No Answer 作:報酬全額前払い
今回はカカオの錬金術師さん作の『元はぐれ・現D08基地のHK417ちゃん』にお邪魔してます。……といっても、向こうの主人公であるHK417ちゃんは出てこないんですけどね!
向こうはこっちと違ってのんびりしてるので、荒れ果てたドルフロ世界に疲れた方は立ち寄ってみると良いでしょう。毎日更新してるみたいなので話数もたっぷりありますよ。
D08基地に到着して少し経った後。話をしに言ったFive-sevenとM1895が戻ってくるまでの間ヒマになったVectorとFALは、それぞれ別行動をする事にした。
FALは何処かへ喫煙所を探しに。Vectorは宛もなくフラフラと彷徨いに。
初めて来た基地で単独行動なんて無防備も良いところだが、ここでFAL達を亡きものにするメリットは見当たらないし、仮に始末されたら報復するだけの話だ。
だからなのだろう。来客用のパスを首にぶら下げながら、FALは自分の基地のような安心感を持ちながら彷徨っていた。
「うーーっ、タバコタバコ」
今、喫煙所を求めて全力疾走している私は、S03地区に所属するごく一般的な戦術人形。
強いて違うところをあげるとすれば、女同士もイケなくもないって事かナ──名前はFAL。
そんなわけで喫煙所が置いてありそうな漢だらけの工廠にやって来たのだ。
「……ん?」
ふと見ると、ベンチに一人のイケオジが座っていた。
ウホッ!いい男……
そう思っていると、突然その男は私の見ている目の前でタバコを取りだしはじめたのだ……!
「
いやらしい目を向けられた。
そういえば、この基地はセクハラプレイの聖地とか(Five-sevenのバカが勝手に言ってるだけだけど)噂されているんだった。
それに若干不快になりながら、しかしタバコに弱い私は誘われるままホイホイと喫煙所について行っちゃったのだ。
「いや何言ってんのさ」
FALが真顔で、かつおもむろに言い放ったモノローグに顔が引きつった。
「こういう冒頭から始まるロマンスがあるのよ。……男同士のだけど」
「それつまりホモじゃねーか」
顔をひきつらせたD08の主任を余所にタバコを吸う。ああ、タバコが美味い。
それに習って主任もタバコを吸ってから、咳払いと共に胸元に目を向けた。
「……そういえば、そのパスから察するに君がお客さんのFALだね」
「パスを見てるとみせかけて胸見るのやめてくれる?」
「…………そういえば、そのパスから察するに君がお客さんのFALだね」
目をそらし、何事も無かったかのように言葉を繰り返された。あまりにも露骨すぎる反応だが、これは十中八九ワザとやっているだろう。
何度やっても同じ答えしか返ってこないだろうなと察したFALは、ジト目を向けながらも答えた。
「そうよ。S03地区所属のFAL」
「S03……えっと」
「正直に言っていいわよ。クズのロクでなし共が何の用だって」
事実だし、と言ったFALは短くなったタバコをぐいっと灰皿に押し付け、そのまま新しいタバコを取り出す。
その箱を見た主任が、自分のタバコを追加で取り出しながら言った。
「……ピースか。人の趣味に口出しする気は無いけど、なんでそれ選んだんだ?」
「皮肉ってるのよ。争いを引き起こす私が、人間に害しか与えない
茶化しているようでいて、馬鹿にしているような、そんな不思議な声色でFALは語った。
「平和は嫌いなのか」
「嫌いよ。言葉を聞くだけで反吐が出るわ」
「差し支えなければ、理由を聞いても?」
「仕事が無くなる」
一気に吸い込み、その後に盛大に煙を吐きつつFALは三本目に手をつけようとしている。
人間には厳しいハイペースさに呆れと関心を入り混ぜながら、主任も自分のタバコを楽しんだ。
「……仕事ねぇ……」
「言っとくけど、違法行為には手を染めてないわよ。ぜーんぶ合法」
言うまでもなく、殺しも合法だ。契約に基づいて殺しているだけなのだから違法なはずがない。
「何も聞いてないぞ」
「もう少し雰囲気を柔らかくしなさい。セクハラ目線だけじゃ、その目の奥にある物は誤魔化せない」
よくよく考えれば、悪名高きS03に対して何もしないという事は有り得ない。何を持ち込むか、何をするか分かったもんじゃない悪党達なのだ。警戒はされて当然だろう。
間違いなくライフル人形が何処かから観察しているだろうし、それとなく探りを入れられる事も予想していた。
そもそも、たかが一人形を主任が待ち伏せするように待っていたという事自体がおかしいのだ。
恐らくは、基地内部での行動は全て何処かに伝達されていると見て良いだろう。
「さて、何の事だかな」
「あくまでしらばっくれるつもりなのね。ま、別にいいけど」
何となく警戒の度合いが分かっただけでも収穫だ。やはり、S03に向けられる世間の目は厳しい。
「それよりもだよ。君の美貌があるなら、民間でも上手くやっていけるだろうに」
「FALを見る度にそれ言ってそうね」
「残念。全ての戦術人形にだ」
「なるほど、口説き文句か。でもまだまだね、もう少しセンスを磨きなさい」
更にもう二本。主任は完全に呆れ顔だった。
「センス云々は君に言われたくないんだが……ところで、ここへは何しに?」
「観光。……そんな目で見ないでよ、半分本当なんだから」
少なくとも、基地の中でM1895と行動しているFive-sevenはその心持ちでこの旅を楽しんでいた。
「観光ねぇ……言っちゃなんだが、ここには観光名所みたいな場所は無いと思うんだけどな」
「あるでしょ。HK417っていうとびきりが」
「……最初からそれが目的かな?」
イレギュラーとして認知されているそれの名前を出せば、主任の目が一気に厳しくなった。
その特殊な出自とオンリーワン性で注目されている彼女を欲しがる組織は、それなり以上にある。
本人が気付いているのかいないのかは知らないが、その行動は多くの注目を集めてしまっているのだ。
「答えはNO。観光名所として名前は出したけど、ぶっちゃけどうでもいいわ。はした金と引き換えに一つの地区を敵に回すなんて馬鹿な真似はしない。少なくとも私達はね」
「そう言って油断させよう、なんて可能性も無くはないよな」
「私達を信じられないのは分かるけど、流石に四体だけでは仕掛けないわよ。
もしやるなら主戦力は全部持ってくる。淫p……ネゲヴを含めてね」
生死を問わず回収するにしたとしても、それくらいは持ってくる。だというのに、たかが四体で仕掛ける訳がなかった。
「……それを信じろと?」
「信じてもらうしかないでしょ。でももし信用出来ないんだったら、頭でも何でもぶち抜けばいいわ」
「しれっと紛争の引き金になる行為を推奨しないでくれるか」
さらりと放たれた言葉に冷や汗をかいた。
FAL達がどんなに悪党でも、一応は他地区から来た客人扱いである。それをどんな理由があったにせよ一方的に撃ち殺すなんてしたら、それは紛争待ったなしだ。向こうは恐らく嬉々として向かってくるだろう。
同じ会社内だからといって、味方同士だとは限らないのだ。
FALは更に追加のタバコを出そうとして、それが出てこない事に首を傾げながら逆さまにして軽く振った。しかし、何も音がしない。タバコが入っているなら少し動く音がする筈なのに。
「……あ、タバコ切れた」
「そりゃ一分一本のペースで吸ってればねぇ……」
箱の封を開けたのは主任の方が早かった筈なのに、向こうの方が切れるのが早い。タバコを味わっているのか疑うくらいのペースだった。
「コンビニある?タバコ調達したいんだけど」
「あるよ。案内しよう」
「あら、こういうのは案内役の人形がやるものだと思ってたけど」
「美人をエスコートする役目は見逃せないなと思ってね」
……目線が太ももに向いていなければ、それなりにカッコよかったのだが。その無駄にキリッとした表情も、目線の向きで全てが台無しだ。
そんな視姦行為をされながらの移動中、思いついたように主任は言った。
「そうだ。君はどうしてS03に流れ着いたんだい」
「そりゃあ表に居られないからよ」
S03はグリフィンでも下から数えた方が早いくらいの糞溜めである。
通常ならバックアップを含めた全てが消されるような真っ黒な経歴持ちの人形達の溜まり場で、廃品処分所なんて揶揄されるくらいのドン底だ。つまり、S03に落ちてくる人形達は殆どが何かをしでかしている。
屈指の常識人で、S03に相応しくないくらいの良心を持っているM1895もだ。
「はー……何やった?」
「犯罪歴自慢聞きたいの?」
「…………いや、やっぱいい」
聞くなよ、と暗に言われて主任は言葉を引っ込めた。気にはなるが、それは覗いてはいけない深淵であるような気もしていた。
「ああ、やっと見つけた。ちょっとFAL」
曲がり角を曲がったところで、背後から誰かに呼び止められる。振り向けば、同じようにパスを首に下げたVectorがフラフラと歩いて来ていた。
横の主任など眼中に無いようで、一瞥もくれずにFALに寄るなり片手を出した。
「あれ頂戴。持ってるでしょ」
「これ私が自腹切った奴なんだけど……後で金払いなさいよ」
「分かったから、早く」
「はいはい……」
ポケットから手早く小さな袋を投げ渡すと、それを受け取ったVectorが再び来た道を引き返して何処かに消えて行く。
一連の流れを見た主任は、好奇心からこんな質問をした。
「何だったんだいアレ」
「アレ?」
「あの袋だよ。中身は何なんだ」
「別に大したものじゃないわよ。ちょっと気分がハイになるお薬」
「おいおいおい!?」
しかし、直後のとんでもない回答に聞かなきゃ良かったと後悔する。まさか白昼堂々と、しかも人様の基地の中でヤバい薬の受け渡しを行うなんて誰が想像しただろうか。
「それ、違法薬物とかって呼ばれてる奴じゃないのか……!?」
「そうとも言うかもしれないわね」
「そうとしか言わねーよ!……はぁ。S03は誰も彼もキワモノ揃いって聞いてたけど、噂に聞いてた通りだな」
良くも悪くも実態と噂は乖離しやすいものだが、ここまで一致しているのは逆に珍しい。
しかしある意味、外れていて欲しかった。
「私はマシな方よ。さっきのVectorは放火魔で薬中だし、今何してるかは知らないけどFive-sevenのアホは男にだらしのないバカ女だし。
唯一胸を張ってマトモだと言えるのはナガンくらいね」
「色々言いたい事あるんだが、とりあえず、そんな人形達でよく治安が保ててるな……」
「住民もクズ揃いだから、むしろ私達でなきゃダメなのよ」
毒を以て毒を制す。というわけではないが、経歴が綺麗な人形では日々巧妙化する悪事に対応しきれないのも事実なわけで。
ルールの裏を縫うようにして生きている悪党共に対抗するには、こちらも何処か擦れていて射殺に抵抗の無い人形が必要なのだと語った。
というよりは、清廉潔白な人形はアッサリと殺されて淘汰されてしまうので、結果として汚れた人形しか残らないという方が正しいのかもしれない。
「そうだ、ここの基地目掛けたテロとか無いの?ウチは二日に一回くらいの頻度でテロされるんだけど」
「世紀末すぎない?」
「世界全体が世紀末なのに何を今更」
爆弾積んだ無人の車が行政区画を守っているゲートに激突しようとするとか、ド直球に自爆テロとか、地面に穴掘って土竜みたいに下をくぐり抜けてから自爆テロとか。グリフィンに対する殺意というものが明確に見えるものばかりだ。
そもそもの話、鉄血人形の一体や二体くらいなら住民だけで処理してパーツを金に変えるくらいには訓練されている。
人形が人形なら、住民も住民であった。
「はえー、すっごい。逞しく生きてるんだねぇ……」
「そうね。……ところで」
先程から気にはなっていたのだ。隣の主任は気づいていないらしいが、圧が凄かったから。
「さっきから後ろを付いてきてショットガン構えてる人形は、あなたの知り合い?」
「えっ」
ショットガン?と思いながら振り向けば、そこには凄まじく恐怖を感じる笑みを浮かべながらショットガンの銃口を向けるM37、通称イサカの姿があった。
「………………いっ、いつから」
「最初から」
つまり、口説こうとしていた所をずっと見られていたし、聞かれていた。更に言うなら、エロい目でFALを見ていた事も、多分バレている。
それを理解した主任の顔色がみるみる悪くなっていき、逆にイサカは怖い笑みを深めてショットガンを構えた。
「待て!待ってくれ!!違うんだよ、誤解だイサカァァァァァァァァァ!!!」
「何が誤解なのよぉ!」
「……ちょっとそこのアンタ、コンビニまで案内してくれない?」
どったんばったん大騒ぎし始めた主任とイサカを放置して、偶然通りがかった職員に声をかけてコンビニに向かうのだった。
この時、Five-sevenやナガンばあちゃんが何をしていたのかは、きっとカカオの錬金術師さんが書いてくれる筈(凄まじい無茶ぶり)です。多分、恐らく、きっと、maybe……