気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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前書き

やっと、第6階層の闘技場にまで場面を進ませられました。

実際、レベル的にはハムスケの方が低いはずなんですが…悲しいかな人間のレベルアップの上昇値と魔獣の上昇値の差が如実に出てしまった結果が、これということなんでしょうね…しかも武技使えるようになっちゃったし…

それでは、皆さま、どうかお楽しみくださいませ。




第52話 対戦!フォーサイトVSハムスケ…

 そこは第6階層、円形闘技場(アンフィティアトルム)

 

 アインズは効率を優先して、少々回りくどいやり方ではあったが、ワーカー連中(ベルリバー達チーム含む)に会わないように、まず「プレアデス」の末妹オーレオール・オメガに連絡を取り、そこからナザリック内での<転移門(ゲート)>の全てを管理している彼女の協力を得て、円形闘技場(アンフィティアトルム)の、最上段への<転移門(ゲート)>を展開してもらった。

 

 という方法で、その場に来ている。

 

 ある程度の時間を過ぎてから来たので、当然であるが階層守護者(第4と第8を除くメンバー)は全員揃って主が来るのを待っていた。

 

 ご丁寧に、その最上段では、骨の玉座が用意されており、守護者たちは全員が跪いている。

 

 いや、よく見ると、まだデミウルゴスが来ていない様子だった。

 

 

「ん?どうやらまだデミウルゴスは来ていないようだな…。」

 

 

 玉座の前で、以前のように「忠誠の儀」をそのまま再現したような姿勢で改まったまま、待ち続ける階層守護者たち。

 

 その「圧」に若干、気圧されそうになるも悟られまいと、堂々とした姿勢でその玉座に腰掛ける。

 

 座ってみて初めて分かった事だが、見た目に反してそこまで座り心地が悪いという事が無くて少し安心するも、「まだココで気を抜くわけにはいかない!」と己を奮い立たせ、支配者ロールに入る。

 

 

「まぁ、デミウルゴスは持ち場の段取りに区切りがつき次第と言ってあるからな…まだ来ていないという事は、まだ奴らが来るのに時間はあるのだろう。 …のんびりと待つとしようか。」

 

 

 そういう言葉を誰ともナシに呟いていると背後から「皆さん、遅れてしまいお待たせしてしまったようですね…。」と聞きなれた声が聞こえてきた。

 

 

「おぉ、デミウルゴスか、そっちはイレギュラーもなく、誘い込めたようだな。」

 

 

 玉座に座ったままのアインズから、少し離れた場所より声が届いた。

 

 どうやら、急いで飛んできたようで、背中から生えた悪魔の翼を最後にはためかせると、静かにその場に下りた。

 

 そのまま大回りで迂回するようにして玉座の前方に歩みを進めてきた悪魔、デミウルゴスが即座に跪いた姿勢になる。

 

 

「申しわけございません、御方をお待たせしてしまうとは…私の至らなさをお許しください。」

 

 と言い出す彼に軽く笑い飛ばす空気を纏わせ、支配者は言葉を返す。

 

「いや、そこまでの事ではない、私が『ヤツらを誘い込んでから来い』と言ったのだ、それを待てぬ程、狭量ではないつもりだぞ?」

 

 

「おぉ…なんという慈悲深きお言葉、まさに真の支配者の器に相応しきお言葉かと存じます。」

 

 

「あまり時間をかけている余裕はあるまい…うまく誘い込めたのだな?」

 

「はい…万事、抜かりなく…転移の罠を使用し、飛ばされた先で、そこから数歩でも歩みを進めれば、即座に『今回、導入することになった罠』を起動する手筈となっております、オート機能という便利な機能を備え付けておりますので…足を踏み入れたらすぐに私の魔力が消費され……、あぁ、かかったようですね。」

 

 

「まさか、それであっけなく終わるような(トラップ)などではあるまいな?」

(正直、来てほしいと思わなかっんだけどな…俺のことを「友達」だと言ってくれた子らの「姉」をわざわざ殺したくなんてないし…かといって侵入者をタダで帰す訳にもいかない…難題だな、守護者達にも納得する理由付けが必要だけど…さて、どうするかな…)

 

 

「はい…この度、配置したのはごく低位の(トラップ)で「スローガス」「コンフューズガス」の二つでございます、これに掛かれば、ふらふらと前方に歩くしか出来なくなる上、動き自体も遅くなりますので、普通に歩くよりは時間がかかるかと思われます。」

 

 

 デミウルゴス視点ではかなり気に入った様子で、新しく導入した(トラップ)の手ごたえは十分らしい。

 

 さも、楽しそうに報告をしてくれる辺り、これからもこの(トラップ)は度々お世話になるのだろうと内心で予想を立てていた。

 

「では手短に話すとしよう、アウラ…奴らが来たら、進行の方は宜しく頼んだぞ?」

 

「は! アインズ様の仰せの通りに覚えて参りましたので、抜かりなく務めてご覧に入れます!」

 

「うむ、期待している。」

 

 

 そこでアインズは一呼吸置き、重々しい口調で目の前の守護者たちに語り掛ける。

 

「さて、皆にここまで来てもらったのは侵入者への制裁をその目で見てもらうため…というのは当初の予定通りなのだが…先ほど、予想外の事態に陥る羽目になった…、下手をすれば今回、計画したよりも大きな余波がナザリックにもたらされるかもしれん…もしかすれば、階層守護者たるお前たちにも動いてもらわねばならぬ展開になるやもしれん…その時は…、想定とは違う展開となるが、お前たちの力も貸してほしい。」

(まぁ、ベルリバーさん次第なんだけど、守護者に対するサプライズって何を準備してるんだろうな、あの人は…)

 

「あの…アインズ様、それは先程の…アレのことでしょうか? それほどの脅威ということなのですか?」

 

「ふむ、アルベドよ…私は常々お前たちに言っているようにどのような事態になろうとも決して対する事象、相手、敵対する者らなど…それに関して侮ってはならぬと言ってあるのは、忘れてはいないだろうが…、今回のワーカーの中に、ひょっとしたら現地の者らが伝え聞く「神人」と呼ばれるプレイヤーの血縁者、若しくはプレイヤー本人が紛れて入ってきた恐れがある。」

 

「な…、それは、事実でございますか?アインズ様…。」

 

「うむ、デミウルゴスよ、その件に関しては今、悠長に語っている時間はなさそうだ…、フラフラとではあるが、『招待した挑戦者たち』が御出ましのようだぞ?」

 

 

「は…、それではこの一件が片付き次第、詳しいお話をお聞かせいただければ…」

(やはり考えていた通り、私達の認識を改めさせるための舞台を用意してくださったという事でしょうね…、そのご期待、このデミウルゴス、至高の御方々より与えられしこの頭脳、その全てで応えて見せましょう!)

 

 

「ではアウラ、相手は正気に戻ったようだ…、周囲を見回し現状の把握に努めている、今の内に計画通りに進めるぞ?相手に主導権を握らせるな…、行け。」

 

「はい!アインズ様! それでは行ってまいります!」

 

 そう明るく返事をしたアウラ、その軽やかな動きで、闘技場の最上段から戦いの場となる地表舞台まで「とあ!」という掛け声とともに体を宙に投げ出し…舞い下りて行ったのだった。

 

 

                     ★★★

 

 

 

「こ…ここは、既に相手の術中に嵌ってしまったということでしょうか?」

 

「…のようだな、まさか歩き出した瞬間から、この場まで意識がまるで無いとは…恐れ入ったよ。」

 

「これで終わりな筈がない…きっと何か仕掛けてくるはず…」

 

「私達四人でなんとか切り抜けるしかなさそうですね。」

 

「幸い、どうやら外には出られたみたい、これなら<飛行(フライ)>でどうにか…」

 

 と、チーム内で現状の確認をしながら会話をしていると、はるか上空から「とあ!」という可愛らしい声と共に舞い降りてきた小柄な…中性的な魅力を持つダークエルフ、きっと目の前の相手がこれから何かをして来るのだろうことは誰の目にも明白であるため、瞬時に警戒の態勢に入る。

 

 

 目の前で着地したダークエルフ。

 

 それは大きく砂埃を舞い上げる程の衝撃だったにもかかわらず、どこも体を痛めている様子はない。

 

 あんなに高い場所から飛び降りているのに…だ、それをその身ひとつで…ヒザの動きだけで衝撃を吸収してしまったのだろう…そんなことを軽くこなしている様子からして基礎的な身体能力だけをとっても、信じられない程の相手だろうことは見てわかった。

 

 それは恐らくイミーナが一番良く解かっているだろう。

 

 エルフは基本的に森での生活を送る上で必要な能力を自然と身に着ける。

 

 数百年から数千年は(寿命と言う観点では)生きるとも言われるエルフだから、それだけ時間をかけて能力を身に着けていく訳であるが、あそこまで逸脱した身体能力を得た個体など、居るはずはないと彼女もそう思って居た。

 

(いえ、母様から聞いた話では同じことが出来る存在というのは1人聞いたことはあるけども…、あいつはもうエルフという種ですら捨ててしまったような感じみたいだから…、でもどちらがより上なのかしら…)

 

 

 彼女がそう内心で思案に耽っていると、砂埃が収まった地面からすっくと立ちあがったダークエルフの子が、片手に見たこともないような、ワンドの変形させたような短い棒を口に当て、大仰なポーズを取りながら、言葉を紡いでいく…どうやらすぐに戦闘に入る為に来たわけではないらしい。

 

 

「そぉ~れではみなさん! お待ちかねぇ!! 今回我々の前に姿を現した挑戦者は…ナザリック地下大墳墓に侵入した、命知らずの愚か者たち4人!!」

 

 

 そう…まるでこれから起きることの前触れを事前に…明白な立場として知らしめるように自分たちの方へ手の平を向けているダークエルフの子。

 

 その顔はわずかに笑顔を浮かべているが、好意的なモノでは無いことは雰囲気でわかる。

 

 帝国の闘技場でも、このような決闘の場に入った時には進行役の係員が会場を盛り上げるべく、今のような口上を発することで、場の空気を温めることはよくあることなのだ。

 

「そうなると、嫌が応でも戦わなければならない立場になったわけか…」とヘッケランは気を引き締める。

 

 

 

「そして、その者たちに対しますのは…、ナザリック地下大墳墓の主! そして偉大にして至高なる死の王! 『ナインズ・オウン・ゴール』様!」

 

 

 そう言われ、私達が入ってきた方とは反対…というより、正面に位置していた鉄格子が上に持ち上げられていくと、そこから顔を見せたのは、一見して濃密さが全く違う「死」の気配を漂わせる存在。

 

 あたかも「死」をそのまま具現化したような存在が目の前に歩みを進めてきた。

 

 その首には奴隷剣闘士を真似ているのだろうか…仰々しい首輪を付け、片手剣と、一回り大きいラウンドシールドを身に着けている。

 

 

(今回、名前を変えるしかなかったもんなぁ…まさか、彼女の前で「アインズ」の名前出しちゃうワケにはいかないし…名乗っちゃうと正体バレちゃうしな…緊急の対処として〝死刑執行人"的な立場ということでその名前…ってことでゴリ押ししたけど…今回だけにしておこう。)

 

 

 内心、ヒヤヒヤものの心境で、アルシェの前に出てきた「アインズ」改め「ナインズ」であったが、それはアルシェも同様であった。

 

 この墳墓に入った時に見た旗印…紋章は、ゴウン様のお屋敷に招かれた際、頭上高くに堂々と掲げられていた図柄と全く同じであったためだ。

 

 心の中で動揺はしているものの、なんとか思考を巡らせる。

 

 果たして、目の前の人物「ナインズ」と名乗ったのは誰なのか…「アインズ」と名乗ったゴウン様と直接関わりのある存在なのか…それとも全く関わりのない別支部かなにかの責任者なのか…?

 

 考えてはみるものの、答えは出ない。

 

 しかし一つ言えること…今までの「ベル」さんの行動からしてハッキリ言えること…それは私たちの想像も及ばない常軌を逸した存在であればある程…どうやら本名や、自分の身の上が判明するような手掛かりは教えたがらないのでは?という懸念だ。

 

(そうなると「ナインズ」という名前も本物か怪しい…それどころか…信じたくはないし、そうであってほしくはないけど…目の前の存在が、「アインズ」と名乗ったゴウン様本人という可能性も捨てきれない…。 まぁ、冒険者でもワーカーでも身分がバレないように偽名を名乗るのは一般的だし…隠さずに名乗るのは…私たちみたいな例外的なケースだけだけど…。)

 

 そこまで考えた時点で、また新たな言葉が目の前のダークエルフから発せられる。

 

「おぉ~~っと!! どうやらセコンドには『我ら』が守護者統括! アルベドが居るぞぉ!」

 

 

(守護者…とうかつ? 別の肩書を与えられているって言うことは、考えられることは二つ、守護者に次ぐ実力者か…それか、守護者の中でもひと際実力が高い者?)

 

 そこまで考えて、甘い考えだったと考えを改める…、この地の支配者の近くで「せこんど」なる立場に居る以上、低い実力の筈はない…ならば、守護者の中でも特に実力のある者であるという絶望的な状況に違いない…。

 

「申し訳ない…みんな、私のせいでこんなことになった…。」

 

 思わず、謝罪の言葉が口から出てしまった。

 

 それと言うのも自分のワガママで「みんなで、最後を飾る冒険で締めくくりたい」

 

 そう言いだしたのは私の方だったからだ。

 

 

 それに対してメンバー3人からもそれに対しての言葉が返ってくる。

 

 きっと私を責める言葉などは言わないだろう、みんなそういう人たちだからそれは解っているが、言わなければ自分の気が済まなかった。

 

 

「いやいや…この娘っ子はな~にを言ってるんですかいな?って!」

 

「…ですね、これはみんなの総意、全員が決めて選んだ仕事です。」

 

「そ~いうことよ、気にする必要なんかないわ、チームでしょ?私達。」

 

 

 そのやり取りを遠巻きに見ていた「ナインズ」と名乗っている支配者が対戦相手であるフォーサイトに軽やかな声をかけた。

 

 

「どうやら盗人は盗人なりの仲間意識くらいはあるようだな…、心意気は立派だと言っておこう…だが、この墳墓に侵入した時点で、お前たちは私の財を目当てに侵入してきたのは明白…ならば相応の覚悟は済ませてあるのだろう?」

 

(一応、口唇蟲で声を変えておいてよかったよ、声だけなら今の俺が「アインズ」だとは思われないだろう。)

 

 

 ナインズがそう考えていると、それとは逆にヘッケランは生き残る確率を少しでも高めようと模索をし始めていた。

 

(…さて、無駄だとは思うが、向こうさんから話しかけてくれたんだし…交渉してみるか…?)

 

 

「まずは謝罪をさせていただきたい…あぁ~…ナイン…ズオーン…殿?」

 

 

「………ナインズ・オウン・ゴールだ。」

 

 

「失礼! ナインズ・オウン・ゴール殿…、この墳墓内にあなたに無断で入り込んでしまったこと深く謝罪いたします。」

 

(よし、ここまでで反論はない…ということはその先の話を聞いてもいいという認識で居ていいという事、ならまだ道はある。)

 

「許していただけるのであれば…それに相応しいだけの謝罪の印として、金銭をお支払いしたい。」

 

 

(ん~~…金銭と言われてもな~…こっちの交金貨って帝国金貨と1:1だろ?それなら仮に1万金貨受け取ってもナザリック的には5000金貨程度の価値しかないわけだし…、これでもし…こいつらがナザリックの財をかすめ取っていたなら…『どの道、その金は私たちの物だっただろ?』って怒りも出ていただろうけど…こいつら…奪ってないしな~…)

 

「お前たちは何か勘違いをしているようだが…私は別に強欲でも、欲に目がくらんだ守銭奴でも無い…ただ…そうだな、お前たちの実力の程を知りたいのだよ…そう、今まで見ていた中でお前たちはなぜかは知らんが、自分の実力を隠しているように見える…それが気になってな、力を見せてもらいたいのだよ。」

 

(それに、あのハーフエルフの子の装備、どこかで見覚えがあるんだよな…すごくノスタルジックな感覚がビシバシと刺激されるんだけど、どうしても思い出せない…。)

 

「それに、一番年若い少女の装備、どうやらうまく誤魔化しているようだが…かなり上位の魔法的な金属の糸で編まれた衣装を身に着けているようだ…私の目はごまかせん…それをどうやって手に入れたのか…興味があってな…。」

 

 

「…つまり、装備を置いていけ…という事でしょうか?」

 

 

「いや、そういうことでは無い、つまりはだ…今から私がお前たちと戦うのは簡単だが…その前にどうしても確かめなくてはならないことがあってな…キミ達の実力を確かめる上でも、私の頼みを聞いてくれるとありがたい…それを持って、キミらの実力が分かればいいのだよ。」

 

 

「……ということは、その後ろの女性と戦え…ということなのでしょうか?」

 

 

「いや、それも正解ではないな…、彼女と刃を交えるようなことにでもなれば、恐らく実力の程を確認する前に勝負がついてしまうだろう…それではあまりにも味気ない…ということで別のお相手を用意させてもらった。 今から呼ぶモノと戦い、無事に生き延びたならば…恐らくはソイツ以上の実力はあると判断して私が相手をするかどうか…それはその時に判断させてもらうとしよう。」

 

 

「…それを倒せば無事に帰してもらえるって話じゃ…ないみたいですね…。」

 

 

「そこまで警戒しないでも大丈夫だと思うぞ? 一応そいつには『戦士』としての成長を見せて欲しいと言ってるだけで、〝相手を殺せ"と言ってるワケではないしな…、抵抗する素振りを見せたり、逃げようとしなければ…、問題は無かろう。」

 

 

「この空を<飛行(フライ)>で飛んで逃げても…追って来ますかね?」

 

(まぁ、普通に空を飛んでくる相手が居ても不思議はないよな…そんな気がするよ、あの黒髪のお姉さん、腰から翼が生えてるし…それだけで追いかけてこられそうだ。)

 

 

「そうだな…面白い手段だとは思うが、現状ではやめておいた方が良いだろうな…、弱肉強食の世界では当然の摂理だが…『逃げる者は追いかけたくなる』…そういうものだろう?」

 

 一瞬、目の前の骸骨の眼窩が赤く、怪しく揺らめいた気がした。

 

 

「申し訳ありません、少々、チームで話し合いたいのですが、その時間はあるでしょうか?」

 

 

「あぁ、構わない、存分に話し合うといい、今生の別れとならないよう…心行くまで語り合うとイイ…。」

 

(このくらい言っておかないと多分、守護者たち的に溜飲は下がらないだろうし…仕方ないと思って居てもらおう。)

 

 

                     ★★★

 

 

 

 フォーサイトのメンバーは顔を付き合わせ、話し合ったが、結局建設的な結論は出せなかった。

 

 逃げようにも、先ほど釘を刺されたように、空を飛んで逃げようとも、種族的に空を飛べる存在と鬼ごっこをしても勝てる見込みはないことと「逃げれば追う」と明言された以上…先ほどの提案を受けるより他はなかった。

 

 なんとかこちらの要求で飲んでもらえたのが「命にかかわりそうな状況や、身体の欠損などの負傷を負う羽目になったら治癒を頼めるだろうか?」という部分だけは了承してもらえた。

 

 そばにセコンドとして来ているという女は反対していたようだが、「生かさず、殺さず、実力が半減するような負傷を負ったら治療して、また実験に使える限りは使えた方が良いだろう?」という物騒な説得をし、その女は「そういう事情であれば、あの者たちに相応でしょう。」と、やたら聞き捨てならない言動を発して認めてくれたのはかなり不安な部分はあるが…。

 

 

 そうして目の前に居た先ほどの「ナインズ」という者と、女悪魔は引きさがり、その代わり、大勢の蜥蜴人(リザードマン)と、それに引き連れられた大型の魔獣、見たことも無い雄々しい銀の体毛、力強さを感じさせる瞳に、見るからに強大さを感じさせる体躯。

 

 尻尾はまるでドラゴンの鱗に覆われた蛇のような姿に似ていて、四つ足ながら、問題なく二足歩行もできるあたり、伝説の魔獣と言ってもいいかもしれないその姿…。

 

「まさか、こんなすごいのと戦わされることになるとはな…」

 

「大丈夫…私達なら…あの場所だって乗り切ったんだから。」

 

「これでも「あの扉」を潜る前と後ではそれなりに力量も変化してる自負はあるつもりですよ。」

 

「私も、少しは使える魔法の位階も上がった、大丈夫。」

 

 

 

「さて、それではお仲間との話は済んだでござるか? (それがし)は修行の成果を見せる場を作って頂いた殿の為に、今まで磨いてきたこの力、存分に振るわせてもらうで御座るよ。」

 

 

 どうやら目の前の魔獣は言葉も操るようだ。

 

「ヘッケラン、あの魔獣、今の私と同じ第4位階までの魔法を使えそう、気を付けて。」

 

「そいつぁ~…ちょっと本気でかからないとまずいっぽくないか?」

 

「そうね、短期勝負で、一気に畳みかけるとしましょうか…?」

 

「その方がいいでしょうね、嫌な予感がしてなりません。」

 

 ここでヘッケランが目の前の魔獣に質問を投げかける。

 

「一つ、聞きたいことがあるんだが…、後ろに居る蜥蜴人(リザードマン)達は…次に控えている対戦相手…という認識でいいのか?」

 

 

「あぁ、彼らは(それがし)の戦いを採点する役割の者達で御座る。 手は出さないので気にしないで欲しいで御座るよ?」

 

 

「それは良かった、さすがにそれだけの数を相手にするのは連戦と言う状況からしても乱戦は避けられないと思ったからな…無駄に血を流してここの主を不快にさせたくなかったから安心したよ。」

 

 

「お? 余裕で御座るな? (それがし)を相手にして、その次の戦いも視野に入れるとは…見掛け倒しで無いことを願うとするで御座る。 …では行くで御座るよぉ!!」

 

 

 そう言って、体を低くかがめると、その魔獣は攻撃に移る前に「あ、そうで御座った」と態勢を変えずに再び言葉を投げかけてきた。

 

 

(それがし)はハムスケ! そちらも名乗ると良いで御座るよ!」

 

 

(実は正々堂々とした戦いができる相手なのか? そう言えば「『戦士』としての成長を見せる場」って言ってたしな…そういうことなら、多数:1って言うのはこっちにとって有利すぎじゃないか?それとも、それだけ、相手であるあの魔獣は強いっていう証拠なのか?)

 

 

「俺はチーム「フォーサイト」のヘッケラン、軽戦士(フェンサー)だ…、最後に一つ確認だが…遠距離攻撃や、魔法支援などの多人数の手数押しが「卑怯だ」って言い分があるなら今の内に言っておいて欲しいんだが?」

 

 一応、勝ってからクレームを付けられても困るので、戦いに入る前に確認だけは怠らず、どこまでが了承ラインなのかを探る為、言い分だけは聞いておくことにする。

 

「ん? 元々最初から全員を相手にするつもりだったので全く構わないで御座るよ?」

 

 そこまで言った魔獣の雰囲気が少し変化し、目つきも鋭さを増したかと思うと、こちらを挑発するような言葉を告げて来る。

 

「…と言うより、それでいい勝負になるとイイなぁ~と思って居るで御座るよ?こっちも。」

 

 

(完全に舐められてるな…こりゃ、初めから飛ばして行く感じでちょうどいいかもしれないな…。)

 

「それじゃ、仲間の名前も伝えておこう…鎧でガッチリ固めた男の方がロバーデイク…小柄な女の子はアルシェ、最後に最後尾のイミーナだ。」

 

 

「そうで御座るか…、それにしてもずいぶん静かで御座るな、強化魔法などを使わないでもいいので御座るか? (それがし)はそちらの準備が整うまで待っていてもいいので御座るが…小柄な女性は魔法詠唱者(マジックキャスター)で相違無いので御座ろう?」

 

 

「生憎と、このあと、どんな展開になるかわからないんでな…少しは真面目に戦うつもりだが…、全力を出したとして、次の戦闘に勝てないとか考えたくないんでね、余力は残しておきたいのさ」

 

 

「それはそれは…やはり余裕があるのは何よりで御座るよ、こちらもそれでこそ命の奪い合い甲斐があるというもので……御座る、よ!!!」

 

 

 最後の締めくくりの言葉と同時に後ろ脚を蹴って駆けてきた来た巨体。

 距離を詰めてきた「ハムスケ」と名乗った魔獣。

 

 その勢いのまま正面から受ければ吹き飛ばされるだけではすむまい…と判断したヘッケランが<回避>の武技を使用し、後ろに飛ぶと同時に<空炎斬>を撃ち出す。

 

 その炎の剣閃は、ハムスケの鼻先に直撃するも、あまりダメージは受けていないようだ。

 

 ハムスケと名乗った魔獣はその勢いのまま、爪の攻撃も組み込んでいたようだったが鼻先に炎が当たり、焦がされた為、わずかに爪の軌道がずれ、ヘッケランの装備に小さな爪先の痕が残る程度で終わる。

 

 

(もう少しダメージが行くかと思って居たが、あまりにもダメージが少なすぎるな…種族の特性で炎が利きづらい性質なのか? …それともアイテムとかそこらへんで外傷の軽減を図っている?)

 

 

 ヘッケランが考え事をしている間、アルシェとロバーデイクから支援魔法が届く。

 

 <魔化武装・炎属性(エンチャントウェポン・フレイム)

 

 <攻撃速度・軽上昇(クイック・ヘイスト)

 

 

 この組み合わせは以前まで修行していた異空間で確立させた戦い方の一つ。

 

 炎の精霊が宿る双剣に炎属性の魔法を付与させることによって、元々のダメージ量以上の攻撃力を発揮することが分かった為、炎が効果的な相手や、炎の属性ダメージを元々の攻撃力以上に引き上げたい時に使用する組み合わせだ。

 精霊にとっても炎の相乗効果という物はありがたいらしく、これをすると発動の効率、消費量の軽減にもつながる為、重宝していた。

 

 攻撃を繰り出すための速度も重要で、これに加えてヘッケランの武技<疾風加速>が加われば単体での戦力としては期待できるようになっているだろう…もちろん更に上昇させる奥の手も身に着けているのだが、それはヘッケラン自身が使いどころは良く解かっていそうなので、その部分は彼に任せることにする。

 

 

「ほぉほぉ…剣から炎…で御座るか?それは面白い武技でござるな…そういうものも覚えてみてもいいかも知れんで御座るが…しかし、(それがし)の鼻を焦がした程度では次の勢いを止めることは不可能で御座るよ?」

 

 そう言うと同時に、再び姿勢を低くして次の突撃の準備に入っていた。

 

「そうはさせないよ? <雷弓強撃射>!」

 

 イミーナが身に着けている鎧の効果で、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)からの<雷撃(ライトニング)>をしこたま溜め込んだ「魔力ストック」分で雷撃用の電流が迸る弓を作り、そこから武技の<強撃射>を併用したイミーナのオリジナル武技だ。

 

 常にヘッケランの後ろに居るように立ち位置を工夫している彼女から放たれる「雷撃の矢」。

 

 ハムスケがヘッケランに突進しようと正面から来るという事は、必然的にヘッケランの背後に立っているイミーナから見ても狙える射線上に居るという事になる。

 

「おっと! これは危ない所で御座った! なかなか出来るようで御座るね?」

 

 

 ハムスケは突進しながらもその勢いのまま斜め上方にジャンプすることで射線から外れ、避けることに成功する。

 

「では、こういうのはどうで御座るかな?」

 

 空中に居るままのハムスケが、その場で体を丸め、ボールの様に高速回転をし始める。

 

 そのまま、ヘッケランの方にV字を描くような方向転換で突撃を敢行した。

 

(さすがにあの勢いをそのまま受けたら<要塞>が使えて防御したとしても数mは後ろに後退させられるだろうな…) 

 

 まだ<疾風加速>の効果は切れていないヘッケランは、上空から落ちて来るハムスケが近づくより早く下を通りすぎ、着地した瞬間に攻撃をするべく体勢を整える。

 

 

「甘いで御座るよ!」

 

 そう言うと、回転させたままの体から長い尾を広げ、鞭の一撃の如く、しなる尻尾の攻撃が上から襲い掛かる。

 

 勢いの乗った攻撃だが、一辺倒すぎる。

 

 打ち下ろす軌道が丸わかりなので、少し身を横にずらすだけで躱すことが出来た。

 

 地面に尻尾が叩きつけられた大きな音が響き、それと同時に地に降り立った魔獣「ハムスケ」

 

 一撃は入れたものの、それからは防戦一方のヘッケラン…両者ともに相手を見据える。

 

 

「なかなかに素早いで御座るな…だが逃げてばかりでは(それがし)に勝つなど夢のまた夢で御座ろう?」

 

「そうだな…こちらも余裕を出している場合じゃなくなってきたようだ…そろそろ<疾風加速>の効果も切れそうな時間だ…、一気に攻めに転じよう。」

 

 

「天晴な心意気で御座る! さぁ、見せるで御座るよ、侵入者よ…そなたの輝きを!」

 

 目の前の魔獣はそう告げると、ヘッケランの前へと悠々と歩みを進めて来た。

 

「接近戦で御座るよ…受けるで御座るか?」

 

(しまった! まさか目前まで来ての接近戦に持ち込まれるとは…これじゃ<疾風加速>の利点が活かせない…。)

 

「あくまで戦士としての戦いを望むというなら…応えるとしますか!」

 

<肉体向上> <限界突破> <剛腕剛撃>

 

 

<双炎斬・連撃>

 

 

 ヘッケランが新たに身に着けていた武技の発動に踏み切る。

 

 それは<スライト・ヘイスト>の一段上の位階魔法<クイック・ヘイスト>の効果中に放たれる<双炎斬撃>の多段攻撃版である。

 

 4回の攻撃を可能とする攻撃だが、4光連斬のように一度に4つという訳ではなく、4回の連続攻撃であり、攻撃の速度は使用者の敏捷性、器用度の数値に影響される。

 

 その為、魔獣であるハムスケより勝る敏捷性や器用さを持ち合わせていないと対処される恐れがあると言う弱点も同時に孕んでいた。

 

「よ! は! なんと!」

 

 

 両腕の爪で器用に捌いているも3撃目の剣を弾く際に体勢を大きく崩されたハムスケは後ろに倒れるような動作を取ると、剣の軌道から大きく外れることに成功している。 しかしそれを見逃すヘッケランではなく4度目の攻撃を、その丸見えになった腹に見舞おうと4撃目の剣を振るう。

 

 これが対人の戦闘であったならこれで話は済んだかもしれない、だがヘッケランが相手にしているのは「魔獣」だ。

 

 人間とは違う対処の仕方があることを忘れてはいけなかった。

 

 

 ハムスケは倒れる勢いを利用して、自分の尻尾を地面すれすれの位置から跳ね上げるようにして反撃に出る。

 

 攻撃に意識を集中させていたヘッケランでは、それに気づくのはあまりに遅い結果となった。

 

「危ない!ヘッケラン!」

 

 アルシェの<雷撃(ライトニング)>がハムスケに向けて放射される。

 

 寝転がっていて大きく体勢を崩していたハムスケではこれに対処する選択肢は残されていない。

 

「むむ…<外皮強化>! …で御座る!!」

 

 一見、もふもふの毛並みにしか見えない柔らかそうな体毛がいきなり鋼のような硬さになり、ハムスケの身を護る防具となる。

 

 もちろん<雷撃(ライトニング)>の直撃は避けられなかったが、それでもダメージは最小限に抑えたようだ。

 

「危ないで御座るなぁ…、さすがに4人同時は手数が多いで御座るね。」

 

 

 武技による防御に切り替えたため、攻撃は途中で中断、尻尾の攻撃はヘッケランにダメージを与える程の威力は無かった。

 

 かなり威力が削がれた尻尾の一撃は、2本の愛剣で受けきることのできる程度で済んだので無傷。

 

(そうか…最初の<空炎斬>のダメージもあまり通らなかったのは、今みたいにダメージを軽減する手段によるものだったか…)

 

「悪い、助かった、アルシェ!」

 

 アルシェは何も言わず、顔を横に振る。

 その仕草は「気にしなくていい」というサインだ。

 

 

「ケガはないですか?ヘッケラン…」

 

 回復の準備をしているロバーデイクも声をかけてくる。

 

「あぁ、なんとかな、まだノーダメージで済んでるよ…」

 

 

「いやはや、なかなかで御座るな、それではこちらも最近モノに出来た技を出すとするで御座るよ。」

 

 

 そう言った魔獣ハムスケは、再びヘッケランの目の前にまで歩んできて、再度の近接戦を挑んで来る。

 

(それがし)も『戦士』として成長できているという証を「殿」にお見せせねば立つ瀬が無い故に、この辺で良い所を見せなければ、ご期待に沿えぬ我が身を歯痒く感じるで御座るからな…よもや、得意な間合いでの戦闘を避けはしないで御座ろう?」

 

 

「そうだな…戦士がこの距離で戦いを放棄するわけには行かないよな…乗せられてやるとするか」

 

 そう言葉を発した途端に、頭の中に不意に別の意識が流れ込んできた。

 

〔大丈夫なのか? かなり手こずってるようだが…? お前が敗れるようなことになれば俺たちはどうする? せっかくやっていけそうなパートナーを見つけられた矢先に死なれたらこっちは困るんだが?〕

 

 この意識は2本の愛剣の中に宿っている炎の精霊サラマンダーだ。

 

 異空間での修行で使っている内に次第に打ち解けられるようになってきたため、時々こうして語り掛けてくれるのだ。

 

 通常なら、そんなに心配などしてくれないはずだが…気になって頭の中で聞いてみる。

 

(大丈夫だって…俺に何かがあっても別の持ち主が現れてくれるんじゃないか?)

 

 

 そこまで脳内会話をし始めた段階で、目の前の魔獣にも変化が訪れる。

 

「……待つで御座るよ…。」

 

 

 目の前の魔獣を見る。

 

 観察してみるが、視線はこちらを向いている。

 

 それは確かなのだが、どこか眼に力がない…と言うより何かに気を取られながらこちらを見ているような気がする…。

 

(もしかして、向こうも、俺と同じように何かの存在と会話でもしてるのか?)

 

 

 そう考えていると、その自分の想いなどお構いなく炎の精霊は自分の言いたいことを一方的に伝えて来る。

 

〔お前は自分自身のこと、意外にわかってないようだな…お前みたいな奇特な輩はそうそういないという事を…、こっちは武器の一部、貴重な武器の能力の一端扱いなどされたくはないからな? そんな奴ら…こっちの存在を認めてもくれないヤツの為に振るう力など…俺らはカケラ程も持ち合わせてない!〕

 

(『奇特』って…ずいぶんな言い草だな…もうちょっと言い方あるだろうよ…、でもま、こっちだって死にたいわけじゃないからな…精々悪あがきして、見苦しく生きて見せるさ…それが無駄な努力に終わりそうなら…その時はその時だ…それからはお前の自由に生きろ?)

 

 

 などと会話をしていると、どうやら向こうの魔獣の方もこっちどころの話じゃないらしい。

 

「あぁぁ! もぅ、うるさいで御座るよ! 邪魔するなで御座るぅ!」

 

 魔獣は頭をぶんぶんと振りながら、意識をこっちに持ってこようとしている。

 

 そのタイミングで…。

 

〔そうか…わかった、お前がそのつもりなら、こちらもそのつもりで居よう…。〕

 

 それでサラマンダー(むこう)からの音信はぷつりと途絶えた。

 

 

「あぁ、もう、面倒で御座る! もう何もするなで御座る! しからば…行くで御座るよ?」

 

 どうやら最後の「行くで御座るよ」の部分だけはこちらに対して発した言葉らしい。

 

 先ほどまでの彷徨いがちな視線ではなく、しっかりとこちらを見据えながら言っていたのだから。

 

 

「あぁ、いつでもいいぜ?」

 

 

 巨体を持ち上げるようにして、両腕をゆっくりと持ち上げている。

 

 見るからに胴体ががら空きだ。

 

 攻撃してくださいと言っているようなモノ…隙だらけに見えるのが逆に不気味に思える。

 

(距離を置いて<空炎斬>の連続って言うのは愚作だな…相手はこっちのダメージを軽減できるし…効果は期待できない…その上、そんな戦い方じゃ、戦士と戦士の戦いに水を差すようなモノ…それで本当に相手に勝ったと胸を張れるのか?)

 

 

 ならば…と意識を切り替える。

 

「ロバー…防御の支援を頼む。 アルシェは俺がトドメを刺されそうになったら魔法で注意を引きつけてくれ、イミーナは、いつでも雷撃の矢で、アルシェの援護が出来る様に頼んだぜ?」

 

「ちょっと! ヘッケラン! 縁起でもないコト言わないでよ!」

 

「そうですよ、こんなところで…まだ序盤です! ここでリタイヤなんてさせませんよ?」

 

 そう叫んだロバーデイクは魔法で<神恵の皮膜(ディバイン・ベール)>を発動。

 

 ロバーデイクの持つ魔法で現状、一番防御効果の高い魔法だ。

 

「ありがとな…じゃ、最後の賭けに出るわ。祈っててくれ」

 

「なら…せめてこれを…」

 

 アルシェから武器の攻撃力上昇を助ける魔法<鋭刃(シャープネス)>がかけられる。

 

 可能なら、攻撃魔法で助けたい気持ちなんだろうが、戦士同士の戦いという事で譲歩してくれたのだろう…少しでも切れ味を良くして勝率を高めようとした結果が、この魔法…それに感謝を覚えた。

 

 

「待たせたな…ハムスケさんよ…こっちも奥の手を出すから…ちゃんと見ててくれよ?」

 

「いいで御座るよ? こちらも戦士としてこの場に居る以上、正々堂々と打ち負かすことに意味があるので御座るからな。」

 

 

「ありがたい! 行くぞ! <戦気梱封> <能力向上> <肉体向上> <限界突破> <剛腕剛撃>」

 

 

 そして、それらを同時に全展開した後、2本の剣に炎が纏わりつき、蛇がトグロを巻くようにうねっている。

 

 

「行くぞ! ハムスケ! <双炎斬・連剛撃>

 

「なんの! <斬撃>! で御座る!」

 

 ヘッケランの能力向上によって、先ほどの4回の連続攻撃の上を行く、6回の連続攻撃…

 

 そしてそれに対応するように、最初の2撃は両手の爪で、2度目の2撃は尻尾で左右の手を撃ち上げて防ぐ…

 

 3度目の2撃に合わせるようにハムスケは<斬撃>を発動。

 

 奇しくも、左右の連続攻撃同士のぶつかり合いになった。

         ・

         ・

         ・

 勝敗は…方や、2本だけの剣での攻撃、それに炎を纏って居ても、鋭さを込めても、最終的には刃先は2つしかない。

 

 一方、ハムスケの方は…確かに左右の腕で考えれば2本しかないが…その爪の部分は4つに分かれている。

 それが左右から襲い掛かってくるため、刃はハムスケの場合、8つある計算になる。

 

「お…、うぁぁぁ!!! あぁぁぁ!!」

 

 ヘッケランの悲鳴が響く、のたうち回るヘッケランはかろうじて腕は繋がっているが切り口からは骨が見えている。

 

 一番、爪の長い部分の切り口では、骨の3分の1がスッパリと切られていて、接合できるかどうか…これ程の重傷は見たことがなかった。

 

「ふむ…人間にしては、腕のある方だったみたいで御座るね…こちらの爪が左右で一本ずつ傷をつけられるとは思っていなかったで御座るよ。」

 

 

「くっそぉぉぉ!! 腕がぁぁ、ここまで…ここまで来て、これかぁぁ!!」

 

 かろうじて、落ちていた一本の方の剣は口で噛み、もう一本の剣は両腕で抱きかかえている。

 

 手首こそ無事だったものの、手首と肘の間に掛けて、4つの切り傷が肉を削ぎ、骨を露出して、場所によっては傷がついてる部分もある。

 

 手の平に力が入る状態では、もはやなかったのだ。

 

 

「さて…苦しめるのは趣味では無いので、これで終わりにするで御座る…。」

 

 

 そう魔獣が言ってのけた瞬間、そこにあった「4つの意思」が弾けて行動を開始した。

 

 後ろにいたイミーナは、既に準備を終えていた『雷の矢』を使い、そこに再び武技を発動させ、撃ち出す。

 

<遠雷撃射!>

 

 それは、異空間で覚えた『遠射の一撃』という武技を雷矢の射撃用武技として身に着け直してもの。

 

 螺旋の動きで、スクリュー状に回転しながら空気を割き、敵に向かう武技。

 

 その為、飛距離も伸び、命中率も上がる、更には刺さりながら捻じりが加わることによりダメージも多少上がる。

 

 

 その次に動いたのはアルシェ。

 

「させない!」

 

 予め準備していた魔法、第4位階で最初に覚えた魔法。

 

吹き上げし爆裂(ライジングブラスト)>を唱える。

 

 その魔法は爆裂系の魔法で、地表部に足をついている者全てに効果を及ぼす魔法。

 

 それが範囲内に居る者すべてに効果を及ぼし、ダメージを与えると同時にノックバック効果+上空に撃ち上げる効果も加わる。

 

 ハムスケが上空に撃ち上げられ、後方に下げられている内にイミーナとロバーデイクがヘッケランの下まで走り寄る。

 

「大丈夫ですか、ヘッケラン、今後ろまで下がります、治療をそこでしましょう。」

 

「大丈夫?ヘッケラン、防御なら任せて? 私の防具が何があっても守ってくれるから…」

 

 二人で左右をそれぞれ支えながら、後ろに下がって居る中、地面に打ち付けられたハムスケがむくりと起き上がる。

 

「いまだに勝敗も決まらぬ内に退場などは無粋で御座ろう? …さぁ、最後まで命の輝きを見せるで御座るよ!」

 

 ハムスケの尻尾が怪しくうねる。

 

 すると、一直線にヘッケランの背に向けてその硬い先端が向かい、今にも届くかと思われた瞬間…。

 

 尻尾の先を丸々と覆う程の規模で地面から炎が吹き上がる。

 

 それは先ほどの<吹き上げし爆裂(ライジングブラスト)>とは違うものだ。

 

 撃ち上げの効果は無いモノの、ダメージ量はこちらの方が上…。

 

 魔法使いの少女は特に魔法を発動する挙動は見えなかった。

 

 なら…一体なにが起きたのか…ハムスケにはわからない。

 

 ヘッケランが必死に口にくわえている2本の愛剣、それの刀身に埋め込まれていた魔石部分が煌々と輝いていることなど…背中しか見えないハムスケにはわかるはずの無いことであった。

 

 

「ふむ…トドメとまではいかなかったのが残念でならないで御座るが…どうでござろう?ザリュース殿? 先ほどのはちゃんと武技として現れていたで御座るか?」

 

 

「えぇ、あれはまさしく…武技<斬撃>の発動でした、お見事です!」

 

「嬉しいで御座るなぁ…もっと修行を積んで、ハムスケウォーリアになるで御座るよ」

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 ハムスケの後ろからイミーナの声が轟く。

 

「ん?何で御座るか? (それがし)にまだ何か用で御座るか?」

 

 

「まだなにか? じゃないわよ! うちのリーダーをこんな目に合わせてタダで済むと思うんじゃないわよ?」

 

「イミーナさん、落ち着いてください…アルシェも、止めて下さい、私は治療で手いっぱいで今は動けませんので…。」

 

「大丈夫、イミーナ…このくらいならきっと治る。」

 

「アルシェも何言ってるの?骨まで行ってるのよ? 大丈夫な訳がないでしょ!!」

 

 

「こちらとしては、全員を相手するつもりだったので、そちらの3名でかかって来てもいいで御座るよ? まだまだ(それがし)は戦えるで御座るし…」

 

 

 

「いや、ハムスケよ、そこまでで良い!」

 

 不意に上から重々しい声が発せられ、全員の動きが止まる。

 

「おぉ! 殿! 見ていてくれたで御座るか?(それがし)、武技が使えるようになったで御座るよ!」

 

 嬉しそうに上を向く魔獣、今なら後ろから撃つことも出来るけど…、でもそれでも勝てる気がしない…魔獣が「武技を使う」それだけのコトで、ここまで実力に差が出ようとは…と、どうしようもない気分に襲われていた。

 

「あぁ、お前の成長は確かに見せてもらった、先ほどの武技の発動は見事であった、益々の精進を期待している…。」

 

 頭上の支配者がそう言葉にすると、魔獣の方も嬉しそうに声を返す。

 

「ありがたき幸せに御座るよ、殿! (それがし)、もっともっと特訓に励み、もっとたくさん武技を覚えてハムスケウォーリアになる所存! その際は殿に見届けて欲しいで御座るよ」

 

 まるで貴族の愛玩用に買われる犬か何かのペットの様に嬉しそうに尻尾を振る魔獣「ハムスケ」。

 

 

 悔しいが、今の私たちではまだ力が足りないと思い知らされる…こうしてる間にもヘッケランの腕から血が流れてて、持っているポーションを使っても血の流れが少なくなる程度で治る兆しは無い。

 

 

「どうしたらいいの? ねぇ…ロバー? このままだとヘッケランが…ヘッケランが…」

 

「今はこのまま、魔法をかけ続けるしかありません、今これを止めてしまえば…血が一気に溢れて腕が使い物にならなくなってしまいます…。」

 

「でも…このままだと、時間の問題なんでしょ? そうなんでしょ?」

 

 珍しく感情を表に出して狼狽えるイミーナ。

 

 自分も、ヘッケランがこんな姿になることは想像していなかった。

 

 絶対に痛み分けになってでも無事に戻ってくると思って居たのに…。

 

 

 

 半ば、絶望の色が濃くなった時、自分達が入ってきた鉄格子がゴゴゴ…と音を立てて、持ち上げられていくのが見える。

 

 今度は…何が出て来るんだろうか…?

 

 次は何と戦わされるのか?

 

 3人がそれぞれそっちの方に目を向けると、アルシェだけは気付いていた、さっきの魔獣も、上に居る支配者も、私たち同様に、そっちへと意識を持って行かれていることに…

 

 

 

「みなさん、どうされました? どうやらお困りのようですね?」

 

 

 その声にフォーサイトの面々は安堵を覚えた。

 

 それは、以前ジエットの母を救い出すために行動を共にしたことのある、黒髪で聖印を象った帽子をかぶり、東方の…異国風の衣装に身を包んだ女性。

 初めて知り合ったのはその時だが、それからはちょくちょく顔を合わせることとなり、異空間での修行でも、ベルさんと共に私たちのサポートや、回復などを買って出てくれていた人だ。

 

 

 そして、その少し後ろには同じように黒髪の長髪、それに見事な武装で身を固め、光り輝く剣を手にこちらへと近づいてきた仮面の者…

 

 髪は長い為、女性か?とも思うが、体つきからして男性?とも思う…どの道、見ているだけだとどちらとも判断がつかない。

 

 

「フレイラさん…ヘッケランが…ウチのリーダーが…」

 

 涙声でうまく声の出せないイミーナの言葉を全て聞かなくても状況を判断してくれたのか、フレイラさんが後ろの黒い長髪の人に声をかける。

 

「マスター…どうされますか? このままでは時間の問題かと思われますが…?」

 

 フレイラさんがそう言葉にすると、無言で頷いた長髪の人は、懐に手を入れると、護符のようなものを取り出した。

 

「…………」

 

 無言でそれをヘッケランの腕に向けると、その護符から光があふれだし、ヘッケランを包みこむ。

 

 

「さぁ…これで大丈夫だ…。」

 

 やっとその長髪の人の声が聞けたが…誰が聞いてもそれは男性の声だ。

 

 

 改めて男性だと認識したことに驚きを隠せないみんなは、その人に視線を奪われていたが、「ハ!」と気づき、ヘッケランの腕を見る。

 

 傷ついて、骨まで露出していた腕はすっかり良くなり、骨にまで達していた傷どころか、出血すら見当たらない、切り傷程度の痕すらも残っていなかった。

 

「あ、ありがとうございます。…ありがとうございました!」

 

 何度も何度もお礼を言うみんな、…でもこの声を聴いた瞬間、私にはこの人が誰なのか…もう気がついていた。

 

 髪の色と装備こそ違うけど、その声、髪の長さ、歩き方、よく知っていたからだ。

 

 

「さぁ、あとは私に任せて、キミたちは下がって休んでいてくれて構わないよ? 後のことは『ボク達』でなんとかするから…」

 

 

 そう言って、その人は、目の前の魔獣には目もくれず、頭上の支配者の方へと目を向ける。

 

 その言葉に安心したのか、腕の傷は治っているはずのヘッケランが深い意識の底に落ちていく…極度の緊張から解放されたせいか、その表情はどこか安らいだものであった。

 




あとがき

 一部、武技が、混同してると思われるでしょうが、同じ異空間で修行して武技などを見ていると、どうしても人が覚えたものでも、自分も身に着けてみたい、と思っちゃうのは仕方ないことですよね?

 つまりそういうことで、イミーナもレンジャーレベルを上げる際、ついでにセピアが覚えた武技を覚えちゃってるという事にしました。

 それからヘッケランを治したアイテムの事は、忘れてる方もいるでしょうが…

 セピアや、ルチル達の耳を治した大治癒(ヒール)の魔法が込められてる護符です。

 あれ以来、出番がなかったので、一体、何人が覚えているでしょうか?

 ついでに一度使うと数時間、冷却時間が必要となります。

 話しを書きながら、アニメを見直してみて思ったこと、奴隷エルフの3人がエルヤーに援護魔法を使用する場面、エルフは3人なのに、展開される魔法は4つ…という発見を改めて見つけてしまいました。

 よくよく見ると、蒼髪の子が、同時に2つ展開している魔法陣…

 え?ということは同時に2種類の魔法を同時に展開してるって事?

 えらい優秀なんじゃ…もしかしてタレント持ち?

 アニメだけの演出かもしれないですが…ちょっと驚きました。
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