No Answer   作:報酬全額前払い

4 / 43
依頼主:I.O.P.社


我が社の保有する人形製造のための施設の一つが、先ほど労働者達に不当に占拠されました。

この労働者達は恐らく、当該施設で先日行われた大規模な機械化で職を追われた者達なのでしょう。何処からか持ち出してきた武器で武装し、施設の開放と引き換えに、リストラした人間の再雇用を求めています。

我々としては平和な話し合いで解決をしたいのですが、あちらは聞く耳を持ちません。それどころか、要求が聞き入れられなければ施設を破壊するとさえ言い出したのです。

これは誰の目から見ても明らかなテロ行為です。このような無法が許される筈がありません。

我々が如何なる場合であってもテロリストとの交渉に応じず、また、テロ行為を絶対に許さないという姿勢を見せるためにも、徹底した排除をお願いします。

戦術人形を差し向ければ、彼らも我々の意思を理解するでしょう。遠慮はいりません、全て始末してください。

なお、占拠されている施設は労働者達の排除後も操業を続けるつもりです。設備への損害は出来る限り避けて下さい。

迅速な作戦の遂行を期待します。


敵戦力:アサルトライフル×5 サブマシンガン×10 ハンドガン×10 ナイフ×5

成功報酬:コイン×5 部品×200 人形製造契約×10




製造施設占拠者排除

 S03地区の彼が指揮官を行っているグリフィンは、俗に言うところの民間軍事会社(PMC)である。

 

 現在でこそ政府機関の真似事をして各地を統治しているが、その本質は、依頼を受けて武力で障害を排除する傭兵だ。

 金さえ積まれれば大体の汚れ仕事を請け負い、立ち塞がる全てを焼き尽くす戦場を駆ける黒い鳥たち。それがPMC各社の本当の姿である。

 

 第三次世界大戦の終結後から台頭し始めた彼らは、混迷を深める世界の真っ只中で圧倒的な存在感を放ち、今では多くの人間にとって国家や政府というものより良くも悪くも身近な存在であった。

 

 いつ終わるともしれない戦いを繰り返す彼らは、こうして民間企業からの依頼もよく受ける。今回のように小規模なものから大規模なものまで作戦の規模は様々だが、金になりさえすれば何でも構わない。

 

「結局のところ、これって武装ストの鎮圧でしょ?私だけで充分……いや、私が出るまでもない仕事じゃない」

 

 現場に向かうヘリコプターの中で、FALはそうボヤいていた。

 雨が降り続けるS03地区と、人間が短時間すら滞在する難しいくらい核やコーラップスによって汚染された区域を抜けた事で、雲間から見え始めた青空を窓から見ていた目線。それを、前に座る今回のパートナーに目を戻す。

 

「しかもネゲヴまで来るだなんて……どう考えても戦力過剰よ」

 

「仕方ないでしょ。指揮官の手を煩わせないで動ける人形で、しかも過激じゃないのっていったら、私達くらいのものなんだから」

 

 人形は人間の指揮官の指揮が無ければ最高のパフォーマンスを発揮できない。

 何故なら、人形たちがどこまで行っても所詮は機械だからであり、人間のように柔軟な思考を持っていないからだ。

 

 一見すると臨機応変に動いているように見える人形達は、その実は指揮官から予め下されていた、あるいはその場で下された指示に従っているだけなのである。

 もちろん、経験を積んでメンタルモデルが複雑化した人形であれば、多少は人間のように考えて動く事も可能であるが……やはり人間が命令した方が効率的である事に変わりはない。

 

「まあ確かに、鎮圧のために動物組を出すわけにはいかないけど……それだけが理由?」

 

「あなたが動作不良を起こした時の為の保険も兼ねてるわ。頭を弄ってるんだから、予想外の不具合が起こらないとも限らないじゃない」

 

「……ごもっとも」

 

 今回の仕事は武装ストの鎮圧だが、これはネゲヴやFALのようなS03地区でもトップクラスの実力を持つ人形が行うような仕事ではない。もう少し下……Five-sevenやステンMK-Ⅱ達でも、まだ過剰だ。

 だが今回は、FALが頭に搭載した16Labの試作品レーダーのデータを取らなければならない。あんまり強い相手と戦って試作品が壊れても困るから、こんな雑用に等しい任務に向かわされているのだった。

 

「そういえば……今更こんなこと聞くのはどうかと思うんだけど、副官の貴女が指揮官の側を離れて良いの?」

 

「それこそ動物組が張り付いてるわ。あの三体なら問題ないでしょ」

 

 スコーピオンをリーダーにした、Gr G41とIDWの三体が動物組と呼ばれている。G41は犬のような性格で、IDWは猫のようなキャラだから、いつしかそう呼ばれるようになった。

 ……厳密に言えばスコーピオンは動物というイメージには当てはまらないのだが、誰もそんな事は気にしていない。

 

「確かに身の安全は問題無さそうね。だけど仕事は捗らなさそう」

 

「…………まあ、そうね」

 

 二体の電脳は、シミュレーションという形で指揮官の仕事が捗っていない事をイメージし、頷いた。

 一体でも五月蝿いのに、それが三体も執務室に揃うだなんて……今ごろ指揮官は、ペンの代わりに猫じゃらしを握っているのではないだろうか。

 

「さて、そろそろ準備をしましょ。武装ストなんて手早く迅速に鎮圧して、久しぶりの青空を楽しまなくちゃ」

 

「そうね。指揮官にお土産を買っていかなきゃいけないし」

 

 FALは手元のアサルトライフルを、ネゲヴはハンドガンとアサルトライフルを、それぞれ武器として持ってきていた。普段とは異なるネゲヴの装いに、FALは物珍しいものを見たという目を向けている。

 

「今回、Negev(マシンガン)はお休みなのね」

 

「当たり前でしょ。設備を壊したらどんな文句を言われるのか分からないのに、盛大に弾をばら撒くマシンガンなんて持ってこられないわよ。あと動きづらいし」

 

 戦術人形は、全てがその銃にピッタリ合う人形として作られている。人形のために銃が作られるのではなく、銃のために人形が作られるのだ。

 だから勘違いされがちなのだが、戦術人形は製造段階で持っている武器しか扱えない──というわけではない。

 もちろん、戦術人形のコアに搭載されているASSTシステムという機能によって、他の銃よりも専用銃を扱った方が運用効率や銃撃の精度が大幅に上がるのは確かだ。

 

 しかし、元より戦争のために製造されたのが戦術人形であり、そして戦争には不慮の事態が付き物だ。何らかの事情により専用銃が手元に無い時もあるだろう。

 そんな時のために、戦術人形は他の銃を扱うための火器管制システムなども搭載しているのである。ただ、ASSTシステムのような補助は存在しないので、人形が自分で練習を重ねる必要はあるが。

 

 そんな訳だから、本来マシンガンが主装備のネゲヴでもアサルトライフルに換装しての運用が可能なのだった。

 

「まもなく到着します」

 

「了解よ。さ、行きましょう」

 

 ヘリコプターのパイロットが到着を告げると、ネゲヴとFALが纏う雰囲気が一気に硬質化した。

 ヘリコプターから降りたネゲヴは歩きながら少し長くその目を閉じて、その目を開けた。

 

「……うん、良好ね」

 

 元々クリアな視界が更にクリアになり、躯体のコンディションや内部ジェネレーターの稼働状況が表示される。それらの数値も異常はない。

 

「そっちは?異常とかある?」

 

「特には何も。レーダーの感覚が掴みづらいくらいかしら」

 

 戦術人形は戦闘モードのON/OFFが自由に出来る。どんなタイミングでも、それこそスリープモードからだって可能だ。

 そして戦闘モードに移行した戦術人形は、見た目にそぐわない身体能力を得たり、感覚器官の鋭敏化がされる。

 特に視力は、最大望遠であれば目的の施設からかなり離れた此処からでも、こちらを見ている労働者達の姿を見る事が可能だった。

 

「いい日和ね」

 

 稼働状況などと一緒に、ついでに表示された外気温と湿度は、この土地の平均的なものであった。天候は晴れで、近日中に雨が降っていないのか地面にぬかるみも無い。

 

「うちの地区も、これくらい晴れてくれればいいのに」

 

「そうね……本当にそう思うわ」

 

 予めインストールしておいたマップによると、目的地はこの先らしい。

 

「さて、今日も元気にお仕事に勤しむとしましょうか。傭兵らしくね」

 

 普段は多くの材料を積載したトラックが行き来しているらしい整備された道路は、今は何も走っていなかった。

 その先に見える大きな工場。そこが、I.O.P.社が保有するこの地域一帯の人形を製造している施設だ。

 

 ここはFALのようなハイコスト人形から、民生用のローコスト人形まで幅広く製造している。それ故に、ここが機能不全に陥ると近隣地域の人形が補充できなくなってしまう。

 そんな、辺鄙な所ではあるものの割りと重要な拠点である工場を制圧している労働者達が、堂々と真正面からやって来る二体を見つけるのに、それほど時間は必要なかった。

 

「人形が来たぞ!」

 

「PMCを雇ったか……総員、戦闘準備だ!」

 

 30人というと多いように聞こえるが、その力はこの世界においてはとても弱く、正攻法ではこの大きな工場を占拠するだけの力は無い。

 

「この大きさなのに、どうやって30人程度で制圧したのかしら。出来るとは思えないんだけど」

 

 だからFALのこの評価は不当でも何でもなく、この世界では極めて真っ当な評価だ。

 

「十中八九、何処かの誰かが背後についてるんでしょ。I.O.P.社を引きずり下ろしたい会社は大量にある。スパイが紛れ込んでると考えるのが自然ね」

 

 重要な拠点である工場を制圧できるだけの力も細工も、リストラされただけの人間に出来るとは思えない。セキュリティレベルも相応に高いのに、それをどうしてくぐり抜けられたのか。

 

「まあ、やるべき事は変わらないわ。私達は武装ストの鎮圧に来ただけ。その他の面倒事は依頼主の仕事よ」

 

 これをただの武装ストライキというにはあまりにきな臭い。しかし、そこはネゲヴ達の関与しないところだ。推測の域を出ないし、詳しく知ろうという気もない。

 知りたがりの命は短いというのは、昔からずっと通用する常識であるのだから。

 

「扉は……壊しちゃっても構わないわね。えいっ」

 

 ネゲヴの軽い掛け声に似合わないくらいの轟音と勢いで、正面玄関の扉が勢いよく蹴り飛ばされた。

 蹴り飛ばされた扉が壁面にめり込み、その直後に警報と無機質なアナウンスが鳴り響く。

 

 《侵入者発見、警戒態勢に移行します》

 

「ふぅん、やっぱり防衛システムも掌握されているか」

 

「記憶にある限りだと、防衛システムが掌握されてるなんて依頼主は言ってなかったわよね?」

 

「そうね。でも現地で問題が生じるなんて良くある話でしょ」

 

 そのまま廊下を突き進んでいると、鋭くなった聴覚が前方からやって来る一団の足音を聞き取った。

 人間のように多少のバラつきも無く整然とした足どりは、この施設の警備達で間違いないだろう。

 

「当然だけど防衛用の自律人形も敵対してくるわ。私達みたいな戦術人形ではないから、面倒臭いだけで済むけど」

 

「……あれが面倒臭いだけ?」

 

 本来なら作業用に作られた、単純な命令しか履行できない第一世代の自律人形は、彼女たち第二世代の戦術人形の型落ち品として安く払い下げられ、こうした工場で人間の代わりに導入されている。

 まあ型落ち品とはいっても単純労働なら戦術人形と何ら変わりない効率を出せるのだが。

 疲れを知らず、パーツが壊れても交換すればいい。しかも24時間フル稼働も可能。

 

 そんなスペックがあるから単純労働しか出来ない人間達が職にあぶれる原因となり、今回の火種にもなったそれが今、戦術人形用に用意されたであろう銃火器を装備して向かってきていた。

 その数は15体。その全てが構えた銃口がこちらへ向く。

 

「しょせん数だけよ。FAL、隙は作るから榴弾撃ち込んで」

 

「はいはい」

 

 迷うことなくネゲヴが窓ガラスをぶち破って外に飛び出し、FALが近くの物陰に飛び込むと同時に、さっきまで二体がいた空間を大量の弾丸が通り過ぎた。

 

「さて、と」

 

 強化外骨格で更に強化された身体能力で陽の光が当たる敷地内を土埃と共に駆ける。窓側に近い自律人形達はネゲヴに発砲するが、一発たりとも服にかすりすらしなかった。

 

「偏差射撃すら出来ないなんて、ダメよそんなんじゃ」

 

 アサルトライフルを背中のウェポンハンガーに引っ掛けて、腰のホルダーから取り出したのはワルサーPPK。それを二丁構えて左右交互に引き金を引いた。

 放たれた弾丸はネゲヴを狙う自律人形達の間を通り抜け、FALを狙っていた人形の頭を撃ち抜く。

 

「さあ、こっちを見なさい」

 

 コスト削減のために電脳も低脳かつ共通のものを使われた単純な自律人形達は、隠れたまま一発も撃ち返してこないFALよりも人形を二体破壊したネゲヴの方が脅威度が上だと判断した。

 さっきの回避とPPKの命中率を合わせて自律人形の電脳が出した結論は、13の銃口と、そこから吐き出される弾丸が物語っている。

 

「そう。単純なあなた達なら、そうするだろうと思ったわ」

 

 先程よりは狙うようになってきた攻撃をステップを踏むように左右に回避しながら、ネゲヴは通信で

 FALに合図を出した。

 次の瞬間、壁から上半身を出したFALが榴弾を放ち、また引っ込む。

 

 ネゲヴに気を取られていた人形達は、その榴弾の範囲内から逃げる事が出来ないでモロにダメージを受けたのだった。

 

「やっぱり使い慣れたPPK(ぴぴこ)は手に馴染むわね」

 

「ハンドガンのダブルトリガーが手に馴染むって言うマシンガンの戦術人形って何なのかしら」

 

 PPKのリロードを行いつつ通路に戻ってきたネゲヴと先に進みながら、FALはそう呟いた。こいつ、実はコアがワルサーPPKのものだったりしないだろうかと思いたくなるくらい様になっている。

 

「っていうか、ぴぴこって……もうちょっとマシな渾名を付けられないの?センス無いわね」

 

「文句は名付け親の指揮官に言って。……そういえば、レーダー使って主犯格の位置とか見つけられないの?」

 

「もう試した。主犯格かまでは分からないけど、人間がこの先に密集してるわ」

 

 指さした先には十字路がある。このまま先に進んだところにコントロールセンターがあるが、どうやらそこの辺りに人間が密集しているらしい。

 となると、そこに主犯格が居る可能性は大いにある。

 

「まずは主犯格からね」

 

「ええ、頭を潰せるのなら潰すのは戦いの常識だもの。頭さえ潰せれば、あとはどうとでも出来るし」

 

「当然ね。でもその前に」

 

 ネゲヴは施設の床を抉り取るくらい踏み込んで加速し、十字路の真ん中に躍り出た。

 その十字路の左右には男達が待ち伏せのために身を屈めて息を潜めていたのだが、戦術人形の聴覚を誤魔化すことは出来なかった。

 

「まずは二人、仕留めたわ」

 

 両手のPPKから放たれた二つの弾丸が、十字路の右と左に待ち伏せしていた男達の頭を撃ち抜く。呆然としたまま倒れた男達の手にはナイフが握られていた。

 

「なんだ、ナイフか」

 

「前方にバリケード確認。突破は面倒そうよ」

 

 即席で作り上げられたバリケードから、何人もの男達が銃口を向けてきている。FALのレーダーに引っ掛かった数は20人ほどだった。

 

「人形が来たぞ!撃て!」

 

「どうする?」

 

「そこにちょうどいい鍵があるわ。それで開けるわよ……吹っ飛べ!」

 

 ただ撃っているだけという感じな弾丸の雨の中を、速度を緩める事なくネゲヴはコンテナまで走り、思いっきり足を上げて蹴っ飛ばす。

 サッカーボールのように勢い良く蹴っ飛ばされたコンテナはバリケードに直撃し、それを勢い良く崩して隠れていた男達を撲殺しながら壊れていった。

 

「うわぁぁぁぁ?!コ、コンテナがボールみたいに飛んできやがった!!」

 

「よしっ開いたわ、行くわよ」

 

「こじ開けたの間違いでしょこれ」

 

 ウェポンハンガーからアサルトライフルを持ち直したネゲヴが発砲しながら混乱した敵陣に切り込んで行く。

 その背中をカバーするようにFALもバリケードの内側に乗り込むと、男達はたちまち総崩れになった。

 

「むっ無理だ!こんな化け物、どうやって相手にすればいい!?」

 

「くそっ、俺は逃げるぜ!無駄死には御免だ!」

 

 中には武器を捨てて逃げ出す者もいた。重たい鉄製のコンテナを軽々と蹴り飛ばしてくる戦術人形を見て戦意を喪失したのだ。

 

「逃がす?」

 

「まさか」

 

 しかし、もちろん逃げられる筈もない。一度でも銃口を向けてしまった以上、彼らに残されているのは死のみだ。

 

「死ねぇぇぇ!」

 

「あなたがね」

 

 FALも負けてはいない。ナイフを構えて破れかぶれの特攻をしてきた男の頭をサブウェポンのハンドガンで射殺し、アサルトライフルを無駄弾が出ないように的確に狙って撃って着実に屍を積み上げていった。

 

「これで21人……あと8人がコントロールセンターに居るといいけど」

 

「居ないなら探すだけよ。そして1人残らず殺すわ」

 

「そうね……っと。更に後ろから増援、自律人形っぽいわね」

 

「無視よ。このままコントロールセンターに突っ込むわ」

 

 長い廊下の先から走ってくる自律人形達の足音が聞こえる。

 それを聞いたネゲヴは隅で丸くなってガタガタ震えている男に弾丸を浴びせ、両手を上げて降伏している男の首根っこを掴んで走り出した。

 

「お前も来い」

 

「ひっ、ひいいいい!」

 

 男が文字通りボロ雑巾のように引きずられている。なんとか逃げ出そうと身をよじって抵抗しているが、ネゲヴはガッチリ掴んでいるらしく逃げられない。

 そんな、もう色々と垂れ流してしまっている男と、それを引きずるネゲヴからFALは僅かに距離を置いた。

 

「そいつ、どうする気よ。もしかして男に飢えてるの?あれだけ毎晩のように指揮官とやっておいて、まだ満足できないのね」

 

「あっはっはっ、こいつらより先に殺すわよFAL。冗談にしてもセンスゼロ。それで自分をハイセンスとは良く言ったわね。

 というか、真っ先にそんな考えが出る辺り、あんたの方が欲求不満なんじゃない?」

 

「その頭を見て思っただけよ。ところで知ってる?かつて存在した極東の島国に、こんな言葉があるわ『ピンクは淫乱』ってね。ほぼ毎日発情してる貴女にピッタリだと思わないかしら?」

 

「そんな言葉を知ってる時点で、何を言ってもブーメランにしかならないわよ。しかも、それをどうして知ったのかも予想がつくわ。その国のHENTAI系の色々を探してたら見つけたんでしょう?

 でも誰にも相手にされないからって、二次元に逃げるのは良くないんじゃない?」

 

「「………………」」

 

 互いに妙な威圧感を伴った笑顔を顔に貼り付けて並走する。その余波という名のとばっちりを受けた哀れな男の意識は、もうトんでいた。

 

 そんな心温まるコミュニケーションの間にもコントロールセンターとの距離は詰まっていく。どうやらさっきのバリケードを用意するので手一杯だったようで、特に妨害らしい妨害もされなかった。

 

「……で、本当のところは?」

 

 暫く続いた笑顔の攻防はFALが先に折れた。溜息と共にそう聞くと、ネゲヴは威圧感を薄めた普通の笑みで気絶した男を扉にぶん投げる。

 戦術人形の腕力で投げられた男は扉の蝶番を壊す勢いで叩きつけられ、ぐちゃっという潰れる音と一緒に中身が飛び出した。

 

「見ての通り、扉に仕掛けてあるかもしれない爆弾の処理よ」

 

「なるほど」

 

 爆発しなかったところを見るに、どうやら何も仕掛けていなかったらしい。二体はアサルトライフルを構えて扉が壊れたコントロールセンターへと乗り込んだ。

 

「はぁい皆さん。歓迎ありがとう、楽しませてもらったわ」

 

 中には8人の男達がいた。その誰がアサルトライフルやサブマシンガンを向けてきているが、怯えが隠しきれていない。ぶるぶると銃口が震えてしまっている。

 

「本当は楽しくパーティーと行きたいところだけど……ごめんなさいね、私達はこの後にも予定が詰まってるの。だからもうお開きにしましょ?」

 

「抵抗してもいいわ。無駄だから」

 

 二体が一歩踏み出す。踏み出した場所にあった男だったものから飛び出した目玉が踏み潰された。

 

「くっ、くるなぁ!」

 

「うおおおおお!!」

 

「貴様らのようなモノが存在するから、俺達は仕事を奪われたんだ!!」

 

 銃で相手を殺したい時にやるべき事は単純だ。殺したい相手に銃口を向けて、引き金を引く指に力を入れる。それだけ。

 

「自分の無能さを人形に押し付けないでよ」

 

「悔しかったら人間やめてみれば?」

 

 アクション数はたった2つだけなのにも関わらず、半数の男はそのアクションを行えなかった。

 理由は単純で、それより早く撃ち抜かれたからだ。

 

 残りの半数が撃った弾に当たらないように気をつけながら、反撃で響かせた銃声は僅か4回。1人につき一発のみで、男達は永遠に沈黙させられたのだった。

 

「まあこんなもんかしら。終わってみたら呆気なかったわね」

 

「後は防衛システムを強制的に停止させるだけ。事前にI.O.P.社からコードは貰ってるから、それを読み込ませてっと……」

 

 流石に研究者のようにシステムを弄る事は不可能だが、コードを打ち込んだりするくらいなら人形は誰でも出来る。

 防衛システムの停止と共に背後から迫る足音も止まり静寂が訪れた施設では、それなりに小さい声でもよく響いた。

 

「賠償、いくらになると思う?」

 

「この程度の損害なら想定の範囲内でしょ。製造設備には何もしてないんだし、文句言われる筋合いはないわ」

 

 連絡は入れてあるから、もう間もなく追い出されていた職員達が戻ってくるだろう。

 出迎えてやるべきか。と思ったネゲヴは、コントロールセンターの座り心地のいい椅子から立ち上がった。

 




新着メールが届いています。


FROM:I.O.P.社

TITLE:感謝します


施設の件では御世話になりました。

彼らを切り捨てる事は我々としても不本意だったのですが、戦術人形・及びそのダミーの需要は増加の一途を辿っています。そのため、施設の効率を更に上げなければ人形の供給が間に合わない状態なのです。

戦いの手段である戦術人形の数が不足すればどんな不利益が生じるかは、指揮官である貴方ならば当然理解しているでしょう。

彼らの勝手な言い分によって本来行き届く筈の人形が届かない事で、一体どれほどの犠牲者が出るのか……まったく想像もつきません。

今回の騒動ですが、労働者達を焚きつけたのは競合他社の仕業だと突き止めました。近日中に仕事をまたお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします。

今後も我々は、世界の人々を守るために人形の生産を続けていきます。もちろん人々の安全を前線で守っているグリフィンにも協力を惜しみません。

今後とも我々の関係が良いもので有り続けられる事を期待しています。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。