No Answer   作:報酬全額前払い

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本格的♂歓迎をしてくれるらしいカカオの錬金術師さん宅にウチのクズども(ナガンばあちゃん除く)が突入する少し前の様子。
そしておもむろに新設定と独自解釈から成る露骨なフラグを何本も立てる様子。
この二本を今回はお送りします。厨二病を発露させて作った地雷原を走り抜ける用意は出来てますか?



忍び寄る気配

 

 S03地区を出てから、ようやく見慣れるようになった太陽の光を浴びながら進んだFive-seven達一行は、進むにつれて会敵頻度が低くなっていくのを感じていた。

 そろそろ視界に入る緑が増えつつあるし、これはもしかすると目的地の勢力圏に入ったのかもしれない。

 

「そろそろ地区の勢力圏に入ったかしら」

 

「入ったでしょうね。襲撃の頻度が低くなった」

 

 先の戦闘では焼夷手榴弾を誰彼構わず投げまくり、挙句の果てには降伏してきた相手の口に焼夷手榴弾を押し込むという、スコーピオンみたいな事をやっていた放火魔Vectorは満足感を隠さずに頷いた。

 Vector以外の三体が、たまたま薬を切らした瞬間に襲撃してきた盗賊団に思わず同情してしまうくらい酷い焼かれ方だったという。

 

 彼らの遺体は放置してきたが、もうハイエナやハゲワシ達に食い荒らされているだろう。

 

「ふぅ……」

 

 新聞を読むように紙の地図を広げながら、M1895は自分達が居るであろう位置に指を当てて、それを動かす。動かした先にあったのは、D08という文字だ。

 

「次はD08地区じゃが、上手くいくかのう」

 

「ダメならダメでいいわ。最悪、物資を売ってくれさえすれば次に行けるもの」

 

「後は内部の視察よね。

 といっても、どんな人形が居て何をやっているのか。それを軽く見られれば御の字くらいのものだけど」

 

 どんな場所かは情報を殆ど持っていないがために何も言えないが、交友も何も無い連中にホイホイと色々見せるほどセキュリティ意識が薄いとは思えない。

 人形達の日常風景を見る事は出来るかもしれないから、そこから推測するしかないだろう。

 

「指揮官は何て?」

 

「俺達のプラスになる範囲で好きにしろって」

 

 そう言ってFALは目を閉じながら頭に埋め込んだレーダーを起動した。

 コストが余程高いのだろう。未だに彼女以外の使用者が見当たらない頭部レーダーは、まあまあの更新頻度で周辺に反応が無いか探す。しかし、何も見つからない。

 

「敵影は無し。問題ないわ」

 

「便利ね」

 

「設備を持ち運ばずにレーダーが使えるとは、時代は変わっていくものじゃな」

 

「でも相応にハイコストよ。しかもそのお陰で、指揮官から釘も刺されたし。やられたら財政が消し飛ぶから無茶するなってね」

 

 ミラー越しに見るVectorとM1895にFALはそう説明した。

 もしやられれば、FALの給料が向こう二年は無くなりそうなくらいの金額である。FALはもちろん、指揮官達も血の気が引くに違いなかった。

 

「だから、もし私が危なくなったら、あなた達は私の肉壁になりなさい。これは指揮官命令よ」

 

「指揮官の命令を歪曲解釈しないでくれる?指揮官が守るように言ってるのは、その頭のレーダーであってアンタじゃない。アンタには毛ほども価値なんてないわ」

 

 FALを守れとは言うが、その理由は頭の中のレーダーが貴重品だからだ。もし戦況が不利になってダメそうなら、レーダーを積んだFALの頭をアメフトよろしく抱えて逃げればいいだけの話ではある。

 

「何をどう勘違いしたら、自分に価値があるなんて発想が出てくるんだか」

 

「言うじゃないの淫乱女。薬と男漁りしか能の無いアンタにしちゃ面白いジョークね」

 

「自分の価値を勘違いしてる頭の可哀想な奴に現実を教えてあげてるだけよ。薬のやりすぎでイカれちゃった頭に、よーく刻んどきなさい」

 

 ただ退屈だからという理由でお互いを煽りあうのは、この二体にとって日常茶飯事だ。機嫌の良い時は軽口を叩くだけなのだが、機嫌が悪いと殺し合い一歩手前まで発展する。

 今回の出張の間だって何回も聞いたが、前回までは幸いどちらも機嫌が良かったようで軽く済んでいた。

 

 ただ、今回は駄目だ。M1895はそう直感した。

 

「インテリを気取るのは止めたら?アンタは股と同じくらい頭ユルユルなんだから、そんな事しても滑稽に見えるだけよ」

 

「お硬い女を気取って、喪失感を薬で誤魔化しても何も残らないわよ。あるのは虚しい現実だけ。惨めな敗北者って事実からは逃げられない」

 

「言葉には気を使いなさいマヌケ。撃ち合いの最中に、いきなりナイフを突き立てられたくはないでしょう?」

 

「脅してるつもりなんでしょうけど、出来もしない事は言うもんじゃないわ。アンタのナイフって、どうせ、何も切れやしないなまくらでしょ」

 

「…………そんなに見たいなら見せてあげるわよ」

 

 売り言葉と買い言葉が飛び交い、そして双方が同時に動いた。

 Five-sevenが片手で素早く、FALの首に銃口を突きつける。引き金には指が掛かっていて、少し動かせば弾が飛び出てFALのボディを貫くだろう。

 対するFALは、抜き放ったコンバットナイフをFive-sevenの喉元に触れさせている。キラリと陽光を受けて輝く刃が、FALの手入れが行き届いている事を示していた。

 

「ここで止めるんなら、命だけは助けてあげるわよ」

 

「状況が分かっていないようね。命乞いするのはアンタの方よ」

 

 目が笑っていない二体は正に一触即発。下手すれば今にも大惨事になりそうであったが、こんな状況でも車は走り続けている。段々と迫り来る平穏との温度差は凄まじいものがあった。

 普通の人なら萎縮してしまう空気の中、手を二回叩いて乾いた音を車内に響かせた者がいた。M1895だ。

 

「そこまでじゃ。じゃれあうのは構わんが、時と場所を考えよ。ここは見世物小屋でも、訓練場でもないんじゃぞ」

 

「空気穴を善意で増やしてあげようとしてるだけよ。腐ったガスが抜ければ、多少はマシになるんじゃないかしら」

 

「その喉にもう一つ口を増やしてあげる。減らず口のアンタにはピッタリ」

 

「はぁ……」

 

 もう言葉では止められないか。という諦めの溜息をM1895は漏らし、仕方なく懐に手を突っ込んだ。

 直後、ゾワッと怖気立つような感覚が二体の電脳を揺らす。経験が何かを訴えた時には、M1895は動き終えていた。

 

「そろそろ良いじゃろう?……もう止めろ。同胞を撃ち殺すのは流石に気分が悪い」

 

 M1895が、両手に一丁ずつ持ったM1895(銃の方)の銃口をFALとFive-sevenの頭に向けている。

 呆れ顔と呆れ声だけを見ていると人畜無害そのものだが、銃口は静止して全く動かない。

 

 動けば撃つ。そんな脅しが伝わってきていた。

 

「指揮官命令なのは相分かった。いざとなれば、一番安いわしが殿と肉壁を務めよう。それで良いな?」

 

 疑問形ではあるが、選択肢は用意されていない。二体に出来るのは、頷いて武器を仕舞う事だけだった。

 半ば無理矢理この場を収めたM1895は、満足げに二丁を懐に仕舞う。

 

「よろしい。引き金が軽く、大体の物事を銃弾で解決する一等のクズがわしらじゃが、何も親愛を示すのにまで銃火器を持ち出す事はないじゃろうて」

 

「親愛って、ちょっとナガン馬鹿言わないで。本気で寒気が走ったじゃない」

 

 その声には、先程までの勢いは無かった。それが先程のM1895の気迫に当てられたからなのかは分からないが、とにかく毒気を抜かれた事だけは間違いない。

 

「ボディランゲージで愛情を示しとったじゃろ。お主らは不器用じゃからな、そうする事でしか親愛を示せない事は分かっとる」

 

 殺し合いにまで発展する煽りあいを繰り広げる二体だが、裏を返せば身もふたもない言葉をぶつけられるくらい心を許していると受け取れなくもない。

 …………かなり強引に好意的な受け取り方をすれば、ではあるが。

 

「なんでそうなるのよ。私は本気で」

 

「よい。何も言わずとも、お主らの本心は分かっとる」

 

「…………もうそれでいいわ。着いたら起こして」

 

 M1895が話を聞く気が無いということを察したFALは、否定の言葉を早々に引っ込めてふて寝する事にした。今のM1895には何を言っても照れ隠しとしか受け取られないだろう。

 

 FALが沈黙してから、一連の騒ぎと無関係に窓の外を見ていたVectorはふと思いついたように言った。

 

「……今更なんだけど、ほとんどアポなしで平気なの?この訪問、隣の部屋に回覧板回すのとは訳が違うんだけど」

 

「まあ何とかなるでしょ」

 

「そんなんだからインテリ気取りって言われるのよ……」

 

 Vectorのボヤきを聞かなかった事にしながら進んでいくと、やがて文明的な町並みが遠くに見え始める。

 

 それを見たFive-sevenが一言。

 

「あそこがセクハラプレイの聖地ね」

 

「いきなり何を言っておる。いや本当に」

 

 あまりに脈絡のない発言にM1895も度肝を抜かれた様子を隠せない。そんなM1895にFive-sevenはニタッと笑った。

 

「あら、ナガンは知らないの?ここの指揮官はセクハラ魔人で、それなりに有名なのよ。それで着いた名前がセクハラプレイの聖地」

 

「セクハラ魔人云々は置いておくとして、その聖地とやらは絶対にお主が言っておるだけじゃろ」

 

 声に乗った色には、そんな場所があってたまるか。という思いがありありと浮かんでいる。

 

「イけば分かるわよ。きっと凄いわ」

 

「凄いの意味が分からんが…………向こうの不興を買うような事は、なるべくせんでくれよ。もし前回みたいに初手から色仕掛けとかしようものなら、わしは懐のM1895(こいつ)でコメカミを痛撃する事も厭わん」

 

 D08基地は、もう近い。

 

 

 

「…………で?」

 

「でって?」

 

 同時刻、別の場所を車で走る一団がいる。

 

 その一人である指揮官は、助手席で胡散臭い笑みを貼り付けたUMP45にジト目を向けた。

 

「お前ら結局何しに来たんだよ」

 

「私達は足として雇われただけよ。先輩を連れてこいって」

 

「お前らが足?なんだ、俺の知らない間に運び屋に転職したのか」

 

「茶化さないで。……分かってるでしょ?」

 

 非正規部隊を足代わりに使う理由。薄々だがそれを察していた指揮官は、気落ちしたように息を吐いて膝の上に座っているネゲヴを抱き寄せた。

 

「絶対にロクでもねぇ」

 

「先輩なにやったの?よほどのヘマして、これからお叱りを受けるとか?」

 

「そうかもな。ところで何処に連れてく気だ。何も聞いてないぞ」

 

「聞かれなかったからね。連れていくように指定されたのは、この先にある駐屯基地よ。……ほら、見えてきた」

 

 近付くにつれて雰囲気が物々しくなり、更に警備が見て分かるほど厳重になっていく。何より目を引くのは、そこを警備しているのは全てが機械的な見た目の人形達ということだ。

 モノアイやツインアイ、挙げ句の果てにはアンテナ状の頭までデザインがあり、全身がゴテゴテとした装甲で覆われている人形達……それらに見覚えがありすぎた。

 

「……遺書を残しておくべきかもしれないな」

 

 ここは正規軍の駐屯基地。通常ならば民間企業の一指揮官が近寄る事など許されない場所だ。

 

 数々の検問を抜けた先にある駐車スペースに車は止まった。膝の上のネゲヴが降り、続いて指揮官が降りる。そこには案内役らしき兵士が立っていた。

 

「お待ちしておりました。こちらです」

 

 指揮官とネゲヴの後ろに機械人形が立つ。護衛のつもりなのか、それとも逃走防止なのか、指揮官には判断がつかなかった。

 そのまま彼の後を歩いてついて行こうとすると、助手席から顔を出したUMP45が言う。

 

「戻ってきたら連絡ちょうだいね。先輩の奢りで一杯やりたいから」

 

「嫌だ。やるにしても割り勘だ」

 

「ケチ」

 

 足を止めずに出来た会話はこれだけだった。やがて背後からエンジン音が響き、それが遠ざかっていく。

 

 次はいつ会えるか分からない。もしかしたら、もう会えないかもしれない。仕事の性質上、いつ消されても不思議ではないのだから。

 しかし、これから先を見通せる訳では無いが、あいつらは大丈夫だろうという謎の確信があった。何だかんだ生き残るに違いないと。

 

 少なくとも、かつての熱気を失って半ば無気力に生きている自分よりは長く生きるはずだ。

 

 窓から見える場所には、見るだけでは分からない物から、見て分かる物まで。凄まじいテクノロジーが使われた軍用兵器の数々が動いている。

 彼の横を付き従う彼女は、何処か懐かしさを感じながらそれを見ていた。

 

「お連れしました」

 

「入れ」

 

 やがて到着したのは、基地の奥の方にある扉。その言葉の後で、先導してきた兵士が扉を開けた。中に入ると、一人の男性が待っていた。

 

 彼は正規軍の技術部門の主任。軍用人形の開発などを取り仕切っている、軍の中でもそれなり以上に高い位置にいる人物だ。

 

「待っていたよ、同志軍曹」

 

「どうも……直接出向いてくるとは珍しいですね」

 

 主任に軽く頭を下げる。普通、主任がこんな辺境に訪れない事を考えると異例も異例だ。

 

「それほどの事態が起こっているという事だよ」

 

「軍が解決できない事を俺達が解決できるとは思えないんですが」

 

「ロストフィールドから生きて帰ってきた男の言葉とは思えんな……失礼、一服しても?」

 

「……どうぞ」

 

 嫌煙家だが、立場が上の人間にNOを突きつけるほど命知らずではない。それを向こうも分かっていたのか、答えが返ってくる前に既にタバコに火をつけていた。

 無言の時間が過ぎ、タバコが半分くらいの長さに縮まったくらいで話し始める。

 

「先日ロストフィールドに調査隊を派遣したが、今から12時間前に信号が途絶した。恐らく全滅したのだろう。なので君達には、その調査を引き継いでもらいたい」

 

「軍は、まだロストフィールドの事を諦めていないんですね」

 

「当然だ。あそこに眠る十年以上前に開発されたテクノロジーは、現代にこそ必要な物だからな」

 

 つまりは、第三次世界大戦中に開発された技術のことである。

 

「大戦が再び始まった際、それらが有るか無いかで我が国の勝率は大きく変わる。少なくとも私は、そう考えている」

 

「崩壊液技術、ですね」

 

「そうだ。知っての通り、大戦中に発生した大規模な崩壊液漏れによって、研究者と共に技術の大半が失われた。

 その遅れは、そろそろ取り戻さねばならん」

 

 正規軍、そしてこの国は、崩壊液技術という面において他国より一歩遅れをとっているという現状がある。かつては先進的な場所に立っていたが、崩壊液の流出事故によって研究成果と研究員が崩壊液の中に沈んでしまったのだ。

 濃度はそれほどではなかったようで建物などは崩壊せずに残っているが、E.L.I.Dが大量発生しているために近寄るのは容易ではない。

 

「これはその第一歩だ。可能な限り残った技術を回収し、帰還しろ」

 

「了解しました。……ところで、研究所の具体的な場所とかは教えていただけるんですよね?」

 

「もちろんだ、後で地図を持ってこさせる。……といっても、大戦中の地図だ。何処かが変わっている可能性を留意しておいてくれ」

 

 そこで一旦会話が途切れ、少ししてから主任は思い出したかのように言った。

 

「ああ。目的の研究所の名前だが、"90wish AI研究所"だ。その施設跡地内部に目的の資料はあると思われる。君には大いに期待しているぞ、NOT FOUND軍曹」

 

「……その軍曹っていうの、やめてくれませんか。俺に階級なんて無いでしょう」

 

「すまんな。癖なんだ」

 

 そう言って、主任はわざとらしく笑った。明らかにこちらを揶揄っている様子に、指揮官は嫌そうな顔を隠す事が出来なかったのだった。

 





あっそうだ。
スペースが空いてる今のうちに言っておきたい事があるんですよ。大したことではありませんけどね。

今まで何度かアーカイブという体で色んな設定を公開してきましたし、これからもする予定なのですが、それらはあくまで作中世界で閲覧できる情報という体で載せています。
つまり何が言いたいかというと、書かれている事柄の全部が真実である保証はないという事です。もしかしたら多少は誇張が入っているかもしれませんし、逆に過小に書かれているかもしれません。

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