No Answer   作:報酬全額前払い

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個人的に最速で書いてみた結果がコレだよ!

あ、前回と変わらず焔薙さんの世界にお邪魔しております。



互いに笑顔で突きつける

 

「…………この辺で、そろそろ休憩といかぬか?あまり長く続けても、疲れた頭では納得のいく話し合いは出来まい」

 

 だいたい1時間くらい話しただろうか。このS09地区P基地の指揮官である"ユノ・ヴァルター"が知恵熱を起こしそうなくらい混乱しているのを見かねたP基地のM1895*1は、指揮官とネゲヴにそう提案した。

 

「そうだな。お言葉に甘えて、ちょっと休憩させてもらおうか」

 

 指揮官も車に揺られてからすぐに始まった気力を削るような話し合いに疲れていた事もあり、それに賛成する。

 流石に人前だからグダっとは出来ないが、それでも露骨に雰囲気がゆるゆるになった。

 

「ちょうど手土産に買ってきたケーキがあるわ。これでティータイムにしない?」

 

「ケーキっ!!」

 

「これこれ、急に動くでない。……さて、ならわしがお茶を用意するかのう」

 

 ケーキに勢い良く反応したユノに苦笑いを浮かべつつ、ネゲヴがケーキを持ってお茶を用意する【M1895】の横に立つ。

 特にやることの無い指揮官たちは座ったまま、お茶とケーキが来るのを待っていた。

 

(……それにしても)

 

 手持ち無沙汰な指揮官は目の前に座る少女を見る。もし指揮官用の制服を着ていなければ基地に迷い込んだ子供に見えるほど人畜無害そうな彼女は、しかしペルシカが気にかけるほどの"何か"を持っているに違いない。

 それが何かまでは分からないし、知るつもりも無いが、とにかく彼女は『特別』なのだろう。

 

(さっきから、なんかガチガチに緊張されてんな俺)

 

 しかし、特別とはいっても対人経験はあまり無いらしく、見てて可哀想になるくらい緊張していた。

 あまりに緊張しているものだから話しかけるのにも躊躇いを感じ、結果として気まずい沈黙が2人の間には降りていた。

 

「……あの」

 

「どうした?」

 

 まあ、初対面ならこんなもんか。と指揮官が勝手に納得していると、ガチガチに緊張しながらもユノが声をかけてくる。それに僅かな驚きを感じつつも指揮官は言葉を返した。

 

「その……」

 

 ユノがいきなり頭を下げる。

 

「……ありがとうございます。助けてくれて」

 

「助けた訳じゃない。俺たちは依頼を受けただけだ。それ以上でも以下でもない」

 

「でも、結果として助けてくれますし」

 

「フッ」

 

 その言葉に指揮官は思わず笑う。思わず漏れてしまったようなその笑いは、どこか羨望を感じるものだった。

 

「君を中心に考えればそうなるだろうさ。でも、俺たちからすればどうだ?なぜ助ける?何のために?」

 

「なぜ、ですか?」

 

「そうだ。……無価値なものはそこらじゅうに転がってるが、無意味なものはそう無い。物事が起こるには、どんな些細な事でも理由ってもんがあるんだ。

 もちろん、俺たちの行動にもな」

 

「それは見返りを求めておると言いたいのかの?」

 

 そう聞きながら【M1895】がお茶を4人分用意し、続いてネゲヴがケーキを置いていく。指揮官の前にはチョコケーキが置かれた。

 

「間違ってはいないが、合ってもいないな」

 

「どういうことじゃ」

 

「最終的に見返りは貰う。だから間違ってはいない。でも見返りが理由じゃないから合ってもいない」

 

 ネゲヴも椅子に座り、無言でお茶に口をつける。ネゲヴはホッと一息ついて指揮官を見た。

 指揮官もお茶に口をつけ、ちんぷんかんぷんなユノに向かって言う。

 

「俺たちがこうして動く理由はな、他所の基地と繋がりが欲しかったからだ。そして君たち……厳密に言うとペルシカは、俺たちの力が欲しかった。

 俺たちとアイツの利害が一致したから、こういう事になった。それだけだ」

 

「それだけ、なんですか……?」

 

「そう、それだけだ。そこに君が考えているような善意は欠片も無いし、そもそも入る余地すらない。これは取り引きの結果だよ」

 

「…………」

 

 バッサリと断言した指揮官にユノは何か言いたげに口を開けたが、しかし言葉にならなかったらしく口を閉じた。

 どこか気落ちした様子でケーキを食べはじめたユノに代わり、今度は【M1895】が口を開く。

 

「なるほど、言いたいことは分かった。お主らは或る意味で扱いやすいのう」

 

「お褒めに預かり光栄だな。……お茶のお代わりを頂いても?」

 

「構わぬよ。2杯目からはセルフサービスじゃがな」

 

「じゃあ私が持ってくるわ」

 

「頼んだ」

 

 ネゲヴが立ち上がってお茶を用意する。その後ろ姿を見たユノは、その目を動かして指揮官の指に嵌っている指輪を見た。

 

「そういえば、レンさんってネゲヴさんと誓約してるんですよね」

 

「ああ」

 

 ユノが彼らの来る前にちょこっと調べた情報によると、指揮官とネゲヴは誓約した間柄であるらしい。

 その部分に勝手ながら親近感を覚えていたユノは、思い切って聞いてみた。

 

「どうして、誓約しようと思ったんですか?」

 

「それは惚気けていいってことか?」

 

「惚気も聞きたいですけど、そうしようと思った決め手みたいなものはあったんですよね?」

 

「そりゃもちろん」

 

 ネゲヴが持って来たお茶で喉を潤し、指輪の嵌った手をかざす。指輪が明かりを反射して、きらりと輝いていた。

 

「ネゲヴと誓約しようと思った理由は単純だ。こいつしか居ない、そう思ったからだよ」

 

「ネゲヴさんしか居ないと思ったから……」

 

「まあアレだ。他人に語って聞かせるほど大した理由じゃないんだ」

 

 気恥ずかしさを隠すように指揮官はお茶を一気に飲み干し、立ち上がった。

 

「ちょっとお手洗いに行きたいんだが、場所はどこかな」

 

「それなら案内させよう。FMG-9」

 

「分かりました。ではこちらに」

 

 予め近くに待機させており、【M1895】の合図でスっと現れたFMG-9に連れられ、指揮官とネゲヴは執務室を出る。その足音が完全に聞こえなくなってから、【M1895】は感心したような溜息をついた。

 

「ペルシカがあやつらを寄越した理由が分かったのう」

 

「そうなの?」

 

「うむ。ああいう手合いは、目に見える成果があれば基本的に裏切らん。身を置いている業界が信用で成り立っておるからの」

 

 信用が無くなれば、それはその業界で仕事が出来なくなることを意味する。だから依頼主から裏切ってこなければ、向こうからの裏切りは基本的に発生しない。

 

「今のわしらが欲しいのは信用できる味方じゃ。そういう意味では、報酬さえ払えば裏切らん傭兵も条件に合致する。もちろん、傭兵稼業を営むS03もそうじゃ」

 

「確かに……言われてみれば、土壇場で裏切られるとか笑えないもんね」

 

 裏切られないというのは非常に大事だ。特にこれから先は何が起こるか分からないのだから、信用のおける味方は千金よりも価値のあるものである。その味方の実力が保証されていれば尚いい。

 

「うむ。しかもペルシカのお墨付きじゃ、実力の方も期待できるじゃろう。特にあのネゲヴは……」

 

 と、そこで言葉を切る。その様子を不思議に思ったユノは、首をかしげながら聞いた。

 

「おばあちゃん、あっちの副官さんがどうかしたの?」

 

「…………なに、心強い味方が増えたと思っただけじゃ。あやつは相当な実力者のようじゃからのう」

 

 もし戦えば、MOD化した自分ですらどうなるか分からない程のな。

 心の中でだけ言葉を付け足して【M1895】は曖昧に笑った。

 

 当然ながら負けてやるつもりは無い。だが、勝つビジョンが明確に見えないのも確かだった。

 まず、そもそもの雰囲気からして只者ではない。一体どれほどの修羅場を潜り抜ければ、ああも鋭い雰囲気を手にできるのか。そしてその横の指揮官も、人間にしては修羅場慣れているように見受けられる。

 

(ペルシカが珍しく気にかけとる訳じゃ。あれは普通ではないな)

 

 そもそもペルシカと普通に話せる間柄である事自体が既に普通ではないことの証明であるが、更にペルシカはやけにS03という場所を気にしている。

 それがどうしてかは分からないものの、その理由の一つに彼らの存在が含まれていそうではあった。

 

「このチャンスは逃せぬぞ。分かっておるな?」

 

「分かってる。上手くいくかは分からないけど……出来る限りやってみるよ」

 

 ユノが大きく頷き、その答えに満足した【M1895】は人形のネットワークを介してFMG-9に連絡を取る。

 情報部の部長として忙しく働いている彼女を案内役として待機させておいたのは、彼らの動向や内緒話を探るためだ。

 

(警戒しているのはお互い様じゃな)

 

 かなり経験を積んでいる【M1895】ですら良く見なければ分からないくらいしれっとネゲヴの太ももに武器を用意している辺り、相当警戒されてはいるようだが……過去に今と似たようなシチュエーションで何かあったのだろう。

 

 それを責める気はない。向こうからすればコチラはまだ完全に味方ではないのだから、指揮官を守るためにも武器を携帯するのは当然だとすら言える。

 それにこっちだって万一を考えて懐にリボルバーを仕込んでいるし、こうして何も話さずに情報を抜き取ろうとしているのだから、その点はお互い様だ。

 

「しっかし、なぜパイルバンカーなんじゃろうなぁ……」

 

 とはいえ、なぜ仕込み武器が近接武器──しかもとびきり扱いづらいパイルバンカー──なのかは分からなかったが。

 

 

 ◆◆

 

 

「こちらです」

 

「ありがとう。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、待ってるのか?」

 

「ええ。レン指揮官とネゲヴさんを執務室まで安全にお送りするのが私の仕事ですから」

 

「じゃあちょっと待っててくれ。なるべく早く戻る」

 

 そう言って指揮官はネゲヴを連れ、トイレの個室に入った。

 個室に入った指揮官はズボンを脱ぐこともなく便器に腰掛け、鍵をかけた扉にはネゲヴが寄りかかった。個室に2人で入っているからか、微妙に膝が当たっている。

 

 実のところ、尿意など全く来ていない。トイレに来たのはネゲヴと2人で話せる場所と時間が欲しかったからである。

 顔を近づけた2人は小声で言った。

 

「毒殺は無し、と」

 

「まあ無いわよね。ここで暗殺なんてしたら、ペルシカの面子を潰すことにもなるんたから」

 

 とはいえ警戒するに越したことはない。なので指揮官は、ネゲヴが目配せで安全を証明してくれるか、ネゲヴが用意したものでなければ口をつけようとはしていなかった。

 

「ここの基地、どう思う?」

 

「友好的ではあるわね。それが表向きだけなのかはさておき、その一方で警戒はされてる」

 

「それは分かる。あからさまだしな……」

 

 あのFMG-9なんて情報を取ろうとしているのを隠そうともしていない。多分ワザとやってるんだろうが、それにしたって少しくらい隠してくれても良いんじゃないかと思っていた。

 

「あの子はどう?接してみて」

 

「眩しいな……ほんと、見てると吐き気がするくらい眩しい」

 

「好きなんだか嫌いなんだか分かりづらい表現ね」

 

 Five-sevenのようにダメージこそ受けていないものの、やはりそこはS03の住民である。光より闇の方が好ましく思えるのは仕方のないことだった。

 

「嫌いじゃない。ああいう善良そうな子は絶滅危惧種レベルで珍しいしさ」

 

「好きでもない?」

 

「…………仕事で会った初対面の奴だぞ。まだ素の性格も見てないのに好き嫌いなんて言えるかよ」

 

 否定も肯定も無し。つまりまだどちらにも転びうるということ。本気で印象が固まっていないのだろう、困ったように頬を掻く指揮官にネゲヴは笑いかけた。

 

「まあいいわ。とりあえず戻りましょ、まだ詰めなきゃいけない話もあるし」

 

「だな……さっさと戻ろう。あんまり長くても不審に思われるし、どうせこの個室にも盗聴器あるだろうしさ」

 

 2人は頷きあうと、水を流してあたかもトイレを済ませた風に個室から出ていった。

 

*1
以下【M1895】と記述





エロうさぎことFive-sevenが何をしてたのかは焔薙さんの方をチェックだ!

この先どんな感じで進めましょうかね?

  • 既存キャラの掘り下げ
  • 新キャラを出す
  • 世界観とかを詳しく描写する

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