No Answer   作:報酬全額前払い

25 / 43

タイトルそのまんま。短いのでおやつにでもどうぞ。

あ、最後にアンケートを用意しているので、協力してやってもいいぜって方はポチッとお願いします。


ステンとマカロフの休日

「うーん……」

 

 S03地区の人形には、雨でダメにならないように宿舎が用意されている。

 スコーピオンやG41のような特殊な人形は隔離の意味合いもあって個室を宛てがわれているが、通常の人形達は数がそれなりに多いために、何体かで一括りにされる相部屋形式を採用していた。

 

 その相部屋の一室にある二段ベッドの下の方で、ステンMK-Ⅱはベッドに寝っ転がりながら悩んだような声を出していた。

 

「ステン?どうしたのよ、悩み事?」

 

「マカロフちゃん……うん。ちょっとね」

 

 上の方から身を乗り出して首だけを覗かせてきたマカロフにステンは目線をやった。

 上から凄まじい量の白い髪が重力に引かれて下に降り、毛玉みたいになっている。

 

 どうやって手入れをしているのかな。とか、手入れ大変そうだな。とか思いながらステンは言った。

 

「今日は非番なんだけど、何すれば良いのかなって」

 

「寝てればいいんじゃない?」

 

「勿体ない気がするんだよね〜。それにさ、食っちゃ寝してると人形でも体重(ウェイト)増えるっていうし」

 

 人形に体重の増減という概念があるのか、と思われるかもしれないが、人形が作られた時期によっては、そういう無駄な機能が搭載される事もある。

 

 軍用機として製造された試作機から始まった第二世代型の戦術人形たちは、一式量産型、二式量産型、三式量産型……という風に年月の経過と共に改良が重ねられているのだ。

 

 ……たまーに開発者のおふざけなのか、妙な機能が搭載される事もあったりするが。

 

 なので、実は同じ人形でも身長やバストサイズなんかが多少違う事がある。

 具体例を出すなら、まるで何かの意思が介在しているかのように小さい(何処とは言わないが)コルトSAAやMP5のような人形が、何処とは言わないが大きくなったのが確認されていた。

 

 余談だが、何処かが大きいSAAやMP5はシステムのバグだったらしく、ものの一ヶ月もしない内に修正されたので、大きいSAAやMP5はレア度が高い。

 それゆえ違法市場なんかでは、通常の個体の十倍近い値段で取引されているのだとか。

 

「じゃあ散歩でもすれば?」

 

「雨降ってるじゃん……」

 

「室内をよ。そうだっ」

 

 マカロフが首を引っ込めたかと思うと、次の瞬間には白い毛玉が地面に着地していた。

 部屋着のマカロフはステンの手を引っ張るように掴むと、こう言った。

 

「暇なら私に付き合ってよ」

 

「まあ、良いけど……どこ行くの?」

 

 特に断る理由も浮かばなかったステンは、部屋着のままマカロフと共に部屋を出て、廊下をまったり歩きだす。

 当然のように黒光りする銃が無ければ、それはよくある休日の一風景だった。

 

「そうねー……コンビニとか?」

 

「いや、とか?って聞かれても……」

 

 マカロフも何も考えていないのだろう。ただ適当にふらついて、見つけたところで時間を潰す。そんな感じのプランのようだ。

 

「本当に何も考えてないんだ……」

 

「それくらいが丁度いいわよ。私達は急ぎすぎてるんだから」

 

「急ぎすぎ?」

 

「そう。急ぎすぎ」

 

 マカロフは更に歩く速度を緩めた。それに釣られてステンも僅かに速度を落とす。

 

「普段の私達は、当然だけど時間が命の仕事をしているわよね。だから時間を無駄にしないように迅速に動く」

 

「そうだね」

 

「でも、こういう非番の時にまで急ぐ事はないと思わない?昔の人も言ってたわよ、近道は遠回りだって」

 

 ステンには、その言葉の意味が分からなかった。近道が遠回りって、それ近道じゃないじゃん。と思ったのだ。

 

「近いから近道なんじゃないの?」

 

「時間を短縮するって意味ではそうなのかもね。でも人生っていう長い旅路で見ると、それは遠回りなんじゃないかしら」

 

「意味分かんない」

 

「多分、周りを良く見て風景とかを楽しんで。ついでに観光地にお金を落としてねって事なんでしょ。

 そもそも今の言葉、旅行会社か何かの言葉だったし」

 

「なんて身もふたもない……」

 

 偉人の言葉かと思ったら、思った以上に俗的な場所からの言葉だった。

 ステンが何とも言えない顔でそう呟くと、マカロフは「でも多分、周囲を見ても言葉に釣られて来た人間の間抜け面しか見えないと思うけどね」と言って笑った。

 

「それにしても観光かぁ……今となっては消えた概念だね。何が楽しかったんだろ?」

 

「散財したい人間が、自分を納得させる言い訳に使っただけなんじゃないかしら。

 或いは、実際は何も見てないし、何も感じちゃいないけど、ただ行ったっていう事実で優越感を得たいがために生まれた概念かもしれないわ」

 

「私達みたいに記憶フォルダがある訳でもないもんね」

 

「まあどっちにしても、大した理由じゃないわよ。人間のやる事なんて昔からそうでしょ」

 

 わざわざ高い金を払って、他の大勢が集まるような場所に行って何をしたいのかという思いがマカロフにはある。

 以前、資料として残っていた、今は無い極東の観光地の映像を見たが、あまりの人の多さに映像越しですら辟易とした覚えがあった。

 

 あんまりにも人が多いと、もう観光しに来たのか人を見に来たのか分からなくなってしまいそうだ。当時の人間は、一体何を感じていたのだろう。

 

「観光の話はいいのよ。それより私が言いたいのは、ゆっくりしましょうってこと」

 

 ステンが一歩半ほど先を行く形でマカロフとステンが歩いていると、背後から何者かが走ってくる音が聞こえる。

 ドタドタと騒がしい音が二体分。何かあったかと振り返って見て、その音を出している人形に「うげっ」というような顔をした。

 

「どけどけーっ!」

 

 その声に反応してすぐさま二体が脇にどくと、通路の真ん中をスコーピオンがG41を引き連れて、先にあるT字路を真っ直ぐ走り去っていく。

 

 嵐のように一瞬で通り過ぎていったスコーピオンを見送りながら、マカロフは肩をすくめた。

 

「……休日に、あんな感じで急いでも仕方ないでしょう?」

 

「……うん」

 

 マカロフの言うように、休日に急いでも仕方ないのかもしれない。そう思ったステンは頷いて、マカロフと歩幅を合わせT字路に差しかかる。

 そこで二体は一旦立ち止まった。

 

「どっち行こうか」

 

「……このまま真っ直ぐ行って、あの二体と合流したら嫌よね。何を手伝わされるか分かったもんじゃないし」

 

「じゃあ曲がって……この先のコンビニにでも行く?」

 

「そうしましょ」

 

 スコーピオンを見るのは珍しいが、関わるとロクな目に遭わない事は学習済みだった。

 見なかったことにしたマカロフの言葉に頷いたステンは、スコーピオンが消えていった真っ直ぐの通路ではなく左に曲がる。

 

「そういえば、補給路が新しくなったから値段も一新されたらしいわよ」

 

「安い方にだよね?」

 

「当たり前じゃない」

 

 他の地区と比べても一等高ばちなコンビニの値段が下がったというのは、ステンのような下っぱ人形達にとって朗報だった。

 輸送費の関係で仕方ないとはいえ、コンビニに向かうのが躊躇われるくらいに値段が高かったのだ。

 

 たまに来るボーナスを血眼になって探さなければならない程度に下っぱの給料は安く、味気ないレーション以外の物を食べるには財布に相当な痛手を負わなければならないほどだった。

 その負担が軽くなると分かって喜ばない者は居ない。

 

「でも相変わらず飴玉は売り切れ、と」

 

「ナガンさんは何で、あんな飴玉が好きなんだろう……」

 

「私にも分からないけど、好みは人それぞれよ」

 

 二体は安かったからという理由で過去に一度だけ食べてみて、あまりの甘さに吐き出した事を思い出していた。

 しかも、ひとたび口に入れてしまえば、その後しばらくは何を食べて飲んでも甘ったるい後味がついてくるようになってしまう。

 

 あの時ほどレーションの味気なさに感謝した日は無かっただろう。まさか甘くないという事がどれほど素晴らしいことか思い知る日が来るとは思わなかった。

 また、余談だがそのせいで二体とも甘い物に苦手意識が芽生えてしまっている。

 

「パンとか食べてみようかな。マカロフちゃんは何にする?」

 

「私もパンにするわ」

 

 ぽけーっとしながら売り場を眺めて、何がいいかを考え込む。こうして並んでいるものを見ると、どれにしようかと悩んでしまうのは人間も人形も変わらないらしい。

 

「うむむ……こういうの悩むよね。どう、決まった?」

 

「少なくとも甘いのは却下かなって考えてるけど」

 

 そんな二体が目を付けたのは、代用肉を用いたハンバーガーみたいなパンだった。

 人工的に作り出した植物を原料にして、そこから肉に見えるように様々なものを付け足して作り出されたそれは、この時代で"肉"と呼べる物のスタンダードだ。

 

 動物から採れる本物の肉を知る者が食べても見分けのつかないほど精巧に似せることに成功した代用肉が、食用肉を完全に駆逐し、その市場ごと乗っ取って久しい。

 

「これにする」

 

「私も」

 

 物を選んだら次は会計だ。二体は早速レジの方に歩いていって、店番の姿を見て足を止めた。

 

「…………」

 

 どういう訳か、FALが店番をしていたのだ。

 ええ……?と困惑した声を出さなかったのは、ステンやマカロフにとって幸運だっただろう。もし言ってしまうと、何をされるか分からないのだから。

 

 下っぱ人形のステン達にとって、FALのような実力のある人形は憧れであり、同時に恐怖の対象として見られていた。

 だからFALが実はノリノリで店番をしていたとしても、その内面を知らない二体にとっては不気味に見えたのである。

 

「あのー……」

 

「やっと来たわね。ほとんど誰も来なかったから暇だったのよ」

 

 あんた達で五人目。と言いながら手際よくレジ業務を行うFALの前で二体は何とか震えを隠す。

 

 えっ、なんでなんで!?こういう仕事ってFALさんがやるもんじゃないでしょ!

 

 私に聞かないでよ!分かるわけないじゃない?!

 

 アイコンタクトで阿鼻叫喚になりながら、何とか代金をレジの上に出した。こういう時に手ブレなどが存在しない人形であって良かったとつくづく思う。

 

「はい、丁度ね……ところで」

 

「はいっ!?」

 

「その様子だと、今日は非番ね」

 

「そうです!」

 

 若干上ずった声を出してしまったステンに、FALは気にするでもなく話を続けた。

 

「そう。じゃあ休めるうちに休みなさいよ。そのうち休みたくても休めない時が来るから」

 

「はいっ!」

 

 それだけ言うと、FALは片手で追いやるような仕草を見せた。それに従ってステンとマカロフはコンビニから早歩き気味に離れていって、角を曲がってFALの視界から逃れた辺りで安堵の息を吐いた。

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「指揮官のドッキリとかなのかしら……だとしたら大成功よ、心臓があったら止まってたわ」

 

 何とかFALの機嫌を損ねないように戻れた事に安心しながら部屋で食べようと話している最中、ふと先ほどのFALの様子を思い出した。

 

 そして、こんな考えを抱く。なんというか、

 

「実は優しいのかな……?」

 

 そんなステンの声は、静かな廊下に消えた。

 





あったらいいな、こんな家具

【観光地の思い出】

かつてあった観光地をモチーフにしたもの。
美しい景色を見て現実を忘れようとするのは、まるで一時の夢を見るかのようだ。ただし、夢を見るにもお金は必要。頑張って稼ごう。


観光地の石畳

特別を求めて人は観光地に降り立つ。
でも特別を求めているはずの観光地で順路にそって歩くなんて、普段と何が違うのだろう?

マカロフ:この石畳は何回踏まれたのかしら
ステン:そりゃあ、いっぱいでしょ!


観光地の外観

見た目は古臭いが、その中にある文明的なレジを見ても、人々は何の関心も示さない。
それは人間が、普段から外面だけを見て生きている事の証明だ。

ステン:古いショーウィンドウの上に乗る最新式のレジって、なんかアンバランスじゃないかな
マカロフ:私たち人形まで続く、人間の楽をしたい衝動の表れね


観光案内所

日々、多くのトラブルが舞い込んでくる。
だけど従業員の疲労という最大の問題は、往々にして無視されやすい。

ステン:休みを……ください……
マカロフ:人が居なくなれば休めるわよ。さあ、銃を手に取って


観光地のご飯セット

冷房の効いた店内で、きゃっきゃとお喋りを楽しむのも観光の醍醐味だろう。
でもそのせいで、肝心要の味を楽しまない人が多い。

マカロフ:……これスプリングフィールドの料理の方が美味し──
ステン:しーっ!こういうのは観光地の雰囲気を味わってるんだから!


ガイドブックの乗った机

凄い数の付箋が付いている事から、隅々まで読み込んでいる事が分かる。
しかし、本当に見るべきものは、ここには記されていない。

マカロフ:観光名所を見たいだけなら、それこそこれを見るだけで良いじゃない。なんでわざわざ行くのかしら
ステン:写真と現物の違いを見てガッカリしたいから……とか?


長蛇の列

何か特定のものを見るために並ぶ人々。
この列そのものが、もう観光名所。

ステン:すっごい統率取れてる!この人達、軍隊上がりなの?
マカロフ:軍隊上がりの子供って何よ


屋台の群れ

人が集まると決まって現れるもの。
特別価格でご奉仕します!(安いとは言っていない)

ステン:……高くない?
マカロフ:でもここでしか手に入らない物もあるのよ。当たりが抜かれたくじを引くワクワク感とかね


木彫りの置物

買ってきた人のセンスを疑うけれど、貰い物なので反応と処分に困る置物。
これはE.L.I.Dをモチーフにしている。

マカロフ:どっかのカルト教団では、これを御神体にしてるらしいわよ
ステン:……その話も微妙に反応に困るね


写真立て

何かの思い出を色褪せぬように檻に閉じ込める人間のエゴの発露。
過ぎ去りし夢に縋る事しか出来ない人間が発明したとされている。

ステン:この風景写真には何の思い出があったのかな
マカロフ:ぼったくり価格や20分待ちのトイレとかじゃない?


お菓子の箱

もう中身は無いけれど、捨てるのは惜しい……。
そんな理由で保管されていた箱は、今となっては貴重な資料だ。

ステン:なんでヒヨコの形になんてしてたんだろう?
マカロフ:人間が持つ殺戮欲求を満たすため……とかだと納得いきそうよね。


人力車

昔に使われていたらしい移動手段。
伝統保存という名目で、多くの人間が文字通り馬車馬になって働いていた。

マカロフ:少なくとも、あの良く分からないグルグル回す奴より遥かに有意義に奴隷労働させられると思うわ
ステン:そういうものじゃないと思うんだけど……


お土産屋さんのキーホルダー

どこのお土産屋さんにも必ずといっていいほどある、刀を模したキーホルダー。
そこでしか買えない物なんて、実はそんなに無い。

マカロフ:あれも見た、これも見た、向こうの奴もさっき見たわね
ステン:売り場も似てるなんて……実はコピペしたとかじゃないよね?

この先どんな感じで進めましょうかね?

  • 既存キャラの掘り下げ
  • 新キャラを出す
  • 世界観とかを詳しく描写する

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。