レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています   作:ペニーボイス

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14 誰かシゲルソンって言いました?

 

 

 

 

 

「あ……オルタ!探したんですよ!今日と言う今日はお姉ちゃんがしっかりとお説教を…待ちなさい!!」

 

「誰が待つかヴァァァカッ!!シマズ!逃げるわよ…って、もう逃げてるし!!」

 

 

 

ああ。画面の前の紳士淑女の皆様ご機嫌麗しゅうございます。

冒頭初っ端から何事かって?

そりゃ勿論、アレですよ。

帰り際に邪ンヌちゃんと駄弁ってたら、何かにブチギレていると思わしき白聖女が突っ走ってきて危うく姉妹喧嘩に巻き込まれそうになってたとこなんです。

ルーラーvsアヴェンジャー始まる前にスクーターで脱出できましたけどね。

ふぅー、安心安心。

 

「安珍様!?」

 

違います、そんな事言ってません。

マスターはあちらへ行きましたよお嬢様。

ドラゴンファイアーはあちらの方へとお向けなさい。

 

 

…さて、危うくサーヴァント擬似姉妹の大喧嘩に巻き込まれそうになったものの…

 

 

ドンッ!!

 

「飛ばしなさい、シマズ!あの聖女しつこいんだから!」

 

「オルタ!待ちなさい!お姉ちゃんの言う事を聞くのです!!」

 

「だーれーがーお姉ちゃんだッつーの!!」

 

 

カチャッ!

パンパンパンパンッ!!

 

 

あー、いや、これはもう"巻き込まれた"と言うべきですかね。

邪ンヌさん?

何で俺の電動スクーターに飛び乗ってきた上にホルスターからG30自動拳銃を勝手に引き抜いて使ってくれてるんですか?

何勝手にドライブバイをキメてくれちゃってるんすか?

あの、これ引き抜くだけでも公的書類を山ほど書かなきゃいけないんですよ。

そういう所だけはジャパニーズスタイルなんですよ、この施設。

わかってます?

 

 

「チッ!やっぱり銃程度じゃ足止めにもならないわね…シマズ、飛ばしなさい!!」

 

「銃程度っていう、表現の威力…」

 

「いいから飛ばしなさい!とーばーすーの!!!わかる!?」

 

「いや、でもこれ以上スピード出したら危ない」

 

「ああっ!もう!ハンドル貸しなさい!!」

 

 

邪ンヌちゃんが俺にのしかかるような形で、スクーターのハンドルに手を伸ばす。

そしてそのまま俺の手ごとアクセルを目一杯回した。

電動スクーターはその華奢な見た目に関わらず、猛々しいモーター音をあげ、猛スピードへと加速していく。

結果として…皆さんお馴染みの慣性の法則はここでも健在で、俺は上体を後方へ持っていかれる事となった。

 

 

後頭部に何か柔らかいモノが当たり、頭皮は心地よい暖かさを感じ、鼻腔を形容しがたいほど素晴らしい匂いがくすぐる。

背後からアクセルを握る少女はナカナカのモノをお持ちのようで…ねえ、これヴィニュマールって呼んでいい?

とにかく、お年頃のフレンチ☆美少女のなんとも言えない素晴らしき香りと体温はすぐに我が心を満たす事となったのだ。

あ、いかん、これw

一生このままでいたい。

 

 

"我が、お世辞にも上品とは言えない下衆な趣味"はともかく、白聖女は天才・エジソン作の電動スクーターの最高速度にまで追いついてきた。

どうやって追いついてきたかと言えば、"走って"である。

信じられません。

竜の魔女と言うんだからドライブテクニックに狂いはあるまい、そのF1レーサー級ドライバーが駆るエジソン製マシーンに足で追いついてくるんだから恐ろしい。

 

 

「シマズさん?止まってもらえませんか?止まってくれたらお姉ちゃんハグしてあげますよ?」

 

 

スクーターに並走してくる白聖女は、全く表情を変えてもいなかったし、息を乱すこともなく、そして汗一つかいていなかった。

白聖女のハグは魅力的だったが、しかし現実的には、俺は時速120kmでカルデアの廊下を爆走中のスクーターに無表情で追いついてくる存在が恐ろしすぎてそれどころではない。

 

 

「誘いに乗っちゃダメよ、シマズ!あの聖女サマの頭はオカシイんだから!!」

 

「オルタ!お姉ちゃんに向かって、なんて言い方を!?」

 

「ヴァーカ!!ヴァーカ!!アンタなんか大っ嫌い!!!」

 

「………!!」

 

 

白聖女がいきなり急停止して、カルデアの廊下にビッチリと痕をつけながら止まる。

邪ンヌちゃんと白聖女の間に何があったかは知らないが、白聖女にとってはどうやらその一言があまりにもショックだったようだ。

 

ショックでその場に佇む白聖女をそのままに、俺と邪ンヌちゃんを乗せたスクーターはゆっくりと速度を落としながら我が私室へと向かう。

極めて幸運なことに、俺はその間ずっと後頭部でヴィニュマールを味わってたし、邪ンヌちゃんは何か別の事を考えていたようで気づきもしていなかった。

役得役得、ぐへへへへ(アルテラさん、こっちです)

 

 

 

だが、スクーターを降りて、タバコを邪ンヌちゃんに手渡している時に異常に気がついた。

普段はカラビナでしっかりと腰にかけてある部屋の鍵がないのである。

 

 

「あれ…おかしいな、どこかで落としたかな?」

 

「…!シマズ!部屋は空いてるわよ!!」

 

 

邪ンヌちゃんが俺の部屋No.1の前で身構えて、俺もG30自動拳銃を手に彼女の後ろにつく。

側から見れば、まるでどこかの特殊部隊が突入を行う場面にも見えなくもないだろうが…しかし先頭の戦闘力は53万、その後ろの戦闘力は殆どゼロである。

こんなアンバランスな突入もそうそうないだろう。

 

優しくて優しくて涙が出るくらい優しくなってしまった竜の魔女が、俺の部屋のドアを勢いよく開けて中へ入っていく。

俺もすぐ後に続き、私室を勝手にこじ開けたと思わしき人物に対処できるようにする。

だが……結果から言えば、わざわざスクラムを組んで突入する必要もなかったのだ。

 

我が私室に勝手に入り込んだ人物は、酒場と化した部屋から何かくすねようだとかは考えそうにはない人物だった。

竜の魔女が身構えて、俺が自動拳銃を向けていても、何一つ気にも留めずに黙ってパイプをふかしていた。

その人物こそ…19世紀ロンドンから飛び出してきた名探偵・ホームズである。

 

 

「……思っていたよりも早いじゃないか、ミスター・シマズ。」

 

「ちょっと!アンタ何勝手に人の部屋に入り込んでんのよ!」

 

「人の事は言えないだろう、ミス。この部屋で喫煙を始めたサーヴァントは、他ならぬキミなんだからね。」

 

「うっ」

 

「…ホ、ホームズさん?どこかで俺の鍵を拾ったりしたんですかね?もしそうならお礼を言わないと…」

 

「いいや、気にする事はない。何しろ昔から手癖は悪くてね。」

 

「………」

 

「………」

 

 

あっれれぇ〜!?

つまり部屋の鍵スられたって事?

んでもって人の部屋の鍵スったくせにそんな澄ましたお顔でパイプを延々と吸ってんのこの人?

名探偵なのにそんな犯罪紛いの行為堂々とやっちゃうの、この人?

 

 

「仕方がないだろう!マスターの前で吸うとあのレッドコートの看護婦に追い回される!」

 

「あの、仰る事は分からんでもないので。ただ、だからと言ってスリを正当化なさらないでいただけますか?」

 

「少し拝借しただけさ…うわ!『なんだソレ』って顔をしたね!?ワトソン君もマスターもよくそんな表情になった。」

 

「でしょうね。」

 

「そういうことで、これでどうやってミスター・シマズの部屋の鍵を手に入れたのかという話は終わりにしよう。」

 

 

ホームズ氏は"やれやれ"という顔をしてパイプの火を消して、吸い殻を灰皿に捨てる。

そのまま"おいとま"されるのかなぁとか思ってたら、あろう事か次は水タバコをどこからともなく持ち出して吸い始めたのである。

 

 

「うん、やはりこれはこれで…」

 

 

あまりにも自由奔放にやり過ぎてるようにしか見えないし、チェーンスモーキングはチェーンスモーキングでも機材の方を替えてのチェーンスモーキングは初めて見るので何も言う気になれない。

そもそも水タバコの燃焼時間は1時間を超える。

この名探偵、あと1時間はこの部屋に居座る気らしい。

勘弁してくれよ…

 

 

 

あるいは…シャーロック・ホームズの世界観こそ、本当に"自由奔放"なのかもしれない。

 

彼の生きた19世紀ロンドンはまさしく大英帝国の絶頂期。

栄光あるユニオンジャックは、インドで、南アフリカで、エジプトで、ケニアで、翻っていた。

世界に名だたる大英帝国海軍のシーパワー、産業革命以来の圧倒的科学力、そして…機知に富んだ……狡猾な指導者達。

 

彼らは世界のありとあらゆる場所でユニオンジャックを掲げ、そしてありとあらゆる場所でモノの在り方を変えていった。

そしてそれは、現在もなお数多くの国々で見ることができる。

オーストラリアやニュージーランドの国旗の中や、南アフリカやインドに残された建築物にも見ることもできる。

コモンウェルスと言えば何の事かピンと来なくても、"イギリス連邦"と言えば分かりやすいだろうか?

今なお、大英帝国はかつての植民地への影響を保持しているのである。

かつて"列強"と言われた国々の中でも、これほど独立後の国々に影響を与えている国家もない事だろう。

 

 

大英帝国は影響を与えただけでなく、影響を受けてもいた。

代表的な物はインドだろう。

ポピュラーな例を挙げればカレーがある。

日本にカレーが伝わったのは、インド料理としてではなく、イギリス料理として伝わった。

本来はスープ状であるカレーに、小麦粉を加えてあの特有なとろみを加えたのはイギリスの船乗りだという説もある。

帝国は土地の拡充と共に文化を吸収していった。

今、俺の目の前で名探偵がふかしている水タバコも、ヴィクトリア期に中東から持ち込まれた。

 

 

広大な帝国は、コナン・ドイルという作家に、広大な発想のバックグランドをもたらした。

シャーロック・ホームズの世界に登場する…客船、蒸気機関車、電報、銃器、そして聖書…この全てのモノ自体が大英帝国が"帝国"たるが上で重要なモノだった。

雨がちな島国の、白い肌をした人々は世界のあらゆる場所へ客船や機関車で旅立ち、電報によってコミニティーを作り、必要なれば銃器で自らを守り、あるいは敵を攻撃し、最後には聖書によって文化と信仰を広げていったのだ。

こういった人々やモノの数々こそが、世界に名だたる大帝国を築いたのである。

そういった意味で、俺が覚えているホームズのエピソードの中で一番印象深いのは、ある帰還兵の話だ。

その帰還兵は南アフリカでボーア人達と戦っていた。

 

 

「医学にもお詳しいようですね、ホームズさん。」

 

「……人脈が広ければそれなりの知識もつくさ。その様子を見るに、キミも私とワトソン君の小遣い稼ぎのファンといったところかな?」

 

「ファンとまではいかないかもしれませんが、読んだことはあります。」

 

「楽しんだ?」

 

「ええ、あるボーア戦争の帰還兵の話とか。」

 

「ハハッ、なるほど。」

 

 

おぼろげながらの記憶で申し訳ないが、俺の覚えている限りでは、こういう話だったかと思う。

 

 

ある男が親友に会いたがるが、親友の家族に不在だと言われて家に入れてもらえない。

何度も試すが、結果は同じ。

しかし、ある日、男は家の屋根裏部屋に親友の顔を見た。

翌日そのことを親友の家族に話すが、やはり会わせてもらえず。

困り果てた男はホームズの元へ行く。

 

 

「親友はボーア戦争の帰還兵だった。彼は戦いの中意識を失ってしまい、気付いた時には病院にいた。」

 

「そして、その病院にはボーア人の患者がいた。ある種の病気の、ね。」

 

「ホームズさん、あの話は当時の大英帝国を象徴していると思うんです…いえ、あの話に限らず、貴方のエピソードの数々自体が。」

 

「ふむ。面白い見解だ。」

 

「帰還兵の例に限らず…例えばモラン大佐はアフガニスタンで狙撃の腕を磨いていた…まさに大英帝国の拡大を象徴する経歴でもある。」

 

「その辺は"彼"に聞くのがいいだろう。…さて、ミスター・シマズ。私はそこの女性と会話をしたいのだが。」

 

「え?私?」

 

「そうだとも。君は今、おね…いや、もう1人の自分と揉めているね?原因は…お年頃の女性にはよくあることだが…彼女のプディングを君が食べてしまったから。」

 

「……!?」

 

 

 

え、マジ?邪ンヌちゃん?

本当、もういい加減にして?

貴女は俺を殺す気か?

尊死させる気か??

なんでそう…お年頃全開で来るの?

脳がショートするじゃんか。

 

 

「な、何故分かったの!?」

 

顔を赤らめる邪ンヌちゃん。

 

「初歩的な事だよ、友よ。」

 

そしてファン卒倒間違いなしの生名台詞。

 

「白い聖女が食堂からプディングを持ち帰るのを見ただけさ。彼女はプディングを3つ持ち帰っていた…君と、もう1人の小さな聖女にも用意していたのだろう。ところが、君はそれに気づかず、ただ冷蔵庫に入っていただけだと思って全て食べてしまった。」

 

「………」

 

「君に悪意はなかった。だが白い聖女は激高した。2人とももう少し冷静でいれば穏便に済ませたハズだが、残念な事にそうはならなかった…。コレがコトの次第ではないかな?」

 

「……えぇ、その通り。聖女サマの"ああいう"ところにはウンザリだけど…傷つける気はなかった…」

 

「………心配しなくとも、彼女もちゃんとそれをわかっているはずだ…まもなく、ドアをノックする頃かな。」

 

 

コンコンコン。

 

 

上品なノックが部屋に響いたのはその時。

俺ぁ腰が抜けるかと思うただよ。

ノックに続いてドアが開き、先程とは対照的に、落ち着いた様子の白聖女が現れた。

 

 

「……ごめんなさい、オルタ。もう少し冷静にお話をするべきでした。貴女だって、悪気がなかったわけではないでしょうに…私の思い込みで」

 

 

本来の邪ンヌちゃんならここで「あはははザマー見なさい!」とか言いそうなんだけど、このカルデアの邪ンヌちゃんはデレ過ぎてて"仕様"が違う。

 

 

「わ、悪かったわよ!………その、アンタの気持ちに気づけて無くて…そ、その………ごめんなさい」

 

「!!??」

 

「!!??」

 

「!!??」

 

 

ブファッ!!!

 

 

名探偵と白聖女と電気技師がほぼ同時に鼻血を吹き出す。

え、なんなの?

なんなのこの圧倒的尊さは!?

邪ンヌちゃんアサシンにクラスチェンジする?

つーかここまで来たら()()()()()()()じゃん!!

しろ、しちまえ、クラスチェンジしちまえ!!

 

 

「………オルタ!お姉ちゃん嬉しいです!お部屋に戻って、お姉ちゃんともっとお話しましょう!」

 

「だ〜か〜ら、誰がお姉ちゃんだっての!」

 

 

鼻から血をダラダラ流しながら、白聖女がルンルンした様子で邪ンヌちゃんを連れて行く。

その後部屋に残されたのは、おっさん電気技師と名探偵だけだった。

 

 

「………さて。ミスター・シマズ。実を言うと、ここからが本題だ。」

 

「えっ?」

 

 

名探偵ホームズは、今はもう水タバコを吸うのをやめて、何かの白い粉を吸っている。

テーブルの上に一直線に振りまき、鼻の片方を塞いで顔を近づけた。

そしてズズーッと音を立てながら吸い込み、満身のドヤ顔でこちらを見る。

お巡りさん、こっちです。

 

ヤクブツを決め込んだ名探偵が、ドヤ顔のまま小さなある物体を俺に掲げてみせた。

 

 

「ミスター・シマズ。コレに見覚えは?」

 

 

Ooops!!!

なんてこった!!

メアリーたんとかドレイク船長の部屋に設置してた隠しカメラじゃん!!

何故に見つけた!?

つーかどうやってそれ取ってきたの!?

あのデストロイヤー女海賊団のプライベートルームからっ!?

 

 

「し、知りませんな。初めて見ます。」

 

「ふむ、そうか。…不思議な事だ。」

 

「何が不思議なんですか?」

 

「ミスター・シマズ。君はこの施設の電気技師で、主に直流系統の電力を管理するのが仕事だった。ただ…忌まわしいレフ・ライノールのせいで仕事は増えてしまった。奴は、電気関係の備品管理も君の仕事にしてしまったのだからね。」

 

「………」

 

「もし、先程、君が私の質問に"Yes"と答えていたのなら何の不思議もなかった。この施設で主に警備用に使われるこの小型カメラを、備品管理者である君なら見ていて当然だからだ。」

 

 

俺は悟った。

勝ち目はない。

この名探偵は、ありとあらゆる証拠と、根拠ある推理によって主張しているのだ。

 

こういう時ほど、徹底抗戦など考えてはいけない。

損害を最小限に抑えるには、こちらは敗北を受け入れなければならない。

 

俺は両手を挙げてこう言った。

 

 

「貴方の勝ちです、ホームズさん。」

 

「よろしい。その判断は賢明と言える。さて…君をどうしたものかな。カリブ海の貴婦人たちは今は血眼でティーチを探しているが…君を差し出してみても面白いかもしれない。」

 

「勘弁してつかぁさい!!」

 

「落ち着きたまえ。私もそんなに悪趣味ではない。…そうだな、君にはある"頼み事"を引き受けてもらいたい。なぁに、君からすれば簡単な事だろう。」

 

「な、何でしょうか?」

 

「ある婦人の部屋の空調設備を改造してもらいたい。…ただ、今度は間違えても……()()()()()を仕掛けないように。」

 

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