気づいたら大自然 小心者の異世界闊歩   作:yomi読みonly

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今回は、帝国編に入る前に、フォーサイト目線でなにが起こっていたのか、書いてみることにしました。

しかしセリフやら、場面説明やら、フォーサイトルートで書いてると、妙に文字数がおおくなってしまい。

結局16000字を超えてしまいました。


まだまだ、精進が足りませんね。


幕間 フォーサイトの受難〝おぞましき邂逅、奇跡の生還〟

 

  ここはトブの大森林と呼ばれる場所。

 

 本来はうかつに人が入り込めば、どんな生き物に「エサ」として襲われるかわからない、油断できない場所だ。

 

 

 

 そこに警戒しながらも、決して怖じけずに歩を進める一団がいる。

 

 その者達はワーカーチーム「フォーサイト」

 

 

 

 ワーカーとは帝国においてルールに縛られず、管理されない自由さと引き換えに、自らの実力で、全て依頼主の選定から下調べ、違法であろうがなかろうが、自己責任で依頼の危険度に見合う報酬のために、依頼さえあれば日々活動している者達のことである。

 

 言わば「よろず仕事請負人」のことなのだが…このフォーサイトはどのような事情があれ、殺しや暗殺などの依頼は受けないことをモットーとしているチームだ。

 

 それも自分の命あってこそ、という最低限の基準はある…襲われたら身を守るだけに留まらず、返り討ちにすることも時にはあるのだが…

 

 

 

 そしてそんな彼らがいるのは大森林と呼ばれる…迂闊に人が足を踏む入れては生きて帰れる保証のない場所であり、周囲一帯に広大な自然が広がり、なんの準備もしないで入ろうものなら、何かに襲われずとも道に迷い、命が危ない…「安全」とは程遠い隔絶された世界である。

 

 

 

 それでなくても本来ここは彼らが所属している帝国ではない、森の中は王国の領地である。

 

 

 

 それなのに、危険を冒してまで彼らがここにいるのは、大森林の東端、そこからすぐ目の前にある街、「ルーズィンタール」の領主からの依頼で、仕事を引き受けたからだ。

 

 

 

 

                  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 樹木に囲まれ、かろうじて獣道になっている細道を歩きながら、彼らは進む。

 

 進むといってもこの「森」というテリトリーの中では下手をすれば、厄介な敵に襲われることもある。

 

 もちろんそれは人という存在のみならず、森に棲むモンスター達から、ということもあり得るのだ。

 

 樹の上から獲物を狙い、生半可な武器では簡単に切れない糸で首を吊らせようとする「絞首刑蜘蛛《ハンギングスパイダー》」。

 

 物陰からいきなりジャンプして飛び掛り、不意をうつ「跳躍する蛭(ジャンピングリーチ)

 

 さらには、地中から気づかれずに忍び寄り、足の下から急に現れ、大口を開けてバックリとエサを丸呑みする「森林長虫(フォレストワーム)

 

 

 

 そんなのがウヨウヨ出てくる可能性があるのだ。

 

 必然的に歩みは安全を確認しながら、という遅めの歩調になる。

 

 

 

「ねぇ? ホントにそいつは塒(ねぐら)にしてる洞窟から姿を消してるんでしょうね?」

 

 弓を携えたレンジャー持ちのハーフエルフの女性が、そう口を開く。

 

 

 

 それを受けて一番前を進む軽戦士風の男が軽く答える

 

「それを心配してるから、ご領主様からたんまり前金までもらって、こうして調査をしに来てるんだろ? まぁ、噂通りなら巨人とバッタリなんてないと思うぜ?」

 

 

 

 その一番後ろで、背後から襲われるのを警戒している神官風のヨロイ姿の男がそれに追随する。

 

「問題は、標準サイズより大きな巨人であれば、遠くてもわかるでしょうが、ただのオーガや、トロールだったら、木々の陰に隠れててバッタリという可能性もあるでしょうね」

 

 

 神官より前を歩き、4人の中では中心、他の3人に護られるように歩を進める魔法詠唱者(マジックキャスター)の女の子が不安を口にする。

 

「おそらく巨人という話からして、魔法までは使えないと思うから、私の「目」で遠くから魔力の波に気づいて警告とかは…出来そうにない…。」

 

 

 

 

 

 森に関してはレンジャー持ちの仲間が一番先に危険に気付く可能性が高いため、特に周囲に気を配りながら、ハーフエルフの女性がそれに返答する。

 

「大丈夫だって、アルシェにはいつも助けられてるんだから、今回だってもしトロールだったら、酸や炎での支援、頼んだわよ? 多分それしか通じないだろうしね。」

 

 

 

 その会話で少し緊張してる感じに気付いた神官の彼が空気を和らげるために全員に聞こえるように溌剌と発言する。

 

「大丈夫ですよみんな、もし何かありましたら、我らがリーダーが身を挺して逃げ道を用意してくれますから。」

 

 

 

「オイオイ、俺にその役目を回すのかよ! 足止めくらいの役にしかたたねぇんじゃねぇか? トロールだったら再生されてジリ貧だぞ?」

 

 

「大丈夫ですよ、こっちだって、私という回復役がいるんですから、遠慮なく傷ついていいんですよ」と神官の男。

 

 

 

「おいおい、ロバー、お前の回復量でトロールのダメージをゼロにできるのか? 俺はまだ死にたくねぇぞ?」

 

 

 

「大丈夫です、神の奇跡で、きっと生き返ることが出来ますよ」と軽く言う「ロバー」と呼ばれた神官の男

 

 

「お前、蘇生魔法つかえないだろぉ~? 適当言ってんな?」と苦笑して返答する軽戦士。

 

 

 その会話で少し肩の力が抜けたのか、アルシェという女の子はかすかに笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう、みんな…私、足手まといにはならないからね?」

 

 

 

「大丈夫だって、何かあったら私だって、アルシェに攻撃が行かないように牽制くらいの役には立つんだから。」と肩に手を置いて、ハーフエルフの女性がニッコリと笑顔を向けた。

 

 

 

 

                 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 なんだかんだ、張り詰めすぎない程度の緊張を保って森を歩いていると、進行方向のずっと先から、魔法でも炸裂したかのような爆音が聞こえてくる。

 

 

 

 驚いて、全員が顔を見合わせ「何? 今の何の音だと思う?」「わかりませんね、魔法の音のように聞こえましたが、ちょうど<火球(ファイアーボール)>が炸裂した時のようでしたね…」「問題は、それが誰かを襲って使ったのか、それとも襲われて、自衛のためなのか…それ次第で話は変わる。」「そうだな、ひとまずは状況の確認だな」

 

 

「まずは状況確認のため、俺が先行する。ロバーはしんがり、背後からの危険に備えてくれ、イミーナはアルシェの前に居てやってくれ、特に何かからの不意打ちに遭わないようにフォローだ。 それじゃ、行くぞ!」

 

 

 

「「わかった」」 「えぇ。わかりました」

 

 

 

 

 

 彼らはまだ知る由もない、これから向かう先に何が待ち受けているのか、それがまだ「悪の魔法詠唱者」程度なら、まだマシだと思うような災禍に身を投げ出すことになろうとは、この時は想像だにしていなかったのである。

 

 

 

 後に自分たちの身に起こる、身の毛のよだつような体験の、ほんの些細な序章であることにすら気づかず、渦中に飛び込んで行くことになってしまったとは…

 

 

 

 

                 ☆☆☆

 

 

 

 

「なんだ、さっきの爆音はあんたの仕業か? …って、え?あんたなんだその口、モンスターか?」

 

 

 

 今、自分達の目の前にいるのは、見たこともない者であった。

 

 先ほど、爆音が森の中で響き渡り、誰かが襲っているか、襲われているかを心配して来てみれば、なんと全身口だらけ…というか口しかないと言うか…幸い腕や足、胴体などはちゃんとあるので、かろうじて人体の形はしていることがわかる。

 

 

 

 とは言え、目の前の存在が、武器も防具も身に着けていない、同じ人間ならば裸という事実にうろたえるだろうが、相手は見るからに人外だ。

 

 

 

 下手なことをすれば、あの無数にある口と牙、あれでかぶりつかれる可能性もある。

 

 

 

 リーダーであるヘッケランは悩む…何しろ、今までに遭遇したことのない…モンスターだか、異種族だかの判断材料が全く自分らには無いためだ。

 

 うかつなことをして、メンバーを危険にさらしたくはない。しかし、どうすれば最適解なのかの情報がない中、下手に動くこともできないというのが正直なところだ。

 

 

 

 隣を見れば、イミーナが油断なく弓を構えては居るものの、彼女もそのまま、下手に刺激出来ない状態でいる。

 

 

 

 しばらくそうやって下手に動けない状態だったのだが、そこでその均衡を破る声が聞こえた、ロバーデイクだ。

 

「見たこともないモンスターですね、あんなのは今まで見たことも聞いたことも…」

 

 とまで言った矢先、アルシェがその先を遮るように叫んだ。

 

 

 

「ダメ!そいつには関わっちゃいけない!みんなすぐ逃げて!」

 

 

 

 アルシェは〝生まれついての異能…タレント"によって見えているのだろう、魔力系、魔法詠唱者(マジックキャスター)特有の魔力の量を…

 

 

 

(おいおい…アルシェが逃げの一手を口にするほどなのか? ってことはあいつは魔法も使えるのかよ…少なくともエルダーリッチと同等かそれ以上ってことか?)

 

 

 

 目の前にいる異形の相手を見やると、最初に見た時と同じ姿勢のままでいる。

 

 こちらの様子を見ているのか、敵対的な動きも、かと言って友好的に話しかけてくるでもなく、両手を大きく広げて「さぁ、おいで?」とばかりにその場から動かない。

 

 わずかにあらゆる口たちが、小刻みに動いてはいるので、間違いなくこちらの出方をうかがっているのだろう。

 

 (あんな態度で、余裕を出して待ち構えてるんだ…何かの罠か、それでなけりゃ、相当自信があるって証拠だよな…ありゃ。)

 

 

 

 リーダーのヘッケランも思考の渦に陥っているため、他の2人も下手に動けない。

 

 逃げようと下がれば、相手は動き出すかもしれない、かと言って全力で逃げようにもアルシェの目ではどの位階まで使えるように見えてるのかわからないが、後ろからズドン!は勘弁願いたい。

 

 

 

 

 

 チームとして動けなくなっていることに焦れてきたのか、決定的な言葉をアルシェが放つ。

 

「そいつは私の師匠より強い!第7…うぅん、多分第8位階まで使えると思う!」

 

(…マジか…そんなのの範囲に巻き込まれたら間違いなく全滅じゃねぇか…国を相手に戦えるアルシェの師匠よりも上ってか?)

 

 

 

 そう思わず心で舌打ちをして「こりゃ死んだな」と内心で呟き、最期の言葉になるだろう一言で全員に「覚悟を決めろ」と暗に伝えてくる。

 

 

 

「ウソだろ~? 第8なんて言ったら神話の話じゃ~ねぇか!」

 

 

 

その言葉に呼応して、ロバーデイクが自分たちもそれを確信しているという意味を込めるように言葉を発した。

 

「私にもわかりますよ、そのモンスターを見てると鳥肌が立って、止まりません…」

 

 

 

 恐らくアルシェの師匠ならあと100年も生きれば、第7位階とかにも行きそうな気もするが、第8、第9なんて魔法は物語の中、かの「八欲王」や「六大神」らの世界の話なのだ。

 

 そんな「伝説」が目の前にいるのでは、下手な動き1つで世界を巻き込む、大惨事どころか「破滅」しか待っていない状況が目に見えるようだ。

 

(どっちにしろ詰んでるな、俺らが先か、世界と一緒に…、って違いなだけ…か?)

 

 そう絶望に陥りそうになっているところに思わぬところから一筋の光明が差し込まれた。

 

 

 

「あぁ~、失礼…みなさん初めまして、私はつい最近この森に来た者ですが、どうやら驚かしてしまったようですね、少し訓練…のようなことをしてたとこでして」

 

 

 

 一瞬、誰がそんなことを言ったのか、わからなかった…なぜならどこをどう聞いてもただの気の弱い一般人が、はずみで何かをやらかした時に弁解するような雰囲気を漂わせながら、人間としか思えないような声音で話しかけてきたのだ、これがもっとモンスターじみた発声ならまだ納得もできるのだが、目の前の存在にそんな声が出せるものなのか?とつい耳を疑ってしまう。

 

 

 

「おい、今の聞いたか? なんかえらく腰が引けてるみたいな感じなんだが? それにどう聞いてもあれ、モンスターじゃなく人の声だぞ?」

 

「そんなこと言ってもアルシェの目は確実よ? 何かのマジックアイテムでも持ってて魔力を隠してるならまだしも、見えた結果を間違ったことは今まで一度もないじゃない」

 

 弓を構えながら、小声で問いかけられたリーダーの質問にイミーナも小声で返答する。

 

 

 

「そうやって、気弱な芝居をして、こちらの油断を誘っているのかもしれません。あのポーズはどう見ても、いつでもかかってこい…もしくは、何も怖くないよ?って思わせたいような態度にしか思えません。」

 

慎重なロバーの、それでいてそういう面があるからこそ、ムチャをせずに今まで生きてこられた彼の存在は大きく、その言葉を軽く扱うことは、自分達の危険度を上げることだと理解してるため、その言葉にも理解ができる。

 

 

「んじゃ~どうするよ?進んでも地獄、逃げようとしてもズドン!っていうのが目に見えるようだぞ?」

 

 

 

「じゃ~、あいつのご機嫌でもとってみる? もしかしたら、見逃してもらえるかもしれないんじゃない?」

 

 

「あれのどこをどう褒めるっていうんだよ、下手に機嫌を損ねたらそこで終わりだぞ?」

 

 

 

 結論の見えない相談を身内だけで交わしていると、再び目の前の異形の存在から、信じられない言葉が発せられる。

 

「危害を加えるつもりはありません、私も別に争いごとが好きな訳ではないので、対応はそちら次第ですが、できれば、少し話し相手になってくれませんか?」

 

 

 

 そう言い終わると、その異形の者は、ゆっくりと腰を下ろし、ヒザを地面につけて足を組むような姿勢でくつろぎ始めた。

 

 

 

 

 

「信用できると思いますか?」と、ロバーデイクがどちらに対して言ったのかわからない返答をする。

 

「私は反対、見るからに取って食われそう」

 

 メンバーの中で一番、罠や危険を見定めることに長けたイミーナが反対の意見を述べた。

 

(だが、どっちにしろこれじゃ、状況は停滞したままになっちまう、それならちょっとばかり冒険してみるか?)

 

 

 

「あんた、何者なんだい? 話って言ったって、なんも面白い話なんかないんだが?」

 

 

 そう問いかけたヘッケランに対し、目の前の異形は、少し体を起こすようにして、こっちに意識を向けてくれたようだ。

 

 

(話は通じる相手っぽいか?)

 

 

 もし話が通じる相手なら、問答無用で力に訴えてくる奴よりはまだやりようはある。

 

 そう結論を出し、これからどういった流れに持っていこうかと思案し始める。

 

 

 

「なに言ってるのヘッケラン!そんなのと関わるつもり?」

 

 

 

 ヘッケラン以外の3名がそろって、目を見開き「大丈夫か?」といった目を向けてきていた。

 

 

 

 それに対して、対話相手を見据えることで、言葉以上に自らの意思を仲間に伝え、交渉を開始する。

 

 

 

 

「俺達も、さっきの大きな音を聞いて近づいてきただけで、あんたの縄張りを荒らすつもりじゃなかったのは信じてもらいたいんだが、どうだろう?」

 

 

(これで、まずはこっちが姿を見せた理由を相手に知らせることはできた、あとは向こうがさっきの爆音の理由は何かを教えてくれればいいんだが…)

 

 

 

 そう考えていると、その異形の者は、人間であれば頭をかくような仕草をしながら(場所は頭だが、口しかないので、ポリポリと口をかいている。)

「あぁ、問題ないですよ?私の方も別に縄張りって訳じゃありません、ただ、そこに見える廃墟を一晩の宿代わりにしてただけなのでね、そんなことで怒るつもりなんてないですから」

 

 

 

 と、そう言って、後ろの方に指を向けるようなポーズをとられた、そちらを視界に収める程度に意識を向けると、たしかに廃墟のようなものはあった。

 

 

 

(ただ、寝泊まりをしただけで、通りすがりだって言いたいのか? それにしても爆音の正体は明らかにせず…か、手の内は見せないってことか?)

 

 そう苦々しく思うも、少なくとも見える範囲に生き物の亡骸などはなく、何かが燃え尽きたような跡も、焦げたような様子もない…犠牲者がないなら、それ以上詮索する必要もないかと、あの音についての追及はやめる。

 

 

 

 意識を切り替え、まずは自分たちの身の安全の確保を優先することにする。

 

(大事なのは自分たちだけが助かりたいというんじゃなく、相手に「俺たち」に危害を加えてもメリットは無い、そう思わせることだ)

 

 

 

 こちらの要求を聞いてもらう代わりに、相手にも同じくらいの条件は用意するという言い回しで、カマをかける。

 

「そうか、なら俺たちはできれば生きてここから出たいんだが、あんたには危害を加えたりしない代わりに俺たちのことも見逃してほしい…っていう条件はどうだろう?」

 

 

 頭に相当する場所を微妙な角度に傾けたと思ったら、その交渉相手は、こう返してきた。

 

「別に危害を加えるつもりはないから、ここから生きて去りたいというなら別に追いもしないし、そのあとに追跡もしないよ、好きにしたらいい」

 

 

 

(よし!とりあえず、これで当面の危機は取り除けた。 あとはどうやって、この場を切り抜けるかだな…そのまま何もなく撤退できれば言うことはないんだが…)

 

 

 

 そう思っていると、続く言葉を投げかけられる。

 

 

 

「しかし…」

 

 

 

(え? なんだ? これ以上なにか用があるってことか? 命は助けてくれるって言うんだし、少しは何か見返りを…ってことか?)

 

 そう警戒していると…

 

 

「君たちを生かして帰すための交換条件として、こちらにも…私が望むものを提供してもらいたい」

 

 

 

(やっぱりか! 「命は助けてやるから、身ぐるみ置いてけ」ってのじゃないよな?こんな森の中で装備をはがされたら、生きて出られねぇぞ?)

 

 

 

「俺たちのなにが目的だい? 仲間は売らないし、金目のものもありはしないが?」

 

(ここで「お前たちの装備があるじゃないか?」とか言われたらおしまいだな…)

 

 

 

「別にそんなのはいらないさ、最初に言っただろう?私は『ここに来たばかり』だと、だから出来る限りの情報が欲しいな」

 

 

 

(え? 情報? なんだそれ? 帝国の情報を売れってことか?それともこの森の? いやいや森の情報なんてそんな重要でもないだろう、だとするとなんの情報だ?)

 

 

 

 ヘッケランは軽い混乱状態、メンバーは相手が何を言い出したのか、何を意味するのか…そこを判断しきれずにいた中…

 

 

 

「応じてもいいと思う」

 

 

 

 今まで、ず~っと相手の脅威を見定めるように沈黙を守っていたアルシェがそう返す。

 

 

 

 今度はアルシェがみんなの注目を集める番だ。

 

 

 

「どうしたのアルシェ!正気? それとも<魅了(チャーム)>でも使われた?」

 

 

 

 心配したイミーナがアルシェの肩をゆすり、冷静かどうか確認をする。 もしチャームでもかけられてたら、うちらの「頭脳」がつぶされたことになる…が、そんな魔法を使うような動作は見られなかった。

 

 恐らく、考えて出した結論だろうとヘッケランはそう思っていた。

 

 

 

「そのつもりならいつでもあいつは、私たちを全滅させられる、情報が欲しいなら<魅了(チャーム)>でも、<支配(ドミネート)>でも使えるはず、それなのに、対価も求めず情報だけを求めてきた、とりあえずウソはないと思う」

 

 

 

 <魅了(チャーム)>などをかけられた場合、相手を「親しい友人」だと思い込まされた状態になる、そのため、対象となる相手を「あいつ」呼ばわりはしない。

 

 同じように<支配(ドミネート)>をかけられた場合、「支配者」と「支配される側」の関係がハッキリと態度に現れる。 <魅了(チャーム)>と同様の理由でこれの可能性もないだろう。

 

 

(となればアルシェの勘は、あいつを「この件だけ」に於いては信用できると判断した、ってことだな)

 

 

 

 

 

 それに対して「しかし、こんなことをいうのも問題かもしれませんが、情報を得たらすぐに始末されるかもしれませんよ?」と、慎重派なロバーデイクが、展開が悪く転んだら?という意味を込めての質問をする。

 

 

 

 その質問に対しての返答も、アルシェに揺らぎはなくしっかりとした確信を持って返す。

 

「私達は始末されなければいけないほどの情報をまだ何も知らない、外見的な特徴だけで、どんな秘密も知らされていない。 騙して始末なんて…そんな必要もなく魔法一撃で私たちはきっと終わる。 …だからわざわざ手間をかけてまで回りくどいことをする必要がない……もし姿を見られるのが問題なら、対面した瞬間に私たちはすでに生きてない」

 

 

 

 ここまで言われたら納得せざるを得ない、これまでの対面で、目の前の存在が、何気なくしていても確かな「圧」を感じるのだ…その気になったら今の比ではないだろうことは誰しもが理解していた。

 

 

 

 

 ここで、みんなも折れてその意見に従う空気になった、しかし念のためと、ヘッケランが「情報の対価」を要求していた。

 

 

 その内容は「あんたの知りたい情報は、俺たちの知りうる限りの情報を提供することを確約する、決して虚偽や出し惜しみはしない、その代わり、聞かれなかったことには答えない、知らないことは言わないでいいという自由は欲しい。」

 

 さらに「聞かれた質問に、隠さず答えることは誓う、だから生きて、ケガもなく五体満足で、精神的にも手が加えられてない状態で街まで帰してほしい。」

 

 

 

 …というどこまでも用心深い要求だった。

 

 

 

 

                 ☆☆☆

 

 

 

 

 果たして、情報提供してもらえるという状況にはなったのだが、なぜそんなに嬉しいのか?とフォーサイトの面々が不思議に思うほど、その異形の者はウキウキとしている雰囲気を漂わせている。

 

「それじゃ~、場所を変えて」…と言いかけたところで、異形の者の動きが止まる。

 

 

 

 何か起こったわけでもないのに、どうしたのだろうと思っていると、いきなり「あぁぁぁぁぁ~~~!!!」と叫び声をあげた。

 

 

 

 さすがになにか見落としがあったのか?と思っていたら、異形の者はこんなことを言い出した。

 

「しまった、お客さんを招くのに、掃除すらしていない!!」と言ったかと思うと「すみません、ちょっとだけ待っててくださいね?」

 

 そう告げると、先ほどの会話で『自分が寝泊まりしていた』という廃墟に入っていく。

 

 

 

 呆然として、状況を見守っていると、いきなり廃屋全体が淡く光り始め「何が起きてるんだ?」と思う間もなく、廃墟だった建物は、少なくとも「朽ち果てた」という表現よりも「みすぼらしい」という程度には直され、改めて招待され、招き入れられた建物内は、吹きさらしの状態ではなく、壁も屋根もしっかりと整えられた状態になっていた。

 

 

 

「なにが起こったんですか? もしかして何かしました?」とアルシェと言われていた少女が疑問を口にする。

 

 

 

「あぁ、今のは<魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)>を使って、<道具作成(クリエイトアイテム)>を使いました。」

 

「この廃墟全体を範囲に入れてから、その中の木材だけを使って、気になるところを直したんです、雑多な木材やらなにやらが、散らばってたので、片づける手間を考えても一石二鳥でしたよ。」

 

(鉄までは後で別の目的で使うので、別の場所に片づけましたけどね。)というつぶやきはアルシェに届くことはなかった。

 

 

 

「さすがに廃墟の外に捨てられてる材料までは範囲に入らなかったので、そっちは何ともなかったでしょ?」

 

 

 

 そう目(?)というより顔らしき場所を向けられて、驚愕していた…ただの<道具作成(クリエイトアイテム)>の魔法を建物全体へと範囲を広げ、さらにはただの掃除ついで、と言い切ったのだ。

 

 この時点で「レベルが違う」と思っていたのだが、次の異形から放たれた言葉のせいで、周囲の空気が凍り付くことになる。

 

 

「ところでアルシェちゃんって言ったっけ? よろしくね。」と言おうとし、言い終わらぬ内に、かぶせ気味に「子ども扱いしないで!」と冷たく突き放されてしまった。

 

 

 

「ハッ!」とした表情になるも、次の瞬間には顔を背け、「ごめんなさい、力の差を見せつけられて、トゲトゲしくなってしまいました。」

 

 

 

 そういうやり取りをしていると、ようやく凍り付いた時間から解放された面々がアルシェのフォローに回る。

 

「すみません、こちらからも謝ります、彼女はチーム内では最年少ですが、家族内では妹がいるお姉さんなんです。 だから「ちゃん」付けに慣れていなくって…」と少ししどろもどろだ…。

 

 

 

その言葉を受け、異形の者は「あぁ、気にしてませんよ、私も軽率でした、初対面の…知り合ってまだ間もない女性にうかつな発言でしたね。 それにそういうお仕事をされているのですから、警戒心を持つというのは大事です、警戒しすぎて目が曇らないようにするのも同じように大事ですけどね」

 

 

 

 背けていた顔をバッと見上げて、その異形の者を見ると(下手すると、こういうのもセクハラ案件っぽいのか?)と、アルシェにしか聞こえないような声で呟いていたが、「せくはら?」と首をかしげて彼女が問いかけると「あぁ、なんでもありません、気にしないでください、こっちの話です!!」と、初めてうろたえたようなこの人(?)の反応が少しほほえましかった。

 

 

 

 

 

 「それじゃ~これからは「アルシェさん」と呼ばせてもらいますね?それで許してもらえますか?」

 

 

 

 「ハイ、すみません、こちらも急にあんな反応を見せてしまって。」

 

 

 

 と和解ムードになった場面を離れてみていたメンバーから「ほぉぉ~~~…」とホッとする雰囲気があからさまに漂って、苦笑してしまった。

 

 

 

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 ※ここからはベルリバーさん目線での書き方になります。

 

 

 

 

 

 改めて、<道具作成(クリエイトアイテム)>で作り出した、4脚のイスを勧め、とりあえずは座ってもらって落ち着いてもらおう、最初にクールダウンは必要だ。

 

 

 

 そこで少し、建物から出て、外の伐採されて残されていた木の根っこごと、切り株を引き抜いてきて持ってくる。

 

 

 

 全員の視線を受けながら、またさっきの魔法を唱える。「<道具作成(クリエイトアイテム)>!」そう唱えると、切り株の形がみるみる内に姿を変え、見事なテーブルに変わっていた。

 

 

 

 

 それを「どうぞ」と勧めた後、コップを用意しようと思ったが、持ち合わせがない。

 

 そう思った時、なにか代用できる素材はないかと思案していたら、昔…ナザリックの自室に飾るために置いてあったものだが、ギルドを辞める際、インテリア(課金)で、飾っていたクリスタル製の彫刻やらなにやらを外し、アイテムボックスに突っ込んでいたことを思い出した。

 

 

(とは言え、ここの人たちは、アイテムボックスに手を入れる動作と光景って、一体どう見えるんだろう…そう考えたら懐から出すように見せた方がいいな。)

 

 

 

(見た目はグロいかもしれないけど…仕方ない!)そう思い立ち、お腹の部位にパックリと開いている口にズボっと手を入れる。

 

 

 

 フォーサイトの面々は、一様に驚いているが、意に介さず、続ける。

 

 

 

 腹の位置にある口に手を入れる風に見せ、その腹の中でアイテムボックスの闇を出現させる。

 

 その中から、10個ある[無限の背負袋(インフィニティ・ハヴァサック)]の内、未使用なのを引きずり出す。

 

 もちろんヨダレなどはついていない。

 

 

 

 その[無限の背負袋(インフィニティ・ハヴァサック)]内に手を入れ、その中で再びアイテムボックスに手をつっこむ。

 

 用があるのはこれだ、クリスタル式で大人の腰辺りまである、美術品としても売れそうな女神像だ。

 

 

 

 それをズルリと引きずり出す様子を驚きの目で見やる4人の目の前で、<道具作成(クリエイトアイテム)>!と発動させ、4人分のクリスタルグラスを作り出し、それぞれに振る舞う。

 

 

 

 今までの流れで、ひたすら呆然として、何をされたのかわからない面々に事情の説明をする。

 

「飲み物を出そうとしたんですが、あいにく持ち合わせがなくてね……あ、いや、一応飲み物はあるんですよ、でも容器がないもので、間に合わせで悪いとは思いますが、こんな程度で勘弁してくださいね。」

 

 通常、クリスタル製のグラスなど、一介の市民や、普通に生計が立つようになってる冒険者や、ワーカーでもこんなものは使えない!高額すぎるのだ。それをポンと渡された、しかも「間に合わせ」と言われ…。

 

 

 

 そして、同じ所作で[無限の背負袋(インフィニティ・ハヴァサック)]の中から[無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレスウォーター)]を出し、クリスタルグラスに4人分、注いでいく。

 

 

 

 もちろん何人分の水を入れても、中身の水は減らずにいくらでも湧き出てくるその光景に一同、閉口している。

 

 

 

 

 

「お口に合うかはわからないけど、さぁ飲んでくれ、毒なんて入ってないからさ?」

 

 

 

 そう言って、先ほど、テーブルを作る際、ついでに作っておいた木のコップを自分用として出し、そこに水を注いで、自分から飲み干していく。

 

 

 

「ホラ、ボクも飲んだから、安全は保障されてるでしょ? 遠慮はいらないよ、まぁ飲んで飲んで♪」

 

(自分には毒無効の耐性があるから、あってもなくても関係ないんだけど、まぁそれは言わないでもいいや、どっちにしても入ってないし)

 

  

 

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 ※ここからは再びフォーサイトの目線に戻ります。

 

 

 

 目の前のクリスタルグラスに目をやる、普通は薄いグラスで作られているのが一般的だが、一応アルシェの家にも少しはそういうものはある、しかしそれに比べても厚みがあり、しっかりとした作りだ。

 

 ワイングラスのような作りじゃなく、実用的な、普通の「コップ」に取っ手を付けただけのようなモノ…しかし見ただけで、価値がすごいものだと分かる、これ一個売っただけで家の借金がどれだけ返せるだろうか?

 

 そんな目線でグラスを見つつ、「あ、そうだ」と1つ思いつく、しかしその前にこれを振る舞ってくれた人(?)に一言断わりを入れるべきだろう。

 

 

 

 意を決して、一口、水を口に含んで口の中で転がす、実家で飲んでいたワインの時のクセで、なんとなくそういう行動をしてしまった。

 

 「おいしい…」と感動して、それだけしか言えないが、表情からしても他の3名にはちゃんと伝わったらしい。

 

 

 

 それぞれが水を飲んでいる中、さっき気づいた事を先に言っておこうと声をかける。

 

「あの~…すみません、1ついいでしょうか?」

 

 

 

「…? はい、なんでしょう?」

 

 

 

「水を振る舞ってくれたのは嬉しいです、それにすごくおいしいですし…そのお礼になるかはわかりませんが、私のオリジナル魔法、この水に使わせてもらっていいですか?」

 

 そう言うと、相手はかなり驚いたらしい。

 

 

 

「え? オリジナル魔法? ここってそういうの作れるんですか? もしかして水から精霊を作り出すとかそういうのでしょうか?」

 

 

 微妙にポイントのずれた感想が出る中、アルシェは返答を返す。

 

 

「いいえ、これは生活魔法、というもので、位階魔法にすら入らない、なんてことない魔法ですよ?」

 

 

 

「えぇぇ? オリジナルに魔法も作れるのに、しかもさらに生活魔法ですか? どんなのがあるんです? 興味ありますよ」

 

 

 

 なんかすごい興味を示してくれてる、魔法の話でこんな風に話せるのっていつぶりだろう…魔法学院に居た時以来だったかな…?

 

 

 

「私の作った魔法は、水とかお料理に入れて味を付け足すものなんです、香辛料とか、甘味って法外に高かったりするので、まず手がでないんですよ。」

 

 

 

「あぁ~~、そうなんですか、こっちではそうなんですねぇ~…それで、その魔法を、今注いだ水に使いたいということですか?」

 

 

 

「ハイ、そうです、そのご様子だと、知らないみたいなので、もしよかったらあなたにも入れましょうか?」

 

 少し、はにかんだような笑顔を遠慮がちに浮かべながら、指を近づけていく。

 

 

 

「ハイ、どんなものなのか楽しみです。 ところで、どんな味になるんですか? 辛くなったり、すっぱくなったりするんですか?」

 

 なんか情報提供というより魔法談議になってる気がする、なんか楽しいから、これはこれでいいかも

 

 

 

「え?アルシェ、あれ使うの?それじゃ、そのあとに私のにもお願いしていい?」

 

 

 

「えぇ、もちろん。」

 

 

 

 そう言うと、木のコップに新しく入れた水の中に、アルシェの指が近づき、魔法の名前を口にする<砂糖味の雫(シュガーリィドロップス)

 

 

 

 木のコップの水の中に指先からポチャンと、しずくが2滴ほど入る。

 

 

 

「おぉぉ~~!! おいしい! すっごく甘くなりましたね、こんなの初めて飲みましたよ。」

 

 

 

「良かったです、それじゃ、さっきの約束だから、こっちにも…はい、イミーナ?」

 

 

 

「わぁ~アルシェ、ありがとぉ~♪」

 

 

 

 そうしてひとしきり、お互いの壁が初めて会った時より幾分か薄くなって来たと思えて来た辺りで、目の前の異形が口を開く。

 

 

 

 

「さて、それではあなた方の命を保証する代金として、私の欲しい情報、それらをいただきましょうか?」

 

 

 

 

                ☆☆☆

 

 

 

 

 

「さて、それではありがとうございます。 今日は大変ためになるお話を聞かせてもらいました。すごくいい勉強になりましたよ」

 

 

 

「それは良かったぁぁぁ~~…」

 

 そう言って、テーブルに突っ伏しているフォーサイトの面々、もぅ外はとっぷりと陽が暮れてしまい、真っ暗になっている、気が付いたら夜になっていた。

 

 

 

 疲労を無効にするアイテムでももってない彼らからすれば疲労はかなりのものだろう。

 

 

 

「そういえばさっきも教えてもらったように、夜にもなればモンスターの現れる頻度、そして難度も高くなるといいますし、よかったら、泊まって行かれませんか?」

 

 

 

 その言葉を聞き、テーブルに突っ伏していた一同は、ガバっと体を起こし、蒼白になって異形の者を見つめる。

 

 

 

「ここではさすがに私と一緒では問題があるでしょうから、ここの近くにみなさん用の小屋をすぐ建てますので、そこで泊っていってください」

 

 

 

(こいつ、やっぱり話を聞き終わったら、用なしとばかりに俺らを食べるつもりか?)

 

 とかなり不安になるヘッケラン、どう断って、帰ることにするかと考えてると…

 

 

 

 おもむろにそいつは空中に闇のような空間を出し、そこに手をつっこんだ。

 

 

 

「なんだ、あれ?なにかの闇の魔法か? アルシェあれ見たことあるか?」

 

 

 

「イヤ、知らない、あんなの見たことない!」

 

 

 

「私達、今かな~りヤバ~い状態なんじゃないの? どうする?ヘッケラン!」

 

 

 

「仕方ない、アルシェをダシにして、帰らせてもらうようにしよう。」

 

 

「え?」

 

 何を言われたのかわからないアルシェは顔を蒼褪めさせている。

 

 

 

「大丈夫だ、アルシェだけを置いて行ったりしない、ただ、さっきの様子だと、あいつとはかなり打ち解けてる様子だっただろ?」

 

 と、今すぐにでも何かを闇の中から出そうとしている異形の者に焦りを感じ、もう時間に余裕はないと判断したヘッケランはこうアルシェに語り掛ける。

 

 

 

「とにかくだ、アルシェ、お前をピンチにはさせねぇから、だからオレがこれからする話に調子をあわせてくれ、頼むな? アルシェ!」

 

 

 

 そう言われると、何も言えない、静かに首を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 闇の中に入れた手が今にも引き出されそうになっていた時、ヘッケランが口を開いた。

 

「あぁ~、すみません、あのぉ~、大変心苦しいんですが…泊っていくことはできません。」

 

 

 

 ピタっと闇の中に入れていた腕が、あとは指を出すだけになっていた中、引き出すのをやめて、振り返る…

 

 

「そうですか…残念ですね、でもそれはまたなんで?」

 

 

(そりゃそうだよな、できれば獲物は逃がしたくねぇよなぁ…)

 

 完全に自分達を獲物として、狙っていると思い込んでしまっているフォーサイトの面々。

 

 

 

 

「実は、ここにいるアルシェにはワーカーとして活動する条件として、門限というのがあってですね…なぁ、アルシェ?」

 

 

 

「あぁ…はい、そうです、これ以上遅くなると、怒られますので…」

 

 

 

「すみません、好意を無にしてしまうようで申し訳ない」…と心にもないことをロバーデイクも言い始めた。

 

 

 

 

「…そうですか、そういうことなら仕方ありませんね、それなら私が<上位転移(グレーターテレポーテーション)>でその街まで送って差し上げましょう」

 

 

 

(えぇぇ~~、なにそれ、そんな魔法もあるの?)

 

 と思いアルシェを見ると首で肯定していた…どうやら魔法としては存在してるようだ。

 

 

 

「あぁ~…そうしていただけると助かりますが、1つお聞きしても?」

 

 

 

「ハイ、なんでしょう?」

 

 

 

「その<上位転移(グレーターテレポーテーション)>っていうのは、術者が行ったことのない場所にも、安全に送り届けられるんですか?」

 

 

 

 すると、その異形は初めてソコに思い至ったようで軽く頭を下げてきた。

 

「……あ…、…すみません、それはまだ試したことなかったです」

 

  

 

(ホォ~~~~~…)

 

 内心でガッツポーズをしていた。

 

 

 

(やばいって、どんな魔法かもわからないものをかけられて、空の上に居ます、とか石の中にいる、とか絶対に勘弁だって!)

 

 

 

 

 

「それでは、もぉ夜も遅いので、私たちはこれで失礼します。」

 

 そう言って、建物から出ようとすると、3たび、呼び止められた。

 

 

 

「……はい…えぇ~っと、なに…か?」

 

 恐る恐る振り返る、ヘッケラン

 

 

 

「それでは、街に着くまでの護衛を用意しましょう、召喚魔法で、呼び出せば私の命令にはちゃんと従ってくれますから、大丈夫です、安心してください。」

 

(安心できるかぁぁ~~~~!! と内心で叫ぶも、表面上は笑顔を浮かべ、二の句が継げられないヘッケランがそこに居た。)

 

 

 

 

 

 そういうやり取りを繰り返し、心労でヒザをつきそうな中、召喚魔法で出てきたのは3匹のオオカミである。

 

 

 

「この者らはムーンウルフと言ってね、君らを街まで護衛させるために呼び出したものだ…遠慮しないで同行させてやってくれ」

 

 

 

(自信満々に言ってくれてるけど、大丈夫なんかよぉ~…)

 

 なんて心配してしまい、ついついこう答えてしまう。

 

 

 

「あの~、これって、帰り道に襲ってきたりしませんよね?」

 

 

 

「あぁ、大丈夫ですよ、今から私が命令を出しますので、その命令以外のことを自己判断で勝手に指示に背いたりすることはありませんから」

 

 

 そう朗らかに笑うような声で返答すると、こうオオカミたちに宣言する。

 

「彼女らを護衛し街まで付き従え、危険が近づきそうなら排除せよ、離れる時は1体は彼らのそばに寄り添って守るように」

 

 

 

 そうオオカミたちに指示してる間、ムーンウルフは女性陣にモフモフされていた。

 

 そんな中、異形の者はしずかに近づき、アルシェに両手でやっと持てるくらいの重さの革袋を手渡してきた。

 

 

 

「あの~…これは?」

 

 

 

「ほんの手土産ですよ、さっきグラスにするために使った材料が余ってたのでね、水晶玉を作ってみました。」

 

「えぇぇぇ? この大きさのですか?」

 

 

 

「えぇ、特に必要なかったら、売っぱらっちゃってもいいですよ? あ、それからみなさんの使ったコップはそれぞれ、持って帰っていいですからね?」

 

  

 

 なんてやり取りをして帰り支度をしていたら、とりあえず安心してくれたのか、異形の者は、私達に手を振り、そのまま送り出してくれた。

 

 

 

「あぁぁ~…帰る時のやり取りが一番生きた心地がしなかったぜぇ」

 

 

 

「私も同感です」

 

 

 

「なんだかんだで、引き留めようとしてなかった?」

 

 

 

「でもこのオオカミたちは可愛い、もふもふ…」

 

 

 

「まぁそれはそうなんだけどねぇ~」

 

 

 

 と言いつつ、イミーナとアルシェはちゃっかり、ムーンウルフの背に乗って「楽チン~♪」とか言いながらアルシェはムーンウルフの首にしがみついている。

 

 

 

「まぁ、でも、悪気はない感じはした。」とアルシェ。

 

 

 

「え?マジ? 本気で言ってる? どっからどう見ても危なかったろ~?」

 

 

 

 ヘッケランの言い分に言いたい点はあったが、そのことについてココで言い合いしても仕方ないとアルシェはそれ以上言うのをやめた。

 

 

 

 その話題を変えるようにアルシェは彼らに言葉をかける。

 

「ところでみんな、あの人の事、どうすればいいと思う?私は下手に刺激しないで、私達だけのことにした方が色々と安全だと思う…」

 

 

 

 そうみんなの意見を聞いてみると「そうね、そうした方がいいかもね、怒らせて暴れまわったりされたら、国がおわっちゃうどころの騒ぎじゃ~ナイ気がするし」

 

 

 

「あぁそれ、わかるわ」

 

「右に同じですね」

 

 

 

「じゃ~みんなの意見も一致したことだし、ヘッケランもロバーもこの子達に乗ったら?まだ2匹いるでしょ? 1人1匹乗れば街まで早く着くってもんよ?」

 

 

 

「えぇぇ~~? そりゃ、遠慮したいよなぁ~…なぁ?ロバー」

 

 

 

「私はヨロイを着てますので、きっと重量過多じゃないかと…」と及び腰。

 

 

 

「だぁ~いじょうぶだって、私達2人が乗っても、普通に速度、落ちてないし、なんならこのまま走れそうだよ?」

 

 

 

「かじられたらどうするんだよぉ」

 

 

 

「怖がりねぇ~、私達はそんなことなかったでしょ?」

 

  

 

「じゃ~、覚悟決めるか?ロバー!」

 

 

 

「そうですね…神よ、お守りください…」

 

 

 

「ホント、大げさねぇ~、二人は」

 

 女性二人はまったりとオオカミに揺られていた。

 

 

 

                ☆☆☆

 

 

 

 夜もすっかり闇が深くなってきたころ、ようやく街の門のそばに来て、4人はどうしようかと思っていた。

 

「この子(オオカミ)たち、どうする? 街までは連れて入れないよね」

 

 

 

「そうだなぁ~、かといって俺らの指示は聞かねぇんじゃねぇか?」

 

 

 

「やってみる?」

 

 

 

「アルシェの頼みなら聞いてくれるかもよ?」 とからかうように言うイミーナ

 

 

 

 

 

「じゃ~、今日はありがとうキミ達、ご主人さまの所に戻っていいよ?」

 

 

 

 そう言うと、夜空の月に一鳴きして、元来た道を走り始めた時、スゥ~~~…っと姿が掻き消える。

 

 

(あ…時間制限だったんだ、まぁでもよかった、これで安心して街に入れる)

 

  

 

 と思っていたらすぐに<伝言(メッセージ)>のコール音が届いた。

 

 

 

 誰だろう?と思い、受信してみると、あの異形の彼であった。

 

 

 

 

『あ、夜遅くすみませんね、アルシェさんですよね? ご無事ですか?』

 

 

 

 あの姿を直視していないで、この声を聴くと、本当に心配してくれて、かけてくれたんだなと少しホッとしてる自分が居た。

 

 門の目の前で、他の3人に微笑ましく見守られながら、しばらく話し込んでしまい、街に入るのは遅くなってしまう。

 

 

 ひとしきり話をして、会話が終わると、街の門を通るのにはかなり遅い時間となってしまっていた。

 

 

 

 

 

 …ちなみにヘッケランが言っていた「門限」というのは、あの場から離れるための方便である。

 

 実家からワーカー通いをしてるのではなく、ワーカーご用達の宿屋があるので、そこで十分なのだ、妹たちに会いに行く用事でもないとあの家には近寄りたくないという事情もあるのだが、まとまったお金が入ったら返済のために、行かねばならない日も来るだろう…そう考えると、少し気が重くなってしまうのを止められなかった。

 

 




たぬえもんⅡさん PorkMan(ポークマン)さん 肩たたき施術中さん カクマさん beelzebubさん 魔鳥ジーネさん エルツバインさん 枯淡斎さん ね辺右やさん メアリー・スーの怪物さん ドラグさん

お気に入りありがとうございます。

これからもなんとか続けていきたいので、よろしくお願いします。
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