気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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長い事、放置しててすみません。
色々、事情が重なって、筆が進みませんでした。

そんな中でも、過去の話に誤字を見つけ、訂正していただいた皆様、ありがとうございます。

 8月に入り、何度となく訂正してくださった冥﨑梓さん、深い感謝を捧げます。



謝罪:56話の前書きでも書きましたが改めてこちらでも書かせてもらいます。
   最近、やっとナザリックの初見攻略の話を全部読む機会があり、その際はまだ「るし★ふぁー」
   さんはギルメンですらなかったという事実を知り、内容を修正いたしました。

   お目汚しの内容をしばらく垂れ流す形になって申し訳ありませんでした。><

   それに、本家のベルリバーさんって一人称「俺」だったんですね、そっちも申し訳ないです。


第57話 先鋒3 シャルティア VS ベル〔後編〕

 

 それはただただ、鋭利な針のような武器であるように見えた。

 

 しかし、針にしては大きすぎ、槍の先端にしては丸すぎ、先に行くに従い鋭さを増すように作られているようだった。

 

 不意を打ち、ベルの背後から横をかすめるようにして、突進してきたソレは…急な制止や方向転換など出来ないほどの速度をもって突進してきた白い人の姿をした異質な者に突き刺さった。

 

 しかし、刺さるだけではなく螺旋のように回転をかけ、与えるダメージを底上げしている風にも見えた。

 

 一見、見慣れない武器のようであるそれは自身に意思があるかのように自立して動いているようだ…イミーナ自身がそんな武器を初めから有していたわけではない。

 

 正体は彼女の鎧と共にあった浮遊する盾の役目をしていたモノ。

 

 それは4つあり、その内の2枚を攻撃主体として動いてもらっているだけなのである。

 

 攻撃しているのはその平べったい板を丸めて作った単純なモノだが、それでも先端を尖らせて、螺旋回転により刺し貫き、そこをさらにえぐるという点では有利に働いている。

 

 

 原理としては単純で、子供の頃、紙の吹き矢で遊んだ際に作ったことのある人はいるのではないだろうか…、それの矢の部分、くるりと丸めて、円すい状にしたアレ、作りとしてはそれと同じだ…しかしあれよりも細く、鋭くしている為、何重にもその金属が巻かれた形となっている、その為に強度としては盾として機能している防御役の板より分厚く硬くなっている。

 

 

 螺旋の回転と、相手の突進力によるカウンターでの破壊力が上乗せされ、通常よりも大きな損傷を与えていたが、それでもエイン・ヘリアルは表情を一切変えない。

 

 真っ白で、無機質な白蝋じみたその表情からはダメージの大きさがどれ程であったか、窺い知ることは出来ない。

 

「ホントにアレの相手、私がすんの?」

 

 心配そうにそう問いかけてきたイミーナ。

 

 それはそうだろう、現地民の基準で言えばエイン・ヘリアルは「難度300」だ。

 

 それは魔神というくくりよりはるかに上位の存在、災害レベルと認定してもまだ足りない程かもしれないのだから…。

 

 しかし、イミーナ自身も修行に入る前の難度のままではない、素のレベルとしては30を超えるくらいまでには戦闘を繰り返してもらったが…時間が足りなかった、ユグドラシルの経験値よりも明らかにこっちの世界での「異世界基準の経験値」割り振りは厳しいもので、同格のレベル帯のモンスターを呼び出し、倒すだけでは時間がかかりすぎた。

 

 そのため、上のレベルのモンスターで、弱点という意味では相性のいい相手を選び、戦ってもらって居る中、叩き上げで(アルシェや、ボクからの知識を応用しての技でもあるが…)鍛え上げてきたその戦い方で乗り越えてきたあの修行の成果をこの場で発揮してもらうことにした。

 

 万が一、危なくなっても…「あの手段」を使えば、もしかしたら…という望みも込めて。

 

「大丈夫さ、キミにはアルシェから教えてもらった「オリガミ」の知識から取り入れた形状変化と、電流操作で微弱な影響にまで調整できるようになったその効果での身体強化ができるようになってるんだ、以前より比べ物にならないくらいには強くなってるんだから。」

 

 ベルはそう返答をするが、だからと言ってエイン・ヘリアルと互角に戦える訳じゃない。

 

 

「でもさ…、アレと足を止めての接近戦なんて土台、無理な話よね?私、接近戦の得意な職業持ってないんだしさ…」

 

「危なくなったら、アレを解放すればいいじゃないか、結構使い勝手いいと思うんだけどな」

 

 軽く発言した内容に思い当たる節のあったイミーナがそれに反応をした。

 

「え?あれ? …アレを出すと言ってもさ…この鎧の中の電気の蓄積、全く足りないのよね、下手したらこの身体強化も解除されちゃうかもしれないじゃ…ない?」

 

 軽く会話をしているように聞こえるが、会話をしている最中でもエイン・ヘリアルの攻勢は止むことは無い。

 

 スキルや、魔法などは使用できないが…純粋な直接戦闘だけで言えばシャルティアそのものと言って良い存在だ。

 

 油断できる相手ではない。

 

 しかし、最初から見ていたイミーナには戦い方は伝わっていたようで、2枚だけ残してあった平べったい板状のナニか…それを湾曲させ、「( 」のような形にすることで、エイン・ヘリアルのランスの先端を、ベルが剣で受け流したのと似たやり方で勢いを逸らしている。

 

 2枚の防御と、2つの攻撃。

 

 それを使い分けることにより、接近を許さないようにするのが今のイミーナの戦い方だ。

 

(これもアルシェちゃんが妹さんたちに良く読み聞かせていたっていうおとぎ話からヒントを得た「折って畳む」「曲げてみる」「広げたりして形を変えてみる」っていう概念がなければ考えつかなかった戦法だよな…)

 

 それは六大神と言われる神々と戦った、恐らくはプレイヤーと思われる者らとの戦いを物語調におとぎ話化されたもの。

 

 その登場人物にエントマのような符術師の亜種のような戦い方が描かれており、それを現地民たちが独自の試行錯誤を繰り返し生み出した、ベルリバーがリアルで知っている「折り紙」とは似て非なる物と化していた。

 

 紙を折りたたんで別の形状、動物や鳥と言った形に組み立てていき、「使い魔」として使役したり、1枚の紙を複雑に折っていくことでそれぞれ違う効果を生み出す「折り符」と呼ばれる物などなど…、そこから「オリガミ」なる(ボクが生きていた世界の物とは違う)、この世界独自の発展を遂げた文化を見て驚くことになった。

 

(自分が教えたのは脳の機能とか、そこからの神経伝達物質だとか、その伝達するのに必要なのが微細な電流であるという事、それらの速度が上がれば反応速度も、反射運動以上の速度になるかもね…といった「希望的観測」でしかなかったんだけど、実現しちゃうんだもんな…適応力高いよな…彼女。)

 

 だからと言って、渡り合えてる訳では無い、いくら身体強化をかけているとは言え、70レベル差をひっくり返せる程の常識離れの性能をした強化ではないのだ。

 

 それを埋めてくれているのが「自動(オート)」で機能してくれる浮遊盾、いや、今となっては浮遊物質と言った方がいいだろうか、それの恩恵だと言えた。

 

 

 どの道、直接的にあの鎧からの雷弓攻撃の威力ではシャルティアと同等の魔法防御を持つエイン・ヘリアルに対して効果的に通じるとは思えない。

 

 何LV金属を使った鎧なのかはわからないが、彼女(イミーナ)が名付けた武技、<螺 旋 突 槍>によるダメージは多少は通っているようだし、それなりには何とか出来るんじゃないかと希望的観測を持てるくらいには通じている様子。

 

 しかし、相手は魔法的、というかスキル効果で生み出された、人工生物のようなものだ、痛みの表情や、ダメージによる動きのよろめきなどが目立つわけでは無い為、どこまでの損傷を受けているのか見た目ではわかりづらいのが難点と言えば難点だ。

 

 しかしシャルティアには普通に機能する当たり前のスペックが、「エイン・ヘリアル」には元々備わっていないという致命的な欠陥も同時に孕んでいる。

 

 それを勝機に活かせるかはイミーナ次第なのだが…

 

 

 などと考えてる内に、ベルとシャルティアとの戦いも続いている。

 

 ベルが考え事をしている間もシャルティアの攻撃が休まることは無く、その強引な突破力、そしてランス攻撃の突きや、払い、横薙ぎ、叩きつけなどによる連携攻撃にさらされ、徐々にベルの方も押されてきていた。

 

 装備品により、疲労を覚えないようになっているため、長期戦になっても身体的な心配も持久力としての心配もないが、MPは限りがあるしHPにも限りがある。

 

 更には、その猛攻により精神的な余裕もガリガリと削られて行く…何しろ一撃一撃が重いのだ、これで純戦闘職でないというのだから…コキュートス相手となればどれだけのプレッシャーが襲ってくるのだろうと、今更ながら戦慄が走るようだ。

 

 直撃は未だ一発もないものの、フェイントでも混ぜられ、喰らってしまえばどうなるかわからない。

 

 アインズさん…いや、ナインズさんよりは物理的な防御も、直接攻撃力もHPもボクの方が多いと断言できるが…

 MPの量や、位階魔法の限界、魔法攻撃力や魔法防御力などは圧倒的な差がある自分では、魔法での逆転劇を生み出すのは難しいだろう。

 

(できれば手の内はさらしたくないけど、そうも言ってられないかな…)

 

 そう判断したベルは、腹の中にいるエルフ女子3人組に語り掛ける、手助けをお願いできないか?と…

 

 純粋な意味では彼女達の魔法の位階はなんとか第4位階に届いた者が居る程度、その程度ではベルの強化に多少貢献は出来るが、シャルティアに魔法攻撃で通じるか?と言えば自分以上に厳しいだろうというのは良く解かる。

 

 ならば…他の手段で何とかするしかない、幸い、その為の道具は彼女らには譲渡済みだ。

 

 まずは自分から状況の好転を図る一手を撃ち出し、反撃の狼煙とするために動く。

 

<縮地・改>!

 

 まずは勢いの乗る方向、前方へと舵を切り、シャルティアの暴風圏へと進み出た刹那、片足を踏ん張り、逆の脚は前進させる動きを実行することで高速の体捌きを可能とした。

 

 結果、シャルティアの利き腕側、スポイトランスの真横外側に肉迫していた。

 

(ちょこまかと目障りでありんす)

 

 さすがに何度目かの側面攻撃のためか、その動きに慣れ始めたシャルティアが、横薙ぎにスポイトランスを振るう。

 

 ベルが直撃を受ける際、そこで準備していた魔法を発動させた。

 

魔法三重抵抗突破化(トリプレット・ペネトレートマジック)

重化鈍速(ヘビースロー)

 

 至近距離からの魔法発動により、シャルティアは即座に範囲外に出る事が出来ず、三連続で発動する魔法をモロに浴びる形になる。

 

 しかしシャルティアの魔法耐性(レジスト)により3つの内2つが抵抗された。

 

(シャルティアの耐性の数値がどれだけかわからなかったから多重化させたけど、一発でも通じたのなら良しとしよう。)

 

(くぅ…どれだけ煩わしい手を使えば気が済むでありんす?)

 

 今のシャルティアはノドを焼かれ、未だ完全回復には至っていない為、声に出すことは難しい。

 

 しかしHPは微量ずつだが魔法の効果で回復はしているのだから、時間の問題だろう。

 

 その上スポイトランスでダメージを与えることが出来れば回復の度合いも早まる。

 

 

(鈍化状態が続いている今の内に少しでもいい方向に持って行かないとな…)

 

 仮面の姿のままなので、シャルティアからは解らないだろうが、軽く自嘲気味な笑みを浮かべたベルはシャルティアの速度の変化を見極め、自分の役割を思い出し始めていた。

 

(やはり同レベル帯との戦闘になると力不足は痛感させられるな…魔法と剣とのどっちつかずの職選びはやり直せるものならどうにかしたいものだけど…)

 

「すまないな、こっちはずっと以前から特殊役(ワイルド)寄りの物理火力役(アタッカー)でね、相手の嫌がりそうな手段を織り交ぜてこっちに引きずり下ろす戦い方で対等になるようにしてきたのさ、少しだけこっちの都合に付き合ってもらうよ?」

 

(みみっちい戦い方をする相手でありんすね、弱体化させて有利に戦うタイプでありんすか、地味に嫌な戦い方をしんすね。)

 

 内心ではそう思っていた物の、表面に出てきた認識は先程考えた思考とは違う物であった。

 

(その程度で、わらわの実力を弱体化出来ると思っていんすのならおめでたい頭でありんすよ?、そっちの得意分野ごとすり潰して勝利をもぎ取ってやるでありんす。)

 

 シャルティア自身も戸惑いを覚える、そんなことを考える自分ではなかったはずだ…だが、最後の「こっちの都合に付き合ってもらうよ?」という言葉にどうしても振り切ることのできない想いが奥底から滲み始めている、それが不快ではない自分にも苛立ちを募らせた。

 

(なんでありんすか、あいつは…精神操作や精神攻撃には絶対の耐性があるはずなのに…なんでこんなわらわらしくない思考をするようになってるのでありんす!)

 

 

 いつものシャルティアなら、別に相手の都合に乗って戦う必要などどこにもないのだ、遊びに付き合ってやること自体はそう悪くはない、ちょうどいいヒマつぶしになれば…程度であれば乗ることもある。

 

 だがこれは「親善試合」のようなものとはいえ、至高の存在、ナザリックの支配者でもあるナインズ様が、目の前でご照覧なさっているというのに、絶対の勝利を捧げなければならない状況で遊んでいられるはずはないのに…にも関わらず、相手の言葉に逆らえないようになっている自分がいることに驚く。

 

 

(ますますわかりんせん…あの者は何者でありんすか? …聞き覚えの無い声なのに、一言一言がジワジワとこの身を侵していくようで怖いでありんすね…)

 

 

 一方、ベルの方も、少しずつ弱体化はさせているものの、決め手に欠ける自分に歯がゆい思いをしていた。

 

(シャルティアのHPはバカに出来ないからな…モモンガさんの超位魔法でも一撃では仕留められないって言うんだから、自分の攻撃スキルを積み重ねても追い込むのは難しい、その上<大致死(グレーターリーサル)>でも使われて回復に回されたらますます手が付けられなくなる…、いつノドが完治するかわからない状況ではいつ戦況がひっくり返るかわからない綱渡り…か…)

 

 と、そこまで考えたベルが、当初の目的をすっかり忘れ、シャルティアに勝とうとする欲が出ている自分に気付く。

 

(そうだよ、別に勝つために挑んだわけじゃないだろう?これは守護者達に対するサプライズイベント、言わば『ギフト』、贈り物の類だと割り切ったはずだ、なら適度に戦って負けを認めて勝ちを諦めてもいい、どうせ最初からシャルティアに勝つなんてこと自体、自分ではおこがましい、頭脳労働担当としてサポート役兼、最低限の前線役として作って来たアバターなんだから、別にそこにこだわる必要なんてなかったんだ…)

 

 そう思いだしたベルは思考を切り替える。

 

 ならば今の自分がすべきことは…

 

 シャルティアの方へと手を伸ばし、指先を伸ばす。

 

 その仕草を見たシャルティアが、動きが鈍い状態でありながらも即座に行動を開始して回避行動の態勢に移る。

 

 本来なら<石の壁(ウォールオブストーン)>を使う場面であろうが、それを詠唱に回すことが出来ない為、避けるしか今のシャルティアには選択肢が残されていないためだ。

 

 <龍雷(ドラゴン・ライトニング)>!

 

 ベルの指先から龍の姿を形作る稲光が迸り、雷光となって一直線にシャルティアへと迫る。

 

 しかし、いち早く行動を開始していたシャルティアは辛うじてそれの回避に成功した。

 

(なめられたものでありんすね、この状態でも第5位階程度なら避けるのは難しくはないでありんすが…、今の体では一瞬でも気付くのが遅かったら当たっていたかもしれんせんね。)

 

 雷撃の魔法を回避できたその一瞬、通り過ぎる魔法へと視線が動いた瞬間、シャルティアに斬撃の痛みが走る。

 

 しかしその威力は「痛み」と表現するほどのことでもない、神聖系の刃である感触はあったが、それだけだ、真紅の鎧の防御性能で半分以上のダメージは軽減されている。

 

(何が?)

 

 そう思い、ベルの方へと意識を向けると相手との距離は開いたまま、剣の届く位置からはかなり遠い。

 

 しかし、僅かに腰を落とし、攻撃する姿勢ではあるようだ。

 

「スキル<羽々斬り>! 武技<空斬>!」

 

 攻撃回数を一気に底上げし、一度の攻撃で羽根が舞う様に軽くなった武器での連続攻撃を可能とする技、さっき戦った相手も使っていたスキルだ、さっきのやつはこれを近接戦闘で使っていたが、こいつは離れた距離からの「疾走する刃の斬撃」を衝撃波として、視界を覆わんばかりの斬撃の数を見舞ってきた。

 

 さっきの衝撃波は、今の<空斬>と言われるモノが単発で襲い掛かって来たものだろう。

 

 そう結論付けたシャルティアは自分の顔の前にスポイトランスを持ち上げ、露出してる部分に神聖属性の刃が当たらないよう、武器で受ける姿勢をとった、他の分は鎧の性能でダメージはかなり減少されるだろうから…

 

(一撃一撃は軽いでありんすが…こうも連発されると…不利でありんすね、ならどの道、大したダメージではないでありんしょうし、ある程度の被弾は覚悟して距離を詰めた方が…)

 

 そこまで考えていると、ベルがジリジリと距離を詰めるべく、すり足でわずかづつ迫って来るのが見える。

 

(そっちから来てくれるつもりなら、このまま待つとしんしょう…、わらわのランスの方が得物の長さとしてのリーチに分がある以上、先に届くのはこなたの方でありんすえ?)

 

 口元をスポイトランスの影で僅かに歪ませ、獲物を待ち構える狩猟者のごとく機会をうかがうシャルティア。

 

 そして、近づくにつれて、斬撃の数も僅かづつ上昇していき、それ程の威力はないとは言え、スポイトランスの距離に来たベルを攻撃するには自分も多少は被弾する覚悟が確実に要求される状況に追い込まれたことを実感していた。

 

 ベルの体がスポイトランスの届く圏内に来たのを認識したシャルティアはほんの数歩の突進のあと、スポイトランスをベルに向かって突き出す。

 

 それと共に、ベルも自分の体内に向けてお願いしていた助力のタイミングを「ここだ」と判断し、それを発動させる、今までの自分の動きをわずかに上回る為に<能力向上>、そして老公の<疾風加速>を同時に発動してもらい、迫るシャルティアのスポイトランスの下をくぐり抜け、エルヤーが遺した最後の切り札を発動させた。

 

<流転三斬>!

 

 あの奴隷商人の小間使いらしき人物が書き記していたお陰で知ることが出来た、接近戦用のオリジナル武技、これを使うのは「反撃」に限られ、カウンター技としてしか使えないらしいが、それはエルヤー自身が開発したてで精神力の消費も半端じゃなかったからだろう、ここ一番で使うしか方法がなく、さらに可能であれば「初見殺し」を理想としたため、やたらに技を披露することはなかったようだ。

 

 そうでなければ自分もこの技を知らずにいたかもしれなかったのだから、多少はありがたいと思うが…

 

 それでも我が愛娘(フレイラ)を穢れた目で、妄想とは言え汚してくれた罪は、その恩を帳消しどころか、マイナスにまで達してしまった。 それに対して後ろめたい気持ちは微塵も無い。

 

 奴はそれだけのことをしでかしたのだ、と、ベルリバー自身の思考はそこで中断される。

 

 シャルティアのランスをかいくぐり、下から手首を切り上げ、同時に武器を跳ね上げさせる。

 

 その流れのまま、横腹を斬り抜けて、シャルティアの背中に回った瞬間に上段からの一閃、これがエルヤーの生み出した武技の流れ、三段攻撃の全容だ。

 

 横をすり抜ける際に、<疾風加速>と<縮地>の重ね掛け、さらにそこからの<縮地・改>の発動だ、プレイヤーの精神力なら問題ないが、通常の人間なら、それで精神力は尽きてしまうだろうだけの分は削られていた。

 

(まだまだ攻撃の流れを工夫できそうだな…うまくすればカウンターに限らず、攻撃用の武技としても使えそうだけど…)

 

 そこまで考えていたベルリバ―の中で別の声が生まれ、訴えて来る。

 

『またまた、終わりしゃないしゃろ?』

 

 そうして発動された効果で、体が勝手に追撃の動作に移る。

 

<紅竜牙突き>!

 

 体内から武技の発声がされたと同時に、ベルの持つ剣が光の効果と同時に炎もその身に纏うことになる。

 

 そのまま、シャルティアの背に斬りつけた斬撃の跡に寸分たがわず、神聖属性と炎属性の両方が乗った刺突が食い込んでいく。

 

 悲鳴が聞こえるかと覚悟したベルは、その声がいつまで経っても聞こえないのに心配になってシャルティアの背を見つめる。

 

 すると、背に傷を負ったまま、わずかにそれが揺れ始める。

 

 と、同時にシャルティアの傷から噴き出したどす黒く赤い液体が噴き出し、その身を包み出す。

 

「う…うっふっふ、ふふ、ふふふふふ…」

 

(笑っている?)

 

 予想もしていなかった反応で呆気にとられ、そのまま呆然としていると、スポイトランスの横一閃がベルをとらえ、そのゴッズ武器の威力で吹き飛ばされる。

 

「今のは…ちょっと痛かった…痛かったでありんすよぉぉぉ!!!」

 

(まずい! 今の攻撃ダメージで、シャルティアの声の復帰に役立ってしまったか!)

 

 

 

 豹変したようなシャルティアの言動の後、爆発したかのような踏み込みから、突進の音を置き去りにして、彼女がベルに迫る。

 

「きゃぁ~~~~っはっはっはっは、あぁぁぁ~っはっはっはっは!!!」

 

 その表情が、その口が、モンスターの様な形相に変貌したと思ったら、そのまま首を片手でつかまれ、地面に押し付けられると、そのまま押し付けられながら引きずられる形で進行方向の先にある壁に衝突する。

 

 そして、首に爪を食い込ませた状態でベルを吊り上げた。

 

(『血の狂乱』…か…)

 

 よっぽど、力を抑えて戦うのにストレスを感じていたのだろうか…、今のシャルティアは手加減という言葉を忘れてしまったかのような雰囲気さえ感じる。

 

(いや、『血の狂乱』状態だったら間違いなく忘れているんだろうな…)

 

 

 シャルティアを傷つけるのは正直、気が進まない想いはあるものの、このまま大人しくして居てもシャルティアが正気に戻る可能性はかなり低い、それならばと、「止むを得ない…」と呟き、自分を持ち上げているシャルティアの手首をつかみ、そのままギリギリと締め付けていく。

 

 ベルが装備している小手、その名も「ヘラクレスの小手(ハーキュリーズガントレット)

 

 アインズが装備するイルアングライベルよりもSTRの上昇値は高く、本来まだ自分の所持できないレベルの武器もSTRの数値を引き上げることによって持てるように、装備できるようにと作り上げたモノだ。

 

 その純粋な腕力によって、シャルティアの手首をねじ切りそうな程に締めあげる。

 

 手首を締めあげられることにより、ベルの首に食い込んだ爪が、指が外れ、ギリギリという音とシャルティアのくぐもった悲鳴のみが響く。

 

「は…はぁなぁぁせぇぇぇぇ!!」

 

 残されたもう一本の腕で、構えていたスポイトランスを振り上げ、ベルの顔面に叩きつける。

 

 しかしその攻撃にベルは全く動じていない。

 

 

 そう、ベルが装着しているのは「嫉妬する者達のマスク」

 それの特別バージョンである『アニバーサリーエディション』だ。

 

 額の部分に刻印されている「V」は5周年を表している。

 

 クリスマスイブの夜、19時~22時の時間帯にユグドラシルに居続けた者だけが運営から贈呈されるという嫌味にしか思えない贈り物、それが通称「嫉妬マスク」のノーマル版だとするなら…

 

 「V」の字はそのノーマル版が一度も抜けることなく連続で5枚集まった時に(つまり5年の間、クリスマスイブ~当日に至るまで恋人とリアルで過ごせなかった者に)のみ、運営からノーマル版の後、クリスマスが過ぎ、26日のAM0時ぴったりに運営から贈られてきた『 ゛祝福 〟』の品。

 

 それがこの『嫉妬する者達のマスク、アニバーサリーエディション 【5周年Ver.】』だ。

 

 シャルティアの苦し紛れの攻撃程度で壊せるはずもないアクセサリ。

 

 捨てることも、素材として合成させることも、誰かにプレゼント(押し付け)することも、魔法的な効果を付与させることも出来ない、筋金入りの『破壊不能』アイテムがこれ。

 <上位道具破壊(グレーター・ブレイクアイテム)>でも壊せないという狂った代物なのだ。

 

 

 もちろん『嫉妬マスク』が破壊不能だからというだけが原因ではない、そもそも嫉妬マスク自体には何の防御性能も無いのだから…

 

 強いて言うなら、シャルティアは近づきすぎたのだ、スポイトランスは「ランス」と呼称されるだけあり、種別としては「ランス」…つまり『馬上槍』に該当する。

 

 それを振るうなり、突くなりするには相手との距離に充分な開きが必要となる。

 

 それが、今、シャルティアは腕で吊り上げている程の距離まで相手と近づいているため、その攻撃力を充分に生かせるだけの空間的余裕を自分で潰してしまっているのだ、勢いの乗ってない攻撃ではその真価を発揮することが出来ず、威力が削がれる状態になったのが大きい。

 

 破壊不能とは言え、決して防御性能が付加されているワケではなく全くダメージを減らす能力など無いのだ。

 

 その為、ノーダメージとは行かず、充分ではないもののそれなりにダメージは通ってしまった。

 

 今ごろシャルティアの方にはスポイトランスの効果で微量ではあろうが、HPの回復はされているだろう…

 

 

 そんな中でもベルは平静を装い、シャルティアに問いかける。

 

「ふん…それで全力か? シャルティア…」

 

 

 シャルティアの手首を極めたまま、シャルティア自身を武器のように振り回し、何度も何度も地面に叩きつける。

 

(しかし、さすが伝説級(レジェンド)の鎧だな、ここまでしてもほとんどダメージらしいダメージを与えられないとは…)

 

 さすがにこれ以上すると、モモンガさんの目が痛い…そっと手を離して距離を取った。

 

「うっうっう…おぉぉもしろぉぉいねぇぇぇ…もっと楽しませてちょうだぁぁぁぁぁい」

 

(う…今気が付いたけど、シャルティアの翼も、傷が治って千切れかけだった根元が正常にくっついてるじゃん…さっきスポイトランスで殴られた際の回復効果でそっちも戻ってしまったか…いよいよ余裕がなくなってきたな…)

 

 

 再び、突っ込んできたシャルティアだが、いかんせん細かい駆け引きなどは考えられない状態なのが、「血の狂乱」だ。

 

 芸も何もなく、ただまっすぐ迫ってくるだけのシャルティア…その直線状に(ルチルの)魔法を発動させる。

 

茨の束縛(ソーンバインド)

 

魔法遅延化(ディレイマジック)

 

植物の絡みつき(トワインプラント)

 

 

 この程度の低級な足止め魔法を使った所で、行動阻害の耐性などの、移動阻害対策を施されているシャルティアでは、持って1~2秒だろう、それからはソコを抜け出して次の行動に移るだろうが…考えなしに最短距離を走ってくるなら、<植物の絡みつき(トワインプラント)>にも引っかかるのは自明の理、ってやつだろう。

 

「ちなみに審判? ここで課金アイテムじゃない普通のドロップアイテム等を使った場合、ペナルティは?」

 

 

 一応さりげなく、準備をしながら審判に問いかけた。

 対してシャルティアは<植物の絡みつき(トワインプラント)>に丁度、引っかかった所である。

 

 試合の流れを見つめながら試合のルール役であるナインズはそれに返答をする。

 

「課金アイテムはルールにしたが、普通のアイテムに関しては言及していなかったな…あまり悪質な連続使用でなければ「注意1」という事にしておこう」

 

 それを聞いたベルはすぐさま、今にも絡みつきを引きちぎって自由になろうとしているシャルティアから目を離さずに言葉を返す。

 

「ありがとう、なら甘んじてその「注意1」のペナルティをもらい受けるとしよう!」

 

 そう言うなり、ベルは準備した『下級回復薬(マイナーヒーリングポーション)』をシャルティアの顔面に投げつける。

 

 絡みつきを引きちぎったシャルティアはすぐ目の前にまで迫った「物」を反射的に爪を振り払う事で破壊する、それと同時に中身である赤い液体がシャルティアの顔に数滴かかり、わずかに肌を焼いた。

 

 じゅぅ…とした音と共に、僅かに焼け焦げたような煙を上げる頬…そこから感じる少しの痛みで表情が心持ち引き締まった。

 

 シャルティアは、『血の狂乱』による強化状態、そこから来る全能感と言ってもいいような高揚感、その感情の高ぶりを邪魔した正体を見下ろし…そして瞠目した。

 

下級回復薬(マイナーヒーリングポーション)?」

 

 まさか、これは!と口に出しそうになった自分の口を堅く結ぶ。

 

 少しだけ戻った冷静な部分を総動員させて自身の動揺を抑え込みつつ思考を巡らせた。

 

(これがナザリックの下級回復薬(マイナーヒーリングポーション)の筈がない…でも、この赤さは間違いなく…イヤ、さっき目の前のコイツ自身が言っていたのを思い出すのでありんす…そう、こいつもプレイヤーの1人だと…)

 

 そこまで考えを導き出したシャルティアは、そこから一気に希望的解釈へと結論を急がせる。

 

(なら…これはユグドラシルの…であって、決して我がナザリックの…というワケでは無いという事で間違いないでありんしょう…)

 

 外見的には、ヤツメウナギ状態が半分、いつものシャルティアの外見が半分混ざりこんだような容貌で見た目が留まり、一気に先ほどの興奮状態は脱しているように見えた。

 

「とりあえず、シャルティアが冷静になってくれてひと先ずは安心だね、ところで…こちらは一旦休戦としないかい? 向こうが面白いことになってるみたいだからね。」

 

 目の前のベルという男が意味のわからない言葉をいきなり提案して来た。

 

 そのため、シャルティアは、ベルの方に一度視線を向ける。

 

 別段、その提案に乗るつもりなどは無い、そちらが休戦したいなら勝手にすればいいが、自分はこの対戦で至高の御方に「勝利」という花を手土産に、『この世の美の究極』とも言えるあの白磁のような骨のお身体で「よくやった」と抱きしめてもらうのだ、その為にはこの男に勝たなければならない。

 

 そういった考えを内心で固めているところに、ベルが後ろを指さしている仕草に目を止める。

 

 何気なく、そちらに視線を送ると…そこには…全ての事がどうでもいいと思ってしまいかねないほどの衝撃的な光景が目に飛び込んできた。

 

 それは…

 

 

                    ☆☆☆

 

 

 その場の時間は少しだけ巻き戻る。

 

 それは、ベルがシャルティアとの戦闘に意識を向け、イミーナから半分ほど意識を切り離した瞬間から…の事となる。

 

 イミーナ自身は、以前、カルネ村の裏門に発生した「異界の扉」と表現してもいいくらいの違和感ある3つの扉の内、青い扉の中で過ごしていた修行の日々の中、試行錯誤の末、身に着けた装備の有効活用、それの一端を解放させていた。

 

 それは言うなれば「生体電流活性化」とでも言う技術。

 

 それはベルがリアルの世界で聞きかじった知識をこっちの世界でも使えたら強化に役立ちそうだなと考え、チラっと聞かせてみた所、自力で通称「ペロロンアーマー」の中に宿る電流を調整し、細胞の活性化、さらにはアドレナリンなどの分泌物等をも代謝能力向上に役立たせ、結果、かなりの限定的なデメリットに後々見舞われるが、それに見合うだけの戦闘能力の向上を果たせるまでになったいた。

 

 とは言え、さすがにレベル差70近くもある相手との力量差を埋めるだけの上昇は見込めない、そこを埋めているのが自動で防御と攻撃の両面で牽制をしてくれている4枚の浮遊板だったのだが…。

 

 その内の2枚の攻撃用がイミーナに近づかせないように前方や、両側面などあらゆる角度から変幻自在に攻撃することで、本来の標的である相手に近づくこともさせないでいる。

 

 それがあるからこそ何とか、彼女の今の戦闘相手「エイン・ヘリアル」に喰らい付けている状態だと言えた。

 

 

 

 イミーナ1人だけではエイン・ヘリアルの突進を視認する事も出来ず、ランスに貫かれてしまっていただろう、今でも旋風の様なエイン・ヘリアルの動きは追い切れず、かろうじて攻撃の音、湾曲した形の板で攻撃を逸らせている際のこすれる音だけが耳に届くのみ、次元の違う戦いの中に身を投じてしまった後悔に陥るも、気丈に意識を保ち直す。

 

 

「まだ何か私に出来る事、出来る事…」

 

 

 何とか震えそうになる体に活を入れ、自分に残された手札がないかの確認をし始める。

 

 しかし、それを使用するには満たさねばならない重大な要素が、今の自分には足りていない。

 

 この鎧装備の効果で作り出す…命名「雷撃弓」では、レンジャーの腕があるとは言え、あの相手では回避されてしまうだけだろう…あれほどの圧倒的なレベルを目の前で体感したことなど、「あの扉の中の異空間」でもなかった事なのだ。

 

 しかし、あの場所での戦闘で、イミーナ達フォーサイトは、格上の存在というものをまざまざと見せつけられた、その為、ある意味「上位レベル相手との心構え」という一点に於いては耐性が出来ていたのが幸いしたと言える。

 

 一見、落ち着いて考え事をしているように見えるが、その実、全くそんな余裕はない。

 

 シャルティアと呼ばれていたあの赤い鎧の…「守護者」と呼称していた女性、その者ときっと同格の存在であろうことだけは何とか自分でも理解できた。

 

 ベルとシャルティアとの戦闘を見ていなければ、実力がほとんど同じということなど見抜けなかったかもしれない。

 

 ベルからの説明は受けておらず、今戦っている相手の情報は自力でつかむしかない状況のイミーナだが、エイン・ヘリアルの暴風の様な攻めの乱流を一手に引き受けていた浮遊板にも限界が来ることになる。

 

 

 魔法も、スキルも使えないエイン・ヘリアル

 

 直接攻撃と敏捷さ、そしてその翼を利用しての上空からの攻撃、地形に左右されない動きなど、それらしか取り柄が無いと思われがちなエイン・へルアルだが、それでも〝戦闘センス"という側面に立つと、それはシャルティアと全く同一人物と言って良い。

 

 そして、何より、エイン・ヘリアルがシャルティアより勝っている点が一つだけある。

 

 それはどんな状況においても精神的な動揺が一切起きないこと。

 

 NPCとして自我を持つこととなったシャルティアと違い、エイン・ヘリアルは完全にシャルティアに創り出された魔法(スキル)的な存在であり、現状を即座に把握し、それを打破すべき行動を最適化して行える。

 

 そこに希望的観測、自分に都合のいい憶測や、降って湧いた理不尽に心が折れたり…など、一切入り込む余地はない為、冷静に…冷徹に対処できるのだ。

 

 無論、そこに「血の狂乱」など一切入り込める余地は存在しないという利点もあった。

 

 

 エイン・ヘリアルは一連の攻撃、その履歴を総合的に判断して、防御に専念している物体は恐らく正面から自分の攻撃を受け止めるだけの耐久性はないものと判断するに至った。

 

 …となれば、出来ることと言えば湾曲した形状に沿った利点を生かし、自分の攻撃を受け流す、その一点を攻略すれば後は簡単だ。 そう結論付けて次の一手に移り始める。

 

 攻撃役に徹している2枚の物体も、前後左右、果ては斜め前方、斜め後方も織り交ぜ、自分をこの場に留めようとしているが…このくらいの攻撃では自分にとっては軽いものでしかない。

 多少、被弾してもダメージはそれほどでもないなら、これを操る本体の方を仕留めればそれで事足りる。

 

 そう判断したエイン・ヘリアルは、自分の行動を抑え込もうと襲い掛かる<螺 旋 突 槍>に意識を払わず、被弾してもどこ吹く風だ。

 

 その代わり、標的をイミーナへと切り替える。

 

 相手の姿を正面にして視界に収める。

 

 すると、劇的に2枚の浮遊板の軌道が一変した。

 

 エイン・ヘリアルの周囲を飛び回り、そこから先へとは行かせないように…それでいて視界を邪魔するように飛び回りつつ、攻撃が来た際はいつでも対処が可能なようにしてる風なのが良く解かる。

 

 <螺 旋 突 槍>の初撃は、自分の突進のカウンターとしての側面もあって、それなりにダメージはあったものの、足を止めた状態から被弾した攻撃ではそれほどでは無かった。

 

 これなら何の問題も無いと、これからの行動、それを効果的に結果を導き出せるよう、演算じみた思考で対処法をくみ上げていく。

 

 急に、エイン・ヘリアルに見られる形となったイミーナは一瞬硬直した。

 

 …すると次の瞬間、エインヘリアルはイミーナへと突進を敢行。

 

 そうはさせじと浮遊する盾板が再び、そのランスの先端を逸らせようとした動きに入る。

 

 しかしそれもエイン・ヘリアルは承知の上だ。

 

 逸らせようと湾曲面をランスの先端に沿うように位置した瞬間、100レベルの敏捷と器用さで体勢を浮遊した盾板へと相対するような体の角度に変更。

 

 そのままの流れでよどみなくその中心をランスで貫き、深々とそれを押し込む、盾の役目としてはもう使えないだろうというくらいまでの巨大な穴を穿っていた。

 

(あと一枚…)

 

 中心に巨大な穴が穿たれた盾板ではもはや攻撃を逸らすことなど出来なしまい。

 

 そう判断したエイン・ヘリアルは見せ技としての突進ではなく、本気の突進を発動させた。

 

 その速度は光の速さか!と思う程に、瞬間移動の如く、目の前にまで現れたかと思うと…狙い過たず…イミーナの心の臓に狙いは定まっていた。

 

(獲った!)

 

 エイン・ヘリアルがそう思った刹那、エイン・ヘリアルの側面から唐突な稲光が龍の形となって襲い掛かって来た。

 

 

 …そう、それはベルが「勝つ必要は無い」と思い出した後、シャルティアの方向へと撃ち出した<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>だ。

 

「今の自分がすべきこと」…という結論の上で撃ち出した魔法、それはシャルティアにダメージを与える為ではなく、その向こうに行くよう、最初からそれを狙った一撃であったのだ。

 

(流れ弾のようなもの? …今それを考える必要はない、万一を考えて回避するのみ)

 

 あと一瞬でもあれば、心臓を貫いていたタイミングだというのに、そんな中での余計な邪魔者に計画の修正を余儀なくされつつ、イミーナから大きく距離を取る。

 

 

 直後、イミーナはその<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>に、そのか細い身体を貫かれることになる。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

(私が直接、手を下すまでもなく勝負はついた?)

 

 さらに一歩距離を取って、様子を見る。

 

 

 イミーナは身体にバチバチとくすぶる電流を纏わせながら、天を仰ぎ見て、直立している。

 

 きっと予想外の方向からの魔法に対処が遅れたのだろうと、エイン・ヘリアルが結論を出そうとしていた時、<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>に撃ち抜かれた彼女に反応が起き始めた。

 

 

 「そうよね…、これさえあればあの子も出せる…きっとアレの助けがあれば…」

 

 そうブツブツと何事かをつぶやきながら、イミーナはその防具に<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>の雷撃量と、そのMP分を吸収するように吸い込んでいく。

 

 そこに黒焦げになっている様子などどこにもない。

 

(なに?…一体何が起きている?)

 

 

                    ☆☆☆

 

 

(正直、オートで展開してる攻防手段と「生体電流活性化」の維持魔力消費では、今までの吸収分と合わせても、ちょっと魔力とか電流の量とか、足りなかったのよね…けど、これで発動できる!)

 

 

 そう決断すると、イミーナの装備している防具から電流の迸りが音もなく、一瞬<閃光(フラッシュ)>にも似た光を伴い、天井へと突き上げるくらいの勢いで噴きあがっていく。

 

 

(なんだ? …何が起きてる?)

 

 エイン・ヘリアルが、あまりの情報不足、初見の状況変化に「見」の姿勢を維持している中、その天井へと至った爆発的な電力は…上方で、次第に翼のある人型へと形状を変化させていく。

 

 

「ピエェェェェェーーーー!!!」

 

 

 空の上で高らかに雄たけびを上げた「ソレ」は、翼をはためかせ、ゆっくりと…そして勇壮に降り始めてきている。

 

 

「これが私の今の最大の切り札! 今の雷撃魔法が無ければとてもじゃないけど生み出す魔力が足りなかったところよ!」

 

 一気に強気になれたイミーナ。

 

 これを発見できたのが、あの扉の奥へと広がっていた異空間での修行、その最後の一戦で、初めて感覚を掴め、今よりおぼろげながら辛うじて人型に見える程度の存在を生み出したことが始まりだ。

 

 それ以降、彼女の中でイメージトレーニングをしていたのだろう。

 

 最初に生み出してから随分と洗練され…某バードマンとかなり近くなっているのは…それも奇縁と言った所か? それとも残留思念をかき集めてそれを電力で構成させたらたまたまアレの姿だったのか…それは誰にも知り得ない事象である。

 

 

(なんだ? なんていうんだ? アレは…?)

 

 

「エルド! やっちゃって!<突風雷雨(ライトニング・スコール)>」

 

 

 

 …エルド、それはイミーナが生み出したこの電流の身体で構成されたマジックアイテムの効果を拡大展開させた結果、発生した「コレ」に彼女が名前を付けてしまったものだ。

 

 ベルは「これって、ペロンバードとか付けない?」と提案したらフォーサイト全員から「もしかしてベルさんってネーミングセンスないのかな?」と評価が少し下がってしまったのは残念なエピソードだ。

 

 それから散々名前で悩んだのだが、フォーサイトの「『黄金の鳥』みたいだし、それにちなんで名前付けて見ないか?」とヘッケランが言ったその言葉に「黄金のコンドル…エル・コンドル…か」とベルの何気ない呟きに反応した誰より耳のいいハーフエルフのレンジャー、イミーナが根掘り葉掘り聞き出したことにより、結果として、黄金都市「エル・ドラド」と「エル・コンドル」のいいとこどりをして「エルド」にしたらしい…ベルからしてみればどう見ても「ペロロン」さんと言いたくなってしまう程なのだが…それは口に出さないようにしているようだ。

 

 

 

 今も少し上空にいるペロ…ではなく「エルド」は、その指示に応えるように大きく翼を広げると、エイン・ヘリアルに向け、突風を伴う程の雷撃属性が乗った羽根の集中砲火をお見舞いする。

 

 イメージ的には「触腕の翼」の雷撃バージョンと言えばいいだろう。

 

 一発一発は高位階の魔法に比べ、威力こそ若干弱めなものの、それが大量の数、爆撃か、一斉照射か、というくらいの数、撃ち出されるのだ、結果的にそれなりのダメージへと繋がっていく。

 

(う…さすがにこのままではまずい…、だが計画は変わらない、術者の攻撃に移る。)

 

 エイン・ヘリアルが意を決し、イミーナに突進し始めた刹那、それに対して、エルドの方も落雷の直撃にも似た急降下で、エイン・ヘリアルに体当たりを仕掛け、地面に叩きつけた。

 

 それに一瞬の逡巡も見せないエイン・ヘリアルは執拗にイミーナへの攻撃へと行動を一貫させる。

 

 だが、それを許さないエルドは、「爆撃の翼王」にも迫りそうな程の突進で空を駆け、エイン・ヘリアルの背中に、一本の光の槍、ランスチャージにも似た肘打ちを敢行、ダメージによる一時的行動制限などはないものの、見事に狙っていた場所とは違う方向へと吹き飛ばされていた。

 

 エルドは、イミーナの前、エイン・ヘリアルとの間に立って、油断をせず生み出してくれた装備の持ち主の護衛を続ける姿勢を取った。

 

 

 闘技場の壁に叩きつけられながらも、痛みの制限のないエイン・ヘリアルは再度、突進を仕掛ける。

 

 今度はイミーナではなく、対象はエルドだ。

 

(こいつを排除しない限り、術者は倒せない、なら目の前のコイツから!)

 

 連続に次ぐ、連続、体力の尽きることも疲労を覚えることもないエイン・ヘリアルだからこその息をもつかせぬ連続攻撃、普通の相手ならそれだけでも充分だっただろうが、相手をしているエルドも、同様に「呼吸の必要もなく、疲労も覚えない」存在であることに変わりはない、その為、勝因となるのは自力の差だけだろう。

 

 片や、遠距離攻撃特化のキャラの残滓から発生したイレギュラータイプ

 

 片や、カースドナイトのクラスを取得しているナイト職でありつつ、信仰系魔法詠唱者でもある、総合能力最強の存在のコピー。

 

 

 筋力勝負になれば、多分エイン・ヘルアルに軍配は上がるだろう。

 

 だが機動力勝負であれば、エルドの方が恐らくは上だ。

 

 あとは装備の面では、エイン・ヘリアルもエルドも自前の防御力や魔法防御が決められているという点では見た目からの判断は微妙な所だ。

 

 

 しかし、直接攻撃という点では、エインヘリアルの武器にはHP回復の手段は講じられていない。

 

 ならうまく立ち回ればシャルティア個人よりは戦いやすいと言えるだろう。

 

 

 イミーナとエルドは装備者と、被創造物としての繋がりはしっかりとしている為、イミーナが頭で念じただけでエルドにはその意思が通じる、その為、コンビネーションの点では勝っている。

 

 

 多少、エイン・ヘリアルの連撃の直撃を受けつつ、エルドは攻撃をさばき、機会をうかがう。

 

 

 エイン・ヘリアルは冷静に、堅実に進めれば勝てると認識していた。

 

(多少でも自分と渡り合えるだけで相応のレベルだとは思うけど…威力に脅威は感じない、なら私の方が上!)

 

 内心で、そう結論は出しているが、油断で敗北をするつもりはない。

 

 チャンスの時は迷わず行かせてもらう!

 

 と思いながらの連撃で、エルドがエイン・ヘリアルの武器を大きく弾いたその瞬間に、体の中心線に開きが生じたのを見て取る、これは致命的なミスだ。

 

 エイン・ヘリアルが、その防御が解かれた部位に、自身の武器を一気に突き出す。

 

 

 (よし!これでコイツは終わり、あとは術者を仕留めれば…)

 

 と思考をめぐらせようとした瞬間に…。

 

 

「ガキン!!」

 

 

 いきなり硬質な音が響き渡る。

 

 

 意識を逸らしかけては居たものの相手から視線は外していなかったはず、と思いそこに目をやると…

 

 

 先ほど大穴を開けて1枚攻略したはずの防御用の盾板、それの残り一枚。

 

 だが、ただそれだけではなく、大きさがずいぶん小さい。

 

 見た感じ厚みもある…

 

 そう思いよくよく見てみると、8つ折りになって分厚くなっている四角い金属板と化したそれが、エイン・ヘリアルのランスの先端を受け止めていた。

 

 しかも、それが残された3枚分、重なっている、分厚くなり、貫けなかったのも道理だ。

 

 薄い防御でも、折りたたんで厚みを増して行けば、それだけ護りも厚くなる。

 

 ピンポイントでかなり危うい方法ではあるが、攻撃してくる場所が分かっていればそこに置けばいいだけ…そう考えれば、わざと隙を作り、攻撃を誘導されたのだと、やっとその時に気が付いた。

 

 …が、その貫けなかった8つ折りの板3枚分に意識を奪われていた瞬間、機動力を生かしたエルドが、エイン・ヘリアルの背側に回り、羽交い絞めにする。

 

 それと同時に、全身が電撃で構成されているエルドが、抱きついたエイン・ヘリアルに全力の放電を開始した。

 

 

 イミーナも、身動きの取れないエイン・ヘリアルを相手にして、ペロロンアーマーの雷撃弓を準備させ、狙いを相手に定め、エルドとの同時コンビネーション攻撃をお見舞いし、HPを削っていく。

 

 

(なんで? ここまでやってもまだ倒せないなんて…、どんなデタラメな体力してるのよ…)

 

 イミーナが内心で舌を巻く、このまま続けていれば勝てるかもしれないが、純粋な筋力勝負だとエルドではあの相手には負けてしまうかもしれない…引きはがされたらおしまいだ。という危機感はイミーナでも理解できていた。

 

(ならば、エルドの最後の手段…あれで仕留め切れなかったら、覚悟を決めるしかないわね…そうなったら、あとは…最悪、ロバーがあの修行の異空間で「レイズデッド」を覚えるまで特訓してくれることを願うしかないかしら)

 

 どこか冷静にそんな考えを浮かばせながら、イミーナが最後の勝負に出る。

 

 

「エルド! 全魔力解放! <稲妻、太陽落とし>よ!」

 

 

 稲妻、太陽落とし…それはペロロンチーノがユグドラシル時代、生み出すことに心血を注いでいたコンボの名前、「太陽落とし」が素になっている。

 

 例え、残滓であっても、この異世界に発現するくらいなら、きっとその理想もどこかに残っているのでは?という希望的観測でベルがイミーナに発動を促してみた所、ちゃんと発動して驚いた、という経緯があるものの、ベルリバーの知っている「太陽落とし」のコンボとは全く違うモノになってしまっていることは、致し方ないだろうなと思う、結局、この異世界に残されたのは「残滓」でしかないのだから…

 

 それにしても雷撃の身体だから頭に「稲妻」って入れたけど…妙にたっちさんの気に入りそうな技の名前になっちゃったな…という感想を抱いたのは、誰にも話していない。

 

 

 

 イミーナがそうエルドに指示をすると、エルドの電撃が一段と強く迸り、光り輝く。

 

 その電流の攻撃により、持続ダメージがエイン・ヘリアルに通っている中、空にまるで太陽でも現れたかのような…球状の巨大な雷球が出来上がる、それが落ちてこようものなら、正に「太陽落とし」だ。

 

 その光景に、拘束を振りほどくことを早めようと決心したエイン・ヘリアルの好きにはさせないようにと再びイミーナが指示を飛ばすと、エルドは、エイン・ヘリアルを羽交い絞めにしたまま、空に飛びあがる。

 

 

 エイン・ヘリアルの表情自体は全く変化はないが、そこに落ちつきはなく、焦りを物語るように体に力を入れ、拘束から逃れようとしている。

 

 

 エルドは、長くは持たない拘束をそのままに、次第に落ちて来る太陽のような雷球へと、そのまま空を駆け突っ込んでいく…

 

 

 そして…巨大な雷球に、エイン・ヘリアルごと突っ込んだエルドは、お互いに体力を削られ、焼かれながら…、地面にその「太陽」が落ちるままに身を任せる。

 

 決して、エイン・ヘリアルを自由にはさせないという覚悟と共に…

 

 

                    ☆☆☆

 

 

 地面に、太陽が堕ち、地表に激突するとともに巻き起こった爆発に巻き込まれたエイン・ヘリアル。

 

 巻き込まれるより前にかろうじて脱出に成功したエルド…。

 

 

 

 太陽の消滅、爆発の消失と共に、残されたエイン・ヘリアルは、地面に横たわった状態のまま、霧のようにその体を失わせていった。

 

 

 

 「ありがとう、エルド、よくやって…」

 

 

 と、そこでイミーナが労いの言葉を紡ぎかけた瞬間、意図しない場所から、予測もしない言葉が闘技場内に轟き渡った。

 

 

 

   「ペロロンチーノさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 次は「先鋒戦、エピローグ」に続きたいと思います。




やっとここまで来ました。

とりあえず、シャルティア戦はこの辺である程度、道筋は出来たかな?という感じ。

そこからは、どうしてもベルリバーさんが、不安材料が多すぎて身分を明かせない事情の解明を「それぞれの階層守護者達」に個別に質問することにより、誤解の解消を図りたいと思います。

3か月以上も放置してしまいすみません。

この話を書き始めた時に想像していた結末に行くかな…

それとも違った結末まで行っちゃうかは…その時にならないと解らないですかね…

あと、つい最近知ったこと、ベルリバーさんって4本腕で、剣2本と杖2本が標準装備だったんですね…そこらへん、作中で(作者が)追及しておりませんでした。

最期の方でつじつまを合わせられればいいかな。と思っております。

3か月遅れの最新話、お待たせしました。

なるべく次はこんなに遅くならないようにしたいと思います。
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