No Answer   作:報酬全額前払い

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ネタに困ったら過去編やればいいって、ばっちゃが言ってた。なので今回から過去編です。
今回からちょっとずつ過激になっていく筈なので、そこは注意して下さいね。



00 Remember ~on your memory~ ①

 ………………

 …………

 ……

 

 ふと目を覚ますと、俺は廃屋一歩手前なボロボロの家が立ち並ぶ小道の真ん中に立っていた。

 

 ……は?いやいやいや、一体どういう事だよ。というか、ネゲヴはどこだ?

 

 そう声を出そうと口を動かすが、しかしどういう理由か声が出ない。

 突拍子もない事態に混乱しながら、俺は落ち着くためにさっきまでの行動を思い返す事にした。その行動の中に、現在の状況に陥った原因があるのではないかと考えたからだ。

 

 えっと確か……軍の連中がやっと報酬に関してOKサインを出したから、明日どこに向かうかを決めて、そのままネゲヴと布団に入ったんだったか。

 布団に入って早々に疲れが襲ってきて、お休みの言葉も程々に眠ったような気がするから…………

 

 ……もしかして、これは俺の夢なのか?

 

 こんなにハッキリと夢を見る事なんて初めてだから混乱したが、さっきまでの行動で考えるとそれが一番辻褄が合う。

 その考えに至ってから周囲を見れば、この村が俺の見慣れた場所である事に気付いた。なんで分からなかったのか疑問に思えるくらいに印象に残っている場所じゃないか。

 

 そしてこの光景を見ると、これが夢なのだという確信を持てる。

 その考えが正しいと分かったのは、小道の向こうから駆けてきた一人の子供を見た時だった。

 

 あれは……

 

 角を曲がり、こっちに向かって走ってくる一人の子供。息を切らしながら、でもその目は()()輝いていた。

 

 それが誰なのかを知らない訳がないし、忘れる筈もない。なんたって、あの希望に満ち溢れた目をした子供は、幼い頃の俺なのだから。

 

 ──ただいまーっ!

 

 幼い頃の俺はボロ板を繋いだだけの扉を開けて家の中に入っていく。閉じられた扉を見た俺は、それに向けて躊躇いながら歩き出した。

 俺の記憶が正しいのなら、この向こうに生きている父さんと母さんの姿がある。写真も何も無い、記憶の中だけにしかなかった筈の姿を見る事が出来る。

 

 俺の指先は震えていた。やがて扉に触れ、まるで幻か何かのようにすり抜けていく。しょせん記憶という事なのか、実体が無いようだ。

 俺は勇気を出して、壁をすり抜けて家の中に飛び込んだ。

 

 その日は何事もなく、幼い頃の俺は父さんと母さんと一緒に家にいた。もう日が暮れていたし、ちょうど夕食の時間だったから。

 飛び込んだ俺が見たのは狭いテーブルを三人で囲んで一家団欒。今みたいにちゃんとした建造物じゃないから、すきま風も吹き込んでくるし寒かったんだけど……でも心は暖かかった。

 

 ──美味しい?

 

 ──うん!お母さんの作るスープが一番好き!

 

 ──ふふっ良かった。頑張って作ったかいがあったわ

 

 その時のメニューを今でも覚えてる。外側を使ったのか噛み切るのも苦労するくらい硬い野菜の入った、大して味のしない野菜のスープと少しのパン。それだけ。

 質素を通り越して貧乏と呼べる食事だったけど、あの時の俺はそれに満足していた。色んな食事を経験した今でも、多分あの料理に勝る満足感は得られないだろう。母さん以上の料理を作れる奴なんて、今まで生きていても俺は一人しか知らない。

 

 ──よしっ、出来た!お父さん出来たよ!

 

 ──どれどれー?おっ、ちゃんと出来てるじゃないか。偉いぞ〜

 

 父さんは昔、どこかの会社で働いていたらしい。どんな会社かは教えてくれなかったけど、恐らくPMCだったんだろうな。父さんの手はゴツゴツとしていて……今にして思えば、どう考えても普通の会社でなるような手じゃなかったから。

 母さんとは会社の仕事で会ったって言ってたから、きっと戦場で見つけたんだろうさ。

 

 ──えへへ。これくらいなららくしょーだよ!

 

 ──おっ、言ったな?じゃあ次は、これをやって貰おうか!

 

 俺が小さい頃から、父さんはやけに熱心に読み書きと簡単な計算を仕込んでいた。

 当時はゴツゴツとした父さんの手で撫でられるのが嬉しくて、読み書きや計算に夢中で取り組んだものだけど……その意図は今になれば分かる。

 

 父さんはきっと、読み書きや簡単な計算ができるだけで就ける仕事の数が大きく増加する事を知っていたんだ。だから不測の事態に備えて、予め俺に仕込んでおいたんだと思う。

 この後、読み書きや計算が出来たから俺は何とか生き延びられたのだから、その予見は正しかった事になるんだが…………正直、外れて欲しかった。

 

 思わず浮かんだ涙は嬉しさから流れたのか、それとも悲しいから流れたのか。俺自身にもそれは分からない。

 

 そんな俺が生まれ、住んでいたのは、山間部に位置する貧乏で小さな村落だった。今はもう存在しない場所だ。

 どの家も必死に働いて国の税金を支払うので手一杯。他人を助ける余裕なんて無かっただろう。それなのに、隣人同士で笑い合えるような善い人達ばっかりだった。

 助け合って、手を取り合って……あんな人達ばかりなら、世界はもう少しマシになってるんだろうなって、今は思ってる。

 

 まあ兎に角、小さかった俺は明日も当たり前に来るもんだと信じていた。明日は何をしよう、何を食べられるかな、なんて感じの呑気な考えさえ持ってた。

 

 でもさ、こういう幸せって長くは続かないんだよ。終わりと始まりは唐突に、そして理不尽に訪れたんだ。

 

 ──…………お父さん?どうしたの?

 

 ──なんでもないよ。きっと狼が出たんだろう

 

 場面がおもむろに切り替わる。

 

 夜中に外が騒がしくなって、それに幼い頃の俺は起こされた。俺が起きた事に気づいた父さんと母さんは、また俺を寝かしつけようと近付いてきて、布団の方を指さした。

 

 でも運良く、いや悪くか?銃声が何発も響いた。明らかに狼への対応じゃなかったことは、小さい俺でも分かった。

 

 そして、それを聞いた父さんと母さんは血相を変えた。母さんがいきなり幼い頃の俺の腕を思いっきり掴んで洋服タンスの前まで連れていくと、そこに俺を押し込んだ。

 どういう訳か、傍に立って見ていただけの俺も洋服タンスの中に押し込まれた。

 

 ──レンはここに隠れてなさい!

 

 ──いいか?父さん達が迎えに来るまで、絶対に外に出るなよ!……大丈夫、すぐ戻るさ

 

 幼い頃の俺は訳も分からないままに、その言葉に頷いた。最後に父さんが俺を安心させるためにフッと笑って、タンスが閉められた。

 それが最期の言葉だった。

 

 …………。

 

 ここで俺は、もしかすると外を見る事が出来たのかもしれない。物を透過することが出来る今なら、襲われる事もないだろう。

 だけど俺は動けなかった。この時に感じた恐怖が鮮明に蘇ってきて一歩も動くことが出来なかったのだ。

 カタカタと震えていた幼い俺を、俺はただ見ている事しか出来なかった。

 

 当時の俺は、村が何に襲われたのかをまだ知らなかった。狼のような野生動物ではないのは確かだと分かっていたが、では何なのかと問われると返答に詰まっていた。

 でも指揮官になってから分かった。正規軍の抑え込みから逃れたはぐれE.L.I.Dが村落を強襲して壊滅させるだなんて、当時はよくある話だったらしい。

 

 ──……お父さん?お母さん?

 

 気が付いたら寝ていた俺が洋服タンスから出たのは、夜が明けきった頃だった。

 俺は先ず壊されていた家の中を探した。そして次に、父さん達が外に出た事を思い出して外に出ていった。

 

 ──え…………?

 

 そして、言葉にするのも憚られるような惨劇を目の当たりにした。

 全員死んでたんだよ。誰が誰なのかも分からなくなるくらい酷くやられてた。

 

 俺はその場で吐いて、ボロボロ涙を流して泣いた。父さんも母さんも死んだんだって何となく分かってた。

 しばらく泣いていたのに誰も心配して見に来ようとしなかった事からも、この村落の人が殺し尽くされたという事実を窺い知る事ができる。

 当時はそれに気付かなかったけど、こうして客観視できる今になって、それを突きつけられた。薄々と気付いてはいたことだけど、こうして突きつけられると辛いものがあるな。

 

 

 ……また場面が切り替わる。

 

 今度は、それから暫く……大体一年か二年くらいが経った俺の姿が現れた。

 現れた俺は、盗賊団の一員となって悪行の限りを尽くしていた頃の姿だった。

 

 ──ま、待ってくれ!頼む、それを持っていくのだけは止め

 

 銃声が響き、言葉を途中で途切れさせる。倒れた男に銃を向けていたのは、今みたいに目から輝きが無くなった俺だった。

 

 ──あなたーっ!

 

 その男の妻が叫ぶ。俺が無表情でそいつにも銃を向けると、後ろから伸びた手が、その銃を下に下げた。

 

 ──そいつには撃つな。貴重な商品だ

 

 ──……はい

 

 ──よーし、積荷と女子供を連れて行くぞ。お前は積荷だ、行け

 

 無精髭を生やした中年男の指示に従って、俺のような子供から大人まで、様々な年齢の男達がトラックの荷台に載った積荷を別のトラックに移し替える作業を始める。

 

 ──リーダー!売っぱらっちまう前に、この女を使っても構いませんかねぇ!?

 

 ──心配しなくても、連れ帰ったら皆に回してやる。ただ壊すなよ。壊すと値段がクソみたいに安くなっちまう

 

 ──っっしゃ!そうと決まれば、さっさと運ぶぞ!

 

 その横で、何人かが女をひん剥いていた。猿轡を噛まされた女と子供は、泣きながらバタバタもがいて逃げようと無駄な抵抗を繰り返している。

 それが鬱陶しかったのか男が殴ると、二人は大人しくなって運ばれていった。

 

 ──俺、こっちのガキとヤらしてくれませんかね?そっちのババァには興味ないんで

 

 ──うっわ、出たよぺドフィリア

 

 ──お前らには分かんないかなぁ。こういうガキにぶち込むのが最高なのに

 

 秩序もクソも無い。まるで動物みたいに下品な会話と行為だが、これが世界の各地で見られる底辺層のありふれた日常でもあった。昔から今まで、これは変わっちゃいない。

 

 この世界は普通に生きるのも過酷だが、親も金もコネも無い奴には特に優しくない。手段を選ばずに何でもやらないと生き残る資格すら与えられないし、そこから長生きできるかは自分の力量と運次第だ。

 

 だから何でもやった。盗みや殺しは当然として、薬の密売とか、人身売買に関わったりとか……大体の悪い事はやったんじゃないかな。

 ああ、男に身体を売るようになったのも、この頃からだったっけ。

 

 まあそれは別にどうでもいい。重要な事じゃないし、面白くもない話だ。

 

 盗賊団での暮らしは悪かったけど、でも最悪ではなかった。少なくとも衣食住は保証されるし、命の危険なんて何処に居ても転がっているものだから今更騒ぐほどのことでもない。

 

 ──ふぅーっ……

 

 また場面が切り替わる。今度はさっき襲った後の夜のようだ。

 拳銃を片手にタバコを咥える俺の姿は、嫌煙家の俺しか知らないネゲヴが見たら目を丸くするに違いない。

 

 この時の俺は半分くらい自暴自棄になっていたから、大人に混じって煙草も吸っていたし、酒だって飲んだし、女だって抱いた。身体に悪そうな事は殆どやった。

 死ぬならさっさと死にたい。早く父さんや母さんのところに行きたいと思っていたからだけど、当時の俺にとっては不幸なことに死ぬ事はなかったのだ。

 

 ──よしお前ら、今回のは大物だぞ。なんと人形の輸送車だ

 

 今度はすぐに暗転した。

 最初に遠くから木霊するように聞こえてきたリーダーの言葉が普通に聞こえるようになった時、タバコを咥えていた俺の姿は無く、代わりにねぐらにしていた場所に強盗団の全てのメンバーが集まっていたシーンに変わっていた。

 

 今でこそ人形は美少女や美女の見た目をしているが、当時の人形って言ったら、今でいうところの第一世代型自律人形。つまり色気もへったくれも無い。

 

 しかし、今も昔も人形は高値が付く。もし人形を取っ捕まえて、それを闇市に売りに行けば大金が手に入るのだ。

 そうなりゃ、その日は皆で宴会だ。久々に現れた大物に、場の緊張が高まっていく。

 

 そうして飛び出した俺達は、途中まで順調だった。

 どうでもいいが、俺は先鋒を担当していた。自暴自棄になってた当時の俺は、死ぬ可能性が高い場所に積極的に立つようになっていた。

 

 人形の配備数は、今のように人間を各所から駆逐するほどではなかった当時は、まだ人間同士の白兵戦が主流だった。

 だから今だったら容易く蹴散らされて終わりの戦力しかなかった俺たちでも、奇襲などで対等に戦う事が出来た。

 

 ──……あれ?

 

 状況がこちらに傾いて来た時、背後から凄い数の銃声が響き出した。

 最初は別の組織に襲われたのかと思っていたが、次々と消えていく銃声と反比例する悲鳴に、何か変だと思いながら戦っていた。

 

 そうしていると、また奴が現れた。E.L.I.Dだ。

 

 俺は直感で理解した。こいつが父さんや母さんだけでなく、村を潰した犯人なんだって。

 

 ──エ、E.L.I.Dだと!?

 

 ──なんでこんなところに……!

 

 人形輸送車の男達は、もはや俺達を見てなどいなかった。それよりもE.L.I.Dの方が脅威度としては大きいと判断していたのだろう。

 

 ──逃げるぞ!

 

 ──逃げるっていったって、車は足回りが完全にやられちまってる!

 

 ──だったら走ってだ!強盗団の奴らが応戦してる内に距離を稼ぐんだよ!

 

 男達はそんな会話と共に逃げていく。俺の背後から迫ってくるE.L.I.Dの方では、この時も仲間が必死に抵抗してE.L.I.Dを殺そうとしていた。

 

 ここで本当なら、俺も手助けするべきだったんだろう。戦わなければ、昨日まで一緒に笑っていた仲間が死んでしまう。父さんと母さんの時のように。更に言うなら、ここで死ねたはずなんだ。

 だけど、また動けなかった。その圧倒的な力を前にした俺の頭を支配したのは、逃げるという一点のみ。

 

 ここで完全に心が折れたんだな。勝つとか敵討ちとか、そういう小さい理由はどっかに吹っ飛んで消えていた。

 ただただ圧倒的な力に怯えて、そこから逃げ出そうと一目散に逃げていく俺の後ろ姿は、S03地区で良く見る住民の姿とまるっきり一緒だ。

 

 ──……ごめん、なさいっ

 

 そうやって逃げていくにつれて遠ざかる銃声と悲鳴に涙を流しながら、俺はごめんなさいと泣き続けて暗闇に消えていった。

 

 

 …………今度は街の片隅で蹲り、ボロ布を着て辛うじて日々を凌いでいた姿が現れた。S03からはそれなりに遠いが、今もある街だ。

 俺を見下ろす俺を通行人が貫通していく。自分が立体映像にでもなったかのような感覚を覚えつつ、夜の闇に消えかけている目の前の小さな存在を見つめていた。

 

 ──……

 

 この時の俺は、背後から迫ってくる何者かの足音に怯えっぱなしだった。毎日のように悪夢を見て、飛び起きてはガタガタと震える日々。

 そんな日々から解放されたいと願いながらも、ここで自殺という選択肢を取れなかったのは、単に俺が弱いからだ。さっさと死にたいと思っているクセに、いざ死ねるところに来たら震え上がって生きようとする。さっきのE.L.I.Dの時が、その最たる例だろう。

 そしてそれは、今も昔も変わっていない。今は強がって"死ねる時に死ぬ"なんて宣っているけど、いざその時になったら、また無様に生き延びようとするに違いない。

 

 ──こんな歓楽街の片隅に男なんて珍しいな

 

 俺が日銭を稼いでいたのは、街の片隅にある歓楽街の更に片隅。端っこも端っこの殆ど人の来ない場所だった。

 歓楽街とは言っているものの、ようは売春窟を言い換えただけの場所である。そこで日銭を稼いでいたという事は、つまりそういう事だ。

 

 そんな場所にいた俺は、掛けられた声に反応して顔を上げた。そこに居たのは、俺より五歳は歳上であろう、身なりの整った男であった。

 

 ──売ってるか?

 

 俺は無言で頷いた。

 これが今の地位に辿り着けるくらいの、俺の人生最大の転機であったなんて、当時の俺は知る由もない。

 

 

 

「……ン?レン!」

 

「んぅ……?」

 

 耳元でうるさく聞こえた声に目を覚ます。寝起きでしょぼしょぼする目を擦りながら見れば、何やら不安そうなネゲヴの顔が近くにあった。

 

「どうした……?」

 

「こっちのセリフよ。私が起きたら、レンが何でか寝ながら泣いてるし……魘されもしてたわよ」

 

「俺が……泣いてる?」

 

 目元に触れてみると、確かに涙が流れていた。そんな俺の様子が明らかに変だったからだろう。ネゲヴは片手を俺の額に当てながら心配そうに覗き込んでくる。

 

「どうしちゃったの。何か嫌な夢でも見た?」

 

「……分からん。でも」

 

 そこで言葉を切って、胸の内に残っていた感情をそのまま吐き出した。

 

「なんか、懐かしい感じだった」

 

 今日、また俺たちはS03を離れる。そして軍の連中と共に、とある廃墟へと立ち入る。

 

 そこが、今の俺になる切っ掛けとなった場所。

 ネゲヴと出会った始まりの場所。

 

 懐かしさを覚える夢を見たのは、そこに向かうからかもしれなかった。

この先どんな感じで進めましょうかね?

  • 既存キャラの掘り下げ
  • 新キャラを出す
  • 世界観とかを詳しく描写する
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