レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています 作:ペニーボイス
何度でも言いますとも!!
設定ガバらせるのは(ry
「ワオオオオオオオオンッ!!!!」
おいおい、どうしたどうした、そんなところで何を吠えてるんだお前は。
「グルルルルルッ!!」
何故こっちを見る?
見るな、見るんじゃない!
そんな「アッ!人間見ツケタ、人間許サナイ」みたいな目で見るんじゃない!
廊下でとてつもなく大きな狼が、咆哮を上げながらこちらへ迫って来た時は、流石に俺ももはやここまでかと思った。
腰にはカルデア職員の標準護身用拳銃・G30が吊り下げられてはいるが、たった9発の45口径弾なんかであの馬鹿でかい狼が止まるとも思えない。
そもそもちっちゃなグロック拳銃を引き抜いている間に噛み殺されそうだ。
義務教育で習う物理法則からしても、俺は助かりそうもない。
あれだけの質量のものが、あれだけの速度で迫るのだから、運動エネルギーはとてつもないハズ。
俺はいいとこバラバラになるか、あるいはそうならなくてもあの鋭い牙の餌食になる事だろう。
俺の人生は、良い人生だっただろうか?
転生前も、転生後も、大した人生は送ってきていない。
後者なんて馬鹿高い報酬につられて雪山の施設に就職し、挙げ句の果てにテロ攻撃で死に損い、人理が焼却されたことで口座の金の意味もなくなった。
まあ、だけど、それにしたってこんなところで死ぬとは思わなかったけど。
せめてヌルテカベルファ●トとダンケ●ク揃えるまで待って欲しかったなぁ………。
首なしの騎士が俺と狼の間に割り込み、狼が急停止する。
騎士はどうやらこの猛獣の扱いに慣れているようで、軽く首元を撫でてやるだけで狼は落ち着いたようだ。
相変わらずこちらを睨みつけている目は怖いが、どうやら騎士殿が収めてくれているらしい。
フゥゥゥゥ。
助かったぁ。
いやあ、マジでサンクスですわ、騎士殿。
危うく26歳にして人生にTime to say good byeするとこでしたわ。
てか今になってすっげえ脂汗出てきた。
ハンカチ、ハンカチ、アレぇ、どこやったかなぁ。
あ、ああ、すんません、どうもご親切にありがとうございます、騎士殿。
…ん?何ですか?いや、すいません、手話は分からんのです。
ああ、このハンカチなら洗って返し…そうじゃない?
どうしたんです、ペンとボードなんか出して。
『Gib mir bitte einen tabak??』
いや、ドイツ語わかんねええええええええ。
あっ、そうだそうだ。
こういう時の為にダ・ヴィンチちゃん開発の
翻訳機があったな。
んーと、何々?
『煙草をください』
…………………………
…え、吸えんの?
[♪ピーンポーンパーンポーン
誠に身勝手ながら、制作都合上の理由により、これより首なし騎士さんには普通に喋っていただきます。
実際のやり取りは筆談で行われております。]
「どうお呼びすればいいですか?」
「何でも構いません」
「…ヘシアン、と呼ばれるのは不愉快でしょうか?」
「ハハハハハッ!…私は確かにヘッセン人です。そう呼んでいただいて構いませんよ。」
俺は部屋に戻り、首なし騎士ことヘシアン氏と話し(?)ている。
この騎士はかなり礼儀正しく、そして教養もある人物だった。
スリーピー・ホロウだと残虐な殺人鬼扱いとかされてるから、ちょっと心配だったのだが、そういった心配はあまり要らなさそうだ。
彼は今俺の隣で、首元にタバコを持っていって吸うという…たぶん世界広しと言えどもここでしか見られない吸い方でタバコを吸っていた。
気道から直接ニコチンを摂取しているとしか思えない。
そしてその様はホラーなはずなのにどことなくコミカルなのだ。
「ヘッセン…か……懐かしい。」
「懐かしいと言いますと?」
「ああ、いえ。ヘッセンの事を思い出しただけです。方伯様の命令で出兵する前の…」
「やっぱり、故郷へ戻りたいとか思ったりもするんですね」
「………いいえ。あそこへはもう戻らないと覚悟していました。私だけじゃなく、他の大勢もです。」
「へ?」
ヘシアンは俺の部屋にある椅子に腰かけ、俺もベッドに腰掛ける。
首から上がないのに、ため息を吐いているように見えた。
何というか、やるせないというか、そんな感じにも見える。
「方伯様も戻らせない気でいたのでしょう。トレントンの戦いでは多くの傭兵達が捕らえられましたが…彼らはペンシルバニアに送られた。」
「何故方伯は捕虜の帰還を望まなかったのです?」
「本土での寡兵に影響が出ると考えたのでしょう。聞くところによると、ブラウンシュヴァイクの大公に至っては…わざわざ英国王に、捕虜交換に至った際には捕虜を戻らせないように要求したそうです。」
「それは酷い話ですね。そもそも、何故アメリカとイギリスの戦争にヘッセンやブラウンシュヴァイクが絡んでくるのですか?」
「英国王ジョージ3世はハノーファー選帝侯でもありました。ヘッセン方伯様は彼の叔父です。まあ、それ以上に実利面も大きい事でしょう。」
タバコをゆっくりと吸いながら、ヘシアンは話し(?)続ける。
彼が首を飛ばされることになった、そもそもの原因を。
「ヘッセン=カッセル方伯やブラウンシュヴァイク大公は、自身の軍隊を英国王に貸し出すことによって莫大な富を得ました。兵士が死ぬごとに、イギリスから補償が得られたのです。」
「なんてこった…」
「だから、行方不明者が出来るだけ死者としてカウントされる事も望んでいたはず。返ってくる兵士も……少ないほうがいい。」
「しかし、すいません、大変失礼な質問なのですが、何故ヘッセン=カッセルがそこまで出兵を行えたのですか?」
「確かに国の規模を考えれば、ヘッセンはプロイセンに遠く及びません。しかし、方伯様は厳しい徴兵を行ないました。人口比からすれば、ヘッセンはまさしく"軍事大国"だったのです。」
「な、なるほど。その軍事力で得た莫大な富を何に使ったんですかね?やはり軍事強化に?」
「…それにも使われたでしょうが、大半は直接彼らの懐に入った事でしょう。」
「自国の軍隊を私用で使っていたって事ですか!?」
「当時の価値観は現代とは異なりますから…疑問にも思われるでしょうが。きっと、私達の時代の"騎士"はあなた方が思っているものとは違う。馬や装備の維持管理が重荷となり、傭兵として他国の戦争に参加する以外には、軍人として生き残る術がなかった…」
首なし騎士はやがてタバコを吸い終わり、その吸い殻を捨てる。
神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世は『最後の騎士』と呼ばれた。
14世紀から16世紀にかけて、騎士は戦場における戦術的価値を良質な火砲と銃器により失っていったのだ。
先程ヘシアンが言ったように、騎士は傭兵として戦う他になくなっていく。
傭兵隊長として自らの連隊を率いて戦った。
アメリカ独立戦争の際も、ドイツ兵は君主に雇われた傭兵という立場で、アメリカ人達は"傭兵"を呼び寄せた英国王の行為を裏切りと捉えたのだ。
そして、彼らにトドメを刺したのは第一次世界大戦。
近代的な野砲と機関銃が、"騎士"だけではなく、"騎兵"をも否定した。
かつて戦場の華とされた存在は、科学技術により役目を終えさせられたのである。
ヘシアンは吸い殻に、自らを重ね合わせたのだろうか?
かつての君主に忠誠を誓った高貴なる存在も、君主からすればただの駒だった。
君主は彼らの忠誠を利用して荒稼ぎしたのだ。
ひょっとして…
「ヘシアンさん、ひょっとして、貴方の復讐の対象って………貴方の頭を大砲で吹き飛ばした奴じゃなく…」
ヘシアンが素早く振り返って、人差し指を上に立てる。
首から上はないのに、『黙れ』と睨まれているように感じた。
もし、彼が言葉を発せられたのならば、その声は冷静ながらも威圧が込められていた事だろう。
「そこまでにしておいてください、シマズさん。例え傭兵に身を落としても、騎士は騎士なのです。どうか"私にそれを言わせないでください"。」
「………こ、これは失礼。」
「いえ…。それでは私はこのへんで失礼します。またタバコをいただきに来てもよろしいですか?」
「ええ!是非!歓迎致します。」
「そう言ってもらえると、とても嬉しく思います。今日はどうもありがとうございました。」
首なし騎士・ヘシアンはそう言って(実際は書いて)、私の部屋から立ち去った。
あれが…騎士の矜持というものなのだろうか?
だとすれば、俺のような人間は間違っても騎士にはなれないな。
高額の報酬に釣られたくせに、雪山に閉じ込められ、そしてそれを嘆いていたのだから。
君主の金の為に大西洋を渡って戦う事など想像もできない。
そんな事を考えながら背後から見る騎士の背中は、尚更高貴なものに感じた。