No Answer   作:報酬全額前払い

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人形転売施設強襲

依頼主:I.O.P.社


極秘の依頼です。

とあるPMCが、我々に無断で戦術人形の転売を行っているという情報を掴みました。これは重大な契約違反です。
既に裏取りは済んでいます。我々の好意を無に帰す行為に情状酌量の余地はありません。

しかもそのPMCは、人形を転売して得た金で別会社の安価な人形に乗り換えようとしているようです。
恐らく、平和になったから維持コストが高い戦術人形を敬遠しての乗り換えなのでしょう。しかも当てつけのように我々以外の弱小企業から購入しているのを確認しています。

であるならば、彼らはもう不要です。あの場所は買い手が幾つも存在するので、一つ消えても問題は無いでしょう。

そろそろ収穫の頃合いだと判断しました。平和を刈り取り、新たな争いの種を蒔いてください。

転売を行っている施設が存在する地域はPMCの本部が存在する場所であり、セクション482と呼ばれているようですので、便宜上我々もそう呼称します。
至急セクション482に向かい、当該施設とPMC本部の生命反応を全て始末して下さい。危険を察知して外に逃げ出したものも例外なくです。

今回は実働部隊の仕事ですのでT-DⅡ/12及びDW12 Vendettaの使用、更にかつて12が率いていた鉄血製人形部隊の使用も許可します。
16Labからのオペレートであれば一切の証拠は残りません。一欠片の躊躇や慈悲もなく、あらゆる手段を用いて我々の意志を示してください。


敵戦力:不明

成功報酬:ダイヤ×150




03 Frighteners①

 

 世界の大部分から人工の明かりが消えた現代。晴れていればという前提条件は付くものの、満天の星空というものは夜になれば至る所で見る事が出来る。

 

 作戦時間が来るまでの間、彼女はそんな夜空を見上げていた。

 今の彼女は黒を基調とし、所々に紅いラインが入っているという、昔から使っている服に着替えている。

 

「星は変わらないわね」

 

 たかが数年程度では、夜空を彩る星々に変化は見られない。

 大地では人類が忙しなく動き、日々勢力図が塗り替えられているというのに、空の星は素知らぬ顔で大地を見下している。

 

 彼女の視界の先には、その星々の光が届かない街があった。

 グリフィンとは別のPMCが統治するそこは、これから起こる惨劇など知らぬままに、多くの人間を夢の世界に誘おうとしている。

 

 《調子はどうだ?》

 

「良好よ。すこぶる調子がいいわ」

 

 彼女は上機嫌に答えた。ハンガーに装備された専用装備の重みが、懐かしさと嬉しさを同時に感じさせる。

 

 《なら良かった。そろそろ作戦開始だけど、不具合とかは無いよな》

 

「無いけど、本当に大丈夫?自分で言っといてアレなんだけど、この数のオペレートなんて初めてでしょ」

 

 彼女が振り返ると、そこには闇に紛れた鉄血製人形が傅いて命令を待っている。

 その数は50体。GuardとJaegerの二種類のみだが、これだけ居れば十分すぎる戦力だ。

 

 《初めてだが、何とかするさ。最悪ペルシカの手も借りるし》

 

「頼もしいわね」

 

 そう笑いながら、冷たい目を街へ向けた。

 揺り籠の中には多くの赤子が眠っている。汚れた大地から目を逸らすように、そして目の前の現実から逃避するように。

 

 これからやるのは、その揺り籠を猛獣の檻に勢い良く投げ込むような行為だ。落下の衝撃で多くの赤子が死に、生き残っても餌にされて死ぬ。

 

「統治しているPMCが壊滅すれば、この場所は間違いなく戦火に晒される。多くの人間が死ぬでしょうね」

 

 《だな。しかもあのPMCは武力でもって多くの地域を奪ってきてるらしい。

 ここが陥落すれば、待ってましたとばかりに押さえつけられてた他の連中が支配地域に入り込んで、また紛争が始まる》

 

 まるで明日の天気を話すような軽さで、これから大勢の無辜の民が死んでいくという予想を口にした。

 聞く人が聞けばひっくり返りそうな予想だが、彼らにとってその事実は、飯の種が増える程度の認識でしかなかった。

 

「そうすれば、また戦場が出来上がるわね」

 

 《ああ……グリフィンもI.O.P.も大喜びだよ。またビジネスのチャンスが増えるんだから》

 

 人の生命と自社の利益を天秤に掛けた時に、迷うことなく利益を選ぶのが企業である。

 これから引き起こされる争いもまた、その利益を追求する為に引き起こされるものだ。

 

 《俺達が求めるのは果てなき争いの世界。その意味では、I.O.P.社やグリフィンと思惑が一致している》

 

「争いが終わらなければ、I.O.P.社は人形を無限に売り捌く事が出来る。

 そして平和にならなければ、PMCの仕事も無くならない。私達が求める戦場もまた、消える事はない」

 

 《ウィン・ウィンの関係って奴だな》

 

 I.O.P.社は勿論、他のPMCも……グリフィンだってそうだが、誰も平和など望んでいない。

 武力を売り物にしている彼らにとって、秩序や平和なんてものは、ただ邪魔でしかないのだ。

 

 《真面目に平和を目指して戦ってる奴らには悪いとは思うが》

 

「平和と引き換えに仕事を失いたい奴なんて、どこにもいないでしょ」

 

 I.O.P.社も、グリフィンも、本気で取り組めばさほど時間を要せずに小さな平和を訪れさせる事が出来るだろう。

 しかし、平和な世界には銃なんて必要ないのだから、PMCだって御役御免になってしまう。

 仮に御役御免とまでは行かなかったとしても、規模の縮小は免れない。

 

 それは彼女や彼の望むところではないし、各社も望んでいない事である。

 居場所と権益が消えてしまうのだ。せっかく手に入れたそれらを誰が手放すというのか。

 

 《仕事だけならまだいいさ。お前の場合は、存在意義にすら関わるだろ》

 

「ええ。戦いの中にしか私の存在する場は無い。だって、そのためだけに生み出されたんだもの」

 

 《軍用機だもんな。平和な時代に銃が必要ないのなら、争いのためだけに生み出されたお前の役目も無くなる》

 

 鉄の子宮で生まれ、それからずっと戦場で生きてきた彼女には、平穏な日々というものは酷く退屈で息苦しいものだった。

 他の生き方なんて知らないし、知る気も起こらない。彼女には戦いが必要なのだ。

 

「もし私が民生人形として生まれていたら、一緒にカフェでもやれたのかもしれないけどね」

 

 《御免だな。俺は今の、戦場で殺し殺されをやってるのが一番好きだよ。嫌な事は考えなくても済むし、死ぬ時に死ねる》

 

 彼も今更、他の仕事をしている様子なんて全くイメージできなかった。今の生活に馴染みすぎているというのもあるが、この仕事が好きだというのが大きな理由にあるだろう。

 それに、死ぬ時間が来れば勝手に死ねるというのも良い。このクソッタレな世界に嫌気がさしてるものの自殺するほどの度胸が無い彼にとっては、いつか誰かに殺されるというのは抗いがたい魅力であった。

 

「すっかり戦場の虜じゃない」

 

 《虜って程じゃないさ。……正確に言うと、戦場で輝くお前を見てるのが好きなんだ。殺し殺されしてる時が、お前は一番輝いて見えるから》

 

「…………そう」

 

 少し赤らんだ頬は、幸運なことに闇に紛れて誰の目にも触れることはなかった。

 そうこうしている内に、作戦時間が訪れる。

 

 《お熱いところ悪いんだけど、時間よ》

 

 《……だってさ》

 

「分かった。全機起動」

 

 彼女の声に反応して、総勢50体の鉄血製人形が動きだす。彼女に全ての躯体のコントロール権が集まり、電脳が久々に処理限界の近くまで到達して悲鳴をあげた。

 

 嗚呼──懐かしい感覚だ。この、頭がズキズキと痛む感覚は。

 

 乱高下という表現が相応しいくらい波打っていたメンタルが途端に一本線になり、感情と呼べるだけの起伏が生じなくなる。

 

 彼女は無機質に言った。

 

「往くぞ」

 

 《しょせん大量殺人だ。どうせやるなら、刺激的にな》

 

 

 ………………まだ鉄血が企業であった頃の話だ。

 

 鉄血が独自に開発・販売していた『イェーガーシリーズ』は強靭で壊れにくい所を評価され、正規軍にすら制式採用されるほどであった。

 当時の戦場での主役は鉄血製人形であり、高性能だが壊れやすいI.O.P.社の『CSDシリーズ』は徐々に駆逐されていった。

 

 正規軍が大口顧客であったI.O.P.社は大いに焦り、どうにかして鉄血からシェアを奪還しようと研究に研究を重ねた。だがI.O.P.社だけでは限界があった。

 そこでI.O.P.社は外部から2人の天才技術者を招いて、まったく新しい戦術人形を創り出し、シェアの奪還を図ったのである。

 

 恥を偲んで鉄血から購入したイェーガーシリーズを解析してみると、その優位点と課題点が浮き彫りになった。

 確かにイェーガーシリーズの躯体は頑丈で扱いやすい。この場合の頑丈というのは、あらゆる環境で安定していて、かつ正常に動作する事を指すので、その点ではI.O.P.社のCSDシリーズは追いつけない。

 

 しかし、イェーガーシリーズはどこまで行っても第一世代型であり、複雑な命令を実行する事は難しい。

 また、採用される数が多くなった事で指示を出す時間に大きなタイムラグが発生するようになっていた。

 

 当時の指示出しというのは、指揮者が指示を言葉に出し、それをオペレーターがキーボードで打ち込む。という二段階を取らなければならなかった。

 

 しかしこの方法は、オペレーターのキーボード操作の技術に左右され、伝達速度が安定しない。

 また、キーボードを使う都合上、どうしても言葉にしてから指示が実際に出るまでのラグが生じてしまう。

 

 一分一秒を争うような戦場において、命令伝達の速度に差異が生じるのは致命的だ。

 

 であるならば、イェーガーシリーズを統率する高性能機を作って売り込めば、シェアを僅かながら奪還出来るのではないか。

 指揮者が言葉で統率機に伝えるだけで部隊が動くような、人形の部隊長を作れば、鉄血が独占しつつあるシェアに切り込める。

 

 そんな考えの元に、今日も生産されている第二世代型戦術人形の基礎は生まれた。

 

 当初は正規軍にのみターゲットを絞った第二世代型は、ハイコストの軍用機に求められる……つまりはE.L.I.Dと交戦する事が可能な躯体スペックと、多くのイェーガーシリーズを統率するだけの演算能力を併せ持って生まれた。

 反面、現在の第二世代型のように人間味溢れる感情など存在しないし、性処理用の色々も搭載されていないが、試験機である事を考えれば上々だろう。

 

 I.O.P.社が発表した新世代の戦術人形は業界に衝撃を与え、正規軍に配備された15機の試験機の活躍も相まって、人形市場からI.O.P.社が完全に駆逐される事は無くなったのだった。

 彼女達15機の存在が、鉄血でもハイエンドというモデルを作る契機になったとされているが、真相はもう分からない。

 

 《真正面から向かえば、そりゃ迎撃に出てくるよな》

 

「どうするの」

 

 《こっちの目的は陽動だ。お前が忍び込むだけの時間を稼げれば良いから、最悪使い捨てても構わん》

 

 戦術人形を転売しているとは言われていたが、どうやら本部の警備には今も採用しているようで、街から飛び出してきた人形は見慣れたものだった。

 

 《けど、それじゃ面白くないし、なによりアレを生かしたままだと、ここを戦場にする時に変に固まられて面倒事になるかもしれないな》

 

「潰すのね」

 

 《まあ、そういうことだ。引きつけるから、横から突っ込んで切り刻め》

 

 その指示に頷き、気付かれないように闇に紛れながら回り込む。

 

 10体のGuardと5体のJaegerが攻撃を受けて徐々に下がりながら、人形部隊を誘った。

 

「なんなの?敵が退いていく……」

 

 ガーランドは、攻撃を受けてアッサリと退いていく敵部隊に違和感を感じていた。

 敵の編成は典型的な鉄血のライフル部隊だが、どうして退いていくのだろう。ライフルは構えて撃つものであり、あんな風に後退していてはロクに当たらない。

 

「ガーランド、どうしましたの?そんな難しい顔をして」

 

「なんで退くのかなって、考えてた」

 

「退いてくれるのは良い事だと思いますけど……」

 

 MP5の言葉にガーランドは頷きながらも、しかし何処か不安な気持ちを隠せない。

 そもそも鉄血の人形が撤退する光景など見た事が無いから、そのように感じられるのかもしれなかった。

 

「追撃しますの?」

 

「……ううん。ここで追っても、得る物は何もない。一旦退いて指示を仰ごう」

 

 先程から通信機の調子が悪いようで、本部に通信が繋がらない。それがまたガーランドの不安を煽っていた。

 

 もしかすると、何か大変な事が起こっているのではないか。

 

 そんな胸をざわめかせる予感が当たっていたと分かったのは、ガーランドが一時撤退を決めて5歩ほど下がった時である。

 

 《潰せ》

 

 前衛を張っていたMP5が居た場所に、何かが()()したのだ。

 

「MP5!!」

 

「何処からの攻撃ですの?!」

 

 MP5からの応答は無い。土煙の向こうで何があったのか、銃を向けながら警戒していると、土煙から勢い良く何かが飛び出し、ガーランドの前のStG44が真っ二つに切り裂かれた。

 

「なっ……!!?」

 

 縦に一閃されたという事は、何か凄まじい斬れ味の刃物で切断された事は間違いない。だがガーランドが驚いたのは、そんな刃物の斬れ味ではなく、その刃物を持っている人形が見慣れたものだったからだ。

 

「ネゲ──」

 

 言い終わる前に目の部分に刃が迫り、抵抗すら出来ずに目から後頭部まで刃が通った。

 目から上側が暴投したボールのように吹っ飛んで、電脳を失ったボディが活動を停止する。

 

 そんなガーランドが殺される寸前に見たのは、黒い衣装でブレードを振るうネゲヴの姿だった。

 

 

 一方その頃、とあるPMCの本部では何やら人々が慌ただしく動いていた。

 

 ジャミングの影響なのか、全ての通信機器が使い物にならなくなっていたのだ。

 前例の無い事態は、PMCの本部に大きな混乱を齎している。

 

「通信機が使えないとはどういう事だ!?」

 

「そう言われても、こっちだって一生懸命やってるんです!」

 

 技術班の悲鳴のような反論に、中年の男は歯噛みした。貧乏ゆすりをする速度が苛立ちに合わせて早くなっていく。

 

 彼がこのPMCの社長である。鉄血が侵攻してこない区域の自治権を勝ち取り、I.O.P.社から人形を購入して地域を安定させていた男だ。

 この乱世で勢力をそれなりに拡大させているとあって、その手腕は確かである。

 

「ええい。なら短距離通信はどうだ、人形達からの報告は?」

 

「そっちもダメなんです!…………くそっ、これほどのジャミングが出来るなんて。一体どんな奴らなんだ!」

 

 あらゆる通信が行えない状態という事は、つまり目と耳を奪われたという事と同じだ。

 人形からの報告も上がってこないので、何処にどれほどの戦力が残っていて、敵の戦力がどれほどか分からない。

 こちらからの指示も出せないので、人形が奮戦してくれる事を期待するしかなかった。

 

「どうすれば……っ!?」

 

 不意に、外から爆音が聞こえた。

 その直後に本部は大きく揺れ、部屋の外から窓ガラスが一斉に割れた音が響き、続いて悲鳴が聞こえる。

 

「今度はなんだ!」

 

 社長が部屋の外に出ると、割れた窓ガラスの破片が床に大量に散らばっていた。

 最初に視界に入った、身体のあらゆる所に破片が刺さって痙攣する職員に唖然としている社長に、一人の男性職員がか細い声をかける。

 

「しゃ、社長……」

 

「おいしっかりしろ!何があった!」

 

 他の職員と同じく床に倒れていた彼は一見すると重傷だが、どうやら頭をガラスで切っただけで済んだようだった。社長から包帯を巻かれながら、何があったかを伝えようと口を開いた。

 

「ば、爆発です……!外で、大規模な爆発が発生しました……!!」

 

「爆発……!?」

 

 そう伝えられた社長が衝撃で枠が歪んだ窓に近寄って外を見ると、そこは酷い有様だった。

 

 爆発が原因で可燃物に火がついたのか、小さな炎が本部前の道路の至る所で燃えている。

 装甲車などを用いて即席のバリケードを構築し、敵を待ち構えていた人形達の肌は焼け焦げていた。爆発と爆風にやられて機能を停止していたのだ。

 

「なんだ……これは……」

 

 目の前に広がる地獄が信じられないという思いを載せて呟く社長の目の前で、装甲車から漏れたガソリンが引火、盛大に炎を天へと巻き上げた。

 周辺の建物にもダメージが入っていたようで、たった一撃のグレネードに耐えられなくなったビルが次々と倒壊していった。

 

 ほんの一時間前までは平穏そのものだった筈の場所が壊れていく。彼が何年も掛けて築き上げた平穏が、たった一瞬で音を立てて崩れ去っていく。

 

「社長!ここも危険です、早く脱出を!」

 

「あ…………ああ……」

 

 あまりのショックでその場から動けなかった社長を、生き残った職員達が連れて本部を脱出した。

 敵がどこに居るのか分からない以上、狙われる可能性の高い本部に留まり続けるのは得策とは言えない。

 

「指揮官、ご無事ですか!」

 

 裏の非常用口から出ると、生き残っていたらしい人形達が合流してきた。

 

「何があった……?」

 

 ショックから立ち直れていない様子の社長だが、現実を直視できるだけの気丈さは持っていた。

 部下がすぐ側の駐車場から装甲車を回してくる僅かな間、物陰に隠れながら状況を把握しようとする。

 

「通信が繋がらないので詳細は不明ですが、街の外で人形部隊が交戦しています!」

 

「敵襲……?だが、ここを狙う理由や旨味なんて…………なら、爆発を発生させた犯人の居場所は分かるか?」

 

「それは……私達にも分からなくて。屋上から見ていた限りだと、撃ち込めそうなポイントには不審者も不審物もありませんでしたが」

 

「……何処からだ?」

 

 近くの高いビルの屋上にはライフル人形を配置していたから、狙撃できそうなポイントは上から監視しているのだ。

 しかし、そこではないという。では何処からなのか、彼らには皆目見当もつかなかった。

 

「命中確認。次弾装填」

 

 その犯人である彼女は、街の外からロングバレルの大型グレネードランチャーを構えていた。

 

 E.L.I.Dが居ると思われる場所を先んじて攻撃するために作られた、広域掃討用のグレネード弾頭は正しく効果を発揮し、本部の前を含めた広い範囲を前兆なく爆破した。

 広い範囲を攻撃するが故に通常の物と比べて攻撃力は多少落ちるものの、それでも無防備で受ければ死ぬ程度には火力がある。

 

 それを叩き込まれた本部前は多大な被害を受けた。

 その強力さは、本部の正面玄関からおよそ500メートルほど離れた場所に着弾したのにも関わらず引き起こされた惨状が証明している。

 

 《今の場所はもういい。次はI.O.P.社から座標が送られてきてる、転売所っぽい場所を狙え》

 

「了解」

 

 それなりに高さのあるビルが倒壊していくのは、ここからでも眺める事が出来る。

 その内の一棟が住宅地帯の方に崩れていくのを見ながら、彼は怖れと感動の入り混じった溜息を吐いた。

 

 《……範囲重点でこの威力なんて、流石は軍の兵器ってとこか。俺達が使ってる武器なんざ、お遊びレベルじゃないか》

 

 《まあ軍は相手が相手だもの。E.L.I.Dには、これくらいないと話にならないって事よ》

 

「装填完了、撃ちます」

 

 オペレーターとしてサポートしているペルシカが言うと同時に、グレネードが再び発射された。

 指定された座標に的確に撃ち込まれたグレネードは先ほどと同じように爆発の花を咲かせ、近隣の無関係とされている人間が住むマンションにまで被害を与える。

 

 人間が作り出した美しい摩天楼が、全てを焼き尽くす野蛮な暴力によって崩れ去る。

 それはまるで、泡沫の(平穏)が瞬きの内に消えていく様子を表しているようであった。

 

 《……人形部隊の抵抗が思ったより激しいな。通信も遮断してるんだから、指揮者は死んだと判断して、とっとと諦めてくれると嬉しいんだが》

 

 外周部の人形部隊が集結し、必死にこちらのライフル部隊を押し留めているので中々Jaegerが街の内側に入れない。

 摩天楼が倒壊する様子を見れば、もう守るべき場所が壊されて跡形も無くなりつつある事も分かるだろうに。

 

 《そういう風にプログラムされてるから仕方ないわね。どこまで行っても、人形は人形なの。人間の命令を履行するだけの機械なのよ》

 

 《健気と言うべきか、哀れと言うべきか……》

 

 いずれにしても、人間の言うことに逆らえないという人形の宿命を感じずにはいられない。

 

 《まあ、そっちの始末は後でいい。今はPMCの連中を始末する方が先だ。どうせ逃げてるだろうから、姿がバレないルートで追いかけよう》

 

「了解」

 

 その言葉に頷き、彼女はグレネードランチャーを地面に投げ捨てた。

 背後に控えているI.O.P.から派遣された自律人形がグレネードランチャーを回収し、代わりに一丁の銃を手渡してくる。

 レーザーライフルに分類される量産兵器、LR04-NKZWである。

 

 それを受け取った彼女は街の外れに向かって走り出した。





本当は一話で終わらせるつもりだったんですが、流石に14000文字オーバーは多すぎると判断したので2話分割です。なるべく早く挙げますね。

……こんなんで良いのかな。ミリタリー知識なんて欠片もないから少し不安だなぁ。

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