S-12地区は喧騒に包まれていた。
日が昇る前には基地の人間は既に動き出していた。
昨日の激戦の後、誰も彼も動けなくなって一夜明かしてしまったのだ。
やる事が山積みになって襲ってきた。
整備班のフロアまで相棒…WA2000を連れてきていた。
…マントで肌を全て隠し、顔にも包帯が巻かれている。
「相棒。最優先で修復回してある。行ってこい」
「別に、そこまでしなくても…部外者なんだしここの人形優先しなさいよ」
「喧しい。生体パーツにどんな負荷掛かってるか分からねーんだから早く行け」
「何よ、心配でもしてるつもり?」
「…そうだ。お前がMIAって聞いてから心配で堪らなかった」
「なっ…ぷっ。可愛いとこあるじゃない、そっちも」
「…んだよ、あんときの仕返しか?」
「悪いかしら?」
「全然。ったく、元気じゃねーか…それじゃ、話は通してあるから早く直してこい」
仕事もまだ山積みだからなぁ。
踵を返して執務室に戻ろうとした時に…不意に、手を掴まれた。
「…相棒?」
「…………あ。その、ごめん…そんなつもりじゃ、なくて」
無事な手が、震えていた。
気丈に振る舞っているだけだったことに、俺もようやく気が付いた。
「…よっと」
「え、ひゃっ!?」
WA2000の腰に手を回して肩を支えた。
所謂お姫様だっこで持ち上げた。
…軽いなぁ。
機械が中に詰まってるなんて想像できない。
「な、何すんのよ!」
「一緒に行くぞ」
「バカ!仕事は!?」
「お前の為に時間割けないなら辞表叩き付けてやる」
「バカ!人形の為に人生棒に振らないでよ!!」
「…ははは」
「…あはっ…」
お互いに笑い合う。
何というか、イヤに懐かしい。
ずっとこんなやり取りしてたなと思い出す。
「早くお前の顔見たいよ、また」
「…待ってて。また戻ってくるから」
「今度は離さないからな」
「…うん」
整備班にこのまま入って散々茶化されたが、二人して顔真っ赤にしてクールに去る。
「頼んだぞ」
「了解!オラ野郎ども!お姫様のお色直しするからテメーらどっか行ってろ!!」
「指揮官のお気に入りだから、覗いたら殺されるぞ!」
整備班も男女混成になる時代…まぁ、戦術人形も女性型ばかりだしその方が気楽なのだろう。
さて、執務室に戻るか………。
「じぃー…」
「うおおおおお!?」
部屋から出た瞬間、9A-91が目の前に現れた。
…心なしか、ジト目。
「9A-91か…どうした?」
「…知らない人形と、ずっといちゃいちゃしてましたね」
「え?いや、お前は確か…AR小隊救出の時に居たから知ってるだろ?」
「…居ましたか?あの人」
「オイオイ…」
思わず脱力する。
本当に興味ある事以外極端に無関心だな…。
「指揮官。私、頑張りました」
「え?ああ、そうだな。あのコンバットパターンの再現は上手かったぞ」
「えへへ…」
帽子被ってなかったしなでてほしかったんだろう。
髪を乱さない程度に撫でてやる。
気持ち良さそうに目を細めている。
「それで指揮官」
「えっ」
がしっ。
目に見えないスピードで俺の手首に9A-91の手が食い込んだ。
いたたた。
「私、ご褒美が欲しいです」
「痛いから離して欲しいんだが」
「指揮官、私に、ご褒美を下さい」
「え、ちょ、おうふ痛っ!?」
ぎりぎりと手を引かれて、そのまま投げられて背中から床に落ちた。
…腹の上に9A-91が跨った。
「あれなんかデジャヴ」
「指揮官…ここ、誰も来ませんから…」
「うっそだろお前!最近無かったからてっきり諦めたと思ってたのに!?」
「…最近ちょっとライバルが増え過ぎたんですよ。でも、今が…今がチャンスなんです…!」
「やっ、ヤメルォ!!ベルト外すな!!」
「うふふ、楽しみましょうね」
「アッー!!」
「ジョージさん?何をしてるんですか?」
「あっ、トカレフ!たす…け…」
「ひっ」
9A-91の表情が固まった。
…俺も、ちょっと気圧されてしまった。
いやだってトカレフ凄いイイ笑顔してるんだもの。
目が笑ってない奴。
これ、絶対怒ってるやつだ。
「9A-91さん?」
「は、はい…」
「おいたは、いけませんからね」
「…ひゃい」
これが、レベル90の戦術人形の風格か…。
「ジョージさん」
「えっ、俺?」
「そこに座ってください」
「は、はぁ」
「正座」
「えっ」
聞き返したけど答えてくれなかった。
こわい。
逆らうと嫌な予感がしたので正座した。
…普通に床もコンクリートだから痛い。
「ジョージさん?私、言いたい事いっぱいあるんですよ?」
「奇遇だな。俺もトカレフとは話したい事はいくらでもある」
「真面目に聞いてください」
「アッハイ」
「良いですか?貴方は指揮官なんですよ?何で指揮官が前線に来ちゃうんですか」
…先日の作戦での事にご立腹な様で。
割とガチで怒られる流れになっている。
「それに、また興奮剤刺しましたね?カラビーナさんが停めたにも関わらず」
「それは、何というか…刺さないと真っ先に殺られてただろうし」
「そう言う問題じゃありません!副作用も凄いんですよ!?」
普段から想像できない剣幕で捲し立てるトカレフ。
…心配掛けてしまっていたようだ。
「…ジョージさんは、WA2000さんの事を聞いてから元気が無くなってて、凄い心配したんですよ」
「…すまん」
「目の前で居なくなられるかもしれないって思って、怖かったんですよ」
「…ああ」
「お願いですから、もうちょっと自分を大事にして下さい」
「分かった…」
段々泣きそうになっているトカレフを安心させようと、立ち上が
「〜〜〜!?!???!」
…ろうとして、悶絶して倒れた。
足に血が回らなくて痺れていたのだ。
「…何してるんですか」
「あっ、足が…っ!痺れ…!!」
「…ぷっ。あははは…本当に、ジョージさんはジョージさんですね…」
「何だよそれ…」
「ふふふ…9A-91さん、反対から支えてください」
「はい」
トカレフと9A-91がそれぞれ両脇から俺を抱え上げて立たせた。
…二人共俺より小柄なのに。
人形の力ってすげーな。
「執務室に向かいますよ。カラビーナさんがいい加減怒っちゃいます」
「あー、それは拙いな。アイツ怒ると長いし面倒なんだ…」
「そうですね…じゃあそう伝えますね」
「ちょ、やめろ下さいませんか9A-91!?」
…そのまま、戦術人形二人に引きずられるようにして執務室へ向かった。
途中でスタッフがぎょっとしながらこちらを見ていた。
次回から日常ほのぼの回が挟まります。
…ほのぼのです!ちゃんとほのぼのします!!
内容については里帰りとか再会とかです。
次回の更新をお楽しみに。