き当り、正面の壁から突如、レリーフが出現したのを見ることはできなかった。

 

 

その為、そのレリーフに顔が描かれていることも解らず、その口からボールが転がり出たことにも気づくこともなく、無抵抗に「それ」が当たった直後、再び後ろに吹き飛ばされた。

 

 壁からのトラップ「ローリングボール」、爆発系のダメージは与え、後方へのノックバックが発動する罠。

 

 通常、特別大きな破裂音などが出ない限り、多くの罠はほぼ無音で展開される。

 

 しかし、先ほどの爆発音は別だ。

 

 前を…と言うよりすでにT字路の突き当たりを左折し、かなり前を進んでいた「ヘビーマッシャー」の4名は後方からかすかに聞こえてきた爆発音に一瞬足を止めるも、音は離れているようだし、爆発音が近づいている様子もなかったので、その時は特に気にすることもなく、再び前を向きそうになるも、最後尾の戦士が居ないことにようやく気付く。

 

 

 そんな状況下、その爆発によって少しダメージは負ったものの、威力はそこまで高くない…「まだ動けるか?」と自分の状態を確認しようと立ち上がろうとする戦士。

 

 

「まだ半分、残っていますね。」

 

 

 「警備監視室」のモニターから状況の一部始終を見ているデミウルゴスにはちゃんと見えていた、連続連携(コンボ)中は、「トラップの起動を行っている者のみ」対象者のライフゲージが見えている仕様になっているのだ。

 

 

「さて、連携状態が途切れる前に仕掛けるとしましょうか…」

 

 

 まだまだ楽しませてくれそうな戦士を見ながら、花瓶が破壊された瞬間にトラップの変更、「吊り天井」をセットしておいた、まだまだ待機時間がチャージされ始めたばかりだ。

 

 そこに爆発の効果で後方へと再び戻された戦士が「今度は何が起きたんだ?」とよくわからない状況下で体を起こそうとしている中、「足挟み」(ベアトラップ)が、足に食い込み、その場に固定する。

 

 そこでようやく自分の置かれている立場に気づいた戦士だが、すでに遅い、時間はすでにカウントダウンを始めていた。

 

 

 戦士は「足挟み」(ベアトラップ)に固定され、身動きのとれぬ中、徐々にチャージの充填されている天井の罠の存在に気付くこともなく、足に食い込む爪を外そうともがく、そして…そうこうしている内に、その場のちょうど真上、そこから3m四方の範囲に所狭しと剣が敷き詰められた天井板、それが「足挟み」(ベアトラップ)の効果時間が切れると同時に起動した。

 

 

 

「吊り天井」

 

 

 

 その声と同時にゴン!と言う音を立て、天井から落ちて来たソレは、対象者を串刺しにした。

 

 デミウルゴスはそこからすぐ、天井のトラップを変更、最後の締めくくりに必要なトラップを仕掛ける。

 

 これはチャージ時間を異様に必要とするので、待ち時間を充分にとれる状況でないと間に合わない可能性がある。

 

 吊り天井によってライフゲージがゼロになったのを確認しているデミウルゴスは、「ローリングボール」を発生させた直後に切り替えておいたトラップのチャージが完了しているのを確認し、相手に余裕を与えないタイミングで、起動させた。

 

 

「アイスアロー」

 

 

 トラップから氷の矢が飛び出し、魔法ではなく「トラップ」としての機能で、対象者を氷漬けにした。

 ちょうど、ライフがゼロになった瞬間、氷漬けにされたので、もう彼は成す術もないだろう。

 

 拘束時間が無くなるまで、戦士は凍結したままになる…その間、チャージの時間を稼いでおくことにした。

 

 

 ヘビーマッシャーの4名は、その吊り天井が落ちた音を聞き、そこに居るのでは?という相談をして戦士の名を呼び、場所を探す…音からしてかなり後方のようだが、周囲に音のない墳墓内、大きな声なら耳に届くだろうと判断したためだ。

 

 

 だが彼らはまだ知らない。

 

 その当の戦士は吊り天井が落ちた瞬間に絶命して、返事など返せる状態ではないということに。

 

 

 そして、戦士の方はと言えば「凍結」しているとはいえ、まだまだチャージはたまらない、最後の天井のトラップが使用可能になるまであと少し…という所で、時は動き出すべく「氷の矢」の凍結が解除されてしまった。

 

 そこで、間髪入れずに仕掛けておいたもう一つの手段、「足挟み」(ベアトラップ)が壊れた直後に仕掛けておいた「マグネットフロア<氷>」これを、「アイスアロー」の凍結時間中にチャージを済ませ、いつでも起動できる体制を整えていた。

 

 

「マグネットフロア<氷>」は、床から展開されるトラップ。

 

 

 ちょうど中心地に戦士が居たので時間差すらなく、即座に中心ポイントに凍結された戦士は、ただただ、何の抵抗も出来ず、全てを受け入れているしか道はなかった。

 

 氷漬けのまま、仲間からの呼びかけに(元からこの時点でライフゲージはゼロなので)返答できない戦士が凍らされてる間に、時間が経過し、決定的な「その時」がやってきた。

 

 

「ようやく溜まりましたね。」

 

 

 待ちに待ったその時を、楽し気な声で締めくくると、モニターを見ていた悪魔は最後となるトラップを発動させる。

 

 

「マグマロック!」

 

 

 天井から、穴が開き、そこから落ちて来る巨大な溶岩…マグマから作られているような、対象者をドロドロと燃え溶かすために作られたようなソレが現れることになっても、既に命の火が消えている「戦士」はその瞳に何も映すことはできなかった。

 

 その岩は、わずかに傾斜がある通路をゆっくり…ゆっくりと転がり落ちて来て、戦士をおしつぶす。

 

 その結果、氷は砕け散り、その身はマグマに焼かれ、ドロドロになった体、さらにローリングボールの爆発で付いた少しの匂い。

 

 結果的にそれが彼らヘビーマッシャーを惑わすことになるのだが、それも誤差の範囲、修正は効くものと意識を切り替えた。

 

 

「さて、実験は済みましたし、本番は…至高なる御方の居城で、御方を口汚く罵った…あの弓使いにしましょうか?」

 

 

 戦士が居なくなってしまった今、後ろの役目は、神官のクラスを取得している者、弓使いは2番手だ。

 

 

 

「後ろに居てくれればコトは簡単だったんですがね…さすがにそうは行きませんか…どうしましょうかね…。」

 

 

 

 少し悩むも、このメンバーを仕留め切るまでトラップの構成を変更することはできない。

 

「天井」 花瓶、吊り天井、マグマロック

 

「壁」  「氷の磁力壁」(アイスマグネウォール) アイスアロー、ローリングボール、

 

「床」  「足挟み」(ベアトラップ)、スプリングフロア、マグネットフロア<氷>

 

 

 どちらにしろ、この構成で何とかするしかないだろう。

 

「そう…御方にご満足していただくために!」

 

 その瞳に決意の熱を新たに宿し、使命に燃える忠実なる悪魔がそう高らかに宣言していたという。

 

 

 

 

 

 一方、戦士を欠いて4人で進むことになったヘビーマッシャー。

 

 構成は、戦士が抜けた為、重戦士であるグリンガムが先頭。

 

 続くのは、先に危険を察知する役目の盗賊持ちのレンジャー。(弓持ち)

 

 その後ろに魔法詠唱者(マジックキャスター)、最後が、一応戦うことも出来る神官だ。

 

 

「結局、ヤツがどんな方法で、あんな短時間に仕留められたのか…結論を出せた者は居なかったな…」

 

「うむ、仕方あるまい、こうなっては我らだけで、なんとかするしか道はない!そうだろう?汝ら。」

 

 

 そう決意を新たにしながらも、原因のわからない何かから逃げようとするかのように急ぎ足だ。

 

 

 しかし、先頭がフルプレートのグリンガム、そこまで速度を上げて走れるわけはなかった。

 

 

 逃げていて気付いたこと…、妙に静かだ。

 

 静かすぎると言って良い程に…その時、行く手の先、曲がり角から誰かが進み出て来るのを見ていた2番手のレンジャーが、前のグリンガムに警戒を呼び掛ける。

 

「グリンガム、前から…多分アンデッドだ!」

 

「そうですね、あれからはアンデッドの反応があります。間違いないですね。」

 

「またか…ここにはアンデッドしかおらんのか!」

 

「仕方ないだろう?ここは墳墓だぜ? 天使とかいたら逆にびっくりするよ!」

 

 

 そう言って全員が戦闘体勢に入る。

 

 弓を使う盗賊は、盗賊技能、レンジャー技能…どちらを使おうとアンデッドには有効な攻撃は出来ないだろう

 

 そう判断し、弓使いの彼は一番後ろに下がる。

 

 前に居るのは、グリンガム、そのすぐ後ろが神官、次が魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 

 

 さて…おっぱじめるか?と全員が意気込んだ瞬間、そのアンデッドの姿が目の前に来て正体が判明する。

 

 

「エ…死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)…!」

 

「まずい…戦士二人いても難しい相手だってのに、4人じゃ分が悪すぎる、ここは引こう!グリンガム!」

 

「いや、ここは踏みとどまって叩くしかあるまい…幸い相手は一体…のみ…で…」

 

 と言い終わらぬ内に、さらにその後ろからぞろぞろと着いてきた人影、そいつらも同じ死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)だった。

 

 

 全部で5体。

 

 

 勝ち目なんてあるはずがないと、即座に後ろを振り向き、逃げようとするも…先ほどまでそこに居なかったはずの通路の先に、いつの間にか死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)が逃げようとした方向にも2体、通路は一本道、通り過ぎてしまったT字路は、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)の後方。

 

 

 これで計7体…「こんなデタラメ、許されるのかよ!」と、盗賊がまた愚痴をこぼす。

 

 しかし、口汚くこの墳墓を罵った所で状況は変わらない…

 

 

 こんなところで火球(ファイアーボール)でも喰らったらひとたまりもないのに、5連発なんてなったら消し炭しか残らない。

 

 背後の分も入れたら7発同時爆裂だ…骨が残ってくれればいい方かもしれない。

 

「グリンガム…そこに扉がある!、そこに飛び込もう!」

 

「うむ! 行くぞ!汝ら!」

 

 

 扉を開けてそこに躍り込んだ瞬間、部屋全体に魔法陣の光があふれだし、そのまま扉の中に入ったメンバーが実は躍り込んだ時点で「3人」になっていたことにも気づかないまま、彼らはどこかに飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

「さて、本番としての料理といたしましょうか…?」

 

 パネル越しに見ているその光景に、悪魔は満足そうであった。

 

 壁に発生した氷の磁力壁(アイスマグネウォール)に囚われ、壁際に吸われたまま、凍結している対象者(ターゲット)を見ている。

 

 チャージ時間がすでに終わりマグマロックの準備は済んでいる。

 

 いつでも、真上からレンジャーをつぶしにかかるのは可能だ…だがまだ早い。

 

 幸い氷の磁力壁(アイスマグネウォール)はダメージを与えるようなトラップではない。

 

 効果が切れて、連携が立ち消えになってから、初撃で大ダメージを与えて連続連携(コンボ)につなげた方が、得点もHIT数に応じて大きくなる。

 

「おーばーきる、という要素もあるようですが、それは今回の構成では難しいでしょうね…それは次の機会に試してみるとしましょうか…?」

 

 

 そう独り言を言っていた悪魔は、天井から発生する罠の中に即死レベルの物が入っているという認識が薄い。

 

 だからこそ、「この程度ならちょうどいいダメージでしょう」とすら考え、なにやら楽しげに、連続連携(コンボ)のための舞台を整えている。

 

 

 『最初の大ダメージは「マグマロック」くらいがいいでしょう』と思って居る悪魔は、「ソレ」を発動させる前に、壁の罠は「ローリングボール」に変更、床には「スプリングフロア」を設置して、チャージもすでに溜め始めている、氷の凍結時間が時間切れになる頃には半分以上はチャージが溜まってるだろう。

 

 

 

 

※ここからはデミウルゴスの頭の中の計画。

 

 とりあえずの手順としては、「マグマロック」でHPを一桁になるまで削った直後、「ローリングボール」で爆発を起こし吹き飛ばす。(予想ではここで死亡)

 そして、飛ばされた先にある「スプリングフロア」で、通路の先の方角に頭が向くように弾き飛ばす。

 

 「マグマロック」が当たった直後に、どのトラップより早くチャージが溜まる「花瓶」をフロアで飛ばした先のポイントに設置させておき、愚かな侵入者で、至高の御身に無礼な口を聞いたソイツの硬直時間が切れる前に「花瓶」を落とす。すると、頭にかぶった状態で即座に立ち上がるようになるのだ。

 

 花瓶は意外に便利で、倒れている対象でも、身体の一部でも触れるようであれば、頭にすっぽり被るようになっている。

 

 そのため、HPがゼロでも、立ち上がって一定の歩数までは勝手に進行方向へと歩きだすのだ。

 

 少なくともふらふらと歩いている間は死亡の効果は発生しない、一定歩数分歩き終え、花瓶が割れたら即効果が切れる(つまり死んでしまう)ので、花瓶が割れる手前の位置に設置する壁際に、トラップ「氷の磁力壁(アイスマグネウォール)」を設置、「ローリングボール」の爆発直後に切り替えてあるのでチャージはその時から始まっている、当然準備は万全だ。

 

「壁」のマグネットのある場所までふらふらと愚物が歩いている内に準備が終わっている「氷の磁力壁(アイスマグネウォール)」に「花瓶」状態のまま吸われ、凍結状態になったら、花瓶が割れた瞬間、「天井系の罠」である「吊り天井」に移行。

 

 

「吊り天井」は、設置ポイントを中心に1m上下左右へと張り出しており、真四角の板状になっている為、1mだけずらせば、他の罠とポイントが被ることがなく、エラーが起きることは無い。

 

 

 流れとしては、「花瓶」が割れる1m手前で、「氷の磁力壁(アイスマグネウォール)」で氷漬けにしたら、効果が切れるまでチャージ時間を稼ぎ、他のトラップの準備に費やす。

 

 「吊り天井」は保留しておき、壁の罠の真下、ほんの1m分ずらした位置に床部分のトラップ…「足挟み」(ベアトラップ)を設置して、凍結時間中に使用可能にしておく。

 氷が割れた瞬間に、「足挟み」(ベアトラップ)発動で、再び拘束。…しながら同時に「アイスアロー」を設置。

 

「足挟み」(ベアトラップ)発動中に「アイスアロー」のチャージが溜まるので、「足挟み」(ベアトラップ)→「アイスアロー」の発動と同時に「マグネットフロア<氷>」をセットでチャージ開始。

 

「足挟み」(ベアトラップ)が切れた時、「マグネットフロア<氷>」を発動、倒れたまま、ずりずりと引き込まれる死体が氷漬けになって、コンボがつながった瞬間にトドメの「吊り天井」というシナリオだ。

 

 

※ここからデミウルゴスの考察から現実に戻ります。

 

 

 

 そして、タイミングが計られ…「マグマロック」が発動した。

 

 発動と同時に天井に穴が開き、マグマに燃え滾った巨岩が頭上から現れる。

 

 

 弓使いの盗賊は巨大溶岩につぶされ、ライフゲージがゼロになった。

 

(なんとも脆い…あの一発で終わってしまうなど…私の想像を遥かに超える脆弱さでしたね…でも計画は遂行します。御方を楽しませる為の遊具となりなさい。)

 

 そう…彼の命が尽きてもそこで「悪魔」の責め苦は終わらない、それほど「彼」の発した言葉は許しがたく、罪深い…殺して終わりではその悪魔の気が済むはずもなかった。

 

 

 いくつもの連続連携(コンボ)を叩きこまれ、「死はそれ以上痛みを与えられないという意味で慈悲」という認識のナザリックで、死してもなお痛みを与えられ続けるという、悪魔が最も望んでいた状況にやっと至ることが出来、最後の連続連携(コンボ)で盗賊が解放され、真の意味で「息絶える」まで、その操作を心の底から楽しんでいたデミウルゴス。

 

 

 「死体に鞭打つ」を体現するようなその連続トラップを最後に締めくくったのは計画通り「吊り天井」だった…。

 

 

「それにしても3人は転移させてしまいましたか…、ですがまぁいいでしょう、当初の目的は果たすことが出来ましたし…あとは彼らに任せておけば問題はないでしょうからね…。」

 

 そう言って悪魔らしい笑みを浮かべ、適当なトラップの対象者(ターゲット)が他に居ないか…遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)を使用し、デミウルゴスは新しい玩具を探し始めた。

 

(それにしても至高の御方々はまさに素晴らしい先見性をお持ちだ…よもや死してもなお痛みを与え、かつあのようなトラップの効果で、効果切れを起こすまで倒れる事も断末魔の隙もお与えにならないような手段を予めこのナザリックに密かに準備されていたとは…私でさえも予期すらしていなかったこと。……まさに驚愕に値する…鬼才と呼ぶことすら及ばない…それさえも超越した境地にいらっしゃると判断するにふさわしい、という言葉しか思い浮かびません。)

 

 

                    ★★★

 

 

 

(え? ウソ…こんなトラップの機能、ナザリックにあったの?大丈夫なのか…コレ…?本当に金貨消費してないんだろうな…?)

 

「ア…アルベド? この罠はナザリックに元からあった物か? 本当に金貨を消費していないのだろうな?」

 

「はい、仰せの通りにございます、今ごらんになられていた罠の一通りは全て、金貨の消費を必要とせず、【悪魔】系統の種族をもち、かつ、魔力を有する者にしか発動させる事が出来ず、それ以外の者は、その罠を所有することはおろか、起動も、各場所に自由に設置することも出来ないという…用途がかなり限定的な物でした。 なので、汎用性に乏しく、今、ご照覧あそばされたトラップの起動には金貨の消費は一枚も伴いません。」

 

「そ…そう…か、そのようなモノがこのナザリックに眠っていたのか…」

(どうせなら『ナザリック学園』とかのデータを製作途中でもいいから見つけてくれれば面白かったのにな…でもまぁ、これも守護者たちが見つけてきてくれたモノ…まずはホメる事から…だよな。)

 

「そうか…なかなかに良い見世物であったぞ? 対プレイヤーに仕掛けるには『移動阻害対策』や『冷気対策』…『炎対策』、『時間対策』などされれば無意味な効果ばかりだったように見えたが…、今回のような弱い奴らだから効果があったのか…、仮にそれらの対策をしているプレイヤー相手でも「トラップ」独自の仕様により、そういった『対策』すら全く意味を成さなくなるのか…、実際の所、どうなのかは時間が出来れば検証したいものだな…。」

 

 アインズはそこまで言って、とある可能性を思い浮かべる。

 アルベドなら、そのくらいの実験はしているだろうという、ある意味信頼を込めての質問をした。

 

「そういえば、POPするスケルトン達で実験はしなかったのか? あれらは冷気の攻撃など、効果がなかったはずだが…? それらについてはどうだった?」

 

 

「申しわけございません。 低レベルのスケルトンでは1~2回程の「こんぼ」なるもので砕け散ってしまい、その先にまでつなげることは出来ませんでした。 人間相手なら、あのように連携がタイミングよく間に合えば、ひたすら続ける事も出来るようですが…ナザリックのシモベでは奴らのように、倒せば資金が回収できるようにもなっておりませんでしたので…。 深くは追及しておりません。」

 

 そこで思いついたようにアルベドが伝え忘れていた内容を口にする。

 

「そうです! そう言われれば、スケルトンでも爆発系の罠や、先ほどのような岩でも効果はございました、それは確認しております。」

 

(岩石なら、攻撃の種別としては「殴打」に属するだろうし、さっきのは「マグマ」みたいだったから、間違いなく炎ダメージだろう…どっちも弱点じゃないか…そこ以外を知りたかったんだが…、まぁ「弱点に通る」という事は、通常の攻撃手段としてもダメージが通る公算は高いと見るべきか…?)

 

「そうか…ならば、今度、機会があれば死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)に時間対策用のアイテムを持たせて、さっきのトラップに掛からせるようにして見たらどうなるか実験してみてはどうだ?見たところ、氷にする罠の方はさしてダメージを与えていた様子でもなかったようだしな…その際は私もそれには同行して見てみたい。」

 

死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)は冷気に対する耐性があるからな、凍って時間が止まるはずの罠の場合、凍らなかったら時間が停止するだけなのか、それとも完全に無効化されてしまうのか…、足を拘束する罠の方は斬撃扱いになるんだろうけど、それにに対しての耐性も少しはあるからダメージも軽く済むはずだし、そうなると足止めは有効となるのだろうが…ん?)

 

 

 アインズはついさっきアルベドが言った言葉をそのまま聞き流していたが、気になる言い回しをしていたことに気づいて問いかける。

 

 

「アルベドよ、先ほど、気になることを言葉にしていたが…対象者が人間の場合は…資金の回収ができるのか?」

 

 

「あ、ハイ、シモベ達での実験では金貨は生じませんでしたが…八本指の組織を傘下に入れる際に、殺せずに地下牢獄に放置されていた下等生物どもの中でも最も下等で愚劣な、唾棄すべき輩のみをトラップにかけてみました所、金貨が生じましてございます…それもユグドラシル製の…なのは間違いございません、この目で確認済みでございます。」

 

(おぉぉ!!! それは朗報じゃないか? 周辺諸国をわざわざ支配して、トップに君臨して税金とかで稼がなくても…死刑囚なんかの罪深いヤツだけをトラップにかけて資金稼ぎって言う可能性が出てくるとは…、嬉しい誤算じゃないか?)

 

 モンスターを狩り殺しても、ドロップアイテムもクリスタルも出ない、どころか金も落とさないとハッキリわかった時には「冒険者」になった意味を見失いそうになったものだが…ここに来て資金が稼げる可能性を見つけ、アインズは鎮静化するまでには至らない物の、ジワジワと喜悦感にも似た感情が湧いてくるのを止められなかった。

 

 

「そうか…、それは嬉しい、私にとってもナザリックにとっても朗報だ、国が出来た暁には死刑囚に対しての処分方法に、また一つの可能性が生まれたな、わざわざ拷問だの身体を食べさせて治療だの…回りくどい事をしなくても資金が稼げるなら、そういう手も…という選択肢が増えたことは喜ばしい。」

 

 

「お気に召して頂けたようで何よりでございます。」

 

 

「その件は取り敢えず、さて置いてだ…そのトラップに関してはアルベドは使えないのか?サキュバスとは言え、元々は小悪魔(インプ)なのだから、使えないことは無いのではないか?」

 

 支配者のその言葉で、少し表情に陰りを見せつつもアルベドはその問いに正直に答える事にした。

 

「はい、私でも持ち運びや、設置、起動にも全く問題はなく動作させることは出来ました…ですが、私はデミウルゴス程の巧妙さを持ち合わせてはいないようで…その「こんぼ」なる段階につなげる事が難しいのです。」

 

(え?そうなの?デミウルゴスと並ぶ知者のはずなのに、そういうのは難しいのか?…まぁ、防御特化でビルドされてるわけだし…そういう点では苦手分野なのかもしれないな…)

 

「そうか、少々立ち入った話を聞いてしまったようだ、気を悪くしないでくれ、アルベドにはいざという時は私の身を護る為の盾として、存分に力を奮って貰わねばならん時が来るかもしれん、その時に力を発揮してくれれば、それでよい、誰にでも向き、不向きというものがあるのだからな…」

 

 少し大げさに言う事で重い空気を排除しようとしながら、鷹揚に手をあげ「気にするな」のポーズをアルベドに見せる、彼女にはそれだけで通じたようだ。

 

「あぁ…能力の足りない私のようなシモベ風情にそのような温情あふれるお言葉、この身に染みましてございます。 そのご期待に応えるべく、私の可能な、出来る範囲のあらゆる分野でご期待に応えてご覧に入れます。これからの私をどうか見ててくださいませ!」

 

 

「う…うむ…期待している。  …そ、それはそうとあいつらは何処に飛ばされたのだ? アルベドが設置したのだろう? あの転移は何処に通じていたのだ?」

 

 

「あ、それならば、こちらでございます。」

 

 そう言ってアルベドが映し出した先の映像…。

 

 そこに目を向けるアインズ。

 

 そこには艶めかしく腰を揺さぶり、しなを作る<脳漿喰い(ブレインイーター)>、特別情報収集官の姿があった。

 

 そばにトーチャーも居るので、即座に殺しはすまい…と割とすぐに目をそらした。

 

 部屋の隅にフルプレートのような装備が一式…打ち捨てられるかのように積まれているのにもアインズは気付かずに…。 

 

 そして、その兜…、額の部分にはカブトムシのようなツノが一本、生えていたという…。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

「誰かいるか?」

 

「おぉ…こっちにいる。」

 

「よかった、ここはドコだかわかるか?」

 

「いや…悪い、俺にもわからん。真っ暗で何も見えないのは、俺だけじゃないよな?」

 

「あぁ、こっちも周り中が真っ暗だ、何も見えやしねぇ。」

 

「そうか…どちらにしろ、こんな所からは早く出ないとな…出口は何処だ?」

 

 そう言って、立ち上がろうとし…、足を地面に踏み込んだ瞬間、「べきゅ」…とも「ブチュ」とも言えない…なにかを踏んだような感触がする。

 

 

 それが何かを見ようとしても下も上も、左も右も、全てが真っ黒…だが、何か違う、暗闇とは違う異質なものを感じていた。

 

 …しかし、それの正体がわからない。

 

 だが、気のせいか、この暗闇は動いている気がする…ずるずるとするような大きな個体としてでは無く、どこかツヤのあるような黒さが密集して、それぞれ不規則に動いている様な感じさえする。

 

 

「なにゆっくり足元なんて観察してるんだよ?早く出ねぇと先に行っちまうぞ?」

 

「待ってくれよ、置いてかねぇでくれって!」

 

 と、そこまで会話していた時点でどこかから響いてきた、まるで反響する様な声。

 

 

 

 

「いやいや、さすがにココから外に出る事は叶いますまい。」

 

 

 

 

「な…なんだ、誰だ?」

 

「どこから聞こえるんだ?この声は?」

 

 

 周囲を見回していると、自分から見て横の方向に足より下の方から上に向かって、淡くどこか不気味な色を秘める光が立ち昇り、そこから、徐々に何かがせりあがってくる。

 

 それはよく見ると頭から2本のヒゲのような何か…いや、あの動きは触覚であろうか?とつい考えてしまうような何かを生やし、それを忙しなく動かしている。

 

 手には王家の者が持つような錫。

 

 頭には冠を被り、マントのような装いは高貴な出で立ちを感じさせた。

 

 もちろんそれが人間であったらば、という前提が付くが…。

 

 

 

 目の前の存在は、昆虫じみているが、六本ある足の内、一番下の2本で直立している。

 

 もしも昆虫が自力で2足歩行をし始めたとしたら、顔に相当する部分、目などは、当然上を向くだろう。

 

 だが、目の前の存在は天ではなく、ちゃんと前方へと顔を向け、直立していながらも、人語も解するようだ。

 

 

「失礼、お話し中のところ、勝手に会話に割って入ってしまった無礼、許していただきたい。」

 

 と、さも友好的であるかのような言葉から入る、その昆虫のような…異質なナニか…。

 

「私は、この場所の守護を任されている『恐怖公』という者…どうぞお見知りおきを。」

 

 

 

「な…なんだよ、なんなんだよ、お前は一体何もんなんだよぉぉ!!」

 

 神官である男が半狂乱になったように叫ぶ。

 

 

 どうやら、こういうのは苦手だったらしい、そういう自分も決して好きという訳ではないが…普通の昆虫とは全く違う存在感を漂わせている「ソレ」には不気味さしか感じられない。

 

 ただの『虫』と結論付けるには、あまりにも…であり、違和感なんていう生易しいもので片付けられる印象ではなかったためだ。

 

 

 

「ふむ…、そうですか…どうやらもう一度自己紹介をした方がよろしいのでしょうか?」

 

 静かに、動揺することもなく丁寧な物言いをしているところがまた一段と不気味さに拍車をかける。

 

 

「いや!そうじゃねぇよ! 違うだろ! そういうコトじゃねぇよ!」

 

 もうすでに神官は涙交じりだ。

 

 こりゃ、交渉で何とかなりそうなら、自分が何とかするしかないか…と魔法詠唱者(マジックキャスター)である男が一歩前に出る。

 

 そこでもやはり「ぶちゃ…」とも「ぺきょ」、ともいえるような何かを踏んだが…それを気にしている余裕はない。

 

 

「失礼、どうやらこちらの方には転移で飛ばされて迷い込んでしまったようです、急なことでそちらも驚かれているでしょうが、それは私たちも同様なのです。どうでしょう?よろしければココから出してもらえる方法とかを教えてはもらえないでしょうか? もちろんお礼なら致します…言い値という訳にはいきませんが…」

 

 と、話している途中で目の前の『恐怖公』と名乗った『虫』のような何かが話に割り込んで来た。

 

「いえいえ、何も遠慮されることはありません、こちらの方は普段からお客様が訪れるという事自体が珍しい場所、急な来客の方がありがたいくらいなのですよ。それにお礼などは必要ありません、『お礼』ならすでに私の手中ですからな…新たに用意されずとも、私は今、大変に喜ばしい気分なのです。」

 

 

「い…、一体なにを?」

 

 

「実はですね…普段から我が眷属たちは腹を空かせているのです、それに…もう共食いは飽き飽きしているようでしてね…だからお二方には感謝しているのですよ?」

 

 目の前の存在がそう言い放ち、手の位置だろう場所に握っている錫を持ち上げると周囲にあった真っ黒なナニかが津波のように押し寄せた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」神官の絶叫が響き渡る。

 

「や! やめ…よせぇ!!」魔法詠唱者(マジックキャスター)も同様に叫ぶも、それで事態が好転するわけもない。

 

 

 神官は咄嗟に手を口に当て、体中にかじりついているだろう「黒い悪魔」と称されることもある小さい虫、大きいものは1m以上もあるモノもいるが…そんな者達に、穴と言う穴から、おびただしい数の「そいつら」に入り込まれ、身体の中から食べられている痛みさえする。

 

 神官も、魔法詠唱者も、同様に黒い波に飲まれている。

 

 そんな中、口に手をやっていた神官の口から魔法の発動が発せられる。

 

<軽症治癒・ライトヒーリング>

 

 それを傷つくたび、かじられるたびに唱えている。

 

 しかしそれも無限ではない。

 

 押し寄せる数が魔法の効力を上回り、回復量より食べられるダメージの方が大きくなっていく。

 

 そんな中、(こんな形で死んでしまうくらいなら!)と奮起した魔法詠唱者(マジックキャスター)が、口の中一杯に入りこんだ黒い虫たちを食いしばり、歯で噛みちぎり、口内だけ、一瞬自由になった瞬間に発動に間に合う魔法を唱える。

 

 炎系の魔法の中で自分が一番、慣れ親しみ素早く唱えられるようになった魔法。

 

<炎の雨/ファイアーレイン>

 

「食らいやがれ!」

 

 その声と共に、恐怖公へと乱れ飛んでくる雨のような何本もの小さな針にも見える火が、一斉に狙い通り飛んでいく。

 

 

「いけませんねぇ、この様な場所で火など使われては…眷属たちに燃え移ったらどうします?」

 

 軽くそう答え、特に脅威とは感じていないような声。

 

(まさか、俺が使い込んだ、一番威力のある火の魔法なんだぞ?)

 

 そう信じられないようなことを言われたと思った瞬間…さらに信じられない現象を目にする。

 

蟲の壁(ウォールオブインセクト)!>

 

 目の前の存在がそう声をあげると、そいつの足元にあった黒いモノ達が集まって壁のようになることで、その火の雨を代わりに受け止める。

 

 受け止めた壁は、すぐに火が付き、燃え広がるも、その火は別の虫たちが、引火した虫を容赦なく食べる事で延焼を防いでいた。

 

「やれやれ、おかげで我が眷属たちの被害が予想より大きくなってしまいました。」

 

 それほど、残念そうな声には感じられない嘆きが聞こえた後、恐怖公の追撃の声が発せられる。

 

「そこまで頑張ったみなさんに私からのプレゼントを差し上げましょう、存分に味わってください?…そう、おかわりを…ね。」

 

 と言って錫の先端をこちらに向けると、黒い波の第二波が押し寄せ、2人を一気に飲み込んだ。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

   一方………

 

「あらん…もうおねんねしちゃったのねん…残念ね、もう少しイケるかと思っていたのにぃ…」

 

 少し不満げな声をもらしたニューロニストは、先端にトゲトゲしい突起が付いているスティック状の棒を横のテーブル上に置く。

 

「でも、しかたないわよねん、この尿道掘削拷問は、至高なる御方のお一人であられるチグリス様だって、涙を流し、苦痛に耐え、いつ終わるかもしれない「激痛」なんていう優しい言葉では表現できないくらいの…っておっしゃっていたものねん…それを人の身でそれだけ耐えたのだから…ほめてあげるべき…かしら?」

 

 そう独り言をつぶやくと

 

「トーチャー? 癒しておあげなさい?そして治ったら優しく起こしてあげるのよ?わかってるわねん?」

 

 指示されたトーチャーの一人が傷を癒すべく、治療に入る。

 

(まだまだ、これは序の口、これから長い付き合いになるのだから…、次はどんなことをして楽しんでもらおうかしら? 『付け爪擬態蟲』でも付けて…いえ、それくらいなら、いっそ『爪ピアスをしてあげる方が素敵よねぇん…そうね、そうと決まればそうしましょう♪』

 

 拷問官とも呼ばれるカノジョ(と呼ばれたがってる性別詐称モンスター)は、相手のリクエストを聞かずに、自分が思いついたアイデアならきっと喜んでくれる、と考え、そう思い込むことで自己の趣味を正当化する困った認識…需要と供給が全く成り立っていない思考回路をしていた。

 

 …だからこそ、〝特別情報収集官" なのに、〝拷問官"とも呼ばれているのだが…

 

 「そうであれ。」

 

 創造主からそういう設定を付けられているニューロニストにとって、当たり前の事であり、それが他の誰に受け入れられなくても、それが自分の生まれた理由であり、自分がしたいと思う事は創造主もそう望んでいる…、そう考えている為、結局のところ、「彼」の行動が「誰かの為」という理想に近づくはずもなく…、しかし「彼」の性格は『ナチュラルに壊れている。』も同様なのだが。

 

 

 拷問官としては特に優秀なため、支配者としてもギルメンの残した大切な忘れ形見のようなもの。

 

 アルベドたちを家族と言うなら、もちろんニューロニストももちろんそれは同様である。

 

 思い入れの度合いに差があるだけで…。

 

 

 そこらへんのことは深く考えない『特別情報収集官』は〝これならきっと喜んでくれるに違いないわねん♪"と、独りよがりの思考ということにも気付こうともせず、今日も『自分にしかできない』職務に励むのだった。

 

 

 

 




罠<トラップ>について。

わかる人は解ると思いますが、言わずと知れた「あの作品」の要素をぶち込みました。

好きなんですよね、あの爽快感…あれをナザリック内で発揮されたらどれだけ凶悪なんだろうか…つい想像してしまい入れてしまいました。


名称についてはそのままではさすがにいくらなんでも……という気持ちがあったので可能な限り、手を加えております。
(とはいえバレバレなんですけどね)


実のところ、まだ、ナザリック内でしか持ち運びのことは実験していないので、ナザリック外にまで持ち出しできるのかは検証していない様子。

ナザリック外にも持ち運べれば、「偽のナザリック」を「K命館」とか「K牢」「S魔灯状態」に出来そうなんですけどね…。

まぁ、出来たとしてもメインの話には影響なく、話に出すとしても番外扱いになるでしょう。

【お詫び】

尿道結石に関して
ギルドメンバーの「チグリス=ユーフラテス」さんがそれを患ったという捏造をつけてしまった為、名誉毀損とか、誹謗中傷などの類に関しての事は、チグリス=ユーフラテス様個人に風評被害など繋がるようでしたら、この場を借りてお詫びしておきます。
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