No Answer 作:報酬全額前払い
次かその次くらいで終わらせたい
反応は二つに分かれた。
いきなり銃を取り出したことに驚いて逃げ出す、本当に偶然訪れていた人間たち。
そして気付かれたことを悟り、戦闘態勢に入る人間たち。その様子に慌てたようなものは見当たらず、明らかに手慣れているのが見て取れた。
前者は極小数で、後者が殆どだ。
「ふむ。慌てる様子も無しとは、慣れておるな」
「苦労しそうね。ああイヤだイヤだ」
獲物なんだから手間かけさせないで殺されなさいよ。なんて理不尽なことを要求しながら、開戦の狼煙として殺傷榴弾を一発叩き込む。
「派手にやるのう」
「イイじゃない。景気よくいきましょ」
弾け飛んだ人体を見ながら、M1895とFALは近くに放置された屋台に向かって走り出した。
すると一瞬遅れて、彼女達が走った後の地面に無数の弾が着弾する。
「ちっ、思ったより数が多い……ちょっとナガン、さっさと数減らしなさいよ」
「減らしておるわい」
両手に握られたリボルバーから響く銃声は1回。しかし放たれる弾丸は2発分。
ようは同時に引き金を引いているというだけなのだが、雨で視界の悪い中で頼りになるはずの聴覚を欺けるのは大きい。加えて一射一殺の命中率もある。
1発分の銃声が響くと2人倒れるという恐怖体験に、しかし男達は怯むことなく交互に弾幕を張り続けていた。
「とうっ!」
無人となった屋台のカウンターを映画よろしく飛び越え、敵の視界を遮る障害物として利用しながら走る。
スクラップや腐った木で形作った屋台が背後で弾丸に粉砕される音を聞きながら、近くにあった廃ビルに飛び込んだ。
「死にたくなかったら動くんじゃないわよ」
廃ビルの中の、いきなり外で発生した銃撃戦のせいで身動きが取れなくなっていた連中に銃口を突きつけながら脅したFALは、首が千切れそうな勢いで縦に振るのを見てから上へ続く階段へと向かう。
そして最上階である3階まで上がってから、そこにあった大きな会議室だった場所に飛び込んだ。
「急に銃撃戦が起こったかと思えば銃を突きつけられるなんて、災難な奴らじゃ」
「それよりどうするの?助けが来るまでここで籠城する?」
「お主が良いならそれでも良いが、間違いなく嫌じゃろ」
「当然。最低でも10人は仕留めなきゃFive-sevenを煽れないじゃない」
ここに逃げ込んだのは思ったより多かった敵の弾から一時的に逃れるためであって、このまま籠城するためではない。
目にギラギラとした殺意の光を輝かせながら言い放つFALにM1895は然もありなんと頷き、そして窓から下の様子を伺う。
「おっと」
ちらっと目線を通した瞬間、およそ20ほどの銃口がM1895に向いた。サッと頭と身体を引っ込めると、一秒前まで頭があった場所を的確に弾丸が撃ち抜く。
粉々に粉砕された窓ガラスが雨風と共に室内に吹き込み、足元にパラパラと落ちた。
「人間にしては腕が良い。これは面倒な相手と当たったみたいじゃ」
「ふーん。随分と浅知恵の回るヤツが居るみたいね。……ねえ気付いてる?私たち、いま通信が遮断されてる状態にされてるわ」
「うん?…………おお、本当じゃ。これがジャマーという奴かの」
本当に気づいてなかったのか、今になってジャマーが起動している事を2体は気付く。
──ジャマーには幾つか欠点があるが、その一つにして最大の欠陥がコレだった。
人形のAIが発達していると効果がどんどん小さくなっていき、最終的には今のFALやM1895のように、ジャマーを張られていても普段と遜色ない戦闘が行えてしまうのだ。
理屈としては、大量に蓄積された経験がジャマーによる通信切断から生じる行動阻害をカバーするから、ということらしい。59式からの受け売りだ。
ちなみに無効化の基準はレベルにして80以降である。
つまり90後半のFALと上限の100に到達しているM1895にとって、ジャマーとは通信阻害以上の意味を持たないのだった。
「ほぼ間違いないでしょうね。そして、これを使った人形刈りと言えば」
「指揮官に楯突くゴロツキどもの集団、じゃのう」
果たしてどちらが先だったのか。笑みを深めた二体は状況だけ見れば追い詰められているにも関わらず、自分たちが追い詰める側である事に微塵も疑いを持っていない。
傲慢や慢心だと言われかねない心持ちだが彼女達からすれば、それは単なる事実なのだ。
それなりに長い稼働時間、その間この血と硝煙の臭いしかしない世界で培ってきた殺しの技術には、絶対の自信と誇りを持っているからだった。
「さて、釣れるかしら」
「釣れるじゃろうなあ。なにせ、客観的に見れば多勢に無勢。複数人のスナイパーらしき生体反応に此処を見張らせておるし、ここで逃げるほど腰抜けではあるまいて」
「流石は偵察特化のハンドガン、私のセンサーとは比べ物にならない精度ね。数は?」
「闇市を挟んだ先のビルに等間隔で三つ、北に一つ、南に一つ、西に一つ。一番近いのは西じゃな」
──ジャマーの弱点その二。阻害できるのはあくまで通信系統の電波のみで、実はハンドガンが索敵に使うセンサー類は無力化できない。
尤も、この弱点は世に出回っているセンサーがコストダウンのために機能を幾つかオミットした量産型だからこそ。ハイコストの本物は当然のようにこのセンサー類も無力化できる。
……ただ、そんな高性能のジャマーを使えるのは正規軍のような国から認められた組織だけだ。
「散らばってるなんて面倒臭いわね。しかも……」
窓から一瞬顔を出し、すぐに引っ込める。すると窓枠にライフル弾が当たり、窓ガラスが衝撃で粉々に割れた。
「こっちの腕も悪くないと。これはいよいよ面倒なことになってきたわね」
「ふむ……?FAL、お客さんじゃ。数は5体」
「体?人じゃなくて?」
「人間ではないぞ。人形じゃ」
M1895のセンサーが、こちらへ向かって来る存在を察知した。だが反応がおかしい。M1895が察知したのは人間の生体反応ではなく、人形が持つ識別信号だったのだ。
「人形ぉ?なに、口では人形を敵対視してるクセに、ロボット人権協会よろしく実は使ってましたとかいうオチなの?」
「いや、これは……なるほど。そういう事か」
狙いを一目で看破したM1895は思わず笑いをこぼした。相手はどうやら自分と同じイイ趣味をしているらしい。
「のうFAL。お主、"ゴミ捨て戦法"を知っておるか?」
「ええ、内容は…………そういうことなのね?」
「そういうことじゃ」
簡単に言えば、戦場で回収した弱いはぐれ人形や捕虜に爆弾を埋め込んで敵陣に特攻させ、そのまま自爆させる戦法のことである。ゴミを投げ捨てるように人形を使い捨てることから、この名が付けられた。
また、拾ったばかりで無所属扱いの人形の手足をもぎ取って即席の盾として使う戦法のことも指す。
これは、他所の基地の人形にこのような乱暴をすると問答無用で指揮官から"引退"させられるが、捕虜や無所属の人形は『公的書類で存在が明るみに出るまで公式には存在しない扱いになる』という規定があるために、そこまでならどれほど残虐な行いをしたとしてもグレーゾーンで済む。という規定の隙間を縫う裏技のようなものだ。
ちなみにこの"ゴミ捨て戦法"、人権という言葉が軽視されて久しい現代でもドン引きされるクソ外道戦法として知られており、もしコレをやっている事がバレたら世間からの非難は免れない。最悪、やっていた組織を解体しなければならなくなるだろう。
当然ながらグリフィンはこの戦法の使用を禁止している。
「近くの戦場から、はぐれ人形を拾ってきて使う。どうせ使い捨てるつもりなら壊れる寸前でも問題は無く、更に拾ってきているから懐も痛まん。
そしてこの手の人形は人間に服従するプログラムがあるから逆らえもせんと。良い一手じゃのう」
「ついでに爆弾でも持たせて、あわよくば自爆で手傷を負わせるなんてのもあるわよね。ほんっと浅知恵ね、嫌いじゃないけど」
人形の特性を活かすという一点で考えれば悪くないどころかむしろ良い一手だと言えた。もちろん人権的な面や捨てられる人形の感情から見ると最悪の一言であるが。
「可哀想じゃし、出来ることなら救ってやりたいが……」
「救い、ねぇ……」
その言葉に何か思うことがあったのか、FALは会議室の机や何故かあった鉄箱を簡易バリケード代わりに積み上げながら何でもないかのように問う。
「そういえば聞きたかったんだけど、あんたって何でそんなに他人を救いたがるのよ?」
「なんじゃ唐突に」
「前から聞こうとは思ってたのよ。タイミングが今ってだけで」
およそS03に相応しくない善良さを持っているM1895は、このようにちょくちょく情けをかけるような発言をしていた。
正義漢のような物言いをFALは前から少し気に入らなかったが、それ以上に興味があったのだ。
いったい何がどうなったら、こんな善良な人形が
「マナー違反なのは分かってるし、言いたくないなら聞かないけど」
「崇高な理由は無い。ただ褒められたかった、必要とされたかった。それだけじゃ」
人形が階段を登ってくる音を聞きながらM1895は答えた。
向けられた銃口の先には、まだ敵の姿は見えない。
「人形が本能レベルで持つ承認欲求のままに動いて、どうしてそこに行き着くのよ。私たち戦術人形が必要とされたいってんなら、戦場で輝いてこそでしょ?」
「一理ある。が、それはお主が
わしのようなオンボロはの、時代と共に一線を退き、やがてコアを取り外されて誰からも忘れられていくか、これからくる人形のように特攻兵器もどきの扱いをされるかしか、道はないのじゃ」
哀しい話だがローコストの人形たちの行く末は、それが大半だった。
そして、M1895のような人形がどうして戦場で大量に回収出来るのかという理由も此処にある。
使い捨てても懐が殆ど痛まないローコストの人形は、本隊が撤退するまでの時間を稼ぐダミー部隊のような囮や、障害物の無い場所で咄嗟に用意できる壁として日々使い捨てられているのだ。
Five-sevenのような高級機とM1895のようなローコストの人形を比べたら前者を取るのが当然であり、そのボディが財政を圧迫するからこそ、ローコスト人形の身を投げ出させてでも守るのである。
そもそもローコスト人形は無理して守るよりも囮にして使い潰した方が安く済む。
だから記憶保存用のサーバーを圧迫しないように、ローコスト人形はサーバーに記憶を残せない事が多い。
そんな現実を知っておきながらI.O.P.は何も言わない。毎日のように出荷される人形の過半数は、そういう目的で造られるローコスト人形だからだ。
つまり会社の利益のために、人形たちは殺されるために生み出されているのである。
人形側もそういう目的で造られる事を製造段階で理解させられるからか、達観しているというか、自分の人生を諦めている人形が多い。
仮に反抗的な人形が居たとしても、この使い捨てタイプには"どのような理由があっても人間には服従しなければならない"という首輪が付けられている。
通常の人形は有事の際には人間に危害を加える事が許可されているが、使い捨てられる人形たちにはそれすら無いのだ。
「わしが弾を曲げるようになったのも、そこに理由がある。オンリーワンな個性を持っていれば必要としてくれる、弾除けではなく戦術人形として生きられる。
……時代の波に呑まれ、消えていった同僚を間近で見ていて、恐怖を抱いたんじゃ」
彼女もまた、そのように使い捨てられる運命だった筈の人形だった。
ただ幸運だったのは、本隊が撤退したら囮部隊も下がる許可をくれる比較的マシな指揮官の元に配属されたこと。
そして不幸だったのは、自らの人生を諦めきれなかったこと。
「かっこ悪い話じゃが、今から殺される奴らみたいに自分の存在を残せないのが、たまらなく嫌だったんじゃよ」
階段下に現れた5体の人形に牽制目的で一発放つ。当てる気はそれほど無かったし、まさか当たるとも思わないレベルで適当に放った一発だったが、戦闘経験がロクに無かった人形は避けられなかった。
自分と同じ顔が吹き飛ばされて死んでゆくのを見ながら、M1895はそう答えた。
「それと救いたがりと、どう関係するってのよ」
「他の戦術人形とは違う個性を出そうと思っての。人間に感謝され、必要とされるような人形になれば使い捨てられずに済むと考えた」
だから初めは打算的な行動だった。街に飛び出し、路地裏でリンチを見れば嬉々として向かってリンチしていた人間を半殺しにしてリンチされていた人を助け、強盗を見つければ現場にダッシュで飛び込み、迷わず射殺して解決した。
スーパーヒーローのような存在になれば自分は死なずに済むという打算も無いとは言わないが、すべて良かれと思ってやった事でもある。
「まあいつの間にか、それは趣味のようなものになっておったのじゃがな」
「ふーん」
ド素人よりはマシ程度の酷さな射撃の合間を縫うように反撃しながらFALは納得した。
こいつは人間に嫌われるタイプだ、と。
人生経験……もとい、経験値が豊富なFALは多くの人形を見ていた。だから分かる。
彼女は自分がやった事が人間の目にどう写っていたのかを理解できていないのだ。
人間に必要とされるために見せつけていた自分の力は、人間にとっては度の過ぎた暴力でしかないこと。
虐げられる弱者には、リンチしてくる人間や強盗と、突然現れて虐殺していく人形の区別なんてつかないことも。
製造されたばかりの純粋な状態から良くも悪くも無かった変化と、それでいて自分が人形という強者であるという自覚の無さが(無論、悪い意味で)奇跡的な噛み合いをしていた。
良かれと思ってやっていた事は、全て自分の首を絞める行いでしかなかったのだ。完全に裏目に出てしまっていた。
「なるほどね。理由はわかったわっと……あれで最後?」
「そうじゃな。あれで終わりじゃ」
話しながらでも片付けられる程度の力量しかない人形たちも、残すところ一体となっていた。それをセンサーで認識したM1895は目を伏せる。
顔は見ない。表情を見てしまうと、きっと自分は救おうとしてしまうから。
「……………………すまん」
それは、何に対しての謝罪なのか。
小さく謝った声は、やけにうるさく響いた気がする銃声にかき消された。
死体を漁る趣味は無いものの、敵の数が分からないことを考えると予備の弾は幾つあっても嬉しい。
なので榴弾の被害を免れた弾薬の中から各々に合う弾丸を回収し、再び会議室の真ん中で顔を突き合わせる。
「それでどうするの?このまま打って出る?」
「障害物も無い場所に二体だけで飛び出るなぞ、控えめに言って自殺行為じゃろ。ここからチマチマ削れば良い」
「……ま、エロウサギより多くキル数を稼げれば何でもいいわ」
二体は先ほど窓ガラスが割れて枠だけになった窓から半身を出して射撃しようとした。
が、
「はっ?」
「えっ?」
そんな彼女達を出迎えるように、1発の弾頭が飛来した。
飛んで来ていた弾頭の名はRPG。間違っても人に向けるようなものでは無い物に、思わず間の抜けた声が出た。
「ぬおおおおっ!?」
「きゃあ?!」
唖然としていても動けたのは、積み重ねた経験があればこそ。咄嗟に後ろ方向に飛び込むように逃げた。
窓枠に激突し、凄まじい爆発を起こしているのを背中で感じながら、二体は思わず口元をひくつかせる。
「か、完全に殺しに来ておる……」
「普通そこまでやる?他人に榴弾ぶちこみまくってる私が言えた義理じゃないかもだけ、どっ!」
RPGが爆発したことで窓があった場所には大穴が開いた。そして穴が開いたということは、つまり敵のスナイパーがこちらを狙えるようになったということ。
ここぞとばかりに放たれたライフル弾を転がって避け、階段を転がり落ちるように二階へと避難する。
しかし、まるで先読みされているかのように二階でも大きな爆発音が響いた。二発目が撃ち込まれたのだと二体は理解した。
「ちょっと!この御時世にRPGみたいな爆発武器って貴重品なんじゃなかったの!?」
「つまりはそれくらい資金力があるという事じゃ!」
風通しが良くなった二階を通り過ぎ、結局一階まで降りてきてしまう。爆発音で一層怯えてしまっている連中には目もくれず、二体は入ってきた出入口へと目を向けた。
「炙り出されている感が凄いんじゃが、行くしかないかのう」
「行って死ぬか、行かないで爆死するか。私なら前者を選ぶわね」
選択肢はあるようで無い。進む以外に道は無かった。
そうして外に飛び出し、向けられた銃口は10か20か。とにかく数が多い。
「まずは数を減らさんことにはどうにもならんぞ!」
「分かってるわよ!」
弾が何発も顔の横を掠めていく中で、お返しとばかりに目の前に向かって発砲する。
まずは一人、とカウントしかけてFALだが、次の瞬間に男達が構えた物を見て目を見開いた。
「なっ!盾ですって!?」
大の大人がすっぽり隠れるほどの大きさの盾が用意されていたのだ。それは当然のように銃弾を弾き、こちらが攻撃を止めるやいなや男達が盾の影から半身だけ出して射撃を行ってきた。
「分かってはおったが、やはり慣れておる!」
「クソッ!ナガン!」
「みなまで言うな!」
まるで壁のように並べられた盾は、なるほど確かに正面からの並大抵な攻撃は防げるだろう。
だが左右はどうだ?
「脆いっ!」
弾が曲がる。
溝やパイプの曲面を使って不自然に軌道を曲げられた弾丸は、盾を無視して隠れた男達のみを狙い撃った。
「動揺したわね、隙だらけよ!」
意味の分からない出来事に動きが鈍ったのは一瞬のみ。だがたとえ一瞬でも隙は隙。
それを逃すほどFALは甘くないし、また優しくもない。
「これで3つ。鬱陶しい盾がなければ……」
近くのコンクリートの壁の裏側に飛び込むと、後を追うように弾痕が刻まれていく。マガジンを交換しながら、FALは周囲の騒音に負けないように叫んだ。
「ちょっとナガン!まだくたばってないでしょうね?!」
「ばっちり生きとるよ!それよりFAL!あやつら逃げる気じゃ!!」
「はあ!?」
思わず顔だけ出して見てみると、盾を構えたままの男達が整然と後退していくのが見えた。
「ちょっ、待ちなさいよ!せめてあと7人は置いていきなさいって!」
「諦めい。命があるだけマシと思うべきじゃ」
あのまま続けていれば此方に勝ち目は無かった筈だが男たちは退いた。その理由はきっと、接近してくる多数の反応のせいに違いない。
「ふむ、指揮官が増援を送ってくれたらしい。となるとあやつらは数的不利を察して逃げた事になるの」
「なんでもいいわよ。……ああもう、骨折り損しただけじゃない」
「良い経験にはなったじゃろう。色んな意味でな」
男達の撤退と同時にジャマーも解けたらしく今は普通に通信が行える。とりあえず無事だという事を伝えながら、今回の戦闘について反省を始めるのだった。
◆◆
「…………そうか。いや、3人で済んだんなら上々だ。慎重に撤退しろ」
場所は変わってどこかの地下。受話器を置いた赤髪の男は、溜息を一つつきながら背もたれに寄りかかった。
「こりゃ無理かねぇ……」
「それが分かっていて、それでもまだ続けるのか」
独り言のつもりだった言葉に返事。
ギシギシと軋んだ音を立てながらくるりと椅子を回転させて見れば、右目に傷を負っている男が立っていた。
「当たり前さ。俺達には退けない理由がある」
「立派なことだ。俺には分からない感覚だが」
「分かれと言う気は無い。これは意地みたいなもんだからな」
2人は以前から知らない仲ではなかった。この地区を裏から暴力で支配していた組織のボスの側近と、その暴力を振るう実行部隊のリーダーという間柄から、幾度となく顔を合わせていたからだ。
「俺を笑うか?」
「いいや、笑えんよ。むしろ敬意を表する。
少なくとも俺は意地を張ることが出来なかった。心が折れて、ここから逃げる事を選んだ俺に、お前たちを笑う資格は無い」
意地だけで立ち向かえる"強さ"が眩しく思えた右目に傷のある男は、その眩しさから目を背けるように背を向けた。
「脱出までの時間稼ぎは頼んだぞ」
「任された。派手に爆散して人形の10体でも道連れにしてやるさ」
だから安心してお前たちは逃げ延びろ。となんでもないように言ってのける。
右目に傷のある男は自ら進んで捨て石となってくれる男たちへの感謝の念を胸に抱えながらドアノブに手をかけた。
「じゃあな。多分もう会うことは無いだろうが、達者でな」
「ああ。地獄で会おうぜ」
扉が閉まる。再び訪れた静寂に刻み込むように、赤髪の男は誰に言うでもなく一言。
「…………これを逃せば次はない。だから、たとえどんな手を使ってでも、俺はお前を殺す」
殺意のこもった目線が向けられた先には、壁に貼り付けられた人形たちの顔写真があった。サイズは様々で、隠し撮りらしくどれも不鮮明なものだが、どれが誰なのかは分かる。
そしてその中でたった1枚、"怨敵"に分類されている人形の写真に向けて、抑えきれぬほどの怨みを向けた。
「──ピンク髪ぃ……!」
男が捨て石を買ってでたのは、別にボスに恩義を感じているからではない。
理由はたった一つの単純なもの。全ては、あの日を境に自分たちのプライドをズタズタにしたピンクの悪魔へ復讐するために。
この世界では多分、
シャーペンの芯>人形
の式が成立してると思う。
この先どんな感じで進めましょうかね?
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既存キャラの掘り下げ
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新キャラを出す
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世界観とかを詳しく描写する