気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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とりあえず、お話はやっと守護者の二人目…

ここで勝てなかったら、2勝するのは多分、微妙なラインに陥ってしまいそうですね

感想でもありましたが、引っ張りすぎで申し訳ないです。

でも、自分の中で「省略して、スパッと決着」って言う流れになる程、ベルリバーさんも階層守護者の方々もザコっぽいか?
という想いが強く、それぞれにスポットライトを当ててあげたいんですよね。
多分コキュさんも「自分トテ、今マデズットアインズ様ニ実力ヲオ見セデキル機会ガ無カッタノダ…」と言ってらっしゃいましたし…活躍の機会が来て内心喜んでる部分はどこかにありそうですしね…

そこら辺のコキュさんの欲求はちょっとでも叶えさせたいところではあります。

 この場を借りて一言、いつもながら誤字の修正、指摘ありがとうございます。

 冥﨑梓さん、いつも読んでくださって感謝です、細く長くよろしくお願いしますね

 では、続きをお楽しみください。


第60話 次鋒2 コキュートス VS ベル (前編) 

「フハハハハ、イイゾ! ソレデコソ「プレイヤー」ト言ッタ所カ!モットオ前ノ戦士トシテノ輝キヲ見セテクレ!!」

 

 荒ぶる剣閃の応酬の中、まだまだ余裕ある感じでベルの剣撃をさばいているコキュートス。

 

 やはりレアリティ的に威力不足ということなのだろう。

 

 天ノ魔ブレードはレジェンドですらなく、神聖属性が強みなのだからコキュートスではその真価は充分発揮できそうにない。

 

 もう一本の武器、「無銘一刀 宜振」

 こっちの方はシャルティア戦の際、控室で、1000本ノックならぬ、1000本素振りを達成し、続きの素振り分も加わって攻撃力の上昇がされている、その分、武器の耐久値も底上げされている為、今の所こっちがメインで「実」の攻撃。 天ノ魔ブレードの方が「虚」の方を担当する形となっている。

 

 レジェンドクラスの防御力を誇る「甲殻装甲」を身に纏っているコキュートスに、天ノ魔ブレード程度の攻撃力では現状、ダメージを負わせるのは難しいが、隙を狙って装甲の継ぎ目、防御の薄い部分になら通じるのでは?と「実」の方の攻撃を織り交ぜながら「虚」の方で辛うじて攻撃の通じる幅を広げようと変化を繰り返している。

 

 しかし、それすらもコキュートスの複眼にはあらゆる角度からの攻撃が見えているようで、余裕のある感じでいなされている。

 

 ひどいのになれば装甲の厚さだけで、弾かれている攻撃だってあった。

 

(ここまで差があるとちょっとへこむな…武器に差があるとこうも違ってくるなんて…でも「今の自分」ではこのくらいが限界だろうことは承知の上で…だけどね。)

 

 こんな風に転移?だかなんだかって状態になるなら、イイ武器の1本でも残しておけば…と思うも後の祭り、サービス終了したらそもそも全部のデータが失われてしまうものと思って、ギルド長に最強の武器防具セットを預けちゃったんだしな…と、少しだけ後悔するも、こんな事態になるだなんて誰が想定出来ただろうか?とも思っていた。

 

 結局、自分はゲームシステムでならそこそこ出来たが、実際に腕が4本あるというだけの差が目の前にそびえるだけで、こうも苦戦するのか…と現実の厳しさに歯がゆさを覚えた。

 

「フム…先程ノシャルティアトノ戦イヲ見タ限リ、マダ手ノ内ヲ隠シテルト思ッタノダガ…見込ミ違イカ?」

 

(言ってくれるな、コキュートス…だがその言葉は今のとこ、正当な評価だ…、天ノ魔ブレードは決め手に欠ける程度の攻撃力だから、普通に甲殻装甲で弾かれる…「実」の刀である『無銘一刀 宜振』は辛うじて、“まともに当たれば”傷くらいは作れるだろう攻撃力に達したようだが、コキュートスの断頭牙がことごとく防いでいる状態…、まるで師範代を相手に「いつでも打ち込んで来い」と言われた剣術指南の時のようだ。)

 

 刀も剣も片手ずつ装備している為、刀を両手で握っていた時のように武器へ『粘り』を持たせることが出来ない。

 

 斬りつけようとした武器ごと…剣は装甲で、刀は断頭牙で弾かれる。

 

 その為、大きく流されそうになるも、それは老公の<即応反射>で無理やり体勢を戻し、再び斬りつけるという事の繰り返しだった為、老公も疲れ始めてきている。

 

 それだけやっても未だ、コキュートスの余裕を崩すには至っていない。

 

(いっそ大技を繰り出して…いや、それは悪手だな…、体勢も崩してない万全の相手にいきなり大技を繰り出しても…対処されるだけだろう。なら今はどうにかしてコキュートスの構え…守りを崩す必要がある。だがそれをどうやるか…そこが一番の問題だ…。)

 

「イイノカ? 後ロニイル仲間ト同時デモ私ハマッタク構ワナイノダガ?」

 

 余裕たっぷりに言ってのけるコキュートス。

 

 だが、本心は1対1の戦いこそ武人としての本来の在り方だろうと思っていることは自分でもわかる。

 

 「はい、そうですか」と複数で挑めば、スキルで範囲攻撃を出して来かねない。

 

 まだLV50のフレイラなら耐えられるだろうが、手加減の度合いが及ばなければアルシェちゃんが一撃で沈んでしまいかねない。

 

 距離を取っての援護射撃でも、意味はない、守護者は全員、飛び道具に対する耐性を得ていたはずだ。

 

 第三位階相当の雷矢など、「弱い魔力」と判断され、スキル効果で打ち消されるのがオチ。

 

 だからこそ、フレイラにアルシェちゃんのそばから動かないように…と<伝言(メッセージ)>で指示してあるのだ。

 

 武人としての近距離戦が一番得意なのは当たり前だが、遠距離攻撃の手段もコキュートスは持ち合わせている。

(たしか、中距離の相手には冷気のブレス(ブリザードブレス)の手段もあったはずだし…)

 

 その標的にされた時、かばってあげて欲しいと言い含めてあるから、大きく逸脱はしないだろう。

 

 とはいえ、自分の方も今のままでは打開策がない。

 

 課金アイテムも、こんな最初から使うような局面は想定してなかった。

 

 もう少し、いい勝負が出来ると思っていたのだが目算が甘かった。

 

 元々、同士討ち(フレンドリィファイア)が出来ないようなシステムだったため、敵として戦う場合という想定はしていなかった。

 

 

 しばし、こちらの動きを待ってくれていたコキュートスだったが、万全の守りの構えを解き、言葉を投げかけた。

 

「モウ手詰マリカ? モウ少シ何カヲ仕掛ケテ来ルト思ッタンダガナ。」

 

 

〝キチキチ″と音を立てて、フシューと冷気を吐き出した。

 

 落胆のため息でもついたのだろうか?

 

「ソノ程度ノ速度デイイノデアレバ、コチラトシテハ造作モナイゾ」

 

 そう言うなり、半歩前に出たコキュートスが、腕を伸ばし、所持している武器で最もリーチのある断頭牙を振るう。

 

 それは今の自分でなんとか反応することがギリギリ間に合うか…と言った際どいものだが、それを調整してやっているのだとしたら、意外に「手加減慣れ」しているのかもしれない。

 

「ぐ! ク!クソ…」

 

 軽口を間に挟む余裕すらない。

 

 口から言葉を発する方に意識を少しでも傾けると、一気に押し込まれそうな未来が視えてしまうようで恐ろしい。

 

「ダガ…ナカナカニ粘ルモノダ…今マデニ会ッテ来タ強者(つわもの)達ノ中デハ…オ前ガ一番カモシレンナ。」

 

 一瞬でも気を緩めれば、傷を負いかねない状況で、攻め手となっているコキュートスには余裕がある。

 

 こっちは受けに回るので、いっぱいいっぱいだというのに…。

(「そりゃどうも」の軽口一つ言う暇もないとは…)

 

 コキュートスはまだ一本しか武器を使っていないのにこれなのだ、ベルが武器二本で受けに回るのに専念していると、止まぬ攻撃の中、ぼそりとコキュートスが呟いた。

 

「ソロソロカ…」

 

 断頭牙の刃を受け続けるのに夢中でそっちに意識を割ける余裕がなかったせいもあるが、コキュートスの言葉に「まさか…」とそこに思い至るも、それはもう遅かった。

 

「パキン!」

 

 あっけなく、小気味良い音を立てて天ノ魔ブレードが、剣の半ばで折れた。

 

 

               ★★★

 

 

「私たちは加勢しなくて構わないの?」

 

 アルシェはベルとは距離を置いて後ろの方に立っている。

 

 そう促したのはフレイラだ。

 

 我が主人よりの<伝言(メッセージ)>で、そう指示されていたからだ。

 

『極力、自分だけで戦わせて欲しい…その間、巻き添えにならないように彼女の守りを頼む』

 

 そう頼まれていたのだ。

 

「えぇ、間違ってもむこうの剣技や魔法などの巻き添えにならないように…とのご判断です」

 

 恐らくそうだろうとは思っていたアルシェからすれば、少し悔しさが滲み出る。

 

(まだ、私は足手まといでしかない…)

 

 心のどこかでそれは解っていた。

 

 守護者という存在が自分よりどれ程に実力の差、開きがあるかくらいは先の戦いを見ていて肌で感じたことだ。

 

 あの速度を目で追うことも

 

 突き出され、振るわれる武器を避けられるかという点でも

 

 今の自分ではどうにもならないという事は理解している。

 

 ならば何故あそこまで食い下がったのか…

 

 それは少しでも防御の役に立てれば、と思ったのだ。

 

 この戦いが始まる際、自動展開できる浮遊盾を準備しようとしたがフレイラさんに止められた。

 

「1体1の戦いであれば、今回の相手はむやみにこちらへと害を及ぼしたりはしないでしょう…ただ、歯向かってくるようであったり、割り込まれるようなことでもあればどう思われるかはわからなくなりますよ?」

 

 そう言われたのが大きい。

 

 陰ながら自動防御で助けがあるだけでも違うのではないだろうか?

 

 そう内心で思っていると、フレイラが忠告を付け加えて来る。

 

「どっちにしてもその鎧の仕様自体…シ…先程の戦いで恐らく見破られているでしょう、ソレが割って入ればその源となるアルシェさんに危害が及ぶ恐れもありますから。」

 

 そう言われれば、イミーナが防御のためとはいえ散々乱用しまくっていたのだ。

 

〝実はベルさんの能力でした〟

 

 そんなその場しのぎは通じないだろう、見破られているというのは確かに覚悟しておく必要がある。

 

「でも何の助けにもなれないのは歯痒い」

 

 後ろで立っているだけで何もできない自分。

 

 戦力にすらなれない自分。

 

 イミーナはそれなりに戦わせてもらえていたというのに…

 

 その想いが胸の内を支配していく…。

 

 しかし、それを見抜かれたのかフレイラさんが優しく背中をなでてくれた。

 

「大丈夫です、これは御方が自身の意思でそう決められたこと、ならば信じて待つのが…あのお方の力にもなる…そうして待つことこそが今の私たちに出来ることかと…。」

 

「…でも結構、押されてるように見える。」

 

 戦士の戦いというものの駆け引きだのなんだのは、魔法詠唱者(マジックキャスター)であるアルシェには良く解からない次元の話だ。

 

 だが、それでも今のベルさんと対戦相手との実力差は開いているように見える。

 

 防戦一方という感じに見えていた。

 

 自分に出来ることなら、傷ついても…力になれるならば…と思いながらも、今の両者の間に入ればどうなるか…剣の勝負事に疎い自分でもどうなるかはハッキリわかる。

 

 そこでもやはり、自分の無力さに打ちひしがれ、不意にうなだれるように顔を下に向けたアルシェは見てしまった。

 

 

 自分の横に庇うように立っているフレイラさんの…私から見て遠い方の腕…その拳が強く握りしめられ、薄く血がにじむようになっているのが…

 

(フレイラさんも戦ってるんだ…)

 

 そう感じると、悔しい想いでここに居るのは自分一人じゃないんだ。

 

 と、思っている瞬間、それは訪れた。

 

「パキン…」

 

 小さくだが、確かに高い音を立てて、ベルさんの武器が折れる音。

 

 それがアルシェとフレイラ、両者の耳へと届いた。

 

 

               ★★★

 

 

「武器破壊の技を使った訳ではなさそうですね…単純に耐久値を削られてしまった結果…ですか?」

 

 ベルがコキュートスに対してそう告げた。

 

 折れた自分の武器を軽く持ち上げ、「折れてしまった」という現実と直面している。

 

「ソウイウコトダナ、悪イ剣デハ無イヨウダガ…ソノ程度ノ武器デハ私の断頭牙ヲ受ケ止メ続ケルニハ不足ダゾ?」

 

「貴方から見るとそうでしょうが、私からすればずっと手元にあって、苦楽を共にし、元々は「友より託された」武器…想い入れだってもう一つの武器と比べても遜色は無いのでね、例えそれが性能的に劣っていたとしても…。」

 

 折れた剣の、残された刀身に手を添え、持ち手の方向に滑らせると、刀身のみが消えるかのように収納される。 それを腰の帯に挟むようにして身に着け直す。

 

「ソノ武器ハモハヤ使イ物ニナルマイ、ヨリ強イ武器ニ持チ替エテミタラドウダ?」

 

 折れた瞬間に断頭牙での攻撃は一旦やんでいた。

 

 どうやらこちらが万全と判断できるまで待ってくれるようだ。

 

「それには及ばない…と言わせてもらいましょう、ご忠告はありがたいが折れたからといってすぐに見切りをつけるようでは、武器の方も真の意味で私に信頼を寄せてはくれなくなるでしょう。 今まで共に歩んできた愛剣を使い捨ての道具のように扱うつもりはありません。」

 

 そう言い放ち、ベルは刀を正眼に構え、自然体で立つ。

 

「出来れば、スキルだの武技だの…そのような手段や邪道な戦い方はしないで居たかった部分はありますが…どうやら素のままでの実力は明らかにそちらが上のようです、なのでこちらもその差を埋めるため、あらゆる手段を使わせてもらいますが、よろしいでしょうか?」

 

 フシュゥ…と、短く冷気を吐き出したコキュートスが感心したような言葉を返した。

 

「見事ダ…武器ニ対スル敬意ハ申シ分ナイヨウダナ…、面白イ!、邪道ナ戦イ方トヤラ、見セテミルガイイ!」

 

<レイザー…エッジ>

 

 ベルが発したスキルの名前、それはコキュートスも知っている。

 同様の効果を持つ技をベルも覚えているということに好意的な言葉が発せられていた。

 

「オ前モソレヲ覚エテ居タカ…ヨカロウ、ドレ程ノモノニナッタカ…存分ニ見セルガイイ!」

 

 ベルにコキュートスの言葉自体は聞こえているものの、その実、少し意識は別の事に向けられていた。

 

 ユグドラシルの時は、攻撃力を大幅に上げると同時に、攻撃する際の剣速も同様に上げてくれていたスキルなだけだったはずだ。

 

 だが、さっき覚えた違和感…、<レイザーエッジ>!と一気に言おうとした瞬間、腰の帯に挟んでいた「天ノ魔ブレード」の柄が一瞬震えた気がしたのだ。

 

 スキルの効果で、武器にそういう反応が出たのだとしたら、それもおかしい話だった。

 

 なぜなら、自分が今…手に持っている武器の方は全く震えた様な感触を感じなかったせいだ。

 

 まさか…と思うも、「エッジ」と言った瞬間、その震えの様な現象は止んでしまった。

 

(なにか仕掛けられてる?それとも隠された何かの効果?…いや、あまのまさんのことだ、データクリスタルだけでは実現できない自分の理想をテキストフレーバーに「こうなるのが夢」とばかりに書き込んでいるせいで起こった現象かもしれない…可能性として「無い」と言い切れないのがあの人だからな…。)

 

 どちらにしろ、今は相手が目の前に居るのだ、いつまでも思考をよそに向けていてはコキュートスにも失礼だ。と思い直し、意識を切り替えた。

 

「ソチラモ「スキル」ヲ使ウ以上、コチラモ使ワセテモラオウ、加減ハスルガ…コノクライナラ防ゲルコトヲ期待スル。」

 

 <風斬>!

 

 小規模の竜巻に似た、コキュートスの得意とする技の一つ、スキルだ。

 

 竜巻の周辺、外周部分に風の刃までもが渦巻いている為、接触する際に風属性のダメージと斬撃ダメージの両方が入るという設定となっていた。

 それが今、ようやく現実として目の前に迫ってくることに一種の感動を覚えるも、瞬時に意識を切り替える。

 

「ここが勝負の分かれ目」

 

それがハッキリとイメージ出来たためだ。

 

 だが…風(スキル)と風(魔法)の要素をぶつけた場合、どのように干渉しあうかというのはそう言えばまだ未検証だったという部分もあり、そこが一番不安ではあるが…

 

 ここはやはり、懸念材料があろうと『賭けてみるべき』と判断する。

 

 意識下で、体の内に保護している4人組に意識を向け、語り掛ける。

 

『時間が無いから手短に言うけど、ボクが魔法を使って、あの攻撃を大型にしてみる…もし出来ても出来なくても、一瞬は停止するはずだから、そしたらセピアの最後に覚えた魔法でアレの中心に、飛ばしてくれ!』

 

 返事を待たずに意識を切り離す、一瞬一瞬がコキュートスとの戦いでは綱渡りだ。

 

 自分がモモンガさんの魔法に憧れて覚え始めた数々の魔法…結局あそこまでの取得魔法数には至らなかったが…その中の一つ、彼の持つ魔法の一段下にはなるが自分の持つ風属性で一番位階の高い魔法を<風斬>に被せるように発動させるイメージを作る。

 

 そう…相殺させるのではない、あるポイントで<風斬>を僅かな間だけでも静止させるため…初めての試みなので「一か八か」の要素があるのはこの際、気にしてる余裕はない。

 

大竜巻(サイクロン)

 

 自分のイメージする中ではぶつけるだけではダメだ。

 

 回転の方も逆では意味がない。

 

 回転の方向も同一。

 

 発生させるポイントも寸分たがわず同じであるのがベスト。

 

 「そこだ!」

 

 ある地点まで来た、迫りくる<風斬>。

 

 その足元から突如、発生した竜巻…同じ方向に回転し、風斬を巻き上げて渦を巻く。

 

 空に向かって打ち上げられるような勢いで発生した大竜巻は、コキュートスの<風斬>を

呑み込んで大型の竜巻へと変貌していく。

 

(だがそれも僅かな間だけ…威力という点でもコキュートスのスキルの方が明らかに上だからな…)

 

 ベルの予想通り、威力としては<風斬>の方が上、しかし上空にまで広がった「範囲のみ」で言えば<大竜巻(サイクロン)>の方が上。

 

 互いが互いに干渉し合い、「その場で」打ち上げられている<大竜巻>に引っ張られ、その場から先に動けなくなっている<風斬>を見て…

 

(ひとまず、コレに関しての『賭け』には勝ったな…)

 

 そう考えていると自身に、魔法の発動の気配を感じる。

(セピアだな…)

 

 そう思った次の瞬間、セピアの<次元の移動(ディメンジョナル・ムーブ)>が発動する。

 

 自分が覚えてない訳では無い、今後を見据えてのMP節約のためだ。

 

 すると視界が一転。

 

 そこは<風斬>の中心地。

 

 いわゆる台風の目というには明らかに狭い無風空間でしかなかったが、今はそれが好都合。

 

 自然に腰のベルトが反応する。

 

 周囲に風の気配を感知したのだろう、そのベルトに組み込まれた最大の特徴が今、産声を上げた。

 

 左右の風車がうなりを上げて回転し始め、それと同時に周囲一帯に荒れ狂う<風斬>と<大竜巻>…それを一気に吸収、吸い込んでいく。

 

 

 

 結果、コキュートスが繰り出した<風斬>は、相手にダメージを与えることなく、どこへともなく消えたようにしか見えない状況で終わる。

 

「ヌオ!!」

 

 一瞬の驚きに、意図せずに唸ってしまったコキュートス。

(ナン…ダト?<風斬>ヲ…カキ消ケシタ? 相殺デハナク消失サセタトデモ?)

 

 

「どうしましたか?私がこの程度、どうにか出来ないとでも? 随分見くびられたものですね…」

 

 やれやれ…という仕草で肩を僅かばかり竦め、肩より少し上に、手の平を上に向けた感じで、大げさに顔を左右に振っておく。

 

 それを挑発と受け取ったのか…コキュートスが少し嬉しげな…それでいて気の引き締めた様な張りのある声で、腰を落としつつ構えを取った。

 

「ナラバ全力ノ<風斬>ヲ見舞ウトシヨウ! コレハドウ防グ!」

 

 

               ★★★

 

 

(あっちゃ~…コキュートス、完全にベルリバーさんの術中にはまっちゃってないか?)

 

 審判の立場で戦いの採点をする立場である自分が、両者のどちらかに肩入れするというわけには行かない、そんなアインズからしてみれば見守るしかないのが歯がゆい、ベルリバーもNPCも…どちらかを応援することも出来ないのだから、それはしかたないだろう。

 

(でもどうやったんだ? 確かベルリバーさんって<風斬>を呑み込んじゃうようなアビリティやスキル、持ってたっけ?<暴飲>の方はMPが必要な技や魔法全般、それがスキルであっても一部MPが消費されるなら有効だけど…<風斬>はMP必要ないし、そっちは関係ないよな…)

 

 アインズはしばらく、思考に入る。

 

(対して<暴食>の方は、現在レベルを上限とした数値までの物理攻撃や、召喚、招来モンスター&眷属なんかを吸い込める能力だから…風で全体を構成された<風斬>とは相性が悪いと思ったんだが…本当にどうやったんだ?)

 

 

 

「悪イガ、コチラモ同ジスキルデ対抗サセテモラオウ!<レイザーエッジ>…イクゾ! <風斬>」

 

 コキュートスが構えを取ってまで繰り出した、全力の<風斬>。

 

 先程のとは規模も何も違う…

 

(これがコキュートスの全力で振るった<風斬>…か)

 

 さっきの手加減<風斬>を吸い込めたことにより、「風車のベルト」の効果で第一段階のランプは緑に点灯している。

 しかし第二段階を表すランプは緑の灯りが「点滅」している。

 

 第二段階まであと少しだが、まだ少し足りない。

 

 そういう表示だ。

 

(第一段階までは比較的楽に条件は満たされるんだけど…第二段階って第一段階の2倍。そして第三段階になるには…多分それ以上は必要だろうな…)

 

 そう…だからこそ、コキュートスの<風斬>は必要だったのだ。

 

 対して、武人であるコキュートスからすると、手加減したとは言え自分のスキルで繰り出した技がダメージも与えずに消失してしまったのだ。

 

 力量が足りなかったのか、それとも相手との相性が悪かったのか…まだ判然としないため、次は全力で行くことを決めていた。

 

〝手加減して及ばなかったのであれば、全力で対するのが礼儀〟

 

 それが武人として生み出された自らの矜持。

 

 至高なる創造主より賜った自らの生き様である。

 

 必然、全力でもう一度出してくれることになるだろう事はベルにも理解出来ていた。

 

 さっきまでの第一段階まですら行ってなかった「風車のベルト」ではコキュートスの手加減<風斬>を正面から吸い込むことはまず難しかったろう。

 

 無傷とはいかず、吸収しきれなかった分はダメージを受けたかもしれなかったのだ。

 

 だから安全策を取って台風の目から吸い込む必要があった。

 

(竜巻の方はともかく、風の刃の方は吸い込めるか心配だったけど、無事に吸い込めたようだ。)

 

 そして今、第一段階の強化は自分の中で済んでいる。

 

(腹の底、というべきか、下腹部…いや、臍下丹田から熱が込みあがって来ているかのような力の波動を感じられるな。)

 

 今なら、<風斬>を正面から受け止めても吸い込めるだろう。

 

(さて…どれくらいの風力が溜まるのか…楽しみだな。)

 

 

 

 迫りくる<風斬>の旋風撃。

 

 それは実に、先ほどの<風斬>より少なくとも一回り以上は確実に大きかった。

 

 風車のベルトによる第一段階の強化状態に入ってるベルは、今ならば…と決意し、組み込まれた機能を発動させる。

 

「吸い込め!ツインスクリュー!!」

 

 風車のベルトに内蔵されている、両側に左右1つずつ存在するプロペラが同時に、うなりを上げて回転し始め、目の前にまで迫った旋風を一気に吸い込んでいく。

 

 そして、吸い込んだ風力を、そのまま自身の力へと変換していった。

 

 

 

 すると、ベルの頭の中で、以前にも聞いたことのある声で新たな情報が追加されたというアナウンスが流れていく。

 

『第二段階に到達 … 全ステータスの第二段階の強化を適用しました。 付随して左右の風車が本来の性能を発揮させたことにより「力」と「技」の2つのステータスが上限を超えて強化状態に入ります、吸い込んだ風力に応じて追加補正も加わりました。』

 

「第三段階に到達 … 全ステータスの第三段階の強化を適用しました。ベルトの「Dポイント」がエネルギーを充填させたことにより、シークレットモードに移行します。『26の秘密』が適用されました。名称と効果の記載されている全ての『必殺技』を使える様になりました。」

 

「え?…ちょ!」

 

(唐突にそんなこと言われても『なにそれ?』としか感じないよ?必殺技ってなに? 26の秘密って? 今更、新たな謎を盛り込まないでくれないかな…?「力」と「技」のステータスが上がるのは知ってたけど…『第三段階』の説明は初耳だぞ? …たっちさんか?たっちさんのテキスト設定が猛威を振るってるのか?)

 

 少し頭が痛くなってきたような気分になったベルは、頭を抱えそうになるのを必死に抑え、コキュートスに目を向ける。

 

 すると、コキュートスは僅かな時間ながらも放心していたのか、視線を向けられたことで己を取り戻したようだった。

 

「フ…フフフ…イイゾ…ソコマデトハ思ッテイナカッタガ、ヨモヤ<風斬>を無傷デ…シカモ吸イ込ンデシマウトハ…ココハ敢エテ謝罪スルトシヨウ!ドウヤラオ前の実力、ソレヲミクビッテイタヨウダ!」

 

 なんとかコキュートスから「実力を認めよう」という意味の言葉を引き出すことが出来、ひとまずは正体が判明してもコキュートスに見くびられる心配は減ったことに安心するも、今以上に本気で来られた場合、どこまで対抗できるか…そこが問題だ…と気を引き締めた。

 

(どうにかして、コキュートスに対抗できる技を使いこなすことは出来ないか…、勝機があるとすればコキュートスが本気を出すより前に、こっちの高火力のスキルや、正体不明の『必殺技』とやらで削り切るしか道はないんだけど…たっちさんが何か、ヒントとか言ってなかったかな?…思いだせ、何でもいい、思い出すんだ!)

 

 

 かつて、ユグドラシルで『風車のベルト』をたっち・みーより受け取り、試運転がてら、性能実験をたっちの説明を受けて体験させてもらっていた時の…今となっては遠い昔の場面を必死に記憶から掘り起こしていく。

               ・

               ・

               ・

「どうですか?ベルリバーさん、その「風車のベルト」の使い心地は?」

 

 そう聞いてきたのはこのベルトをわざわざ作ってくれた元クランマスターだった、たっち・みーだ。

 

「これはすごいですね!上昇値の数値も桁外れですし、それが第3段階まであるだなんて…これって作るの苦労したんじゃないんですか?」

 

 反応を返したのはかつての自分、ベルリバー。

 

 もちろんユグドラシルをプレイ中での会話である。

 

「まぁ…うちの娘もそろそろ入学の時期ですからね…お受験というのも大変でして…近々、イン率も低下しそうな感じなんですよ…嫁からも「いつ引退してくれるの?」って言われてますし…ならいっそ、自分が居たって言う確たる証…とでも言えばいいんでしょうかね?そういう物を残していきたかったんですよ。」

 

 寂しそうに顔を下げるようにうなだれながら言葉を紡ぐたっち・み-。

 

 しかし、せっかく二人で居るのに雰囲気が重くなったのではいたたまれないと思ったベルリバーは少しだけ話題を投げかける。

 

「早いですね…この前、娘さんが生まれたとかでギルドパーティしたばっかだって意識だったんですが…そうですか…もう小学校…中学とか高校とかはどうするんですか?」

 

 少しだけ顔を上げてくれたたっち・みーは空を見上げるようにして言葉を出していく。

 

「もちろん、娘の為なら高校だろうが大学だろうが行かせたいんですけどね…そうなるとウチの近所だけでは…そうなると遠方の……あ!すみません、こんな話……。」

 

「いやいや、イイんですよ、こっちが聞いた質問なんですから、その返答に不快感を表したりしないですって、アーコロジーの事でしょ?」

 

 これがさらにもう一人、ウルベルトが居たなら雰囲気はもう少し悪くなったであろうが…今は自分とたっちだけなのだ。

 

 別段、腹を立てる内容だったわけでもないので、少し話題を変えてみる。

 

「そんなお忙しい中、ここまでのを創ってもらえたなんて嬉しいですよ…でもこれ、たっちさんの方が使いたいんじゃありません?」

 

 少し意地の悪い質問かな?とも思うが、ちょっとくらい今の雰囲気はどうにかしたかった。

 

「いえ、自分の装備、「コンプライアンス・ウイズ・ロー」は全身鎧扱いですからね、腰ベルトの装備箇所なんて確保できませんから、ベルリバーさんが使って下さい。」

 

 明るく言う言葉にウソは無いようだ。

 

 ユグドラシルでは表情の変化は作れないが、手や指の動きで今の心境を表すことは出来る。

 

 拳を作って親指を立てるたっち・みーの仕草は、好意的な意識の顕れだ。

 

「あの時のことはたっちさんのせいじゃないんですから、未だにそれを引きずったりすることないんですが…、たっちさんより、よっぽど「るし★ふぁー」さんに償ってもらいたいですよ、あの時のことは!」

 

 ちょっとだけ憤懣やるかたない雰囲気を出したベルリバーにたっち・みーからの返事が返される。

 

「それについては…本人から口止めされていたんですが、ここで言って置きますね、決して彼にはこのこと言わないで欲しいんですが…彼もなんらかの装備を作ってるらしいですよ?…あと、チョットした悪戯用のゴーレムとかも作成中らしいです。」

 

 

「え?あのるし★ふぁーさんが?その装備って悪戯とか仕掛けられてないですよね?」

 

 いぶかし気な声で問う言葉に、たっちもしばし考えてから言葉に出していく。

 

「いや、そんなことは無いと思いますが…、あ、でも悪戯用のゴーレムには私達も製作に付き合わされちゃいましたね。」

 

「え?? まさか! たっちさんが?」

 

 るし★ふぁーとたっちの共同制作など初の事態なので、意表を突かれたベルリバーが素っ頓狂な声で反応してしまっていた。

 

「あ、私だけじゃありませんよ? あまのまさんとかも特別監修で協力しているので…」

 

 イヤな予感がしたベルリバーが不安な要素を思い浮かべ、それをたっちに問いかけた。

 

「まさか…ガルガンチュア並みかそれ以上の巨大なロボ調で、しかも合体変形とかなんかしませんよね?」

 

「ま…ままままま、まさか! そ…そんなこと…。 ぁ、ベルリバーさんはなんでそんなこと気になったんです?」

 

 明らかに挙動のおかしくなったたっちの事はとりあえず深く追求しないことにして訊かれたことに応えることにした。

 

「たっちさんとあまのまさんがそろったら、とりあえずそっち方面を気にするでしょ?それにゴーレムクラフターのるし★ふぁーさんまでもが加わるんなら、「巨大ロボ」のジャンルは容易に行き着く結論じゃありません?」

 

 腕を組みながら、たっち側の手で、人指し指をたっち・みーに向けると、少したじろいだような仕草をした後、「ここだけの話」ということでちょっとだけ聞かせてくれた。

 

 曰く、以前戦隊もののコスチュームの製作をして集合写真を撮った「あの時」の遊びに「るし★ふぁー」は誘われなかったことに少し意趣返しをしたくなったらしく、製作を思い至ったらしい。

 

 しかも、写真に映ったメンバーを仲間外れにして、それ以外のメンバーにも声をかけるように共同開発を始めたらしいが、最初こそ「やめよう」と止めようとはしたらしいが、構想を聞いてるうちに作るだけ作りたくなってしまった二人を巻き込んで、どんどんノリのいいメンバーが集まりだし、最後にはかなりの完成度になった為、たっちの主導の下、とある条件下でならそれが起動するようになる。という限定的な措置が取られたようだ。

 

 たっち・みーからしてみれば、撮影の声はかかっていたが、仕事で都合がつかなくなったため、その日は参加できなかっただけで、一応声はかかっていたが、「写真に映っていない」という一点でたっち・みーに声をかけてきたるし★ふぁーに、敢えてそのことは伝えなかったそう。

 

「だから、よほどじゃない限り、アレが動き出して騒ぎを起こすことはありませんよ」

 

「まぁ…そういうことなら、その件はこの場だけの話としておきましょう」

 

 

 ひとまず、その件はそれで終わりにしようと思ったベルリバーは当初の話をもう一度引っ張り出して、再度たっちに話し出した。

 

「それはそうと…このベルト、『強風地帯』だとかそういうエフェクトの存在するマップとかじゃないと恩恵に預かれないのは辛いですね。」

 

「それはそうなんですが…その部分は私も譲れない要素でして…だからこその「風車のベルト」ってことで、許してください。」

 

「まぁ…いいですけど…これで、モモンガさんの<大顎の竜巻(シャークスサイクロン)>だとかスキルの<風斬>だとかを吸い込んだりできればまだ使い勝手もいいんでしょうけど…」

 

 何気なくそう呟いだベルリバーに、たっちからの言葉がまた帰ってくる。

 

「それはそうかもしれませんが同士討ち(フレンドリィファイア)の制限もありますから難しいでしょうね…かと言って敵からの攻撃を吸い込めるようなデータクリスタルなんて存在しませんし…」

 

「そこらへんは解っていますが…このベルトからレーザー砲とか撃ったり出来る仕様があれば面白かったかもしれませんけど、攻撃に使えないのは残念ですね。」

 

 答えが返ってくることを期待しての言葉では無かった呟きではあったが、たっちから衝撃的な言葉が帰って来た。

 

「攻撃ですか? できなくはないですよ?」

 

 

 

「え???」

 

 

 

 いきなりなことにしばらくたっちの方を見たまま硬直してしまったベルリバーの反応が少し面白かったのか、詳細について聞かせてくれた。

 

・溜め込んだ風の力を利用して、巨大な竜巻を作り出し、周囲の敵を薙ぎ払い、うち砕くほどの広範囲攻撃がそのベルトにはあるとのこと。

・一度、ソレを使うと、3時間の間、ベルトの機能は停止してしまい再起動まで時間がかかる。

・その技は、ベルトに内封される「26の秘密」の内の技の一つだという…。

 

 一通り、立て板に水のような説明を聞いていたベルリバーはその情報を頭で反芻しながら、一つ、気になったことを聞いてみる。

 

「その能力って、なんて発声すれば効果を発動するんです?」

 

「ん? …そうですね、いっそ『リバース・ツイントルネード』とでも名付けますか!」

 

「それって、思いっきり思い付きで今導き出したでしょ! ひょっとして「風車のベルト」に込められてるんじゃなくて「元となった」物の情報じゃありませんか?」

 

「おぉ!さすがベルリバーさん!良く解かりましたね。」

 

「わかりますよ、3時間の再詠唱時間(リキャストタイム)はともかくとして、その間の冷却時間(クールタイム)は、さすがにユグドラシルのデータクリスタルでは再現不可能でしょ?」

 

「いやいや、わかりませんよ?まだ発見されてないだけで、どこかには存在するかもしれませんし」

 

「ワールドアイテムで運営に物申して、作ってもらうって手段はあるかもしれませんが、それでも自分が入手できるかどうかはまた別問題じゃないですか?」

 

 冷静に可能性を検討して導き出したベルリバーの言葉に反応して、たっちも驚いたような声音でその言葉に答える。

 

「いいですね!今から『五行相克』でも探しに行きますか?」

 

「やめてくださいよ。私だってしばらくはイン出来なくなるかもしれないんですから、変なイベント発生させないでください。」

 

 少しの間、お互いに笑い合うかのような時間が過ぎた後、僅かな静寂が訪れ、どちらからともなく言葉が飛び出してくる。

 

「また、いつか会えるといいですね」

 

「えぇ、きっと」

 

 そして別れ際、たっちからベルリバーに最後となる言葉が投げかけられた。

 

「今度会った時には、絶対にそのベルト、返してくださいね!」

 

 

 そう言って、たっちが手を振りログアウトして行った空間に向けて、ベルリバーも届くことのない言葉を返していた。

 

「えぇ…いつか…きっと…。」

 

 お互いに、もう恐らくは会話を交わす機会などそうそう無いことに気付いているだろう中、「次があるなら…」という希望をつないでおきたい面もあったのだろう2人の言葉が風にさらわれて流されて行くのだった。

               ・

               ・

               ・

 そして、意識を現実へと戻したベルはこう思っていた。

 

(使える情報がほとんどなかった!!)

 

 しかし、確定している技の一つは思い出せたが…

 

 恐らくたっち・みーがテキストベースに詳細な設定をこれでもかと、文字数の許す限り詰め込んだのは想像に難くない、ならばこっちの世界でなら発動もするかもしれないが、デメリットの方も反映してしまうだろう…

 

 それならいきなりそれを使うことは最悪な展開になりそうな気がする。

 

 そう思案していると、目の前にコキュートスが迫って来ていた。

 

「戦場ニオイテ、相手カラ意識ヲソラスナド、自殺行為ダト教エテオコウ!」

 

 大きく上に振りかぶった武器に纏う<レイザーエッジ>の光。

 

 それが振り下ろされるかと思った瞬間、コキュートスの刀の側面に、湾曲した薄い鉄板の様な物が接触し、軌道がずらされ、辛うじてベルの肩を掠める程度に収まったが、掠めてはいたはずなのに傷がどこにもない。

 

 意識を自分の中に向けるようにすると、自分の中に何かが刻まれてるような違和感があった。

 

 それは自分のスキル<捕食>の効果。

 

 なにかを胃の中に入れ、「消化」「捕獲」のどちらかを選択した際、胃の中の存在は意識を手放す事になる、どちらにしろ意識を保っては居られない。

 

 しかし、『「消化」or「捕獲」?』の選択ウィンドウのような何かが自分の中に発生している状態で放置していると、胃の中に居る存在は意識を手放さずに、過ごすことが出来る。

 

 ちょうど、そのような感じで、自身の意識の中で何かが新しく刻まれているのがわかる。

 

 そこに深く意識をむけると

 

「特殊強化筋肉発動中 - マシンガンの銃弾すら弾く特殊合成繊維製の筋肉。」

「特殊スプリング筋肉発動中 - 肩部のあらゆる衝撃を吸収する特殊筋肉で強度は特殊強化筋肉の10倍。」

「エナージ・コンバータ発動中 - 2つのスクリューから吸い込んだ風力エネルギーの貯蔵装置。左右それぞれで2基分の性能を持つ。」

 

(そういうこと?なら残す秘密はあと…22か…メモでもした方がいいのかな?)

 

 などと一瞬だけ意識を逸らせた刹那、コキュートスも別のことに意識を向けていた。

 

(コノ浮遊スル板ハ…シャルティアトノ時モ使ワレテイタ物ダナ…)

 

「1対1ノ果シ合イノ最中(サナカ)、女子供トハ言エ、割ッテ入ルナド、無粋!!<穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)>」

 

 コキュートスの突き出した手から、氷で固められた氷弾、その先端には鋭利に尖った塊がいくつも出現し、アルシェに向かい、撃ち出される。

 

 アルシェの身に着けた装備はイミーナから譲渡され、装備し直した際に、浮遊盾に負ったダメージ、貫かれた穴などは修復された状態となっていた。

 

 その為、耐久値も戻っているはずなのだが、一枚の浮遊盾、それを4つ折りにした状態で防いでいても、その厚みさえ易々と貫通した氷弾が、勢いすら落とすことなく彼女を刺し貫くべく飛来する。

 

 自分がそれに貫かれ、絶命する想像を視野に入れながら、身を硬くしていると、目の前に黒い影が立ちはだかり、すぐ目の前でその氷弾が霧散し、消滅した。

 

「フレイラさん…」

 

「この者に危害を及ぼそうとするのなら、私の全力で以って防がせていただきます! 決して足手まといになどなりませんので、お気の済むまま、お臨み下さい!」

 

 その声はアルシェに向けたものでは無いだろうということは理解してくれていたようだ。

 

 そうフレイラには感じられた。

 

 その言葉を向けられた当人にもそれは解っていて欲しいとも心で望んでいる。

 

 きっと伝わっただろう。

 

 その言葉に導かれるように、彼女らにとって一筋の希望がコキュートスの背へ予想外の衝撃として突き刺さる。

 

 それは決して油断していた訳ではなく、いくつもあるコキュートスの眼により、油断なく周囲を伺って居てもなお、対処しきれぬ速度となって追突を許してしまっていた。

 

 

 

               ★★★

 

 

 

「1対1ノ果シ合イノ最中(サナカ)、女子供トハ言エ、割ッテ入ルナド、無粋!!」

 

 ベルを目の前にしたまま、コキュートスは少し体勢を半身にするようにして体の片側のみを目の前のベルに向け、油断なく断頭牙を突き付けている。

 

 そして、残る半身で見据えているのは後方に位置しているアルシェ。

 

 コキュートスには2つどころか複数の眼があるが、どちらも片側ずつ両方向を見据えように立ち、武器を持っていない手をアルシェに対して向けた。、

 

(まずい!)

 

 ベルは自らの失態を悔いた。

 

 わずかに意識を逸らしてしまったために、自分をかばおうとしてくれた相手を窮地に追い込んでしまったためだ。

 

 しかし、一応フレイラを護衛に残しているとはいえ、彼女に持たせているのは「骨竜の核石(スケリトル・コア)」というドロップアイテムから創り出したアクセサリ。

 

 バングル状にしてあり、両手首に装備すれば第6位階までの魔法、自らに不利益を与えようとする効果のみを消失、無効化させるもの。

 

 ベルはコキュートスの氷系の魔法で、好んで使われるのは第6、第7位階あたりだったように記憶していた。

 

(とは言え、それもプレイヤーVSノンプレイヤーでの攻防戦に於いて…だったから、自意識を持った今の状態ではどうなるかまでは何とも言えないけど…)

 

 しかし、のんびり考えてる暇はない。

 

 こちらへの意識を逸らさずにいるならば、少しでも自分が動かなければ下手をすればフレイラごと、アルシェちゃんも串刺しにされてしまいかねない。

 

 そう判断を下し、ベルが足へと力を込める。

 

 体を屈ませ、コキュートス相手に突進を見舞うべく一気に踏み出そうとした瞬間にソレは起こった。

 

 目の前が灰色一色に染まる。

 

 まるで時間停止が起きたかのような光景にも構うことなく、つま先に力を入れ、さらに踏み込みを強くさせると、再び先程のアナウンスが脳内に響いてきた。

 

 

〝条件が満たされました。

 

 相手への攻撃の意思表示により、以下の攻撃手段が選択できます。〟

 

 そう告げられると、脳内にいくつもの選択肢が流れていく。

 

 正直、どうでもいいという心境だ。

 

 どんな手段でもいいから今、コキュートスを止められなければ二人も傷つけることになる。

 

 そう言う焦りも手伝い、灰色一色の世界で高らかに叫ぶ。

 

「なんでもいいから、一番最初のだ!!早く!」

 

 

 そう叫ぶなり、脳内に響いていた声がその叫びを受け入れた。

 

〝選択を受け付けました。

 

 選択肢1、26の秘密の一つ、ドリルアタックを遂行します〟

 

 

 その声が終わった瞬間に、自分の身体が吹き飛んだかと思うような勢いで踏み込みが成され、コキュートスに肩で体当たりしようとしていた自分の視界が歪み、世界が回る。

 

 自身に何が起きたのか一瞬わからなかったが、どうやら体全体が肩の部分を中心として、技(?)の名称通り、ドリル回転を始めたようだ。

 

 いきなりの速度上昇効果による突進により、断頭牙を向けていたコキュートスも、きりもみ回転をし続ける対象に武器攻撃で当てようとしても回転で反らされると判断したのか、それとも今までの速度とは段違いの射出から生み出された体当たりに、予測していた以上の威力を感じたのか…、背中にある氷柱のような部分を犠牲にすることで、ドリルアタックを一番硬い部分で受け止め、最小限のダメージに抑えていた。

 

(う…まだ少し目が回る…だが、衝突する寸前、フレイラから何か声がかかっていた気がするが、それどころじゃなかったな…それに脚力がケタ違いに上がってる。今までの感覚で居ると全体のバランスが乱れすぎな気がする…自分で調整するか…)

 

 ベルもコキュートスも、お互いに崩された体勢を起こしながら、再び目の前に居る相手に意識を向ける。

 

「戦場に於いて、相手から意識を逸らすなど、自殺行為…じゃなかったか?コキュートス?」

 

「ムゥ…タシカニソレは先程、コチラガ忠告シタ言葉デアッタナ…シカシ、意識ヲソラシテハイナカッタツモリダガ…アノ2人ハ、ソンナニ大事ナ存在カ?」

 

 コキュートスに問われ、僅かの逡巡も無くベルの返事が響く。

 

「論じるまでもありませんね」

 

「ワカランナ…アノ者ハ、ドチラカトイエバ、コチラ側ニ近イト感ジテイルノダガ…気付イテナイ訳デハアルマイ?」

 

(それは多分アルシェちゃんのことじゃなくフレイラの事だろうな…やはり同じ拠点で生まれたNPC同士…相通じる何かを感じているとしても不思議ではない…か…)

 

「フレイラのことか? あぁ…もちろん承知の上だ…だが、それがどうした?種族が違ったら仲間になってはいけないのか?住む世界が違ったら、敵対せねばならないのか? 信頼を培い、絆を深めてはいけないとでも言うつもりか?お前はどうだ?コキュートス! 自分とは別の種族とは分かり合えんとでも思っているか?」

 

(確か、コキュートスはリザードマン達を統治し、繁栄させる任を請け負ってると聞いてるしな…そこまで狭量では無いだろうが、まだ今の段階ではネタばらしは早い、まだもう少し隠させてもらうぞ)

 

「我々ハ、人間ドモニ攻メ込マレタコトガアル…コノ墳墓ニイル者ラノ殆ドハ人間ニ良イ印象ハ持チ合ワセヌノガ大半ダ…分カリ合エント断言スルツモリハナイガ…手放シデ受ケ入レラレル程、我等ガ抱エル人間へノ感情ハ易々ト消セルモノデモナイ。」

 

「そうですね、こっちも他の奴らみたいに『あの程度のくだらないクラス』を入手する為だけに目の色変えたようになって異形種狩りに没頭したり、数にものを言わせれば勝てる!とでも言いたげに、1500人もいれば陥落させられるだろうなんて思い込んで、無策でつっ込んで来るおめでたい連中と同列に見られるのは遺憾ですね…ハッキリ言ってあんな連中、返り討ちにしてくれて溜飲が下がる想いだったのは本心でしたよ。」

 

「ホォ…人間種ニ肩入レシテイル訳デハ無イトイウコトカ?」

 

「当たり前ですよ、揃いも揃って、バカみたいに「異形種狩り」だの「ポイントゲット!」だのと浮かれて他人を犠牲にして…中級者にもなっていない者らを虐げている事に快感を覚え、あまつさえ自分達が狩られる立場になった瞬間、命乞いや、恨み言を言い始め、自分らが今までしてきた行いを同様に返される可能性にすら気づこうとしていない連中になんで『仲間意識』のようなものを抱けると思うのです? 私はただただ胸糞悪いだけでしたね。」

 

「ナラバ、オ前ハ『アノクラス』ヲ所有シテイナイト…ソウイウコトカ?」

 

「えぇ…多少異形種に対した際のステータスアップと、異形種特効のスキルをいくつか覚えられる程度のクラスでは興味などありはしませんでしたね…次元断切(ワールドブレイク)はおろか現断(リアリティスラッシュ)並の攻撃力すら発揮できない程度、しかも攻撃以外では索敵や、感知に多少のボーナスが入るとは言え…完全不可知化(パーフェクトアンノウアブル)や、課金アイテムでの気配消しなどさえあればごまかせる程度の性能…その程度じゃわざわざクラスレベル分の数字を潰してまで身につける意味など見いだせなかったのですよ。レア度で言うならば余程、コキュートス、あなたの『ナイト・オブ・ニヴルヘイム』の前提職『ブリザード・ナイト』の方が耐性の上でも、破壊力の点でもクラスとしての格でもずっと上だったという事実からして…推して知るべし…だと思いませんか? ヤツラはただ物珍しさに踊らされた愚者なだけでしたよ。」

 

「ナラバ、オ前ナラソノ技ニ匹敵スル攻撃手段ガアルト?」

 

「匹敵するかどうかは何とも言えませんが…、とりあえずお目に掛けることは出来るかもしれませんね。」

 

「ホォ…ソレモ先程言ッテイタ『邪道』ナ戦イ方ノ一端トイウコトカ…ナラバ見セテモラオウカ!!」

 

「あまり期待されすぎても、お眼鏡にかなわなかった時、落胆させるのも申し訳ない気はしますので、あまり過度な期待はしないで下さいね」

 

(あんまり大見得切っといて予想が外れた時、かなり恥ずかしいからな…ハードルを上げ過ぎないようにしておこう)

 

 そうして、ベルは初めての試みをこの場で披露する決心をした。

 

 武技!<阿修羅(アスラ)

 

(すまないな、コキュートス…お前の持つクラスの名前、少し借りる。ついに自分では取得できなかった憧れのクラスだ…せめて武技としての名前で使うくらいは許してくれ…)

 

 ベルがその武技の名前を叫ぶと、脇の下からもう一対の両腕が突如出現した。

 

 実を言うと、ベルリバーは新しい武技を習得などしていない。

 

 エルヤーを捕食し、消化した際に身に着いた技ならば問題ないが、それ以外の武技を覚えた訳では無い、本来のアバターの姿、そのうちの一部、4本腕を披露するための苦肉の策である。

 

(さぁ、これで腕は4本、本数だけなら互角になったが…装備の方が問題だな…)

 

 現状、ベル自身が装備している武器は2本、しかし、その内の1本はすでに刀身が折られてしまっている。

 

 しかし、彼には試してみたいことが残っていた。

 

(あの時の反応…そして〝あまのまひとつ〟さんが残した武器の名前、その想い入れから察するに「ブレード」という部分は譲れない一点だったのは明白…ならば、それに最初に反応を示したあの単語を結び付ければ…なにか起こるのかもしれない!)

 

 そう判断したベル自身が、生み出したばかりの腕で、持ち手だけが残された『あまのまブレード』を持ち、少しだけ腰を落とす。

 

 さらにその折れた刀身に4本目の腕を添え、頭の中に構築させた単語を発するとともに、添えた手を失われた剣の刃を再現するように滑らせて言った。

 

「レイザーブレード!」

 

 すると、先程まで折られていた剣が今ひとたび再現され、煌々と輝き、眩いばかりの剣が生み出されていた。

 

(やはりそうだったか…しかし該当するデータクリスタルも見当たらないし…これもこっちの世界に来た時の変化と判断するしかないか…どうせ、あの人の事だから「そう声に出すことで真の姿が現れ、あらゆる物をも切り裂くのも可能な光の剣となる。」とでも書いたのではなかろうか…?)

 

 審判であるナインズからの『注意』は出ていない。

 

 装備の変更ではなく、内に秘められた性能を引き出しただけなのだから、ルール的にも最初に決めた通り、特別ぺナルティとは見做されなかったのだろう。

 

 そして、その『レイザーブレード』の持ち手を変え、上の方の腕に持ち替え、下の方の両腕は再びフリーとなる。

 

「さて、コキュートスよ、後出しですまないが、私本来のスタイルで戦わせてもらうとしよう…かつての最強であった装備には及ばないが…その頃に近づけるよう悪あがきをさせてもらう、お前さえ了承してくれるのであれば…だがな。」

 

 審判と、コキュートス双方に事前に申告するという手に出たベルに、両方から了承が出て、先を促される。

 

 しかし審判からは「追加の装備を別途で出現させるなら、「注意1」になるぞ?」

 

 と言われたので、そこはどうやら審判としての役割を徹底するらしい。

 

(ん~~…まぁ、コキュートスとは堂々と裏工作なしで戦いたかった部分はあったんだけど、実際の戦闘経験の差は大きいな、日々の鍛錬も欠かしてなさそうな動きだし…、しかしさすがに武器が2本の相手に対し、4本で挑むというのも必死過ぎだろう?って気がするんだよな…まぁ、武器じゃなくても杖の効果を腹の中から行使することは出来るから、それでなんとか喰らい付くか…)

 

 なんてことを考えていると、思考が伝わってしまったのか、セピアとルチルの声が腹の中から脳内に響く。

 

「やっと出番って感じですね♪」

「こっちは森祭司(ドルイド)関連の魔法を何回か使ってるので、ベルさんの強化を手伝って3段階目の効果も杖から出てますよ、いつでも行けます。」

 

(強化の方はありがたいけど、「風車のベルト」が神器(ゴッズ)級だから、それ以下のランク魔法とかじゃ、多分効果は打ち消されてる可能性はあるけど…まぁそれは言わない方が華…だな。)

 

『あぁ、ありがとう、それじゃいつでも準備しててくれ、ルチルにディーネは回復の方に専念していてくれると助かる』

 

 腹の中に居るエルフ3名に向けてそう伝え、もう1人の同居者にも念のため声をかける。

 

『ここまでお力添え感謝します、老公…ずいぶん無理をさせてしまいましたが、しばらく休んでいてください、ここからは自分でなんとかします。』

 

『おぉ…そりゃねかってもないことしゃ…かなり無理をしたのてな…精神力かけんかいなんしゃよ…』

 

『今までのご助力感謝します、ようやく私の望む形に届きましたので、あとは他の3人に任せてご休息を。』

 

『そう…させて、もらうとしよう…か、の…』

 

 そこで会話が途切れた。

 

 どうやら相当ムリをしてくれていたらしい、命を助けたのは確かだが、他のメンバーは助けられなかった自分の為に、そこまでして報いてくれたことに内心で感謝をし、「いずれ、何かの形でその借りはお返しします。」と腹の中へと念を送った。

 

 

 

               ★★★

 

 

 

 時は少し遡り、フレイラがコキュートスの<穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)>を防いだ直後のこと。

 

「アルシェさん、ベルさ…んの心配をされるお気持ちは私にもわかりますが、不用意な行動を無断でされては困ります、私が間に合わなければどうしていたのですか!」

 

 フレイラから叱咤の声が飛ぶ。

 

「ごめん、危なそうに思ったからつい…気を付ける。」

 

「いけません、貴女のことはベルさんから特に身の安全を…と頼まれています、その貴女に傷を負わせるような要因は一切看過出来ません! 自重を頼みます。」

 

 フレイラもそこを譲るつもりはなかった。

 

「気を付ける」程度ではいつまた同様のことをしでかすかわからないからだ。

 

「どうしても?」

 

「どうしても!です!」

 

 自分の言ってることは御方の意思、創造主の意向、どちらにも沿っている。

 

 ならば従わないという選択肢は存在しないフレイラにはどちらにしてもアルシェを危険にさらすつもりはなかった。

 

 自分ならば、まだHPの残量がある限り、どんなダメージを負っても命を落とすことは無いだろう。

 

 だがアルシェは別だ。

 

 こちらの世界での一般的な「人間」

 

 ユグドラシルの「人間種」ではないのだ。

 

 同列に扱ってはアッという間に命を落としかねない儚い命、ならばこそ少しの傷も許されないのだ。

 

「わかった…これからは絶対に不用意な行動をすることは無い…それは約束する。」

 

「本当ですね? ベルさんの身を案じてくれる貴女のお気持ちは私にもわかってますし、ありがたいとは思っています、ですがそれで貴女自身の命が失われては、悲しむ人が少なくとも6人はいるということを忘れないでください、貴女にはそれだけ大切な人が居て…そして大切にされている当人だという自覚もちゃんとお持ちください。 私から言えることはそれだけです。」

 

 

 言われた言葉に無意識に色々な親しい友人、知人、身内の顔が浮かんでは消えていく。

 

 

「わかった。 …ならあと一つだけ…最後に私からの我儘を聞いてほしい。」

 

「…なんでしょう?」

 

 フレイラが続きを促す、聞かずに勝手に行動されるより、聞いておいた方がいい気がした。

 

 幸いにも前方のコキュートスにも、己の創造主にも戦闘の気配は無い。

 

 なにやら会話をしているようだ。

 

 まだ多少の時間の猶予はあるだろう。

 

「あと一度、あと一度だけあの戦いの中に浮遊盾を割り込ませることを許してほしい。」

 

 アルシェが真剣な瞳でフレイラにしがみつくようにすがりついていた。

 

「わかってますか?あの蟲の方の攻撃がその身をかするだけでも貴女の身は消し飛んでしまいかねないのですよ?」

 

 敢えて、強い口調で問い詰めた、まだ現実が分かってないのだろうか?と思ったからだ。

 

 だが、それは杞憂で終わった、アルシェ自身もそれは理解していたから、それ以上は言い分を押し通すような言葉を続けることは無くなっていた。

 

「それは充分にわかっている、だから、フレイラさんが見て「あれは危険」と思うようなことがあったらすぐ言って欲しい、もし私の考えていることがうまくいけば、そのピンチがベルさんの身に降りかかることを無くせるかもしれないから…。」

 

 真剣な目がお互いを見据え、どちらもその視線を外すようなこともなくしばしの時間が過ぎた。

 

「わかりました、どのような手段かはもうイメージ出来てらっしゃるようですね…なにをするつもりかはわかりませんが、根拠のない自信を持たれる方では無いことはわかっています。」

 

 先に視線を外したのはフレイラ。

 

 そして次に視線を伏せたのがアルシェだ。

 

「感謝する、これをしたら、きっと二度目は向こうも許してはくれないと思う、さっきとは違う攻撃で私を仕留めようとするかもしれない…その時は…申し訳ないけど、お願いしても…いい?」

 

 フレイラに身の安全を頼むような言い方だが、頼まれなくても至高の二人にも頼まれているのだ。

 

 彼女を護ることに依存などあろうはずがなかった。

 

「わかりました。この身がどうなろうと…手足の2~3本が吹き飛ぶことになろうと…アルシェさんには傷1つ付けさせはしません!」

 

「ありがとう…この恩はきっと忘れない。」

 

 その言葉にフレイラは何の答えも返さなかった。

 

 すでにその時には意識を切り替え、己の創造主の方へと注意を向けていたからだ。

 

 

 そして、その時、創造主から聞こえた言葉が辛うじて人獣種(ライカンスロープ)である自分の耳に届いた。

 

 

「さて…と、それではそろそろウォーミングアップは終わりの頃合いかい?コキュートス…。」

 

 

 




 なんとか、今年度中に更新できてよかったです。

 今回はなかなかの難産でした。

 自分の中でストーリーの組み立てに想像を繰り返しましたが、納得できる流れには行き着けず、その流れを棄却して別の流れを模索する。

 それをひたすら繰り返して、ようやく行き着いた、納得の形、それをなんとかこれから文章にして次話に生かしていこうと思ってます。

 
 お詫び:このお話でのベルリバーさんは4本腕…ということにさせてください。
     別作品では6本腕とか描かれていましたしそっちの方が<阿修羅>的
     にも、バッチリな気はしたんですが、ベルリバーさんのイラスト準拠
     で進めてみたく、やはり剣2本が上の一対の両腕、杖が下の一対の腕
     って感じで、進めさせていただきます。
     (ゲーム的に言うと、腕が6本だと、課金すれば30個の指輪とかを
     装備できるようにできたのでしょうか?(4本でも20個だけど…))


 ※ 今回の捏造ポイント
  ・ベルリバーさんが4本腕ということ
  ・<穿つ氷弾(ピアーシング・アイシクル)>が第6位階魔法
  ・「冷気のブレス」の名称を冷気のブレス(ブリザードブレス)に固定


 ついでと言ってはなんですが、最近、アニメで異世界ものがすごいですね。

 最近見てるのは蜘蛛子さん、回復術士さん、そして転スラ…が3大鑑賞アニメな私ですが…

 蜘蛛子さんが第一話で気づいたのですが、クレマンティーヌの声優さんだったんですよね、声だけじゃわからなかったところでした、声優さんの声質の変化って、やっぱプロはすごいですね。

 蜘蛛子さんの方の「魔王」さんのお声も、シャルティアさんだったり…自分が気づく範囲のあの方の担当するキャラって軒並み「ひんぬ~」属性多いんですよね。

 今回の魔王もそうですし、シャルティアも、そして異世界スマホの妖精女王リーンもそう…

 実は知らないところで「きゅぬ~」さんもいるのかもですが…自分はそっちを担当してる作品って印象に残ってないです。

 そして私のリアルの件に関してですが、新年度からはちょっとばっかり仕事がすごいことになったので、おそらく金曜以降の週末は本腰入れて執筆に集中できない環境にされそうです。

 なので、勝負は月~木にどれだけ書き溜められるかに掛かってます。

 今回は特に文章量もそうですが、進め方にも気を付けました。

 なるべく話の流れを引っ張り過ぎにならないようにコキュートス戦は早めに決着をつけさせるつもりです。(まだ感想での意見を気にしてる模様)

 ちなみに次話くらいから、そろそろ、忘れられて来てるであろう方にもご登場願おうと思っています。

 盛り上がれる展開にしていけるかは私の文章力次第ですが~…、へこたれずに頑張ります!

 まさか世間が休みの土日に毎週死にそうな勢いで働かされる羽目になろうとは…って感じですが。

 とりあえず仕事での疲れを、このお話を書くことで気分転換がてら、「楽しい」って気持ちを忘れないようにして行きつつ、ひとまず納得できるところまで突き進んでいきたい感じです。
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