No Answer   作:報酬全額前払い

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神に祈りなさい。さすればきっと、あなたは今より自由な心を手に入れられるから。
……祈った?そっか、じゃあはい。お金ちょうだい
……払えないの?なら臓器で支払って貰うわね


神=力=銃

 神話の時代において、神とは即ち力である。

 

 人間の力ではどうしようも出来ない大いなる災害や自然の脅威を、人々は古来から神という超常的な力を操る存在として崇め、そして信奉してきた。

 現在では、そうした現象の殆どが科学によって論理的に語られるようになり、雷や噴火を神の怒りだと捉えるような者は殆ど居ないが、だからといって大いなる力を崇めなくなったという事ではない。

 

 この世界には、遺跡やコーラップスという未だ人知の及ばぬ超技術の結晶を神が遣わした人類への贈り物だと本気で考えている者達がいるし、神からの贈り物であるコーラップス塗れになって新人類になろうと考えるカルト教団だって幾つも存在する。

 それは人間の根っこの部分が昔から変わっていない事の証明であり、同時に何かに縋らないと生きていけない現代の過酷さを表しているとも言えるだろう。

 

 とにかく、圧倒的な力を神として信奉するのは何らおかしな事ではない。むしろ昔から行われている由緒正しい事でさえある。

 であるのだから、教会が免罪符や聖書の代わりに拳銃や弾丸を販売していても、まったくおかしい事ではないのだ。

 

「P7、いるんでしょ」

 

 低層区画の中でも比較的、行政区画に近い場所に建っている教会の扉をネゲヴは叩いた。

 平日の真っ昼間から扉が閉められているという教会にあるまじき様子だが、此処はそれが一般的だ。

 

 S03地区における教会とは、民間を相手にして銃を売る販売所の呼び名である。金さえあれば貴賎なく、あらゆる人間に武器と弾薬を売りつける。

 可能であれば遠方から取り寄せる事もしてくれるこの教会は、P7を主として何体かの人形でやりくりされていた。

 

 なお、販売した武器がどんな争いを呼び起こそうが一切関与しない。

 

「あいー……ああ、ネゲヴ。いらっしゃい、物は来てるよ」

 

 程なくして出てきたP7は、たった今起きましたと言わんばかりの寝ぼけ眼でネゲヴを捉えると、中へ入るように促した。

 ネゲヴが後を付いていって中に入ると、どんよりとした空気の中に噎せ返るようなタバコの臭いが充満している。

 

「酷い臭い。換気してないでしょ」

 

「しても無駄だしねー」

 

 昔は神に祈りを捧げるために多くの人が集まっていたであろう礼拝堂は、今では大量の武器や弾薬が積まれてタバコの臭いが染みつくという、教会のイメージを180度逆転させたような場所に変わり果てていた。

 かつては信仰の対象だった何者かの彫刻には弾丸が撃ち込まれており、首から上が存在しない。それだけを見ても、ここが普通の場所ではないという事が分かるだろう。

 

「適当に座って。今持ってこさせるから」

 

「どうせ自分のダミーなんだから、持ってこさせるなんて言わなくても良いんじゃないの」

 

「いいんだよ。こういうのは気分だから、気分」

 

 指をパチンと鳴らしたのも、演出の一環のようだ。

 P7のダミーが武器を持ってくるまでの間、本体は近くにあった木箱を軽く漁って、そこから小さな袋を一つネゲヴに投げ渡した。

 

「ほい、いつもの。一応言っておくけど、用法と用量は守ってね。人形が指揮官を腹上死させるとか、笑い話にしかならないんだから」

 

「やんないわよ」

 

「どーだか。毎晩のように、もっともっとって強請ってるらしいじゃん。FALが言ってたよ」

 

「…………あんっの馬鹿、聞き耳立ててやがったわね……!」

 

 まさか痴態を聞かれているとは思わなかったネゲヴが顔を真っ赤にしてワナワナと震える。そんなネゲヴに、P7は呆れた様子を隠さないでポケットからタバコを取り出した。

 

「薬キメて理性を月まで飛ばすのは良いけどさ、ちゃんと帰ってきなよ?ネゲヴが壊れたら指揮官が泣いちゃうから」

 

「それは大丈夫よ。そういう用途のボディと電脳は別に分けてるから、帰ってこれないくらいキメても戦闘用ボディに影響は無いわ」

 

「……帰ってこれないくらいキメる気満々なのね」

 

「あっ。いや、違う……」

 

 ……実は既に何体かぶっ壊しているという事実は、ネゲヴの名誉のために伏せておく。

 顔から火が出そうなくらい赤くなり、あたふたとしている今のネゲヴに戦場での凛々しさや無慈悲さは欠片も感じられないが、素のネゲヴはこんな風に結構抜けている。それを知っている者は少ないが、戦場から遠ざかればドジっ子さを強く出すようになるのだ。

 

 P7はタバコに火を付け、更に一本取り出したかと思うと、それをネゲヴに差し出した。

 

「一緒に()らない?」

 

「……やらないわ。指揮官、タバコ嫌いなの」

 

「嫌煙家かー。まあ人間はそれで良いと思うけどね。やっぱり人形が吸う物だよ、タバコって」

 

 汚れる肺も無いし、悪影響も殆どない。強いて言うなら歯が汚れるくらいだが、それだって全取っ替えすれば問題ない。

 人間より遥かに安い命である人形だが、それ故に人間の身体に害を及ぼす嗜好品を嗜む事が出来るのだった。なにせ、人間とは違って替えのボディは金で買えてしまうのだから。

 

「そういえば知ってる?最近、グリフィンの本部のコンビニに、人形用のタバコの広告が貼られるようになったんだって。近々ウチのコンビニにも貼られるかもよ」

 

「なによそれ。人間の次は人形に狙いを定めたって訳?」

 

「そりゃそうよ。そもそも人間だけ狙った商売なんて、今どき流行んないって。現にタバコ会社の売り上げは大半が戦術人形なんだから」

 

 そう言って、P7は昔の物より質が悪くなっているらしいタバコをふかした。そして迷うことなく瓶詰めされたビールを取り出すと、手刀で先端部分を蓋ごと切り落とす。

 鋭い切り口に口をつけ、ぐびぐび飲み始めたP7を見ていると、修道女とは何なのだろうと考えてしまうくらいの飲みっぷりだった。

 

「酒は飲む。タバコも吸う……あんた本当に修道女なの?」

 

「好きで修道女になった訳じゃないし。私的にはもっとこう、パンキッシュな感じというか、ロッケンロール!な感じが良かったんだけど」

 

 文句はASSTシステムに言えと言外に告げながら、P7は酒とタバコを仕事中にも関わらず堪能している。

 そのあまりにもフリーダムな様子に、見慣れている筈のネゲヴもマジかコイツ、みたいな目で思わず見てしまっていた。

 

「くーっ!やっぱ人形さまさまだね。こんな上等なアルコール、人間の大半が手の届かない代物だし」

 

「……皮肉な話よね。人間が娯楽のために作ったアルコール飲料を、人間が楽するために作った人形が飲み干すなんて」

 

「そんな言ったって、私達もう人間みたいなもんだし良いんじゃない?人間と人形の違いなんて、もう殆どないでしょ」

 

 強いて違いを挙げるとするなら、バックアップがあるか無いかくらいのものか。

 

「ところでS03が他で何て呼ばれてるか知ってる?売人、ポン引き、淫売共の巣窟だってよ」

 

「知ってるし、ここに来るまでの短い距離でも、それ両手の指くらい見たわよ。目の前にも居るしね」

 

「あ、あとキチガイ人形の巣穴」

 

「……スコーピオン?」

 

「それだけじゃないけど、まあ主にスコーピオンね」

 

 そんな風に他愛ない会話を楽しんでいると、P7のダミーが2体がかりで木箱を持ってきた。

 

「ほいきた。開けてみて」

 

「ええ」

 

 本体に促されるまま木箱を開けると、そこにはリボルバーのような半解放式の回転式弾倉を持った大きな銃と、専用の弾薬が幾つも置いてあった。

 

「アーウェン37回転式グレネードランチャーとその弾薬。注文通り、確かに納品したよ」

 

「ええ、確かに。はい代金」

 

 まだ国家という枠組みが辛うじて残っているからお札やコインのような通貨は生きているが、昔のような銀行取引は既に廃れてしまっている。ハッキングなどの技術が進歩した現在では、昔ほど電子のお金が信用されていないからだ。

 だから今の取引といえば、現物と現金の取引が主だった。銀行に預金するという概念も失われつつある。

 

 アタッシュケースいっぱいの札束という、旧時代の映像資料(映画)で見るような光景が現実のものとなるなんて、当時それを娯楽として見ていた人間達は考えもしなかったに違いない。

 

「……はい、確かにー。毎度っ」

 

「運び込んじゃって」

 

「はいはいー。もう、人形使い荒いなぁ」

 

 木箱の蓋をしたダミーが再び持ち上げ、今度は出入口の方へ向かっていく。外に止めてある車に運んでくれるのだ。

 

「自分で注文しといて言うのもアレなんだけど、よく見つけたわね」

 

「横流し品を扱ってる所から持ってきたの。こんな古臭い武器なんてもう殆ど使われてないし、見つけるのは苦労したけどね」

 

 何十年も昔の骨董品レベルの代物を見つけるのを苦労した、で済ませられる辺りが、P7の人脈の広さというものを物語っている。

 

「でも、それ使えるの?」

 

「使えるんでしょ?」

 

「武器の動作じゃなくて、ネゲヴが使いこなせるのかって事。いくらグレネードが便利だからって、素人が持ってても重りになるだけじゃない?」

 

「ああ成程。なら心配はいらないわ、私は戦闘のスペシャリストだもの」

 

 自信満々にネゲヴは言い切った。これが他の人形だったならば、心配だなぁとでも返したのだろうが、相手は文字通りスペシャリストのネゲヴである。マシンガン(MG)がメインの癖にHGもARもSMGもRFもSGだって並より上に使いこなすネゲヴなら、まあ使いこなせないなんて事は無いだろう。

 

「そっか。なら良いけど……本当にI.O.P.社製品以外の武器を使うんだ」

 

「だって使えるもの。使ってる火薬も殆ど同じだし、鉄血のクズ共にはこれでも十分よ。何か変?」

 

「言われてみれば合理的なんだけど、ちょっと違和感」

 

 それは、元からASSTシステムによって一つの銃に合うように生み出され、それしか使ってこなかった人形だから感じた違和感だった。

 もちろん他の人形だってハンドガンや手榴弾などをサイドアームとして扱う事はあるが、それはあくまで補助火力。やはりメイン火力はASSTで定められた銃である。

 人形達の武器選択は、基本的にASSTに縛られているのだ。だからこそ、グレネードランチャーのようなメイン火力に成り得る武器を他から持ち出す考えなど無かった。

 

 しかし考えてみれば、引き金を引くだけで撃てる実弾兵器は誰でも扱える。それこそネゲヴのように、ダミーを引き連れたマシンガンの人形のうち四体がリロードを行っている間に、残る一体がグレネードランチャーを乱射する火力支援も可能だろう。

 修練こそ必要だが、それは合理的であると言えた。

 

「よく思いついたね。そんなの」

 

「指揮官からの教えよ。でも最初は凄い無茶ぶりされたと思ったわ」

 

 当時の事を思い出しているのか、ネゲヴの表情が僅かに苦々しい物に変わる。しかし直後にフッと笑ったかと思うと、清々しい顔で言った。

 

「まあ、そのお陰で私はスペシャリストの中のスペシャリストになれたんだけどね」

 

「その話、初耳だよ」

 

「言ってなかったもの」

 

 そう言いながら、ネゲヴは更に札束を取り出した。それが何を意味するか分かっているP7は、ネゲヴに疑問の目を投げかけた。

 

「トンプソンから情報上がってないの?あれと大差無いよ」

 

「上がってるけど欲しいのはそっちじゃないわ。金持ち共の動向よ」

 

 トンプソンが仕入れた情報は、基地のサーバーを介して既にネゲヴにも伝わっているし、指揮官にも報告済みだ。

 しかし、トンプソンが仕入れた情報はあくまでも低層区画の住民から見た情報であり、高層区画の内側までは分からない。

 

「どうせガワだけ作り替えたダミーを金持ちの家で遊ばせてんでしょ?だったらドロドロした話の一つや二つ握ってるんじゃない?」

 

 P7のダミーの一体は金持ち達の中に入り込んでいる。見た目を完全に変え、偽りの名前を持って高層区画に潜り込んでいるのだ。

 そこでしか見つける事の出来ない情報には、もしかしたらグリフィンに不利益な物があるかもしれない。そういう不穏な情報を、指揮官やネゲヴに齎す為である。

 

「まいどー♪」

 

 ……ただし、有料。

 とはいっても、これは危険手当みたいなものだから当然の対価ではあった。

 

「じゃあそうだなぁ……子供の件について、もう少し話そうかな」

 

「例のトラックに積まれた奴ね」

 

「そうそう。で、あれを買いつけた奴らなんだけど……」

 

「どっかの幼女趣味持ちの金持ちでしょ」

 

「そうだけど、場所が場所なの。あれを買いつけたのは、食料関係の王手SG社。その社長よ」

 

 その言葉にネゲヴは僅かに眉を顰めた。SG社といえば、この後の予定で指揮官が出席するパーティーを主催している企業だった筈だ。

 

「見た感じ、そんな人には見えなかったんだけどね。やはり見た目は信用ならないか」

 

「それだけじゃない。この話には続きがある」

 

「……続き?」

 

 やはり、ここに来て正解だった。下からでは把握できないような情報に、ネゲヴの眼光は強いものになっていく。

 

 PMCが請け負う地区を統治する仕事というものは、なにも外敵から街を守るという単純な物だけではない。それだけならば自警団にだって出来る。

 

 PMCが群雄割拠しているこの時代、何処も彼処も他会社の支配地域を奪い取ろうと目を配らせているのだ。大きな枠組み的な意味での国家が戦争を休止している今この瞬間でも、小さな企業による小競り合いは後を絶たない。

 実際にグリフィンだって他会社の支配地域を奪ったりしてきたし、奪われたりもしてきた。

 

 そんなグリフィンの指揮官には、或る意味で一つの小国と化した地区の政治的・経済的な闘争を生き延び、最終的にグリフィンの利益に結びつける能力もまた求められている。……というより、それが出来なければ指揮官と呼ばれはしない。

 一つの地区を任された、と聞くとそれほど大きな役目ではないように思えるが、意味合いとしては"小国の大統領として国家を運営する"というものとイコールで繋げる事が出来るのだった。

 

 だからこそその権力は絶大であり、多くの指揮官見習いという名の雑用係からは羨望や嫉妬の目で見られているのである。

 

 P7がわざわさリスクを犯してまで金持ちの中に潜り込んでいるのも、裏の闘争を有利に運ぶための一手だ。

 今のところはグリフィンに援助している金持ち達だが、結局のところ自分の利益が最優先である。それ故に他会社に内通する者が出ないとも限らない。

 

 その内通をいち早く気付くため、そしてS03地区の権益を守るためにも、このスパイ活動は必須のものだった。

 

「こっちに向かってたトラックは、出発時の三分の一以下しか居なかったってさ。話によると、どうやら工場に運び込んだらしい。ほら近くにあるでしょ?食料工場」

 

「……三分の二も子供?」

 

「いや、残りは子供じゃなかったらしい。ただし人ではあったみたいだよ。あの量の人間を安く買えたって喜んでたから」

 

「子供以外の人……つまり大人達?でもなんで」

 

「そこまでは分からない」

 

 そこから先は、買いつけた本人やSG社の重鎮達にしか分からない事なのだろう。だがそこまで分かれば対策は立てられる。

 

「ありがと。今後もお願いね」

 

「任せといてー。私はこの街を気に入ってるからさ、指揮官にはこれからも此処を統治して貰わないといけないし、そのためにも頑張るよ」

 

 P7に背を向けて出入口に向かって歩く。P7のダミーが扉を開けて、見送ってくれるらしい。

 

「もう行くのー?一杯飲んでけばいいのに」

 

「生憎だけど、これから出撃なの。私が寄ったのは、任務に使うグレネードランチャーを取りに来るためよ」

 

 その言葉を最後に、礼拝堂の扉は閉じられた。残されたP7は少し残念そうにしながら、静かになった礼拝堂で一人ビールを飲み始めたのだった。




前回のアーカイブが読みづらかったので、キャラプロフィールはこっちに移転させます。ご了承下さい。


グリフィン・パーソナルファイル01:S03地区指揮官

年齢は20から30の間。民間からの採用でありながら、それなりの速さで一つの地区を任せられるにまで至った秀才。

色々と黒い噂の絶えない人物でもあり、S03地区の人形達の性格が非常に攻撃的なものに変化しているのは、彼が何かしたからではないかと囁かれている。出世の速さもあり、他の指揮官達からの評判は悪い。
しかし、物資に乏しく、多くの指揮官が運営を投げ出したS03地区を上手く運営できている時点で、それなり以上の能力を持っている事に疑いの余地はないであろう。

同地区の戦術人形、ネゲヴとは誓約を行った関係にある。


グリフィン・パーソナルファイル02:ネゲヴ(S03)

S03地区に駐留している戦術人形。その中でもトップの戦闘能力を持つと言われている。

このネゲヴは教官としても名高く、グリフィンの本部にも彼女の教導を受けた人形は多く居るようだ。その能力の高さを買われて本部で正式に教鞭をとらないかと誘われているが、全て断っているらしい。

それ以外の特徴として、全ての銃を平均以上に扱う事が出来る、マシンガンの戦術人形でありながらワルサーPPKが愛銃だと語る、I.O.P.社製品以外の武器の使用に躊躇いが無い等、比較的特異な人形であるネゲヴの中でも特にイレギュラーな存在。
指揮官の黒い噂と相まって一時期は違法改造された基準違反の人形なのではないかという話さえ持ち上がったが、I.O.P.社が調査したところ問題は見つからなかったようだ。

同地区の指揮官とは誓約を行った関係にある。



あっそうだ(唐突)。ドルフロ界隈の素材ブームに便乗して、これもフリー素材にしてみるゾ。こんな変な奴らを書きたい物好きな御方がいらっしゃったら御自由にどーぞ。事後報告で構いませんからね。
……そんな物好きが居れば、の話ですけども。
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