No Answer   作:報酬全額前払い

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もう少し丁寧に描写すれば良かったかなと後悔してる。



Smasher ②

 

「なんか突っ込んできとるんじゃが?!」

 

「なに、気でも狂ったわけ?」

 

 突っ込んできた彼を見て、M1895は度肝を抜かれたような声を出した。

 まさか人間が前線に出てくるなんて、という気持ちがありありと声に出たVectorが銃口を向け、そして気がつく。

 

 早い。外骨格を装備しているとはいえ流石に早すぎる。

 

 その速度にネゲヴは心当たりがあった。僅かに眉が上がり、そして自分の持つ情報と照らし合わせて間違いが無い事を悟った。

 指揮官もそうであったらしく、外れて欲しかったんだが……という声が聞こえる。

 

「あの速度はまさか……指揮官!」

 

 《それが二つ目の悪い知らせ。ほぼ間違いなくアレだろうけど、いま解析させてるから取り敢えず迎撃。……どうだ59式、出たか?》

 

 《出た、けど……ああくそっ、そういう事ね!》

 

「早く!」

 

 迎撃、と言われた瞬間に引き金は引いている。しかし持って来ていたらしい盾に阻まれ、更にはその高機動も相まってダメージを与えられていない。

 口ごもった59式にネゲヴが怒鳴る。そうしている間にもどんどん近付いてきていた。

 

 そして、最悪が裏付けられる。

 

 《そいつ強化人間よ!反応速度と身体能力が普通の人間のそれじゃない!》

 

 強化人間、という単語にネゲヴは露骨に舌打ちをした。まさか強化人間なんていう巫山戯た奴の相手をまたさせられるだなんて思わなかったのだ。

 ブリーフィングでは一切触れられていなかったが、ペルシカは恐らく分かっていたのだろう。とネゲヴは確信していた。そうでなければ16Lab謹製の装備を複数放出する訳がない。

 

「チッ!ペルシカの個人依頼だから、どうせロクなのじゃないとは思ってたけど!」

 

 《報酬前払いの時点で嫌な予感はしてたんだよな……》

 

「言っとる場合か!来るぞ!」

 

「どうすんの?」

 

 《……まあ出会ったからには仕方ない。やるべきは一つだ》

 

 Vectorの問いを受けた指揮官の言葉に、ネゲヴは頷いた。そこから先は言われないでも分かる。

 

「ええ、そうね。──後退しながら一斉射撃!こっちに寄らせたら負けよ、絶対に近寄らせないで!!」

 

 《モニターを人形視点に切り替える、ドローンを特攻させて時間を稼げるか?》

 

 《やってみるけど、コンマ一秒だって稼げないと思う……!》

 

 ネゲヴの一声で部隊は動き始めた。バックステップで後退しながら一斉射撃で迎撃する。

 そんな部隊とは真反対にドローンは特攻した。多少なりとも稼げれば御の字というような行為だったが、59式の予想通りにコンマすら稼げずに撃ち抜かれ、ドローンは物言わぬ鉄くずに変わり果ててしまう。

 

 ドローンが破壊された事で一時的にモニターの映像が途絶えたが、直後に上下にガクンガクン動く映像に切り替わった。

 

 万が一ドローンが落とされた時や、ドローンを飛ばせるだけのスペースが無い時は、人形の視界を使って指揮を執る。これが二つ目の指揮の執りかただ。

 だがこの方法は人形の視界の範囲内でしか見れないために指揮が執りづらく、緊急用の手段という意味合いが強い。

 

 そう、たとえば今のような時に。

 

 《ネゲヴ、しかもあれVendetta(ヴェンデッタ)だ》

 

「冗談キツいわよ指揮官!……軍の連中め、E.L.I.Dに使えないからってあんな物を放出するなんて!!」

 

「あの武器知ってるの?」

 

「詳細は省くけど、簡単に言えば凄い頑丈で切れ味のいいブレードよ!核シェルターだってバターみたいに解体できる代物!!」

 

「そんなヤバい代物を、たかが一強盗団風情がなんで持っとる!?」

 

「強化手術は軍に入る時しか受けられない、つまりそういう事よ!」

 

 ああいう寄られたらヤバい近距離武器持ちの相手は、一定の距離を保ちながらの射撃戦で消耗させるのがセオリーだ。ネゲヴが引き撃ちという戦法を取ったのも、そのセオリーに従ったからである。

 

「のわっ……!?なんてデタラメなジャンプじゃ!強化人間というのは何でもありなのか?!」

 

 《まあ強化人間だからなぁ……二階の窓に、ただのジャンプで飛び込む連中だぞ?》

 

「E.L.I.Dと戦えるくらいの強化なんだから、それくらい出来て当然でしょ!」

 

 しかし、大きくジャンプして空に輝く太陽を背にし、視界を潰そうと三次元的な機動で迫ってくる様子はM1895の度肝を抜いた。

 そんな事が出来るとは夢にも思わなかったが、指揮官とネゲヴ曰く驚くことではないらしい。どうやら強化人間になると、そのような曲芸じみた動きも可能になるようだ。

 

A-1、攻撃を開始します

 

「自律人形からも攻撃が来た……強化人間にばかり気を取られてるとやられるわ!牽制の弾幕を張りながら、自律人形から目を逸らさないで!」

 

「……あの自律人形、狙いが結構的確ね。嫌な位置にバシバシ飛ばしてきてる」

 

「Vector!お主さっきからなんで、そんなに冷静なんじゃってうわっ!?」

 

 それだけではない。引き連れている自律人形が足や腕といった部位に的確に攻撃を飛ばしてきて、迎撃に集中する事も出来ない。

 弾速や威力からして、恐らくはスナイパーライフルだろう。なんとかしたいが、前衛が強化人間なだけに距離を詰められなかった。

 迂闊に距離を詰めてしまえば、民生用であるM1895達より上回る身体能力から繰り出される攻撃で簡単に切り刻まれてしまう。

 

「ご主人様、私が行きますか?」

 

 《まだ待て。お前を使うのは、ここ一番の大詰めだ。それまでは五体満足で生きててくれ》

 

「分かりました。それがご主人様の命令なら」

 

 飛び出そうとしたG41を宥めながら、指揮官は難しい顔でモニターを見た。

 スナイパーライフルを持っている相手から距離を取るなんて愚策もいいところだが、ライフルを相手に引き撃ちをしなければ全滅しかねない。

 相手の厄介さに溜息をつきながら、指揮官は思わずボヤいた。

 

 《面倒だな、まったく》

 

「くっ!?ダミーが!」

 

 M1895の悲鳴混じりの声でモニターに目を戻せば、作戦開始当初は×5だった数字が×4に減少していた。ダミーが一体落とされたのだ。

 他の人形の状況を見れば、誰もが多少なりとも傷ついている。

 Vectorはダミーの一体が破損一歩手前だし、G41も擦り傷が僅かに増えた。ネゲヴは殆ど傷がないものの、弾薬の面で少々不安である。

 

 ジリ貧と呼んでいい現状が続くのは非常にマズい。だが、今のところはどうしようもない。

 ネゲヴ達には、このまま下がるという選択肢しか用意されていなかった。

 

「指揮官、後ろのヤツがウザイわ。何か作戦はある?」

 

 《そうだな……スモークグレネードは装填してあるか?》

 

「最初の一発だけにね。弾薬自体は二発あるけど」

 

 《じゃあ使って自律人形の視界だけを塞げ。すぐ抜けられるだろうが無いよりはマシになるはずだ》

 

「了解。やってみるわ」

 

 言われた通りにウェポンハンガーに引っかかっていたアーウェン37を片手で持つと、まあまあ正確に狙いを定めて引き金を引いた。

 放たれたスモークグレネードは自律人形の少し手前に着弾し、その視界を煙で塞ぐ。

 

 《それからグレネードも一発おみまいしてやれ。上手く行けば、これで落ちるはずだ》

 

「これで落ちろ……!」

 

 恐らく抜けてくるであろう場所にグレネードを置いておく。単純なAIしか持たない第一世代の自律人形であれば、これでグレネードに直撃する筈だった。

 

 だが予想を裏切り、自律人形はグレネードに直撃しなかった。まるでグレネードが飛んでくる事を見抜いたかのように、大回りして煙から飛び出してきたのだ。

 爆発ダメージを最小限に抑えられた事にネゲヴは驚愕した。まさか自律人形風情にそんな事が出来るなんて思わなかったからだ。

 

「なに?もしかしてAIが強化されてるの!?」

 

 《おいおい……!》

 

「しかもアレ、なんか変じゃないかしら?良く見たら腕から銃が生えてるように見えるんだけど」

 

 指揮官がブレる映像の中で確認をしてみれば、Vectorの言う通り、自律人形の腕にあたるところから銃が生えている。

 

 それを見た59式が、目を見開いた。

 

 《あれは……!》

 

「あれは……なに?」

 

 《………………》

 

 《59式?》

 

 黙りこくった59式が心配になった指揮官が声をかける。すると、ちょっと元気がなくなった59式が説明をしだした。

 

 《ああ、ごめん…………あれは最近出回ってる武器内蔵型の特殊腕ね。動き回りながら高火力の攻撃を放つ、をコンセプトに作られたものよ。あれは恐らくスナイパーライフル内蔵型のタイプ》

 

「なるほど。動きながら的確に狙ってこれる理由はそれか」

 

 《武器腕。となると考えられるのは……》

 

「考えるのは後にしてくれんか!それより対処法とかを言ってくれんと、何時までも持たんぞ!?」

 

 足元に着弾した弾丸が大地を穿ち、勢い良く散らばった小石の破片がM1895の頬を掠める。

 細く赤い線が出来て、そこから垂れる擬似血液が服を汚すのにも頓着していられないくらいに、現状はマズかった。

 

 《武器腕は動きながら高火力の攻撃が出せるけど、デメリットとして装甲が脆いし、最悪の場合は弾薬に誘爆して自爆する。でも……》

 

 《ご丁寧な事に、こっちの有効射程に入らないように立ち回ってやがる。有効打を与えるには距離を詰めるしかないが──》

 

「強化人間相手に距離を詰めたら切り刻まれる。私は兎も角、他の連中はね」

 

「ならどうする?このまま続ければ弾が無くなるぞ!弾切れを起こせば同じ事じゃ!」

 

 実体のある弾を使っている以上、弾切れ問題はどうにも出来ない。移動力を損なわない程度に弾薬を持ってくると、あまり長時間の戦闘は展開できず、短時間に限定しても5回が限界だ。

 だからこそ通常の作戦時は物資輸送が可能な飛行場を確保して、そこで適宜弾薬や糧食を補給するのが当たり前なのだが、今回はそれを行えない。

 

 そしてこの戦闘で既にばら撒かれた弾は、おおよそ戦闘3回分。つまり中ピンチから大ピンチに移ろうかというところ。

 

「ナガン。ちょっと静かにしてくれないかしら?キンキン耳に響くのよ」

 

「これで騒ぐなという方が無理じゃろうVector!」

 

「こういうのは慌てた方が負けって言うじゃない。平常心でいいのよ。打開策を考えるのは指揮官の仕事なんだから、私達は黙って撃ってればいいの」

 

 耳元を掠めた弾丸にすら眉一つ動かさずVectorは言った。

 

 死んでも死ぬだけだ。それに戦術人形達にとって死は終わりではなく、人間がゲームでプレイヤーキャラを殺す程度の感覚でしかない。

 なのに、どうしてそれを恐れる事があろうか。

 

 ここに立つ自分自身だって、もう何体目の自分なのか分からないのに。

 

「どうせ私達には、人間のように柔軟な対応は出来ないのよ。だったら、ぐだぐだ喚いて指揮官の思考を削ぐのは賢明とは言えない」

 

「それは、そうじゃが……!」

 

 焦っても仕方のない事だと割り切ったVectorは、およそ戦場にいるとは思えないくらい穏やかな気持ちで引き金を引いていた。

 

「……もう限界か」

 

 足を撃ち抜かれたために放棄されたVectorのダミーを見た時、指揮官の頭に一つの考えが閃いた。

 

 指揮官は脳内で自分の考えを急いで纏めていき、それが言葉として漏れる。

 

 《……そうだな、これなら何とか行けるか?》

 

「なに考えてるのかは知らないけど、やるなら早くしてよね!」

 

 片手でアサルトライフルを、もう片手で予備火力のハンドガン(ぴぴこ)を持って牽制の弾幕を張りながらネゲヴは言う。

 アサルトライフルのマガジンが次の一つで底をついてしまう。これが無くなると、一マガジンしか無いサブマシンガンと二マガジンしか無いハンドガン(ぴぴこ)、そして弾数が少ないアーウェンしか無くなって、安定した火力が吐けなくなる。

 

 それだけでなく、既に人形の損失も馬鹿にならなくなっている。M1895とVectorのダミーが一体ずつ大破し、M1895のは二体目まで壊されかけていた。

 このまま続ければ部隊の損害が洒落にならなくなるし、それは副官として容認できなかったのだ。

 

 そんなネゲヴの急かしに指揮官は思い切った。どの道、取れる選択肢は多くない。

 迷って被害を大きくするよりは、賭けでも決断した方がいいだろう。

 

 《分かった。ネゲヴ、アーウェンの弾薬は残ってるな?》

 

「リロード用のならスモーク一発、通常弾頭が二発よ!」

 

 《よし。ナガン、ダミー借りるぞ。その片腕が千切れた破損寸前の奴でいい》

 

「それは構わんが、こんなボロボロのダミーを何に使う気じゃ?」

 

 今にも稼働限界を迎えて機能停止してしまいそうなダミーを指さしてM1895は疑問に思う。

 ここまでボロボロだと、もう用途なんて見つかりそうにないと思うのだが……

 

 《なぁに、単純な話さ。どうせ損するなら、その損を少しでも得に変えようってだけだよ》

 

 指揮官の姿は見えないが、その口元が笑っているだろう事を、その場の全員がイメージできるくらいに声の色が変わっていた。

 

 《ネゲヴ。かなりの速度で吹っ飛ぶ弾頭を的確に狙い撃てるか?》

 

「……私を誰だと思ってるの?それくらい鼻歌混じりに出来るわ」

 

 何をするのかを理解したネゲヴが不敵に笑う。なるほど。確かにこれは、損を僅かながら得に変えられる方法だ。

 ダミーを損失する時点で損だが、壊れかけならば損を軽減できるし、戦術に活かせば得になる。

 

 《よし、なら頼む。ナガンはダミーをネゲヴに寄せて、アーウェンのスモーク弾頭を抱え込んでくれ》

 

「……なるほどのう。特攻か」

 

 指示を出されれば、何をするのかは理解できた。指揮官は壊れかけのダミーを使った特攻をしようとしているのだ。

 

 《ああ。ナガンのダミーにスモークグレネードを持たせて特攻させる。そして自律人形と強化人間を始末する》

 

「勝算は?」

 

 《向こうの出方次第になるが、それなり以上にあるさ。お前が居るからな》

 

 それを聞いたネゲヴの口元が喜色に歪んだ。

 

 特攻要員を容易に確保できるのはダミーネットワークの功績の一つだろう。

 爆散させても心が痛まないし、飛び散る生態部品が相手の精神にダメージを与えられる。無駄に人間っぽく作ってあるから、飛び散る部品が人間のバラバラ死体っぽく見えるのだ。

 

 後は財布が痛まなければ最高だが、そこまで望むのは流石に高望みしすぎか。

 

「ならいいわ。こっちで隙を作るから、合図はそっちでお願い」

 

 《ああ。分かってる》

 

 指揮官はネゲヴの視界を使ったモニターを睨みながら、奥の自律人形の発射間隔をカウントしていた。

 一発……二発……三発……という間隔であるらしい事を、59式が分析して伝えてくる。

 連射の間隔は狭くないが、広くもない。発射直後の一瞬が勝負の分かれ目になるだろう。

 

 《耐えろ……》

 

 まだ狙いを定めているのか、自律人形は撃ってこない。

 そうしている間に、ネゲヴの持つアサルトライフルの弾が無くなった。

 

 ネゲヴが手早くそれを投げ捨て、ハンドガン(ぴぴこ)に持ち替えてから両手のそれをバラ撒く。

 

 《耐えろ……》

 

 弾幕の勢いが弱くなってしまったからか、更に距離を詰められた。油断すると、強化人間の一足飛びでブレードの射程内に入れられてしまいそうだった。

 

「オラァッ!」

 

 リロードタイミングなどを重ねて、弾幕を途切れさせた一瞬に地面が爆ぜた。

 戦術人形の目をもってしても捕捉が難しい早さで、ネゲヴの懐に飛び込んでくる。

 

 《耐えろ……っ!》

 

「ナガン!ダミー借りるわよ!」

 

「好きに使え!後で返してくれるならの!」

 

 ぶぉん!と空気を切り裂く音と共に振るわれた実体ブレードを、ネゲヴは空いていた右手で掴んだ、まだ損傷の無いM1895のダミーで阻んだ。

 

 ネゲヴが言っていた通り、バターのようにアッサリぶった切られたダミーから擬似血液が勢いよく吹き出し、外骨格やブレードを染め上げる。

 しかし、一瞬ではあるが時間が稼げた。その僅かな間に距離を取りながら、G41やVectorの援護射撃を受けて後退に成功。

 

「そらっ、来なさい……!」

 

A-1、ターゲット確認。中量二脚

 

 だが、その後退行動を読んでいたかのように自律人形がネゲヴの後退先に弾丸を放った。

 後退する位置を予測した自律人形がヘッドショットを狙ったのだ。

 

 その正確無慈悲な弾丸は、そのまま進めば狙い通りにネゲヴの頭を撃ち抜いただろう。

 

 それが、予定調和でなければ。

 

 《突っ込め!》

 

「この瞬間を待っていたのよ!ナガン!!」

 

「言われずともじゃ!」

 

 敵のAIは優秀だ。隙を見せれば容赦なく撃ち抜いてくる。

 

 しかしそれは、裏を返せば隙をワザと作ってしまうと我慢が効かずに撃ってしまうという事でもあった。

 

 《次弾装填から発射までの間に仕込みを終わらせるぞ!》

 

 足を地面に陥没させ、後退の勢いを無理やり殺してから前進のために動かす。

 脚力だけで地面を抉りとりながら、ネゲヴはスモークグレネードを抱えたM1895のダミーと並走した。

 

 《飛ばせネゲヴ!》

 

「そらぁっ!!」

 

 経験から僅かに早く指示を出した指揮官に言われ、ネゲヴが思いっきりそのダミーを蹴り飛ばす。

 指示を言葉にするタイムラグを織り込んで合図を早くした事が功を奏し、ダミーが背中からパーツを撒き散らして崩壊しながら、指揮官が思い描いた通りに狙った場所まで飛んでいった。

 

 全力の蹴りに耐えられるだけの耐久力が無かったダミーは、最後に残った上半身だけでスモークグレネードを投げて、その役目を終えた。

 地面に落ちた目玉部分のパーツを踏み潰しながらネゲヴはハンドガンを乱射、牽制の弾幕とグレネードの弾頭を撃ち抜くという2つの目的を達成する。

 

 炸裂した弾頭から煙が一帯を包み込み、強化人間の姿も煙に紛れて見えなくなった。

 

 時間にすれば一瞬だが、その一瞬を見逃す無能は此処にいない。

 

 《今だG41!自律人形に噛みつけぇ!》

 

「はいっ!!」

 

 合図と同時か、それよりも早くG41は走り出した。ダミーを引き連れたG41が勢い良く煙の中に飛び込み、自律人形を目掛けて一目散に突撃する。

 

「通さねぇよ!」

 

 もちろん、彼とて側を通る人形を見逃しなどしない。足音から進行経路を予測して、その道を塞ぐように移動すると、予想通りにやって来たG41に向かってブレードを振った。

 

 しかし、ここで彼にとっての予想外が発生する。

 G41が、ブレードの存在など無いかのようにシカトして突き進んだのだ。

 

 当然、進路先にブレードを置いているのだからスッパリと斬られる。もちろん人形にも痛覚が無駄にあるから、上半身と下半身が泣き別れる痛みというのは尋常のものではない筈だ。

 

 だというのに、その無機質な表情に変化は無かった。死ぬほど痛い目に遭っているというのに、どこまでも変化が無い。

 今まで痛みに呻くか泣き叫ぶという、人間らしい反応を見せる人形を殺してきただけに、G41のような反応が一際気味悪く思えた。

 

 更に強化人間特有の動体視力で無機質な青い両目と目が合ってしまい、彼の背筋に氷を突っ込まれたような寒気が走る。

 

 その間にも、G41の本体とダミーは自律人形に向かい一目散に駆けていった。

 

 《とっつけネゲヴ!ナガンとVectorはその援護!》

 

 その直後、指揮官は更に声を荒らげる。ここが正念場だけあって、その声には普段は無い熱意が宿っていた。

 

「言われなくても!」

 

「了解じゃ!」

 

「分かったわ」

 

 とっつき。正式名称はパイルバンカー。

 スカートで隠れる太ももに巻き付けられたホルダーに格納してあった、小さなそれを手に取ると、迷うことなくネゲヴも突っ込んだ。

 

「なッ……!?」

 

 G41の気色悪さに気を取られ、反応が遅れてしまう。咄嗟にブレードを振り回して距離を取らせようとするが、その頃には全てが遅かった。

 回避行動を取ろうにも、VectorとM1895の援護射撃が邪魔で動く事も出来ず──

 

「どうせ死なないでしょ!喰らいなさい!」

 

 速度が乗った渾身の右ストレートにパイルの破壊力が乗り、凄まじい威力を持った一撃が彼の腹部を捉えた。

 

 対人でぶつけていい威力ではない。マトモな人間であれば、ぶつけた場所に大穴が空いて即死である。

 

 しかし、そこは強化人間だ。

 E.L.I.Dに腹を喰い破られ、身体の至る所を貪られても5分ほどは死ねない頑丈さを持つ身体は、とっつかれても上と下が泣き別れなかった。

 

「がぁあああッッ!!」

 

 だが、いくら強化人間といえど、その衝撃までは無効化できない。

 

 外骨格を粉砕されながら吹き飛ばされた際に片手から離れ、空中を舞ったVendettaをネゲヴは掴んで距離を詰めた。

 

「かはっ、げほっげほっ!」

 

 地面に倒れた際に頭を強打したのか、その目は焦点が定まっていない。

 そして、そのすぐ近くには、もう一振りのVendettaが転がっている。どうやら倒れた衝撃で手が離れたようだった。

 

 それを取ろうと地面に這わせていた手を踏んづけて、ネゲヴが首筋にブレード刃を添える。

 

 決着はついた。

 

「終わりよ」

 

「くそっ!俺が、民生品の型落ちなんかに……っ!」

 

「強化人間だから勝てるとでも?お生憎様、お前みたいな奴の相手は慣れてるの。

 戦術も何も無い、身体能力に物を言わせたバカの相手はね」

 

 ぶっちゃけてしまうと、彼だけならネゲヴにとって何の脅威でもないのだ。

 今回やけに苦戦したのは、前衛の彼と後衛の自律人形のコンビネーションが合っていたから。そして武器腕とAIが優秀だったから。

 自律人形が八割くらい苦戦の原因であり、残りの二割はブレードの力。その両方の無い強化人間など、ネゲヴにとっては恐れるに足らず。

 

「まあ、褒めてはあげるわ。Vendetta(これ)の使い方もなってないのに、良く生き残れたものね」

 

「それは……俺の……!」

 

「お前の?違うわ。このブレードも、その外骨格も、あの自律人形も、何一つお前の物じゃない」

 

 G41が自律人形の首を顎の力だけで引きちぎって、本物の犬みたいに咥えている。

 無理に引きちぎられた首からは幾つものコードが伸びて、首から上が無い自律人形のボディは噴き出したオイルに汚れていた。

 

「色んなものを奪ってきたんでしょ?だったら、奪われても仕方ないわよね」

 

 それが、別れの言葉だった。

 

 

 

 正真正銘人間の血液に汚れながら、ネゲヴは盛大に溜息をついた。

 

「……酷い目に会ったわ」

 

 《まったくだ。依頼主が意図的に情報を伏せるのは良くある話だが、今回のは流石に見過ごせないな。後で文句言っといてやる》

 

「お願いね……それにしても、この自律人形に使われてる武器腕なんて見たことないわ」

 

 まるで噴水のようにオイルを撒き散らし終えたボディに近付いて、それを見た。

 途中まで人間のような肌をしているが、ある一点を境に無骨な銃身が光る。

 

 《それを売ってるのはAI研究所、だったか。第二世代型の戦術人形が主流の今になって、第一世代型の自律人形向けの装備やAIを売る新興組織》

 

 《規模や人員数は一切不明。オマケに接触はメールや代理の人間を立ててる徹底ぶり。I.O.P.社も正体を追ってるみたいだけど、まだ掴めてないみたい。

 でもI.O.P.社製品の自律人形に手を加えられるって事は、よほど優れた科学者なのか……それともI.O.P.社に内通者が居るのか……》

 

 指揮官の説明を引き継いで補足した59式の言葉に、M1895は胡散臭いという思いを溜息に乗せて言った。

 

「聞くだけでも分かるくらい胡散臭いのう。そんなところの製品を使うなんて、どうしてなんじゃ?」

 

 《……グリフィンに居ると忘れがちだけど、お前たち第二世代型の戦術人形は高価(たか)いんだ。

 だから代わりに比較的安価な自律人形をメインにしてるPMCは幾つもある》

 

 この自律人形もまた、そうしたPMCに売られる予定の人形だったのだろう。さっきのを見る限り、AIにも手が入っていると見て良さそうだ。

 フルチューンされた自律人形を奪われるなんて、と思わないでもないが、下手な人形の小隊ならば強化人間単独でも勝てるだけのポテンシャルはある。軍の装備があれば尚更だ。

 

「まあそうでしょうね。戦争、炭坑夫、従業員、ダッチワイフやラブドール……ああ、嫁や婿も出来たわね。そんな感じであらゆる用途に使える商品があたし達だけど、コストもそれ相応に高いわけだもの。

 ローエンドのおんぼろナガンだって、自律人形に比べたら高級品よ」

 

「さらりと失礼じゃな!?」

 

「あらごめんなさい。目の前に良い例えが居たもんだから、つい」

 

 死線をくぐり抜けた安心感からか、平時の軽口が戻って来た。M1895とVectorのやり取りを聞き流しながら、指揮官も安堵の溜息と共に言う。

 

 《AI研究所と言うだけあって、そのAIは出来がいいらしいってのは聞いてたんだ。正直、誇張なんじゃないかと疑ってたんだが……》

 

「紛れもない真実だったわね」

 

 《ああ。ちょっと値は張るらしいけど、下手な第二世代型の戦術人形を揃えるより安く済むし、それなりに強い。だから流行ってる》

 

 第一世代型の自律人形を扱うPMCの殆どが採用しているとさえ言われている程と言えば、その流行り具合が分かるだろう。

 

「まあ確かに、既存のAIより出来が良かったわね。武器腕も前衛がしっかりしてれば脅威になるし、複数で来られてたら危なかったかも」

 

 《要は当たらなければ良いんだからな。自律人形は安いから数も揃えやすいし、AIが良くなったとなると……それ専用の訓練が必要かもしれない》

 

「依頼主……ペルシカに提出するのとは別にデータも蓄積しておきましょう。電脳空間での訓練に活かせるわ」

 

 《ああ。さて、その自律人形と強化人間の死体を持って帰ってきてくれ。前払いだけだと大赤字だし、追加報酬とやらを頂かなきゃな》

 

 ネゲヴが強化人間の死体を担ぎ上げ、G41がダミーを使って自律人形をくの字に折り曲げて肩に担いだ。

 

 《はぁ……明日からまた、やりくりに頭を悩ませる日々が続くのか》

 

「最悪、前払いの装備を売り払うこと考えなきゃね」

 

 《そうだな。誰も使わないようなら売り払うか。別に無くても困らんしな》

 

 そうして歩いていると、ふと思いついたとでもいうように指揮官がネゲヴに言う。

 

 《ところでネゲヴ。途中のアレは必要だったのか?》

 

「アレって何よ」

 

 《とぼけんな。隙を作るって言った時に、敢えてアイツを近寄らせただろ。ご丁寧にリロードタイミングまで合わせて》

 

「必要だったわよ。ああすれば確実に狙ってくれると思ってたし、現にそうなってたでしょ?」

 

 ワザと隙を作ると言うが、あまりにもワザとらしいと流石のAIだって攻撃しない。

 しかし、あからさまでない程度に隙を作るのに、あれは必要だったのか。指揮官はそう言いたいらしかった。

 

 《どうだかな》

 

「……ははーん?なーるほど、心配してくれてたんだ」

 

 《………………すぐ近くに飛行場がある。迎えのヘリはそっちに待たせとくから、気をつけて帰れよ》

 

 それきり通信が途切れる。最後の言葉は、誰がどう聞いても少し慌てたような感じだった。

 図星だったらしい事を理解したネゲヴは、戻ったら揶揄ってやろうと決心した。

 

「ふふっ。素直じゃないんだから」

 

「あー……効くぅ……」

 

「Vector……お主、またやっとるのか……」

 

 嵐が去ったからか、完全に平常運転に戻って趣味を嗜むVectorと、気に入ったのか自律人形の首をガジガジ齧っているG41。そして、いたく上機嫌のネゲヴ。

 

 だらんと脱力したM1895は、どっと疲れたボディを引きずるようにして道を歩くのだった。





アーカイブス05:強化手術

コーラップスに汚染され、E.L.I.Dと化した元人間達を倒すために正規軍は多くの最新技術や兵器を導入しており、これもその一つである。

簡単に言えば、手術によって人間の肉体を改造し、総合的な戦闘能力を向上させるというもの。サイボーグ化させると言い換える事も可能。
正規軍でも最もポピュラーに使われている技術であり、この手術に耐えられなければ入隊すら出来ないとされている。

強化手術の内容は様々だが、最初に受ける手術では心肺機能や骨格、筋肉組織の強化といった感じの単純な肉体強化しかされないようだ。
そこから二回、三回と手術を受けると、人間の神経系を光ファイバーに置き換えて反応速度を向上させたり、頭にレーダーを埋め込んだりするらしい。

この手術は危険性が高いとされており、しばしば人格崩壊や発狂が確認されていると言われている。

(※軍の技術は不明点が多く、ソースも殆ど無いのでアーカイブの信憑性は高くありません)



アーカイブス06:AI研究所

第三次世界大戦の最中に誕生したとされる研究所。
当初難航していた第二世代型戦術人形の開発の際に『人間の脳から出る電気信号などをメンタルモデルに変換、その人間の人格を人形にコピーして人間のような人形を創る』というコンセプトの元に研究を行っていた。
しかし研究は実らず、グリフィンの設立と時を同じくして解体された。


しかし現在、同じ名前を名乗る新興組織が登場している。

I.O.P.社製第一世代型自律人形のAI及び武装を販売する組織として知られている。
しかし、詳細などは分かっておらず謎も多い。

交戦した部隊の報告によると、AI研究所製と思われるAIはI.O.P.社のAIよりも出来がいいようだ。

それ以外の情報は現在調査中。



アーカイブス07:DW12 Vendetta

軍が開発した二本一対の実体ブレード。
一見すると変わった要素は何もないが、そこは軍の兵器である。大抵の物をあっさりスパスパ切ってしまう。
また、とても頑丈。一体どんな物を素材にしているのかは分かっていない。

なお、復讐を意味するVendettaは開発コードであり、E.L.I.Dに大地を奪われた人類の復讐、という意味合いを持っているらしい。
たがE.L.I.Dに当てられる腕を持つ者が誰もいなかったので倉庫に死蔵されていたところを強奪されたようだ。

現在は当武器を所有していた強盗団と交戦、撃破したS03地区に保管されている。

余談だがVendettaは試作品らしく、この二本一対しか存在しないようだ。



新着メールが届いています。


FROM:ペルシカリア

TITLE:お疲れ


自律人形は受け取ったわ。まずはお疲れ様。首が歯形だらけなのは何かの暗喩なの?

色々言いたい事があるだろうけど、責めは今度直接聞くわ。聞くだけだけど。

近々そっちに向かうから、その時は歓迎よろしく。お茶請けはクッキーが良いわね。

あ、そうそう。追加報酬の件だけど、そっちに行った時に渡すわ。今すぐに渡せるものではないし、まだ承認されてないから。お偉いさんの頭は硬くて困る。禿げろ。

もちろん待たせる分、相応なのは約束するわよ。期待して待ってて。

じゃあね。お互い生きてれば、また会いましょう。
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