No Answer   作:報酬全額前払い

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wikiを見て気付いたんですが、大陸ではネゲヴさんの新スキンが出ているようですね。やったぁ!ロリスキンすら持ってないけどな!
……ところで新スキンで日本刀を持っているという事は、それを使って近接戦闘しても良いという事なのでしょうか?

あ、そうそう。最後の方にG41がカニバってる感じの描写があります。お肉を食べた日に見ると気分が悪くなる……かもしれませんよ。



束の間、訪れた平穏

「こうも平和だと、ウチも商売あがったりだな」

 

 やっと訪れた小休止の最中、指揮官はそんな事を言った。

 

「そうね。でも偶には、こういうのも悪くないでしょ」

 

 横で一緒にダラダラしているネゲヴもそれに頷き、何食わぬ顔でその指を指揮官の指と絡ませる。

 

 もはや爆発音の一つや二つ程度では動じない辺り、それが日常茶飯事である事を感じ取る事が出来るだろう。

 今日もS03は平和だ。

 

「……そうだな。最近、ちょっと忙しかったし。悪くない」

 

 手を軽く握って、人間と遜色ない体温を感じながら束の間を平和を楽しむことにした。

 といっても、特に何をするでもない。ただゆっくりと時間を無駄にするだけだ。

 

 そうしていると、ネゲヴが寄りかかってきながら指揮官の身体に顔を埋めた。

 

「……怖かったわ」

 

「何が」

 

「あなたを喪うのが」

 

 初めて……でもないが、聞くのは珍しいネゲヴの弱音。これは恐らく、あの軍の無茶ぶりの時の事を言っているのだろう。

 報酬は当初より大きく引き出したが、そんな事は問題ではない。ネゲヴにとって彼の命は、値のつけられない大切なものだからだ。

 

「次は無いかもしれない。いや、あの時だって、あのヒトガタが止まってなかったら……そのまま殺されてた」

 

「分かってはいた事だろ。奴らにとって俺達は使い捨ての道具と同じさ。どうせ、どこかで殺される」

 

 指揮官がネゲヴの首をなぞる。そこに目には見えない首輪が付けられているのを、彼も彼女も感じていた。

 

「分かってるからって、それを受け入れられるかは別問題よ。……少なくとも私は、それを受け入れないし、認められない」

 

「認めようが認めまいが、それは来るさ」

 

「絶対に認めないわ」

 

 指揮官が自分が死ぬ事を受け入れているのとは正反対に、ネゲヴは受け入れようとしない。

 そこには人間と人形の死の重さの違いが関係していた。

 

 自分は良いのだ。死んでも替えがあるし、彼女のバックアップデータは三ヶ所に保管されている。それが消える事は殆どない。

 しかし彼は人間だ。死ねば、そこで終わる。コンティニューは存在しない。

 

 だから自分が守るしかない。ネゲヴは勿論、他の連中を使い倒してでも、彼だけは生かす。何があっても、例え五体不満足になろうとも、生きてさえくれれば巻き返せるのだから。

 それが己の責務だとネゲヴは信じきっていた。

 

 1を救うために9を殺す。やるべき事は単純で、そして罪深い。

 

 でもそれでいい。この世界で大事な事は、過剰なまでに己のエゴを貫き通すことだから。

 戦い、勝つ。そして敗者の屍を踏み台にし、更に勝つ。

 

 戦いから逃げるより、そうする方が、この世界ではよほど誠実な生き方だと思っている。

 

「お前なぁ……」

 

 ふぅ、と指揮官は息を吐いた。普段は冷静というか、人形らしい合理性を持って動いているのに、どうして自分の生死が絡むと病み気味になってしまうのか。

 

 いや、それ自体は人間性の発露という事で何の問題も無いのだが。問題は自分が死んだ後、彼女がどう動くかというところにある。

 

 そのまま自死するか、あるいは復讐に走るのか。思いつくのはこの二択だ。

 前者ならば比較的平和に終わりそうだが、しかし間違いなく後者だろうなという確信が、彼にはある。

 

(恋は目を眩ませるらしいけど、ここまでなのか?)

 

 誓約という行為によってネゲヴと繋がってはいるものの、完全に心の内まで見通すことは難しい。しかし、思考が悪い方へ向いているという事だけは分かっていた。

 だから今は、ネガティブな方向に思考が向いてしまっているネゲヴの気を取り直させなければならなかった。

 

 指揮官は不器用に頭を優しく撫でた。撫で慣れていないらしく、ぎこちない動きだった。

 

「……まあ、安心しろよ。無理はしないし、お前が居るなら俺は死なないさ。だろ?」

 

「ええ、私が守るもの。死なせはしないわ」

 

 死ぬ時が来れば死ぬという考えは変えていない。どうせ殺されるんだろうなというのも、分かっている。色々なことを自分は知りすぎた。

 しかしネゲヴが前に居る限り、その"死ぬ時"は彼が思っている場所より遠ざかるだろう。少なくとも、すぐ訪れそうにはないなと指揮官は思った。

 

 そのまま時計の針が半周するまで撫でられていたネゲヴは、やがて埋めていた顔を上げた。

 

「…………よしましょう、この話は。こんな嫌な話してると、精神にまでカビが生えちゃうわ」

 

「そっちが始めたんじゃないか、まったく……コーヒー飲むか?」

 

「ええ。いただくわ」

 

 今回は珍しく、ネゲヴにコーヒーを淹れてやる。それになんだか新鮮な気持ちになりながら、ネゲヴが普段やっていることを繰り返すようにカップを二つ持った。

 そして電気ポットの前に指揮官が立ち、お湯を入れはじめたくらいの時、扉がノックされた。

 

「指揮官、ちょっとよいか?」

 

「ナガンか。入っていいぞ」

 

 お湯に溶かしこみながら指揮官が言うと、M1895は何枚かの書類を持って入室してくる。

 そして指揮官がコーヒーを淹れている事に物珍しさを感じながら、それらの書類を仕事机の上に置いた。

 

「珍しいのう、指揮官がコーヒーを淹れとるなんて」

 

「ネゲヴは休憩中だからな。それよりどうした、急用か?」

 

「ああいや、そういう訳ではないんじゃがの。伺いを立てるついでに書類も持っていこうと思ってな」

 

 ネゲヴの前にカップを置いて、M1895の前にも一つ。それは指揮官が普段使っているカップだった。

 

「余裕あるなら一杯飲んでけよ」

 

「よいのか?」

 

「よくなかったら出さないだろ」

 

 元は指揮官が飲むはずだったであろうそれを見ながらそう聞くが、指揮官は新しくカップを用意しながらそう言った。

 それもそうだとM1895は頷き、言葉に甘えて近場に座った。

 

「それで、伺いって?」

 

「外回りに挨拶に言った時、悪くない反応の基地と再度コンタクトを取ってもらいたくての。戻って早々に悪いが、二人には旅立ってもらいたいのじゃ」

 

「そりゃまた急だな」

 

「無論、すぐとは言わん。向こうにも都合があるだろうしの、双方の予定が合う時にで良いのじゃ」

 

 その言葉を、指揮官はコーヒーと共に己の内に飲み込んだ。そして頭の中で記憶している予定を確認して、ちょっと遠出しても良さそうな所を探す。

 

「分かった。向こう次第だけど、予定は見つけとくよ」

 

「すまぬ、よろしく頼むぞ」

 

「いいさ。水の事で礼も言いたいしな。でも向こうが何を欲するか……」

 

「D08は情報で良いと言っとったぞ。S09の方は……分からんが」

 

「それが怖いんだよなぁ……」

 

 M1895が持ってきた書類には、今回の出張で頂いてきた資材の内容が纏められていた。

 そもそも友好的な基地が少ないが、特に多く資材の提供をしてくれたのが、D08とS09の二つである。

 

 それだけなら良かったねで済むのだが、多くの資材を提供してきたという事は、その裏にある思惑もまた大きいということだ。

 何を要求されるのか、今から頭が痛くなる。

 

「あ、そうだ。鉄血のハイエンドが作ったとかいう浄水器って大丈夫だったのか?」

 

「向こうの指揮官も飲んどったらしいし、こっちでも59式に調べさせてみたが平気だそうだ」

 

「ふーん。じゃあ取り敢えず、産業区画の方の隔離施設で試験運用してみて、良さそうなら本格的に使うか」

 

 鉄血のハイエンドがグリフィンにいるという事実が指揮官を身構えさせていた。

 向こうの指揮官だって飲んでるんだし考えすぎだと言われるかもしれないが、指揮官というのは最悪を想定しなければならない。

 

 もしこれが何かの策略だった場合、そのまま信じて使ってしまうのはその策略にうかうかと乗ってしまうという事だ。

 この地区を預かる者として、そんな事態が起こる可能性のありそうな行為はできなかった。

 

「それが妥当じゃの。向こうの手前、露骨に疑う訳にもいかんから素直に信じたように頷いておいたが、そもそもの前提自体あまりに突拍子が無さすぎる話じゃし」

 

 コーヒーをぐい飲みして飲み干したM1895が、そう言って立ち上がった。

 

「ご馳走さん。わしはそろそろ仕事に戻ろう」

 

「ああ。……さて、人員の選定とか始めないとな」

 

「そう言うと思って、もう候補出しといたわ」

 

「でかしたネゲヴ」

 

 動き出した指揮官とネゲヴを背中に、M1895は扉を閉めて歩きだした。

 

 そして歩きながら舌に残った味を僅かに感じて、苦々しい顔をした。

 

「やっぱり苦いのう」

 

 

 

「くそっ、くそっくそっ、くそっ!」

 

 悪態をつきながら、男は雨の降る薄暗い路地裏を走っていた。

 

 この街の人間なら誰もが着ているレインコートを着ていない事から、この男が部外者であることが分かる。

 

「簡単な仕事だって、行ってたじゃねえか……っ!」

 

 その部外者である彼は息を切らしながらも、しきりに背後を確認していた。まるで何か恐ろしいものから逃げようとしているようだった。

 

 彼は、とある組織に送り込まれた工作員である。何人かの仲間と共に、この地区の指揮官を亡き者にするために送り込まれたのだ。

 

 しかし、大した情報も与えられず第一都市に入ってしまった彼らは、現地人が必ず着ているレインコートを事前に調達する事すら出来なかった。

 そして、この閉鎖的な街で部外者は兎に角目立つ。あっという間に警備部隊がやって来て、拘束されてなるものかと車を爆破して逃げ出したのが、ついさっきの話だ。

 

 何とか依頼を成功させるため、そして報酬を独り占めするために、単独行動で散らばった工作員たち。その一人が彼なのである。

 

「居た、こっちよ!」

 

 彼の背後から、そんな声が響いた。警備部隊の人形に見つかったのだ。

 

「畜生っ!」

 

 拳銃を抜き放ち、背後に向けて無造作に放つ。弾に命中することを嫌った人形たちがサッと壁に隠れたのを見計らって、更に走った。

 

(なんでだ!?なんでさっきから、誰もいない!!)

 

 既に街には誰も居ない。警備部隊が捕物を始めた事が分かると、この街で生き抜いてきた住民達は皆が屋内に引っ込んでしまったからだ。

 普段はトタン板一つを軒にして外で暮らしているホームレスも、この時ばかりは酒場のような誰でも入れる屋内に入っていた。

 

 これは勘違いされて殺される事故を防ぐために住民側から始めた自衛策だった。

 この街では、疑わしきは全て殺せがモットーである。実際それで殺された人間はそれなりに居る。

 

 そのお陰で逃げている男は人混みに紛れるという逃走の常套手段を使えず、その体力も限界に達しようとしていた。

 

「くそっ、行き止まりか……!」

 

 元あった街から場当たり的に区画を広げていったからか、複雑になった低層区画は土地勘が無ければ行き止まりに辿り着きやすい。

 彼はその行き止まりの一つに入ってしまった。もちろん、彼はすぐに引き返そうとする。だが……

 

「やあーやあー」

 

 彼が一番恐れていた事態が起こってしまった。

 背後から死神の声がする。

 

 恐る恐る振り向くと、そこには隻眼の人形と、両眼が蒼い人形の二体がいた。

 ──スコーピオンと、G41である。

 

「人形……!」

 

 この男にとって最大の不幸は、ここまで生き残ってしまった事だ。

 彼が知る由もないが、もう他の全員が捕まるか射殺されるかして居なくなっている。

 

 そして、暇していたスコーピオンとG41が騒ぎを聞きつけて飛び出してしまったのも、運が悪いと言えよう。

 

「追いかけっこは終わりかな?いやー、随分と逃げたみたいだねぇ」

 

 スコーピオンが一歩前に出た。男が一歩下がる。

 

 更に前へ。更に後ろへ。

 

 更に前へ。更に後ろへ……

 

「っ!」

 

「あーあー。壁に背中が着いちゃったかぁ」

 

「クソが!くたばれ!」

 

 先ほどと同じように拳銃を抜き放ち、目の前の人形を殺そうとする。

 だが、その拳銃から弾丸が放たれる事はなかった。

 

「おっと、危ない危ない」

 

 抜き放ち、スコーピオンに狙いを定めるまでの一瞬。その一瞬で拳銃の側面に大量の弾が撃ち込まれたのだ。

 いつの間にか握られていた両手のスコーピオンが、それを成した事を示している。

 

「ねえG41。先に譲ってあげたんだし、これはあたしがやっちゃって良いよね?」

 

 スコーピオンに声を掛けられたG41は、さっきから一心不乱に何かを齧っている。男は目を凝らしてそれが何かを見た。

 

「おまっ!?それは……!」

 

「……あげないよ」

 

 男は目の前の光景が信じられなかった。人形が人間を喰っていたのである。

 しかもそれは、男と一緒に第一都市に忍び込んでいた工作員のものらしき片腕だった。

 

「〜〜っ!?」

 

 見当違いな事を言っているG41に、彼は氷柱が突っ込まれたような寒気を覚える。

 

(こいつら、気が狂ってやがる!?正気じゃねぇ!!)

 

 ここに来て漸く、男は自分が禁忌に触れたのだと理解した。

 これは手を出してはいけない。関わってはいけない類いのヤバイ奴らだったのだ。

 

「ねえスコーピオン」

 

 ある程度持っている腕の肉を食べたG41は、口の周りの鮮血を気にもせずに男を指さして言った。

 

「お腹へった」

 

 男は自分の命運が尽きた事を察した。

 

「そっか。でもあたしも欲しいんだよねぇ……うーん、じゃあこうしよう!」

 

 スコーピオンが早足で男に近づき、その手を無理やり持ち上げた。

 

「なっ、何をする気だ!?」

 

「いやいや、ちょっと下ごしらえをね!」

 

 成人男性すらを凌駕する凄まじい力で左手を捕まれ、壁に叩きつけられる。

 そしてスコーピオンがポーチから太い釘を取り出すと、迷うことなくそれを手のひらと、その奥の壁に勢いよく打ち付けた。

 

「がああああああああっっ!!?」

 

「おー良い悲鳴だぁ。もう片方いくよー。ていっ」

 

 痛みに悶える暇もなく、右手も同じように打ち付けられる。

 そうして両手が封じられた男は、まるで磔にされたかのように両手を広げて、そこから血を流していた。

 

「さて、ここからが本番。G41はちょっと待っててね」

 

 その状態の男にスコーピオンは、FALの部屋からパクってきたククリナイフを抜き放ちながらこう囁く。

 

「今から君の肉を薄くスライスする。多分凄い痛いだろうけど、頑張って耐えて泣き叫んでね」

 

「や……やめろ!やめてくれ!」

 

 もはや恥も外聞もない。男は必死に目の前の悪魔に命乞いをした。だが決死の思いで行ったその行為は、逆に悪魔を滾らせてしまう。

 

「良いよォその情けない声、その表情。もっと、もっと沢山あたしに見せてよ」

 

 人間虐待嗜好者に、命乞いは逆効果でしかない。

 

 G41が退屈そうに見守る中、スコーピオンがククリナイフをゆっくりと動かした。


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