レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています 作:ペニーボイス
『♪帝政ロシアは懲罰する。バルト海から太平洋に至るまで。世界中で歌い、讃えるのだ。首都を、ウォッカを、帝政ロシアを。』
ビールを飲んで酔っ払い、頗る上機嫌になった皇女殿下が著作権スレスレというかほぼアウトなんじゃないかという歌を歌っている。
俺といえば、殿下の隣に座り、画面上でこちらの優勢を見て満更でもない顔をしていた。
敵は追い込まれ、我がロシア軍第1悌隊を止められないでいるし、極端に狭い地形に押し込められている。
慢心王ではないが、もうここまでくれば是非とも慢心したい。
「コイツは勝った」と。
敵の将軍は俺の向かい側で渋い顔をしているし、本来なら彼の名からして負ける事などあり得ないハズだが、しかし、現代のコンピュータゲームとなると話が違うのだろう。
"征服王"、アレクサンドル大王、又の名をイスカンダルは、その巨体を縮こめて画面を難しい顔で見ていた。
「流石はわたくしが見込んだだけの事はありますね、シマズ!得点3点!!」
「有難き幸せにあります、皇女殿下!!ロマノフ家に栄光あれ!!」
俺は別にロシア貴族でも何でもないが…そもそもロシア人ですらないが、皇女殿下からは報酬を貰っているし、かの無敗の"イスカンダル"を画面上とはいえ追い込んでいることに高揚感を得ていた。
我々は今、我がささやかなる私室No2にて大●略をプレイ中。
ちなみに私室No1は完全に酒場になってしまった。
邪ンヌたんがDr.ロマ二に圧をかけてくれたおかげで、俺は安心して寝床とできる部屋をもう一部屋手に入れたのだった。
正直、私物類を移動するのが面倒だったが、改装リニューアルオープンした"BAR DO LE"常連客の皆様がお手伝いしてくださり、かなりの短時間で引越しは完了した。
アリガタウアリガタウ。
皆さん本当にアリガタウ。
新しく手に入れた私室はBAR DO LEの隣部屋で、金をかけた施設の割には壁が薄く感じるほど防音工事はされていなかった。
ただ、それはあまり問題にもならない。
BAR DO LEが開いている時は、大抵俺もBAR DO LEの方に行く。
業務上の観点から部屋の管理者にサーヴァントを指定するわけにはいかないので、鍵はまだ俺が持っているし、それなら常連客で賑わっている間はそちらにいた方が良い。
昨日の夜も楽しかった。
婦長がいつも以上に酔っ払い、"威光"に俺を挟み込んだ事を長時間忘れたままにしていたのだ。
何度でも言おう、貴女は神か?
日本では未成年の飲酒は違法だが、ヨーロッパではどうかは知りもしない。
ただ、ロシア人と酒は切っても切り離せない関係にある。
驚くべきことに、つい最近まで、ロシアではビールは"食品"扱いだった。
コ●・コーラとかカル●スとかと同じ扱いだったのである。
よって皇女殿下が勝手に俺の鍵を使ってBAR DO LEからビールを持ってきて酔っ払っていたとしても大して何も思わない。
…ダメな大人だと思うかもしれないが、現在BAR DO LEのカウンターにはインペリアル・イースターエッグが一つ転がっているし、俺も俺でインペリアル・イースターエッグをこの間のとは別に2つ受け取った。
イースターエッグばら撒き過ぎじゃないかい?
これじゃあ希少性が失われてしまうんじゃなかろうか?
何だって皇女殿下は何事もなかったかのようにポンポカ数億円規模の宝物をバラ撒けるのか?
恐るべしロマノフ家、恐るべし帝政ロシア。
そうは思ったものも、俺もイースターエッグの美しさには魅了されてしまったため、売って財産にしたいとかではなく純粋にコレクトしたくなっている。
だから皇女殿下の飲酒に難癖をつける気はないし、俺は新たなイースターエッグを目指してかの征服王とゲーム中なのだ。
皇女殿下が下賜してくださったイースターエッグ2つの内の1つはBAR DO LEの鍵借用とビール提供の"功"、もう一つは『征服王イスカンダルにロマノフ家の偉大さを実感させる報酬』…つまり皇女殿下の代わりにゲームをする事の"功"である。
………"功"って呼んでいいのこれ?
本当にすぐイースターエッグ渡すよね。
皇女殿下によってポンポカばら撒かれるイースターエッグは、この戦略シュミレーションゲームの景品にもなっていた。
そもそも、このゲーム対戦の発端も、征服王イスカンダルがイースターエッグを欲しがった事による。
カルデア内でサーヴァント同士が普通に戦うとカルデアが崩壊する可能性があるので、イスカンダルはこのゲームでの対戦を申し込んだというわけだ。
ところが皇女殿下は軍事シュミレーションの経験がない。
そこで、今日の仕事が早めに終わり、その辺でブラブラしていた暇人電気技師をイースターエッグで雇ったというわけだ。
そして、現在に至る。
「ぬ〜ん、中々にやるではないか。」
「はははっ、かの征服王からそのようなお言葉をいただけるとは。」
征服王イスカンダル配下の米国軍は劣勢に立たされている。
我々、ロマノフ=シマズ連合軍はロシア製長距離弾道ミサイル・スカッドと無誘導弾道弾フロッグ7の一斉発射と共に第1悌隊を進撃させた。
米国軍守備隊が混乱しているうちに、複数のT72及びT90主力戦車が前線を攻撃。
突破口を構築し、その後は第2悌隊が穴を広げて敵後方へと進出。
米国軍防衛線は崩壊し、最前線の主力部隊は包囲・殲滅され、彼らは防衛線を一段引き下げねばならなくなった。
しかし、我々は第3悌隊を続けざまに投入。
敗走する米国軍に徹底的な追撃を加えて彼らの本陣まで追い込んだ。
今現在、第3悌隊は再編成完了。
第1悌隊の残存と第2悌隊は再編成中で、その完了を持って最終攻撃へと移行する予定である。
ここまで読んでいただければ分かる通り、正にマニュアル通りの典型的な全縦深同時打撃の再現に努めたつもりだ。
さらに言えば第3悌隊の背後には予備の第4悌隊までもが控えている。
イスカンダル合衆国軍は絶望的だと言い切っても、もはや慢心でもあるまい。
これを可能としたのはロシア製兵器特有のユニット単価の安さと、中東戦争式の対空陣地の配備による。
征服王は…おそらく大好きなB2爆撃機でこちらの悌隊を叩こうとしたものの、こちらの管制機に発見され、まずはS400対空ミサイルに、次にトールM1、最後にSA13とその個人携行型SA14、及びZU23機関砲によってその任務を妨害された。
撃墜こそはされなかったものの…しかし、あれだけのコストをかけて製造して戦果ゼロである。
ロシア軍の恐ろしさはその高度な機械化によるところも大きく、これらの重対空装備がまさに"動く対空陣地"と化して地上部隊に対して絶対的制空権を約束したのである。
おそロシア。
「シマズ。」
「はい、皇女殿下。」
なんやなんや、どしたんや。
いきなりそんなコソコソ声で。
「第1・第2悌隊と第3悌隊の間に敵の小部隊が残存しています…掃討すべきでは?」
「殿下、その為の第3・第4悌隊です。これらの小部隊は予備を持って逐次包囲殲滅を行っていきます。ご安心を。」
「そうですか。ならば問題はありません。」
「……これで…第1・第2悌隊の再編成は完了しました。次のターンで蹂躙に移れます。ロマノフ家に勝利を!」
俺は勝利の確信をもって、『ターン終了』ボタンを押した。
まあ、いくら無敗の征服王とは言え、この大劣勢を覆す事はできまい。
そう思ったものの、次の瞬間には俺の思い上がりの甚だしさを感じさせらる事となった。
その最初の初撃は、征服王イスカンダルの言葉だった。
「うん、確かに順当な手ではあろう。だが、時として"マニュアル"なるものは自らを縛る鎖ともなりかねん。うぬらがそれを知らぬなら、余が王として教えてやらねばなるまいてぇ」
衝撃である。
米国軍のM113装甲兵員輸送車指揮車型・通称"コマンドポスト"が何の臆面もなく本陣から飛び出した。
ゲームの特性上…いや、普通に考えてこういった指揮車両が先陣に立つ事などまずあり得ない。
電子装備は豊富でも、装甲は貧弱で、武装もない或いは心許ないはずなのだ。
征服王イスカンダルもどうかしてしまったんだろうか?
このゲームにおいて指揮車両に与えられている役割は、敵電子装備への妨害である。
だから通常は首都防備に配置して、本陣となる中枢部への長距離攻撃や爆撃を妨害…ん?待て?
俺は画面上で先陣切って飛び出した指揮車両の行く先を見る。
なんてこった、連中の行き着く先には中東戦争式の"移動対空陣地"があるではないか!
「ぬわっ!?クソッ!?やられた!!」
「落ち着きなさい、シマズ!説明を!」
「征服王はコマンドポストを使って"移動対空陣地"の装備を無力化する気です!」
「なんですって!?」
「対空陣地がコマンドポストの電子装備で妨害を受ければ、敵は航空攻撃でも対空陣地に損害を与える事ができます!」
「シマズ、大丈夫です。とにかく落ち着きなさい。その為の護衛部隊のハズではありませんか?」
「た、確かにその通りです、殿下…」
「ぬははははッ!!王とは誰よりも豪胆で、勇猛で、果敢であらねばならぬ!それでこそ名だたる勇者をまとめ上げることができるのだ!!…ただ、貴様?貴様は貴様とて"王"としてではなく"将"としての務めを果たさねばなるまい?」
征服王の言葉に、ハッとして画面を見直した。
「余の魅力に目を奪われるのも分からぬわけではないが…もう少し周りに目を配るべきであろう?」
気づけば、第3悌隊を用いて各個包囲撃破する予定だった敵小部隊が一箇所へ向けて集結している。
小部隊単体なら大したことはない、無視できる。
部隊の兵科もバラバラで、歩兵2個ユニットや戦車1個ユニット程度なのだからいつだってどうでもできるからだ。
だが、それが集結しているのを見た時、俺の額は脂汗で満ちることとなった。
「ま、ま、まさか…」
「おう、そのまさかよ。」
「信じられない、一体どこで…こんな知識を」
「どうしたのですか、シマズ!しっかりなさい!」
「皇女殿下…我々は追い込まれております。」
「?…何を言っているのです?征服王が突拍子もない行動に出たからと言って…ましてや敵の小部隊が集結しただけで騒ぎ過ぎです!一時的とはいえ、我が臣下ならしっかりとなさい!」
「違います!違うんです!!アレはただの小部隊じゃありません!せ、征服王は、"戦闘団"を分散配置していたんです!!」
征服王イスカンダルが大国ペルシアまでをも屈服させる事ができたのには、数多くの要因がある。
兵士の質と士気、配下の部下、そして本人のカリスマ性。
だが、"それだけ"ではフェニキア人に勝てたところで精一杯だったかもしれない。
軍事面における、彼の最も重要な特徴は、おそらく…その戦術の柔軟さだろう。
一例を挙げるとすれば、遊牧民との戦いがそれにあたる。
一撃離脱戦法に徹する遊牧民に対して、従来型のファランクスでは機動力が不足していたのだ。
そこで征服王イスカンダルは、投槍騎兵と軽装歩兵の混成部隊を編成した。
異なる兵科を組み合わせて一つの部隊として運用する構想は、近現代ではナチス・ドイツの『
そして、その構想は画面上でも繰り広げられていた。
分散配置されていた小部隊は集結し、一つの戦闘団を形成している。
そしてその戦闘団は、手始めにとばかりに対空陣地の護衛部隊への攻撃を始めた。
こちらのT90主力戦車は敵戦闘団による対戦車ミサイル・携行対戦車火器に破壊され、最後にはM1エイブラムスで蹂躙された。
「さて、余のターンを終わろう。」
「…な、な、な、なんてこっ」
「しっかりなさい!」
パッチン!
狼狽える俺に、皇女殿下からの平手打ちが飛ぶ。
いたぁい、涙が出ちゃう。
男の子だけど…
つーかこんなんで平手打ちされるとは思わなんだよ。
「忘れてはなりません!あなたは今ロマノフに仕えています!あのロマノフに仕えているのです!」
「………はい、殿下!…そう、そうです!まだ狼狽える事はありませんね!第3悌隊を進軍させます!」
ドカーン!!
「じ、地雷ぃぃぃいいい!?いつの間にこんなモノを!!!」
「貴様は視野が狭すぎるのだ。
「こここ、こうなったら、無理くりにでも突破を!!」
第3悌隊には無理くり地雷原を進軍させたが、当然進撃速度は鈍る。
仕方がないので第1・第2悌隊を崩して、対空陣地の保守に回すしかない。
部隊を転回させた結果として、こちら側の最前線には大きな穴ができてしまった。
もうやんなっちゃう!
「タ、ターンを終わります。」
「そうか…では、余も本気を出すとしよう。」
筋骨隆々の征服王が突然椅子から立ち上がる。
何かを始める気のようで、大きく伸びをして空気を吸っていた。
その圧倒的な存在感と威圧感と言ったら…多分、皇女殿下が俺の右肩に手を置いてくれてなかったらガチ泣きしてる…。
「王とはッ!!誰よりも鮮烈に生き諸人をも魅せる姿を指す言葉ァ!!」
『然り!!然り!!然り!!』
征服王が大声でいきなりそんな事言い出したのも驚いたが、目の前のコンピュータがいきなり『然り』とか言い出したのはもっと驚いた。
見れば画面の中の風景が変わっている。
先程までヨーロッパの平原だったのに、今では砂漠の戦場になっているではないか。
おいこら、待てやい。
なんで画面の中で宝具発動できんの?
やめて?そういうのやめて?
「我が王道が誇る最強宝具!!『
「はい、ストップ。」
「……なんだ小娘、此の期に及んで邪魔だてするか?もう少し待ってくれても良いではないか。余のターンであろう?」
「征服王、あなたの実力はよく分かりました。このゲームでの戦いもあなたの勝ちです。」
「ほほっう、ならばイースターエッグとやらは…」
「ですが!反則行為に及んだ以上は、イースターエッグを差し上げるわけにはいきません。」
「は、反則行為?なんで?」
「なんで?じゃありません!!当たり前です!ゲームの中で宝具使うヒトがどこにいますか!?ゲームのルールからして反則です!ダメッ!認めません!」
「………こりゃ何言ってもダメかぁ。勿体無いなぁ…」
征服王イスカンダルはがっくしと肩を落としていたが、画面上の"王の軍勢"はロシア軍第一悌隊から第四悌隊まですっかり打ち破ってこちらの首都を落としていた。
「あの、一つだけ良いですか?どうせやるなら最初っからやれば良かったのでは?」
「ふむ、確かにな。だが………それでは面白くなかろう?」
そう言って征服王はニヤリと笑う。
俺はその笑みに、恐らく彼のカリスマ性の一端を見た。
?「ア…ア…」
皇女「どうしたの?」
?「皇女殿下欲しい、皇女殿下欲しい」
皇女「…コレ、あげるね?ヴォルガ川の神様からもらった泥団子!」
?「ぐへええええええ」
何を書いてるんだ俺は。
書けば出ると言われたので(違う)
征服王の具体的内容サラッとさせ過ぎですね、すいません。
あと主人公が「お前はカドックか?」状態ですが、皇女殿下はあくまで金で雇われた臣下程度にしか思っていませんのでご安心を(なんのご安心なのか)