レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています   作:ペニーボイス

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20 はじめの破壊活動

 

 

 

 

 カルデア

 オペレーションルーム

 

 

 

「なるほどぉ〜。状況はよぉぅく理解した。フランちゃんとバベッジ博士は帰ってもらって結構♪たーだーし、次からは機関車になる前に許可を得るように。」

 

「ウ」

 

「す、すまん…」

 

「シマズ君と皇女殿下は申し訳ないんだけど、事情聴取のため残ってもらいたい。」

 

「了解です」

 

「分かったわ。」

 

「それから…いつもの4人も残りたまえ。………ノッブ、沖田、マシュ…アンポンタン(マスター)

 

 

 上機嫌に見えたダヴィンチさんの表情が一気に般若のそれになり、退室を許可されたフランちゃんとバベッジ博士はいそいそと部屋から出て行く。

 俺はどうやらダヴィンチさんの怒りの対象ではなさそうだが、しかし、バベッジ博士の後に続きたくて仕方がなかった。

 怒りのデスロードなダヴィンチさんなんか見たくないし、彼女の"いつもの"という言葉がこれから巻き起こるであろう大説教を彷彿とさせる。

 そしてその予感は間違っていなかった。

 

 バベッジ博士が最後にドアを閉めると、ダヴィンチさんは早速声を張り上げた。

 

 

 

「…何でいつも君達なんだよ!?いったいどれだけの資材を破壊すれば気が済む!?…ボルシッチィ!!

 

 

 どうやら、カルデアのマスターは中々の問題児らしい。

 ダヴィンチさんはいつも手を焼いているのか、その怒り具合は錯乱に近いものがある。

 気づかれないように後退りをし、廊下へと続くドアを少しだけ開けて外の様子を伺う。

 

 いやあ驚いた。

 マスターは余程の人望を集めているのか、彼女のサーヴァント達が廊下に犇き、壁の薄さ故に容易に廊下まで聞こえるダヴィンチさんの怒号に顔を青くしている。

 

 

「部屋で枕投げって…君達いい歳して何をしてるんだい!?お年頃の女の子とはいえ修学旅行じゃないんだからさぁ!!」

 

「……ゥゥッ…グスッ…私でさえ、ますたぁとはそのような関係にありませんのに…」

 

「し、仕方ないじゃない。子犬はああいうヤツなんだから…」

 

 

 廊下でダヴィンチさんの怒号に聞き耳を立てるサーヴァントの中には涙を流す者もいる。

 赤毛の、幼き姿のバートリーが、珍しく犬猿の仲のハズの彼女を慰めていた。

 

 その間にもダヴィンチさんの怒りはエスカレートし、突拍子もない方面へと話が飛んでいく。

 

 

「だいたい、いつタイトルを回収するんだこのSSッ!!皇女殿下や邪ン姉さんとイチャつくだけの二次創作なんかファイっ嫌いだ!!

 

「だ、ダヴィンチちゃん、それはあまりにも酷い発言です!作者さんだっていつかはレイシフトさせようと…」

 

「ウッサい、ファイっ嫌いだ!!青春全開おたんこナスビのヴァーカッ!!

 

「ダヴィンチちゃんとはいえあまりにも屈辱的な侮辱です!先輩と私に謝ってください!」

 

「こんなモノ侮辱になんかなるものか!このダヴィンチちゃんを差し置いて延々と惚気続けてはやくも20話!最初書き出したときは、ウオッ!ダヴィンチちゃん大活躍か!?と思ったけどいつまで経ってもエピソードの主役にすら迎えないじゃないか!?IT'S 判断力足らんかったァ!!…それとも主人公に厳しく当たるべきだったのか、スターリンのように!!」

 

 

 盛大に第四の壁を打ち破り続けるダヴィンチさん。

 もはやそこに壁と呼べるものは残っていまい。

 散々怒鳴り散らした反動か、ダヴィンチさんは疲れ果てたように座り込む。

 幸い、次に口を開いた時には幾分か落ち着いていた。

 

 

「………私だって生涯をクローズアップしてもらいたいんだ。イベントでの景品交換ボタンオッパイプルンップルンッ!!だけじゃなくてさ。」

 

 

 ダヴィンチさんのポンペイに景品交換ボタンがあったのも今は昔。

 そんな時期もあったなぁ…。

 

 

「なあ、頼むよ…誰かこの天才の事を取り上げてくれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機関車チャールズと正面衝突をしたのにも関わらず、未だピンピンしているのには理由がある。

 皇女殿下より下賜された作業着は見た目と同じく、その機能においても"特別製"だったのだ。

 エジソン博士特製電動スクーターはアルミ缶よろしく潰れてしまったにも関わらず、吹っ飛ばされた俺の体は魔術耐衝撃仕様作業着のおかげでバラバラにならずに済んだし、大した怪我もせずに済んだのだ…エジソン博士ごめんなさい。

 

 さて、そんなわけで俺は無事だった。

 とはいえ、その後もダヴィンチさん最後の12日間とその後の事情聴取を経験してすっかりと疲れてしまったので、もうどうしようもなくタバコを吸いたくなる。

 しかしながら皇女殿下の御前で吸うわけにもいかんし…う〜ん。

 

 

「シマズさん、どうか我慢なさらずに喫煙所へ行ってください。…それと、ごめんなさい。シマズさんをこんなことに巻き込んでしまって…」

 

「あ〜、いや、殿下が謝る事はありませんよ!第一、こうなるなんて誰も想像できませんし…」

 

「我慢は身体に良くない♪この天才と一緒に喫煙するなんて、またとない機会ではないかな?」

 

 

 ヌッと出てきた天才はダヴィンチさん。

 そうまでして書かれたいのか

 だが、俺のヤニ中はもうそろそろ限界を迎えつつあり、タバコのお誘いはセイレーンの誘惑に並ばんとしている。

 

 ついに誘惑に折れた俺は、皇女殿下に謝意を告げて最寄りの喫煙所へと向かう。

 そこはダヴィンチさんの工房であり、生活の場であり、喫煙所であった。

 

 

「ふふん♪どうかな?私の工房に心を奪われたように見える。まあ、無理もない!ここにあるものはあらゆる叡智を凌駕する…」

 

「すいません、灰皿はコレですか?」

 

あ〝あ〝あ〝あ〝!!やめたまえ!やめたまえ!もうすぐ完成だと言うのに、酷い事をする!!灰皿にはコレを使いたまえ!!」

 

 

 見るからに灰皿っぽいモノを見つけたと思っていたが、どうやら灰皿は豪華な装飾を施した器のようだった。

 普通ならそれぞれ逆の用途に使いそうなモンだが、やはり天才の価値観というのは凡人には理解できないのだろう。

 しかし勿体無いなぁ。

 華麗な装飾に彩られた器が、灰と炭に汚れているのを見て、俺はそう思った。

 

 

「ああ…キミからすると、そう感じるのかもしれない。私が創りたいのは他に一つとして存在しないモノ、さ。そんな容器くらいならどこにでも転がっているだろう。暇つぶしに作ってはみたが…あまりにもつまらないモノになってしまった。」

 

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチは並外れた芸術家だった。

 ルネサンスという言葉を聞けば、俺の脳裏にはまずレオナルド・ダ・ヴィンチの肖像画が思い浮かぶ…その次に山田ルイ5●世樋●、ドナテッロ、ラファエロ、ミケランジェロと続く。

 ともかく、一つの時代を創り上げた人物は、その創造の方針からして、凡人とは異なるのかもしれない。

 

 

「さてさて、遠慮なく吸いたまえ!私だって根気を詰め過ぎたときはここでタバコを吸っている…最も、最近は頭を悩ませる事も多くて、喫煙量が増えてしまっているが」

 

 

 ダヴィンチさんはそう言いつつ、品の良いパイプを咥えて火をつけた。

 イタリア人とタバコは切っても切り離せない関係にある。

 "タバッキ"とはイタリア語でたばこ屋を指す言葉だが、それは単なるたばこ屋ではなく切符まで購入できる地域密着型のコンビニのような存在だったりもするのだ。

 それほどタバコが身近な存在だという事だろう。

 ユーロ圏でのタバコ生産量が最も高い国も、イタリアだったりする。

 

 

 しかしながらそのイタリアが産んだ世界最大の天才の頭を悩ませるとは、カルデアのマスターは本当に問題児なのだろう。

 少し前、俺はDr.ロマ二と彼…いや、彼女から一週間療養を与えられたが、その後にDr.ロマ二も療養期間に入った事を聞いていた。

 きっと交流担当の爺さんがフルマックスでイカれてるのを目の当たりにしたから、ああなる前に一度リフレッシュしようということになったのだろう。

 だが、実際Drがいないとなると、どちらかというと普段は好き放題やっているダヴィンチさんが、彼の心労を味わう事になったのだ。

 

 

「…ま、愚痴ばっかり言っても仕方がない。せっかくこうやって舞台の主役になれたんだ。何か、私に語らせたい事はないかな?ご期待には勿論答えよう。」

 

第四の壁打ち破り過ぎでは………しかし、まあ…お聞きしたいお話がないわけでもないです。」

 

 

 ルネサンスといえば芸術の華が咲き乱れる美しい時代を想像しがちだが、同時にそれはルネサンスの中心となったイタリアにおいては内乱と外敵勢力の侵入が絶えない血まみれの時代でもあったのだ。

 贖宥状、世俗教皇、宗教改革、マルティン・ルター、ハプスブルク家の躍進、フランソワ1世、オスマン帝国の侵入…そして、ニッコロ・マキャベリ。

 ルネサンスの時代は戦争の時代でもあり、さまざまな人物や、出来事や、勢力や、歴史や思想が入り乱れもした。

 

 

「……では、ダヴィンチさんの経歴について」

 

「ダヴィンチ()()()

 

「ダヴィンチ()()

 

「ダヴィンチ()()()

 

「ダヴィンチ()()

 

()()()」「()()」「()()()」「()()」「()()()!!!

 

「わ、分かりました、分かりました。…それで、ダヴィンチちゃんの経歴についてお伺いしたいのですが、よろしいですか?」

 

「ほぅお、私の経歴かい?作品ではなくて。」

 

「作品の方は現代でもすでに有名ですからね。俺が興味を持っているのは、あなたが()()()()()()()です。」

 

「………」

 

「ミラノのスフォルツァ家、教皇アレクサンドル6世とその息子チェザーレ・ボルジア。それに、フランスのフランソワ1世。」

 

「なーんだ、そんなことか。」

 

 

 ダヴィンチさ

 

ちゃん!!

 

 は、はいはい。

 ダヴィンチ"ちゃん"は白けたとでも言いたいかのように、露骨に無愛想な返答をする。

 ぶっちゃけどうでも良かったとでも言い出しそうだ。

 

 

「ああ、確かに仕えたよ。でも、それだけさ。特に語ることなんてありはしない。」

 

「最期に仕えたフランソワ1世とは親密な間柄だったと聞きますよ?…何でも、あなたは彼の腕の中で最期の時を迎えたそうで」

 

やめたまえ!おぞましい!!彼にしてもただのパトロンさ!…そりゃあ、屋敷もくれて金払いも良いんだから良い関係にはなる。当然だろう?」

 

 

 どうやら、俺が知っていた"逸話"はただの"伝説"だったらしい。

 

 

「スフォルツァ家にしても、あの世俗教皇にしても、やっぱりただのパトロンだよ。私からすれば、芸術活動を続けるための関係だったのさ。」

 

 

 フィレンツェのメディチ家は、ミラノ公国のスフォルツァ家と和平を結ぶために、当時フィレンツェで活動していたダヴィンチちゃんに銀の楽器を作らせて、それを土産に彼女をミラノへと送り込んだ。

 その際彼女が書いた書簡の中にこのような文章がある。

 

『私はあらゆる橋の建築方法や、敵の要塞の攻略法を知っております。また、戦車や大砲、投石機、その他にも絶大な威力を発揮する兵器を製作いたします。私にブロンズの馬を制作させれば、貴家にとって名誉となるでしょう。』

 

 ダヴィンチちゃんはこのように、スフォルツァ家に自身を"売り込み"、その結果彼女はスフォルツァ家に招かれる事になったのだ。

 実際、彼女は戦車や連射クロスボウ、果てはマシンガンまで考案していた。

 つまり、彼女は芸術活動の傍ら、軍事の方面にも取り組んでいたのだ。

 

 

「戦車やヘリコプターの製図を見るに、ダヴィンチちゃんは本当に多彩だったんですね。」

 

「ふふん♪私にかかればあの程度すぐに思いつく。でも………」

 

 

 天才が少しだけ…本当にほんの少しだけ寂しそうな顔をした。

 俺はその理由を何となく想像することができる。

 

 

「…あなたはミラノ時代にはスフォルツァの下で戦車を製図し、続いて教皇アレクサンドル6世とチェザーレ・ボルジアの下では軍事技術者として地図の制作に携わった…精巧な地図は勝利に不可欠ですからね。どちらも、戦火に見舞われていた当時のイタリアには必要とされる技術だった。」

 

「ああ、必要とされていた。そして、だからこそ私は彼らの下で働き、芸術活動も継続できた。」

 

「ただし、時としてあなたの携わる軍事という分野が、芸術という分野を破壊した。

 

 

 

 フランス王ルイ12世は先王・シャルル8世から王位を継承すると、自らの血縁の根拠としてミラノ公国の支配権を要求し、軍を動員して侵攻を実施する。

 その頃ダヴィンチちゃんは、当時のスフォルツァ家当主ルドヴィーゴ・スフォルツァから依頼された巨大な騎士像の制作を行っていて、この時期には粘土による原型が出来上がっていたのだ。

 だが、歴史に名を残す事になったであろうその騎士像の原型は、ミラノに侵攻したフランス軍によって破壊される

 騎士像のモデルとなった人物が"傭兵隊長上がり"であったことが面白くなかったからか、或いはスフォルツァ家へのメッセージだったのか、フランス軍は騎士像の原型を射撃演習の的にしたのだった。

 

 

 

「………私は等しく全てを好んでいる。誓うよ、この言葉に嘘はない。軍事の分野も、芸術分野と同じくらい心血を注いでいた。」

 

 

 彼女はパイプから深く煙を吸い込んで、少しの間溜め、そして一気に吹き出した。

 何か複雑な感情が働いている事は、傍目にもわかる。

 だが彼女は煙を吐き出し終わると、意を決したように顔を上げた。

 見るからに、その顔に後悔の文字はない。

 

 

「戦争は悲しい出来事だ。多くの人が死に、多くの土地が荒れ、多くの物が失われる。時には取り返しのつかないモノさえ、平気で破壊してしまう。」

 

「………」

 

「でも私が芸術活動を続けるためにも、やっぱり戦争は必要だった。戦局を打開する為に新兵器を。適切な部隊配置の為に精密な地図を。それが用意できたからこそ、私はパトロンを見つけられたんだ…指折りのパトロンを、ね。」

 

「………」

 

「…私から言える事があるとすれば…そうだな、"戦争は発明の母"。まさにそういう事になるんじゃないかな。私にしてはあまりに凡庸な答えだろうけど。」

 

「…なるほど…いえ、理解はできます。ダヴィンチちゃんが仰ると、言葉の重みも違う」

 

「ただ、"破壊"と"焼却"は別物さ。破壊は新たなるモノを生み出すけど、焼却は煤塵を残すだけ。今までの人類史、数多くの破壊があったからこその文明だろう。それをただ単に燃やす尽くすという考えには賛同しかねるね。」

 

 

 ダヴィンチちゃんは吸い終わったパイプの中身を灰皿に落とす。

 天才の調子はすっかり元のそれに戻り、彼女は私の目の前まで来ると、ウィンクをした。

 

 

「さあ!人類史を取り戻そう!その為に、君にもご協力いただきたい…いいや、ここカルデアのスタッフ全員にね。どうか頑張ってくれると私も嬉しい、ただし、くれぐれも無理はしないように。」

 

 

 天才からの要求は矛盾だらけの無理難題に思えたが、不思議なことに何とかなりそうな気がした。

 

 

 




注:
スフォルツァ家は芸術の造詣も深く、実際レオナルド・ダ・ヴィンチにも芸術作品の依頼を行なったりしています。
その代表的な物として「最後の晩餐」も挙げられますが、今回はミラノ滞在期に製図していた軍事兵器を取り上げました。
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