【完結】借金から始まる前線生活   作:塊ロック

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M4A1に真実を伝え、俺の気持ちを伝えた上で…彼女の想いを聞かなければならない。
今まで触れ合ってきた俺には、その義務がある…そんな気がした。


夢と明日とそれからと

…ふと、立ち止まった。

 

「…俺、あいつの部屋が何処にあるのか…知らねぇ…」

 

いつもこちらの部屋に侵入して来る、気がつけば側にいる…等々。

()()()()()()()()()()()()()()ばかりだった事を思い出した。

 

「誰かに聞くか…いや、下手に動いたらAR小隊に邪魔をされる…」

「私達が、何ですか」

「あー、何というか…M4と話がしたいんだ。だから場所が知りたくてね…」

「そうですか。教えましょうか?」

「本当か?助かるよAR-…1…5…??」

 

唐突に会話に参加してきたAR-15の存在にビビる。

何でシレッと加わってるの君…。

 

「…何でしょうか?私の顔に何か?」

「いや…強いて言うなら凛々しくて素敵な顔をしているね」

「なっ…!?」

 

髪の色に負けじと劣らず顔が赤く染まる。

…ははーん?この姉妹機さては耐性ないのは元々だな?

 

「あ、貴方と言う人は…すぐそうやって相手を口説くの?」

「口説いてるつもりは無いさ。褒めてるだけだ」

「やれやれ、だいぶ好色な奴だなアンタは」

 

呆れ顔で後ろからM16がやってきた。

その後ろに犬のように警戒心剥き出しのSOPMODⅡと、M4が居た。

 

「…もう前に現れないんじゃなかったのかよ」

「ペルシカから事情を聞かされてね…相当ヤキモキするから話を付けに来た」

「丁度いい。俺もそのつもりで来た」

「はーん…?何を言うつもりだ?」

「簡単なことさ。M4」

 

名前を呼ぶと、ビクリ…と肩を震わせた。

 

「指揮官…」

「久しぶりだな」

「は、はい…」

「ペルシカから…お前の状態は、聞いたんだな」

「…はい」

「そっか」

 

ちらり、と背後の保護者三名を見る。

…隠そうともしない敵意。

 

「…良かったよ。電脳の損傷って言われた時は、気が気じゃなかった」

「良かっただと?あんたのせいでM4は…」

「姉さん、止めてください」

「…M4」

 

俺の襟首を掴み上げようとしたM16の腕は、M4に抑えられていた。

SOPMODⅡとAR-15も驚いている。

 

「M4、どうして…」

「姉さん。指揮官と二人きりにさせて下さい」

「ダメだ」

「姉さん、私が…話を付けないと、いけないんです」

 

瞳の奥に、いつもの揺れる感情は無い。

毅然とした態度でM16の前に立っていた。

 

「………わかったよ。だがな、そいつに何かされそうになったら呼べ、良いな?」

「はい。指揮官、行きましょう」

「え?あ、ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーグリフィン市街地、高台の公園ーー

 

 

何かと誰かと一緒に来る場所が多いなと、何となく思ってしまった。

 

「指揮官」

「なんだ?」

「指揮官は…どうして私達を襲ったんですか?」

「………金の為だ」

 

借金を返すために、怪しいながらも額のいい依頼に乗っかり、このザマである。

 

「お金の、為に」

「俺、さ。借金があるんだ…一生掛かっても返せないくらい」

「…え?」

 

グリフィンに来てから、俺は身上を初めて誰かに話しているのかもしれない。

 

「クソ親父が消えて、馬鹿みたいな額の借金だけ残されたんだ。ひどい話だろ?」

 

M4は黙ったまま。

俺は構わず続けた。

 

「グリフィンに拾われて、正直助かったと思ってる…最初はバカじゃねーのってずっと思ってたけどな」

「指揮官は、どうして…私とずっと居たんですか?」

「何で、か…最初は贖罪のつもりだった。でも段々目が離せなくなった」

 

危うくて。

彼女の背負うものが余りにも重くて。

 

AR小隊の存続理由。

聞きかじった知識しか無かった…が、目の前の少女が幸せそうに笑っているなら関係ない。

 

「俺と居ると、君は笑っていた。…なら、少しでも笑っていて欲しい」

「…」

「これは俺のエゴ。使命を忘れて日々を過ごす事なんて出来ない…」

「でも、私…幸せでした。胸の奥にあるもどかしい気持ちが、とても心地良くて」

「………そうか。なぁ、M4。俺が、君をおかしくした原因と知って…俺を、どうしたい?」

 

M4に殺されるなら、それはそれでいいのかも知れない。

それが彼女の選択なら。

 

「指揮官は…夢とか、ありますか?」

 

唐突に、M4は呟いた。

 

「夢?」

「はい。将来の目標を、人は夢と言うと聞いています」

「目標、か…何となくニュアンスが違うけどな」

 

俺の、夢か。

これも誰かに話すのは初めてだ。

 

「…どこか、片田舎でひっそりと喫茶店啓いて…そこで余生を過ごしたい…なんて、思った事はある」

 

命のやり取りも無く、誰かと笑ったり、泣いたり、当たり前の様に享受できる平穏。

俺はそれを望んでいる。

 

「…良いと思います。素敵じゃないですか」

「そうか?」

「はい。やっぱり、指揮官は良い人です」

「そんなんで判るのか?」

「これでも特殊部隊の小隊長なんですよ?」

「ははっ…なんだよそれ」

 

乾いた笑いが起きる。

 

「AR小隊長はお人好しが過ぎるんじゃないか?」

「指揮官も人の事言えるんですか?」

「それもそうか…」

 

お互いに笑い合う。

俺のやってきた事…それは、無駄じゃなかったのだろうか。

M4、彼女が俺に寄せる信頼と親愛は…作られたもの何だろうか。

 

「最初は、私も戸惑っていました。何でこの人がこんなにも私を…その、ドキドキさせるのか」

 

M4の独白が始まった。

俺はそれを黙って聞く。

 

「何度も自己診断をかけても不具合は見付からなくて」

 

ウィルスを最適化し、自分の一部とした事で解決してしまっているのが原因である。

 

「…それから、何でしょうか。ただ一度、顔を見ただけの指揮官の事を、焦がれる様になったのは」

「おいおい、俺の事は焼かないんじゃなかったのか?」

「…皮肉を検知。指揮官、私もアップデートを繰り返してます…その言葉の意味くらい、理解してます」

「そうか…」

 

一目惚れ、と言うのもあながち間違った表現でも無いみたいだ。

 

「私は…指揮官と一緒に居たい。共にありたい…」

「M4…」

「これが作られた感情だとしても関係ありません。私達は作り物…それがお似合いです。だから、私は…貴方が、好きです」

 

…何だかんだ、今までずっと、一言も言われなかったその言葉。

 

「…M4。君は、まだ初めての恋に戸惑っているだけだ」

「指揮、官…」

「俺は今、君に応えられない。だって俺は…君の指揮官じゃないから」

「…っ!」

 

M4の表情が、沈む。

見ていて辛い…が、続ける。

 

「仮に、もし仮に…俺の基地に配属されて、想いが変わらなかったのなら…君を改めて迎えよう。それじゃ、駄目かな」

「…!!はい、はい…私…M4A1は、必ず指揮官の下に行きます!だから、待っていてください!」

「小隊の事は良いのか?」

「…私が小隊長です!」

 

何となく、いつもの調子が戻ってきている様だ。

 

「所でさ、M4。俺の名前言える?」

「え…それ…は…」

「っぷ…ふふ、ハハハ!名前も知らない奴を好きになるか!」

「う、うううう!お、教えてください!」

「今か?…()()()()()俺は…ジョージ。ジョージ・ベルロック。S-12地区の指揮官だ」

 

…夕日が差し込んできた。

もう、出発の時間が近付いてきた。

 

「…もう、時間が来るんですね」

「ああ」

「…約束します。貴方の下へ、必ず」

「…待ってる。そこで、また話をしよう」

「たくさん、お話したいです」

「ああ」

 

一歩前に出る。

…もう、M4は着いてこない。

 

「それじゃあ、M4A1。()()()

「はい…!()()()()()()もお元気で…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人生、何があるか誰にも判らない。

 

借金抱える奴。

 

変な女に絡まれる奴。

 

最前線で指揮官をやる奴。

 

でも、生きてれば明日がある。

それからがある。

 

だから、夢があるなら明日を迎えられる。

 

「指揮官!着きましたよ…私達の基地に」

 

輸送トラックの中、9A-91に起こされた。

どうやら眠っていた様だ。

 

「可愛らしい寝顔でしたね」

「趣味が悪いぞ。カラビーナ」

「ふふふ。あら、アレは…新造された他の人形達ですね」

 

窓の外、手を振っている影が3つ。

その後ろに、こぢんまりとした建物が見えた。

 

「…いよいよか、俺が、指揮官になるのは」

 

だから、その夢に恥じない様に、精いっぱい生きていこう。

 

 

ーーーー借金から始まる前線生活、プロローグ 完




全40話といいうものすごく長いプロローグでした。
ここまで続けてこれたのはひとえに皆様の温かい声援のお陰です。

ひとまずジョージの物語はここで一度幕を閉じますが、また近いうちに前線生活編がスタートすると思います。

宜しければ、もう少しお付き合い頂けるとありがたいです。

ここまで、ありがとうございました。

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