No Answer   作:報酬全額前払い

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今回も他作者さんの作品にお邪魔します。
今回は焔薙さんの『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』の舞台であるS09基地にお邪魔しました。
こちらも毎日更新なので話数が凄まじい事になっていますよ。


仮面を顔に貼り付けて

 

 D08地区から色々と物資を貰って旅立ち、車に揺られること暫し。

 

 到着したS09基地の中にあるベンチの一つに、Five-sevenは座っていた。

 

 到着した当初は何故か基地に居た鉄血のハイエンドモデルに焼夷手榴弾やら榴弾やらをぶち込もうとしたり、D08でも見たダイナゲートを誤って射殺しかけたり。

 そんな感じで一悶着がありはしたが、今は落ち着いている。

 

「あー……」

 

 ここにはFive-seven一体しか居ない。他の連中とは別れて行動しているからだ。

 最後に見た時は、FALは酒瓶片手に一人で飲みに向かい、Vectorはこの基地のVectorに絡まれて凄く迷惑そうにしていた。

 

 そしてM1895は、この基地の良い意味で子供みたいな指揮官にお菓子を与えて餌付けしようとしていたのを確認している。

 Five-sevenはそれに苦笑いを投げかけ、少し外の空気を吸ってくると断りを入れてから此処に来たのだった。

 

「んー……」

 

 あまりにも此処の指揮官がいい子すぎてダメージを受けてしまっていた精神を、太陽を浴びながら少しずつ修復していく。

 回復魔法を受けるとダメージを食らうような精神をしているのが、Five-sevenという人形だった。

 

「……ん?」

 

 そんな彼女と同じベンチに、一体の人形が近寄って来た。

 

「隣、いいかな?」

 

「どうぞ」

 

 屋台を営むこの地区のスチェッキンであった。

 

 スチェッキンがベンチに座る。場所はベンチの右端だ。Five-sevenは左端に座っているから、微妙に距離が空いている。

 その微妙な距離感のせいか、それとも緊張が互いに伝わっているからか、二体の間には何とも言えない空気があった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 どちらも何も言わない。それはどちらも会話の糸口を探しているからだが、その所為で口を開きかけては閉じるという陸に打ち上げられた魚みたいな事をしてしまっていた。

 意を決してFive-sevenが話を振ったのは、この基地のネゲヴが向こうの建物に居るのを見かけた時である。

 

「……ここのネゲヴは、何やってるの?」

 

「主婦、かな。そっちのは……教官だったよね」

 

「ええ。まあ最近、教官っぽいことしてるの見た事ないけど」

 

 最近こそ取り上げられていないが、かつてネゲヴはそれなりの頻度で社内報に出ていた時期がある。

 S03が唯一自慢できる輸出品とまで言われた彼女だが、段々とS03から外に出なくなるにつれて話題にならなくなっていき、今となっては"言われれば思い出す"くらいの存在になってしまっていた。

 

「ふーん。そうなんだ」

 

「ええ、まあね。……それにしても主婦ねぇ」

 

「想像つかない?」

 

「まったく」

 

 戦場でアサルトライフルやらサブマシンガンやらを振り回している姿なら、幾度となく見ているから想像がつくのだが、それが主婦のように動いているのは全くイメージが出来なかった。

 もしかしたら、自分の知らないところでやっているのかもしれないけども。

 誓約した指揮官にのみ見せる一面には、もしかすると、あの主婦のような側面があるのかもしれない。

 

「へえー……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 再びの沈黙。

 

 ここまで会話が弾まないのには理由がある。お互い、どこから情報を抜かれるか分からないと警戒していたからだ。

 Five-sevenも、スチェッキンも、どちらもまだ完全に味方と決まったわけではない相手に情報を渡したくないという思惑があったからである。

 

 なので、双方とも胡散臭い笑みを向けあいながら固まっていた。

 

 だが、このままでは埒が明かない。そう思ったFive-sevenが先に仕掛けた。

 

「……なぜ、私たちを受け入れようとしたのかしら?」

 

 Five-sevenはド直球な質問を投げる。これが会話の端に匂わせる程度の曖昧な質問ならばのらりくらりと躱す事が出来ただろうが、ここまで直球だと答えるしかない。

 それっぽい理由をでっち上げて誤魔化す事は出来るが、それが露見した際に相手に与えてしまう悪感情を考えると、それは出来なかった。

 

「最悪を想定して、かな」

 

「ふぅん、最悪ね。まあここって相当な激戦区みたいだし、備えておくのは当然か」

 

 備えあればなんとやら、という言葉が残っているように、何があっても良いように常に作戦を幾つか用意しておくのは大事なことではある。

 S03なんて糞溜めに渡りをつけようと思ったのも、その備えの一環だろう。

 

「で、本当のところは?」

 

 ──と、納得する事も出来る。だがFive-sevenは、それを素直に信じる事が出来なかった。

 

「嫌だなぁ。まるで本当の事を言ってないみたいじゃん」

 

「……言葉を変えましょうか。なんでここまで投資するの?どう考えても不良債権よ、私達」

 

 この基地からS03に渡せる物は多くあるだろう。だが反対に、S03からの見返りは殆どない。

 こちらから出せるものなど数えるほどしか無いという事は、向こうとて承知しているはずだ。

 

「せっかく来てくれたんだし、少しくらい手助けできればなって考えてるだけだよ。困ってるんでしょ?色々とさ」

 

「商人が手助け、ねぇ?冗談を言うならもっとマシな事を言いなさい。

 私達が困ってたから助けた、じゃあアンタ達はタダのお人好し。でもそれは有り得ない。でしょ?」

 

 困っている事は否定せず、疑問をつき返す。

 利益を追求する商人が、その利益をわざわざ投げ捨てるような真似などするものか。

 

 見返りを求められている事は間違いない。

 その見返りとして、こちらから出せるものはあまりに少ないが、しかしだからこそ狙いを絞る事はできた。

 

「他所への牽制かしら?バックに私達が着けば、私達の根と葉のある噂が害を及ぼす可能性のある行動を抑えられる。

 どこまで抑えられるかは分からないけど、少なくともここの実働部隊が仕事する頻度を減らせはするわね」

 

 その予想が事実という的の真ん中を撃ち抜いたかどうかはスチェッキンが笑みを崩さないので分からないが、まあ完全に的外れではないだろうとは思った。

 ハッキリと言えるのは、彼女達は別に善意のみで手助けをしているのではないという事だ。

 

「……実働部隊?さて、なんの事かなあ」

 

「そっちとこっち、どっちが長く闇に浸かってるかなんてのは分からない。

 でも少なくとも、闇に浸かってるって事実だけは分かる。それくらいなら私でも見抜ける」

 

 存在そのものが闇みたいな彼女達に、そんなすっとぼけは通用しない。薄暗い場所に立っている同族を見分けるなんて朝飯前だ。

 ただ、そんな事は向こうも承知しているだろう。こっちも見えない血で汚れた自分を隠さずに接している。

 さっきから微妙に警戒されているのは、直接顔を合わせた事で噂が真実であると判断されたからかもしれなかった。

 

「今のは全部、私の勝手な想像だけど。でも確かに言えるのは、そっちが私達に大きく貸しを作りたいってこと」

 

 繋がりを作る程度でいいなら、貴重な資材を大盤振る舞いしない。まだ人形が出向いているだけであって、指揮官同士の会談ではないのだ。正式に繋がりが作られた訳ではない。

 なのに、この段階で大量に資材を渡してくる。これはつまり、向こうとしてはどうしても繋がりを作りたい。あるいは強烈な印象を与えたいという事だとFive-sevenは考えた。

 

「私達が困窮している時に大量の物資を援助すれば、そちらに気持ちが傾きやすくなるのは当然のこと。

 結果として、私達が感じる借りの大きさは本来の大きさより膨れ上がる」

 

 渇いた砂漠で見つけたペットボトル一本分の水と、美味しい真水が飲める川が横にある状態で見つけたペットボトル一本分の水。

 同量でありながら、その有り難さというものは雲泥の差がある。

 

 そして、大きな借りは返す事が難しい。相当な無理難題を押し付けられない限り、その頼み事を断るのは難しくなる。

 恐らくはそれを狙っているのだろう。

 

 S03が補給路を新たに構築したばかりであり、まだ困窮しているという現状だからこそ使える一手。

 一瞬の好機を逃さない、商人らしい行動の早さだと言えた。

 

「ただ分からないのは、そこまで恩を着せて何をやらせたいのかってこと。牽制をしたいだけなら、ここまでの援助は必要ない」

 

 そう言って、Five-sevenは疲れたように溜息をついた。

 なんで自分が別地区の連中と腹の探り合いなんてやらなきゃいけないのか。こういうのは指揮官達がやる事だろうに。

 

 と考えて、ここの指揮官はそんな駆け引きが出来そうにない事を思い出す。

 あの人畜無害そうな仕草の全てが演技であるなら話は別だが、あれが素なら無理だろう。

 

 スチェッキンのような人形が率先してパイプを繋げる役割を担い、こうして腹の探り合いという指揮官が行うような事を代理で行っているのも、指揮官を心配しての行動なのかもしれない。

 

「そういえば、ここの指揮官ちゃんは愛されてるわね」

 

「急に話題変わったね。……まあ、そうだよ。みんな指揮官の事は大好きだし、指揮官も私達が大好き」

 

「そうでしょうね。それも見てて分かるくらいだから、相当よね」

 

 あの性格なら確かに愛されるのだろうなと思う。それはS03の指揮官には無い彼女の美点だ。出会ってから少し話したFive-sevenでも理解るほどピュアなのである。

 人形を好き、人形に好かれる。指揮官という存在の一つ在り方として、彼女のそれは見本にすら成り得るものだった。

 

 ……ただ、この世界を生き抜くにはあまりに優しすぎる。

 平和な時ならそれでも良かったのだろうが、この世紀末においては明確な欠点となってしまう。

 

「で、私達に何をやらせるつもりなの?愛しの指揮官ちゃん関連だと思うんだけど」

 

 であるならば、その指揮官の欠点は誰かが埋めるしかないだろう。そう例えば、表だけでなく裏も知っていて、その対処を行えるような誰かが。

 その誰かは一人でなくていい。それこそ、指揮官以外の全員で欠点を埋めたって良い。

 

 そして思うに、この基地の人形は自由すぎる。

 自由さでいえばD08も似たようなものだったが、それよりも自由さの度合いは高いだろう。

 

 指揮官が指示していないであろう行為に手を染めている感がプンプンするのだ。

 あの指揮官は、もしかすると裏で動く実働部隊の存在すら知らないのかもしれない。

 

「…………」

 

 ほんの一瞬、スチェッキンの目の奥が揺らいだ。戦術人形でも見逃しかねないほどの僅かな間だが、それを見たFive-sevenは得心したように頷く。

 

「言葉にしなくていいわ。さっきも言ったけど、これは私の勝手な想像だから。大きな独り言と思って」

 

「……それにしては、誰かに語ってるみたいだったけど?」

 

「私の悪い癖よ。誰もいないのに話しかけちゃうの」

 

 茶目っ気を出してウインクをしながら、Five-sevenは拍子抜けするほどアッサリと質問の手を引いた。

 先ほどの反応でおおよそを察する事は出来た。これ以上リスクを負ってまで深く追求をする気はない。

 

 あまり突っつきすぎてヘビを出したら、たまったもんじゃない。

 とりあえず、ここの人形にとって指揮官は弱点であり、同時に逆鱗である事を調べられただけ収穫だった。

 

「何にせよ、これから宜しく。ウチの指揮官は今出張中だから、正式な交流が始まるのはまだ先でしょうけど。でもきっと色良い返事が返ってくると思うわよ」

 

「出張?へえ、珍しいね。地区を取り仕切る指揮官が出張なんて滅多にしないのに、どこ行ったの?」

 

「I.O.P.の本社。呼ばれたからって言ってたけれど」

 

「……ふーん。本社かぁ」

 

 最後に、こちらから少し情報を流しておく。S03の指揮官が持つ繋がりを匂わせるついでに余計な詮索をした遺恨を無くすためにも、これは必要な事だった。

 

「さて、そろそろ戻ろうかしら。ナガンがそっちの指揮官ちゃんにお菓子を全部食べさせないうちに」

 

「副官が居るから大丈夫だと思うけど……いや、でも食べられるだけ食べるのが指揮官だし……」

 

 Five-sevenが立ち上がると、スチェッキンも同じように立ち上がって後から着いてきた。どうやら指揮官のところに戻るらしい。

 

 背後にスチェッキンの探るような目線を感じながら、Five-sevenは考える。

 

 向こうが何をさせたがっているのかは知らない。しかし、こちらを利用しようとするのなら、こちらも向こうを最大限利用してやればいい。

 幸い、向こうは此方に並以上の価値を感じているようだ。ならばやりようは幾らでもある。

 

(でも、どう立ち回るかは指揮官の仕事よね)

 

 Five-sevenに任された仕事はキッチリと果たした。ここから先は指揮官の仕事だ。





という訳でスチェッキンさんをお借りしました。商人らしい抜け目の無さを表現できていると思いたいです(白目)
……えっ?殺伐しすぎ?ははは、そんな馬鹿な。

あ、あと一話だけ横道に逸れてから本編の方に戻ります。そろそろ進めないと怒られちゃいそうですし……私もネゲヴさん達を書きたくなってきたのでね。

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