レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています   作:ペニーボイス

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26 〜レイシフト編〜 彼らの真意

 

 

 

 

 

 

 

 

【前回までのあらすじ】

 

 

 

 島津「あぶベベベべッ!!(感電)」

 

 

 Dr.ロマニ「レイシフト中にアクシデントがあって、君達は目的地とは全く異なる時代に飛ばされている!ええっと…1942年7月のブリャンスク!?激戦地じゃないか!!」

 

 

 ………

 

 

 皇女殿下「改めて私から紹介するわ、"イヴァン"。この方はウラソフ中将。そしてこちらの方はラインハルト・ゲーレン大佐。」

 

 ウラソフ「初めまして」

 

 ゲーレン「よろしく」

 

 

 

 邪ン姉さん「で、シマズ。アンタの見解は?」

 

 シマズ「こんなうま過ぎる話がありますか?…連中、皇女殿下を利用するつもりです。」

 

 邪ン姉さん「その根拠は?」

 

 島津「……アンドレイ・ウラソフはスターリンに猜疑心を持たれるまで、勇敢な赤軍の指揮官でした。彼は若い頃赤軍兵士として白軍と戦っています。そんな人間が王政復古など…彼の目標はボリシェビキの排除だ、王政復古ではない。」

 

 

 ………

 

 

 ポンッ!

 ヒュウウウウウ…

 

 ホフマン軍曹「迫撃砲!!!畜生!露助の夜襲だ!」

 

 

 

 

 島津「捕虜が?」

 

 ホフマン軍曹「ああ。ソ連兵はあいつら以外皆死んだ。逃げ出した者は誰一人いなかった。露助の"ああいうとこ"は本当に恐ろしい。」

 

 皇女殿下「………レオニード?」

 

 セドネフ「……ッ…バカな!バカな!バカなバカなバカな!!…アンタは、アンタは死んだ筈だ!」

 

 

 島津「失礼ですが、彼は何者なんですか?」

 

 皇女殿下「レオニード・セドネフ……イパチェフ館からただ一人生き残った生還者よ。」

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 マシュ「おブェッ、オエッ、おえええッ!!」

 マシュ「これが落ち着いていられますか、ドクター!?無抵抗な人々を一方的に殺しています!」

 

 Dr.ロマニ「この虐殺を行なったのは、恐らくナチス親衛隊の特別行動部隊だ。」

 

 

 

 憲兵大尉「無線で大佐の野営地に連絡を取れ。親衛隊のクソったれがそちらに向かったと伝えるんだ。」

 

 ゲーレン「ホフマン!」

 

 ホフマン軍曹「何でしょう、大佐」

 

 ゲーレン「秘密裏に殿下とその従者達をこの野営地から脱出させろ…あの捕虜も一緒にな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌ・ダルクはフランスの為に立ち上がった1人の少女だった。

 彼女は大の大人でも怯むような状況でも前に打って出た。

 彼女は現職の聖職者でさえ説得できる敬虔な信徒だった。

 彼女は…当時のフランス国王が中々成し遂げれなかったものを成し遂げた。

 

 だが、そんな彼女は最後には炎にくべられた。

 守ってきた多くの民から嘲られ、聖職者達から罵られ、国王から裏切られた。

 反英雄、ジャンヌダルク・オルタはそんな彼女の非業な最期から生み出されたような存在である。

 人間であるのなら誰しもが持ち得る復讐心と憎悪を持ち、自らを貶めた連中を炎にくべる為に行動する存在として、キャスターのジル・ド・レェの願望を具現化する形で生み出されたのだった。

 

 

 

 だからこそ、彼女にとってレオニード・セドネフは気に入らない存在だったのだろう。

 彼は自身の生命を助けてくれた皇女殿下を偽物呼ばわりし、その謝意を見せる事も恩を感じている様子もない。

 親衛隊員達がこの野営地を後にするまで隠れる為にこのバンカーに入った時から、彼女は砂漠の荒鷲が薄汚いハイエナを見下ろしているかのような眼で赤軍兵士を見ていた。

 腕組みをして、足を組みながら。

 

 

「……アンタ、皇女サマへの感謝はないわけ?他の2人がどうなったかは見ていたハズよ?皇女サマがいなきゃ、アンタだってあのクソ塗れの豚小屋に押し込まれてた。」

 

「……………」

 

「なんとか言ったらどう?この間抜け。」

 

 

 邪ン姉さんは静かなる怒りを抱いていたようだが、俺の方はと言うと、別の考えに至りつつあった。

 

 例えばの話、俺がこの赤軍兵士の立場なら、1も2もなく彼女の事を本物だと断定し、媚び諂い、あわよくば再び従者として迎え入れられるように立ち振る舞う事だろう。

 もし俺が皇女殿下とは何の関係もない人物だったとしても、そうする。

 

 何故ならその方がずっと多くの恩恵を受けることができるからだ。

 実際セドネフは他の2人とは違って特別扱いをされている。

 なら自己の利益に沿うような態度をとるのは当然だろう。

 倫理的に無理だという方もいるだろうが、ここは戦場…それも第二次世界大戦で最も過酷な戦場の一つなのだ。

 倫理観どうこうなど、真っ先に傍に置かれるハズである。

 

 しかしこの赤軍兵士は一向に認めようとしない。

 それが彼に何の利益ももたらさず、かえって不利益が募るばかりだというのにも関わらず。

 何回か否定したとしても、さすがにここまで否定するのは逆に不自然というものだ。

 たとえ彼が、イパチェフ館からの生還者だとしても………

 

 

 

「アンタいったい何様のつもり!?」

 

 

 邪ン姉さんの怒りがヒートアップしたその時、それまで押し黙っていた赤軍兵士がようやく口を開いた。

 そして、彼は俺の憶測が正しい方向にあった事をも証明した。

 

 

「……何様?…何様だと?…ふふっ…アンタらこそ何様なんだ?少なくとも、アンナはフランス女じゃなかったし、イヴァンはアジア人じゃなかった。殿下よりも、アンタらの方がインチキだな。」

 

「はぁ!?何言ってん」

 

「落ち着いてください、邪ン姉さん。…失礼、セドネフさん。あなたが殿下を本物だと認めなかったのは…」

 

「ようやく気づいたのか…アンタらよっぽど間抜けなんだな!!あの男を知らないのか!?アンドレイ・ウラソフは筋金入りの"革命戦士"なんだぞ!?」

 

 

 セドネフが声を張り上げて、今度は邪ン姉さんの方が瞬ぐ。

 

 

「我々は状況が悪かったんです。殿下が我々をご自身の従者として助けて下さった…認める他ないでしょう?」

 

「え?何?シマズ、どういう事?」

 

「彼は…レオニード・セドネフは嘘を吐き続けていたんです…殿下を守る為に。

 

「ああ、その通りだ。ウラソフは勇猛な戦略家だが、革命期には赤軍兵士として戦ってたんだ。そんな男からすれば、殿下はただの道具だろう。」

 

 

 

 セドネフが殿下を偽物だと罵り続けた理由。

 それはウラソフに殿下を利用させない為の努力だったのだ。

 イパチェフ館からの唯一の生還者である彼が否定をする事の意義は確かに大きいことだろう。

 2つの大戦の戦間期にもアナスタシア・ロマノヴァを騙る人物が現れている。

 唯一の生き証人が偽物だと断定し続ければ、ウラソフも殿下の利用を諦める他なく、解放する事になったかもしれない。

 彼の狙いは、まさしくそれであった。

 

 

「アンタ…でも、何故?皇女サマが偽物だと断定されれば、アンタは本格的に用済みになる。」

 

「銃殺隊によって処刑されかねませんよ!?」

 

「…………俺は…俺はあの場所で"ただ見ている"ことしか出来なかった。もう、あんなことは……」

 

 

 邪ン姉さんは今では完全に沈黙している。

 彼女も俺も、セドネフにどう声を掛けるべきか検討もつかないでいるのだ。

「すまなかった」と謝るべきか?

 頭を垂れて、この赤軍兵士の機転に気づけなかったことを謝罪すべきだろうか?

 

 

「今更騒いでももう遅いだろう。…さっき看守の連中が言ってたが、クソったれの親衛隊が来やがったそうだな…悪い事は言わない、ここから逃げた方が良い。」

 

「…ハ、ハッ!その手には乗らないわよ?どうせ、アンタも逃してくれとか…」

 

「いや、俺はこのままでいい。…だが、殿下は……殿下はどうか逃して欲しい。ウラソフの手中にある限り、殿下は安全とは言えない!」

 

「………」

 

 

 邪ン姉さんは再び沈黙する。

 正直俺もこの赤軍兵士の勇気と献身には驚いたが、しかし、直後にもっと驚くべき事が起きた。

 皇女殿下ご自身がバンカーにいらっしゃったのである。

 

 

「シマ…イヴァン!アンナ!それにレオニード、無事ですか?」

 

「ええ、ああ、まあ、はい、無事です、殿下。」

 

「あぁ良かった…3人ともよく聞いてください。今から私達はこの野営地から脱出します。」

 

「へ?」

 

「親衛隊と呼ばれる虐殺者集団がこの野営地に来ています。捕虜を皆殺しにする気だとか。…ホフマン軍曹が先導してくださいます。」

 

「イヴァン、殿下の言った通りだ。他の2人もさっさと準備しろ。」

 

 

 

 殿下に続いて入ってきたホフマン軍曹に急かされて、俺はトミーガンを手に取り、邪ン姉さんも荷物を肩に掛ける。

 マジで姉さんってよりはオカンっぽくなってしまった邪ン姉さんが、「ほら、ちゃんと被んなさい。危ないでしょ」とか言いながら俺の頭に鹵獲品のシュタールヘルムを被せている間にも、ホフマン軍曹が捕虜の拘束を解いていた。

 

 

「…何のつもりだ?ファシストの情けを受けるつもりはない。」

 

「勘違いするな。これも大佐の御命令だ。」

 

「俺が造反せずに従うとでも?」

 

「お前だって分かっているはずだ。NKVD(チェーカー)は捕虜を許さない。」

 

 

 1930年代の大粛清を引き起こしたスターリンの猜疑心は有名だが、彼のそれはまさに一種の病気ですらあった。

 指令第279号は全ての赤軍兵士に敵への投降を禁止した。

 その為、捕虜となった赤軍兵士への共産党の評価は「反逆者」であったのだ。

 

 彼らはソ連赤軍の部隊と合流したとしても、"同志"として迎えられることはなかった。

「反逆者」は収容所に送られてそこで大勢が犠牲となり、運良く生き残っても、向かう先は懲罰大隊であった。

 戦車の"背中"に乗った歩兵は格好良く見えるかもしれないが…しかし、実際には敵の砲火に対してあまりに無防備だ。

 

 

 セドネフもその辺は十分承知しているようで、その後は黙って軍曹の指示に従う。

 軍曹がようやく、捕虜の拘束を解いた時、バンカーの外から2発の銃声が聞こえた。

 

 

「畜生!親衛隊め、捕虜を見つけやがったな。よし、行くぞ、お前ら。離れるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍曹の先導のおかげで、我々は無事に野営地の外へと出ることができた。

 だが、俺としては未だ不信感が拭い切れていない。

 それは軍曹への不信感ではなく、ウラソフへの不信感だった。

 アンドレイ・ウラソフは間違いなく殿下を利用しようとしている。

 ゲーレンだってそれは同じだろう。

 なら、何故我々を逃す事にしたのだろうか?

 そもそも戦場のど真ん中に我々を放り出すとは思えない。

 だとすれば軍曹の本当の任務は我々を野へ放つ事ではなく、どこかへ連れて行く事だろう。

 野営地を離れてから随分と経つ。

 周囲も薄暗くなっているが、未だに軍曹が野営地へ引き返す様子もなく、どこへ行くのかも言わない事が、俺にはどうにも不安だった。

 

 

 

「軍曹、我々はどこへ向かっているんですか?」

 

「………」

 

「野営地に戻るのなら、これ以上進むのは…」

 

「………」

 

 

 軍曹が無言を貫き通すので、俺も邪ン姉さんもいよいよ不安になってきた。

 彼女は俺の背後に周り、俺のホルスターから45口径拳銃を音もなく引き抜いた。

 俺の方も出来るだけ音を立てずにゆっくりとトミーガンのコッキング・レバーを動かして初弾を装填する。

 そして安全装置に指を伸ばした時、初めて軍曹が口を開いた。

 

 

 

「そう先走るな。…ちょうどいい、ここで休憩にしよう。」

 

 

 彼は立ち止まると、その場にしゃがんで楽な姿勢になった。

 俺としては出来るだけ音を立てないように頑張ったのに、軍曹にはバレバレだった事に衝撃を受けたが、軍曹は無理もないという風な態度を取っている。

 彼は気怠そうにMP40の安全装置を掛けると、俺と邪ン姉さんの動きを察せられた理由を話した。

 

 

「…夜間ってのは、視界が充分に確保できない代わりに聴覚が働く。ちょうど、全盲の人間の聴覚が発達するようなのと同じだな。慣れてくれば遠くの音まで聞き分けられる。…だから出来る限り音は立てないで欲しいし、タバコ休憩も我慢してくれ。夜間だと300m先のタバコの火だって丸見えさ。」

 

「では、軍曹。教えてください。我々はどこに向かっているんですか?」

 

「安心しろ、お前たちを殺すような命令は受けていないし、寧ろ守り通せと言われている。」

 

「なら何故…」

 

「聞きたいことは分かる。だが…まあ、ここまで来たら、言うしかないだろうな。……殿下にはショックかもしれない」

 

「いいえ、私は大丈夫よ。先の行動について教えてもらう方が優先だわ。」

 

「ではお言葉に甘えて…。あのボリシェビキの将軍は殿下を抹殺したがっている。彼は赤軍時代以来の反体制分子の仲間達との連絡網を維持しているが、その中にはNKVD(チェーカー)の人間もいて、そいつに殿下を殺させる腹づもりだった。」

 

 

 

 俺も邪ン姉さんもセドネフも、ああやはりかという表情になる。

 少なくとも、殿下以外はその事を予想していた。

 元赤軍の勇将が帝政の復活を許容するわけがない。

 しかし、皇女殿下にはやはりショッキングな内容だったようで、彼女は少し寂しそうな顔をする。

 

 

 

「…だが、大佐の考えは違う。我々情報部は転向したロシア人達による部隊を編成したいと考えているんだ。しかし、総統はこの案を承認してくださらない。そこで、殿下にはこの新しい部隊の元首たる存在になってもらう。」

 

 

 史実によるならば、それはウラソフのポジションだ。

 これで、よりハッキリした

 恐らくゲーレンは…いや、ドイツ側は自身がロシアの土地に土足で踏み込んだ侵略者である事を重々承知している。

 ウラソフを中心としたロシア人部隊を編成したとしても、所詮は侵略者の手先としか捉えられないだろうし、占領地の住民からも支持は得られないだろう。

 

 だが、帝政ロシアの後継者を戴きに据えれば話は別だ。

 皇女殿下は前時代の全ロシアの支配者であり、ボリシェビキへの報復を声高らかに掲げて王位奪還に動いたとしても何ら不思議ではない。 

 ロシア内戦中、ニコライ2世の家族を処刑した後も、革命勢力は皇女殿下を取り逃したというデマをまことしやかに流布した。

 それは民衆に革命勢力を敵視させないための策略であり、内戦後もその噂はしばらく流れていたのである。

 

 

 病的なまでの猜疑心を持つスターリンは1930年代に大粛清の嵐を巻き起こし、5ヵ年計画では国内の農民を強制的に集団化させている。

 ソ連国内にスターリンへの不満がないわけがなく、皇女殿下の登場とならば同調するロシア人は桁違いに増えるはずだ。

 少なくとも、ウラソフがビラを作るよりも効果的に思えるし、だからこそウラソフは彼女を排除したいのだろう。

 

 

 要するに、正統性だ。

 

 大佐はソ連に侵攻したドイツ軍に、"古き良き時代の君主"を後押しするという大義名分を与えるつもりなのだ。

 ロシアの人民を抑圧する共産勢力から"解放"するとなれば、占領地の住民も協力的になることが望める。

 補給路をパルチザンの襲撃に悩まされることも、ぐっと減って行くはずなのだ。

 

 

 

「殿下とお前達をこの先の合流点で国防軍の憲兵隊に預けるように指令を受けた。…本来ならもっと大人数での護送になるハズだったんだが…クソったれの親衛隊め。とにかく、これなら殿下は無事だ。少なくとも最前線の野営地よりかはな。」

 

「大佐は、嘘をついていないのですね?」

 

「ええ、殿下。ロマノフ家の再興は大佐にとっても、いや、我々ドイツ軍全体にとっても都合の良い事です。是非ご協力させていただきたい。…さて、と。そろそろ出発しよう。合流予定時間に間に合わなくなる。」

 

 

 

 軍曹が腰を上げ、MP40を抱える。

 

 俺はといえば、大変悩ましい状況について邪ン姉さんと話し合っていた。

 

 

「確かに、それなら皇女サマは安全ね。」

 

「ですが…そうすると今度は人理が…」

 

 

 ここへ来てまさかの人理崩壊の危機である。

 しかし、皇女殿下の希望を奪うのも気が引ける。

 うぅぅぅん、どうすっぺかなぁぁぁぁ。

 

 

 

 

 ゴッ!!

 

 

 

 

 そう思っていた時に、何か硬い物がぶつかる音を聞いた。

 それは俺自身に向けられたものでも、邪ン姉さんに向けられたものでもなく、軍曹に向けられたものだった。

 見ると、長く硬そうな木の枝を持ったセドネフと、地面に突っ伏して動かなくなった軍曹がいる。

 

 セドネフは息を切らしながら、木の枝を捨てて、軍曹が落としたMP40を拾い上げる。

 そして、安全装置を解除して、銃口を軍曹に向けた。

 

 

 

 

 パパパパンッ!!

 

 

 

 

 銃声が鳴り響いたが、軍曹は死ななかった。

 セドネフはMP40こそ持っていたが、微動だにしていない。

 俺の事を驚きの目で見る邪ン姉さんと皇女殿下。

 俺自身、自分の行動に驚いていた。

 

 

「………う、動くな!!」

 

 

 俺は漆黒の空に向けていたトミーガンの銃口を、セドネフの方へ向ける。

 

 

「なんだ!邪魔をするのか!?」

 

「こ、こ、ころ、殺す必要はない筈だ!!」

 

 

 今まで人を殺した事なんてない。

 俺の腕は小刻みに震えていたし、声も同じくらい震えている。

 

 

「ど、どういうつもりなのですか、セドネフ!?」

 

「殿下!コイツを信じるのですか!?ヤツらはファシストの犬です!殿下に危害を加えるに決まっている!」

 

「こうなった以上、ドイツ軍の憲兵隊との合流は無理でしょうね。シマズ、どうする?」

 

「クソッ!今の銃声で一帯の部隊に気付かれたかもしれません。…ソ連兵に気付かれたかも。」

 

 

 セドネフが余計な事をしたせいで状況は一気に悪化した。

 MP40を奪った捕虜と、意識を失っている軍曹。

 この組み合わせだと言い逃れなんてできそうにない。

 

 

「ここから離脱しましょう、可能な限り急いで。………すいません、軍曹。」

 

 

 

 我々は急ぎ足でその場を離脱する。

 意識のない軍曹は武装解除のみをして残置した。

 息はあるから、まだ大丈夫だろう。

 それよりも心配なのは皇女殿下の安全だ。

 

 

 

стоп(止まれ)!!」

 

 

 だが、急ぐ我々を鋭利なロシア語が止める。

 暗闇の視界の悪さのせいか、それとも脱出に集中し過ぎて周囲に気をかけていなかったからか。

 気づくと、我々はソ連兵に包囲されていた。

 

 俺はトミーガンをゆっくりと地面に置いて、両手を頭の上に挙げる。

 邪ン姉さんも同じ動作をしたが、セドネフは左手でMP40を携えたまま、我々を囲むソ連兵の一人に右手を差し出した。

 

 

「曹長?」

 

「……!?お前!セドネフか!?無事だったか!?」

 

 

 

 その瞬間、俺は悟ってしまった。

 セドネフが軍曹を殴ったのは殿下を守るためじゃない。

 自分の部隊に合流するためだったのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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