レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています 作:ペニーボイス
イギリスの淑女達が、なぜこういった催し物をやるに至ったかは分からないし分かりたくもない。
できれば参加なんてしたくもなかったが、しかしロマノフ家皇女殿下の御命令とあらば仕方なし。
俺は今ピッチピチの半袖シャツと短パンを着て、ヨガマットの上で屠殺される豚のようにプルプルと震えている。
脚はガクガクなって内股になっているわけだが、決して恐怖によって内股になってるわけじゃない。
皇女殿下は最近ご自身のことを運動不足だと考えていらっしゃった。
"いや、そんなわけはありませんよ殿下。この前まで独ソ戦の最前線にいたんだし、そもそも私めの肥太り具合に比べたら殿下のそれなんて誤差ですよ、誤差!ガハハハwww"とか言ってたらご機嫌を損ねてしまったらしくこの場に連れてこられてしまった。
我ながらなんでこう、余計な一言が多いかなぁ。
さて、どこへ連れてこられたかというとカルデアのトレーニングルームの内の一つである。
それだけならまだ…楽しみとまではいかなくとも諦めはついたかもしれない。
問題はそこが、エアロビ用のトレーニングルームだったことだ。
俺は今両脇をピッチピチのレオタード姿の上乳上と下乳上に挟まれている。
彼女達は準備体操の真っ最中なわけだが、そのたびにあのバカでかいお胸やエロ過ぎる腋の下が露わになって貞操上よろしくない。
頑張って目を逸らそうとするものの、目の前一面が鏡張りとなっているせいでどうにもならんのだ。
「いや、何言ってんだよオメエ。天国じゃねえか!」
そういう人がいるならぜひこの場に来てください!
俺と同じように半袖短パンで、この場に立ってみれば良い!
男性機能が損傷していない限り、あんな長身美巨乳お姉さん2人に挟まれたらおっ勃つのは避けられない!
そして短パンでその状態に至るということは………
一種の拷問である。
嬉しい人はそれでも嬉しいのかもしれないが。
しかし俺からすると拷問でしかないのだ。
そもそもの配置が意図されたんじゃないかと言うくらい最悪過ぎる。
前列は上、下乳上と俺。
後列には殿下と邪ン姉さんがいらっしゃるのだが、目の前の鏡のせいで俺は自分自身が圧倒的重量物に包囲されているという事実と戦わざるを得ない。
以上が、俺が今内股で震えている理由である。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、80年代なラジカセを持った婦長がこれまたピッチピチのレオタードを着てやってきた。
あのラジカセからは恐らくエリッ●・プライズの『Call ●n me』が流れてくる事だろうが、俺はあのミュージックビデオのように楽しめそうにはない。
寧ろ婦長が正面に立ち、俺が奇妙なポージングをしているのをジっと見てくるあたり危機感しか感じないのだ。
「それでは、これから『第一回!カルデア健康☆エアロビ教室』を始めます…が、まずはシマズさん。姿勢の乱れは心の乱れです。姿勢を正しなさい。」
「いや、なんといいますか、実際に心が乱れてまして」
「問答無用!」
婦長が凄まじい腕力で俺の両腕を握って体側まで運びやがる。
おかげで俺の滾った男性機能が思いっきり露わになってしまった。
自然と、鏡越しに皆々様の反応を確認する。
上乳上は「まぁ!」みたいな顔してるし、下乳上はゴミか何かでも見るような目で見下ろしてくる。
皇女殿下は顔を真っ赤にして両手で口を抑えているし、邪ン姉さんは恐らく俺のことを燃や………待って邪ン姉さん、何その反応は。
いつもみたいに「燃やす!」的な反応してよ、寧ろその反応が欲しいよ。
なんでそんな「ああ、アンタもそういう歳になったのね」的な反応してんの!?
カァチャンって呼ぶぞ!冗談抜きに!
「………」
婦長がいきり立った俺のアレを見たまま黙していた。
いかん、切除される!
このままじゃ俺の男としての生涯が
「…男性機能が正常に働いている証拠です」
「は?」
「何を恥ずかしがっているのか理解できません。それでは、エアロビを始めます。」
「いや、あの、ちょ」
『♪Call ●n me〜〜〜〜』
婦長はそのままスタスタと歩き去ってラジカセのスイッチを押してしまった。
俺はエアロビを始めることになってしまったのである…フル●ッキのまま。
………………………
いやぁ〜くたびれたくたびれた。
普通のエアロビでもキツいのにフル●ッキでエアロビしてたんだからキツいキツい。
俺はエアロビを終えた後、風呂桶を抱えてついこの前に修復・再稼働した大浴場へ向かっている。
前々から浴場自体はあったのだが、"レフ・ライノールの9.11"後は電気系統がアレになって使えなくなっていた。
ダヴィンチちゃんに修復を依頼された時は「うぇぇぇぇぇ!!めんどくせええええええ!!ええええやんシャワーは使えんやから!!」と思ったものの実際こうやって一汗かいた後だとやっぱり修復して良かったとは思う。
ちなみに女性用の浴場もしっかりと完備されており、婦長に殿下や両乳上、それに邪ンカァチャンはそちらへと行った。
言うまでもないが、ホームズ氏に悪行が露見してから盗撮なんて行いはしようと思わなくなったし、カメラが殿下を捉えてしまったら罪悪感がすごいことになりそうだ。
殿下のおかげで俺は少しだけ"マトモ"になれたのかもしれない。
脱衣所で汗だくの半袖短パンを脱いで着替えを準備した。
眼鏡を外してロッカーを閉めると、ボディソープとシャンプー、タオルの入った風呂桶と共にいざ浴槽へ。
温かいお湯でリフレッシュをと考えていたのだが、扉を開けた瞬間に、その欲求が達成されないことがよくわかった。
「ヴァヴァンヴァヴァンヴァンヴァンッ!!アヴィヴァヴィヴァヴィヴァッ!!」
"良い湯だな"と歌いたいならもう少し暑苦しくない方法でやって欲しい。
浴槽に下半身をつけて、腕組みをしながら怒声を張り上げているスパルタ人を見て俺はそう思った。
筋骨隆々な彼のことは言わずもなが知っている。
伝説のスパルタ王、レオニダス1世である。
「おおっ、これは失礼!知性的に1人でこの浴場を楽しむ方法を模索していたのですが、まさか他に利用者がいらっしゃるとは思いませんでした!」
「…いえ、お気になさらず」
レオニダス1世の暑苦しい歌声を聴きながら頭と全身を洗って湯船に浸かった時、かのスパルタ王からそう言われた。
テルモピュライの守護神たる彼は、自身の事を「スパルタで計算のできる男が私しかいなかった」から王になったのだと述べている。
しかしながら、現代の基準で言えば彼も立派な脳筋であろう。
現に彼は脳筋な方法で風呂を楽しんでいたのだから。
さて。
せっかくのリラックスタイムは全力脳筋タイムによって粉砕された。
それに彼と何か喋ってないとまた全身全霊のヴァヴァンヴァヴァンヴァンヴァンを聞かされそうな気がする。
だから俺は、どことなく沸いた疑問をそのままレオニダス王に尋ねる事にした。
「…テルモピュライの戦いでのご活躍はまさに伝説ですよね。ペルシア軍10万にたったの300人で立ち向かった。…そこでお聞きしたいのですが」
「ええ、何なりと聞いてください」
「敵の補給路を叩こうとは思わなかったんですか?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「………是非我が軍の参謀に」
うっそやん!!
スパルタってそこまで脳筋なの!?
大軍を動かすとなると、まず念頭に置かなければならないのはその補給である。
十万もの兵力を動員するとなると、十万人分の食糧を用意せねばならず、そしてその補給物資を運ぶためにより多くの動員が必要となるのだ。
そういう意味で、大軍というのは諸刃の剣でもある。
「というのは冗談です」
「ですよね、ビックリした。」
「ペルシア軍の動員規模は我々の想像を遥かに超えるものでした。その軍勢を見たギリシア軍は恐慌状態に陥るほどの大軍勢です。クセルクセスは各ポリスに使者を送って降伏を迫り、マケドニアやテーバイはこれに屈した。それに、スパルタもギリシアも大規模な祭典の最中でした。つまるところ、我々は準備を整えることができなかったのです。」
「制海権もペルシア側に?」
「いえ、そもそもテルモピュライは"それ以前"の戦いです。ダーダネルス海峡を押し通りマケドニアを服従させて迫ってくるペルシア軍をなんとしても止めなければならなかった。…敵の補給路云々を考える前の話だったのです。」
いくら脳筋のスパルタ人(失礼)でも好き好んで300人で戦ったわけではない。
迎撃の初動を担えるのが300人しかいなかった、という方が正しいだろう。
神聖な祭典の最中に巻き起こった非常事態、それならそういう対応でもおかしくはないのだ。
「300人という数字は極端に少なく思えるかもしれませんが、地の利は我々にあり、テルモピュライはファランクスによる守備にうってつけの地形でした。実際、我々は敵が回り込むまで持ち堪えていましたから。」
「何故回り込まれたんですか?」
単純な質問を返したつもりだったが、スパルタ人は少しばかり目を瞑り、額に流れ出る汗をタオルで拭き取りながらゆっくりと話す。
「内通者が…いたんです。彼はペルシア軍に回り道を教えました。」
「あらま」
「それでも我々は精一杯戦いました。槍が折れて盾を失っても戦う事をやめなかった。」
「…きっとそれは…準備を整えたギリシア軍が仇を取ってくれると信じていたから、ですね?」
「その通り。我々は我々が成すべきことに全力を投じました。」
「それはそれは壮絶な戦いだったんでしょうね。映画にもなってましたけど、その鍛え上げられた肉体と盾で敵の波状攻撃を受けてから押し戻し」
「は?…いえ、そんな戦い方はしてませんが…」
スパルタ人が「何を言ってるんだお前は」という顔で俺の事を見る。
ある映画のイメージが先行している俺からすると、こちらも「え?違うの?」という感じ。
しかしスパルタ人があまりに冷静な話を始めたので、俺は驚かされた。
「…あなたご自身がペルシア軍兵士だとお考えください」
「はぁ」
「目の前に長大な槍を持って盾を構えたファランクスがいます。」
「はぁ」
「…そのまま突っ込みますか?」
言われてみればそうである。
目の前のスパルタ王みたいな筋肉野郎どもがでっけえ槍持って待ってたら普通は接近したくない。
俺がそう思うなら、ペルシア人も同様であろう。
「……その映画は少々誇大な表現をしていますね。我々はペルシア軍の歩兵と対峙した時、まず背中を見せて逃ました。」
「えっ!?スパルタ人って敵に決して背を向けないんじゃ」
「誰がそんな事言いました?……ともあれ、ペルシア軍は逃げる我々を見て追ってきます。そしてペルシア軍歩兵の勢いが乗ったところで突如反転!迎え討ったのです!」
ごめん、想像と全然違ったわ。
想像より遥かに脳筋だったわ。
アレクサンダー大王のファランクス…おそらくはこのスパルタ人のそれよりも長大な槍を装備したファランクスが今度はペルシア世界を蹂躙するのは後の話だが、ファランクスは当時の中でも有用な兵法だったのだろう。
しかしながらそれにしてもやはり脳筋である。
反転してからの迎撃で、勢いのある敵の軍勢を止めるとか、余計に脳筋である。
もっとね、我ながらなんかこう…伏兵で挟撃したのかな、とか、弓兵で射かけさせたのかな、とか考えてたのがバカらしくなるほど脳筋だったわ。
「あなたが考えていることは大体分かります。」
「………」
「マスターも同じ顔をするでしょう。しかし、結局のところ私達は誰もが皆できる事を一所懸命にやったのです。自分達が倒れても、仲間が成し遂げてくれると信じて。」
「…確かにテルモピュライの後、ギリシアは海戦と陸戦の両方で勝利を収めました。でも…なぜそこまで仲間を信じられたのです?先ほどおっしゃったようにギリシア側全体としてみれば内通者もいたんでしょう?」
「スパルタ人は誇り高く内通などしません。それに、私と同じ筋肉を身につけています。」
「………」
「筋肉は永遠の友達ッ!己と同じ筋肉を身に付けた者がいれば、我々の間には何者にも引き裂けない友情が生まれるのですッ!!」
うーん、やっぱアレだね。
脳筋だわ。