No Answer   作:報酬全額前払い

40 / 43

何故かブラウザの段落下げを実行するとフリーズしてしまうので、それが解決するまで段落下げ無しで上げさせて頂きます。これ、おま環なのかなぁ……



ガチャ缶

《…………ご苦労、今月分のデータは受け取った。中々面倒な事になっていたようだな》

 

「ええ、まあ。解決はしましたが、これで終わったとは思えないんですよね」

 

 この地区は月に1度、上司に当たる人間とモニター越しに報告をしなければならないという決まりがある。

 その決まりに従い、通信室で指揮官は近況を報告していた。

 

《それは勘か?》

 

「勘ですね」

 

《ロストフィールドから帰ってきた男の勘か……ぞっとする話だ》

 

「外れることを祈りますよ」

 

 個人的にも外れて欲しい類いの──しかし何故か外れない気がする予感。

 

《ともあれ、AI研究所の件はこちらも気をつけておく。今はまだS03近辺でのみ確認されているが、これから広まらないとも限らん》

 

「お願いします」

 

 頭を下げたモニターに映っているのは、髭を蓄えた厳つい顔をした中年の男。その体格は引き締まっていて、彼が何かしらの訓練を積んでいたことを伺わせる。そして彼の眼光は、あらゆる虚飾を見抜く鋭さを秘めていた。

 そんな彼の名はベレゾヴィッチ・クルーガー。元軍人にしてG&K社の社長だ。

 

 普通、たかが一指揮官が社長への直通回線を持つなんて有り得ない。だが指揮官の横にはネゲヴという厄ネタが居て、更に指揮官は軍の研究主任と一応繋がりがある。

 つまり存在そのものが要注意であるから監視が必要な事に加え、ペルシカからもそれとなく気にかけるように言われたとあって、一指揮官にも関わらずこうして社長と話すことが出来ていた。

 

《しかし、君は良くやっているな。並の指揮官なら一日と持たず、私でも一月すら居たくない場所に留まり、上手いこと統治している》

 

「確かにお世辞にも住みやすいとは言いがたいですけど。まあ慣れれば悪くないものですよ。心強い護衛もいますしね」

 

《その言葉を聞いて安心した。もし嫌だなどと言われてしまったら、君を『引退』させなければならないからな》

 

「はは……冗談キツいですね、ホント」

 

 クルーガーに真顔で冗談なんだか本気なんだか分からない発言をされ、思わず苦笑いを隠せない。多分、冗談だと思う。

 ちなみに『引退』とは隠語であり、要は暗殺のことだ。初めて『引退』の意味を知った時、とんだブラック企業だと叫びそうになった事が懐かしい。

 

《無論、冗談だとも。有望な人材を無為に潰したりはしない。有望であるうちはな》

 

「…………」

 

《だが残念なことに、有望ではなくなった者がいる。まだ今月分のデータを受け取ってはいないが、先月も、先々月も期待を裏切られ続けているのだ。

もし今月も失望させられるのであれば、君の出番という訳だ》

 

「つまり、『引退』させろと」

 

《そういうことだな。こうして『引退』してもらうのは本望では無いが、指揮官の質が良くないために大勢の一般人が犠牲になるのは看過できない》

 

 S03地区は特殊な地区だ。

 

 グリフィンが統治を始めても治安は悪いままであり、そこに配備される人形も他の地区では手に負えないような不良品の集まり。

 隙あらば指揮官が殺される危険性のある魔境と称されるここは、誰も着任したがらない場所のトップとして君臨し続けている*1

 

 そして此処は半ばグリフィンから見捨てられている。何か資源がある訳でもなく、重要な役割を持ってもいないS03は、ぶっちゃけ『有ればマシ。無くてもいい』程度の価値しかない。

 だから左遷地としてはこれ以上ないほど優秀で、同時に会社が後ろ暗い事をやらせるのに適した場所となっている。指揮官の独断専行として地区ごと切り捨てればダメージを最小限に抑えられるからだ。

 

《遅くても2週間の間にデータは来る。その結果如何によっては、君に依頼を出そう》

 

「……準備はしておきます」

 

 故に回ってくる。会社の汚点とも言うべき内部粛清役という汚れ仕事や、本来やってはいけないスポンサー企業への襲撃のようなマッチポンプめいた仕事まで。

 もちろん、S03地区がグリフィンという会社の闇を全て請け負っている訳ではない。表に出来ない事をやっている場所は幾つかあり、ここもその一つというだけだ。

 

 だからクルーガーは、いざとなれば何の躊躇いもなくS03を切り捨てるだろう。ここが潰れても別の地区が代わりに仕事を請け負うだろうし、そういう仕事の対価として会社と癒着したい指揮官が、グリフィン内部にはごまんといるのだから。

 

《言うまでもない事だが失敗は許されない。もし失敗するような事があれば……》

 

「その時は死ぬだけでしょう?分かっていますよ」

 

《なら、いい。では、私はこれで失礼する。詳細なデータは後で送ろう》

 

 モニターが消え、静寂が戻ってくる。大きく息を一つ吐いた指揮官は通信室の扉を開けて外に出た。廊下の空気は心なしか冷たい。

 

「一難去ってまた一難か」

 

「なんでこう、面倒ごとばっかり来るのかしらね」

 

 付き添うネゲヴも心底嫌そうに言葉を吐き捨てる。あの赤髪の男に負わされたキズは既に完治しており、蛍光灯に照らされる肌は綺麗なものだ。

 

「でも少し時間に余裕がある。その間に、何か息抜きでもやろう。身が持たない」

 

「息抜きっていうと、企業からの依頼とか?」

 

「そうだな。最近そっちに手をつけてなかったし、そろそろ再開しないと何を言われるか分かったもんじゃない」

 

 貴重な収入源でもある企業の依頼は、人形殺しの一件があってから受けられないでいた。しかし、その一件が一先ず解決している今、受けないという選択肢は無い。

 

「じゃあ執務室に戻りましょ。コーヒーでも飲みながら色々と考えればいいわ」

 

「だな」

 

 そう言いながら、指揮官とネゲヴは薄暗い廊下を歩いて執務室へと戻る。

 時折吹く風が雨粒を窓に叩きつける音と2人の足音以外は音のしない廊下は不気味な静けさを保っていた。

 

「ご主人さまーーっ!」

 

 階段をひーこら言いながら登りきり、執務室の扉を開けた指揮官に被さる影。

 とっさの勢いで横に避けなかったのは、その影が留守番を任せたG41のものであると声で気付いたからだった。

 

「おっと。ただいまG41、良い子にしてたか?」

 

「はい!見て見て、ナガンから飴アメ貰ったの!!しかもアタリ!」

 

 飼い主に擦り寄る犬の如く身体をスリスリしながら、"アタリ"と書かれた包み紙を自慢げに見せつける。

 その様子に微笑ましいものを感じた指揮官はG41の頭をナデナデしながら、ソファで酒瓶を傾けているM1895に目をやった。

 

「む?戻ったか指揮官」

 

「どうした?珍しいじゃないか、ここで酒飲むなんて」

 

 そう言いながらG41を抱え上げ、M1895の横に腰かける。M1895はいやなに、と前置きしてから理由を話し始めた。

 

「FALがヤケ酒で滅多に見ないような泥酔をして大暴れしての。まずFive-sevenを酔い潰してから服をひん剥いて犬神家のオブジェを作り、次にスプリングフィールドをひん剥き、更に近くにいた連中にまで襲いかかって大変愉快なことになっておる」

 

「なんだその地獄絵図は」

 

 しかもなまじFALが強いだけに、その暴走が止められない。結果として出来ることといえば、今のM1895のようにFALの目につかない場所まで避難することくらいのものだった。

 

「わしも剥かれかけたが、FALと違って肌を人目に晒す趣味は無いのでな。Vectorを生贄に捧げて逃げて来たのじゃ」

 

「……Five-sevenに負けたのがそんなにショックだったのね」

 

「だからって周囲を巻き込むのは駄目だろ……。後で呼び出して注意しとかないとな」

 

 床にペタンと座りながら嬉しそうに指揮官の太ももに顔を擦りつけてくるG41の頭をナデナデしながら、ネゲヴがインスタントコーヒーもどきを淹れている様子を眺めつつ溜息を吐いた。後片付けのことを思うと気が重くなる。

 

「それで、そっちはどうじゃった?何か変わった事でもあったかの」

 

「また面倒ごとが来るってこと以外は変化無し。平常運転だ」

 

「それはイイことじゃのう。そろそろ外出したいと思っておったところじゃ。もちろん遠征には行けるんじゃろうな?」

 

「ちょっと余裕が出来たからな。何回かは行けると思うぞ」

 

 見回りと新たな物資確保を目的としている遠征は、滅多に無い地区の外に出られる機会とあってか人形たちの間で人気がある。

 どれくらいかというと、もう既に出発しているトンプソン率いる第一陣はおよそ10倍の倍率があり、予定されている第二陣への応募も同じくらいだ。

 

「その何回かに入れれば良いが……応募だけはしておくかの」

 

「ああそれなんだが、ちょっと待ってくれないか。ナガンには別に仕事を頼む事になると思うんだ」

 

「ほう?」

 

「この依頼なんだが……」

 

 通信室でクルーガーと会話する前まで見ていた依頼の書かれた書類を机の上から取り、M1895に渡す。それを上から下まで見るM1895と指揮官の前のテーブルに、ネゲヴはコーヒーの入ったカップを置いた。

 

「2人のコーヒーはテーブルに置いておくわね。G41、ビーフジャーキー食べる?」

 

「食べる!」

 

「ありがとネゲヴ」

 

「おお、わしの分もあるのか。すまんのう」

 

 ネゲヴが戸棚からお徳用ビーフジャーキー(原材料不明)を取り出し、それをG41に与えている光景に癒しを覚えつつ指揮官はコーヒーの入ったカップを傾ける。

 やがて読み終わったらしいM1895はその書類をテーブルに置いて、代わりにコーヒーの入ったカップを手に取った。

 

「これはまあ、見事なまでに真っ黒な依頼じゃのう」

 

「受けてくれるか?」

 

「思うところはあるが……他でもないお主の頼みなら無下にはできん。任せよ。大船に乗ったつもりで安心しておくといい」

 

 書類に書かれていた依頼主は懇意にしているSG社。そしてその依頼は競合他社を叩き落とすための一手だった。

 

「それにしても、なぜ人間は世紀末を迎えても利益を求めて争うのじゃ?」

 

「それが人間だからじゃないかね。知らんけど」

 

「度し難いのう。他人の命より己の権益の方が大切か」

 

「俺らが言えたセリフではないな、それは」

 

 指揮官にそうツッコまれ、そうじゃったなと返しながらグイッとカップを傾ける。そして苦虫を噛み潰したような表情を見せながら、カップを置いてポケットのアメを取り出しながら一言。

 

「にがっ」

 

 

 

 

 さて、指揮官たちが執務室でのんびりしている時、そこから山を一つと少し過ぎた場所に位置するゴーストタウンにトンプソンたち遠征組の第一陣は居た。

 

「ここも昔は、凄く栄えてたんだろうが……」

 

 壁が半分以上崩れ、本来の設計の倍は窓が広がっている廃墟と化した食料品店には、至るところに略奪された形跡が見受けられる。店の外にあった白骨死体は、この店の店主のものなのだろうか?

 考えても答えの出ない事を考えながら、窓以外の場所からも射し込む薄日の光にサングラスの奥の目を細め、足元の瓦礫をその細腕からは考えられないくらいの強い力で退かす。

 

「おっ」

 

 そして、その下から目当てのブツを見つけたトンプソンは、その表情を喜びに緩めて一つ手に取った。

 汚れを手で払い、射し込む光にかざして見れば、どうやら魚の水煮の缶詰を示す掠れた文字が辛うじて読み取れる。賞味期限は……5年も昔に過ぎ去っていたが。

 

「問題ないな」

 

 過去の記録には、最長でも114年の歳月が経った缶詰が問題なく食べられたというデータもある。

 だからという訳ではないが、見たところ問題も無さそうだし、何より貴重な魚だ。海が汚染され、食べられる魚類が庶民の手に届かなくなった現在では、賞味期限が大幅に過ぎたこの缶詰ですら相当な価値がある。

 

 これを己の持つルートに乗せればどれほどの利益を生むかを考え……背後からした物音に、咄嗟にサブマシンガンを向けた。

 

「トンプソンさーん。もう終わ……わわっ!?」

 

「……なんだステンか。脅かすなよな、私の引き金は軽いんだ」

 

「呼んだのに返事が無かったから見に来たんですよ!」

 

「そうだったか?なら悪いことしたな、全く気付かなかった」

 

 赤い上着にチェックのスカート。そしてトンプソンと同じく、その華奢な見た目に相応しくない無骨な銃。

 普段はマカロフと行動を共にすることが多いステンMK-Ⅱは、10倍の倍率を勝ち抜いた遠征部隊の隊員だ。

 

「そんなに考えこんでたんですか?」

 

「ああ。コイツでちょっとな……ほら見ろ、魚の水煮缶だ。スーパーレアだぜ」

 

「うわぁ……本当だ!私、実物なんて初めて見ましたよ」

 

「私も久しぶりだ。瓦礫の下にあったからか、どうやら誰も見つけられなかったらしいな」

 

 こういう場所にある希少価値の高い物は激戦区でもなければ誰かに持って行かれている事が殆どだが、今回は珍しい。

 恐らく、退かすのに相応の力が必要になる瓦礫の下なんて探すより、床に転がっている缶詰を取っていった方が労力も少なく済むから残っていたのだろう。

 

 目を輝かせてレアな缶詰を見るステンを横目に、トンプソンは他に食べられそうな物を探す。すると程なくして、十缶ほどの缶詰が見つかった。

 

「ステン、缶詰探すのを手伝え。まだ他にも食えそうな物が転がってる筈だ。

そんで、なんか欲しい缶詰があったら一つ取っとけ。さっきの詫びだ」

 

「いいんですか!?ありがとうございますトンプソンさん!」

 

 それから暫く、トンプソンとステンは食料品店を漁りまくった。棚を倒し、金庫をこじ開け、壊れたベッドの下まで探す。

 そして見つけたのは缶詰が追加で15缶と、ナニに使っていたのか分からないヨレヨレの成人向け雑誌が二冊(ちなみに金庫に入っていた。これを見つけたステンは大変ガッカリしたという)、そしてカビた食パンらしきものが少し。

 

 成人向け雑誌とカビた食パンらしきものは置いておくとして、缶詰が追加で15缶も見つかったのは幸運だと言う他ない。

 

「これ全部持って行くんですか?」

 

「ああ。このくらいの量なら、行動に支障はきたさないからな。ところで、何にするのか決めたのか?」

 

「やきとり缶にしました!」

 

「良いチョイスだ」

 

 見つけた缶詰の殆どはラベルが汚れすぎていたり剥がれていたりして、これらがどんな缶詰なのか分からないものの、彼女達にとっては滅多に食えない立派な御馳走だ。

 それに中身が分からないといったって、逆に何が出るか分からないワクワク感をスパイスとして与えてくれるとも言えるのだ。人間にしろ人形にしろ、射幸心を煽られるものに弱いのは変わらないらしい。これをS03では俗にガチャ缶と呼ぶ。

 

 そんなガチャ缶を使い古した布袋にステンと共に詰め込み、それを背負って食料品店を後にする。

 

「さて……」

 

 トンプソンは食料品店の穴の空いた壁から僅かに顔を出して、この街のメインストリートだった場所を睨んだ。

 

 動くものは、無い。

 

「左クリア。そっちはどうだ?」

 

「右もクリア。正面の廃墟にも動く影は見当たりません」

 

「オーライ。じゃあ、とっとと戻るか。帰りを待ってる奴らの為にもな」

 

 敵に出くわす可能性を考慮して、見晴らしのいい場所は避けながら集合地点まで小走りで向かう。

 

 彼女達が居るこの街は、かつてはそれなりに大きな地方都市だったらしい。今では見る影もないが、観光都市として栄えていたというデータが残されていた。

 

「この街に住んでいた人達は、一体どこに行ったんでしょう?これだけ大きな街なのに」

 

「さてな」

 

 周りの風景を見ても、人の居た痕跡すら影も形も見当たらない。

 

 かつて多くの人が暮らしていたであろう巨大なマンションは半分に折れ、数多の企業が集まっていたオフィス街は朽ち果て、休日になると買い物客で賑わっていた筈のショッピングモールは今やカラスの巣と成り果てた。

 

 沈んだ静寂にバサバサと羽ばたく音が響く。人が居れば自然と生じる活気や熱気は、もうここには無かった。

 

 大量に居たであろう人々は何処へ消えたのだろう。そして此処から消えた理由はなんなのだろう。

 街という大きな揺りかごを捨ててでも、人々が此処から消えなければならない理由。それはなんだったんだ?

 

 その答えを教えてくれる者は既に()いが、それでもステンは考えずにいられなかった。

 

 合流地点である町外れの駐車場に戻ると、他の三人は既に偵察を終えてトンプソンの帰りを待っていた。

 

「遅いですよトンプソンさん!」

 

「いやー悪い悪い。ちょっと調査に手間取ってな」

 

 ぷんすか!と可愛らしい怒り方をしているMP5に、トンプソンは袋から適当に缶詰を一つ放り投げる。

 

「取っとけ」

 

「わわっ……これ、缶詰だぁ!良いんですか?!」

 

「この仕事の正当な報酬さ、ボスも認めてる。そうだろAK?」

 

「そうそう、貰っときなー。あ、果物缶ってある?」

 

「んな高級品あるわけ無ぇし、あっても渡さねぇよ」

 

 怒り顔から一転、喜びに目を輝かせたMP5に現金な奴だと笑いながら、車の運転席に座っているAK-47と助手席のM38にも一個ずつ渡した。渡したのは当然、中身の分からないガチャ缶である。

 

 指揮官の指示が無い遠征は、指揮官が居なければ十全に能力を発揮できない人形にとって大きな危険を伴う行為だが、その代わりに見つけた物を一部ちょろまかしても見なかった事にしてくれる。

 何があるのか分からないんだから、それを元から持っていたのか、それともちょろまかしたのか調べようがない。というのは指揮官の言葉だが、それが方便である事など誰もが知っていた。

 

 そしてコレが、危険な仕事であるにも関わらず募集が絶えない理由でもある。

 リスクはあるが、上手くいけば金を払わずに味気ない配給に彩りがプラスされるのだ。日々の食生活が最低ランクのS03の人形たちにとって、それは抗いがたい魅力として映っていた。

 

「分かってるだろうが、他の奴には見せるなよ。飢えた狼みたいに群れを成して奪いにくるぜ」

 

「味気ない配給に、みんな飽き飽きしてるんでしょうね……」

 

「だな。メシは士気を保つのに重要だ。毎日のメシが味気なけりゃあ、日々の生活まで色気が無くなっちまう。

とは言っても、このご時世だ。味気なかろうと不味かろうと、食えるだけマシではあるけどよ」

 

 そういう意味では、自分達はまあまあ贅沢なことを言っているのだろう。だが衣食住が満たされると、今度は味のような付随する要素を求めてしまうのは当然のことだ。

 そして人形に植え付けられた欲求が経済活動を支えているという事実は、この欲求がどの人形にも存在するということと、下手な人間より余程社会の歯車として貢献していることを示している。

 

「それに、こっちは命をチップに危ない橋を渡ってるんだ。これくらいの楽しみが無きゃ、やってられねぇ」

 

 全員が缶詰を隠したのを確認してから、トンプソンは運転席側のドアに寄りかかった。

 

「で、そっちはそうだった。何かイイもん見つかったか?」

 

「どこかの誰かが後生大事にしまってた防災用の乾パンと水を各1箱ずつ。あとは街の真ん中くらいに、恐らく防災用の備蓄倉庫があるのを見つけました。中はまだ見てないんですけど……」

 

「後で皆で行こうかって、M38と話してたんだ。モノがあれば詰め込めるし、まあ最悪敵でも五人も居れば誰かしらは逃げられるでしょ」

 

「よし、じゃあ早速行くか。ステン、MP5、乗り込め」

 

 AK-47が運転する車は、その備蓄倉庫がある場所へと動き出す。まったく整備されていないコンクリートの道路は、ところどころで車を大きく揺らした。

 

「でも備蓄倉庫って、大抵の場合は真っ先に物資を放出する場所ですよね。もう残ってない可能性もあるんじゃないですか?」

 

「そこなんだよねー。街の真ん中って人が集まりやすいだろうし、MP5の言う通り、もうロクに物資は残ってない可能性が高い。

一応扉は閉まってたけど、あんまりアテにしない方が良いかな。見つけといてアレだけど」

 

「……なんか、イヤーな予感がすんだよな」

 

 そして

 

「その予感通りになるわけだ」

 

「うーん。残念っ!」

 

 錆びて動きの悪い鉄製の横開きドアをこじ開け、中に入ったトンプソンは溜息と共に呟いた。ケラケラ笑うAK-47が銃の先端でダンボールをひっくり返すと、ひっくり返った衝撃で埃が舞い上がる。

 

「けほっ、けほっ。酷い埃」

 

「こりゃハズレだな。逆に運がいいとすら思えちまうくらい酷ぇ」

 

「あるのといえば乱闘の痕跡くらいですね。その痕跡も相当年月が経過してるみたいですし、埃の積もり具合からしても、ここの物資が奪われたのはグリフィンがS03を統治する前でしょう」

 

 M38が分析しながら見ていた壁には、半分くらい壁と同化しつつある血の跡がある。

 

「とんだ無駄足だったな」

 

「収穫は乾パンと水が一箱ずつと、缶詰が20くらいかぁ。この規模の都市にしちゃ残念な収穫だけど、まあこんな日もあるよね」

 

「そうだな……っと、そろそろ時間だ。引き上げるぞ」

 

 アナログタイプの腕時計を見れば、もうそろそろこの街を出発しなければならない時間だった。

 トンプソンの号令で車に戻り、10分も車を走らせれば街と夕日を背に車が荒野を走る。

 

「基地に連絡を入れておきます」

 

「ああ」

 

 変わりゆく景色を窓から眺めながら、トンプソンは咥えたプレッツェルを燻らせた。

 

 バックミラーに映る都市の影は、まるで太古の昔からそこに存在していたかのように堂々と、そしてどこか寂しそうにそびえ立っていた。

 

*1
(社内調べ)

この先どんな感じで進めましょうかね?

  • 既存キャラの掘り下げ
  • 新キャラを出す
  • 世界観とかを詳しく描写する

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。