No Answer   作:報酬全額前払い

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これは彼女なりの愛情表現。全ては一人の男のために。

バトル描写がガバガバなのは許してください。



毒持つ蠍の求愛行動

 効率的という言葉は、人形にとって縁深い単語である。

 

 人間たちが楽をするため、その労働を効率よくするために人形たちは産み出されたのだから、それは当然だ。

 

 そして人形にとって、効率的という言葉は最上級の褒め言葉である。

 なぜなら、それは人間に求められた役割を完璧に果たす事が出来るという証明だから。

 

 効率的な業務、効率的な作業、効率的な殺人。

 

 あらゆるものを卒なく、効率よくこなす。それは全ての人形にとって憧れのようなものだった。

 そういう意味では、今ステン達の前で戦っているネゲヴは、観客全員の憧れとなって然るべきだ。

 

 だけど、これは何かが違う。

 

 効率的ではある。しかし、それ以外の何も存在しない。

 

 人形を人形たらしめる、ほんの僅かな人間性すら、そこには無かった。

 

 あまりにも効率的で、そして無機質すぎるそれは、人形に本能的な恐怖というものを抱かせるのに充分すぎた。

 ともすれば、何処かの倉庫に名前を残して噂になっているという猟奇的殺人犯の方が、非効率的なだけ人間味に溢れているとさえ錯覚できるほどに。

 

 辛うじて雰囲気に呑まれないように耐えながら、SASSは周囲を見渡した。

 

 先程まで和気あいあいとしていた空気は一気にドン底へと沈み、今にも硬質化して物理的に押し潰されそうである。

 こちらに向けられていない筈なのに、ネゲヴから発せられている圧力の余波だけで殆どが動けない。

 

 横ではマカロフが蹲って、その光景から必死に目を逸らそうとしていた。

 ステンはぺたりと地面に座って動かない。腰が抜けたのか、それとも意識が落ちてしまったのか。ここからでは判断がつかない。

 

 それ以外の多数も、似たようなものだった。

 怯えているのだ。S03という肥溜めに落ちるほどに様々な悪事を働いた札付きの悪たちが、柄にもなく。

 

 手の込んだ火葬場へと変貌した演習場に居るのは、一人と七体。

 一人は言うまでもなく指揮官だ。そして七体のうちの二体は、ネゲヴとM1895である。

 

 それらと相対するはスコーピオン。

 

 S03地区の中でもトップクラスの実力を持ち、数少ない5Linkを成し遂げた人形だ。

 狂った趣味を持っているものの、その実力は誰もが認めている。

 

 そんな、指揮官の持ち物と呼べる彼女が、事もあろうに指揮官に銃口を向けていた。

 

 ネゲヴとスコーピオン。あらゆる意味で対照的な二体が向かい合っていた。

 

 

 

 スコーピオンの暴走は今回が初めてではない。

 以前から……それこそ指揮官とネゲヴが初めてS03にやって来た時から、これは続いていた。

 

「今日は長くなりそうだな」

 

 ボヤくように言った指揮官の言葉が、やけに演習場内に響く。

 その声色はどこまでも普段通りで、今も命を狙われている人間が発しているとは思えない。それが人形達の恐怖を更に煽る。

 

 しかし彼からすれば、これは日常のワンシーンだ。そしてそれは横に一応立っているM1895と、指揮官の前に立つネゲヴにとってもそうだった。

 

「長くなりそうじゃのう……そうだ。これで思い出したが、わしらが挨拶に行ったS09の指揮官がテロられたらしいぞ」

 

 この状況で思い出したようで、M1895は手にしたリボルバーをクルクル回しながら指揮官にそんな事を言った。

 こちらもまた、気負った様子など無い。

 

「そうなのか?」

 

「知る人は知るくらいの話じゃが、まあまあ騒がしいみたいじゃな」

 

 ふーん。と気のない返事を返しながら、しかし首は僅かに傾く。

 その心の内を察したM1895は、指揮官にツッコミを入れるように言った。

 

「普通、指揮官が襲われたとなったら大事になるんじゃぞ」

 

「あー……そっか。指揮官がテロられるって大事になるんだな」

 

 目の前の鉄火場が日常の彼には、どうにもその辺の感覚が薄い。それは自分の人形にすら命を狙われる環境に慣れすぎてしまったが故の弊害と言えた。

 

「……まあ、無理もないかの。この状況を経験し続けて、そう思わん方が難しい」

 

「騒がれるほどか?なんて思うのは向こうに失礼かな」

 

「面と向かって言うのだけは止めておくのじゃぞ」

 

「俺がそんな考えなしに見えるか?言わんよ」

 

 愛銃のワルサーPPKを二丁持ちしているネゲヴに目線をやる。

 彼女は油断なく、廃墟の中の市街戦を想定して作られた障害物に目を配っていた。

 

「まあ、それは良いんだ。今はそれより、こっちを片付けないといけないだろ」

 

「まあの」

 

 M1895はクルクル回していたリボルバーを、傍から見れば適当に、しかし彼女にすれば正確に向けて発砲した。

 

 銃口から飛び出した一発の弾丸は、障害物の僅かな突起に当たって跳ねた。

 そうして本来なら有り得ぬ鋭角軌道を描いた弾丸は、的確に狙った獲物を撃ち抜く事に成功する。

 

「ははっ、ナガンもやるぅ!」

 

 その直後、スコーピオンが飛び出してきた。左手に握られた銃の方のスコーピオンには、銃痕が一つついていた。

 

 跳弾を活かして障害物に隠れていたスコーピオンの銃を撃ち抜いたのだと気付いた者は少なかったが、気付けた者は等しく震え上がる。

 

 それは絶技という表現すら生温く、神業という表現すら不当かもしれない。

 

「ネゲヴ」

 

「ええ」

 

 スコーピオンが飛び出してきたのは、彼女の歩幅にして30歩も歩けば指揮官に触れられるような至近距離。

 つまりサブマシンガンの射程内であるが、それは同時にハンドガンの射程内でもある。

 

 正面を見据えたまま、右手のPPKをスコーピオンに向けて撃った。本当にノールックなのか疑うほど正確に弾丸が放たれ、スコーピオンの頭を吹き飛ばさんと迫る。

 

 しかし、それをスコーピオンは僅かに頭部を動かして回避した。

 あと数ミリでもズレればザクロのように弾けてしまうというのに、その表情に恐怖は見られない。

 

 掠った場所から垂れる擬似血液が沸騰しているような錯覚を覚えながら、スコーピオンは引き金を引いた。

 

 一発でも当たれば人間も人形も区別無く壊してしまう鉄の弾が指揮官とM1895に迫る。

 

「危ないのう。分かっていた事じゃが、やはり本気で殺す気か」

 

 だがそれらは、一発とて指揮官に直撃しなかった。ならばM1895が身を呈して守ったのか……というと、そうでもない。

 

 銃弾に銃弾を当てる銃弾撃ち(ビリヤード)という技能で、命中しそうな弾だけを弾いたのだ。

 

「あらら、両方やられちゃったか」

 

 そして、銃身に弾丸を撃ち込まれて使い物にならなくなった右手のスコーピオンを、スコーピオンは投げ捨てた。

 

 銃を破壊し、弾丸撃ちで指揮官を守る。そのために鳴った銃声は五回。しかし放たれた弾丸は十発。

 断続的に響いた銃声が止んだ時には、M1895の空いていた片手にもリボルバーが握られていた。

 

「なら──」

 

「まず一体」

 

 スコーピオンの言葉に被せるようにネゲヴが言い放って、両腕を吹き飛ばした直後に頭を撃ち抜いた。

 頭を撃ち抜かれ、スコーピオンの全身から力が抜けて仰向けに倒れる。それには目もくれず、残りが来るのを待つ。

 

 すると今度は、障害物を飛び越えるように焼夷手榴弾が投げ込まれた。その数は四つ。

 

 迎撃のために銃声が響き、一拍おいて焔の華が四つ咲いた。天井を焦がし、破片が雨のように降り注ぐ中で、スコーピオンが飛び出してくる。

 

「今度は二体か。戦力の逐次投入は悪手だと分かっておる筈だろうに、何を考えておるやら」

 

「どうでもいい。潰すわ」

 

 どこから来ようが潰す。指一本たりとも指揮官には触れさせない。

 その覚悟を胸に、サブマシンガン四丁による弾幕の中をネゲヴは突撃した。

 

 当然ながら、距離が縮まれば縮まるほど被弾の確率は上がっていく。しかしそれは向こうとて同じ事だ。

 そうなれば普通、物を言うのは銃撃の数になる。だがこのネゲヴに限って、それは当てはまらない。

 

 このネゲヴは至近距離戦闘が凄まじく強いのだ。そして至近距離戦闘のスペシャリストであるショットガンすら圧倒するネゲヴに寄られるという事は、大抵の場合死を意味する。

 

 引き金を引くよりも早く弾丸を届かせるような早撃ちに加え、M1895とほぼ同等の的確に狙った場所を撃ち抜く精度がある。そんなネゲヴに距離を詰められるということは、それだけ即死の危険が高まるということだ。

 

 そして銃撃の精度において、スコーピオンはネゲヴに絶対に勝てない。

 銃種の違いもそうだが、ボディの元々の安定性能などがネゲヴはケタ違いに高い。例え同じハンドガンを持ったとしても勝てないだろう。

 

「「そう来るだろうと思った!」」

 

「なに?」

 

 だからスコーピオンは、ネゲヴが距離を詰めてくるだろうことは分かっていた。

 効率的な撃破を望むなら、至近距離戦に持ち込むのが最善だとスコーピオンも判断していたからだ。

 

 尤も、それには自身が破損する危険を考えなければ、という枕詞が付くが。

 

 とにかく、ネゲヴが距離を詰めてくる事は承知している。そして、それを切り抜ける手段も用意してある。

 

「「それっ!」」

 

 一体が一つ、合計で二つのグレネードが投げられた。

 ネゲヴは、そしてM1895は、高速で投げられたそれの形状を見て目を見開いた。

 

「これは──」

 

「スタングレネードか!?」

 

 ネゲヴが強力な人形である事をスコーピオンは認めている。しかし、その後ろに立つ指揮官は人間であり、脆弱だ。

 

 スコーピオンの勝利条件はネゲヴに勝つことではなく、指揮官を出来る限り生かして苦しめること。そして殺すこと。

 グーパン一発で並大抵のショットガンの装甲を抜いてしまうゴリラめいた腕力の持ち主とやりあう必要は無いのだ。

 

「ネゲヴが抜かれたか」

 

「「覚悟ー!」」

 

 人形用に調整されたスタングレネードを至近距離で当てられれば、並の人形であればシステムが強制的に落とされて気絶してしまう。

 それを今回は、万全を期すために二発も当てた。気絶までいかなくとも、復旧には時間がかかるだろう。スコーピオンは勝ちを確信する。

 

「くっ!」

 

 距離があったためにスタングレネードの影響から早期に回復したM1895が両手のリボルバーを構える。

 しかしその時には、もうかなり距離を詰められていた。

 

 M1895は強いが、どこまでいってもリボルバーだ。どう頑張ったって吐き出す弾の数はサブマシンガンに敵わない。

 それを補って余りある早撃ちの技能を持ってはいるが、早撃ちで銃やボディが撃ち抜かれる事を考えても、それまでの間の物量で圧殺できると試算結果は出ていた。

 

(狩った!)

 

 スコーピオンは勝ちを確信しながら引き金を引く指に力を込める。

 

 だが

 

「捕まえた」

 

 何者かによって首を背後から掴まれた。……いや、何者かという表現は不適切か。

 

「なんっ……!?」

 

 スコーピオンの背後にいる人形など、ネゲヴしかいないのだから。

 

 身体が宙に浮いた感覚がして、次の瞬間には視界が回転し、廃墟を模した障害物に叩きつけられる。

 

 後頭部から思いっきり叩きつけられたスコーピオンは逆さまになった視界に笑った。

 

「はは……!やっぱり、あんた規格外だよネゲヴ」

 

 しかし、それでこそだ。求める者が厳重に守られているからこそ、それを乗り越えた先に見られるものは、きっとどんなものより輝いて見えるはず。

 

 その言葉に答えず二丁のPPKから的確に弾丸が吐き出される。だがスコーピオンとて、やられてやる気はない。足で障害物を蹴飛ばし、狙われた箇所のみを外すように避ける。

 胴体と頭があった場所に残った弾痕には目もくれず、そのまま着地し、愚直に前へ走り出した。

 

 気が向かない小細工は使い切った。ネゲヴの復帰速度は予想外だったが、だからといって作戦が狂ったわけではない。ただ真っ直ぐ突き進み、障害を突破するのみ。

 

「…………」

 

 ネゲヴは向かってくる二体のスコーピオンを見て、左のPPKの引き金を引いた。

 その動きを辛うじて捉えたスコーピオンが地面に倒れかねないほど姿勢を下げると、発砲音の後に()()()()()弾丸が流れていく。

 

 そして、無理に姿勢を下げて出来た隙を見逃すほどネゲヴは甘くない。

 咄嗟の判断でスコーピオンが勢いよく発砲した。それが隙を誤魔化すためのものであることは誰の目から見ても明らかだが、そこは5Linkの猛者。

 隙を作らされた事を逆用してネゲヴを亡き者にしようと、しっかり狙いを定めている。

 

 体勢を崩されているにも関わらず、その精度は先程までと遜色ない。

 

 引き金を引くのは同時。弾が飛び出すのも同時。飛び出した弾丸同士が僅か数ミリの空間を隔てて交差し、狙い定めた場所へと到達する。

 

 やけにゆっくりと感じられる時間の中、ネゲヴはバク宙を繰り出した。

 両足が地面を離れ、身体が宙に浮き、足と頭の位置が反転した。両足の間を弾丸が通り過ぎる。

 

 その勢いのまま地面と水平になる。先程の一瞬、頭があった空間を弾丸が穿つ。

 

 それと同じ回避を行う古い映像作品を見たことがある者は、ネゲヴの姿とそれを重ね合わせた。

 

 スコーピオンが一体ネゲヴの凶弾に倒れる前で、ネゲヴは無傷で着地に成功する。

 

 ネゲヴが二丁拳銃で行った一人クロスファイアと呼ぶべきそれは、当然ながら非常識の塊のような技能である。

 そしてその後の映像作品のような回避もまた、現実であると認めるにはあまりに非現実的すぎた。

 

「また跳弾……!?」

 

「出来て当然、みたいな顔でやっちゃってまあ……」

 

 ざわざわと観客の動揺が大きくなる。

 いつの間にか見に来ていたFALは、さも当然のように跳弾で横からの射線を作ったネゲヴの非常識さに呆れかえった。

 ダミーを使ってやるような事を単騎で済ますなんて、どうかしてるとしか思えない。

 

「ナガン」

 

「分かっとる」

 

 もう一体残っている、二丁持ちのスコーピオンから吐き出された鉛玉を回避しながらのネゲヴの声に頷き、ナガンは後ろを見た。障害物に隠れて近付いてきていることは分かっていた。

 

 リボルバーが再び火を噴く。今度は炙り出すように、わざと頭を狙って跳弾させた。

 さっき同じことをした時に銃を狙ったのは、こちらが気付いている事を気取らせないためだ。スコーピオンは無能ではないから、頭に狙いを定めれば確実に殺気として感じ取られるだろう。

 

 しかし、もう隠す必要は無い。向こうも間違いなく気を張っているから、もう銃を狙っても気付かれるに違いなかった。

 

 事務的に狙うネゲヴとは異なる、殺意を一点に濃縮した弾丸がパイプの曲面を介して曲がる。

 まるで追い立てられるように飛び出してきたスコーピオンは、ツインテールにした髪が片方消えていた。

 

 飛び出してきたのは、指揮官から50歩の地点。

 

 近いように思えるし、実際普通の人形同士の争いでは近い。しかしこの二体を相手にしている時には、その近いはずの距離すら遠くなる。

 一歩進むごとに代償を要求してくる二体の人形は、ほんの20歩も進めば確実に命を持っていく。

 

「ここで押し切る……!」

 

 だからスコーピオンは、自らのリミッターを破壊した。

 一歩の歩幅を大きく伸ばして肉薄する。その早さでもって狙いを定める速度を遅くするのだ。

 

 電脳が焼け付く感覚と同時に、全身が燃え盛っているのではないかと思えるほど熱くなる。

 今度は錯覚などではない。現に、スコーピオンの擬似血液は沸騰していた。それは身体能力を向上させるが、同時に内部部品を傷付けて自らを殺す諸刃の剣。これを使えば長くは持たない。

 

 そうまでして殺したいのか?と多くの者は問うだろう。なぜ指揮官に牙を向くのか、理解できないとも言うだろう。

 

 そうまでして殺したいのだ。と彼女は答えるだろう。

 だってこれが、あたしに出来る最高の愛情表現だから。と、にこやかな笑みと共に答えるだろう。

 

 薬指に意識を一欠片だけ向ける。存在しないはずの指輪が、そこにある気がしていた。

 

 何処かで誰かが、スコーピオンを呼んでいる。

この先どんな感じで進めましょうかね?

  • 既存キャラの掘り下げ
  • 新キャラを出す
  • 世界観とかを詳しく描写する
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