気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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 とうとう始まってしまった、ナザリックの守護者達との戦闘。

 ようやくここまで漕ぎつけました、読んでいて下さる読者の皆様には感謝ですね。

 ちなみに、今回、ずいぶんと色んな技やら、言い回しやら、至る所でネタを仕込んでいます。

 きっと私以上に見識の広い皆様にはお見通しだと思いますが、私の好きだった作品で出た技名、そして、今でも新巻を待ち遠しくしているマンガで出た技名、そして有名な某セリフなど…色々、ちりばめられてます。

 全てわかったという方は賢者の称号を与えましょう!
(返上はお好きなように、いつでもお受けいたします。)

 まるで分らない、という人や、知りたい、という人はハーメルン内のメールでお問い合わせくださればお答えします。

 さてさて、いよいよ守護者最強と名高いシャルティアさんのご登場です。

 楽しんで読んでいただけたら幸いです。

 ちなみにシャルティアは正面から戦うとかなり長期戦になります。
 
 なので必然的に文字数も今回、特に多くなりました。

 コキュさんや、アウラさん達との戦いでは文字数どのくらいになりますやら…



第55話 先鋒1 シャルティアVSシェイド(前編〕

 ナザリック陣営には、回復役としてルプスレギナが控えていた。

 

「頑張って下さい、シャルティア様、応援させてもらうっす。」

 

「それはありがたく受け取っておきんす、とは言え、近くであのチビ助も見ていることでありんすし、見苦しい戦いは…御方もご覧になっているでありんすから…、不覚は取らないように致しんしょう…。」

 

「そうよ? シャルティア~? 「一番槍はワタクシめに」とか言い出しそうだったコキュートスも我慢してくれたんだし、無様な戦いは見せないようにね~? 頑張ってちょうだい、ペタ子ちゃん。」

 

 

 楚々と歩みを進めていたシャルティアが、対戦相手ではなくマイクパフォーマーのアウラに近づいてガンを飛ばしている。

 

「はぁ~ん? よく聞こえなかったでありんすねぇ? 今の減らず口、もう一度言えるでありんすか? わらわの気のせいでないなら、今この場で決着をつけてもいいでありんすよ? 断崖絶壁チビ助?」

 

「ホラホラ、それそれ…すぐに相手の言葉に翻弄されて、頭に血が上る所、ペロロンチーノ様から「そうあれ」として創造された部分なら難しいだろうけど、そうでないなら御方の恥にならない程度には抑えられる努力はしなきゃでしょ?シャルティア…ほら深呼吸よ? 深呼吸。」

 

 

目の前に…というより鼻先に人差し指を向けられ、出鼻をくじかれたような、意表を突かれたような言葉を向けられたシャルティアは「うっ…」と少し顔をのけ反らせるも、すぐに持ち直した。

 

「チビ助に心配されるようでは、わっちもまだまだということでありんすか…」

 

 そう言って、すーはーすーはー…とひとしきり深呼吸をした後「ありがとう、アウラ、行って来るでありんす、見ているでありんすよ?」

 

「うん、がんばって?精々ワタシの時の参考にさせてもらうからさ、足をすくわれないように気をつけるんだよ?」

 

「ん? それって「足元」だったんじゃありんせん?」

 

「違うよ、デミウルゴスにも後で聞いてごらん? 足をすくわれるから転んで不利な体勢になって困ったことになるのよ…『足元』をすくわれたって痛手にはならないでしょ?」

 

「あぁ…、そういう意味だったんでありんすねぇ、一つ勉強になりんした…でもちょっとシャクでありんす…アウラに知識面で不足を指摘されると…どうも素直に礼を言う気分になりんせん…。」

 

(この一連の顛末が終わった後、実際に聞いたところ「そうだね、足元はすくうものじゃなく「見る」ものだからね」と言われてしまうことになるのだが、それはまた別の話だ。)

 

「ははは、ソレはしょうがないかもね、私たちの創造主様が姉弟関係だったわけだからさ、素直な気持ちになれないのは気分的に仕方ないんじゃないの?」

 

 

「…見た目がわらわより下に見えんすのに…どうにも自分が「出来ない子」みたいに思われてそうでなりんせん、変なところで同情なんてしないでくんなまし。」

 

 

「まぁまぁ、これ終わったらたくさん話に付き合ってあげるからさ、あんな奴に大ダメージなんて受けないようにっていう激励よ。」

 

 毒気が抜かれたのか、最初の勢いは吸い取られたかのように顔を下に向け、「はぁ…」とため息を一つ付いたシャルティアは、気を取り直した様子で、向きを変え、これから戦う相手に目を向ける。

 

 

「<魔力の精髄(マナ・エッセンス)>」

 

 戦闘前なので、少し声を落としたまま魔法を発動させ、相手の強さの大まかな基準を判別しようとして、魔力を見る。

 

 すると、自分より魔力が下回っている程度なのが見て取れた。

 

(魔力系なのは間違いはないようでありんすが…、装備は戦士に近い感じに見えんすね…、アインズ様の仰られている「きようびんぼう」タイプなる感じならそう怖くはないでありんすが…)

 

 

 そう思いながらも、シャルティアの目は対戦相手にではなく、その後ろの方に向いてしまう。

 

 5人の中の1人であるハーフエルフ、シャルティアの目を捕えて離さない、なぜか気になるその鎧。

 

 どうにも、それが気になって戦いに集中できそうにない…ならば、直にこの目でその原因を見てみるしかない。

 

 何に気を取られてしまうのか…デザインか…隠されてる性能か…それとも、アインズ様のお言葉に出て来る「でーた量」なるモノが起因しているのか…

 

 気になるならば、一緒に戦わせてみよう、そうすれば多少でもあれの性能が解かろうという物。

 

 

 そこまで考えたシャルティアは試合場であるその場にいる者達を見る。

 

 周りにはマイクを持ったアウラ。

 

 そして審判役として戦いにルール違反がないか判定する役目のナインズ、そして、その背後にマーレ。

 

(ここはアウラじゃなくアインズ様の方に意向をお尋ねした方が得策かもしれんせんね。)

 

 

「ナインズ様…戦いが始まる前に一つ、提案がございんず。」

 

 

 いきなり話を振られ、ただ観戦モードに意識を向けていたナインズ・オウン・ゴールと名乗っているアインズが、意識を支配者モードに切り替える。

 

「どうした? シャルティア…? 提案とは何事だ?」

 

 

「そのことでありんすが…決して相手を軽んじているわけではありんせんが…後ろに控えているハーフエルフの身に着けている装備がどうにも気になって仕方ありんせん、このままでは目の前の相手に集中できない恐れがありんす、それならいっそ、わらわ一人が相手をして…目の前の異形と、ハーフエルフの2人がかりで…という形はどうでありんしょう?」

 

 

「ちょ? シャルティア? あんた何言ってんの?さっき私の言ったこと…!」

 

 

「まぁ、待て、アウラよ、シャルティアはシャルティアなりに考えた上でのことだろう、なるほど、目の前に対戦相手が居ると言うのに、興味の対象がずっとその背後にあるのでは目前の戦闘に集中できない可能性がある、ならばいっそ近くに置き、同じ戦闘の中で『興味を覚えている原因』を確かめることが出来れば、戦闘にも集中でき、気をそぞろにすることもない…ということだな? シャルティア…。」

 

 

「はい、ナインズ様、正にその通りでありんす!」

 

 

「ん?」

 

 いきなりナインズ様が何かに目を向けるように虚空を見つめるような仕草をされていた。

 

「少し待つのだシャルティア…」

 

 ナインズ様はそう言うとこめかみに指を持って行き、何事かを話し始めた、どうやら<伝言(メッセージ)>の魔法でなにやら報告があるらしい。

 

「あぁ、私だ、うむ…そうか…、んん、それは…確かにそうなのだが…ならばどうすればよいと思う? うむ…そうか、そう思うか…ならばそれの方が良いかもしれんな。」

 

 なにやら困りごとなのだろうか、この場になって、誰が、なんの話で今、ナインズ様にその報告をして相談などを持ちかけているのだろうか?

 

「あぁ、そうだな、少し伝えるようにしよう。 ではな…。」

 

 そう言うと、<伝言(メッセージ)>を終わらせたようだ。こちらに目を向け、言いにくそうに私に何事かを言い出そうとしている。

 

「済まなかったなシャルティア、話の途中で…ところでな…あぁ…シャルティアよ…」

 

 

「はい! なんでありんしょう!ナインズ様!」

 

 

「お前の今のそのボールガウンだがな…、それとは違う装備に変えることは出来ないか?」

 

 急な話の転換に頭が追いつかない、至高の御身はこの姿では不足ということだろうか?ならば、あの真紅の鎧…あれが相応しい相手だと…そういうことなのだろうか?

 

「あの…それでは、『伝説級(レジェンド)』のあの鎧の方で相手をするべき強敵だという事なのでありんしょうか?」

 

「あぁ…いや、そうでは無くてだな…ホラ、その服は、ギルドの皆が…お前の創造主のみならず、女性の服のデザインなどにも通じていた、ヘロヘロさんやク・ドゥ・グラースさんや餡ころもっちもちさんら、みんながアイデアを出し合って作った、『お前』の為だけの衣装だ…それをこんな、座興レベルの戦いで万が一にも傷をつけてはもったいないと私は思う…ならばだ…仮に傷がついても、戦闘が終われば、無事に修復がされ、かつ動きやすい…運動に向くような服装に変えた方が、いいのではないかと思うのだ…どうだ? シャルティア?」

 

「あぁ…私のような者ごときの服の為に、そこまでお心を砕いてくださるなんて…ありがたいことでありんす! 確かにこれは我が創造主、ペロロンチーノ様から賜った「お前に一番似合う衣装だ」と言われた物、たしかに戦いの場で着るには、ペロロンチーノ様の意思に沿っていないと思われんす、なら、「運動に向く」と言われた衣装に着替えてきんす。」

 

 そう言うと、シャルティアは闘技場のその場で<転移門(ゲート)>を展開。

 

「それではナインズ様、しばしの間、失礼させていただきんす」

 

 躍り込むようにその中に入ると…、しばらくの時間が経過し、<転移門(ゲート)>が消失…それから少しすると再び<転移門(ゲート)>が展開され、その場から出てきたシャルティアは…ある意味、伝説と呼ばれるようになった衣装に身を包んでいた。

 

「シャ…シャルティア…それは…」

 

「はい!ナインズ様? 似合うでありんしょうか? これこそ、ペロロンチーノ様より賜りし、伝説の「運動に向く」最適装備…その名も「体操着」でありんす。」

 

「そ…それは…傷ついても、戦闘が終われば普通に、元に戻ると思ってよいのだな?」

 

 

「はい、ペロロンチーノ様が自慢気に私の前でヘロヘロ様と話されていたことを今でも覚えていんす…これなら、この「体操着」を溶かしたりしない限り大丈夫だろうと…それが可能になるのはヘロヘロ様のように装備を溶かし、衣装のレベルごとダウンさせるくらいでないと「だつい」なる「ろまん」には届かないだろうとも、おっしゃられていんした!」

 

(あの人は…何を考えているんだよ! 確かに運動に向くけどさ、体操着って…いくらなんでもこの場に相応しいかと言われると、明らかに場違いだろう?)

 

 自分の手を、顔につけたまま、一つため息をついたナインズに、緑色の光が包む。

 

 

「まぁ、それが一番運動に向くと言うのであれば、私からは何も言うことはない、それもお前の創造主が、シャルティアだけの為に用意した物なのだろう…ならばそれで戦うことを許可する。 …ちなみに防御力という点では、問題ないのだろうな?」

 

 

「はい、ナインズ様、これには一応、防刃、防弾、防寒、防炎、移動阻害対策、弱体化対策なども入っていんすからして…装備としての防御力は先程のと大差ありんせん…ですが、この体操着に「ぶるま」なる物を取り入れることで、より理想を体現した『究極の体操着』の完成になるのだ。とも言われていんしたので、そのように…いかがでありんしょうか?」

 

 

「そ…そうか…それにしても、それにも彼の想いが込められているのは見て取れるな…」

 

 そう思いつつ、四角い白の布地を縫い付けたような胸には…。

 

「  1-3  

  しゃるてぃあ

ぶらっどふぉーるん」

 

 と、クラスとフルネームらしく見えるように書かれていた

 

(どっちだよ? 小学生設定の1-3? それとも中学か? いや、ただ単に第一階層~第三階層の…って意味なだけかもしれないし…深い意味は無いのかもしれないけど…)

 

 

「あ、ムネのコレでありんすか? はい、これにはペロロンチーノ様も、餡ころもっちもち様に協力してもらいんして、丸文字なる「女の子らしい」字で書いてくれと、お願いして作成してもらったと聞いていんす。」

 

 アインズは頭を抱えたい気分になった。

 たしかに無難なチョイスではあっただろう…ギルド、アインズ・ウール・ゴウンには女性のメンバーは3名しかいない、その内の一人は現役の教師…そんなこと頼めるはずはない、そのくらいはあのペロロンチーノも理解していたのだろう、片やもう1人は自身の姉だ。

 そっちもそんなこと頼めるはずはない。

 

 男性のギルメンに「丸文字」なんて書けるはずもないのだ、その人しか頼める人はいなかっただろう。

 

「まぁ、それでならば、先程のと防御の数値的に変わりはないという事だし、動きやすいという点でも…傷ついても問題ないという点に於いてもクリアしていると思っていいのかもしれんな…」

 

「それではこれで戦うということでお許しいただけるのであれば、行って来ようと思いんすが…」

 

「あぁ、行ってこい、向こうへの交渉は私の方から伝えておこう。」

 すでにアインズは半ば、諦め半分で友人の娘、シャルティアを戦いへと赴かせることにした。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

「あぁ…はい、そういうことに…はい、はい。」

 

 さすがにベルリバーも少し戸惑っていた。

 

 シャルティアに体操着を作っていたなど…いや、ペロロンチーノならさもありなんという所だろうか、とも思うが、さすがに現物を目の前で見ると、ショックが大きい。

 

 

「あれは…鎧…じゃないよね。 かと言ってローブ系の装備でもなく、ただの服とも違う。」

 

 イミーナは、これから対戦相手からの指名で、戦いの場に出なくてはならないという状況になり、相手の観察を行っていた。

 

「気になるのは、あの文字ね…魔法に使う文字とも違う、ロバーから聞いたことのある神聖文字とも…あれは一種の魔化? あれで一種の魔法的な要素を付加している?」

(それにしては腕や足などの部分に護りがないのは…そこに攻撃を誘う意図がある?)

 

 

 深読みを展開しているイミーナをよそに、次鋒に控えるベルリバーも口には出さないが心の中でその疑問に答えてあげることにする。

 

(まぁ、外れではないんだけど、そこまで深読みしなくても…、でもペロロンチーノさんのことだ、色んな効果を仕込んであるんだろうからな…油断は出来ないけど…さっきの服装よりは攻めやすくなったな。)

 

 

 などと考えていると先ほど、ナインズさんから交渉をされ、2対1という形で、イミーナも戦闘に参加してもいいとシャルティアからの要望だが、どうだ? という話が出された。

 

伝言(メッセージ)>の魔法でその話をされたので、小声で落とし気味の声であったが、どうやらイミーナの鎧の製作者の雰囲気を感覚で察知しているらしい、気になって戦闘に集中できないままになりそうだという話をされた。

 

 もちろんそれはイミーナには話していない。

 

 ナザリックの傘下に入っているならまだしも、それはまだ…現時点でどうなるか不明な段階だ。

 

 それまではギルメンの情報も可能な限り知られる訳には行かない、知ってしまえば最悪、「彼らは」口封じの手段に出るのかもしれないという理由から教えない方が彼女らの身の安全のためには得策だった。

 

 今から「シェイド・ベール」の方の戦い方も頭の中で考えておく必要がある。

 

 アレの性能は、ユグドラシルでの戦闘のままで意識を変えないでいいのだから、その方向でいいだろう。

 

 と、なると、いきなり初手で「あのスキル」を使わせなければならない…アレを使わなければ、状況は不利になる、とは言え、それを使えばシャルティア自身はいきなり大ダメージを負うことになる。

 

 それで、本気モードにならなければいいけど…と、その前に会話の手段も用意しておかないと…ということで、イミーナにはボール状にして取り外した、自分自身の口の一つを持たせている。

 

 それを「シェイド・ベール」の体のどこでもいい。背中でも後頭部でもどこでもいいからくっつけて来て?と頼んでおいた。

 

 何故なら「シェイド・ベール」は、本来「シェイド・スピリット」だ、口頭での会話は不可能。

 

 念話での会話なので、違和感を相手に与えない為にも正体に気付かせないためにも、私の口を体に取り付けることで、体に外見だけ見えている口の中に私の口を一つだけ本物を紛れ込ませることで会話の手段を準備させたという事だ。

 

 

 イミーナが試合場まで歩いていく。

 

 もちろん、その際イミーナの手にはベルリバーの体から切り離した野球ボール状の大きさの口が握られている。

 

 その口が、小声でイミーナに語り掛ける。

 

 レンジャーである彼女なら少しの声でも聴きとることは可能だ。

 

 なんだろうと耳を傾けていると「キミは無理に戦おうとしなくていいからね。後ろで防御に専念して、ボクらの戦いの巻き添えを食わないよう、流れ弾とかにぶつからないようにして居てくれればいいから。」

 

 という言葉が投げかけられた。

 

「なに?それって、私は戦力外通告ってこと?役立たずとでも言いたいわけ?」

 

 と、イミーナも歩きながら小声で返事をすると、彼は「そういう意味じゃないよ」という。

 

 彼が言うには、ベルさんが居た世界では特殊な用語があり、敵の注意を引いた、だとか、敵から注意を逸らした。などという状態のことを「ヘイト」と表現するという。

 ヘイトを稼ぐ、ヘイトを減らす…などと言うそうだが、つまりは戦闘中に敵が狙い通りの標的に注意を向けてくれてないと、戦う側も存分に戦えないという。

 

 勝手に護りに入って来られて逆にピンチになどなられたら、パーティ…と言ってチームと言い換えていたが、同じ意味のようなものなのだろう、つまりチーム全体の全滅に繋がらないように協力してほしいということだった。

 

 それに…と最後に付け加えられたのが、この言葉だ。

 

「もちろん最後までただ、立ちっぱなしで居てもらいたいわけじゃない、きっとイミーナの協力を申し出るタイミングは絶対に出て来るだろうから、その時は合図をする。そうしたら、とにかく、その相手に集中して防御に専念していてくれ…下手に攻めようとすると危ないからね、くれぐれも忘れないでくれ。」

 

 と、かなり強く念押しをされた。

 

 

 

 そんな会話をしながら歩いていると、シェイド・ベールのそばまであっという間に辿り着いてしまっていた。

 

 もちろん、背中に言われた通り、ベルリバーの体から取り外した口をシェイド・ベールの背に押し付けると、すぐにその口は体に吸い込まれ、ちょうど人で言えばノドの辺りに移動し、現れている。

 

 

 相手側の2名がようやくそろったのを確認したシャルティアは、さも不思議な生物を見るような何とも言えない目でシェイド・ベールの方をジロリと見やり、言葉を投げかける。

 

「それにしても、お前は何者でありんす? 異形種のくせにニンゲン程度のくだらない奴らに加担するなど…とても信じられんせん…どんな神経しているでありんすか?」

 

 口ではなるべく穏便に話しているつもりのようだが、シャルティアのその表情はかなり苛立っているらしく、鼻から下は笑顔のように張り付いているが、鼻頭から上はかなり目ヂカラがすごく、アンデッドなのに血管が浮き出そうなだと思ってしまうくらい怒り心頭なのが見て取れた。

 

(さて、その怒りがどこから来てるものか…知る必要はあるよな…俺たちギルメンに対する怒りだったら、正体を明かすのは止めといた方が良いかもしれないし…)

 

「この人達には色々とお世話になってね…、こっちの情報やら、国の内情やら…一般人が知っている範囲の内容での情報提供をお願いする代わりに、力になれるならいつでも協力する…、そういう交換条件だったからね、その借りを返すいい機会なんだよ。」

 

 シャルティアがさらに眉間にシワを寄せて険しい表情となる。

 

「何者でありんす?と言ったはずでありんすが? どうしても正体を明かさないと言うことなら実力行使で口を割らすでありんす。」

 

 彼女の指から、爪が伸びる。

 

 シャルティアの肉体武器としていつでも使える、どんな形態の時でも使用可能な便利な武器だ。

 

 だが、しっかりしたレアリティの武器に比べ、耐久性がない。

 

 その代わり、治癒魔法で修復可能という利点も同時にあるのだが…

 

「戦いを始める前にもう一度、おさらいとしての忠告だが、審判の判定次第だが、「注意」を2回受けると「警告」1回分というルールになる。 しかもその「警告」が2回分貯まると…その時点で失格…、つまりどんなに有利に試合を進めていても敗北という事になる。そこは理解しているかな?」

 

(本当は「注意」2→「警告」1、「警告」2→「反則」1、「反則」2→「失格」で敗北って図式なんだが…そうなると、一人くらいは殺しても構わないな…とか結論付けられると困るからな…シャルティアの記憶力が優秀だったら…という心配は不要だったようだ…細かいことは特にそこまで気にしないらしい…身内になったらそこを注意しておかないとな…)

 

 

 

「言われなくてもわかってるでありんすよ、そっちのハーフエルフは装備こそそれなりのを身に着けているでありんすが、中身が貧弱すぎでありんす…ライフ量があまりにも低すぎ…かなり手加減してあげんせんと、すぐHPがゼロになって私が負けになってしまいそうでありんすからね…精々気を付けさせてもらうでありんす。」

 

(よかった、とりあえず意識をこちらに集中させることはできそうだ、イミーナの浮遊盾が、シャルティアの爪とどちらが上なのか…正直力の差が分からないからな…。 念には念を…だ。)

 

 控え席にいるベルリバーも、自身に<感知増幅(センサーブースト)>と<千里眼(クレアボヤンス)>を併用させることで、シェイド・ベールに取り付けた口部分から感じられる全ての情報を自分にも感知できるようにして、戦闘の感覚共有を図る。

 

 念のため更に<浮遊の眼(フローティング・アイ)>を発動させ、上空から俯瞰で戦闘を見守ることとした。

 

 

 さすがにここまですると、メインカメラからの視覚情報と、サブカメラからの情報とで脳が混乱しそうなものだが、そこは魔法。

 

 <感知増幅(センサーブースト)>の効果で、感知する能力、感覚的な部分は強化されているようで、支障なく事が運べそうだ。

 

「さて…そろそろ準備は終わりんしたかえ?」

 

 シャルティアから静かに声がかけられる。

 

 その状態で居たままではまだ不利だ。 そこでシェイド・ベールに感覚で指示を飛ばす。

 

『お前の武器は振れば振る程、攻撃力が上がる、それは素振りや、空振りでもだ! だから今、その場で接敵される前に<深淵閃断>だ!』

 

 

 体に貼り付けさせておいた自分の口部分から『感覚』という意思表示で、指示を伝える…元々の会話方法が「念話」なので、念じるだけで伝わると言うのはありがたい、その指示を迷いなく実行していた。

 

 それは合計して、技の立ち上がりから最後まで合わせると8度の斬撃となる。

 

 1度振るごとに1.1%上昇するのだから、×8で単純に考えても109%、つまりは10%上昇にも及ばない程度だが、それでも攻撃力が上がったのは確かだ。

 

 剣としての攻撃力はその程度だが、防御面に於いてPVPという状況で言うならシェイド・ベールに身に着けさせている防具は防御性能、さらに各種の耐性が+50% upになるという物。

 

 全体的なステータス

 HPや、MP

 

 攻撃力に防御力、耐性、抵抗値などが2割減となる変身性能からしても、そこから防御に関してのみとは言え1.5倍はかなり心強い。

 

「ふぅ~ん…体の動きを確かめる為に…でありんすか?今のは…まぁ少しはマシな動きも出来る様でありんすね。」

 

「それは嬉しいな、『守護者』という呼び方でいいのかな? それだけの強さを誇るだろう存在に評価されるのは、そこは喜ぶべきだろうね。」

 

「そんなお世辞などを言っても手は抜きんせんでありんすぇ? …さて、そろそろそちらに行くでありんすよ?」

 

 シャルティアはゆっくりと歩みを進める。

 

…1歩

 

…2歩

 

…3歩

 

 

 それはまるで、こちらが攻撃するのに必要な射程を確かめるためのように、向こうは余裕綽々だ。

 

(どうしよう?どこからが戦闘開始なんだ? もう始まってるのか? シャルティアは歩いてるだけだし、あれは戦闘行為とは言えないんじゃないか?)

 

 迷いながら、その隙を伺う、こちらの世界に来て大幅に仕様が変更され、攻撃力も発動条件も使用回数もかなり変化してしまったスキルを使う機会をうかがう。

 

 それはユグドラシル時代での戦闘では開始したそのターンにのみ使えるという制限があったためだ。

 

 必然的に1戦闘につき使えるのは一度。

 

 その効果は、レイドボス、レジェンドボスや、ワールドエネミーにも通じていたスキルだったが、こっちの世界に来てからはかなりの弱体化をしてしまったため、ユグドラシル時代の仕様のままこのスキルを使えるのは、現状、ベルリバーの姿を真似したシェイド・スピリットのみなのである。

 

 そして、その反面、この世界で身に着けた、誰かを丸呑み、かみ砕くなりして捕食して、「捕獲」もしくは「消化」して、相手の技などを盗むという行為はシェイド・スピリットには出来ず、必然的に<空斬><縮地改><能力超向上>など使うことは出来ない。

 

 元々持っていた『擬態』のスキルは問題なく使えるようなので、外見を変えたり元に戻るくらい問題なさそうなのは、不幸中の幸いと言った所か。

 

 

 そして、シャルティアが最後の一歩を踏み出そうとして…そこにシェイド・ベールは一歩、足を踏み出すことで剣先が届く範囲を伸ばす。

 その刃の及ぶ範囲を一歩分だけ先に進め、腹に一閃し斬りつけた…と思った瞬間。

 

 ふわっと、軽やかにシャルティアが後方に飛び退く。

 

「なかなかの速度でありんすよ? …でありんすが、わらわを傷つけるにはまだ速さが足りんせんね…」

 

(何も反応が来ない、ということは相手は回避に専念してると判断されて、「戦闘状態」とは見做されていないという事か…だがこれでようやく刀の攻撃力が1割を上回ったな。)

 

「おんし…他に何か面白い技とかはないでありんすか? もしあるなら今の内に出しておいた方がいいでありんすよ?」

 

「悪いがこちらは、そちらの気に入るような気の利いた技と言えば思いつくのは一つだけなんだが、それはそちらが攻撃してくれなければ発動できないものでね…ご期待に沿えず申し訳ない。」

 

「おやおや…それは勇敢でありんすね、健気にもそんな有様でわらわを挑発でありんすかぇ? なら、その技、どのような物か…見せてもらうとするでありんすよ?」

 

「…まぁ、お手柔らかにお願いするよ…」

 

 

「…では、蹂躙を開始しんす…。」

 

 シャルティアがそう声を発した瞬間に世界が止まる。

 

 その周囲は灰色に染まり、シャルティアの髪色さえも例外ではない。

 

 前傾姿勢でこちらに踏み出そうとし、地面を蹴る動作の状態で世界は停止している。

 

(あぁ、こっちの世界ではこのスキルってこういう見た目の状態になるのか…)

 

 そう思って居ると、目の前にウィンドウというべきか、パネルというべきか…そんな何かが目の前に出現し、そこに文章が刻まれている。

 

『相手が戦闘状態に入りました。

 その為、先制攻撃に対するカウンターとして処理されます。

 

 スキル【牙の急襲(スウゥープ・オブ・ファング)】を発動させますか?

(これをキャンセルした場合、この戦闘中での使用は不可能になります。) 』

 

 

 迷いもなくその選択肢に、了承の意を告げ、「OK」を指で押させた。

 

 

 すると、灰色の世界は解除され、こちらに踏み出そうと地面を蹴る動作から弾丸のように蹴りだした動作の瞬間、シャルティアの体中に無数の…牙を突き立て大口を開けたバスケットボール状のモノが至る所に喰らい付き、その肌にグチャグチャと音を立ててダメージを与えている。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

 地面を蹴り、前方に踏み出した瞬間に、感知できない攻撃が自分に発生してることに、完全に虚を突かれたシャルティアが悲鳴を上げる。

 

 攻撃が来るのが分かっていれば体にそのための心構えが出来、ダメージに対しても苦痛に抵抗するくらいはできるが、何の前情報も無く、いきなり発生している状況には心構えもへったくれもなかったシャルティアはそのまま地面に落ちてしまう。

 

 そして、シャルティアのHPゲージがおよそ5分の1程度、削られたくらいで突如発生した牙の群れは、発生した時と同じように、何の前触れもなく消えた。

 

「くぅぅ…油断したでありんす、まさかあんな隠し技があるなんて(したた)かでありんすね」

 

 ゆらりと立ち上がり、不敵に笑うシャルティア。

 

 

(あっぶな…さっきの一瞬だけで距離の半分潰されてるぞ…何もしてなかったら完全に不意打ち喰らってた。)

 

「そちらこそ、あの一瞬でここまで距離を詰めて来るなんて、何もしなかったら何されたのか分からない内にダメージ食らってたところですよ…。」

 

 

「だからこそ、速さが足りないと言ったのでありんす… このくらいは見えてないと対等には戦えないでありんすよ?」

 

「そう…かもしれないね、でも、これで少しのダメージを与えられたのは誉れと受け止めていいのかな?」

 

 しれっと、手傷を負わせたことをアピールするシェイド・ベールに対し、シャルティアもわずかに表情を崩し相手を見下すような視線を送り、こう言い放つ。

 

「そうでありんすね、わらわに手傷を負わせたのは上出来でありんすが…、この程度、痛手かと言わすのは間違いでありんすよ?」

 

 そう言うなり、シャルティアは魔法の詠唱に入る。

 

大致死(グレーターリーサル)

生命力持続回復(リジェネート)

 

「回復手段ならいくらでもあるでありんす、好きに攻めて来てかまいんせんよ?」

 

 

(そうだよな…ペロロンチーノさんが愛娘でもあり嫁とも豪語していた存在に回復手段を用意してないはずないもんな…それに特化した主武器だって持たせてるんだし…アレを装備したら絶対コイツに勝ち目なんてないだろうから、精々今の内に…って言ってもずっとMP温存されると、結局<大致死(グレーターリーサル)>で回復に回されちゃうし…MP吸収のスキルでもあればよかったな…今さら後悔しても遅いか…)

 

 

「回復ですか…そうなると私に勝ち目はないようなものですね…さすがは守護者の名を冠するだけのことはありますね」

 

(まぁ、だから同じ守護者に複数回挑む事態になっても、2人目の守護者、3人目の守護者を相手となる度に負け星の数に左右されず、単純に「勝ちか負けか」という結果だけを残すようなルールにして、負け星の数が次戦に持ち越されないよう、守護者が替わるごとに勝敗を清算出来るように決めといたんだけどね…。)

 

「となると、可能な限りMPは先鋒戦で消費してもらう形にしないといけませんね、後の人に繋ぐためにも!」

 

中級敏捷力増大(ミドル・デクスタリティ)

 

技量増幅(テクニカルブースト)

 

魔力の精髄(マナ・エッセンス)

 

 

 自らの技量と、反応速度を上げさせるため、ベルリバーの指示(をフレイラから)により、魔法で上昇させる。

 

 さらにシャルティアの魔力量を調べる為の魔法を発動させることも忘れない。

 

(<大致死(グレーターリーサル)>と+アルファ分のMP消費じゃ、そこまで減ってないな…。)

 

 シャルティアの魔力量を見たシェイド・ベールは、シャルティアに突進する。

 

 その動きとほぼ同時にベルリバーが貼り付かせた口から、魔法防御を上げさせる魔法が発せられる。

 

魔法盾(マジックシールド)

 

 その声と共に彼の持つ刀がうなりを上げる。

 

二連斬(ダブルスラッシュ)

 

<深淵閃断>

 

 まずは二連撃で体勢を崩させ、そこに深淵閃断を食らわせようとしたが、二連撃でも体勢を崩させることは叶わず、必然的にその次の一手も先ほどの動きを観られていた手前、剣閃の軌道は予想がつくようで、大きく避けることで難を逃れていた。

 

(仕方ない、ここは武器に属性を持たせよう…『天ノ魔(あまのま)ブレード』は神聖属性が付いてるから…この場では炎属性を使わせよう、そうすればどちらの対策を講じているかの情報ははおおよそ見当がつきそうだからな。)

 

魔化武装・炎属性(エンチャントウェポン・フレイム)

 

 すると、刀身に炎が宿り燃え上がる。

 

 

「へぇ…、一応は考えているようでありんすが…炎で本当にいいんでありんすか? そっちは対策している方かもしれんせんよ?」

 

(やはり揺さぶりをかけて来たか…、こういうのこそPVPの醍醐味みたいなモノだしな…とは言え、本当に対策している方なのだとしたらわざわざそれは言う必要のないことだろう…かと言って、安心も出来ない、効果は低い代わりに炎と神聖属性、どちらも対策が出来るアイテムだってあるんだから…完全耐性を付けるならば一つの属性に限られるけど…1つのアイテムでどちらも対策することは可能なんだよな、効果が微妙なだけで…。)

 

 そう考えて居たベルリバーが視覚情報の強化を維持したまま<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>を発動させる。

 

「仕方ないな…それじゃ…こういう手段に出させてもらおう」

 

吹き上がる熱波(ブロウアップ・フレア)

 

 自分の覚えてる中で不意打ちや限定した単体相手にならかなりの命中度を誇る魔法。

 

 この魔法の良い点は、狙った対象以外に効果は及ぼさないこと、その上、詠唱の途中まで「フレイム」か「フレア」か…全く予想をするのが難しいという点が好ましい魔法で、「フレイム」の方はかなり狭い範囲だが範囲魔法としても使え、<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)>を併用すればそれなりの数を巻き込んで、しかも延焼させることも可能だ。

 その為、素早い相手なら即座に回避行動をすれば範囲外に出られる危険がある。

 

 それに対し「フレア」は狙った対象にのみ効果を及ぼす炎属性の魔法だ。

 回避しようにも発動の瞬間に、狙う対象に命中補正がかかるため、使いやすいのだ。

 

「うっきゃぁぁぁぁ!!!」

 

 魔法の発動を受け、悲鳴を上げるシャルティアだが、<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>の効果でHPの量は見えている。

 

 通常のダメージ量よりかなり低めの数値だ、これだと恐らくは炎対策はされているような気がする。

 

 とはいえ、シャルティアはアンデッド、炎に対する脆弱さを種族としての特徴で有している、それなりにダメージは通ったが、彼女のライフから考えるとダメージは微々たるものだ。

 

 ダメージを受けている今の内に距離を詰め、熱波の塔が消えない内にシャルティアに対して先程の剣技コンボを叩きこむ。

 

二連斬(ダブルスラッシュ)

 

<深淵閃断>

 

 装備した当初から比べれば1.2倍を超える攻撃力になっている刀での攻撃に加え、更に炎属性付きでダメージを与えている為、徐々にだが、彼女のHPが削られている。

 

 …だがおかしい、刀の攻撃力に加え、炎属性があるのにダメージ量が少なすぎる気がする。

 

 いや、これは炎補正が少ないと言うより、単純に攻撃が通りにくいと見た方が良いのか?となると…

 

「もしかして、アンダーアーマーですか?」

 

「ふふ、意外に馬鹿じゃありんせんというワケでありんすね…そうでありんす…これこそが我が創造主様から与えられし至宝の一品、ビキニアーマーを基に作り替えられたアンダーアーマー!その名も「スポブラ」でありんす!」

 

 ベルリバーの耳にその単語が届いた瞬間、彼の力ががくりと抜けていく感覚に襲われる。

 

「あの変態鳥頭!どこまで趣味の道を爆走してるんだよ!」

 

 と言いたくなるのを必死に抑えている…が、現在シャルティアと戦っているのは「シェイド・ベール」の方だ、やつに恐らくそんな脱力するような感覚はあるまい、と確かな自信があったが間違いはなかったようだ。

 

 スキル<羽々(はば)斬り>を発動させ、剣速を羽根が舞う様に軽くさせ、攻撃回数を上げる効果を自身に掛け…

 

 次に<飛燕 乱舞斬>を使用。

 

 …しかし、その攻撃の最中、シャルティアの腕が大きく振るわれ、剣を弾く。

 

「あまり調子に乗るんじゃないわぁーー!!」

 

 ガギン! と音を立て、刀の側面に長く伸ばした爪を当て、武器を弾き飛ばした。

 

 そのせいで途中までしか攻撃を当てることが出来ずに終わる。

 

 その隙にシャルティアは一気に後方へと距離を取り、剣の及ばない場所にまで下がり、次の行動に備えている。

 

「お…おんどりゃぁ…至高の御方にお姿が似ていらっしゃるからと手を抜いていればぁぁぁ!!…好き放題しくさってぇ…もういいでありんす! 手加減などみみっちいこと最初からまどろっこしくてやってられんかったでありんすからねえ!!」

 

 シャルティアの腕が…体が、ミキリと音を立てて徐々に体の作りが変化していく。

 口元が歪み、ギリギリと歯をかみ合わせる音が妙に大きく響く中…

 

 すでに意識は白い(もや)に包まれかけ、(かすみ)がかったような意識の中、辛うじてそのシャルティアの耳に残る言葉が彼女の意識をなんとかつなぎとめる。

 

「チビ…スケェ…」

 

 すると、徐々にだが彼女が元の姿へと戻り始め、荒い息を繰り返している。

 

「はぁ…はぁ…、危なかったでありんす、もう少しで自分を見失う所でありんした…。」

 

 

 その様を見ていた対戦相手から、興味深げな言葉がかけられる。

 

「ほぉ…己の渇望から立ち直りましたか…それは興味深い…発動中に自力でキャンセル状態に持ち直すなど…『血の狂乱』にも抵抗できる精神力が備わってるとは思いませんでしたよ。」

 

 その言葉を聞いたシャルティアがギロリとシェイド・ベールを睨みつける。

 

「おんし…その名前をどこで知りんした!! いや、それ以前に、その物知り顔がなにより気に入りんせん! 御方々でもないでありんしょうに! その勿体付けた物言いがイライラさせられんす!」

 

(何故? 他のゴミ達であれば気にもなりんせんのに…何故、こいつの言葉だけは無視できんせん?…問われれば答えたくなり、声を掛けられれば聞かなければ…という気にさせられる原因がわかりんせん、イラつきが止まらないでありんす!)

 

 

「チマチマ、チクチクとしかダメージを通してこない煩わしい程度のクセして…至高なる御方々のお一人の姿そのままであること自体もまた不敬でありんす! 偽物風情が粋がっていていい場所ではありんせん!!」

 

 戦闘中ということを忘れたわけではないだろうが、そんな中、自身の内から滲み出て来る意味の分からない感情の折り合いの付け方がわからないシャルティアが叫ぶ、目の前の相手に挑みかかることを忘れたまま…。

 

 シャルティアに散々言われ放題の相手が、その言葉を受け、「ふぅ…」と一つため息をつき、口を開く。

 

「お前の口から度々出て来る「至高の御方々」というのがどれ程の者らなのかは知らないが…お前らにとってそんなに大事なのか? お前らの支配者はただ一人なのだろう? 他には見当たらないだけかもしれないが…居るのだとしたら、本拠地に侵入者がやって来ているというのに、他に誰も居ないというのが理解できない…そんなに無責任なヤツらなのか?」

 

 わざとシェイド・ベールに貼り付かせた口から、ベルリバー自身の言葉でシャルティアの心をえぐる。

 

「うるさい!うるさいうるさいうるさい!! 御方々は…御方々は、きっとわらわ達のことを大事に思って居てくれているんでありんす! 来られないのには事情があるはずで…事情も無くお隠れになられているはずがありんせん!」

 

「……、わからんな、なぜそこまで信じられる?見捨てられたとは思わないのか? 用済みだと思われ、ただ、興味を無くされ…その遊びに飽きたから、次の「創造された世界」へと旅立ち、自分たちは打ち捨てられたとは…」

 

「ありんせん! ありんせん! 絶対にそのようなことありんせん! お前ごときが…!お前のような愚物如きが、至高の御方々の温情溢れる、わらわ達にとっての全てである、親であり、神である方々の偉大さが分かるものか!! 御方々の為になら命を投げだせと言われようと迷いはしんせん! そんな私たちを捨ててしまわれるなど…あって…あって…」

 

 ぶつぶつと、うなだれながら、うわごとのように呟き続けるシャルティア。

 

(ちょっと言い過ぎたかな… NPC達のギルメンへの気持ちを知る為だったとはいえ、少し酷だったかもしれないな…仕方ない、ここは大人の振る舞いでこちらが先に非を認めて…)

 

 と、そこまで考えていた時点で、シャルティアに変化が訪れる。

 

 先程まで体操着だったはずの衣装の上に、真紅の全身鎧が瞬間装着され、すぐに完全装備に移行し終えていた。

 

 

 

(はい…シャルティア、「注意1」だな)

 

 冷静にナインズはその場の状況を見て、シャルティアに対して『減点1』と心のメモ帳に書き加えておく。

 

 装備の瞬間装着自体は、ルール的に問題はない。

 だがそれは、『武器や防具が壊れるなどして、代用が必要となった場合』と決められていたはずだ。

 

 シャルティアの体操着は、破壊状態と言えるほど、ボロボロでは無かった為、装備をし直す必要はそこまでなかったはず、ということは故意に、ルールを無視しての行動ではないだろうが、恐らく感情が高ぶって細かいことは吹き飛んだ結果、そうなったのだろうから…ここは「注意1」に留めておこうと、ナインズはそう判断をしていた。

 

 と、決めていた中、突如、赤い閃光が奔る。

 

「あってたまるものかぁぁぁぁ!!!」

 

 

 戦術も、駆け引きも何もない、ただの体当たりのぶちかまし。

 

 それだけでもシャルティアがやれば、かなりの威力を生む、その上、それは手加減など考えず、突進してきた一撃なのだ、駆けて来た跡が、土煙を上げ、音を置き去りにする程の勢いでシェイド・ベールに頭から突っ込んできた。

 

「取り消せ! 取り消せ! 御方々が!ペロロンチーノ様が! 至高なる41人が…、このナザリックを捨てたなど! お前は、私達だけじゃなく、御方々を侮辱した!殺す!殺す!殺す!!」

 

 真紅の全身鎧に身を包んだシャルティアが、本来の専用装備である「スポイトランス」を振りかざし、シェイド・ペールに馬乗りになったまま、子供のケンカの様にただただ、感情に身を任せて殴りつけている。

 

 殴られる者は痛いが…殴る方の武器の所有者は、殴りつける度にわずかに減っていたHPをガシガシ回復させている。

 

 一方、シェイド・ベールの方は明らかにダメージが深刻になっていた。

 

 すでに残りのHPは21%を示している。

 

 そして、その数値は現在18%…

 

 さらに15%…となり…

 

 どんどん敗北に向けてのカウントダウンが始まっている。

 

 そんな中、彼女、シャルティアの勢いは…、えぐり続けられた彼女の心の傷は未だに落ちつくことを知らず、荒ぶるだけ荒ぶり続けている。

 

 残りHP12%…となり、<生命の精髄(ライフエッセンス)>を使用した上で、ことの成り行きを見守っていたナインズが、そろそろ止めるか?と動き出そうとしていた瞬間、事態は新たな展開を迎える。

 

 馬乗りになっているシャルティアは、もう怒りのままに…悲しみのままに殴り続けていて、自分が殴り続けている者の変化に気付かない。

 

 それはもちろんナインズにも、気づけるはずもなかった。

 

 土壇場に追い込まれたシェイド・ベールの様子を見ていてベルリバーがとっさに思い浮かべた、逆転に繋がる可能性のある…今の状況をひっくり返せるかもしれない唯一の方法。

 

 きっとこの距離なら…そして今のシャルティアの精神状態なら、回避もままならないだろうという計算で、フレイラ経由で指示を出してもらった。

 

 そしてそれが実を結ぶ。

 

 

 

苦痛の波動(ウェイブ・オブ・ペイン)

 

 

 

 唐突に、殴られ放題だった相手からの反撃の一手。

 

 下から吹き上がった闇の波動。

 

 それが馬乗りになっていたシャルティアを一気に吹き飛ばした。

 

 それはそれだけの威力が発生したからだ。

 

 

『<苦痛の波動(ウェイブ・オブ・ペイン)>』

 

 

 その魔法は、闇の属性ではあるが負の属性は加えられていない。

 

 半分は呪いであり、半分は「自らの行いは自らに返ってくる」というコンセプトが込められた魔法。

 

 つまり、単純に、ダメージを与えられた被害者がこの魔法を「攻撃していた者」に向けて発動させると、今まで与えられたダメージの総量をそのままに、ダメージ減少や、装備の効果に関係なくダイレクトに相手に返すのだ。

 

 だからといって、その魔法を使用し、受けたダメージを相手に返した後に、自分のHPが勝手に回復するわけではない。 失ったHPは失われたままだ。

 

 しかもHPの限界値が自分より相手の方が多かった場合、お互いのパーセンテージが五分五分とはならない可能性もある。

 

 

「うっぎゃぁぁぁ!!」

 

 

 いきなり予想もしていなかった反撃を受け、シャルティアが吹き飛び、ヨロヨロと立ち上がる。

 

 

 その目は未だに先程の暴言に対して腹を立てており、その瞳は負の感情に支配され、それを瞳に湛えているのは明白だった。

 

 

「もういいわぇ!いたぶるコトは好きでありんすが、一方的にいたぶられる趣味はありんせん!」

 

 そう言って彼女が発動を決めたスキル

 

 シャルティアのどす黒い感情を表すように背中に蝙蝠の羽根をバサリと大きく広げ、発動させる。

 

 

 <眷属召喚>!

 

 

 シャルティアの体から黒い(もや)のようなものが噴き出し、そこからあらゆる黒い存在が形作られる。

 

 蝙蝠、狼、鼠…と言った動物たちだ。

 

 その出現数はシャルティアのレベルに比例する。

 

 呼び出す為の回数は自由に決められるが、一日に呼び出せる数の上限はレベルの数値分だけ

 

 その総数は「100体」

 

 眷属たちは、数回に分けて…なり、呼び出したい時に呼び出したい数だけ呼び出す、という手段もとれる。

 

 

 だから、今まではそのような使い方はしてこなかった、だが、さっきのアイツの言い方は看過できない。

 

 

 なので、呼び出せる最大数を一気に呼び出した。

 

(さすがにこれはまずいかもな…あと残りHPはレッドゾーンだし…これは護りを固めるか…)

 

上位硬化(グレーターハードニング)

 

竜の鱗肌(ドラゴニック・スキン)

 

 そして、シャルティアが呼び出した眷属たちが周囲に展開された瞬間、呼び出された全ての者に命令が下される。

 

「全員でかかれ! ヤツを食い殺せ!」

 

 その号令と共に、100にも上る数の獣たちがシェイド・ベールに襲い掛かる。

 

 今の彼のHP残量は、12%…あと少しでも削られれば、その場で負けが確定してしまう。

 

 だが、シェイド・ベールは慌てずに、自分に流れて来る指令に従うのみなのだ。

 

 

 体をわずかに(かじ)られながら、10%にまで届かないギリギリの数値を見極め、周囲にまとわりつき、かじりつく獣たちをそのままに、11%を僅かに割った瞬間、一つの魔法を展開させる。

 

「悪いな、呼び出されてすぐで済まんがまとめて葬ってやろう!」

 

 

負の爆裂(ネガティブバースト)>!

 

 

 シェイド・ベールを中心として負属性の暴力が嵐の様に荒れ狂う。

 

 アンデッドであるシャルティアは<苦痛の波動(ウェイブ・オブ・ペイン)>の効果で吹き飛ばされた後、距離を取ったので、すでに範囲外にいる。

 

 そうでなければこんな魔法を使えば回復されてしまう。

 

 自身の放った魔法で窮地に陥るなど、ただの笑い話にもならない…だが、眷属程度なら別だ。

 

 闇の者達ではあるが、アンデッドではないため、通常通りダメージは通る。

 

 とは言え、アインズの様にカルマ値がマイナスに振り切れているならば、ダメージもそれに応じて大きくなるが、シェイドスピリットである彼は、良くも悪くもない。

 

 カルマ値がゼロなのだ。

 

 威力的には今一つだが、レベルとしてはそこまで高くない眷属達を始末する分には問題にならなかった。

 

 それでも始末できたのは周囲に群がった8割程。

 

 残り2割弱はまだ健在。

 

「いいでありんすね…せいぜい悪あがきをしてくれなんし…楽しませて欲しいでありんす」

 

 自分があと一息で勝てるという…相手を追い詰めたコトを確信したことにより、シャルティアは少しだけ余裕が戻り、優越に浸る微笑みを浮かべ、笑う。

 

「残りが2割弱…か…、ならば充分かもしれないな…。」

 

 シェイド・ベールがシャルティアからさらに距離を取るべく、後方に飛びのく。

 

「逃がしんせん! 行きなんし!」

 

 シャルティアの号令の下、残った眷属たちが全てシェイド・ベールへと襲い掛かる。

 

 距離がある為、向かってくる眷属達はある程度ひと固まりになって向かってきている、それに対して手の平を大きく広げ、それを襲い来る眷属たちに向けてシェイド・ベールが叫んだ。

 

「開け! 風穴よ!」

 

 と言いながら、シェイド・ベール自身の念話の仕様によりスキル名を念じただけでそれが発動する。

 

(<暴食>!)

 

 シェイド・ベールが広げた手の平には一つ、牙を生やした口が展開されている。

 

 その口からコーン状に広がった竜巻が、向かってくる眷属達を一気に吸い込み、呑み込んでいく。

 

 

 この<暴食>と言われるスキルは<暴飲>と対になるスキルで、それぞれ効果が異なる。

 

 簡単に言えば、暴食は物理的な吸い込みで吸収、若しくは自分の力に変換させる。

(それはバフであったりHPの回復だったり、MPの回復だったり…それは任意で効果を選んで発動させることが可能)

 

 そして、<暴飲>は、魔法的な吸い込みで、「魔力」を使用する必要のあるあらゆる魔法、スキルなどに効果を及ぼし、その効果を自身の身の内にストックしておくことが出来る。

(通常、スキルというものはMPを使用することが無いので、よほどのレアケースでないとスキルを吸い込むことはまず出来ないのだが…)

 

 

「スキル発動!<我が胃は小宇宙(The Cosmo in my Stomach)>」

「スキル!<捕食>!」

 

 

 シェイド・ベールが持つスキル<捕食>と、ベルリバーの持つスキル<捕食>は同一のものではあるが、この異世界に来てすぐ、ベルリバーのスキルは仕様が変更されてしまったため、今発動したシェイド・ベールの<捕食>は効果が全く違う。

 

 直接的に敵を倒したと判断された際、スキルの<捕食>を発動するかどうかの選択を迫られ、了承すると、倒した数に応じたバフが自身にかかる、それは効果がどんどん上乗せされ、上限がない。

 

 ユグドラシル時代では次のターンの頭にバフの効果が実現し、戦闘が終われば効果が消失する程度のものだったし、戦闘シーンで100体ものモンスターに襲われることなどまずありえないコトだったので、ここまでの状況に遭遇したことなど、前例がなかった、その為…どこまで強くなるのか試してみたかったのだ。

 

 

 さらに<我が胃は小宇宙(the Cosmo in my Stomach)>というスキルは一度に胃に収める敵のレベル総数を2倍にするという、人体で言うと「胃拡張」の為のスキル。

 

 ユグドラシルでは種族レベルを上げ損ねていた為、結局「宇宙」や「大宇宙」の方には届かなかったが、まぁそれは今更だろう…所有しているモノで何とかやりくりするしかない…

 

 通常はレベル100のベルリバーは総合計でレベル100分までしか<暴食>で一度に吸収することは出来ない。

(LV50モンスターを2体とか、LV33モンスターを3体など…つまり19体構成のゴブリントループ相手でもその全員を一度に吸い込むことは不可能という…効果としては微妙系だが使い方次第だ。)

 

 その為、20体弱という数であり低レベル帯の眷属とは言え、総LVがわからなかったベルリバーは、シェイド・ベールの胃の容量を上げさせたのだ、結果、総合計でLV200分までなら一気に吸い込むことが出来る。

 

 しかし、かと言って200LV弱のバフが追加され、100LVのキャラが+200レベル弱の分ステータスがアップして約300レベルくらいの強さになる、という単純な話ではない。

 

 吸い込んだ結果、18体を吸い込んだ計算になったようだが…つまりバフを重複して強化上昇を重ねることにする数とHPを回復する為の分を調整しないといけなくなるというわけだ…。

 

 吸い込んだ中で5体分は今まで使用したMP回復に回している。

 その内、10体分はHP回復分として活用。

 残った3体分は、バフの効果に全部回す。

 

 さらにその上で、<捕食>の効果により18段階のバフがシェイド・ベールに与えられる。

 

 総合計で21段階の強化上昇となるわけだが、その上昇効果には大きな差がある。

 

 片や、<捕食>のスキルはパッシブ型なので、それほど制限がある訳でもなく、1段階の上昇で数%。

 

 それに対して、<暴食>の場合は、戦闘中に3回までという制限がある為、<捕食>の上昇率よりは数値が上なのだ。

 

 結果的に、18:3の割合での上昇だが、上昇割合的には54:18…つまり「3:1」程度の開き。

 

 ステータス的には、シェイド・ベールの数値が100だとした場合、「172%」へと上がったことになる。

 

 

(これで戦闘力がシャルティアを上回ることが出来ればいいんだけど…戦闘中はこのバフが解除されることは無いから、そこだけは安心だけどね…)

 

 

<暴食>はこの戦闘中では、あと2回が限度

<暴飲>は、まだ未使用だから丸々あと3回だな。

 

(ブラフで「風穴」っていう名前をシャルティアには聞かせたが…さすがにそこを深読みするタイプじゃないかな?…、まぁ、それならそれで仕方ないか…、一つの布石が無駄になった程度に思っておこう。)

 

 せっかくスキルの名前を偽装して見せたのにな…と少しやるせない気持ちになるも、それは受け手の感じ方に大きく左右されてしまう話、ただの「セリフの一部」としか見なされなければ、決してそれ以上には成り得ないのは当たり前の事であった。

 

 

 一方、シャルティアの方はと言えば、勝利条件の10%以下まで残り僅かだったため、余裕で勝てると思って居た彼女はさらにイラつきを募らせる。

 

 勝てると思っていたのに、まだその相手は見苦しく抵抗をしているのだ、しかも<生命の精髄(ライフエッセンス)>で見てみたところ、HPが約3分の2強まで回復してしまって居る。

 

 

 それに対して、自分のHP残量は25%、ハッキリ言って計算が狂った。

 

 ルールには時間制限はなかったものの、現状ではHPの残量では負けている。

 

 守護者である自分が、どこの誰ともわからない異形種相手に、いいようにあしらわれている、それが我慢ならなかった。

 

 25%では魔法攻撃力の数値にもよるが下手をしたら超位魔法一発で終わってしまう恐れもある。

 

 私の魔法防御を上回るくらいの威力では、考えられるのはナインズ様、御自らの超位魔法くらいでないと難しいとも思えるが…

 

 もし相手がそれを使えるとしたらアウトだ。

 

 

 だが、超位魔法は、発動までに時間がかかる。

 

 発動の準備が整うまでに攻め込みダメージを与えればいいだけ、動けない的ほど狙いやすい物はない。

 

 自分にはさっきと違い、スポイトランスもある、これで攻撃してダメージを与えれば、HPはまた戻ってくる。

 

 それはいいが、不用意にダメージを与えると、下手をしたらまた同じ目に合わされかねない…下手に動けなくなってしまった。

 

 …ならば…

 

 シャルティアは新たにスキルを発動させる。

 

 高々と、上に手を持ち上げたシャルティアの頭上にあるのは、光り輝く巨大な矢じりのような形状をしたモノ。

 

 それは彼女の切り札の一つ、「清浄投擲槍」

 

 このスキルから出る攻撃手段は、神聖属性を持ち、更にスキルではあるが魔法扱いの武器でもある。

 

 しかも追加でMPを消費させると、絶対命中という特典もある、しかしこれは一日に3度までしか使えない。

 

(だけど、今はこれを使うべき!)

 

 距離を取って、これを3度全部使用し、残ったHPは攻撃魔法で削り切ってしまえばいい。

 

 向こうが再びあの魔法を使ってくるようなら…私には魔法を防ぐ、絶対の「盾」もある。

 

 それに…さっきは不意打ちで、頭に血が上っていたせいで冷静に対処できなかったけど…<時流遡行>というスキルもある…

 

 

 そこまで考え、出現させた光の槍に追加でMPを支払い、撃ち出す。

 

 それは絶対命中の光の槍、神聖属性の魔法扱い…相手はアンデッドではなさそうなので弱点ではないだろうが、通常のダメージは通るだろう。

 

(これを繰り返せば!)

 

 相手は戦った感じ、これと言って遠距離の手段は魔法以外には持ち合わせていないように考えていたシャルティアは勝利は目前だと思考し、射出した。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

(ほぉ…あの「モドキ」の方のベルリバーさんもなかなかやるもんだな…、姿を真似するという事は多分…)

 

 と、ナインズもいくつか候補を頭に思い浮かべているが、ことが終わればネタばらしは彼に聞いてみればいい話だ、名前がシェイド・ベールなのだから、恐らく「シェイド○○」とかの種類なんだろうけど…くらいに考えていたので、思わぬ善戦に目を見張る。

 

「それにしてもまさか、あんな手段でシャルティアに大ダメージを与えるとは意外だったな。」

 

 ぼそりとつぶやいた言葉を後ろで聞いていたマーレがそれに反応する。

 

「え? なにかおっしゃいましたか? ア…じゃなくてナインズ様。」

 

「あぁ、いやなんでもない、相手も階層守護者相手になかなか粘るなと思ってな…だがまぁ、今はシャルティアも少し頭に上った熱も冷めて来てるだろうし…落ち着きさえすれば問題あるまい、まだそれほどMPを浪費してるわけではないのだから、<大致死(グレーターリーサル)>もまだ余裕で使えるだろうし、<生命力持続回復(リジェネート)>は…一応、そろそろかけ直す必要はありそうだがな…。」

 

(さて、追い詰めてしまった結果、逆上したシャルティアが完全武装になってしまったのは計算外だっただろうが…そのシャルティア相手にどう立ち回るのか…見ものだな。)

 

 そう思いながらも心中、どちらかに応援を偏らせるわけにもいかない気分のナインズは、ただ静かに見守っていた。

 

 

 

 

 

 対して、場面は変わり、ここは控え席、ベルリバーが指示を出し、フレイラがその指示をシェイド・ベールに指示を…開きっぱなしの<伝言(メッセージ)>の魔法で指令を下し戦わせている中、アルシェが指示役のベルリバーに対して話しかけて来る。

 

「なぜイミーナは戦ってない? 盾で援護するだけでも展開は違うと思う…。」

 

「あぁ、それは変に注目を浴びたり、敵意を集めないためだよ、うちらの仲間内では「ヘイトを稼ぐ」とか「ヘイトを集めないように」って言ったりもするけどね、変に目を付けられて攻撃されたら、イミーナの身が危ないからね、あの浮遊盾だって使用した素材としての金属レベルはシャルティアとガチ勝負出来る程じゃないだろうから…」

 

「そう…それじゃ、最後まであのまま?」

 

「そうとは考えてないよ、もしその時が来たらその時はヤツにくっつけた口から指示を出すさ…問題はそこまでヤツのHPが持つか…っていうのと、そこまでシャルティアを追い詰めることが出来るか…にかかってるかな?」

 

「でも…なにかあれば、あの異空間での修行が役立つはず…」

 

「そうだね…あんな盾の使い方ができるなんて想像の範疇になかったからな、自分でも、アルシェの発想には驚かされたよ、ウチラじゃ、あの盾は…どこまで言っても「防具」の一種だからね…それをあんな風に工夫しようなんて、一生かかっても思い浮かばなかったと思うよ。」

 

「うん、でもそれは、妹たちにも感謝しなければならない…あれは私が必死に集めた知識の賜物、六大神様が残されたという御知慧の中に、妹たちが喜びそうな記述が遺されていた文献を元によく再現していたモノだったから…」

 

「そうか…なら、どんなヤツらだったのかわからないが、そんな顔も知らない六大神とやらにも感謝しなければな…それが機能した時、イミーナの真価が発揮される時だろうけど、二人であれだけ頭を悩ませたんだ、きっと大丈夫だろう。」

 

「エルフにも人間にも、あんな文化は無かった、だからそれが役に立つなら、それが何より…。」

 

 と、会話をしながらも意識は戦闘に何割かは割いているベルリバーが反応する。

 

「う! まずい…あれはたしか、神聖属性の攻撃スキルだったはず、絶対命中の機能もあったはずだから、今のアイツに使われたらかなりHPが削られる…あれは確か…レアリティ基準で言えばレジェンドの上位に位置するスキルだったはず…、今のシェイド・ベールは「胃拡張」させても精々レジェンドの中位~上位に指がかかるか?って程度だから、今のを吸い込むのは難しい…今撃たれたら厳しいな。」

 

「…なら、なんとか少しでも弱めたりすることは無理?」

 

(あのスキル効果を弱めるか…考えたことなかったが、出来るのか? いや…ぶっつけでも試してみる価値はある、幸い、支援魔法と最後の反撃の魔法を使っただけだし、さっきの<捕食>でMPも多少回復してるはず…なんとかなるか?)

 

「そうだね、通用するかわからないけど、やるだけやってみよう、ありがとう、アルシェちゃん」

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

「死にさらせぇぇぇ!!!」

 

 シャルティアが<清浄投擲槍>を撃ち出す瞬間に、シェイド・ベールも<伝言(メッセージ)>からの指示により、即座にその対応を取り始める。

 

<|魔法三重最強位階上昇化《トリプレット・マキシマイズ・ブーステッドマジック》>

 

 そう詠唱の準備に入ったシェイド・ベールが選んだ魔法は、光に対抗するように発生させた闇の魔法。

 

 それも<負の爆裂(ネガティブバースト)>同様、カルマ値がダメージ量に大きく左右される魔法の一つ

 

 無論、アインズ程のダメージ量は望めないが、一時的に位階を引き上げる「魔法強化」を施し、自らの最大位階である第8位階に引き上げたその魔法を3連発、シャルティアの光の槍に向けて全てぶつけていく。

 

 

獄炎(ヘルフレイム)

 

 

 指先から発せられた小さき闇の炎は、シェイド・ベールに向かってくる光の槍に向かって襲い掛かる。

 

 1発目。 着弾、闇の炎を燃え上がらせるも、光の槍の勢いは変わらず、わずかにサイズが変化した?という程度の変化しか与えられなかった。

 

 2発目。 着弾、間髪入れずに吹き上がる闇の炎が光の槍を覆いつくす。わずかに勢いが殺され、先程と同じくらいの勢いで光を奪っていく、2発目でやっと目で見て少し違うくらいには判別できる程度に変化していた。

 

 3発目。 勢いが衰え始めた光の槍に3発目が襲い掛かり、最初の大きさより一回り小さくすることに成功したが、スキルそのものを打ち消すには至らなかった。

 

「ちぃ…! さすがに打ち消すには足りなかったか!」

 

 

「きゃぁ~~っはっはっは! その程度では我が創造主様から与えられしこのスキルからは逃れられんせんよ?」

 

 

 すると、シェイド・ベールのムネから腹にかけて、魔法陣が浮かび上がる、さしずめ、これが絶対命中の目印と言ったところだろうか…

 

(よし! それなら!)

 

 シェイド・ベールは体中に分散されている口を魔法陣が刻まれた辺りに、一斉に集め、そこに巨大な口を形成していく。

 

「さぁ~~! 一発目が命中でありんすよぉぉ~~?」

 

 嬉しそうに言い募るシャルティアに対し、シェイド・ベールはただただ、指示された役目を遂行することに意識を向ける、それが失敗に終わっても、それが召喚者の意思ならば、それに従い、果てることができることに満足を覚えるに違いない、それが本懐というものだろう、そう思って最後の一手を発動させる。

 

 

「さぁ、存分に飲み込め! 大風穴!」

(<暴飲>!)

 

 

 シェイド・ベール(に付けた口)がそう発言するとともに、魔法陣を口中に収めるくらいには大きく広がった大口がガバっと獲物が飛び込んで来るのを待つ捕食者のように出現し、光の槍が空気に溶けて消えるように、その大口に吸い込まれて行く。

 

(よかった、なんとかレジェンドの中位より多少は上程度には弱められたか…、上位のままなら吸い込めなかっただろうからな…、うまく行って良かったぁぁぁ…)

 

 

「バ…バカな…そんな、ありえない…絶対命中の筈のこのスキルが…」

 

 

「ふっふっふ…どうした?シャルティア…そんな顔をして、この程度のスキルを、私がどうすることもできない程度の存在とでも思っていたのか?」

 

(とりあえず相手の動揺を誘っておこう、ペロロンチーノさんはどんな風に創ったか知らないけど、シャルティアって、直情傾向が強いっぽいし…、直情タイプは「猪突猛進」とも似ていて攻撃力という点では要注意だけど、反面、細かい配慮や、臨機応変って言葉は苦手分野になるからな…それを上手くさばくことが出来れば…もう少し粘れそうかな?)

 

「うそ…なんで? 至高なる御方が生み出した技をなんでお前のようなポッと出の…訳のわからない下等種が打ち消すなんてことが出来るでありんすか!」

 

「なんでだろうね? もしかしたらシャルティアを創ったというその者より、「この私」の方が優れていたということの証明なんじゃないか?」

 

「ぐぅ…認めんせん! 認められんせん! そのような戯言(たわごと)などぉぉぉ!!!」

 

 そして2発目の<清浄投擲槍>の準備に入ったシャルティア。

 

 

「そうか…認められないか…ならこういうのはどうかな?」

 

 そう言うと、シャルティアのするポーズのまま、同じ動作をシェイド・ベールが鏡写しの様に腕を高々と掲げる。

 

 …すると、その手の上に出現したのは明らかに<清浄投擲槍>

 

 そして、それは今シャルティアの撃ち出そうとしているソレよりサイズが一回り大きい。

 

 それは身の内に一度、収納したことにより、先程の<捕食>と<暴食>の効果で底上げされたすべての能力が21段階の強化上昇(バフ)状態となっているからだ。

 

 その為、純粋にレアリティ基準の攻撃力で言えば、ゴッズの最低ラインには届こうかという威力にはなっている。

 

「そ! …それは! なぜ? なぜお前ごときがそれを使うことができんす? それは私だけの…私だけの能力で…ペロロンチーノ様…あぁ…何故…どうして?」

 

 驚愕の表情を浮かべ、狼狽えるシャルティア。

 

 自分が得意とし、切り札の一つである技を盗まれた(本当は違うのだが)ような状況を見せられてはさすがに平静ではいられないのだろう。

 

(さて、シャルティアが<清浄投擲槍>を撃ち出す前に、これを使い切らないと、次の<清浄投擲槍>を喰らう為の容量が確保できなくなっちゃうからな…、そもそも<獄炎(ヘルフレイム)>の助けも無いと吸い込めないし…アインズさん程の魔力量が欲しいよ、全く…。)

 

「さぁ、どうしてだろうねぇ? 自分のスキルと同等か、それ以上かもしれない威力をその身で受けるといいよ? そうなることで初めてそのスキルを受けた者の痛みが分かるようになるんだから…ね!」

 

 と、最後の「ね!」で、シェイド・ベールが<清浄投擲槍>を撃ち出す。

 

 意外にも、追加でMPを消費するかどうかの選択肢が脳内に浮かんだので、絶対命中の要素も同時に吸い込めたらしい。

 

「あぁぁぁぁ、あぁぁぁぁ!!! くぅ!!」

 

 苦々しい表情を浮かべ、シャルティアは抵抗することも無くその身に<清浄投擲槍>を受け入れる。

 

 しかし、苦痛の悲鳴は無い。

 

 その身に刺さって、発生したはずのダメージから巻き戻しの発生が起きたように傷が無くなっていく、まるで時間の操作でも出来るのか?と錯覚するには充分の衝撃を受ける。

 

「な…まさか…時の流れを操れる? ユグドラシルにそんなスキルあったっけ?それともデータクリスタルか?」

 

 途中からユグドラシルから遠のいてしまったベルリバーには解らない、ペロロンチーノさんとはモモンガさん程には仲良く出来ていた自信がない為、そこまでシャルティアに関しては詳しくないのだ…その分だけでも情報量が不足していたと言える。

 

(基本的にきさくな人だったから、誰とでも抵抗なく話したりできる人だったけど…「このゲーム面白いから」とか言ってボクをそっちに染めようとしていたイメージしか残ってないな…)

 

 どちらにしろ、自信のあった攻撃が…それなりにダメージが期待できた攻撃が無力化されたことは事実なのだ、だがあれだけ強力な効果なら、それほどの回数は使えないはず…普通なら2回…

 

 もし、何らかのデメリット、何かしらの制限をそのスキルに課しているのだとしても恐らく「戦闘中」では無く、「一日に」という部類だとしても、全部でいいとこ3回が限度。

 

 できれば「2回」の方であって欲しいんだけどな…

 

「ふふふ…こちらにも、まだまだ奥の手は残してるでありんすよ? 残念でありんすねぇ…目論見が外れてしまって…まぁこれも、お前ごときより「あのお方」の方が優れていたということの証明では?」

 

(さっき、思いっきり「ペロロンチーノ様」って口走っていたのはすっかり忘れているのか? それとも強引に誤魔化すつもりか? どっちにしても力技すぎだな…)

 

「そうか…それで?今お前の出している2発目の方はどうするつもりだ?また同じ目に遭いたいのなら、いくらでも撃って来ると良い…何度でも蹴散らして撃ち返してやろう…お前はあと何発なら撃てる?1発か?それとも2発かな?」

 

「おのれ、どこまでもわらわを愚弄するつもりでありんすか! スキルなどなくても、魔法という手段もあるでありんすよ!」

 

 シャルティアは、待機中の<清浄投擲槍>を解除して、使用回数を節約するつもりのようだ…

 

 魔法の準備に入り、3つの魔法を発動させる。

 

大致死(グレーターリーサル)

生命力持続回復(リジェネート)

 

魔法最強化(マキシマイズマジック)

朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)

 

 シャルティアが第9位階の魔法を使用して来たが、一応、『武人の胸当て』を装備しており、少しは各種抵抗、無論、炎に対する抵抗力のみならず幅広く耐性は付加してあるし、<魔法盾(マジックシールド)>も適用されている上、バフにより、ステータスも上昇し魔法防御力も上がっている、ダメージ量はそれなりに抑えられるだろう…とは言え、最強化状態の第9位階を無抵抗で受けるのは得策ではない。

 

 そうだ、わざわざ立ち止まっててやる義理は無い、先程、シャルティアの眷属を吸い込むことでかなり強化されているのだ、全力でシャルティアに駆け出したら…という好奇心が頭をもたげる。

 

 地面がさく裂したかのような音を残し、シェイド・ベールが一直線にシャルティアに迫る。

 

 それは、まさに蒼の帯を残し、疾駆する存在となった者の賜物、発動場所ではそのまま渦を巻いて荒れ狂う紅蓮の炎が置き去りにされていた。

 

(これで接近して、火力タイプのスキルで一撃を加えられるか?)

 

 その姿が目の前まで迫って来た思いもよらぬ事態に、シャルティアも自身の魔法で対応を実行に移す。

 

自己時間加速(タイム・アクセラレーター)

 

 周囲の時間の流れが、止まったような流れで緩やかになる。

 

 つまり、止まっているわけでは無くそう見える程にゆっくりとした時間が流れるようになる魔法。

 

 その魔法が展開中は、一切の攻撃や、攻撃魔法などは効果を発揮しない…というよりもっと正確に言えば発動は出来るが、ダメージを与えることが出来ないと言った方がより正しい。

 

 しかし、その効果が及んでいる間は、シャルティア自身は自由に行動することが出来る。

 

 だからこそ、その流れが…効果時間が終わり、自分を見失い、戸惑う相手を楽しみにするように、落ち着いた歩みでシェイド・ベールの背後に回り、効果時間が終わるのをじっと待つ。

 

「浅はかでありんすね…そんな手段でどうにかしようなど…時間対策もしてありんせんとは…準備不足でありんすよ?」

 

 シャルティアは緩やかに流れる時間の中で、もう一度、背後に立つもう一人の装備に目を向ける。

 

(あぁ…やはりアレが近くにあると妙に安心するというか…懐かしいような気にさせられんす…見たのは初めてなのは確かでありんしょうに…何故でありんしょうね…)

 

 

 …そして時が動き出す。

 

 

 いきなり目標を見失ったシェイド・ベールが、そのまま、先程シャルティアの立っていた地点でブレーキをかけ、足を止める。

 

「油断は禁物でありんすよ?」。

 

 その言葉と共に、背から腹にかけてスポイトランスの先端が突き抜ける。

 

 (くそ! シャルティアのスポイトランスはゴッズ武器…そのレアリティではさすがに<暴食>でも直接攻撃分に対応するのはムリだ!)

 

「それにしても随分と力量が急速に上がったようでありんすね? 我が眷属たちを吸い込んだ影響だと言わすわけでありんすかぇ?」

 

「くぅ…<次元の移動(ディメンショナル・ムーブ)!>」

 

 今以上のダメージ量を受け、シャルティアの回復に回されるのだけは防ぐ必要があった。

 

 だからこそ、緊急避難でシャルティアから距離をとったのだが、彼女のHPは先程の<大致死(グレーターリーサル)>と<生命力持続回復(リジェネート)>の効果も合わさり60%くらいには回復している。

 

「距離をとりんしたかぇ? …それなら時間対策も疎かにする愚か者に、決定的な差という物を見せてあげんしょう。 …<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>」

 

 

 控え席に座っていたベルリバーにはそれが全て見えていた。

 

 次鋒戦でシャルティアと戦う為、念の為にとあらゆる対策を取る為、自分の流儀に反して、見た目が「成金」みたいだと言う拘りがあったためにずっと避けていたことを実行したことに由来する。

 

 そう、それは10本の指全てに指輪を装備すること、それに首飾りの仕様に仕立てたアクセサリ。

 

 各種効果を己へと身に着けさせるための苦渋の選択だった。

 

 もちろんその中には時間対策用の指輪も含まれている。

 

 だからこそ、「時間対策」をしていない相手に対して、どういう手段をとる可能性が高いのか…それをただ観戦して自分の力とするために、つけ入る「穴」をお膳立てしておいたのだ。

 

 

 そんな緩やかに流れる時間の中で、シャルティアはのんびりとシェイド・ベールに歩みを進める。

 

 一歩…

 

 また一歩…

 

 さらにもう一歩…

 

 そうして歩みを進める中、もう一度<大致死(グレーターリーサル)>を唱え、足を止める…そのまま至近距離まで近づくと、優しげな微笑みを浮かべ、対戦相手の腹にそっと手を添えた。

 

 特に意味はない、離れていても発動は可能だが…より相手に恐怖を与え、絶望の表情を張り付かせ、そのまま固定させたいと…そう思っただけだ。

 

 体中が口だらけの為、苦悶の表情がどういうもので、絶望がどんな表情だか、彼女にわかるのかは謎な部分だが…。

 

 そのまま、腹をなでながら、効果時間が終わるのを待つ。

(やはり何もこの者に感じるものはありんせんね…、となると…やはり御方々は戻って来られないのでありんしょうか…いいえ、シャルティア、信じるでありんす、いつか、必ずお隠れになった方々はきっと戻って来て下さると…!)

 

 思案に耽っている内に効果時間は切れた、…そして時は動き出す。

 

 色が戻った世界、時間の流れが戻り、距離を取ったはずのシャルティアが転移したかのように接敵されていることに驚愕を感じていたシェイド・ベールに<伝言(メッセージ)>で指示が来る。

 

 主の、その上位に君臨する大主(おおあるじ)様、その方からの指示が主様から告げられる。

 

 上位に位置する魔法が来ると予測されたようだ。

 

 迷わず使えと…。

 

 使うスキルを指示していただけたのだ。

 

 ならば使うのみ、そう判断して発動させる。

 

 (<暴飲>!)

 

 口には出さず、シェイド・スピリット独自の念話仕様で、その効果が発動した。

 

 そしてその結果、シャルティアが望んだ魔法は何の現象も引き起こさずにかき消える。

 

 それにより、シャルティアにはその魔法が吸収されたか、又は無効化されたかのように映ったはずだ。

 

 その攻防はほぼ同時だったが、わずかにシェイド・ベールの念じた方が一瞬早く発動する。

 

 

 シャルティアの放った魔法は第8位階魔法<破裂(エクスプロード)

 

 個人に対して有効な魔法で、魔力消費も同じ位階魔法の中で範囲系の物よりコストが手頃な魔法。

 

 ベルリバーの所有している魔法が第8位階までであり、2割のステータスがダウンして、吸い込む限界量も本人と比べればダウンしているものの、スキル効果によって胃拡張してあったことにより、なんとか飲み込むことが出来たことに安堵する。

(しかし2回使わされたか…そうなると、この戦闘中ではあと1回か…使いどころは慎重に考えないとな…)

 

 

 「え? なんで? なんで何も起きないのでありんすか?」

 

 「ん? 今、何かしたのかな? もしかして、私の「上位魔法無効化」で打ち消せる程度の魔法で何とかするつもりだったのかな?」

(もちろん、そんなのはウソだけどね。)

 

 そして、一閃。

 

 目の前に相手が居るのなら、それは刀で攻撃できる有効範囲だ。

 

「ぐぅぅぅぅ…」

 

 シャルティアがうなりながら下がる。

 

 しかし、相手から余裕をもって近づいてきてくれたのだ、これを活かさない手はない。

 

 さらに距離を詰めようとすると…、再度いきなり見失う。

 

『危ない!後ろ!』

 

 フレイラ様から注意の<伝言(メッセージ)>が届く、振りむこうと動きかけた瞬間に、横っ腹に<清浄投擲槍>が突き刺さった。

 

「ふふん…さすがに不意打ちではこのスキルを打ち消すのは無理だったようでありんすね。」

 

(くっそ、あそこでまた<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>を使って背後に回るとは…それじゃ、見せ技程度になってしまうけど…ちょっと実験してみるか!)

 

 一つ、思いついたベルリバーは、本来なら真剣勝負の最中、ギャンブルをするべきではないと思いながらも、シャルティアなら、かかるんじゃないかと思い付き、試したくなった魔法を使わせる。

 

(<幻影の視覚(ビュー・オブ・ミラージュ)>)

 

 シェイド・ベールが再び、己の念話でその魔法を発動させ、手を高々と空に掲げる。

 

 すると、そこにあるのは先程撃ち出した<清浄投擲槍>、それが鮮明に再現されていた。

 

「そ…それは…まさか…何度も使えるようになったのでありんすか?」

 

「ふふ…どうだ?これでもう<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>は使えまい…どこに移動しようと…絶対命中のコレがあれば、お前の居場所など造作も無く判明するのだからな。」

 

「うぅぅ…、それは意外でありんしたが…それは何度使えるんでありんすか? 絶対に避けられないなら、防げばいいだけでありんすからねぇ。」

 

「そうか? ふふん、ならば試してみるか? これがお前程度のスキルで防げる程度のモノかどうか…?」

 

「いいでありんすよ? 好きに撃って来るでありんす、逃げも隠れもしんせんぇ?」

 

「いい覚悟だ! 行け!<清浄投擲槍>!」

 

「ふん! <不浄衝撃盾>!」

 

 ぶわっと、スキルの発動により、赤黒くよどんだ色の障壁が現れる。

 

 シャルティアの全身をすっぽり隠せるほどの、吹き飛ばし効果のある盾が展開された。

 

 それと同時に、シャルティアへと迫る<清浄投擲槍>の幻影。

 

 実体が伴っていないため、映像なだけなのだが…幻なだけでいいなら、何度でも出現させるのは可能だ。

 

 ダメージは与えられないというだけで、見た目は全くソレそのもの…迫ってくる脅威は、視覚に頼る限り、惑わされる。

 

 完全にそれが幻だと疑い、<魔力の精髄(マナ・エッセンス)>ごしに、その幻を観ない限り、見破られないのだ。

 

 幻や幻影を見破る能力持ちのアビリティやスキルなどがあれば話は別だが…シャルティアにはその機能は備わっていない。

 

 しかし、幻である以上、<不浄衝撃盾>にはなんの衝撃も与えられないという懸念材料もある。

 

 そこで、主の主(ベルリバー)から賜った課金アイテムの使用許可が今出たので、幻の投擲と同時に、それをシャルティアに向かって投げる。

 

 シャルティアの視界は血を思わせる赤黒くよどんだ衝撃波を生み出す障壁、<不浄衝撃盾>によって遮られ、前方の様子はほとんど窺い知れない。

 

 その為、<不浄衝撃盾>に当たった衝撃だけを受け止めることになる。

 

 それは「投擲型」の<爆撃地雷(エクスプロードマイン)

 

 手榴弾の形に見えるソレは、本来の魔法では「地雷」の様に地面に仕掛け、接触した者に対してダメージを与える効果のモノだが、この課金アイテムは手榴弾の形の物に魔法が付与されており、投げて使うタイプ…つまり投げられて当たらなければ発動すらしないという問題もあるが、外れても地面に当たればそこで爆発してしまう。

 

(普通の敵なら足下に落として、爆風でダメージを…という手もあるが…直接当てた方が効果は高いしな)

 

 とは言え、シャルティア相手ではそうなったら無駄撃ちとほとんど変わらなくなってしまう…

 

 

 <不浄衝撃盾>は、ものの見事に爆発も爆風も両方共、盾から発生する衝撃により吹き飛ばす。

 

 その爆発音は、<不浄衝撃盾>の衝撃音でほとんど相殺されている。

 

 ハッタリとしては上々だった。

 

 接近するなら、<不浄衝撃盾>で前が見えない今!とばかりにシェイド・ベールがシャルティアに迫る。

 

 合計でそろそろ1.4倍に迫ろうかという攻撃力になっている刀を振るう前に、さっきのスキルを再度発動。

 

 スキル<羽々(はば)斬り>を使用し、また刀の重さを一段と軽くさせ、連続攻撃の回数をわずかに上昇させる。

 

 <飛燕 乱舞斬>!

 

 それは、一度の攻撃で同時に10の斬撃を繰り出す技。

 

 しかし、そのダメージ量は重さが乗っていないため、10の連撃であるのに、そのダメージ総量は通常の攻撃の10倍ではなく、2倍でしかない。

 

 しかし、今は刀の攻撃力自体に炎属性が付与され、少しだが攻撃力も上がっている。

 

 その為、通常の1.4倍のダメージ量に上がっているのだ。

 

 徐々に、<生命力持続回復(リジェネート)>で回復し続けている上で、かつ<大致死(グレーターリーサル)>でも回復されている以上、少しでもダメージを重ねておく必要はあるのだ。

 

 さっきまでは25%程だったが、その回復により、今は80%近くには回復されてしまっている。

 

 一方、ここまでの時点でシェイドベール自身も50%を大きく下回る程度のHPしか残されていない…スポイトランスに貫かれた時と<清浄投擲槍>の不意打ちダメージ分、減らされたためだ。

 

 あとはどこまで、シャルティアにスキルを使わせ、使用回数をゼロにするか…にかかっている。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

「う…うぅ…うっとおしい、この連続攻撃は…、これじゃ<時流遡行>が使えんせん…」

 

<時流遡行>のスキルは1発の攻撃に対して、大ダメージであればある程、効果がある。

 

 なので、直接ダメージでも魔法ダメージでも、一発で大ダメージを出せる火力タイプの攻撃なら、すぐに巻き戻せるが、細かく小さいダメージを重ねて与えて来る相手には使いにくいスキルなのだ。

 

 なぜならわざわざ小さいダメージを一度消す為だけに使うのはスキルの無駄使いだし、使ったとしても、その小さいダメージ一発分だけしか適用されない為、一日の使用回数が2回となっているスキルを使うには明らかに過剰すぎるのだ。

 

 どうしても後々まで残しておきたいという意識に支配され、細かいダメージだと使いにくいのが大きい。

 

 だがそのダメージが小さくて済んでいるのはシャルティアの装備している真紅の鎧があるから…というのが一番の理由だ。

 

 そうでなければ、それなりのダメージが来ていることだろう。

 

(<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>で距離をとれば<清浄投擲槍>、接近されれば<時流遡行>の使いにくい連続攻撃が来る…、<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>で距離をとろうにも、この息をつかせぬ攻撃の中では発動の時間すら許してはくれない…さっきみたいに腕を振って弾ければいいんでありんしょうが…、全体的に実力が向上している以上、今度は弾けないでありんしょうね…となれば、残るは…)

 

 シャルティアは頭を悩ませる、どうすればより良い選択なのか…?

 

 シャルティアはあの時、気づきべきだったのだ。

 

 例え、自分の得意とする、至高なる創造主に与えられた切り札たるスキルがそのまま再現されたとしても…、その時は自動命中の効果が発動していた為、ムネに魔法陣の目印が輝いていた…しかしシャルティアにとって、それは当たり前、当たらなければ意味がないし、少しのMP消費で済むならケチっている場合ではないという思い込みから…彼女にとって追加でMPの消費をするという行動はセットだったのだ。

 

 そう、幻の<清浄投擲槍>を出された際、撃ち込まれた際、自分のムネに〝魔法陣の目印"が表れてなかった事を確認するべきだったのだ。

 

 そうしていたら、アレはブラフだと…、ハッタリだと気付いたはずだった。

 

 しかし彼女はそれを怠った、その為、その幻が本物だと信じ込んでいる。

 

 その呪縛から離れられないでいた。

 

 長くもあり、短くもある思案の末、シャルティアは覚悟を決める。

 

 これは時間との勝負だ。

 

 ほんの僅かでもズレが生じれば相手に対策を取る時間を与え、反撃の余地を与えることになる。ならば、間髪入れずに、全てをこの一連の流れに掛けるべきと判断して、一気にケリをつけようと…全てはナインズ様の目の前で無様をさらさないため、勝利をお見せする為。 と動き出す。

 

 

「しゃらくさいわぁぁぁ!!!<不浄衝撃盾>!」

 

 一方的な刀の連続攻撃で、今やその攻撃力は、すでに2.2倍にまで達していた。

 

 勢いで押していたシェイド・ベールが、至近距離で出された<不浄衝撃盾>により吹き飛ばされる。

 

 しかしそれで終わりではない、吹き飛ばされ、体勢が不十分な内に仕掛けなければ…とシャルティアが準備するのは最後の<清浄投擲槍>である。

 

 絶対命中の効果を乗せ、吹き飛ばされながら闘技場の壁に背をぶつける瞬間、ヤツに刺さる様に…と少しの遅れも許されない! その覚悟を持って臨む。

 

「行け! これでおしまいでありんすぅ!!」

 

 最後の<清浄投擲槍>が、吹き飛ばされている最中のシェイド・ベールに迫る。

 

「くぅ…させるか!<飛行(フライ)>」

 

飛行(フライ)>の魔法で空へと飛びあがり難を逃れたシェイド・ベール。

 

 しかし、MPを追加で消費されている為、追尾機能で後ろから迫って来ている。

 

「くぅ…ならば、<軽速飛行《クイック・フライト》>

 

 それは<早足《クイックマーチ》>の飛行版、飛行速度を底上げしてくれる魔法を使い、少しでも距離を詰められる時間を稼ぐため、ひたすら空を逃げ回る。

 

「いくら逃げても無駄でありんすよ? その自動命中の効果は当たるまで消えることはありんせん。」

 

 空を飛翔し、逃げ惑うシェイドを余裕で地上から見上げ、嗜虐の笑みを見せつつ告げるシャルティア。

 

 そして、シェイド・ベールは、追って来た<清浄投擲槍>を誘導するように空高く飛び上がった後、放物線を描くように急降下を始める。

 

「なにをするつもりでありんしょうね、無駄なあがきというのは見てて滑稽でありんす。」

 

 〝どうせ結果は決まっているのに″

 

 そう結論付けているシャルティアの前で、シェイド・ベールは地面すれすれまで降下したかと思うと、低空飛行に切り替え、シャルティアの居る方へと逃げて来る。

 

「破れかぶれでありんすか? どちらにしろ、スポイトランスで貫かれるか、<清浄投擲槍>で貫かれるかの違いでしかないでありんすし…引導を渡してあげんしょうかぇ?」

 

 ゆっくりと構えを取って、待ち受けるシャルティア。

 

 そして、視線が交錯した刹那…、シェイド・ベールの姿はかき消える。

 

 念話で、発声をせずに<完全不可視化>を使用したのだ。

 

 それと同時に<次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)>により、再度シャルティアの背後に回り、その場で、シャルティアの影の中に沈んでいく。

 

 擬態の能力で、身体構造は変化していても、自身の持つ生来のスキル、<影潜み>はいつでも、どんな状態になっても使えるスキルなのだ、起こり得る僅かな不安要素も排除して臨む。

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

 シャルティアは姿を消したシェイド・ベールを見た瞬間、また転移魔法を使ったのだろうと判断、即座に<自己時間加速(タイム・アクセラレーター)>を使用。

 

 そこで、奥の手である<時間休止(タイム・ポーズ)>をほぼ同時に発動。

 

 詠唱の為の長さの関係で、<時間休止(タイム・ポーズ)>の方がわずかに先に言い終わる。

 

 シャルティアが「タイム―」と発声したのを確認してから言い始めても<時間休止(タイム・ポーズ)>の方が同時か少し早く言い終わるのだ。

 

 しかし、その効果まではシャルティアを上回れるわけではない。

 

 時間の流れが緩やかな中でも、シャルティアが1.2歩分歩くくらいの行動で、シェイド・ベールも同じ速度であるという前提だとしても、ようやく1歩というくらいの違いがある。

 

 だが、それだけの行動が出来れば、<完全不可視化>状態であるシェイド・ベールを見失っているシャルティアの目をごまかすことは出来る。

 

 それを見越して、念話で発動させたのを、まだシャルティアは気付いていない。

 

 

 

 シャルティアは先ほどと同じように、周囲に出現するのを待ち受けるも、いつまで経っても現れない。

(現れていたのだが、<完全不可視化>状態の為、普通の視点では見えていなく、その内に影に潜まれてしまっていたのだ。)

 

 シャルティアが<不可視化>の可能性を見い出し、即座に<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>を使うが、時すでに遅し、影の中に隠れられていた為、自身の影に目を向けなければ、存在に気付けない。

 

 どこにいるかを見つけられないまま、効果時間が切れ、通常の時間の流れに戻る。

 

 その瞬間、<完全不可視化>状態のシェイド・ベールが影から抜け出し、シャルティアに組み付く。

 

 見えていなくても、組み付かれた感触は感じられるため、シャルティアは焦り始めた。

 

「な…、それは…もしや不可視化?どこに隠れていたかと思えばそういうコトでありんすか! どこにも反応がなかったのはそういう訳だったという事でありんすね。」

 

「ふふ、切り札は最後まで隠してこそ、意味があるのだよ? このまま、ボクと共に貫かれるがいい!」

 

 そして、シェイド・ベールを追って来た<清浄投擲槍>が狙い(あやま)たずに最短距離をまっすぐに飛来、シャルティアごと、シェイド・ベールを貫くことになるだろう―――と思ったのだが、いつの間にかシャルティアの姿がない。

 

 

 そう、シャルティアは吸血鬼の持つ特性を利用し、肉体を持つ実体からスキルによって霧へと変化する。

 

 それにより、非実体となった星幽界(アストラル)体のシャルティアは、組み付かれた状態から苦も無く脱出に成功する。

 

「非実体の霧となったか、ならば…喰らうがいい!<魔法三重最強化(トリプレット・マキシマイズマジック)>! <星幽界の一撃(アストラル・スマイト)!!>」

 

 星幽界(アストラル)体のまま、その身に非実体攻撃することに特化した魔法を受け、その霧はたまらず地面に降り立つ。

 

 その口から吸血鬼らしく赤黒い血をゴポリと、口の端から滴らせて…。

 

 口の端から血を流しながらも不敵に笑うシャルティア…それと同時にシェイド・ベールもその身に光り輝く戦神槍を受け…そのまま、立ち上がろうとするシャルティアに向けて、大きく手を伸ばす。

 

 

「……何をするつもりでありんす?」

 

「さっき、お前の眷属がどんな目に遭ったのかは見ていただろう? それと同じ道を辿らせてやるだけさ」

 

 どこまでも冷酷な声音を装い、手の平に一つの口を展開させ、牙をむき出し…

 

「吸い込め! スキル!<風穴>」

 

(よし、今回は「スキル」とまで言ったんだから間違いなく勘違いしてくれるはずだし、そんなスキル、ユグドラシルには無かったんだから脅威を感じても不思議じゃない!)

 

 シェイド・ベールの手の平の口から、再びコーン状の竜巻がシャルティアに襲い掛かり、猛烈な力により吸い込まれて行く。

 

 それは全力で足を踏ん張ろうとも、背中の翼を使って飛ぼうとしても…、スポイトランスを地面に突き刺しても…その吸い込みの勢いは衰えず、地面に突き刺した穴が一本の線になっていくのを当たり前であるかのように…禍々しくも見える牙を生やした口がシャルティアに迫る…というより、シャルティアがその口に引き寄せられて行く。

 

「そうはさせんせん!<自己時間加――(タイム・アク――)>」

 

「させんよ!<破裂(エクスプロード)>」

 

 それは、先程シャルティアから<暴飲>の効果で吸い込んだ魔法。

 

 彼女の使う威力よりも魔法攻撃力が上がっているシェイド・ベールの行使する今の方が、シャルティアの魔法防御を突破して、ダメージを与えるには充分の威力がある。

 

 もちろん、「風穴」は、彼女を吸い込むことより、彼女の方から射程範囲に引きずり込むことの方が主の目的である。

 

 どの道、100LVのシャルティアを吸い込むなど出来るはずがないのだ、それを知ってるのは共にギルド戦でも、日常のモンスター狩りでも行動を共にした者しか知らない。

 

 現状ナインズこと、モモンガ、そしてベルリバー本人しか知らないことなのだから…もしシャルティアがそれを知っていたらそこまで吸い込まれることに抵抗はしなかっただろう。

 

「吸い込まれる」というエフェクトが発生しても、結局「吸収」という結果には結びつかないのだから。

 

 

「ぐ…ぅ!」

 

「どうだ?先程お前が私にしてくれようとしたコトだよ?しっかりと味わえたかな? それが人の痛みを知るという事だ、まぁ、そこまで痛手ではないだろう?まだまだHPに余裕はあるんだから、存分にやり合おうじゃないか!」

 

(こ、こいつ…いかれてるんでありんせんの?)

 

 もちろん、そう思わせるのが目的で、本心は違うのだが…、口だけで言い放題のベルリバーより、実際にシャルティアと戦わされるシェイド・ベールの方が、実際たまったものではないが、そこは召喚された者。

 

(主様、そして大主さまのお望みならば、この命!)

 

 というくらいに張り切っている。

 

 とは言っても、実力は未だ、シャルティアの方が上、スキルはほとんど使い切り、後は<時流遡行>が1回と、正真正銘の切り札<死せる勇者の魂(エイン・ヘリアル)>のみなのである。

 

 霧となる手段も残されているが、相手の魔力はまだ余裕はある、再び<星幽界の一撃(アストラル・スマイト)>を喰らわされてはこちらが不利になる…そう考えているシャルティアはこう思う。

 

 

〝なんてめんどくさい相手なんでありんしょう″

 

 …と。

 

(こうなれば回復手段の回数が減ろうが、攻撃魔法を使って削りきるべきでありんしょうか?)

 

 少しそんな考えが頭をかすめるが、それを棄却する。

 

 殺すのならまだしも、殺してはいけないのだ…手加減をして力を抑えるためにも相手からの多少のダメージは覚悟して、回復は残しておくべきと判断を下すことになった。

 

(今までの戦い方からして相手は回復手段は多くないはず…あの<風穴>というスキルがどんなものか、魔法をどこまで無力化できるか…わからないことが多すぎて下手に動けんわぇ…。)

 

(それでも私は階層守護者! 決して負けを認める訳には行きんせん!HPもまだ7割は残っておりんすし…向こうの体力は半分以下…足を止めての直接攻撃の応酬になっても負けるはずはありんせん!)

 

 

 決断したシャルティアの行動は早かった、技を出させる暇を与えず、ただひたすら自分の間合いで相手とぶつかり合う。

 

 シェイド・ベールもそれに応え、お互いの力を出し合う。

 

 

 そして、そうなってからはそこまで時間もかからずに、決着の時が訪れた。

 

 

「そこまでだ! シャルティア、勝負あり! 先鋒戦、第一回戦はシャルティアの勝ち星とする。」

 

 

「え?」

 

 

「勝負に夢中で忘れたか?10%を下回った段階で決着というルールだっただろう?」

 

 

「あぁ、そうでありんしたね、目の前の戦闘に熱くなりすぎていんした…、ナインズ様、ありがとうございます。お見苦しい戦いをお見せしてしまいんした…この処遇はいかようにも…。」

 

 ナインズは満足そうに頷きつつ、跪くシャルティアの肩に骨の手を乗せる。

 

「いや、よくやった、相手の粘りも大したものだが、それを最後まで圧倒したシャルティアの戦いは見事であった! 特に『血の狂乱』を抑え込んだ時のお前は、今までとは違うナニかを感じさせるに充分だったぞ…ムネを張るといい。」

 

 支配者からの評価に、喜びの波が押し寄せながらも、必死にそれを押し殺し、頭を深々と下げる。

 

「それも、全てはナインズ様からの信頼に応えたいが為、その一心でありんした、辛うじて勝ちを拾えんしたが、次も御方の為に勝利を捧げたいと考えていんす。」

 

 そう答えるシャルティアに…そして、最後まで粘って戦った シェイド・ベールにねぎらいの言葉をかける。

 

「両者とも、大儀であった! ついては次戦が始まるまで、しっかりと休み、万全の態勢を整えると良い!」

 

 

 

 勝負が終わった後、シャルティアがシェイド・ベールの下まで歩み出て、語り掛けて来る。

 

 

「残念でありんしたねぇ…まぁ、最後のあがきは中々に滑稽でありんしたよ?敵わないのを知りながら悪あがきする、弱者そのものの戦い方を楽しませてもらいんした。」

 

 ニヤリと表情を歪ませ、上から見下(みお)ろすように、シェイド・ベールを見下(みくだ)した言葉を投げかける。

 

「弱い割にわらわを相手に良く戦いんした、下等種にしてはよくやった方だと褒めてあげんしょう。」

 

(うまく踊らされたのはどちらだか…もうすぐでわかるさ…シャルティア…シェイドの頑張りを無駄にしないためにも…な。)

 

「ご苦労様でありんした、それなりに楽しかったでありんすよ?」

 

 

 そう言いながら、くるりと身を翻し、ナザリック陣営の控え席に戻っていく。

 

 だがその表情は勝利者というより、苦戦を強いられた挙句に相手の策にまんまと嵌ってしまったかのような心境がどうしてもぬぐえない…そんな沈痛な面持ちで顔面筋をヒクヒクと引き攣らせていた。

 

「くそ!くそくそぉ! やっぱり怒りが収まらないでありんす!」

 

「な~にを言ってるのよ? 勝ったのはあなたでしょ? シャルティアぁ?」

 

 横に近づいてきたアウラが語り掛ける。

 

「何が勝利でありんすか…あんな見苦しい戦い…全然美しくありんせん! しかも至高の御方々を愚弄されて…、その上余裕で勝てると踏んでいた相手にスキルのほとんどを使わされて…情けないの一言でありんす!」

 

「まぁ、確かにあんたにしちゃ、泥臭い戦いになってるなと思ってはいたけどね、でもシャルティアのお陰で随分相手の手の内が見えてきたように思えてるんだ、感謝してるよ、シャルティア。」

 

 イヤなモノを見たような…、ありえない場面で、ありえないヤツが不自然極まりない言葉を告げて来たような、この世の全ての苦虫をかみつぶしたような表情をシャルティアが浮かべている。

 

「あんたから感謝なんてムズ痒いだけでありんす…って、アチシを踏み台にしたでありんすね…」

 

「まぁまぁ、あんたの役目はまだ終わってないよ? 今の内に回復しときなって、ねぇ?ルプスレギナ? シャルティアの回復をお願いしていいかな?」

 

「はい! 了解~っす、シャルティア様もずいぶんとガチに殴り合って戦ってたっすね~。」

 

「<大治癒(ヒール)>っとぉ~」

 

「痛い、痛い、痛い! それはダメージを負うので止めて欲しいでありんす! アウラ!ワザとでありんしょう!!」

 

「あ、バレた?」

 

「いいでありんす、自前で癒しんすから! <大致死(グレーターリーサル)>」

 

 そうして、自前の魔法で癒すしかないシャルティアは、余計にMPを消費してしまうのであった。

 

 

 

「ところで、さっきの話でありんすが、何のことでありんす? 今勝ったばかりでありんすのに、先があるでありんすか?」

 

「最初の話を聞いてた? 相手は勝ち抜き戦形式にするかどうか分からないんだし、どうなるか…だけど一人目が負けた以上、次は二人目でしょ?」

 

「なら、コキュートスと相手の二人目で戦うと言わすのが筋じゃありんせんでありんしょうかぇ?」

 

「あんた、勝ち抜き戦って言葉知ってる? その場合だったならシャルティアは負けない限り降りられないの…多分、良く解からないけど、そういうルールなんじゃない?向こうが負けを認めない限り…って気がするよ?」

 

「はぁ…面倒なことになったでありんすねぇ…かと言ってワザと負けるというのは階層守護者としてはあり得ないでありんす。 実力で負けたならまだしも、お情けで勝ちを譲るなんて、ナザリック地下大墳墓の階層守護者、シャルティア=ブラッドフォールンの名に懸けて、次も勝ってみせるでありんすよ!!」

 

「そうそう、その意気! 応援してるからね、シャルティア!とにかく頑張って!」

 

 と、アウラがパチパチとその小さな手を叩いてシャルティアを激励し、その意味を込めて彼女の背を叩く。

 

「えぇ、任せておくでありんすよ? あんな優男、ひとひねりでありんす!」

 

 

 

 などと言いながらシャルティアは、ひたすらに、MPの回復に努めている。

 

 とは言え、時間回復なので、全回復するには時間が足りなすぎ、回復量は微々たるものになるのだが…

 

 

 

                    ★★★

 

 

 

 そしてここはベルリバー側の控え席。

 

 <魔力の精髄(マナ・エッセンス)>を唱え、シャルティアの方を伺うと第一戦の開始前の時に比べると、約半分になっている。

 

(そりゃ~かなりなりふり構わず戦ってたからな…スキルも随分と使ってたようだし。)

 

 

 しかし、当のベルリバーはかなり気が重くなっていた。

 

 何故なら、シェイド・ベールがあれだけ粘って戦って、やっとMPを半分近くに削ることが出来たのだ。

 

 自分はどこまで善戦できるだろうと…

 

 自分の身の内には、まだ老公も居て、とりあえずエルフの3人とはうまくやっているようだ。

 

 腹の中に意識を向けると、すでに今の状況を驚きながらも、観客として楽しんでいる部分も窺い知れる。

 

 あとで、彼の<武技>も借り受けることとしよう。

 

 腹の中の彼女らから魔法の支援も受けられるんだし…ひょっとしたら、彼女らに預けたマジックアイテムの効果を自分の体を通して外に具現化することもできるかもしれないしな…

 

 などと、なるべく明るい方向へと考えを持って行きながら、腰に装着している「風車のベルト」をなでて、さするのであった。

 

 

 




今回、賛否両論あるとは思いますが、先に謝っておきます。

今回の試みは、作者当人の妄想の中での「ベルリバー」というアバターがもし、
「大喰らい」という異名に繋がるに相応しい戦いをするとしたら?という当方の
一方的な妄想の産物です。

本来の彼ならもっとスマートに、もっと鮮やかに、センセーショナルに戦うはず

と思っていらっしゃる方に対して、謝罪しておきます。

私の文才がないもので、悶々とさせている方もいらっしゃると思います。

なので、どうか広い目で見てやって下さい、どうぞよろしくお願いします。

(今回4万文字オーバーなので誤字もあり得るかと思いますが、その時は生温かい
 目で指摘してやってください、何度も読んだので、無いだろうとは思いますが…
 それでもある…というのが、私という人間の残念な所です、すみません。)
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