気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩 作:yomi読みonly
内容を精査せず、何となくの思い付きで書いてしまい、不快にさせてしまった読者の方々にお詫び申し上げます。
____________________________________________
先鋒戦の第二幕、異世界に来て本来の性能とは違ったスタイルになって初めてのガチ戦闘となるベルリバーと、本来のスタイルのまま戦えるシャルティア。
正面からの正々堂々では勝てないというのは明らかなので、アインズ様ほどではありませんが、色々と工夫して戦う形になります。
ベルリバーさんは、学生時代、まだ存命だった祖父から剣術を学んでいたという捏造設定の下、ユグドラシル時代の実戦経験、PVPでのモモンガさんの戦い方、それらをブレンドしたスタイルとなってます。
相手の呼吸を盗んで攻めることも難しくはないのですが、対戦相手はアンデッド、呼吸の必要はない、コキュートスも呼吸のタイミングを読むのが難しい、あとはアウラとデミさんはどうなるか…でしょうか?
これからの展開を楽しみにしてもらえると嬉しいです。
シャルティアとの戦闘が終わり、シェイド・ベールがうなだれながらこちらの控え席まで戻ってくるのを、全員で出迎えてあげた。
「よし、よく頑張ったな! まさかあそこまであのシャルティアを追い詰めるとは思わなかったぞ? 予想以上に活躍してくれた!ありがとう」
『
「あぁ、気にする必要はない、お前が戻って来てくれたこと、それが何より、課金アイテム以上に価値があるのだ…今の戦いで得た経験…それをうまく使いこなせるようになれ…それがお前に課す私からの「負けた罰」だ、しかと心に刻み付けておけ?」
(課金アイテムはもう、買おうと思っても買えないからな…使わずに済んだのならそっちの方が嬉しいって感じだし、召喚モンスターも成長の余地があるんなら、それを検証してみるって言うのも、ある意味、アインズさんの力になれるかもしれないしな…)
『おぉ…私のような使い捨ての使い魔如きにそのようなお言葉…もったいないことでございます。』
(「使い捨て」って…、誰かにそう言われたわけでもないだろうに、お前の認識も大概じゃないか?)
「あぁ…ちなみに、お前はどの程度までこの世に留まれるんだ?」
『は? それにつきましては、こちらに呼び出されてから3時間経過すれば、この場より、元居た世界に還っていくことになりますが…』
「そうか…それだとすると、せっかく今回の事で格上の者との戦いで身に着けた経験が失われてしまうのは…なんとももったいない気がするな…」
『おぉ…私のような者のためにそのような…使い捨てにされるのが存在意義である私に、末永く仕える道を思案してくださるとは…生涯にわたる誉れにございます。』
「いや、何もそこまで御大層な理由じゃないんだが…?」
『ならば【同化】という手段もございますが、どうされますか?』
「ん?【同化】か? あれは戦闘中じゃないと使えないんじゃなかったか?」
『いいえ、そのようなことは…何かのスキルと混同されて認識されているのでは?』
(そんなはずはない、シェイドスピリットは本来、プレイヤーが選べる種族じゃなく敵モンスターか召喚モンスターの扱いだ、だから戦闘以外での活躍を能力に割り振られてはいない筈…戦闘以外だと【影潜み】ぐらいだったはずなんだが…?)
「そうか…そうなら私の考え違いだったかもしれんな、確か、私の知る【同化】は、死にそうなHPとなったシェイド・スピリットが自分と同じHP残量か、それ以上残っている同族と【同化】で一つになることによって、HPとMPが全回復する…という感じだったと思うのだが…?」
『恐らくおおまかな感覚ではそれで問題ないかと存じます、しかしそれだけではなく、自意識と取得した経験則なども同時に、他個体と【同化】することで、より効果的に記憶の共有を果たす事となり、戦闘や、日常生活などの面に於いても選択肢の幅が大きくなり、経験の向上を果たすことが出来ます…残念ながら、レベルアップという現象にはつながりませんが…』
(なにそれ! そんな仕様なかったはず…、あぁ…あれか、例の異世界に来て仕様が変わったってやつね、確かに【同化】したのにHPとMPが回復するだけって変と言えば変な感じだもんな…。 版権切れの超有名マンガでは【同化】することによって戦闘力が大幅にアップするっていう能力も、見たことあったけど…さすがにそれは望めない感じだな…。)
「だが、それがあってもどうするんだ? 1個体が3時間こちらの世界に留まれて、時間切れ寸前に別個体と同化する手段をとっても、フレイの装束から呼べるのは一度で4体だ…12時間で消滅することになってしまわないか?」
『あぁ、その点は問題ございません、3時間というのはこの世界に留まれる精神力と言いますか…体を構成する魔素と言いますか…そういうのが大気の影響で薄まって行った結果、大気に触れっぱなしで存在し続けられるのが「3時間」ということなのです、つまり最小時間ですね…ずっと影の中に隠れたままで居られるならば、大気とは触れることはないので構成する魔素が削られることもありません、なので、それらを繋いでいけば1日2日は、何とでもなりましょう。』
(ご都合主義か! なんて都合のいい解釈なんだよ! そんなの
などと、ツッコミを入れている最中、にベルリバーは忘れていたことに思い当たる。
確かにフレイラがその装備から、一度に呼び出せるシェイドスピリットは4体までだが…時間を経過させれば一日にあと2回使えるということを…すっかりそのことを忘れていた事実に内心で恥ずかしい想いをしながら、話の内容をすり替える。
「そうか…それなら、このイベントが3時間以上続きそうな流れになりそうなら、控え席で待機している間にフレイの影に隠れている個体と交代だな…、そして装備の方もそちらに渡して、次の守護者とも戦闘してもらって、その経験を【同化】させて、倍の経験則を身に着けてもらおう。」
(お、そうだそうだ、シェイドに渡した刀の「鞘」は預からせてもらおうかな…せっかく積み上げた攻撃力上昇が初期値に戻ったら目も当てられないもんな…。 それと、観戦の間、ずっと素振りをさせてるのも手段としては面白いかもしれないな…)
そこまで話をしていると、念話で仲間内には会話が届いていたのだろう、フレイラが「それが良いと思われます。」と賛同の声を発していた。
『は? 私はシャルティア様に負けてしまった以上、出番がないのでは?』
「お前こそ、何を言っている? 階層守護者だぞ?そんなの相手にするのに現地民を合わせた5人で対抗できるはずがないだろう? ナインズさんにも話しは通してあるから、そこはさらっとクリアできる問題だ、次のコキュートス戦も、お前が先鋒だ。 活躍を期待してるぞ?」
ベルがそうシェイド・ベールに告げるとフレイラもその後ろからすっと現れ、激励の言葉を投げかける。
「そうですよ? あなたはあなたのすべきことを全力で成し遂げればよいのです、これで終わりではありませんよ? 次も頑張ってください。」
『おぉ…おぉぉ…なんという慈悲深いお言葉…私は…私は…まだ利用価値があるのですね…このまま用済みとは言われないで済むのですね…。』
ポタポタと、黒い雫が、シェイドベールの瞳のあるだろう辺りから滲んできて、溢れ始めている。
(召喚モンスターって、そんな心の闇をみんな抱えてるのか? 利用価値とか…用済みと言われるとか…そこまで卑屈にならないでもいいと思うんだが…?)
「なんか…こう、モンスターって怖いもんばっかかと思っていたけど、分かり合えそうな存在もいるのね…まさかそんな風に考えてるモンスターもいるだなんて目から鱗よ。」
(イミーナさん、エルフなのに、その言葉知ってるのか…その言葉、元々キリスト教の聖書に載ってる記述だぞ? アークエンジェル種とかが存在してるのにキリスト教の概念がなかったり…かと思えば、聖書に書かれてる一部が世の中の認識に浸透していたり…なんかこの世界めちゃくちゃだな…。)
正確に言えば、イミーナの発する言葉は、親から教わったエルフ語の言い回しも混ざっており、エルフ語の中での発言と人間の話す言語との混合語である。
ベルリバーの知っている日本の格言や、諺、言い回しなど、単純に似ているものに翻訳されているだけに過ぎないのだが…恐らく、そのまま伝わっているのは単純に固有名詞だけだろうという点については、まだ彼は知る由もなかった。
…ついでに、フレイラの身に着けている黒装束の発動効果は(シェイド・スピリットなら)一度に4体を呼び出せるが、一日に3回使用できるということをすっかり忘れていることにもベルリバーはまだ気づくことが出来ないでいた。
★★★
一方、ここはナザリック側の控え席
「ナインズ様、初戦は無事に勝ち抜きまして御座います、いかがだったでありんしょうか?」
(まぁ、言いたいことはあるけど、最初は部下の働きに対して労いの言葉をかけてあげる事、そして、褒めてやることから、それが上司としての務めだもんな…最初に指摘から入っちゃいけない!)
そう思いながらも口を開いたナインズ。
「うむ、初戦が初勝利で飾れたのは喜ばしきことだ、やはりあの者らの実力はこの世界での基準というよりユグドラシル世界での基準に近いように見えた、使う技も<武技>ではなく<スキル>と言っていた様だったからまず間違いないだろう、その者らに対して勝利出来たのはシャルティアの功績と言えよう、まずはよくやってくれた! 私は誇らしいぞ?」
跪くシャルティアの肩に骨の手を置くナインズ…後ろでギリリという音が聞こえた気がしたのは気が付かなかったことにしてスルーしておこう。
「だがシャルティアよ…初戦は勝利で飾れたが、お前にはその中で「注意1」が加えられている、その点だけは気を付けておく必要があろう、次に相手側の次鋒で出て来る者との戦いではさらに汚点を重ねることのないようにな?」
そこで驚いたような表情をし、ナインズにすがるような面持ちになるシャルティア。
その言葉に即、反応を返していた。
「お言葉でありんすが、どこで失態を演じてしまったのでありんしょう? 最初から最後まで圧倒出来ていたと思いんすが…?」
言葉の意味が解っていないと思われるシャルティアに、軽くかぶりを振ると、視線をデミウルゴスへと向け、ルールの説明と、「注意1」の原因になった行為の説明を指示し、あとはデミウルゴスに任せることにする。
「いいかい? シャルティア…先ほど説明したルールでは装備の規則に従った場合、我々のように瞬間で装備を入れ替えられる立場の者は装備を破壊された場合、若しくは著しく破損してしまった場合に於いて「新しく装備し直す」ことが認められると説明したはずだったが、キミはそれを覚えているかな?シャルティア…?」
「も…もちろんであり…、あ!」
「はぁ…ここでようやく気が付いたようだね…、そう…キミは最初に装備していった、ペロロンチーノ様より与えられた「究極の体操服」なる装備に身を包み、戦いに臨んだはず…であるにもかかわらず、これといった破損も、ましてや破壊もされてない状態で真紅の鎧へと装備を変えてしまった…そこが「注意1」となってしまったということなのだよ、解ったかね?」
「う~わ~、やっちゃったね~シャルティア…完全勝利のはずが、汚点1とか…まぁ次で挽回するしかないよね、で? 次もその全身鎧のままで戦う感じになるの?」
片手にマイクを握ったまま、その手を腰に当て、シャルティアに声をかけるアウラ。
慰めているようにも、いじっているようにも聞こえるが、ただ単純に「やっちゃったことはしょうがないじゃん」という意味で声をかけている感じだ、多分それ以上の意味は含んでいないだろう。
表情からして、そんなに気にしていない様子だ。
しかしシャルティア自身はそうも行かないようだ、そこまで割り切れるはずもない…なにしろやらかした当人であるからだ。
「あぁ…御方に捧げるべき晴れの舞台、その初戦を完全勝利で飾るはずでありんしたのに…まさか…1つ汚点を残すことになりんしたとは…」
さすがにここで見ていられなくなったナインズが、さりげなくフォローに回り、シャルティアに語り掛ける。
「ま…まぁ、私からの指示だったとはいえ、どちらもお前の創造主、ペロロンチーノさんからの装備ではあったが、その真紅の全身鎧の方が「真剣勝負」という点に限っては群を抜いて上位の性能でもあるし、シャルティアにとっても一番馴染んでいる装備だったのだろうからな…それだけの意気込みがあったということなのだろう? そこまで恥じ入ることはない…、ここはシャルティアを責めるより、相手の健闘を称えるべきだろう、ナザリック最強の守護者と言ってもいい程の実力あるシャルティアを相手どって、MPは半分使わせ、スキルもかなり消費させた上で、まだ命があるのだ…相手も相応な対策で戦っていなければあそこまで喰らい付いて戦うことなどはそうそう出来ないだろう、自信を持て!シャルティア…次も期待しているぞ?」
「はい!この戦い、「勝ち抜き戦」という種類だとのこと、勝ち続ける限り、下りられないという規則であると聞きんした、こうなればすべての戦闘を私一人の勝利で飾り、ナザリック地下大墳墓の偉大さを見せつける所存でありんす!」
張りきってそう主張するシャルティアに対して、一瞬だけ間が空いたような空気が流れた後、デミウルゴスとナインズ様は少し後ろに下がり、なにやら相談をされているようだ…一体、今の発言に何か問題があったのだろうか?
……しばらくの後、二人は再び元の位置に戻って来た、そしてナインズは守護者全員に聞かせるように説明をし始めた。
「あぁ…すまないな、シャルティアよ、お前の意気込みは非常に嬉しいものだ…私も、通常時であればそれは望むところであったかもしれない、だがこれは…そうだな…、何て言えばいいか…?」
と、少し、考えを巡らせるような素振りをした後、こう発言し直され、内容の訂正をされていた。
「これは、先程までお前たちに課していた命題「ワーカーホイホイ」計画とはまた違った趣旨となっているのは、説明しなくても解ってくれていることだとは思うが…これは、先程のアチラ側から進呈された「贈り物一式」に対する返礼として設けた…いわば親善試合のようなもの…だからこそライフをゼロにしないように…というルールが入っているのだ…まぁ、もし間違ってゼロにすることがあっても私からの「ワンド・オブ・リザレクション」で蘇生させるつもりだが…、私の手持ちのアイテムを使わせるような事態にはならないし、そのようなことは起こりえないとお前たちのことを信じている。」
そこまで言い切ると、少し時間をおいて、本題を守護者達に告げようとナインズは心に気合を入れ直し、最初に周知徹底し忘れていた大事な内容を告げていく。
「まぁ、その、つまりは何を言いたいかと言うとだ…今回の「勝ち抜き戦」は「殲滅戦」ではない、『手を抜いた戦い』と言うと聞こえは悪いが、これはお互いの力量を知る為の情報収集の一環だ。 この機会を通じて、こちらの世界にも要注意な事態が起きた場合、その対処法を知る必要があると皆に学んでもらう為、向こうに協力してもらっている要素もある…だからシャルティアが相手の戦力全てに勝ったとしても、それで終わりではなく、次のコキュートス戦でも、更にその次のアウラ戦でも、向こうは先鋒、次鋒、中堅…と、同じメンバーで再度挑んで来る流れになっている。 …その大前提を伝え忘れていたことは私の責任だ、どうか許してほしい。」
この戦いの趣旨を「こういう流れにしましょう」として「事前の建前」をベルリバーと決めていたナインズは、その大事な部分を伝え忘れていたことに、先程のシャルティアの言葉で気付かされたのだ。
あそこで、あの言葉をシャルティアが言ってくれなければ、きっと忘れたままだったかもしれない…と、流れるはずのない汗が背中を流れ落ちて行ったような感覚に囚われていた。
「そ…そのようなことはありません、至高の御身よ、頭をお上げ下さい…、こちらのルプスレギナはともかく、あちらにもペストーニャを配しておられることを鑑みますと、それは当然の帰結かと思われます、我々の考えが至らず、御方のお望みを理解しきれなかった私供の方にこそ落ち度があったと考えます、どうか…どうか、そのようなことはおっしゃらないでください。」
アルベドが困惑しながらも、目の前で頭を下げ謝罪するナインズを制し、頭を上げてもらえるようにと慌てふためいている。
「そうです、ナインズ様、そのような流れであることは、ルールを作るにあたり、私の方でも自らで気付かなければならなかった要素、そう伺える言い回しが入っていたにも関わらず、そこに気付けなかったのは我々の責任、御身がそこまでされることはありません、罰せられるべきは我々の方なのですから…」
さすがのデミウルゴスも、アルベドにばかり責任を負わせる訳には行かないようで、二人して相争う様に「私のせいです」の奪い合いをしている。
「いや、すまないな…私が知っていることは皆も解ってくれているだろうと考える癖は改めなければ…と常々思っているのだが…難しいものだな、今後も私の言葉が足りないようなことがあった場合、その都度、教えてくれるとありがたい、皆も覚えておいてくれ、期待させて欲しい、それでいいだろうか?」
(なんとかこれで誤魔化せるかな? 単に言い忘れて、伝えていなかっただけなんて知られたら、支配者としての格を落としてしまうかもしれないからな…体裁を整えるというのも大変だよ…ホント。)
ここまで来て、ようやく守護者達も安心したようで、「私達も、御身の叡智に及ばず、お望みを曲解してしまわぬよう、気を引き締め、心中の真のお望みを汲み取れるよう、日々精進していくようにしたいと決意を新たにしました! 御身よ、これからも我らをお導き下さい。」
そう言って、忠誠の儀の時のような流れへと移ってしまう。
こうなったら、もう、こちらから話しかけないと守護者達から身動きするようなことは、今までの展開的に難しいだろう。
「まぁ…わかってくれたなら何よりだ…そういうワケで、むこうの次鋒戦、出て来るのはあの優男だが…注意しろよ? 見た目にそぐわず、食わせ者のような雰囲気を感じるからな…」
(まぁそれなりに剣の腕もあるんだけどね、ベルリバーさんって…でもさすがにプレイヤースキルでは建御雷さんやたっちさんにはかなわなかったけど…というかたっちさんは警察学校でもトップクラスだったらしいからな…剣の腕…敵うわけないんだよなぁ…)
「は!次こそは一点の曇りも無く、汚点も残さない完全勝利を御身に捧げることをお約束いたしんす!」
気合の入った返事をするシャルティアに対し、支配者も声をかける。
「あまり相手を侮りすぎんようにな…」
(これ以上は言うに言えないよな…正体をバラすような発言するわけにも行かないし…かと言ってどちらかに肩入れするわけにも行かないんだから、つらい立場だなぁ…)
そう思いながら、支配者は再度、シャルティアを送り出すのであった。
★★★
両者が試合としての体裁を整える為の開始線へと歩いている中、シャルティアが対戦相手の仮面の男に対して、言葉をかける。
「おんしもモノ好きであるんすね、こんなところにまで来て盗賊どもの手助けを買って出るなんて…よっぽどの命知らずか…それとも死にたがりなんでありんすかぇ?」
進み出てきた仮面の男、ベルはその言葉を聞き、僅かに肩をすくめる仕草をして見せると、その質問に返答をする。
その首には、チョーカーと言えばいいのか、首輪と表現すればいいのか…何とも言いにくいアクセサリを身に着けていた。 その声はシェイドの口から発していた時の「素」の声では無く、かと言ってすぐにバレる危険のあるエルヤ―の声でもない。
(そういえば、この声の持ち主ってどうなったんだっけか?確か、人形か何かにされて、ジエット君の魔法で<
「悪いが命は惜しい方かな…死ぬような思いをするのは一度で充分だ、向こうで一度味わったし、あとは…自分の、今一番大事な存在の為に命を懸けたい、だからここにいる。ただその前に…それが本気だと認めて欲しいだけさ。」
しばらく、相手の言っていた事に対して、考える素振りを見せるシャルティア、小首をかしげる素振りはペロロンチーノさんが「そこだけは!」とプログラマーとしてナザリックのNPC達の姿勢プログラムを担っていた一人、ヘロヘロに頼み込んで組み込んでもらった仕草と同じポーズを取ったことに懐かしさを覚える。
それを見るだけでも昔のことを感じられて嬉しい自分が居た。
「どうも、おんしの言ってることはこっちにはわかりにくいでありんすね、つまりは後ろに居る者達がお前にとって大切な者…と言わすということでありんすか?」
「いや、それが全てというワケではないけどね…あ、そうそう、ボクに勝てたらキミが喜ぶこと間違いなしのいいものをあげようと思う、まぁ、言われなくても守護者である者が負ける事なんて考えないと思うけどね。」
シャルティアが眉をしかめる仕草をする。
NPCの時はこんな表情は作れなかった物だけど…こういう所はちゃんと生きている個人として動けるようになってるんだな…と素直に感心する。
「お前がわらわの何を知ってるというんでありんすか? 何も知りんせんくせに勝手なことを言わん方が身のためでありんす、あまり口が過ぎるとルールなんて関係なく殺してしまいんすよ?」
「それは困るな…ボクが殺されるのは自分の予想では、まだ先の話だ、予想通りに運べば…だけどね。 その上で言わせてもらえば、まだシャルティアに殺される訳にはいかないんだよ」
仮面の男、ベルはそう言ってわずかにヒザを曲げると――再び武器の名前を大声で叫ぶのはどうしても避けたいため、剣の刃部分を消さず、出しっぱなしで持っていた「天ノ魔ブレード」――、その手に持つ刀身を肩に担ぐようにして、刃先部分は背中より後ろの方へと向けている。
シャルティアの方に向いているのはその剣の持ち手、柄と呼ばれる部分の石突きだ。
「そう…妙な構えをするものでありんすが…、死なない程度に痛めつけて負けを認めさせてやるでありんす。覚悟しなんし?」
「お手柔らかにお願いするよ…」
そう言い終わるのを待って居たかのような審判の「開始!」の声が告げられる。
その声でほぼ同時に動いたのは両者共に同様なのだが、わずかにシャルティアの方が早かった。
真紅の疾風が駆ける。
それに対して、一瞬だが遅れて動く事になったベルは、柄の石突きをシャルティアに向けたまま、両手で持った剣を頭の先に突き出し、両腕を突き出すように伸ばす。
それは、石突きを先端にした…先が鋭利では無いだけの槍の穂先のようであった。
そして、その背中には「光の刃」が
(槍相手だと「剣道3倍段」とかよく言うけど、シャルティアにはどの程度通じるか…だな。)
ベルが、シャルティアの持つスポイトランスに向かって直接、頭から突っ込んでいく。
(ふふ…馬鹿な男でありんすね、自分から刺されに飛び込んで来てくれるなんて…ならお望み通り、串刺しにしてやるでありんすよ?)
その直後、肉を裂くような音がにぶく響き渡った。
★★★
それは、ベルが、シャルティアと向かい合う前、戦う際の開始線へと歩み出しながら事前の準備をしていた時の流れである。
『あぁ…聞こえるかな? こうして体内に向けて直接話しかけるのは初めてですが、ずっとお詫びを入れるのが遅れてしまい申し訳ない、少しだけ時間よろしいですか?ご老公?』
ベルが話しかけたのは、第6層の
(おぉ…おヌシか…こりゃまたかなり待たせてくれたの…、このエルフの嬢ちゃんらを介してのやり取りをのそけは、初めての事しゃないかの?)
『あぁ…その節は大変申し訳ない、身の安全を保障するためとはいえ、唐突にあんな目に合わせてしまったこと、先に謝罪すべき所、先に何の断りも入れられなかった事、どうか許してほしい。』
(あぁ、最初こそ、たまけたかの…この3人の嬢ちゃんらの説明かなけれは、途方に暮れとったよ…まぁ、こんな場所て命のやり取りをしとる間は仕方ないとは思うか…、観戦しとる間に謝罪は可能たったんしゃないかの?)
『それは…大変申し訳なく思っております。今後の交渉の為、老公の存在は可能な限り、有効な手札として、残しておきたいという面もあるし、万が一の時、命の保証という点からも…あいつらに僅かな懸念材料も残しておきたくはないもので…、わずかな素振りも取れなかった事、重々、お詫びさせてもらいます。』
(わかったわかった、えぇから、ワシも少し意地悪がすきたようしゃの…言い過きたわ…ところて? 他にも用はあるんしゃろ? 謝るたけて語り掛けた訳てはあるまい?)
『さすがはご老公…話が早いですね、では持って回った言い方はやめましょう、老公は私の腹の中にいる間、模擬戦とかは彼女らとしましたか? その時に<武技>の使用などは?』
(いや?しとらんよ? さすかにこんなか弱そうなお嬢ちゃんらを打ちのめすのは気か引けるしゃろ?)
『やはりそうでしたか…そこで相談なんですが、老公が墳墓に入る前に使っていた武技、<疾風加速>、あれ、私の体内で使用した場合、老公だけに効果があるのか、それとも、空間ごと丸呑み状態にしている私自身にも【老公の一部】として扱われ、発動するのか…試してみたくありませんか?』
(なるほとの…そういうワケか…いいしゃろ!その口車、乗ってやるとしよう…今使って見せるからの…ちょっと待っとれ。)
そうすると…特にこれと言って変わった様子はない。
しばらくしてから声をかけてみた。
『どうですか?老公、使ってもらえました?』
(おぉ…使ってはみたか…とうしゃ? 変化はあるかの?)
『いえ、これと言って…もしよかったら、その武技の効果が「池に小石を落とした」時みたいに、波紋が広がる感じをイメージしてもらっていいですか?』
(なんしゃ?急にこむすかしい注文をしてきたの…まぁえぇわ、やっちゃろぅ、しょうの無い奴しゃの…)
『申し訳ない…恩に着ます、老公。』
(その言葉、忘れるんしゃないそ…?)
というやり取りの直後、体にじわじわとした感じが伝わって来た、リアルの時代、母がダイエット用にと、体に装着することで振動する動きを与え、体の燃焼効率を上げるとかなんとか…そんなことを言っていたあのブルブル感のごく弱い感覚が沸き起こる。
『なんか、じわじわと言いますか…体に弱い波が広がってる感じはしますね…でも、素早くなってる感はしませんけども…』
(おぉ…それか解かれは、後は簡単しゃ、その波をもっと早く、体中を高速て駆けめくるようにイメーシすりゃえぇ、そのままそのイメーシで固定すりゃ、たふん問題ないしゃろ?)
言われた通りにしてみた所、体中にその波がものすごい勢いで回りだしたのを感じる。
そのままでイメージを固定すると、足だけじゃなく、体の全部位に活性化した感覚が沸き起こり始めた。
『老公、ありがとうございます、これが武技の感覚なんですね! 有難くこの効果、お借り致します。』
(おぉ…、まぁ助けられた恩もあるしの…、ふしにここから生還てきるのてあれは、ワシの力くらい貸してやるわぃ…いつても声をかけい。<即応反射>に<要塞>も使えるか…むすかしいかの…<要塞>の方はタイミンクかシヒアしゃしの…)
『いえ、そのお気持ちだけで嬉しいです、可能な範囲で助けていただければそれで構いません、これだけでも精神力使わせてしまったのですから、逆に申し訳ない。』
(かっかっか、なにを今さら…しゃよ? <疾風加速>くらいて音をあけるワシしゃとても思うたか?なめるてないわ。)
そんな軽い感じで、気分のよさそうな返答が戻って来た。
…そして、舞台は、戦いの場に戻る。
<疾風加速>での加速を発動させ、一気に距離を詰めながらスポイトランスへと向かうベル。
それに対し、「飛んで火に入る…」とばかりに赤い閃光と化し、ベルに武器を振るう、と言うより速度からして『ランスチャージ』どころの騒ぎではない一撃も同時に襲い掛かる。
ベルは、背中に沿うようにしている光の剣、その刃をスポイトランスの下方に当て、受け流しの様にしてその一撃から身を護る。
…と同時に、その刃を背中ごとシャルティアの利き腕の脇の下、つまり鎧の継ぎ目に体当たりをし、その勢いのまま、剣を自分の頭の上へと振りぬき、神聖属性の斬撃ダメージをシャルティアに浴びせる。
予想外のダメージを受け、一瞬だけ体勢を崩し、足の動きが鈍ったシャルティアの背中側に走り抜けたベルが、片足を軸にしての円運動でシャルティアの背中に正面を向く、すると背にあるスポイトランスから延びるホース状のエネルギーチューブ、それに上段から剣を一閃。
『済まない、セピア、風の効果でボクの頭の周辺だけ真空状態にしてもらえないか?』
(はい、わかりました、では…)
すると、時間差もほとんどなくそれが感覚でわかる、呼吸をする必要のない種族だからこそできる荒業だ。
(「くらえ!『天ノ魔!ダイナミック!!』」)
顔の周りを真空状態が包みこんでいる為、大声を出しても外に声が漏れ出ることはない。
しかし、「発語」というトリガー条件は満たしていた為、その効果が発生する。
最大ダメージの1.5倍ともなる斬撃、一応神聖属性ではあるが、シャルティアの防具は神聖属性の耐性が付加されている、そのため、更にそこから追加ダメージまでは期待できなかった。
それでも、両断は出来なかったが、背中から出ているホース状の管、それに切れ目を入れ、回復効果を弱めること、そして装甲の無い継ぎ目である脇の下にもダメージを与えるのに成功した。
(これは守護者の専用装備だからな…何日かすれば自然回復するはずだったよな…確か。…アルベドの鎧も、3度まで装甲を犠牲にすることで超位魔法を防ぐことが出来たはずだったし、あれも時間経過で、失った装甲は戻ったはずだったからな…あれ?それとも専用の課金クリエイトツールでだったっけか?…ま、いっか、どっちみち直せるんだし。)
「くぅぅ…小癪でありんすね…神聖属性の武器でありんすか…おかしな動きと変な構え…、ただのスキルじゃありんせんということでありんしょうかぇ?」
そこで、真空状態の効果は解除されたようだ、頭(の位置するだろう部位)から何とも言えない感覚が消失したことからもそれは判断できた。
「あぁ…これはただのプレイヤースキルなだけだ、気にすることは無いよ、小手先の技と、勝つ為に練り上げられた歴史の残滓…って感じかな?」
(プレイヤースキル?…こいつはプレイヤーと言うことでありんすの?…それにしては、ナザリックに対する敵意のようなものがない…そうか…こいつは…)
「なるほど…プレイヤーだったということでありんすのね。それは意外でありんしたが…もしや「あの時」の再挑戦、リベンジと言わす事でありんすの? 前回は残念でありんしたね、まさか…足止めに引っかかって、第8階層で全滅してしまうとは…未だにナザリックでは笑い話として語り継がれているでありんすよ?」
(あ……あれ?もしかして、この状況って…え?ボクって、ナザリック1500人大侵攻のメンバーか何かに思われてる?…どうしよう、このままその話に乗っかるか? …いや、それは愚策だな…、それの一言を引き金に「敵対すべき相手」と思われたら計画の全てが水の泡…、ここはとぼけるしかないな…。)
「あぁ、あの有名な事件の事ですか…あれは凄かったですね、でもボクはあの馬鹿騒ぎには参加しませんでしたよ…、そもそも馬鹿げてるでしょ?数百あるギルドの中でも最盛期、ギルドメンバー全員在籍中の時期は、ランキングでも十指に入っていた強豪ギルド、それにケンカを売るだけならまだしも…本拠地に攻め込むなんて…考えなしのおめでたい奴らに付き合って巻き添えを食ってレベルダウン…そんなの御免ですからね、当日すっぽかしましたよ。」
「そう…それは賢明な判断でありんしたね、それならなんでおんしはこんな場所にいるのでありんすか? 命は惜しいのでありんしょう? まぁ、このナザリックの事を知られたからには、生かして帰すという選択肢は残されてはいないでありんしょうが…」
「そうか…それは怖いね…だがこっちは自他共に認める小心者でね…なんとか、身の安全くらいは確保しておくさ。」
「ふん…それが出来れば苦労はしんせんよ? ここは至高の御君がいらっしゃる神域…そこを無断で踏み込んで、無事に帰す訳ないでありんしょう?」
シャルティアが、勝ち誇るように見下ろすような視線で、絶対の強者を気取っている。
少し、いたずら心が沸き起こったベルは、少しだけシャルティアの戸惑う姿を見たくなり、話しの方向性を変えた。 …今までは考えもしなかった方法で…。
「無断で…か?果たしてそうかな? ボクがココに居る理由、ワーカーとしての立場と言うだけで我らがここに居るとでも?」
「………何を言ってるのでありんすか? 誰がこのナザリックに立ち入る許可など出せる不届き者を名乗っているでありんす?」
「不届き者か…?さすがのキミらも想像がつかないか…仕方ないかもしれないね、まさか許可を出せる存在がこっちに来ている可能性なんていうのは、今まで考えてもいなかったんだろうから…でもいくらなんでも、「不届き者」は言い過ぎじゃないか? 「不敬罪」に当たる言動かもしれないよ?」
「な…何を言って…イヤ、そんなことはあり得んせん!今までずっと…これまでだってそんな痕跡どころか、僅かな手がかりすら…お前!! 言いなんし!誰が許可を出しんした!」
シャルティアが、アンデッドらしからぬ真っ赤な表情を連想させるほどの鬼気迫る表情で問い詰めてきた。
「それはキミ自身が、良く解かってるんじゃないかな?「彼」のことを…さ?」
「彼? 彼女と言わす訳ではないということでありんすね? …なら…どんな外見をしていんした?」
シャルティアの言葉に熱がこもる…もしかしたら最も自分が待ち望む、たった一人の可能性もあるのだから…
「そうだね…体躯はりっぱな感じだったよ、大きくて、がっしりしてて…でも、怖かったね、ギチギチの牙を無数に生やしていてね…今にも「シャー!」とでも言いながら襲い掛かってきそうな外見だったよ。」
「そ…そんな、あの方じゃ…無いという事でありんすの? …誰でありんしょう…」
しばしの間、思案するも、あまりにも判断材料が少なく、対象を絞れないと思ったシャルティアは早々にその話題を放棄した。
「まぁ、今の話がウソだとは思えんせんが、かと言って本当と決めるのも早計でありんす。 万が一、それが本当だった時は…まぁ、命だけは助けてあげんしょう…喜びなんし? ウソだと解るまではその命、大切に扱ってあげるでありんすからねぇ…」
余裕綽々でこちらにそう言い放つシャルティアだが、脇の下から少しずつだが、ポタポタと血が流れているように見える。
「それはひとまず置いとくとしてだ…回復をしなくて大丈夫なのかい? 脇の下から流血しているようだが?」
(ちょっと心配になったから言っちゃったけど、そう言えばシャルティアってアンデッドだよな…なんで血が流れてるの?)
「あぁ…これでありんすか、気にしないでくんなまし?わらわの血液を操る職業を使いんして体内で「魔力のストック」代わりにしてるだけでありんすから…それ以上は機密事項でありんす」
と、そこで「ハッ!」とした表情になったシャルティア、急いで口を手で覆う。
(わらわは何を言っていんすの?こいつは侵入者でありんすのに、なんでご丁寧に説明なんてしていんすの!)
彼女の中に訳のわからない感覚が徐々に広まっていく、敵対者だと頭で思っていても声を聴くとどこか安らぐのだ…話しているとどんどん自分の口が滑らかになっている感じさえする。
(やはり侮れない相手と言うことでありんすね、精神攻撃が一切無効のわらわにここまで何らかの影響を及ぼすだなんて…)
「だけど…プレイヤーという事はわかりんした以上、魔法での攻撃を使っても大丈夫そうだという事は解りんした…ということで使わせてもらいんすよ?」
背中から白い翼を出現させたシャルティアがバサリとその翼をはためかせると、空に舞い上がり、距離を取りつつ魔法を撃ち出そうとする。
地上にいるベルはそのシャルティアの動き…空に舞い上がる行動に合わせ、持って居た課金アイテムを一つ素早く手に準備して、魔法を撃ち出そうと手を突き出したシャルティアにそれを投げつける。
(なに? アイテムか何か?それにしてもそんなノロイ速度で投げられても当たりんせんよ?)
自信まんまんに余裕を持って動き、わずかに体を捻ってそれを避ける。
しかしシャルティアは知らない。
その投げられた課金アイテムが実はダメージを与える類の物ではないということを…。
その課金アイテム、まるで小さい彫刻のような人形っぽいソレを後ろに逸らしたシャルティアはすぐに下を向き、対戦相手に視線を向ける…が、そこにはすでに誰も居なかった。
「ここだよ、シャルティア!」
いきなり後ろから声が聞こえたかと思うと背中にドカリと誰かに乗られたような感覚、そして衝撃が走った。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
背中に乗られた状態で、無防備となった一対の翼、その片方の翼の根元に剣で切れ目を入れると、そこをむしるようにブチブチと力任せに引きちぎろうとしている。
その痛みだけは背中越しに解かった。
「なぜ!いつの間に後ろに?まさか<
「答えを教えてやろうか? さっき投げた課金アイテムの効果だよ。」
(アインズさんも散々、ガチャってる人だったから、これ、山のように持ってたな~…お互いこの人形何個かぶりました?とか言って、どっちが少なく済んだか比べたりし合ってたな~。)
そう…それはかつてアインズと名乗ったばかりのモモンガが、カルネ村でガゼフを陽光聖典から避難させるため、自分と位置を交換するのに使用したアイテムと同じ物、ベルはそれを一人で使用したのだ、シャルティアの後ろに逸れた瞬間にアイテムの効果を使用、アイテムがあった場所に瞬時にベルの移動が完了、そしてベルの居た地上に人形が現れた瞬間、それは霧のようになって消えたのだ。
シャルティアは信仰系の
その必要を感じないように翼を付けたのだから、覚えさせてもらっていないのは当たり前とも言えた。
その為、白い翼があれば、<
飛ぶための翼が掴まれていては飛び続けることは出来ない、空から一気に地上へと落下することになった。
そして、それはベルにとって思わぬ誤算を生んだ。
少しではあるが、空から地上へと落ちる際、その重力の働きにより…落下の際に生まれた風の力が、ベルの腰に身に着けていたベルトに力を与える結果を生んだのだ。
だがまだそれは「第一段階」だ、左側と右側、その2つの風車の中心にそれぞれ付けられたランプ、それが赤々と点灯しているのみ。
第二段階、それはベルトの模様になっている「Ⅴ」の字の上にあるランプに光が灯ると第二段階となり…「Ⅴ」の字が緑色に輝くと、その時に初めて最大限の効果を生み出すようになるのだ。
(だが、今の状態で戦うのはまだ力が足りないか?)
「<
(「
本気を出すならもっと他の効果も重複させる必要はあるだろうが、今の内に手の内を全て見せていると、コキュートスレベルと戦う際に色々と不都合が生じる可能性もある、だから今はこの辺までにしとくとする。
…そして、地上に落ちた瞬間に力を込めて翼を片方だけ引きちぎる。
さすがに両方むしっちゃうのはギルド長に申し訳なさ過ぎてできなかった。
どちらにしても片方だけの翼では、まともに飛ぶこともできないだろうから…これで許してもらおう。
「すまないな…まずは満足に飛べないようにさせてもらったよ…、恐らく空での戦いになればシャルティアの方に分があるだろうからね。」
背に乗られたという屈辱にも関わらず、なぜか不快ではない自分に戸惑いはあるものの、それ以上に自分の翼を台無しにされた怒りが一時的にそれを上回る。
「わらわの翼をぉ!!! 殺してやるから覚悟しとけやぁ!!!」
地上という足場が出来たことにより、力任せに立ち上がり、ベルを背から地面に落とし蹴りを叩きこむことで、シャルティアはベルとの距離を空ける。
そこから再びのシャルティアの突撃、の勢いを借りてスポイトランスの横薙ぎ。
恐らくはそれで力任せの一撃を出し、ダメージを与えるか、悪くても吹き飛ばすことで有利に運びたかったのだろう…、しかしシャルティアのそれは、先程と同じベルの動きで、背に沿わせた刃により滑らせられてしまう。
ベルの剣の側面…その中央に来たあたりで剣の角度を変え、スポイトランスの軌道を流している。
その流れを利用して、体勢を崩したシャルティアの手首にベルは剣を斬りつけた。
もちろん手首部分は稼働することを想定して継ぎ目となっている、そこを斬りつけることで効果的なダメージを与えていた。
攻撃を流され、手首を傷つけられるも、蹴りを浴びせることが出来、武器ではないもののとりあえずやり返せたことで辛うじて冷静さを戻し始めたシャルティアが怒りを抑え、相手の狙いを嘲笑う。
「手首狙いでありんすか? この程度のダメージでは武器を落とすこともありんせんぇ?」
僅かな嘲笑を含んだ微笑みと共に、ダメージの積み重ねも無駄なことを…と得意の魔法を唱えた。
「<
「ふふ…これでまた振り出しに戻ったようでありんすね?無駄なあがきは見てて楽しいでありんす。」
そこでベルはシャルティアの魔力残量を見る為の魔法を使い、次からの攻め方の参考にするため、様子をうかがうことにした。
(<
「回復のヒマを与えると思うかい?」
<疾風加速>の武技の効果で多少上がった速度に<
さらには、自分が幻を纏って隠してはいるが、自前の装備でずっと身に着けている
名前からも分かると思うが、製作者は「るし★ふぁー」さんだ。
いつもの彼なら悪戯か何かを仕掛けていてもおかしくはないのだが、この時ばかりはそれは無かった。
なぜならこれは「お詫び」の印として製作、譲渡されたからだ。
最初に、自分のNPCであるフレイラをゲーム時代、起動するか否か、その決を採ろうとした際、るし★ふぁーさんが突然ログインしてきて、「面白そうだから」と、引っ掻き回せれば盛り上がるかも…という意図で「反対票」に入れたがため、起動する案件自体を自分が辞退することになった。
その原因になったのが自分(るし★ふぁー)ということをギルメンから巡り巡って聞かされたことにより、謝罪の意を込めて贈られることになったのがこの一品だ。
本人曰く、「本心から反対だったわけじゃない、たまたま面白い展開になりそうだと思ったので、ついそうしてしまった。」と言って、お詫びにはならないだろうが…と、装備の性能を聞くことになったのだが…
彼はGという虫に思い入れでもあったのだろうか?そう思ってしまう程に熱く…、それは熱く語ってくれた。
ゴキは、構造上、前方にしか進めないのだと、Uターンは出来るが、バックは出来ないのだという事。
全ての生き物と同サイズにしての競争をした場合、ゴキの走りは世界最速だろうと…聞きたくもないのにずっとうれし気に語るその姿に、かなりげんなりとさせられたものだ。
ギルドの共有資産でもある各種材料を使うのは大丈夫だったのか?と聞いたところ、それは皆が賛成してくれたとのことだった。
きっとそうさせるように全員が彼を追い詰めたのだろう。
結局、自分(ベルリバー)は最初の多数決で結果を辞退して以来、何度か他のメンバー達からももう一度多数決しましょうよ、と誘われた事もあったが、頑なにそれを受け入れはしなかった。
なぜなら、それは当たりが出るまで何度でも挑戦できる多数決、ということにでもなれば、そもそも多数決をすること自体に意味が薄れてしまい、自分のわがままで既に結論が出ている答えをひっくり返すような真似はしたくなかったからだ。
だからこそ、わずかなりとも「るし★ふぁー」さんも罪悪感からこのような行動をしてくれたのかと思っていたら…
「自分としてはどっちでもよかったんだけどね、面白そうな方に入れた方が楽しいでしょ?」
と、反省をしているのかどうか、かなり怪しい一言を最後に残し、モヤっとした感じを残してくれたのは今でも忘れていない。
彼は良くも悪くも「自分の
自分が心底納得しなければ、手掛けている作業も「完成」には至らないし…
言わなくても解かるでしょ?という「暗黙のルール」が通じない相手でもあった、そのせいで言わなくてもいいことを平気で口にしたり、本人にそのつもりは無かったのだろうが、あらゆる意味で火種になりやすい人だったし、下手に言葉にするより文字にした方が分ってくれる可能性が高かったというのも、興味深い部分ではあった。
途中で作戦の変更を余儀なくされた時なんかは、急な予定の変更は脳の処理が追い付かずパニックに陥るようで、いきなりログアウトする事も多かった。
ナザリックに1500人で攻め込まれた時は、相手のギルド連合から「事前に攻める」なんていう親切な予告は無かったため、あまりにも急だった…だが、弐式炎雷や、フラットフット達による調査、探索、隠密を得意とする面々によりギルドとしては「その準備」を察知されていたが、あまり静かにじっとして話を聞いている状況が苦痛に感じるようであった「彼」からすれば、そのことを聞く機会が無く…というより聞ける場に来ようとしていなかったという理由もあって、ログインしたら、突然攻め込まれてるという状況に出くわし、すぐログアウトをされた、という事件もあった。
気持ちの切り替えに少しの時間を要し、第5階層に侵攻された辺りで再度ログイン。
そこから先は41人全員でコトにあたることになったという昔話も今となっては懐かしいエピソードだ。
まぁ、そんなこだわりや、精神的特徴の濃い彼が、納得もせず、本心から悪いと思っても居ないのにここまでしてくれるはずはないことを一応は理解していたので「彼なりに」何か感じる部分があったから、そこまでしてくれたんだろう。…と思うことにした。
誰かの気持ちを理解しようという認識が欠落してるんじゃ…とみんなが言っていた彼がそこまでしてくれたことがとにかく驚きで、つい残していた装備がこれなのだ。
飛行を含む、あらゆる前進行動に1.5倍の上昇効果をもたらす防具。
名前に負けず、その装備の外観は、モデルにした虫の足をイメージしたのだろう、外周にトゲトゲした突起というか、トゲみたいなものがびっしり生えていて、回し蹴りでもしたら普通の人間ならさぞや痛かろう…と思ってしまうようなものだった、苦手な人は絶対あの虫の足を思い浮かべるだろう外観をしている。
だが、そもそもマジックアイテムなので、足のサイズに関わらず、形が変わり、太さも変化…フィットするので、まだマシなのだが…。
そんな防具の効果も加わることで、シャルティアの速度にも劣らない程度には上昇した前進行動は、蹴り脚という予備動作、踏み込むための力みも発生させずに距離を詰められたシャルティアにとって不測の事態、予測で反応させることを許さなかった。
彼女自身、今までにない速度を出されたせいで、虚を突かれ戸惑いの瞬間が生まれた。
その突進にも似た速度のまま剣を突き出し、全身鎧の唯一の露出部分である顔めがけ、体当たりの勢いを借りた重量を乗せ、剣を突き出す。
「くぅ!! <
「遅い!」
魔法の詠唱をしようと口を開いたシャルティアの口内に神聖属性の剣を押し込み、貫く。
「まずはノドを潰させてもらう!」
シャルティアの喉に剣を突き刺し、深々と押し込んで傷つける…神聖属性のため、焼けるような痛みのはずだ。
普通の相手ならその手段は即死ものだが、相手はシャルティア、アンデッドだ。
そのまま死亡とはならないだろうことは承知の上。
この程度はクリティカルヒット扱いでもないし、HPだってまだシャルティアなら余裕があるはずだ。
そこで、剣を引き抜こうとした瞬間、剣が引き抜けないことに焦りを覚える。
シャルティアが、喉奥を焼かれるのも構わずに、口の中に押し込まれた剣を歯で噛み、そのまま抜かせてはくれないのだ。
(声は出ないでありんすが…最後の一文字くらいは発せられるでありんすよ?)
「ン>」
先ほど、言いかけていた魔法の詠唱に最後の一文字を加えたことにより、効果が発生した。
シャルティアを中心に不可視の衝撃波が荒れ狂い、それが剣を持ったままのベルに直撃した。
「ぐふぅ!!」
そのまま後方に吹き飛ばされるベル。
しかし、その手にはもう剣は持っていない。
シャルティアの口で、歯で、固定されたままである。
ずるりとノドの奥から剣を吹きぬいたシャルティア。
それなりではあるが、目を見張るほどのレアリティもなかったことから、興味を無くし、その剣をベルの元に放り投げ、足元にガチャリと音を立てて戻された。
言葉には出していないが「まだ戦おうとする気があるなら好きにするといいでありんす」とでも言いたげに…
(声を封じられるとは…やられてしまったでありんすね…これでは…スキルの方は使えても、魔法はしばらく使えないでありんすか…)
シャルティアが今、残しているスキルは<時流遡行>と<
どちらも一日に一度の回数しか残されていない。
(あとは、<
魔法と言う手段を一時的に取り上げられた今、取れる手段は限られている。
かと言って片方の翼だけでは飛ぶことも難しい、出来ない訳では無いが…傷ついた方の翼は根元がかろうじて半分だけ背中に繋がっていて、半分がちぎれかけている為、ダラリと垂れさがっている。
不安定な飛行で戦うのは自分でもどんな結果になるか、予測もつかない…ならやはり最後の手段しか残っていないだろう…「アレ」が対戦相手を死なせたりしないだろうか…そこだけは少し気にかかる、それで自分が負けてしまってはナザリック…ひいてはナインズ様の御名にも傷が付こうというモノ、それだけはなんとしても避けなければならない…。
(まぁ、いざとなったら〝解除″して消してしまうとするでありんすか…)
死なせてしまう前に消してしまおう…そう判断して「最後の切り札」の使用に踏み切る。
幸運にも、今残されているスキルはどちらも「発声」がなくても起動できるタイプのスキルだ、発動に支障はない。
意識下で発動を決断すると、それはシャルティアの体から白い影となって抜け出して形を成す。
「来たか…ついにこのタイミングで使って来たか、シャルティア最大の切り札…」
(なぜアイツがこのスキルの事を知っていんすの?使うのも見せるのも初めてでありんすのに…)
「<
(名称まで…、一体何者なのでありんすの?……、いや、ここに侵入する許可を出したという方から聞いた知識かもしれんせん、考えすぎて飲まれてはダメよ…私!)
そこまで驚くような態度を見せていたベルが、わずかにシャルティアの分身に目を向けながら、大きく声を張り上げて、展開の変化を告げる。
「出番です!イミーナ先生! お相手を頼んます!!」
その声と同時に、白い弾丸のように風を置き去りにしたエイン・ヘルアルがベルへと迫る。
しかし、その横から鋭い刺突武器がドリルのような回転を生み出しながら空気を切り裂き飛来する。
そしてエイン・ヘリアルの攻撃がベルへと届く前に突き刺さった。
「やっと出番? こんなに待たされるとは思わなかったけど、こっちは準備万端よ? …それに…誰が先生よ!」
ずっと、安全圏内で前準備を整えていたフォーサイトのメンバー、レンジャー役のハーフエルフ、彼女の出番が告げられ、ついに参戦する。
その姿は全身を光らせる程の稲光を纏わせ、体の周囲には3つの浮遊物。
一つは先程、シャルティアに襲い掛かった刺突武器と似た形の物。
二つは、四角い板状に広がって浮いたままになっているナニか…
恐らく4つの浮遊盾を形状変化させて、今の形にしたのだろう。
攻撃役が2つと、防御に回せる方が2枚、そういうことなのだろう…。
(おやおや、今までずっと何もなかったので半分忘れていんしたが…ここに来てアレの助けを借りんすの? わらわの<
意識の中で、<
そこでイミーナはベルへと、決断の一言を告げてきた。
「ねぇ…、詳しく聞いてなかった私の所為でもあるんだけどさ、ホントにアレの相手、私がすんの?」
そうして、いよいよこの戦いの最後の舞台が整いつつあった。
<
彼女の性能については、書籍版と大きく違い、この話の中で出てきた「異空間」での修行でたたき上げで身に着けた戦闘法、あのペロロンアーマ―ありきでなければ、発動できない技も多数存在してる模様。
その話は次の話でおそらくあきらかになるかもしれません。
…まぁ、女の子だし、死ぬことはないでしょう…鎧の中に残滓としてあるペロロンさんの優しさがそれを許さないでしょう。
きっと背中に立って、見守ってくれてるのではないかと…
そう、鳥の人間の姿を電流というエネルギーを使って構成したりして…