気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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 さてさて、もうすっかり、フレイラの活躍の雰囲気が漂い始めましたが。

 ここで、私もちょっと過去の話を読み返してみて、致命的な計算間違いに気が付きました。

 フレイラの魔法数とかの問題でレベルとの数が大いに間違っておりました。

 なので、「第59話 次鋒1」のお話を少し手直ししております。

 場所は、話の間に私が良く差しはさむ「★★★」が表示されている2つ目の直後あたりです。

 大まかにですが、フレイラのクラス構成が分かるように書き直しました。

(だらだらと詳しく書いてあるので、わかりにくいという声もあるかもしれませんが、「関係ない」と読み飛ばしてくれてもそれはそれで構いませんw)

 種族レベルに13LV振ってますので、クラス構成は合計で37LVとなります。

 フレイラはNPCとしては50LV、辛うじてビクティムより強い程度で、ナザリックではレベルこそ、シズ・デルタより上ですが、「エントマとユリ」には1レベル差で負けているくらいでしかありません。
(戦力としては「戦闘メイド」には及びませんが…)


 それと、改めてそれぞれのクラスや種族に振り分けたレベル、そしてレベルに応じたクラス編成で取得したであろう魔法数と、魔力系や信仰系などのジャンル分けにより、それぞれの使用位階魔法の上限レベル。

 そこら辺を明らかにした結果、自分が想像していたより2段階くらい位階魔法の上限が低くなってしまいました。ぶっちゃけ思い描いていたフレイラが大幅に弱体化してしまった感じです。

 その為、急遽、フレイラが使用したアルシェを包み込んだ魔法、あれを課金アイテムでの発動という形に書き換えさせてもらいました。

 まぁ、それはさておき…。

 ひとまずはコキュートスも今までで一番手ごたえのある戦いが出来て、普段から抱えている悶々とした部分はスッキリと晴れた事でしょう。

 …というわけで、実はまだまだ、中堅、副将、大将 の3戦が残っております。

 ベルリバーさんの魔力は最後まで持つのでしょうか?

 コキュートスの戦いでは、変な手加減をすれば見抜かれる恐れがあったので、かなりなりふり構っていられない戦いでしたから、消費量もきっと多いでしょう。

 フレイラに早めに「魔力回復用ポーション」を作らせてあげないとですね。




第62話 両陣営、インターバル。

 

「さて、コキュートス…どうやら敗北に終わったようだな。」

 

 支配者からの言葉に身を固くしたコキュートス。

 

「どうした?お前の望むように、好きに戦ってもらった結果が今回の敗北に繋がったわけだが…感想を聞かせてもらおうか。」

 

 その声はどこか平坦な印象を受けた、怒りを抑えて…という感じでもなさそうだ…とコキュートスは感じていた。

 

「ハ、コノタビハ、ナザリック地下大墳墓ノ守護者トシテ、無様ナ姿ヲサラシテシマイ…」

 

 跪いた姿勢のまま、頭を下げ、謝罪の気持ちで…栄えあるナザリックに属する者として、敗北で飾る結果となってしまったことに、罪悪感と、他の守護者に対する申し訳なさ、さらには期待に応えられなかった至高なる支配者への言葉を必死に紡ごうとしていたのだが、その中、何かを言おうとアルベドが息を吸い込み

 

「コキュート…」

 

 とアルベドが口を開こうとしていた時だ。

 

 

 カツーン!!!

 

 

 軽やかでいて、どこまでも澄んだ音。

 

 支配者である御方が、自らの持っている杖で、地面をたたいた音だ。

 

 その瞬間、アルベドの脳裏にかつての記憶がよみがえる。

 

 それはリザードマンの集落を襲撃し、コキュートス率いる軍勢が敗北で終わって、その謝罪をしていた時のことだ。

 

 今の状況は正に、あの時と酷似している。

 

 あの時も、支配者はコキュートスをたしなめていた自分を止めるような言動をされていたではないか。

 

 

 そう思い出したアルベドは、口を開こうとしていたものの言葉が止まり、臣下としての姿勢へと即座に移っていた。

 

「そうではないぞ?コキュートス。私は怒ってなどいないし、咎めているわけでもない…ただ単純に『存分に戦ってみた感想はどうだった?』と聞きたかっただけだ。 正直に感じたまま答えることを許可する、それに対して罰を与えるようなこともしないと我が名に於いて誓おう。 …さて、それで? どうだったのだ?コキュートス。」

 

 口調にイラ立ちを抑えてる様子も感じない上、御方が自分にウソをつく必要性も無いか…と判断したコキュートスは感じた印象そのままを伝えていく。

 

「一言デハ言イ表セマセヌ、戦イ始メタ時ハ『風』ノヨウナ男カトモ思イマシタガ…」

 

「ほぉ、『風』…か、面白い評価だな、それはなぜそう思った?」

 

「ハ!飄々トシテ掴ミドコロガ無ク、シカシ自ラノ信念ハ持チ、ソレ次第デハドノヨウニモ動キ、立チ位置ヲ変化サセテシマウダロウト…」

 

「うむ、確かにそれはそうかもしれんな、だがそれは戦い始めた時。そう言っていたな、戦ってみて抱いた感想はどうだと思ったのだ?」

 

「序盤デハソコマデ強イ興味ハ覚エマセンデシタガ…アノ者ガ「仲間」ト信ジル者ニ危害ヲ加エタ瞬間、ソレハ姿ヲ変エ、炎ヲ巻キ上ゲ、ソノ身ニ纏ウ暴風ト成リマシタ。 故ニ、内ニ炎ヲ宿シ燃エ盛ル機会ヲ常ニ窺ウ『気流』…時ニ荒ブル台風トモナリ、時ニ「涼」ヲモタラス心地良イ風ニモナル、ソノヨウナ印象ヲ受ケマシタ。」

 

「ふむ、コキュートス、お前にしては中々の高評価だな、それ程に気に入ったか?」

 

「ウ!…ァ…ィェ…ソノヨウナコトハ…」

 

 ナザリック外の者、しかも人間相手にそのような考えを抱くなど明らかに不敬、そういう認識が周囲のナザリックの者らからすれば当たり前の認識であることが理解できているコキュートスからしてみれば言葉に詰まってしまう。

 

 続く言葉が言えずに居ると、ナインズと名乗る至高なる支配者も少し含み笑いの様な音を漏らした。

 

「フ、ふはは、構わん、すまんなコキュートス、少し意地悪な問いかけとなってしまったようだ、私にお前を咎めるつもりは無いと先ほども言った通り、そのような意図は無い。 …だが、そうだな…昔、私のそばにいた時のあの者は…『水』のような印象であったのだが…、大切な者を得たことでより強さを増した…か?そう考えてもいいのかも知れんな。」

 

 その呟きに即座に反応したのはデミウルゴスだ。

 

 他の者でも気が付いてる者はもちろん居るだろうが、至高なる御方自らがついに声に出して断言したのだ。

 

〝かつて『御方の近くに位置していた者』だということを〟

 

 デミウルゴスは高速で思考を巡らせる。

 

 ともすれば、それは「補欠」という扱いでは無いのではなかろうか。と…

 

 しかし、ならば何故、御方は「補欠」などという言い方をされたのか…ギルドから途中で除名された相手に対してなら、もっと不快な感情を持たれていても不思議ではないはず、かの温情あふれる慈悲深い御方であろうとも、こと『ギルド』に損害を与えた事実を持つ者に関してはその限りではなく、その扱いは『報復』と言われて差し支えないモノとなる。

 

 であるのに、その声にはどこか懐かしい相手に対する想い出話を聞かせる時の様な印象を抱かせる。

 

 ならば…と更に思考を加速させる。

 

 百歩譲って「補欠」という扱いの者からの出発であったのだとしても〝ギルドに損害を与え、追われた〟のでは無く、何らかの形で穏便に『別の道』を歩むことになったのか…

 

 或いは、遠大かつ深淵なる智謀による大いなるご計画の一部に我々は巻き込まれ、未だその掌の上。

 

 ひいてはその上で『何か』を試されている状態なのでは…?

 

 その結論に至ってしまうと、なにもかもが合点が行くようにも感じられる。

 

 思い返してみれば御方らしくなく、人間共に対してであるにもかかわらず、温厚すぎではなかったか?

 

 怪しげな仮面を被り、正体を現そうともしない相手に対して、警戒心が無さすぎに映るほどの振る舞いをされていなかったか?

 

「プレイヤースキル」という言葉が出た時も、『プレイヤーである』ことが確定したと言うのに、『人間種』としてのプレイヤー相手に、我がギルドに対して敵対したことは無かったか?などの推何すらされていなかったのは…実は最初から組み立てられていたご計画に沿った流れだったのでは?

 

 そう考えれば考える程、それは真実味を帯びていく。

 

 

 

 自分でもそのくらいは思い至れるのだ。

 

 頭脳の面でも優秀で明晰な守護者統括殿がその結論に至れないはずはないが…表情に現さない辺り、流石と言わざるを得ない、だがまだ気づいていないという点はまずあり得ないだろう。

 

 ならば私よりも先に気づいていた?

 

 であれば、感情を誰よりも深く沈めねばならぬ程の何かを普段から抱えていると見るべきか?

 

 

 その考えに至ると同時にデミウルゴスの背筋が一気に冷たいものに変わっていった。

 

 アインズ様ならば、どのような隠し事があろうとも何の心配も起きはしない。

 

 何故ならば、そこには「ナザリックの利益の為」という大前提が厳然として存在しているためだ。

 

 だからデミウルゴスは今までも、ずっと至高なる御方が「何かをお隠しになられている」と感じてもそれを追求することはしなかったし、「ご計画が無事結果として成されれば報告して下さるだろう」という信頼、更には『至高なる存在であられる方の計画が失敗するはずがない』という崇拝もあったのだが。

 

 それに対してアルベドに対しては材料が少なすぎる為、何を内に秘めているのか…デミウルゴスは現時点ではそこに結論を導き出すことが出来ない。

 

 その為、漠然とした不安が背に圧し掛かってくるように感じているのだ。

 

(さすがに守護者統括ともあろう方が『獅子身中の虫』ということはないでしょうが…)

 

 最も懸念しているのは、「何を企んでいるか」では無く、「その企みの矛先がどちらに向かうのか」の一点に尽きる。

 

 自らが最も崇拝する創造主が遺せし、我が守護階層、ひいてはそこが存在するナザリック地下大墳墓。

 

 そここそが、唯一、ウルベルト様が戻って来られるかも知れぬ無二の場所なのだ。

 

 万が一にも、この場所の存在が危ぶまれる事態に発展しそうなことにでもなれば、創造主が戻られる可能性すら失われてしまう。

 

 それだけは何としてでも避けねばならないと決意を新たにするデミウルゴスは、その為ならば、最後に残られたたった一人の支配者の為に、例えこの身が塵と化すことになろうとも守り抜く…そう心の中で決断を下していた。

 

 

 そんな中、短く言葉を発した者がいた。

 

「水…デゴザイマスカ?」

 

 言葉を発したのはコキュートス。

 

 どうやら御方の言葉に反応して、真意を聞きたくなったらしい。

 

「あぁ、あの人はいつも慎重派でな、ギルド内で新しい挑戦を始めようとすると、どうしても『万が一の事態』を提案してきて盛り上がっていた炎を鎮火してみたり…、率先してリーダーシップを取るタイプではなかったものの、どのような構成のグループにもすんなり溶け込むように馴染んだりしていた…まるでどのような器に入ろうとも、その器に応じた形へと姿を変える『水』のようにな…」

 

 

 どこか懐かしさを漂わせるように中空を眺めつつ語る支配者を観察していたデミウルゴスは「やはり…」と確信を強める。

 

 今、我々が相手にしているのは、我らがギルドにかつて敵対していた事がある訳でも、不利益を及ぼし追い出された輩でもないということを。

 

 であるならば、何故このような茶番を?と疑問に思う。

 

 至高なる御方の卓越した、端倪すべからざる頭脳をお持ちであらせられるアインズ様であれば、この墳墓にほぼ無傷で侵入し、かつ、ほとんどの損害を及ぼすことなく第六階層、しかも森林の区域でも迷わずアンフィティアトルムまでたどり着き、その上、御方が常日頃から欲しておられた情報を事前に携え、それを的確に進呈して寄越すなど…あまりにもでき過ぎている。

 

 しかも、墳墓の通路でアンデッドに囲まれていた際にも…遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で見張っていた時に見た「あの姿」あれはもしかしたら、彼の真の姿だったのではないのだろうか?

 

(アインズ様は成長度合いによって、外見は同一のものとなる可能性はある。そうおっしゃられていましたが…『例の写真』の件といい、本来は異形の者でなければ入れないギルドであるアインズ・ウール・ゴウンに在籍していたことがあったという事実と言い…。)

 

 それらを総合して考えれば、今見えているあの「人間然とした容姿」こそが偽り…真の姿はあの時に見えていた、あの一瞬だけ変化して、転移して見せたあの時の外見こそが全てなのではないだろうか?

 

(いや、それ以前にこのナザリック内では基本的に『転移系の魔法』などは常時阻害されている、彼女が管理している墳墓内に於いて無断で転移を可能とする手段など、たった一つ…だとするならば…まさか、もしや…?)

 

 最後の疑問を自分の中で解消した瞬間、全身を貫かれたような衝撃的な想像を巡らせてしまうデミウルゴス、それは認めたくない事実でもあり、また待ち望んでいた可能性の一つでもあった為だ。

 

 

 今まで、「点」と「点」でしかなかった要素が「点と線」で繋がったような感覚に捕らわれ、デミウルゴスが脳内でそんな結論を導き出している頃

 

 

「まぁ、私の方よりも、お前の方はどうなのだ?コキュートス…今回の戦いで得る物はあったか?」

 

 やはり軽い問い掛けで、決して責めるような雰囲気を匂わせていない支配者の言葉にコキュートスも身体の緊張を少し和らげながら答えを返していく。

 

「ハ! 畏レナガラ、我ガ身ノ未熟サヲ痛感イタシマシタ、更ニ言ウナラバ、空中ニ放リ出サレタ際ノ対処モコレカラハ身ニ着ケル必要ハアルカト…、宙ニ浮イテイヨウト取レル選択ノ幅ガ広クナレバ今回ノヨウナ失態ハ最早、アリエナイト思ワレマス。」

 

 それを聞いたアインズは、わずかに沈黙した後、静かに目を前に向け、その相手に言葉を投げかける。

 

「失態か…そうだな、失態を演じたのなら、それを払拭することは必要だな…さらに、その失態を演じたそもそもの原因自体も真摯に受け止め、キチンと清算しなくては他の者にも示しが付かんと言えよう…そうは思わんか? コキュートス」

 

 そう言われた瞬間、再び、コキュートスの身体に緊張が走る。

 

 罰が怖いわけではない、何を言われようと、御身の意思こそが最優先、自分の保身など、以ての外。

 

 ならば何故緊張したのかと言えば、御方がこのまま追求してこないのでは?とわずかにでも思った自分の浅ましさを見抜かれたように思ったせいだ。

 

 己の至らない部分に恥じ入り頭を上げられず、「ハ!」と短くしか返答できなかったコキュートスを目にした支配者が、おもむろに観覧用として造られた玉座から立ち上がり、コキュートスの方へ歩みを進めてきていた。

 

「コキュートス…」

 

 歩みを進めながら至高なる支配者が、ゆっくりとその手を自分の方へと伸ばしてくる気配を感じる。

 

 それがどのような戒めであろうとも、自分が招いた事態である以上、受け入れる他あるまい、そう覚悟を決めていたコキュートスの肩に、そっと支配者の骨の手が置かれた。

 

「??」

 

 なぜ、自分の肩に手を置かれたのか…それが主からの戒めなのか?

 

 意味が解らないコキュートスに、アインズが口を開いた。

 

「すまなかった、コキュートス…。」

 

 思いがけない支配者からの言葉、あまりにも予想のしていなかった言葉にコキュートスも息をのむ。

 

「ア…アイ…ィェ、ナインズ様、ナゼデショウカ? 決シテ御身ガ謝ルコトナド…」

 

「いいや、今回の事態はひとえに私が招いてしまった失態だ、こうなることを予想すら出来ず、お前の上下二対の両腕を斬り飛ばさせてしまったのだから…お前自身の…というよりは私が責められるべきだろう。 …故に私は、コキュートス、お前に謝罪をせねばならん、『失態は償わなくてはならない』 それに同意してくれたではないか…」

 

「アァ、イエ、ソノヨウナ意図デハナク! 精進ガ足リズニ栄エアルナザリックニ敗北ノ二文字ヲ初メニ刻ンデシマッタノハ自分ノ責任!ナラバ、私コソガ裁カレルベキカト!!」

 

「確かにお前は栄えあるナザリックに初めて『敗北』の二文字を刻み込んでくれたな…そう言う意味では許し難い…だが、今回、最も許されざる失態を犯してしまったのは私自身なのだよ、コキュートス。」

 

「ナニヲ言ワレマス、ナインズ様!ソノヨウナコトハ決シテ!…」

 

「いや、あったのだよコキュートス、私はな…審判としてあの場にいる立場でありながら、お前の1本目の腕が切り飛ばされた時、あまりの事態に現実を受け止めきれなかったのだ…お前の全ての腕が切り飛ばされたという事実にも…だが…、しかし、それと同時にあの者があそこまで苛烈に我らナザリックのNPCに対して攻勢に出るなど…あり得ないと…お前の残り3本の腕が飛ばされるまで、止めに入るべき場面で身動き一つ取れなかった、審判として、主審として、あるまじき失態と言わざるを得まい。」

 

 

 コキュートスの前で力なく言葉を紡ぐ支配者からは後悔の念の様なものが伺える。

 

「私は思うのだよ、あの時、自分は<時間停止(タイム・ストップ)>を使ってでも割って入るべきではなかったのか…己を盾としてでも、すべての腕を失ったコキュートスに剣を振り下ろそうとする相手の前に出て、お前を安全な位置まで運んでやるべきだったのではないか…とな」

 

 

「ナインズ様!どうかそのようなこと、おっしゃらないでください! 御身はこの場に居てくれている事、それ自体に意味がございます! 数々の至高なる御方々が〝お隠れ〟になられてしまった今、残された唯一の御方であられるナインズ様こそが、我らの希望、お仕えできるたった一つの光なのです! そのような危険な真似は全て我ら守護者にお命じ下さり、御身は安全な場所にて我らの忠義に応えていてくだされば…それ以上に我ら一同の望みなどありません!」

 

 悲鳴とも言える声量での叫びにより訴えてきたのはアルベドだ、その声で、一気に今までの感情は抑制され、アインズの心は「後悔一色」から平坦なものへと移行してしまった。

 

「そうか…ならば…」

 

 そう言いつつ、アインズは先程まで自分が座っていた、専用の観賞用「玉座」に座り直す。

 

 その姿を見つめている一堂にゆっくりと視線を及ぼし、溜めを作ると、決定を下す。

 

 

「この度の対戦での失態はコキュートスにも、私にもある!ならばこれはどちらも同等に裁かれえるべきであり、どちらか一方だけ裁かれていいものではない! コキュートスを裁くべきと主張する者は、私にもその裁きを受けるべきだと胸中で抱えているものと見做す! 故に問おう! 私とコキュートス、共に有罪か、それとも否か?」

 

 そう問いかけてくる支配者に応えられる者などいない、ここでコキュートスだけに…と声を出せば、それは支配者の意向を無視して、異議を唱えているのと同義。

 

 支配者に翻意を抱いている、そう思われたとしても弁解のしようが無い。

 

 しばしの沈黙が場を支配するのを見守っていたアインズは、それを『皆の総意』と受け止める。

 

「ではこの場にて総意は得られた、コキュートスにもそうだが、私にも受けるべき裁きの必要はない、それで構わんな?」

 

 

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

 

(さてさて…ベルリバーさんがあそこまで烈火のように怒りを表し、自分を見失うなんて…初めて見る姿だったな…自分にとってのパンドラなんかは…同じ状況になったとしても…そこまで怒る程か?って程度の認識なんだが…これは創作時の想いの差かな?それとも性別が左右してるのか? …ここはやっぱり同じ『モテない漢同盟』のメンバーのよしみで、温かく見守ってみよう…、自分も同盟員だったけど、NPCに対する愛着は分からないでもないしな…まぁ、冷静に彼に戦ってもらうためにも、フレイラには手を出すなって指示は出しておいた方がいいのかな?)

 

 そう考えながらも、支配者は次の対戦者として、アウラに声を掛け、アナウンスの役は弟のマーレに引き継がせることにして、その旨を伝えていた。

 

 

 

                  ★★★

 

 

 

 一方、場面は移り、こちらはベルリバー陣営。

 

(……やっちまった…)

 

 ベルリバーは頭を抱えていた。

 

 自分がしでかしたこととは言え、あそこまでするつもりは「最初は」無かったはずだった。

 

 「コキュートスの腕の1本くらいは奪わねばつり合いが取れない」

 

 そう思っていたのも事実だったのだが…

 

 それが気づけばすべての腕、4本とも斬り飛ばした上…足を生やしたダルマ状態のコキュートスに言うに事欠いて「トドメだ」などというセリフまで叩きつけてしまったのだ。

 

 あの時の自分は、本気でどうかしていた。

 

 〝自分の抑えが利かなくなっていた〟という事実には、ベンチに座って心に余裕が出てきてから自分の行動を振り返った後に、ようやく気づいたと言える。

 

(あれはどういう精神状態だったんだ? 種族的な本能に飲まれた形か?それとも頭の中に響いた「家族の為の復讐心」とかってクリア条件が引き起こした新しい特徴か何かか?)

 

 そういえば…とベルリバーは思い出す。

 

(そうだ…たしか〝リンクされている発動条件の一つが解放〟とか言ってたはずだったな…『発動条件』ということは、何かを発動させるキッカケがそれだったと言うことがまず考えられるが…)

 

 そこまで考え付いたが、さすがにそれ以上のことは何もわからない。

 

 しかし、コキュートスとの戦いの最中に、意識を別のことに向け続けることは難しかったあの時とは違い、今は時間がある。

 

 じっくりと自分の心の中で、意識を向け続けてもチーム間での回復タイムである今なら、遠慮なく内に意識を向け続けることが出来るではないか?そう考えた彼は、すぐさま自分の内側へと意識を沈ませる。

 

 深く…深く…暗い意識のずっと奥底へと潜っていく。

 

 

 すると何かとつながってような感覚を覚えた瞬間に、それは視えた。

 

 

『風車のベルト 概要』

 

 そう読める。

 

 目の前に広がるその項目に手の平で触れると、目の前にずら~っと文字の羅列が展開されていく。

 

「風車のベルト 26の秘密」

 

 その読めるページが広がったのを見ながら、彼は一つ一つ、その項目を暗記するべく、読み進めていく。

 

 今までぶっつけ本番で試してみて正解だった機能、そして判明している能力を始め、読んだ瞬間に愕然とするような性能まで…それが本当にこの異世界に転移した影響で現実になったのだとすれば…それは大変なことだ。

 

 しかし、今は〝26の秘密〟の一つ

 

 リバース()ツイン(二重)トルネード(大竜巻)を使用してしまったが為、3時間の使用停止となっているはず…26も技や能力が積まれていても、発動しなければ意味がない。

 

 そう思ってその項目へと再確認のために目を向けた。

 

 すると彼の眼には、信じられないことが書かれていた。

 

 彼の想像を絶する文字がそこに書き込まれていたのである。

 

「この能力を使用した場合、風車のベルトに内封されている『変身』する能力が3時間の間、機能しなくなる」

 

 と…。

 

 へん………し……ん?

 

 いや…、いやいやいや…おかしいだろ?変だろ?そもそもユグドラシルの世界で変身なんて能力、システム的にもあり得なかったろ?と心の中で盛大にツッコミを入れていた。

 

(見なかったことにしよう…そう、変身なんてきっと文字だけのこと、たっちさんだって、本気でそんな機能をゲーム内で発揮させるつもりなんてなかったはずだ…。 そう…これはたっちさんの遊び心から来るちょっとした手違い…、そう思いたい)

 

 そんな風に現実逃避をするベルリバーだが、目の前に厳然と書き込まれている文章、そしてその単語は何度見ても変わることが無い。〝『変身』する能力が3時間の間、機能しなくなる〟

 

 つまり、それは…26の秘密が、3時間の間、封じられるわけではない。

 

 『ベルトの能力が3時間の間、機能しなくなる』ではなく「『変身』する能力が」と書かれている以上、自分の記憶が都合よく改ざんされてしまっており、かつてたっちさんが言っていたこと、そのものが文章として目の前に残されてしまったと考える方が自然だ。

 

 

(なんて機能(もの)、残してくれてるんですか!たっちさん!)

 

 

 自分は、決してヒーローオタクではない。

 

 その自分に託す物として用意してくれたアイテム。

 

 その気持ち自体は嬉しい。

 

 だが、ここまで作りこみをすることは無いだろう…

 

 自分はその変身の仕方すら知らないというのに…

 

 どんなポーズで、どんな風にすれば『変身』と認識されるのか…その部分は文字にされてはいない。

 

 全く闇の状態のまま。

 

(ならば仕方ない)

 

 そう思考を切り替える。

 

 

(見なかったことにしよう…)

 

 

 そうして、さらにその下へと能力の説明を読んでいたベルリバーは、またしても首をかしげることとなる。

 

『火柱キック』

 

 〝内蔵された小型原子炉で熱を発して赤熱させる技、使用者の命(HPの25%)と引き換えに放つ危険な技でもある〟

 

(HPの25%?…いや、さっき使った時は一撃で50%を持っていかれたはずだが…?)

 

 26の技の最後に位置していた技が、『火柱キック』だったので、さらにその下へと目を落としていく。

 

「家族の為の復讐心」

 

 〝己の家族に害を成した者へと『復讐』の念を覚え、その意識一色に染まった時のみ発動。

 

 『復讐』に支配されている間のみ、使用する技の効果を2倍に引き上げる。〟

 

 

(これか…)

 

 

 〝技の効果を2倍に引き上げる〟

 

(だから、消費するHPが一撃で50%も持っていかれたと…、となると、コキュートスの腕を斬り飛ばした時の攻撃力も同様に、本来の2倍の効果があったとみなすべきか?)

 

 守備力の最も薄い甲殻装甲の継ぎ目を狙ったのだが、それでも守備力の数値は失われるわけではない。

 

 何割か減少されてはいるかもしれないが、それでも一発で斬り飛ばしたりできたのはそのおかげと言えるかもしれない。

 

 しかし…最後の方には、使用できる必殺技の名前も文字数の許す限り、ギリギリまで使って書かれていた。

 

(キックの技が多いな…、しかしキックの技は変更が利いて「斬駆(キック)」になって剣での攻撃にも使えるようになったはず…だが、パンチとかチョップは…多分どうにもならないだろうな…モンクのレベル取得してないもんな…)

 

 ベルリバーは意識の中から、パンチの技とチョップ系の技を記憶から除外する。

 

 多分、使えないだろう技を知識として覚えていても空しくなるだけだろうからだ。

 

(26の秘密の中にもチョップの技名あるから強いんだろうけどな…、変に期待するのは辞めておこう)

 

 びっしりと文字と説明で埋められている技をたどり、いくつかの興味を惹かれる項目に目を留めた。

 

(マッハキックに…カセットアーム…か…。)

 

 いかにも強そうな名前だ、『マッハキック』 使用する時は『魔破(マッハ)斬駆(キック)』とでも変換されるのだろうか?

 

 そう思いながらもその技の項目を手の平でそっと触れると、その技の説明が…と思っていると、真っ赤な文字が表れると共に「ぶっぶー!!」とでも言える音が響き、赤い文字ではこう書かれていた。

 

〝特殊ユニット『ハリケーン』が存在しない為、現在〝自発的に〟発動させることは出来ません〟

 

 多分これはこの世界に来てそうなった事例で、この部分には「文字数」の制限はかかっていないだろう。

 

 たっちさんであれば、こんな夢のない文言をさらっと書くよりこの『ハリケーン』とやらを作り出す方に心血を注ぎそうな気がする。

 

 確証は無いが「あの人」と、あまのまさんがこのベルトを制作した当事者であれば、必ずそういうノリに移っていき、謎のテンションで『いいですね、それ作っちゃいましょう』となるのが当たり前のように感じた。

 

 だが、そうなっていないことを考えると、多分そこまで考えが及ばなかったのかも知れない。

 

 それほどにこのベルトを創るのに要した時間、素材、ドロップさせた敵の討伐数はケタが違うのだろう。

 

 

(まぁ、それならそれで面白い気持ちにさせられたからいいか…さすがにそこまで至れり尽くせりだったら『あの二人』という理由だけではつじつまとしては少々厳しいかもしれないからな…)

 

 

 そう思いつつ目を留めたもう一つの項目

 

 〝カセットアーム〟

 

 それに対して、手の平を伸ばし、タッチすると…

 

 これもまた「ぶっぶー!!」という音が響き渡り、赤い文字で注意書きが表れる。

 

 

〝現在、フレイラ=ルアル=アセンディアが装備中です〟

 

 

 それを読んだ瞬間にピンときた。

 

(あれか…)と。

 

 あの一見ひょうたんかと思うようなデザイン、そして表面に走る模様の『落花生』感。

 

 インパクトは充分だった。

 

 その赤い文字が表示されたすぐ下に、白い文字で説明書きが事細かに描かれている。

 

・パワーアーム

・ロープアーム(スウィングアーム、カマアーム、ネットアームにも相互移行可能)

・カッターアーム

・スモークアーム

・ドリルアーム

・マシンガンアーム

・オペレーションアーム

・ブラスターアーム(ファイヤーアーム、フリーザーショットアームにも相互移行可能)

・義手変換

 

(…一体、どれほどのデータクリスタルを乱用したというんだ? いや、表記設定だけっていう可能性もある…さすがにそこまでの造りこみをしていた余裕があったとは思えないし、できれば考えたくはない…フレイラの生存率が高くなることは大歓迎だが…、妙に喜べないのは何故だろうな…?)

 

 

 ベルリバーは一通りの項目に目を通し終え、『風車のベルト 概要』の項目を閉じた。

 

 そして、意識を表面に浮上させるイメージで、内面に沈んでいた自分を現実世界へと引き戻し、抱えていたままの頭から手を放して、「ふぅ…」と短く一息つくと、ベンチの背もたれに体を預けた。

 

 

「いかがされましたか? やはりコキュートス様との交流戦はご負担が?」

 

 少し離れていた場所から歩きながら問いかけてきたのはフレイラだ。

 

 つい今しがたまで、ペスト―ニャから右腕の治療を受けていたので、それが終わったのだろう。

 

「右腕の調子はどうだ? もういいのか?」

 

 嫉妬マスクの5周年記念のアニバーサリーエディションを被ったままの「人間形態:ベル」の状態で話しかけた。

 

 

「えぇ、もうすっかり…さすがはペスト―ニャ様で御座います。斬り飛ばされた痛みすらすっかり消え失せて、元通りに治していただきました。」

 

「カセットアームの調子はどうだ?」

 

「かせっとあーむ?…とは、なんでしょう?」

 

 どうやら、自分で使った装備の名前までは記憶されていなかったらしい。

 

 

「右腕を構えて、「カセットアーム」と意識してご覧? それから『カッターアーム』と詠唱をすると解るよ」

 

 そう教えると、素直に言われた通りの動作をし始めたフレイラ。

 

 すると、今まで普通の状態であった自分の右腕が、特殊合金製の刀剣型の武器へと変化し、まるで自分の右腕自体が武器になったような感覚に捕らわれた。

 

「これは…先ほどのロープを出した時の装備の能力でしょうか?」

 

「あぁ…、今まで、それについての概要説明を調べていたところだったんだ、今から一通りの説明を始めるから、ちょっとだけ付き合ってくれないか?」

 

 そう言うと、すすっと静かに跪き、「仰せのままに」と、かしずいている。

 

(あ…と、その前に…)

 

 ベルリバーは、手遅れになる前に…と、腹の中に居るセピアに話しかけ、「風迅の外套」の効果で周囲10mの範囲の空気をその場に封じ込めさせた。

 

 こうすれば、封じ込められた空間内でどんな轟音が鳴り響いても、空間の外に音が漏れてしまうことがない。

 

 どのような装備で、どんな起動をし、どんな音が発生するかわからないのだ。

 

 その中でも名前からして一番危険性の高いと容易に予想できる「マシンガンアーム」なんてものを展開、発動させる前に、その対策を講じておかなければいけなかった。 …でなければ後々、どんな展開に悩まされるかわからない。

 

 展開が終わったとの声を腹の中から受け取ったベルリバーは、一つ一つ、装備の名前をフレイラに教えていった。

 

 それからは、装備としての実験を指示しているこっちも驚くほどの性能を発揮した「カセットアーム」

 

 まずは、カッターアームの次に使わせた機能は「スモークアーム」

 

 その機能が発揮された瞬間、無音空間にしておいた範囲が、そのまま煙幕に包まれたので、そのままそれを利用して、色々な機能を試してみることにした。

 

 催涙弾の方は、どうやら『状態異常耐性』を備えていればレジスト出来る程度らしい。

 

(ならこれは、現地民達に使用する程度か、使い道としては勝手が良くないな…)

 

 一つの機能を調べ終わったら次の実験へと移行し…。

 

 そして、その機能が判明すると、更にまた次の機能の試用運転に移る。

 

 

 マシンガンアームは、連続で撃つことも可能なようだが、実弾の装填が不要な変わり、使用し続ける限りMPが持続的に消費されるらしいことが分かった。

 

 維持コストとして、持続的に減っていくMPもそうだが、まとまった弾数をsetする必要が出来た場合、その都度、決まったMPを消費してしまうことで自動的に撃てるようになるらしい点も新たに判明していた。

 

 ドリルアームは、電源として一定の電力が必要らしく、フレイラに魔力系魔法の<雷撃(ライトニング)>を唱えさせ、自分の右腕にその雷撃の威力を集中させると、すぐさまその魔力が電力として変換されて充電されていった。

 

(バッテリー切れが起きるたびに充電が必要な携帯電話みたいだな…。)

 

 

 現実になってしまった「機能」を、装備として使った場合、どのくらいの威力があるのか…

 

 そして、それは自分だけじゃなく、使用するフレイラ自身にも体験させてみなくては戦いの場に於いて、彼女も不安が残るだろう。

 

 それを取り除くためにも、すべての機能を体感させてみた。

 

 オペレーションアームだけは『攻撃用』では無いようで、威力こそわからなかったが、形状からして修理する必要が出た時に使えそうだった。

 

 それら全てを使い終えた後、空間の無音状態を解除する。

 

 

 すると、空間内の煙幕が、大気と混ざって霧散していった。

 

 

 (さて…と、たしか〝中堅〟戦では、向こうから出てきてくれるように話してくれてるはずだから、向こうが動かない以上、まだMPの回復に努めておいた方がいいだろう)

 

 カセットアームの仕様で、それなりにフレイラ自身のMPも消費してしまっている。

 

 自他ともに、そして腹の中のメンバー4名のMPや精神力も回復させるために、適度の休息はとらせておいた方がいいだろう。

 

 

 そう思って、ベンチに座っていると声を掛けられた。

 

「あなたは回復しないで大丈夫なのですか?…あ、ゎん」

 

 目の前までわざわざ移動して来てくれたのは、言わずと知れたペスト―ニャだ。

 

「あぁ、うん…いや、ボ…私まで回復しようと考えて下さっているとは…、さっきの戦い方からして、私に対し腹に据えかねるものがあったりするんじゃないかと思って遠慮してたのですが…」

 

 そういうことにして言い訳をしておく。

 

 半分は本心なのだが、自分自身を抑えられなかった結果、コキュートスにしでかしてしまったその内容が内容だけに、同じNPCとしては思うところがあるのでは…と考えると、軽々しく「回復頼めるかな?」とは言い出しにくかったという理由もあった。

 

「そのような事、考えるまでもない事です…わん、至高なる御方がお決めになられた事であれば、我らはそれに只々従うのみ…ぁ、わん」

 

 ちょっと意外であった。

 

 てっきり善のカルマ持ち、しかも極端とも言えるペストーニャであれば、身内をあれだけ傷つけられれば、何かしら思うところはあるだろうと思っていたのだが…。

 

「例え、私個人に『思うところ』があったとしてもそれは別の話、個人の認識よりも優先されるのは御方のお望みかどうか、それだけ…そういうことです。 …ぁ、わん」

 

 やっぱり何か根に持たれてしまったらしい…。

 

「で…では、個人的な感情は置いておくとして、至高なる御方より賜ったお役目の方は何より忘れてはならない最優先事項だから、回復の方はお願いできると…そう思ってよろしいのでしょうか?」

 

 コキュートスとの戦いでの口調はとりあえず引っ込めて、エルヤー然とした口調を心掛けて会話を続けるようにしてみたのだが、あまり感触は良くないようである。

 

 ペスト―ニャも、あぁは言ってもやはり感情の面はどうにもならないのだろう。

 

 それでも、御方のお望みは絶対である。

 

 ならば、事務的に徹しようとでも意識を切り替えたのだろう。

 

 極めて事務的な口調になっているような気がした。

 

「では始めますわん」

 

 間に少しの溜めや、呼吸の一拍すらない、ただただ棒読みにしか聞こえない一言。

 

 意外に、餡ころもっちもちさんを冷めた性格にして、平坦な物言いにさせればこんな人間になるのだろうか…?とつい思ってしまいそうになり、すぐ頭を振ってかなぐり捨てた。

 

 なぜかペスト―ニャにも餡ころもっちもちさんにも申し訳ないような気持ちになったからだ。

 

「なにか…わん?」

 

 いきなり頭を振り出した様子に、何か気がかりに感じたのか、短く問いかけてきたが、それに対して「イヤ、なんでもありませんよ」とだけ答えておく。

 

 そして、そのまま体をペスト―ニャに任せ、回復してもらうことにした。

 

 

 

                   ★★★

 

 

 

「という訳で、今回はアルシェちゃんには遠慮してもらおうかと思う。」

 

 その言葉を聞き、少し口を開きそうになり…だがやはりそこから声を出すことが出来ず、了承するそぶりを見せた。

 

「わかった…」

 

 ちょっと申し訳ない気持ちになるが、彼女が死んでしまうよりはずっといいはず。

 

 そう自分で無理やり納得させて、断る言い訳にしていた。

 

 しかし、改めて考えてみると、今まで『運がよかった』だけだったのだ。

 

 自分で設定した、ルール。

 

 〝一方が複数で対してきた場合は、相手も同数にしてよいものとする。〟

 

 それを今まで誰も逆手に取ろうとせずに「何人で来ようと問題ない」とばかりに強者としての余裕で対峙してくれていた。

 

 だがコキュートスに勝ってしまった以上、アウラはこれからどう対応してくるかわからない。

 

 今回、入場してくるのはアウラが先という話になっているはずだが、だからと言ってこちらが二人で入場したら、アウラが使役している魔獣を追加で増やしてくる可能性があった。

 

 可能性で言えば、一番親愛度と調教度が高いフェンとクアドラシル辺りかも知れないが…

 

 自分と一緒に参戦するのがフレイラだけであればそのどちらかの対処で済むが、もしもアルシェちゃんも参戦するようであれば、もう一匹増やしてしまうメリットを与えてしまうことになる。

 

 アウラの強みは単体での戦闘では無く、「群れ」での数の暴力…つまりチームとしての連携。

 

 その一点で言うならば、アウラはこのナザリック1、2を争うと言っていい。

 

(恐怖公の眷属たちが『群れ』なのは間違いないが、あれを連携と言っていいのかどうか悩むところだからな…)

 

 ぶるっと、「あの群れ」を思い出し寒気を覚えたので、その想像も脳内から消すことに腐心した。

 

「しかし、そうなると…フレイ、今回だけその腕のやつ、アルシェちゃんと交換してやるというのはどうだ?」

 

 そう提案した。

 

 フレイラの両手首に装着させた『骨竜の核石』を素材にしたバングル。

 

 それと、アルシェちゃんの装備している「お守り」として渡した腕輪。

 

「戦いに参加しないなら、ひとまずは第6位階までの不利益をもたらす魔法のみを打ち消すこの腕輪はアルシェちゃんが持ってた方がいい。」

 

 そう言ってフレイラの手首から2つの腕輪を、するりと抜き取った。

 

「え? そうしたら、フレイラさんが魔法に対して抵抗できなくなる…」

 

 

 その発言を聞いて、「あぁ、そうかそれを知らないのも当然か…」と、フレイラとも視線を交わし頷き合う。

 

 今度対戦するのは、「アウラ」

 

 ならば魔法の類は心配するだけ無用。

 

 状態異常の吐息などを使用されることはあるだろうが、魔法に関しては心得が無かったはずだ。

 

 その認識は、アルシェ自身は「持ち合わせていない知識」。

 

「あぁ、その点は大丈夫だ、今度出てくる相手は多分『魔法は使わない』だろうからね」

 

(もちろん、それはマーレが出てこないという前提のもとで出している結論だ。もし姉弟で出場してきた場合、しかたない…即座に降参しよう。)

 

 

 なにせ、マーレが使用できる最高の位階は第10位階だ。

 

 クラススキルまで使われたら、影響する範囲も広がるばかりでなく威力も上がる。

 

 チームワーク戦闘のエキスパートと、広域範囲殲滅の戦闘に於いてはナザリック最強のマーレと同時に相手取るなんて、自殺行為も甚だしい。

 

(いや…そう考えるのも早計か?フレンドリィファイアが解禁されているこの世界で、全方位とか…視界の及ぶ範囲に魔法効果範囲が広がったとして、間違いなくアウラの魔獣もその範囲に巻き込まれる…味方の魔獣まで巻き込むような戦い方をアウラが許容するか? こっちではガチャも出来ないし、高LV魔獣を探しに行くのも望みを持てない世界だ…。)

 

 あ…

 

 ベルリバーの脳に、それまで予想すらしていなかった可能性についての天啓が舞い降りた。

 

 マーレにも確か、かなり高レベルのドラゴンが2匹、いなかったか?しかもゴールドドラゴン!

 

 あんなのが出てきたらフェンとかクアドラシルどころじゃないピンチだ。

 

 なにしろあっちは「ドラゴンブレス」を吐ける上、マーレの魔法の効果範囲外に飛び上がってそのまま空中で静止し続けることも容易なのだ。

 

(甘かった、もしそうされたら詰む…、地上に居ればマーレの殲滅魔法、それに空からの「ドラゴンブレス」爆撃、空に逃げれば、ドラゴンとのガチ戦闘とか…空での戦いに慣れてない分こっちが不利だ。)

 

 ベルリバーもフレイラも、<飛行(フライ)>の魔法は使えるとはいえ、ドラゴンのように生まれてから生活の一部みたいに使いこなしたり条件反射的に旋回したり急降下、錐もみ飛行などが出来るわけじゃないのだ。

 

(今度機会を見つけて空を飛び回る練習でもしようかな…あ、そういえばシャルティアの時にも思ったけど、<飛行(フライ)>を使いながら空を飛んで風を受ければ、『風車のベルト』に風の力を溜められないか試すって案も忘れてたけど、やってみる価値はあるかもしれないな…。)

 

 だが、今は『風車のベルト』の変身機能は停止したまま、26の秘密の内、いくつかは使えると解っただけでもかなり気分は違うが…風力を溜めて自身にバフがかからなくなったのは地味にキツいかもしれない。

 

 何しろ、「停止状態」では風車の部分が回らないのだから…

 

神器級(ゴッズ)クラスのバフだからな~…有ると無しじゃ、まったく違ってくるよな~…)

 

 などと考えていると、はた目から見たら放心してるようにしか見えなかった自分の代わりにフレイラが事情を説明してくれていたらしい、アルシェちゃんと腕輪の交換をすでに済ませていた。

 

「さて、フレイラ、こっちにおいで? 課金アイテムの整頓をしよう、アウラ対策のを持っている必要もあるだろうし…ちょっと見繕うの手伝ってくれないかな?」

 

 そう呼ぶと、跳ねるように嬉しそうな感じでこっちへと近づいてくれている。

 

(しかし…フレイラと共に参戦する以上…、最悪、本当にマーレのゴールドドラゴンだけでも出てくる可能性はある。対して、アウラは中距離を保ってのムチ攻撃か、長距離からの弓攻撃のどちらかになるだろうから…その組み合わせだったら、前衛で戦うことになるのはドラゴンの方かもしれない…となれば竜の鱗を突破できるだけの武器がないと行けないが…)

 

 手元にあるのは真の姿を現した「レイザーブレード」

 

 そして、刀としての形状で造られた武器「無銘一刀 宜振」

 

 コキュートスとの戦いが終わった時点で<武技>としての名目で出現させていた下段の方の両腕一対は時間切れを装って、体内に収納させている。

 

 コキュートスとは、創造主との関係上、どうしても個人的なわがままで全力で正々堂々と一対一(サシ)でやりたかったという部分があったから全力だったが…アウラと戦うのは…どうしてもやりづらい。

 

 

 アウラの創造主のぶくぶく茶釜さんとは、本人にそのつもりは無かっただろうが、かなり世話になった記憶しかない…もちろんユグドラシル内での話だ。

 

(断じて言わせてもらうが、下世話な意味を含んでいるつもりは全く無いぞ!)

 

 脳内で含み笑いをしてるイメージが浮かんだ鳥頭に否定の言葉を浴びせる。

 

 

 その鳥頭の『姉』が生み出した〝娘〟であるアウラと戦うことになるのはどうしても本気を出しにくい。

 

 かと言って全力を出せずに戦っていれば「私の事、バカにしてんでしょ?」とでも言われかねない。

 

 だからこそ、課金アイテムだけでも準備してなんとか対策を立てておきたい。

 

 

 (しかし…そうなると、実力としては手を抜かず、だがアウラを必要以上に傷つけないような展開で戦いを進め、その上で、華を持たせる決着に落ち着かせる必要はあるか…)

 

 

 とそうなると、審判である主審の協力も必要となる。

 

 

 自分が思い描く展開で、理想通りにコトを進めるとするならば、どうしても必要不可欠な協力者を思い浮かべる。

 

 だが、今<伝言(メッセージ)>の魔法で目立つ行動は避けたい。

 

 自分から意図的に『結論』を誘導している最中だが、小出しにして行って、誰か頭のいいヤツ…ここで言うならばデミウルゴスが筆頭に挙げられるが…に、気づいてもらって、他の守護者に少しずつ受け入れてもらうしか方法はないとは言え…、なかなかに難易度が高くなってしまったものだ。

 

 

 だが、これで方向性が決まった。

 

 

 可能性1、アウラとマーレが共に出場してきた場合。

 

 解決策 、頃合いを見計らって降参。 

 

 

 可能性2、アウラのみだが、フレイラの出場に合わせ、ゴールドドラゴンも出場した場合。

 

 解決策 、<飛行(フライ)>を使えないアウラを置き去りにして、ゴールドドラゴンと空で戦い、なんとか退けた後、余力が無い風を装って(装う必要は無いかも知れないが)自然と負ける形をとる。

 

 

 可能性3、出場はアウラ+アウラの使役する魔獣の一体

 

 解決策 、フレイラに「レベル3」だけ取得させた上位種族<エルダー>を発動して完全魔獣化してもらい、魔獣を引き付けてもらいつつ、アウラとは自分が戦う。

 

 

 可能性4、アウラだけが自分とフレイラを相手にしてくれた場合。

 

 解決策 、審判の協力を仰いで、なんとかその場の流れで…という形になるが…

 

 

 

 まぁ、どちらにしろ、結局のところ、本気でアウラを傷つけるわけには行かないよな。

 

 茶釜さんの娘だし、何より、NPCとは言え、女の子なんだから…

 

 

 穏便に行きましょうかね、穏便に…

 

 

 そう思いながらも、うまくいけばいいな…と内心、不安をぬぐい切れないベルリバーだった。

 

 

 

 




 お待たせしました。

 どうやら5月に入ってしまいました。

 ボヤボヤしておりましたら、なんと嬉しいニュースが届いてきたじゃ、あ~りませんか!

 「祝! オーバーロード 第4期、制作決定!&劇場版の制作も決定!」


 いやいや、嬉しいものですね。

 期待していたとはいえ、個人的にはちょうどいい区切りということで第3期で終わりだろうなと半分諦めていたもので…ジルクニフさんの頭皮にクリティカルダメージが入るシーンが見られるかもしれないとは!


 転スラのシオンさんの声が、某覇王将軍さまと同じと知った時よりも嬉しいですよ、えぇ、ホントに。


 ちなみに、前回の話で出ていた、フレイラの身体にアタッチメントを託しているシーンは、
「第47話 いざ!合流の地へ!」の、★★★が2つ出た直後のエピソードにあります。

 そして、フレイラの職業レベルに関する詳細や、職業ごとの魔法取得数などは「第59話 次鋒1」の★★★、これも2つ目の直後から、地味に細かく説明が入ってます。

 見て貰えれば解ると思いますが、多方面に色々手を出した結果、極端に弱くなってしまった典型ですね。

 先に「霊媒士」の『憑依』のスキルを覚えてから紐づけしての特化召喚としてなら、信仰系ではなく魔力系を使えるという具合に捏造を入れてます。

 ついでに話の流れで違和感を覚えた人もいるかもしれませんが、私の書いているこの作品の時間軸では、シャルティアは漆黒聖典と対峙していません、自然とブレインとも会わずに済み、アインズさんも、NPCの死に直面するという「精神的な耐性」を持つ機会に恵まれてないので、コキュートスの腕が飛ばされた時に、あまりの衝撃的なシーンにフリーズしてしまったということにしております。

 『風車のベルト』の能力の方も、ベルトにエネルギーを蓄えたり、放出したりする機能は3時間の間、制限されますが、肉体能力に依存する能力、(ドリルアタックや、特殊強化筋肉、特殊スプリング筋肉、複眼の能力など)それらは限定的に使えるようにするつもりです。

※火柱斬駆(キック)は、「家族の為の復讐心」の効果+剣に付与させた魔法効果を上乗せさせた結果となっただけであり、本来の機能の通りに『レッドランプ、レッドボーン、ダブルタイフーンの全てのエネルギーを解放』しての発動をしていたなら、〝命がけ〟の数値も倍増するので、文字通り、一発で命が無くなってしまう可能性もあります。

注)『レッドランプ、レッドボーン、ダブルタイフーンの全てのエネルギーを解放』
の項目は、ベルリバーの意識内での説明では明記されていません。
(隠し要素的に隠されています、なので本人はこの3点セットでさらに威力が上がることは知りません)


 話の中での『火柱斬駆(キック)』はダブルタイフーンの要素が、すでに放出していたことによって失われていたので、まだ25%×2倍で済んでいたということで許してくださいw



 アウラ戦はどうしようか…長くなりそうなら、エピを削った方がいいかもですね。

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