気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
前話から少し時間が空いてしまいましたが、なんとか今話をアップ。
そして、今回のお話に移る前に、エルフの3人の現在取得しているクラスを公開。
※クラスの取得した順番は、生まれてから「1レベルを取得」した際の順に
下段へと移っております。
今作の捏造ではありますが、それで推測するだけでも3人それぞれの環境
、境遇が読み取れてくれたらいいかなと…。
●ディーネ(第4位階まで)
ユグドラシル基準レベル 31(難度93)
・ノービスハンター LV.2
・クレリック LV.15
・
・ハイクレリック LV.10
・プレエステス LV.2
●ルチル(第4位階まで)
ユグドラシル基準レベル 31(難度93)
・ノービスハンター LV.3
・ドルイド LV.15
・スレイブ LV.1
・
・ハイドルイド LV.10
●セピア(第3位階まで)
ユグドラシル基準レベル 31(難度93)
・ブッシュレンジャー LV.4
・ウイザード LV.12
・
・レンジャー LV.6
・
・
注)・ブッシュレンジャー
盗賊の技能を取得することのできるレンジャー
(歴史的には森林を拠点に盗賊活動をしていた者達の総称。)
専門の職を同時に取得している場合、レンジャーやシーフなどの技能
に、ブッシュレンジャーのレベルの半分の数値をボーナスとして成功
確率に加算することが出来る。
ブッシュレンジャー単独で技能を使用する場合、半分のレベルと同等
に扱う。(鍵開け、罠外し、スリ、気配殺し、不意打ちなど…)
・
装備している防具、「風迅の外套」に付加されている魔法効果を使用
し続けることにより身に付いたクラス。
一度クラスを身に着ければ、エルフ由来の能力により、風精霊の助け
を借りて、同様のスキルを使う事が出来る。
しかし、その場合、威力は数段落ちる。
アインズは、玉座の間でモニターを見続けて居た中、思考がわずかに停止していた。
その原因となるそれは…思いがけぬ物が、友人の手から
(何て物を渡してくれてるんですか…、いや、あれ自体は想い出深い物だし、それを未だに持っていてくれたことは嬉しいですよ?うれしいですけども…なんでそれを彼女たちに手渡すかなぁ~…)
支配者は心の中で頭を抱えていた。
自分のそばにはアルベドも居る。
もちろんその画像自体はアルベドも見てしまっていた。
アインズ本人が、モニター画像を拡大させ、「もしや渡った瞬間、ダメージとは行かずとも、拘束系やデバフ系の何かを発動させるアイテム」でも仕掛けようとしていないか?と言った確認をするため、思いっきり画面を拡大させていたためだ。
少ししたら、彼女達もその写真を手に、玉座の間まで来てしまうだろう、それまでになんらかの言い訳を考えておかなければならない、「友」が齎してくれた置き土産に内心で舌打ちをしつつも、嘆いてばかりでは状況は改善していかない…ベルリバーさんの言う所のサプライズを実行させてあげるためにはこれをどう乗り切るか…ギルドを維持させていたリーダーとして無様な姿勢は見せられない。
差し当たって、アルベドの方を見ると、もちろんアインズの方を見ていた。
「アルベドよ…先ほどのは見ていたな?」
「はい…間違いなくアレは…、至高の41人の御方々の内、数名の方々のお写真かと…それがなぜあんな人間如きが…それに、あの者がかぶっていたあの仮面、以前アインズ様がカルネ村を救出する際、身に着けられていた物と色こそ違え、大変、酷似しておりました。 …という事はあの者は…アインズ様と同じく、ユグドラシルからこの地に来た者なのでしょうか?」
「さぁ…どうかな…あの仮面だけだと何とも言えん…それよりも…私はあの者が何故、あの写真を持っていたかの方が気になる…アルベドよ、状況が大きく変わったようだ、守護者たちを第6階層、
(とりあえず、自分もこんなこと起きると思ってなかったってフリをしておこう! 何も知らない風を装えば、切り抜けられそうな気がする!)
「は!畏まりました!」
恭しく頭を下げるとアルベドは静かに…姿勢を崩すことなく…それでいて颯爽と玉座の間を出ていき、扉が閉まる…。
アインズはそこでようやく玉座に背を預け、脱力したように物思いに耽っていた。
…そう、あの写真を撮ることになった…みんなが悪ノリしてまで、材料を集めて回り、「9人分」を作成し終わった時のことを…。
★★★
「やりましたね! みなさん! お疲れさまです、よくこんな短期間でここまでそろえられましたよ!」
モモンガは作成に携わった者、皆を労う。
「いや~、私も楽しかったですよ、ギルド結成以来、あまり外に出なかった私ですが久々に楽しめました! やっぱり目標があって出かけるっていうのは一味違いますね」
そう言ったのは、まだギルドを脱退する決意をするはるか以前の「あまのまひとつ」。
もちろん全身スーツを作るのはもちろん、必要となる金属糸の材料となる素材、高レベル金属を集めて回ったり、データクリスタルを手分けして集めて回る要員としても活躍していたからだ。
「で? どんなの作るの? 私ならひらひらのドレスっぽい感じの…ってダメか、私の種族じゃどっちにしろ似合わないよね…見た目オスだかメスだかすらわかんないもん。」
と、希望を言いかけたが、自分のアバターを見下ろし諦めた風の言葉を紡ぐ「餡ころもっちもち」。
「そっか、餡ちゃんはドレスっぽいの好きなんだね、まぁ、異形種じゃなければ似合ったんじゃないかな? 私もその気持ちわかるし」
そうフォローするのは仲良しである「かぜっち」ことぶくぶく茶釜。
なぜ「かぜっち」なのかと言うと、本人が仲良しさんにはそう呼んでもらってる…という一貫した拘りもあるし…、リアルの仕事で使っている声優名からもじった愛称でもあるためだ。
「あはは、それじゃみんな似合うモノ作るの大変そうじゃない? 私だって「
41人の中で数少ない限られた女性プレイヤーの1人であり、リアルでは学校の教師であるやまいこ。
今は副担任をしている為、比較的余裕はあるが、近い内「担任」を任されそうだという話はチラホラと出ているようだ、そうなると今までみたいに頻繁に来ることもできないだろう…それもあって最後のお祭りイベント的な気分で手伝いを買って出てくれていた。
「そこは大丈夫でしょう。なんたって〝あまのまひとつ"さんが作ってくれるんですからね、出来は…推して知るべし?と言った所でしょうから」
最初から材料集めにノリノリだった「たっち・みー」さん。
今回も奥さんを説き伏せるのにかなり苦労されたようだが、近々、仕事の上で忙しくなる「なんちゃら週間」とかいう職務上の手を抜かず、その間はログイン禁止などの交換条件を飲むことで、今回、材料集めに参加できるようになっていた。
そして、その期間が終われば、次は「アーコロジー」内のお偉方が外国に行く際、道中の警備任務、ルートの安全確認やらテロリストなどが出ないように、などの仕事内容に追われ、しばらくは来られないという話、材料が集まり切った今、無事に短期間で製作することが出来れば、忙しくなる前の一日は参加できるんじゃないか?って程度でかなりシビアだが…ギリ完成品を着て写真を撮れるかも…と言う程度のスケジュールになりそうだが…と、少し楽しみにしている。
「え?姉ちゃんがドレス?ヒラヒラ?絶対になんかの罰ゲームなんじゃね?とか思わるのがオチだって!」
家族のおしゃれした姿なんてたしかに身内…しかも弟からしたらそんなものなのだろう、普段から、何かあると怒られている弟は、姉のきらびやかな姿など「可愛い」という範疇にすら入らないとでも言いたげに悪態をついている。
その姿はバードマンのアバターであり、ぶくぶく茶釜の弟である「ペロロンチーノ」が軽妙に茶々を入れている。
「あぁん? なんだって? 愚弟…いい度胸じゃないかよ…そうかい、そんじゃこの前約束した「水野」のサイン、もらってこなくてもいいんだな? 特別にお前の名前入りでお願いして来ようと思ってたんだけどねぇ…そうか、要らないなら無理に受け取ってくれなんて言えないよなぁ…。」
いつものロリっ子としての声優の声はどこへやら、ドスの効いた低い声で弟の弱みを刺激している。
それはもはや、姉としての特権だろう。
「あぁ…ごめんなさい、ウソウソ…嘘です、お姉さま! そんなこと本心から思ってたりなんて、そんなことある訳ないじゃないですか、いやだなぁ…ちょっとした冗談だってぇ…。」
声に張りのない、怯えたような声で謝罪を繰り返すペロロンチーノ…、モモンガは「水野」とは誰だろう?と少し離れた距離でそれを聞きながら思案する。
そういえば、以前ファンだとかなんとか言ってた人にそんな名前があった気がした、どうやら推しの有名人らしい…そりゃ「サイン」って言うくらいだから有名なんだろう。
「あれ?もうこんな時間?…すみません、みなさん、急ですけど、今日は私の当番で、娘をお風呂に入れる約束でログインさせてもらってるんです、なのでそろそろログアウトさせてください、かなりやばい時間なんで!!」
そう言って、ワールドチャンピオンの彼がモモンガの前で手を合わせて頭を下げる。
その様は、本当に申し訳なさそうだ。
「えぇ! それは急いだ方がいいですよ! 奥さんは大事にしてあげてくださいね?」
ギルドマスターのモモンガが快く「たっち・みー」を送りだす言葉をかけた。
モモンガのリアルでの母親は、物心つく前に他界した父の代わりに、家事に、仕事にと…かなり無理をして小学校を卒業させてくれた。
しかし、それまでの無理がたたって、病室で「鈴木 悟」のスーツ姿を見ることなく、息を引き取ってしまっていた。
なので、生きている内になるべく長く夫婦の生活と言うのは時間を作らせてあげたい、そう思って居るモモンガはいつも何も言わずに送り出していた。
そんな様を苦々しく思っている人も中には居て、モモンガが何も言わず、送り出す姿勢を「本心から向き合わない偽善者」と言う人も昔は居た…その人はクラン時代には仲が良かったが、ギルドを作るか作らないか…のくらいに脱退…ある意味ケンカ別れのような感じで、アカウントは残しているが、ギルドから姿を消してしまっていた。
反対に「妻」を…「娘」を言い訳にして、クランリーダーから逃げ、ギルドマスターをモモンガに任せたその姿勢が気に入らず、何かにつけて反目している人もいる。
他の人に対しては割と分け隔てなく接してくれるのだが…「たっち・みー」にだけ風当たりが強い、中にはそんなメンバーもいる。
今日はまだ来ていないが、とりあえず、時間がかぶらないでよかったと思う、なんだかんだでその二人の間を取り持つのも一苦労なのだ。
「じゃ~早速、始めましょうか。 こっちは製作に入りますので、色はこの前言った8色に、8つの色を均等に振り分けて作った全ての力を使えるスーツ。以上を入れての9着でいいんですよね?」
本来は5色でいいという意見が「たっち・みー」からの意見だったが、どうせなら、戦隊もので出た色、一通り作っちゃうのはどうだろう?という意見が「あまのまひとつ」から出され、「それもおもしろいかもしれない…」という考えに移り…「どうせなら『始まりの9人』になぞらえて、9色にしてみようか?」となったわけだが…
肝心の9色目が決まらず、「あまのまひとつ」と「たっち・みー」の間で「そう言えば、昔、「ビッグワン」って居ましたよね、あれみたいなの作りません?」という意見が出た際は、もうすでにその時、意見は出尽くし、煮詰まっていた為、「そうしよう。」となったのがそもそもの始まりである。
「あまのまひとつ」が鍛冶製作部屋に入ろうかと、確認の意味で質問を投げかけた瞬間で、みんなが集まっていた円卓の間に、ウインドウが開き、軽快なチャイムのような音が響いた。
「ヘロヘロ様がログインされました。」
「ウルベルト・アレイン・オードル様がログインされました。」
「お! 二人も来た様子だね、せっかくだから、イメージ作りのために他の色の件も決めちゃうとしますか? まだ黒が決まってなかったですよね?」
「あ…、(黒…やりたいんですけど…ってこのタイミングで言ったらまずいかな?)」
少しためらったアインズが声を出すより早く、ログインして来た二人が円卓の間に現れる。
「お! みなさん、来てましたか! こっちはやっと面接終えて帰ってきましたよ! 今日は3社受けてきました!」
ヘロヘロが明るい声で面接の報告をしてきた。
「まぁ、気を付けて社風を見ることも大事だぞ? 俺の親父みたいにろくでもない最期にならないようにな?」
同時にログインして来たウルベルトも心配しているようだ。
基本、アーコロジーの外で暮らすことになっている面々には優しいウルベルトだが、彼が反目する存在は「アーコロジー」に関わる人種全般に偏っていた。
「たっち・みー」は警察官と言う職業だが、高給取りであり、お金でアーコロジー内に住居を構えることが出来る様になった、しかも嫁まで居る。
そんな立場の「たっち・みー」にはよく逆らったり、反対意見を言ったりしていた。
さも「お前の思い通りになんてさせるもんか!」とでも言いたげに…。
一時期はペットロスになっていた餡ころもっちもちも…、動物が飼えるという時点でアーコロジーの人間の気配濃厚なのは薄々みんなの認識にはあったのだが、だからと言ってそっちに矛先をむけることはない。
「悪」という道に美学を見い出しているウルベルトからしてみれば「弱き立場の者」に感情のまま怒りをぶつけるなどチンピラレベルの「悪」がする行為、それは彼の「美学」に反する。らしい。
だから女性には、例え、そういう面があったとしても内に宿す悪感情を向けはしない…その代わりにその分、「たっち・みー」にそれが向かうことになるのだが…
それは毎回、間に入ってモモンガが仲裁を買って出ていた。
「良かった、今日はあの野郎は居ないんだな…。」
ポロっと零した本音、それが誰のことを指しているのかわかる全員は「苦笑」のアイコンを浮かべ、その言葉を流す。
そこで、話題を変えるべく、そこに割って入った人物がウルベルトに話しかけた、さっき作成に入ろうとしていた「あまのまひとつ」だ。
「ちょうど良かったですよ、ウルベルトさん、先日話して協議したことなんですけどね? 今度作るコスチュームのメンバーにウルベルトさんも入ってほしいんですよ!」
虚を突かれたウルベルトは唐突な話題に面食らったように上ずった声をあげた。
「え? いきなりなんです?それ…コスチュームって何を題材にしてるんです? 今回だって…どうせろくでもないんでしょ?」
「いえ、そんなことはないですよ?今回はウルベルトさんのイメージにぴったり合う「黒」!「ブラック」です!」
とあまのまひとつが言うと
「お、それはいいですね、黒!まさに俺の色じゃないですか! それで?「メンバーに」ってことは俺一人じゃないんでしょ? 他には誰が居るんです?」
追及してくるウルベルト。
「今回はモモンガさんが赤、ブループラネットさんが青…今日は来てないですけどね、日程を合わせて全員がそろう日を予定するつもりです。それで全員が着て、記念撮影って流れなんですが…」
「ほぉほぉ…それはそれは…ブループラネットさんというのは珍しいですね、あの人世界で残っている自然の保存の為に各地を回ってる人でしょ?滅多に会えないんですよね…。」
興味を惹かれたようなウルベルトの言葉に乗せるように次の説明に入る「あまのま」
「それから緑はやまいこさん、ホワイトが餡ころもっちもちさん、ピンクが茶釜さんで、パープルがペロロンさんって感じですね。」
「あれ? 6人なんですか? ってことは何かのチームでも作るとか?野球には足りないですし…サッカーだとまだその倍は必要ですよね…?一体、何のテーマなんですか?」
「あぁ、それは『戦隊もの』です!」
その一言で全員が凍り付いた…。
他のメンバーは「それ言っちゃ、おしまいじゃん」と言う空気。
あまのまひとつは「どうです?面白いと思いません?」という顔・・・
ウルベルトは…「はぁ?」と言うような顔のアイコンを浮かべ、すぐに「怒り」の表情を浮かべる。
「冗談じゃない! それヒーローじゃねぇか! 誰が! 戦隊で! ヒーローなんて! 演じるか!!!」
かなり頭に血が上っているウルベルト、そりゃ「悪」に憧れ、「弱きを虐げることなく、強きをくじく」ことを美学としている彼からすれば、ヒーローなんて偽善者の集まり…という認識なのはみんなが知ってることだ。 …だから「戦隊」と言って納得するはずないのは誰もがわかる結論だったのだが、あまのまは尚もウルベルトに追いすがる。
「いや、違うんですって! ヒーローって言ってもブラックは立ち位置が違うんですよ! 感情的に…熱血漢として突っ走りやすいリーダーの反対意見を常にいう事でチームとしての平衡を保ってる存在なんですよ、言わば、ヒールヒーローってやつです!」
「
「そうです、そうです! この役割はそれを地で言っているウルベルトさんしか出来ないんじゃないか!ってみんなの意見もあって、声を掛けさせてもらったんですが…どうでしょ?」
詰めに入ったように言い募る「あまのま」だが、その言葉の中に嫌な予感を感じさせる
「地で行ってるってなんだよ? 俺が反対意見をいつも言ってるのは1人に限られてるんだが?まさかあいつも候補に入ってるなんて言うんじゃないだろうな?」
表情に変化はないはずなのに、目の奥に激しい炎を見たような気がした「あまのまひとつ」が言葉に詰まる。
「えぇ…と、その~~…、まぁ、あの~…ですね、…かも、しれないですね?」
と、弱弱しく肯定とも否定とも言えない言葉を返すもその言葉だけでウルベルトには充分だった。
「冗談じゃない! 俺はやらないぞ? 誰があんな奴と同じコスチュームなんか着て、撮影なんかするか! ふざけるな!」
気分を害したらしく、円卓の間を出ていくウルベルト。
「あの…ウルベルトさん…どちらへ?」
モモンガがそう尋ねると、モモンガに八つ当たりするのは筋違いだと理性を保ったのだろう…それでも少し苛立ち気味の声でウルベルトは返答していた。
「第7階層の領域守護者たちを作ってきますよ…12宮の方もまだ全員じゃないですからね…」
「あ、そうですか…気を付けて…と言ってもすぐ下の階層ですもんね指輪使えば危険もないですか…すみません、なんか、せっかくログインしてくれたのに気分を害させちゃったみたいで…」
「あぁ、それはモモンガさんのせいじゃないですって、それについては気にしないでください、ちょっと今、自分が大人げなかっただけなんで…少しソコで頭を冷やしてきますよ。」
バタン…と扉が閉まる音がして、一瞬、部屋の中に静寂が訪れる。
「………えぇ~っと…、ウルベルトさんがあそこまで激高するのって珍しいですよね、ボクが知る限りでは記憶に…というか印象に薄いんですけど」
「そうよね…あの人、いつも冷静な話し方してて理詰めで納得させながら自分の思い通りに言いくるめるスタイルだもんね、もっと普通に「お断りしますよ。」って言いそうなイメージを私も持っていましたけど」
重い空気を軽くしようと「ベルリバー」が可能な限り明るい声で言うと、それを察してくれたのか「やまいこ」もそれに同調し、雰囲気を変えようと周囲にも聞こえるように話をする中…。
「さて、それじゃ今!、ここに居る中で「黒」って言えばヘロヘロさんが合う!って言う人は挙手をお願いします!!」
急遽、モモンガが軌道修正を図り、矛先をヘロヘロの方へと転換させた。
「えぇぇ?? !!!」
驚くヘロヘロをよそに挙手の数は彼以外、全員の手が挙がった。
「しょうがないですね…まぁ、私も採用の合否が来るまではヒマですし…それまでなら…ってことで。」
かくして、最後の「ブラック」の役が決まり、リーダーは赤、そして、裏のまとめ役的な立場として最強の存在!ってことで「オールワン」と名付けられることになる…本来は「たっち・みー」が着るはずだったコスチュームも含め、9着分の作成が始まった。
★★★
「ハイ! ポーズ!」
みんなでポーズをとると、スクリーンショットの音が聞こえた。
音の確認の直後、コンソールの操作をすることでそれぞれ全員が、その写真をコピーして、思い出を残すための「想い出」フォルダにペーストをした。
「やべ、俺、おもいっきり長官みたいじゃん、このポーズ…。」
そう呟いたウルベルトの言葉でみんながソコに注目すると、たしかにそう見える。
体を斜めにするような立ち位置
山羊のような顔の左目方向をカメラ目線のように向け、左手は思いきりカメラの前に突き出している。
まるで、「行け!お前たち!」と司令官が号令を発しているかのようなポーズで写っていた。
寸前まで、写真に写るつもりなどなかったウルベルトだが、たっち・みーが結局、来られなかったことに安心したのか、みんなから「せめて一緒に写ろう」と言われ、「コスチュームは着ないからな!」とだけ条件を飲んでもらうことで「写ってもいい」と言う言葉をもらえたのだが、それが良かったのか悪かったのか…それは彼自身のみ知るところであった。
後日、いつものようにペロロンチーノさんから「姉ちゃんに勝手に捨てられないように」という事でペロロンチーノさんが着たパープルを預かって数日後…。
今度は茶釜さんから「弟の預かってるんでしょ?」と聞かれたので「なんのこと?」と答えたら、軽く笑われて「大丈夫よ、今回は皆で楽しんだことなんだし捨てさせるようなことしないって」と言われ、「弟のと一緒に私のも預かって?」と言われ、ピンクのコスチューム用の腕輪を預かった。
その場に居た女性メンバーからは「かぜっち、ベルっちに預けたの?なら私のも預かってもらおう♪」ということで、緑のと白の方も預かることになった。
黒の方と、赤、青って、着た本人が持ってるのかな?それともボクの時みたいに、誰かに預けたのかな?
預けたんだとしたら、多分、モモンガさんの可能性が高そうだけど…問題はモモンガさん以外が預かっていた場合だな…、その人が持ったまま、アカデリしちゃった場合だとか…、まぁ、色々と可能性はあるだろうけど…、どっちにしてもボクがそれをどう考えても答えは出ない問題だよな…。
などととりとめのないことを考えながら…こんなことも思う。
(そういえば「オールワン」のコスチュームは誰が持つことになってたんだったっけ?)
ふと、回想から意識を戻したベルは、一番後ろに「警戒役」という名目で老公を配置している。
魔法で職業構成を調べたところ、レベル的にはエルフの3人は30LVを超えていたので、単純なレベルで言えば彼女らの方が上だ。
そういう点では老公より難度的に関してだけであれば「強い」ということになるが、近接戦闘と言う点ではディーネより老公の方がわずかに強い程度だろう、と見積もっている。
彼女らは主に魔法中心で強くしていた為、3人合わせても武技の類は数える程しか取得していない。
なので<疾風加速>などで、動き回られ、攪乱されたら、ディーネには勝ち目はない…もちろん今装備している鎧じゃなく、同じ装備と言う条件下であるならば…だが。
「さて…とうするのかの? 気ついているかもしれんか…後ろから、それから前からもアンテットのヤツらが迫ってきておるそ? すこい多さしゃ!!
後ろを歩いていた「
当然、彼もそれは気づいていたし、ディーネも神官としてアンデッドの能力でアンデッドの気配を感じていた、セピアもレンジャーの技能で…ルチルに専門技能などは無いが、エルフの発達した聴覚により、気づいていた。
★★★
一方、場面は移り、まだ第一層の中央霊廟を下がり、そこから一段下に下りたばかりの一帯をさまよっているフォーサイトのメンバー。
現在、彼らは、無限とも思える数のアンデッドに包囲されつつあった。
「イミーナ!後ろだ、<
ヘッケランが叫ぶ、彼は今…
30ⅬⅤに至っている自分が、たかだか22ⅬⅤの魔法ごときに難儀するはずは無いと思いながらも、こうも5体、6体、7体…と、どんどん増えて来ていてはいずれ腹もいっぱいになるだろう…適度に炎の攻撃をしてもらって、小腹を空かしてみなければならないだろうか…と炎の精霊も考える。
最初こそ、意思の疎通に異種族としての難儀さはあったものの、今は精神的なつながりが生まれたのか、言葉で意思疎通が出来るようになっていた。
周囲にまで丸聞こえの叫びのようなものではなく、個人間での小声の打ち合わせレベルの会話が出来るようになったのは何かと便利だな…と思う。
「通さないから!」
イミーナが立ちはだかり、後ろからの
現状、その攻撃魔法に対しては対策はとれているので、大きな被害はないが、さすがにこの数はジリ貧かもしれない。
攻撃魔法自体は脅威ではなくなっているが、ちょいちょい、後ろにいる
そうなれば、2人分の行動はそれで終わってしまう、残るのは頼みのヘッケランとイミーナだ。
アルシェも居るが、ハッキリ言って誰が<
最悪、まだそうはなっていないがヘッケランが<
(ここまで来たら、仕方ない…どんな効果が起きるか分からないのが不安だけど…)
そう考えながら、1つの結論に至るアルシェ。
自分の腕に身に着けている腕輪だ…先ほどベルさんに教えてもらった話から考えると、最初に私の声でキーワードを叫ぶ必要があるらしい。
(叫ぶんじゃなくて、ハッキリした発音で、普通に発声するんじゃダメ? ってこと?)
内心で頭を抱えながら、どうせここで使わなければ死ぬかもしれないのだ…。
ならば一時、恥ずかしい想いをしても、死ぬよりマシ! とばかりに決意する。
彼女は腕輪を高く掲げ、周囲に良く見えるようにすると、叫ぶ準備に入った。
「ちぇぇ~~~ん…ん…ぇ?…?」
気が付くと、先ほどあれだけ嵐のように乱れ飛んでいた魔法の乱流が、止んでいた。
何事かと思うと、自分達を囲んでいたアンデッドたちがみんな、踵を返してどこかへと移動を開始している。
これは逃げているわけではないと、誰もが納得している。
ノーダメージで今まで通していたが、どちらも決定的な手段が見いだせなかったためフォーサイトもアンデッド側も身動きが取れなかっただけだ、このまま物量戦でゴリ押しを続けていればいずれ、相手側に有利な状況になっていたはずだ、逃げ出すとは思えない。
ならば、一体、なにが起きたのだろう…と4人共に首を傾げていた。
そして、メンバーの3人から「さっきの何だったの?なんか言おうとしてたんじゃない?その腕輪の効果?」
イミーナから先ほどの叫びに関して聞かれたが、さすがに答えを言うのは最後の手段にしておきたい。
今回は、無事に済んだが…まだ安全だとは言えない状況だ、いつまた…さっきのような状況になるかがわからないのだ…
死んじゃう前に使った方が得策だけど…決心したつもりでも、素に戻ってみるとやっぱり…意味は解らないけどあの言葉は多分、恥ずかしい…もの…だと、思う…。
という感想を浮かべていた。
★★★
「光栄しゃな…これたけのアンテットか相手をしてくれるとはの…」
「お爺さん、軽口を叩いてる暇があるなら、戦う準備をお願いしますよ?」
「ほっほっほ、エルフのお姉ちゃんの方か、アンテットに対して有効な手はたくさん知っておるしゃろう?」
「みんな一通りは、アンデッド対策はしておりますが…、それぞれが別々の方法なので、一人でも欠けたら大きくアドバンテージが傾いてしまう恐れがありますので…護衛の方、お願いできますか?」
「了解しゃ…しかし…なんつ~か、頭か痛いの…これほとの数…先は遠そう…しゃな…。」
それらの言葉を後ろに聞きながら、前方に意識を向けているベルが、どこまでも押し寄せて来るアンデッドを光輝く剣で一閃するごとに十数体が光の粒子となって消えていく。
その度に、わずかずつ前進しつつ、老公、そしてエルフ達の計4名も神聖属性の範囲魔法をアンデッドらとの間に展開させ、距離をとりながら下がっている。
下がった先で展開していた神聖属性の範囲魔法を使い、またアンデッドの歩みを止めているという手段でじりじりと進むベルの背中を見失わないように下がり続けている。
現在、ルチルがやっと覚えた魔法強化系の<
進軍を止める効果はないが、弱い敵程度なら、相手はアンデッドなので、範囲内から外に出る前に神聖ダメージで随時、粒子となって消えて行く。
それだけでも結構違うモノなのだ。
そして、そこから外に出てきたら、異空間でロバーデイクが覚えた魔法を元に、自分も取得してみた魔法をディーネも唱える。
この魔法も範囲系魔法だが、使用者を中心に術者の力量に応じた範囲をカバーして、範囲内の対象に神聖属性の護りを…負の属性の者にはダメージは与えないがディーネのレベル以下のアンデッドの侵入を阻む効果があり、足止めには充分に効果がある。
残念ながら、展開時に、展開範囲内に運悪く巻き込まれたアンデッドが居たとしたら、その者らは能力値に大きな減少を余儀なくされ、身動きが取れなくなる。
<
この魔法は発動時は使用者を中心にして展開されるが、展開されたら術者とともに移動ができる効果はない、その為、この魔法は、一度唱えたら、その場に残り続ける。
良くも悪くもそういう効果で、その場でアンデッドを足止めする役目を果たしている。
しばらくすると足を止めている前線のアンデッドと、後ろから続々と押し通す寄せて来るアンデッドとで団子状態になった頃合いを見計らい、セピアが<
それだけで、かなりの効果を上げていた…。
だが、そのアンデッドたちは無限に湧き出るPOPモンスター…それだけしても、まだまだその後ろには山のようにゾロゾロと蠢いて、緩慢な動きで押し寄せて来る。
「しかし、これはすごいね…まるでこの墳墓の全POPが、ボク達の方に集中してるんじゃないか?ってくらいの量だよ…、フォーサイトのみんなが大丈夫ならいいんだけど…」
一人で、そうつぶやくベル。
その声は戦闘中である後ろの4人には聞こえていない。
「それでも、こんなところでぐずぐずしてる訳には行かないな…早く、打ち合わせた場所まで…しかしこの数…、あ、そうだ、あの手段を使えば…」
ベルは戦いながら、魔法の詠唱に入る。
発動させたのは<
すると、選んだモンスター「オルトロス」が現れ、正面のアンデッド達を自分の代わりになぎ倒していく。
その間にベルは、アイテムボックス内から「トラップ機構付き宝箱」と命名したアイテムを取り出し、そこから
その内、「魔力系の看破、探知を阻害する指輪」を外して、空いている指に嵌めた。
「うん、これで準備は良し…と、後は転移するだけだな…。」
余裕で後ろを振り向くと、魔法の展開を準備している3人と、前衛で頑張ってくれている老公。
その4人を、瞬間的に元の姿に戻った体で、大口を「がぱぁ」と広げる。
そのまま、不意打ちで4人を丸呑みし…、
その場に残されたのは、召喚され、主の命令通りに…、召喚の際に与えられた仮初の肉体で戦うオルトロスのみである。
★★★
「こりゃ…行くしか…ないんだろうな…」
フォーサイトが自分たちの身に起きた突然の変化に理解が追いついたのは、ここに放り出されて、しばし経過してからだった。
アンデッドモンスターが一気に、波が引くように消えて行ったと思った刹那…足元に光り輝く魔法陣が表れたかと思えば、今、自分たちが居る場所。
というわけだ。
アルシェが言うには帝国の闘技場とよく似ているらしい。
例えるならば、自分たちは挑戦者側、ということで、対戦者として招かれているのだろうということは明白だ。
「では…行くとしますか!」
決意をして、促すと、自分以外の3人も心を決めたようだ。 頷いてくれている。
…こうして、フォーサイトチームは、目の前の鉄の柵へと歩みを進めていくのだった。
…そこで何が待っているのかを、まだ何も知らぬまま……。
あとがき
さてさて、結局、仲間の亡骸を弔う時間もなく、霊廟に入ることになった老公。
その間にナザリックの関係者たちが丁重に扱い、有効活用してくれることでしょう。
監視下に置かれ、初めて(不意打ちとは言え)丸呑みにされるという人生で初の
体験を味わってしまいましたが、彼の精神はどうなりますやら…ですね。
多分一緒に腹に納まってるエルフさん達の説明で混乱から立ち直るのは幾分か
早いのでは…と思いますが…。
それではいよいよ、次の話では「ナザリック VS フォーサイト」ですね。
多分、本格的な戦闘は起きないと思います。
…未定ですけどね。