No Answer   作:報酬全額前払い

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今回は少し変わった感じの話になった気がします。のんびりした作風の方々の話題を出したからかもしれませんね。



戯言から兵器

 

「〜♪、〜♪」

 

 基地の一角、昔は会議室らしかったスペースを改装した所に、スプリングフィールドのカフェは店を構えていた。

 

 ここには味気ないレーションに飽きた人形や、単純にコーヒーを飲みたい人形などが集まってくる場所だ。

 人気ランキングを取ってみれば、きっとTop3に入ることだろう。

 

 始業時間前の今でも、これから仕事に向かう人形で賑わうカフェにネゲヴが足を踏み入れた。

 

「〜♪……あら、ネゲヴ。指揮官様なら向こうよ」

 

「ありがと。私にもモーニングセットくれる?」

 

「分かったわ。座って待ってて」

 

 ネゲヴはカウンターの内側にいるスプリングフィールドに注文を投げかけながら、指揮官が座っているテーブル席に向かった。

 隅にある窓際の一席。そこが指揮官の定位置だ。

 

「お待たせ。待った?」

 

「待った。それはもう凄くな。待ちすぎて、コーヒーとマフィンのお代わりを頼んだところだ」

 

 旧時代の一般家庭に良く見られたらしい出勤前のサラリーマンのように、指揮官は椅子に座って社内報を広げていた。

 それから目を上げ、指揮官はイタズラっぽく笑う。久しぶりに美味い朝食を摂っているからか、朝にしては珍しく上機嫌である。

 

「そこは嘘でも、今来たところとか言うもんでしょ」

 

「この空っぽの皿を見て、それでも騙されてくれるってんなら言うけど?」

 

「そのくらいなら騙されてあげるわよ。隣いい?」

 

「ああ」

 

 ネゲヴは隣の席に座って、わざとらしくない程度にキョロキョロと辺りを見回した。

 がやがやという、人が集まった時に限って聞こえてくる雑音のような音がネゲヴの耳を打つ。

 

「珍しいじゃない。ここで朝を食べるなんて」

 

「いいだろ。自腹を切ってでも、偶にはこういうのが食いたくなるんだ。

 特に昨日は、強化人間とやりあった後に面倒なパーティーにまで出席してるんだから。こういうご褒美の一つでも無いとやってられないよ」

 

 配給食以外の物を食べたいとなると、必然的に自腹を切らなければならないという辺りがS03地区の貧しさを表しているだろう。

 そこには配給食を含んだ福利厚生に資金を多く割けるだけの余裕が無いという切実な事情があった。

 

「悪いとは言ってないわよ。自分にご褒美、良いじゃない。あなたは特に頑張ってるんだから、これくらいの贅沢ならバチは当たらないわ」

 

「ああ。俺もそう思う」

 

 カウンター席でニヤニヤしながらこっち見てコーヒーを飲んでいたFALに中指を立て(くたばれビッチ)、向こうからも立てられた(黙れ淫ピ)後、指揮官が見ている社内報を覗き込む。

 

「面白い記事でもあった?」

 

「いやまったく。暇つぶしに見てるだけ」

 

「ふーん」

 

 PMCであるグリフィンには社内報……と銘打った事実上の新聞が存在する。そこには、どの部隊が何をしたとか、どこの地区の指揮官が表彰されたとか、そういう話だけが載っていた。

 正直な話、読んでいて面白い物ではない。しかし立場的に朝から娯楽に手を出すわけにもいかず、結果として情報収集という体裁を整えられる広報を読むという行為に落ち着いているのだ。

 

「…………そういえばさ、ウチって増員ないよな」

 

「そりゃあね。でも言い替えると、こんな辛気臭い貧乏地区に来る物好きや訳ありが居ないって事でしょ。いい事じゃないの?」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 何か言いたいような、そんな感じである。

 

「……D08だったか。417とかいうイレギュラー個体が居るのって」

 

 話題は唐突に、此処から遠い基地の話に移った。指揮官はふと思いついた風に、写真でしか見た事のないイレギュラーを話題に出す。

 その確認を取るような言葉にネゲヴは頷いて、そして付け足す。

 

「ええ。セクハラ指揮官のセクハラ基地よ」

 

 酷い認識であった。

 

「……まあ、仕事してるんなら良いんじゃないかと俺は思う」

 

「私もそう思うわ。こう言うのはアレだけど、グリフィンって戦績出してたら大体は見過ごされるしね」

 

 もちろんセクハラなどは推奨されないが、だからといって厳格に取り締まるわけではない。よほど酷くて人形から訴えられるとかされなければ、殆どのことは黙認されるのがグリフィンであった。

 

 おいそれで良いのかと思うだろうが、そもそも厳格にルールやら倫理やらを守っている企業が、この世界に一つだってある訳がない。

 グリフィンという大枠自体が、既にI.O.P.社と癒着してるようなものなのだし。

 

 なので社長も、実は他会社と裏で繋がる事を否定していない。バレないように上手くやれ、という事なのだろう。

 

「アレだな。ただし優秀な人間に限る。って奴だな」

 

「そうね。で、優秀だからセクハラしてても放置されてると」

 

「この場合は人形が嫌がってないのもありそうだけどな」

 

「なるほど。そういうプレイか」

 

 D08の人形たちに深刻な風評被害が発生した瞬間である。

 

 この一時で、ネゲヴの中ではD08の人形たちはセクハラプレイを楽しむ業の深い奴らという先入観が出来てしまった。

 業の深さで言えば毎晩のように薬物キメてやってるネゲヴの方が深いだろうに、見事なまでに棚上げである。

 

 ……もしかすると、自分の業が深いと思っていないだけかもしれないが。とにかく棚上げしていた。

 

「お待たせしました指揮官様。コーヒーとマフィンのお代わりです。

 はいネゲヴ、モーニングセット」

 

 そんな会話を中断させるように、スプリングフィールドがお代わりとモーニングセットを持ってきた。

 ちなみにモーニングセットは、オムレツとチーズを挟んだマフィンバーガーに、サラダとコーヒーが付いた物である。カフェの人気メニューだ。

 

「ありがと」

 

「ありがとなスプリングフィールド」

 

「いえいえ。ではごゆっくり」

 

 柔らかな笑みを浮かべてスプリングフィールドはカウンターの内に戻っていく。

 指揮官とネゲヴは会話を一旦やめて、それぞれ来た物に手をつける事にした。

 

 ネゲヴはマフィンバーガーで顔に笑みが漏れ、ブラックコーヒーを飲んで、そしてサラダに目を向けた。

 

「…………このサラダって、どこ産の野菜を使って──」

 

「それ聞くのか、聞いちゃうのか」

 

 知らない方が良いこともあるぞ、と言外に告げられた。だからという訳ではないが、ネゲヴはそれきり追求を止めて無言で咀嚼する。

 こちらを見ているスプリングフィールドの笑みが少し怖い気がするのは、どうしてなのだろう。

 

「真面目に答えるとSG社からだ。近くの食品工場で栽培してるらしいのを回して貰ってる」

 

「それ最初に言ってよ。なんで意味深に黙ったの」

 

「栽培するのに何を使ってるのかは分からないからな」

 

 ちなみに食品工場の近くまでは雨が降るエリアであり、その雨には多量の放射能が含まれている。

 

 そしてそれとは何の関係もないが、植物の栽培には水が不可欠だ。科学技術が進んだ今でも、農業用水という概念は消えていない。

 

「……食べちゃえば一緒よね」

 

 まあ、残す選択肢なんて最初から無いのだけども。だって貴重な野菜だし、汚染なんて今更すぎて騒ぐ程でもない。

 それにだ。この地区一帯に放射能の雨が降っているという事は、もうとっくの昔に全員が汚染済みであるとも言い換えられる。

 

 S03地区の汚染度合いを舐めるなと、心の中で何処かに向かって吼えた。

 

「……で、何を話してたっけ。ダイナゲートが最近グリフィンの色んな場所で飼われてる事だっけ」

 

「いやD08の……え?なによそれ、初耳なんだけど」

 

「なんかな。あの機械犬に萌える人形が続出してるらしい。D08でも飼ってると風の噂で聞いた」

 

 その流行り具合といったら、社内報に『身元不明のペットロボットを飼わないでください』と直接書かれるくらいだ。

 ということは、これが現在の流行らしい。

 

「へぇ……そういうのが流行ってるのね」

 

「ここにいると、世間の流行やら何やらから遠ざかっちまうな。……でもネゲヴ。もし何かの圧力が掛かって教官として他の地区に出向かなきゃいけない時、間違えて殺すなよ」

 

「向こうが居るって伝えてくれれば殺さないわよ」

 

 S03地区は閉鎖的なコミュニティであり、用事があっても滅多に余所者が訪れない事から、世間の情報については非常に疎かった。

 どれくらいかというと、月一回しか発行されない社内報が情報源扱いされるくらいである。

 

「こういうのを見てると、ここだけ世間から置いていかれてる事を実感するよ。若いモンの考える事は分からん」

 

「あなたも若いモンでしょ」

 

「いやぁ、もう老人の部類さ。身体は兎も角、心はな」

 

 なに言ってんだか。とツッコミを入れられながら、指揮官はコーヒーを口にした。インスタントではない、この時勢では珍しい普通のコーヒーである。

 社長がコーヒー派であるからなのか、グリフィンはコーヒーが安く飲める。代わりに紅茶類は少し高めだ。

 

 おいふざけんなと英国の銃を持つ人形は憤慨しているとか、していないとか。

 

「この近辺に、あの機械犬って居たか?」

 

「飼うの?G41がいるのに」

 

「ナチュラルにG41をペット扱いは止めてさしあげろ。あとIDWもペット扱いするなよ、キレるから」

 

 確かに大型犬気質だが、しかしG41はペットではない。IDWも猫気質だが、もちろんペットではない。

 G41はまるで気にしないが、もしIDWを正面からペットと呼ぼうものなら、語尾からにゃ、が消える程度にはキレる。ここのIDWはキャラ付けで言っているだけだからである。

 

「いや、そうじゃなくてさ」

 

 可愛いとは思う。だが指揮官がダイナゲートを見て最初に思いついたのは、飼うなんて可愛らしいものではなかった。

 

「あの機械犬って群れるだろ?」

 

「そうね」

 

「あれを捕まえて、爆弾を搭載するだろ」

 

「ええ」

 

「お手軽、かつ効果的な自爆テロ装置の出来上がりだなって思ってさ」

 

「…………確かに」

 

 ちなみに昨今のダイナゲート人気の高さを受けてか、ダイナゲートの内部に爆弾が積まれている事が多くなったそうだ。

 不用意に近付いた人形が消し飛ばされた事例が、幾つも確認されている。

 

「ところで、これを他のPMCが管理してる区画に解き放つとすると、どうなると思う?」

 

「そりゃ、各地で爆発しまくって大惨事よね」

 

「そうだ。しかも、あの機械犬は結構小さいからな。懐に潜り込むのも容易だ」

 

 そして懐に潜り込んだダイナゲートが、基地の電源設備を含めた主要設備の周辺に集まって大爆発する。

 それだけで位置が特定できない攻撃の出来上がりだ。基地が大いに混乱するのは間違いない。

 

「そして大いに混乱した地区に俺らが入り込めばいい。表向きは鉄血のテロ扱いになるから、不満の矛先が俺らに向くことは殆どない。完璧じゃないか?」

 

 ちょっと大真面目に社長に提案してみようかと考える指揮官の横で、ネゲヴは妙に感心していた。

 

「わかってはいた事だけど、人間の発想力って凄いわね」

 

「発想力こそ、人形に勝る唯一の武器だからな。

 でも今みたいな使い方が出来るからこそ、ウチではあの機械犬は飼えないぞ」

 

「下手しなくても大惨事だものね。連れてこないように、きつく言わないと」

 

 FALのフェレットを羨ましそうに見ていた若干名の名前がネゲヴの脳内に浮かんでくる。そして副官権限を使い、要注意人形としてサーバーに登録しておいた。

 何の前触れも無く唐突に要注意指定された人形達は、それはもう困惑したらしい。

 

「……いや待て。この際、逆にこっちで作って運用するとかどうかな?それこそ今の目的用に」

 

「なにを馬鹿な………………」

 

 否定しようとしたネゲヴが黙りこくり、真剣に何かを考えはじめた。

 そして考えた末に、ぼそりと呟く。

 

「アリね」

 

 S03地区は人手が足りていない。

 もちろんネゲヴが言うように辛気臭い貧乏地区に来る物好きや訳ありが居ないという事なので、それは世間的には喜ばしいことだ。

 

 しかし、運営側の指揮官からすると、ちょっと困った問題なのである。

 人手が無いから、このS03内に芽吹く悪意の芽を摘み取るのに時間がかかる。人手が無いから、テロまがいの行為を許してしまう。

 

 この街で発生している犯罪の三割くらいは、全くコントロールされていない。

 例を挙げるなら、先日発生した"希望の未来"とかいう自称人類人権団体は、その発生を確認できていなかった。

 

 それもこれも人手が無いから起こる不利益である。実際シャレになっていない。

 猫の手も借りたいという言葉が、まさに適切だった。……なお、IDWは猫っぽいだけで猫ではないので借りたい手に含まれない。

 

 人手不足が深刻なのは低層区画のパトロールだが、それをダイナゲートを模した自爆兵器にやらせてみるのはどうだろうか。

 見回り程度なら問題なくこなせそうだし、人形が居ないと安心しきった奴らの会話も盗み聞きできるだろう。本物の犬そっくりなスキン(追加装甲)でも用意すれば、更に良さそうだ。

 

 そして怪しい奴は即・爆殺。慈悲はない。わんこが出て殺す。

 

 疑わしき悪人は爆殺すべしという言葉が、既に消失して久しい極東の島国の由緒正しい書籍に書いてあるかどうか定かではないが、しかしそこには不意打ちは一度まで許される的なサムシングの言葉がある事は確認が取れている。

 

 そして、かつて挨拶を重んじた島国の民族は、殺し合う前に必ず挨拶を交わしたというのは有名な話だ。

 死合う前の挨拶を行わないのは凄い失礼とされ、腹切りという方法で償わなければならない程のケジメ案件らしい。

 

 

 話を戻そう。

 

 大真面目に実用化を考えられているダイナゲート型の偵察・及び爆殺ロボは、S03の深刻な人手不足を補うのに最適に近いものである。

 ボディを小さくすればコストは実際安く、機密保持のために自爆できる。しかもダミーネットワークと連動させれば電波でコントロールもできる。

 

「そもそもの話さ。人間の代わりの労働力として人形が生まれたのに、なんでその人形の代わりの労働力を作らなきゃいけないんだろうな」

 

「果てしなく遠回り、かつ無駄な事をしてるわよね。私たちって」

 

 しかし、人形の代替手段などという本末転倒めいた役割が必要になるのは、恐らくこのS03だけではないだろうか。

 

「取り敢えず試作してみよう。そして特攻兵器わん太郎がどれほど恐ろしいのかを、こっそり機械犬を連れ帰りそうな人形に試して分からせる」

 

「何事も体験するっていうのは大事なことよね。……ところで、その特攻兵器わん太郎って、まさか正式名称じゃないわよね?」

 

「正式名称だが?」

 

 真顔で言い切った指揮官に、ネゲヴは何も言えなかった。

 そんな訳で、これから生まれる特攻兵器は、わん太郎と正式に名付けられてしまったのだ。

 

「…………ところで、仮にこれが実用化されたとしてさ」

 

 社内報に再び目を落としながら、指揮官は何か閃いたらしい。

 また変な事を言うんじゃないだろうなと疑いの目をネゲヴから向けられながら、指揮官は言った。

 

「特攻兵器わん太郎とダイナゲートがバトる光景も見られるかもしれないんだよな」

 

 特攻兵器わん太郎vsダイナゲート。こう書くとB級映画臭が凄い。

 

 激しくぶつかるボディとボディに息をのみ、銃撃してくるダイナゲートに果敢に突っ込んで多数を巻き添えに爆発する特攻兵器わん太郎が涙を誘う。

 ふはははは、怖かろうと笑う謎マスクの素顔が明かされる時、待ち受ける衝撃の真実に誰もが目を背ける──

 

 ペットロボットは人気だし、もしテレビ放送すれば過去に類を見ない視聴率をたたき出せそうな気がしないでもない。

 

 わんこ大戦争という言葉が、どういう訳か脳裏にやってきた。

 

 

 さて、そんな戯言を放ちながら社内報を見ていると、目出度い話が一つ載っている事に気がついた。

 

 結婚話である。

 

 ただし、女性と女性。更に言うなら人間と人形の結婚という、少しばかり歪に見える組み合わせだが。

 

「へえ。人間と人形、しかも同性ねぇ……変わってるわね」

 

「良いじゃないか。そもそも人形と結婚してる時点で非生産的なんだから、それが百合婚だろうとホモ婚だろうと祝福されるべきだと俺は思う」

 

 異性だが人間と人形の結婚、人間同士だが同性婚、人間と人形かつ同性婚。

 これらは全て、非生産的という意味合いでは一括りに纏められる。

 

 であるならば、そこに付随する物に大した価値はないのではないか。

 

 この世紀末に至っても、異性との結婚が一般的である。百合婚だのホモ婚だのは少数で、変な目で見られる事も多い。

 だが、ノーマルだの百合だのホモだのというのは全て後から付随するものでしかない。愛の質に差は無いはずだ。

 

 たとえ異性婚でも相手が人形の時点で非生産的な事に変わりはない。

 そして人間同士でも同性ならば非生産的だ。

 

 であるならば、両者の違いは性別以外にあるだろうか?いや、あるはずがない。

 

 ならば、それが人間と人形の異性婚だろうと、人間同士の百合婚やホモ婚だろうと等しく祝福されるべきであろう。

 性的マジョリティだのマイノリティだのを持ち出して語る事はナンセンスだ。

 

「そんな熱弁すること?」

 

「俺の友人が語ってた事をそのまま言ってるだけだ。俺自身は別にどうでもいい」

 

 ちなみにそいつはホモだった。

 

「ところでネゲヴ。この記事の横に、しれっと広告っぽいの出してるスチェッキンって知ってるか?思い出せそうで、思い出せなくて……」

 

「知ってるも何も、思いっきり移動式屋台って書いてるじゃない。まあまあ有名な人形よ」

 

 行商人みたいな事をやってる変わり者という意味合いで、それなりに名が売れていた。

 尤も──

 

「ウチには一度だって来てないけどね」

 

「来るわけねーだろ。こんな世紀末極まったようなマジキチ共の巣窟に」

 

 S03へ通じる道には正体不明の死神の鎌(デスサイズ)が待ち受けているし、それを抜けても銃声が常に何処からか聞こえる世紀末な情勢が待っている。

 これだけでも、普通の奴なら避けて通るレベルの厄ネタだというのに、更には常に放射能を含んだ雨が降っているのだから、いよいよ来る理由が見当たらない。

 

 指揮官とネゲヴがコーヒーを飲み終わったタイミングを見計らったかのように、スプリングフィールドが食器を下げにやってきた。

 

「そういえば、指揮官様とネゲヴは既に誓約なさってますよね」

 

 指輪が嵌められた薬指を見ながらスプリングフィールドは言う。その目には、少しばかりの好奇心が宿っていた。

 

「宜しかったら、馴れ初めとかを聞かせてくれませんか?」

 

 指揮官とネゲヴは顔を見合わせた。

 

 これは言っていいものなのか?

 概要だけならセーフじゃない?

 

 アイコンタクトで、そんな会話が交わされる。

 

「……そうだな。これから仕事だし、軽くでいいなら」

 

「軽くで構いません」

 

 スプリングフィールドも女性という事らしい。他人のそういった話が気になるようで、興味津々とばかりに身を軽く乗り出した。

 

「俺がまだ指揮官見習いだった頃の話だ。余所の奴がネゲヴを含めた人形を連れて、見習いしてた基地にやって来た」

 

「え?ネゲヴさんって、最初は他人の人形だったんですか?」

 

「ああ」

 

 初っ端から告げられた衝撃の事実にスプリングフィールドが珍しく表情を崩した。滅多に見られぬスプリングフィールドの慌てように、得をしたような気がしながら指揮官は頷く。

 

 これほどスプリングフィールドが驚いたのには理由がある。

 

 というのも、普通、他人から人形が譲渡される事は有り得ないのだ。しかもネゲヴレベルともなれば尚更。

 理由は単純でメリットが無いから。実力主義なグリフィンで強い人形を手放すのは、即ち死と同義。

 

 人形を強く育てるのも大量の時間が掛かるし、強い人形というのは指揮官を象徴する存在でもある。

 ネゲヴの強さから察するに、彼女は前の持ち主の象徴的な存在だったに違いない。

 だというのに、それを手放すなんて有り得るか?しかもネゲヴは前の持ち主に欠片も未練を感じていないようである。それは何故だ?

 

「よく相手の方が納得しましたね……ネゲヴ、凄い強いのに」

 

「まあ、納得したというか、なんというか……」

 

 どうやら、そこは突かれると困るところのようで適当に濁された。

 

「で、なんやかんやあってネゲヴと誓約した」

 

「そのなんやかんや、とは?」

 

「それは言えないな。……そんな目をされても駄目だ。これは俺とネゲヴの黒歴史みたいなもんだからな」

 

 指揮官とネゲヴが席を立つ。時計を見れば、そろそろ仕事を始める時間であった。

 

「アレだ、最重要機密って事で納得してくれ」

 

 目の笑っていない指揮官の冗談めかした言葉に、スプリングフィールドは頷くことしか出来なかった。





某417ちゃんと、某指揮官ちゃんの作者さんから盛大にキレられそうな気がする……先制土下座、いいっすか?

そして昨今のダイナゲート人気に中指を立てるような使い方を提案したS03は何処へ向かおうとしているのか。
そして私も何を書いているのか、もう自分が分からない。疲れてるのかな……

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