No Answer   作:報酬全額前払い

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横道に逸れると言ったな、あれは嘘だ。


極秘任務・未踏査地区調査

依頼主:正規軍技術部

説明はさっきした通りだ。

ロストフィールドに侵入し、目的の資料を回収しろ。


成功報酬:???


04 Silent Area①

 

 人類の発展の影には、必ずと言っていいほど争いが絡んでおり、特に技術面の進歩において、それは顕著に表れる。

 

 過去の歴史を紐解けば良く分かることだろう。第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして第三次世界大戦……

 これらの大戦の前後で人類が持つ技術は飛躍的に進歩し、それらを使って人間はあらゆるものを殺してきた。

 

 時には危険な猛獣を。時には貴重な動物を。時には人類種を産み育てた母なる大地と海すらも。

 しかもそれだけに飽き足らず、今や人類は、自らをすら己の手で絞め殺そうとしている。

 

 これらの凶行の裏には、科学文明の発達と共に人間に生まれた『自分たちこそが地球の支配者だ』などというような思い上がりが大いに関係しているに違いなかった。

 その勘違いが、人間の手で壊した筈の環境保全に取り組むだの、人間の手で殺した動物を保護しなければいけないだのと嘯く心根を生んでいるのだ。

 

 自ら数を減らしておきながら絶滅危惧種に指定する行為など、人間の身勝手なエゴがそのまま出たような行為ではないか。

 

 自然というものは、本来その一部分に過ぎない人間風情が手出しを出来るものではなく、またコントロールできるものでもない。

 

 なぜ古代の人が雨乞いを行っていたのか。それは人間に天候をコントロールする力が無かったからだ。

 人間本来の力なんてものは、大自然の中では塵にも等しい。単体で勝てる動物の方が少ない。

 

 ただ人間とって幸運なことに──そして地球にとっては不幸なことに、知恵という唯一にして無二の果実の存在が人間を強くした。

 アダムとイヴがどうたらこうたらという話は別枠に行ってしまうので割愛するが、それが人類を人類たらしめる要素の割合を大きく占める事に議論の余地は無いであろう。

 

 その果実によって齎された技術が発展した今となっては、建物の中という限定的な場所で擬似的に太陽を作ったり雨を降らせたりする事すら可能になった。

 神に等しい力を得た、と言えなくもないだろう。

 

 だがそれは、あくまで擬似的なものに過ぎない。確かに機械を作った事は人類の功績なのだろうが、人類種そのものは太古のまま。弱いままだ。

 

 なのに人類は増長している。それは人類が発展させてきた技術が他の動物より優れていると思っているからに違いない。

 有り体に言えば、人類は人類以外の全てを見下しているのだと言えた。

 

 小心者が強い者を背後につけてイキる、つまり虎の威を借る狐という言葉が今の人類の状態にかっちりと当てはまってしまう。

 

 人類全体でイキり散らしているという表現が、もしかすると一番適切なのかもしれなかった。

 

 長くなったし話が所々で逸れたが、つまり争いの歴史とは発展の歴史であり、人類種を含めたあらゆるものの破壊の歴史だ。

 そう言い換えることが出来るだろう。

 

「…………懐かしいな」

 

 乾いた空気を吸い込み、そして吐き出す。生物の気配が消え去った荒野の冷たい空気は、記憶の中にあるものと殆ど変化が無かった。

 

「ここに来たのは4年も前だものね。でも、何も変わってない。人の手が入っていないからかしら」

 

「かもな」

 

 指揮官は──レンは、彼女の言葉に軽く頷いた。そうしてから一歩踏み出し、先へと進む。

 

 彼と彼女が求めるのは、第三次世界大戦の最中に生まれ、そのまま消えていった技術だ。

 それらは技術進歩の過程で生まれたものたちであり、そして事故で失われてしまった先進技術でもある。

 

 それは即ち、崩壊液を兵器に転用する技術の事だった。

 

 兵器転用された崩壊液は核兵器よりも威力が高く、そして重篤な汚染を齎す。言ってしまえばバイオテロと核攻撃を同時に行えるような、そんな代物。

 敵国の国民だけでなく、その国の大地という食料生産において重要な要素を殺すのには、これ以上ないほど適した兵器になるのだ。

 この、最終兵器と呼ぶに相応しい悪魔の武器は、この国に限らず何処だって研究を盛んに行っている。

 

 ……といっても、幸いな事に未だどの国も爆弾以外の使い道を見つけてはいなかった。兵器転用しようにも、その挙動や成分が独特すぎて既存の認識や技術がほぼ役に立たないのだ。

 まあ、その唯一の使い道である爆弾という単純な物でも凄まじい被害を与える事は可能だったが。しかしそれは、分からない物を分からないまま使っているに過ぎない。

 それを理解し、自由自在に操ること。次のステージに上がることが、各国の急務だった。

 

「結局、遺書は書かずじまいだったな……」

 

「別にいいじゃない、書かなくても。どうせ生きて帰るんだから書くだけ無駄よ」

 

 励ましの言葉をかける今の彼女は、現在ネゲヴと呼ばれている人形が身に纏っている、白を基調に青いラインが入った制服を着ていなかった。

 代わりに袖を通しているのは、セクション482を襲撃した際にも着ていた、黒を基調に赤いラインが入った衣服だ。まるでネゲヴの制服のカラーリングを反転させたような感じだが、六芒星は無いという点は異なっている。

 

 これは彼女と同時期に製造された人形達が生まれた時から制服として使っていたデザインのものであるが、今となっては彼女しか着る者の居ないオンリーワンのデザインになってしまっていた。同期の人形達は、もう全て製造が終了してしまっているのだ。

 この業界は旧いものが新しいものに取って代わられ、消えていくのが日常。それを分かってはいるし、兵器とはそういうものだと割り切ってもいるが、だからといってそこに一抹の寂しさを感じないわけではない。

 

「大丈夫、あなたは死なせない。そう約束したじゃない」

 

「……そうだったな」

 

 優しくそう言われ、更に少し震えていた手を軽く握られた。

 そうされると強ばっていた表情が微かに和らぎ、声に余裕が戻ってくる。

 

 久しぶりにこうして戦場に立つからか、どうやら自分でも自覚しないうちに相当緊張していたらしい。

 頭の中の冷静な部分でそう認識しながらレンは言った。

 

「行こう。……前と同じように、夜の闇に紛れて下水道を通れれば良いんだが」

 

「劣化して崩落してない事を期待しましょ」

 

 今向かっているロストフィールドとは、崩壊液によって汚染されつくした研究都市と、その周辺の事を指している。

 かつては一大拠点だっただけに街は大きく、それだけに被害も甚大だった。

 

 荒野には、その都市を守っていた軍人の成れの果てが今も彷徨っている。

 前方に単独で動いているE.L.I.Dもまた、その内の一体だ。

 

「前方にE.L.I.D。数は一、どうする?」

 

「生かしとく理由は無いだろ。見つかる前に先制で仕掛けて殺してから全速力で離脱する、行け!」

 

 レンの指示に彼女は頷き、I.O.P.社経由で軍に返還されたハンガーラックのVendettaを二振り持ち、突撃した。

 一時的にしろレンの護衛の役割を放棄するような問題行動だが、E.L.I.Dとの戦いの余波に巻き込む危険性を考えるとコレがベストなのだから仕方ない。

 

 あっという間に小さくなった彼女の背中を見送りながら、レンは懐に持っているハンドガンを取り出した。

 

 人形やらE.L.I.Dやらが跋扈するこの世界で、普通の人間がハンドガン一丁しか持たないなど、自衛にしても力不足だ。

 しかしレンとしては、このハンドガン以外を持つつもりは無かった。これが手に馴染んでいるというのもあるが、何よりサブマシンガンやアサルトライフルなんかを持っていても撃つ前に殺されるのがオチだと分かっているからだった。

 

 だからコレは、自衛用というよりは自決用的な意味合いが強い。

 

 それを持ったままレンは走り出す。戦闘後に手早く動くために、少しでも距離を詰めておきたかった。

 

 E.L.I.Dが銃を発砲する音が荒野に響き、すぐに途絶えた。E.L.I.D退治の熟練者である彼女からすれば、一体のみのE.L.I.Dなど準備運動にもならないだろう。

 

 しかし、今度は今の音を聞きつけた近くのE.L.I.Dが駆けつけて来るに違いない。E.L.I.Dは耳が良いから、周辺にE.L.I.Dが居るのなら今の銃声で間違いなく気付かれた。

 

「レン!」

 

「分かってる、向こうの山に身を隠すぞ!」

 

 それらに捕捉され、多数対一になるのは望むところではない。目的はあくまでも資料の回収であり、E.L.I.Dの討伐ではないのだから。

 

 ぐいっと米俵を担ぐようにレンを担いだ彼女は、そのまま全速力で少し遠くに見える緑の山へと向かっていく。

 E.L.I.Dが何処に居るかは知らないが、山の方には居ないでくれと祈りながらの逃走だった。

 

「追手は?」

 

「無し。たまには祈ってみるもんだ、ゴスペルアーメンってな」

 

「冗談言えるくらいには落ち着いたみたいね、良かった」

 

 その祈りは功を奏したらしく、運良く見つかることもなく木々が生い茂る山の中に飛び込めた。

 

 このロストフィールドは、都市の前までは荒野を真ん中に置き、その左右を緑いっぱいの山で挟んだ地形をしている。

 なので左右の山からは真ん中の荒野の様子が良く見え、逆に荒野から山の中は見辛い。隠密行動をするのには最適な場所と言えた。

 

「でも、中々危なかったわね……もう四、五体くらいのE.L.I.Dが集まってるわ」

 

「お前なら倒せるだろうに」

 

「倒せるけど、あなたに害が及ぶ可能性があるのよ。E.L.I.Dは目だって悪くないんだし、もしレンが見つかっちゃったらと考えると……ね?」

 

 嫌な未来を想像してしまったのか、ぶるりと震えながら彼女は話を打ち切った。

 

「ああヤダヤダ。とにかく、アレはスルー出来たんだから当面は気にする必要はないわ。警戒は怠らないけど」

 

「ああ。……先を急ごう、何かの拍子にこっちに来ないとも限らない」

 

 信じられない話だが、技術が進歩した今になって再現できない過去の技術という物も存在する。

 

 ロストテクノロジーと呼ばれるそれらの技術は、世界の各地に点在する"遺跡"と呼ばれる場所に多数が遺されていた。

 この遺跡という存在は、かつて地球上に、今の人類より優れた技術を持つ知能体が生息していた事を証明している。

 また、遺跡にはその知能体の遺体という凄まじい価値を持つ物が大した損傷も無く保存されていた。

 

 各国が現在血眼になって研究している崩壊液も、この遺跡から発見されたものだ。

 

「お偉いさん達は随分と崩壊液に夢中みたいだな。新しい玩具を貰った子供みたいだ」

 

「仕方ないんじゃない。遺跡の技術は、今の技術力では到底辿り着けないようなものばっかりって話だし。それらを解析して少しでも優位に立ちたいのよ」

 

 だからこそ、こうしてロストフィールドに派遣されているのだ。調査隊を結成するほどに、軍はロストフィールドに──正確に言えばロストフィールドに遺された崩壊液技術に──注目している。

 

「もし上手く解析できて技術が発展すれば、もしかすると遺跡に眠ってる他の兵器も解析できるかもしれない。

 まあ、現状から見るに望みは薄いけど」

 

「遺跡の中には、まだまだ沢山の超兵器が眠ってるんだったか。遺跡の中で野放しになってる大昔の兵器……ゾッとするな」

 

 これは噂の域を出ないが、軍は遺跡の中から持ち帰れるだけの超兵器を持ち帰り、今も研究を行っているらしい。

 出来の悪い映画のように、何かの拍子にそれらが一斉に起動して人類に牙を向けるかもしれないのに、どうして触れられるのかが分からなかった。

 

 分からないなら触れるべきではないのではないか。そう思わずには居られない。

 そんなレンの言葉にネゲヴは鼻を鳴らし、返した。

 

「今更よ。そもそも崩壊液だって大昔の遺物じゃない」

 

「そうなんだけどな。でもその崩壊液の所為で世界が破滅に向かってるだろ?まだ早かったんじゃないかと思ったんだよ」

 

「文句なら人類に分かるように警告文を残しておかなかった昔の知能体に言うべきよ。

 尤も、仮にあったとしても、その警告文は無視されてただろうけどね」

 

 これは単なる推測だが、きっとそうなっていただろう。世界中に崩壊液が散らばり地球が深刻な汚染に晒される原因となった北蘭島事件も、地元の中学生が興味本位で遺跡に侵入したからだとされているのだから。

 この事件そのものが、好奇心だの探求欲だのいうものが高まりすぎると、禁忌にすら手を出してしまうのが人間なのだという事を証明している。

 それか、自分達は大丈夫という根拠の無い自信によるものなのかもしれない。

 

「まあ、深い事は考えなくていいのよ。今を生きる、それだけを考えましょ」

 

「……そうだな。俺らが何を言っても、どうしようもないもんな……」

 

 世界は今、どうしようもなく歪みきっている。人類の数が減り、その活動領域を大きく縮小させながらも、まだ争いを止められない。

 歪みは正されなければならないはずだ。なのに世界はその歪みを肯定し、矛盾を孕んだまま再び膨張しようとしている。

 

 その流れの中に居ることを自覚しながらも、しかし彼に出来る事は、その流れに飲み込まれて溺れないようにすることだけだった。

 

「……ん?」

 

「どうした」

 

 特に争いらしい争いが起こることも無く森の中を進むこと半日。太陽が沈み、そろそろ目的地が見えてくるかという頃合になって、彼女の目と耳が何かを捉えた。

 

「何か、前で争ってる」

 

「争い……?冗談キツいぞ、ここは誰も近寄れない筈だろ?外側は軍が管理してるし、何よりE.L.I.Dだらけなんだから」

 

 E.L.I.Dという存在が弱いのならば、ここがロストフィールドなどと呼ばれはしない。正規軍が手を焼くほどの存在であるE.L.I.Dが沢山集まっているから、ここの調査はマトモに進んでいないのだ。

 並の戦力なら争いにすらならない。一方的な攻撃で終わってしまうだろう。

 

 無論、攻めるのはE.L.I.Dの方である。

 

「まあ、E.L.I.D同士の潰し合いとかなら大歓迎だけどさ」

 

「だったら楽だけど、そんな訳ないでしょうね」

 

 見つからないように慎重に偵察すると、どうやら都市の入口付近に目眩を起こしそうなくらい大量に集まったE.L.I.Dと、これまた大量の自律人形達が戦っているらしかった。

 

 数の優位を取っているとはいえ、E.L.I.Dと戦える程の改造を施した自律人形の存在には驚いたが、何より気になったのは、その多くが武器腕であるということ。

 武器腕を見て、真っ先に思い浮かぶ勢力といえば──

 

「あれは武器腕……ってことは!」

 

「AI研究所……!?」

 

 予想外の勢力の登場に顔を見合わせる。謎に包まれた勢力が、ここに何の用なのか。まさか自分達のように崩壊液技術を求めてやって来たというのか?

 しかし、軍以外には存在すら知られていない此処の、更に極秘の情報を持っている事など有り得るか?

 

 そんな疑問が頭の中をぐるぐる回る。しかし、自律人形が爆発した音で思考の渦から抜け出したレンは、今は思考するよりやらなければならない事があると思い直した。

 

「……何だか良く分からないが、これは好機だ。奴らが引き付けている間に、俺達も内部に潜入しよう」

 

「そうね。何が目的かは気になるけど、ここで話してても仕方ないし……どうせ首を突っ込んでもロクな事にならないわ」

 

「ああ。この時点で見えてる数も多いけど、街中にも相当数が入り込んでるだろうし……どのみち俺とお前でどうにか出来る問題じゃない」

 

 不干渉という方針を固め、騒がしい戦場を横目に闇に紛れて進んだ。

 彼女に似たようなデザインの黒い衣服を着ているレンを再び米俵のように彼女は担ぎ、見つからないよう、遠回りするようにして街へと向かっていく。

 

 懸念要素であった都市への侵入はビックリするほどアッサリと終わったが、レンの胸中は穏やかではなかった。

 

(偶然迷い込む訳がない。ここは外周部を軍の連中が囲んでるから、それを突破しないと侵入する事は不可能だ)

 

 だが、警備が突破されたという連絡は来ていない。幾らレンの扱いが悪くても、流石にそれくらいは連絡を寄越すだろう。

 未回収の技術を回収するために呼ばれたのだから、生存率を上げるためにも最低限の情報は渡してくる筈だ。

 

 そして、正規軍の通信をジャミング出来るほどの強力な設備なんて正規軍以外に用意できないだろうから、AI研究所は軍と交戦せずにロストフィールドに侵入してきた可能性が高い。

 だが、そんな事が可能なのか?

 

(……チッ、一気にきな臭くなってきやがった)

 

 この先に何が待っているのだろう。そして、恐らく此処を訪れているAI研究所の目的とは何なのか。

 元からハードだった資料の回収任務が、ここに来て更にハードになった事を感じたのだった。





だからなんだって話なんですが、これ書きながらスマブラがなんで人気なのかを考えてたんです。

それで私個人だと「合法的に相手を叩きのめしてマウント取れるから」という嫌な結論に至ってしまったんですよね。実際どうなんでしょう?
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