レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています   作:ペニーボイス

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Ⅶ 薔薇の皇帝と著作権

 

 

 

 

 

その金髪美少女は自らをネロ・クラウディウスと名乗ったが、俺には到底信じられなかった。

 

だってネロ・クラウディウスだぜ?

謀略と陰謀が人の形して歩けばああなるんじゃないかってくらいの「暴君」だぜ?

それが何で金髪美巨乳(?)少女なんかになってんのよ。

 

そりゃあよぉ、もはや会話成り立たないレベルのモンスターと化してるサーヴァントの方々とかいるけどさぁ。

エジソンとアメリカ大統領に至ってはキメラになっちゃってるけどさぁ。

ついこの前には首なし騎士とカンバセーションしちゃってたけどさぁ。

 

それでも、まだ慣れません。

この、常識破壊系の容貌シリーズには慣れません。

「あー、あの女の子可愛いなぁ、名前なんて言うのかなぁ、え?ネロ・クラウディウス?ははっ、ご冗談を…マヂ?」ってなります、未だに。

 

 

 

まぁ、何はともあれ。

ローマ皇帝ネロ・クラウディウスから、高射砲の仰角が足りなくなるくらいの上から目線で話しかけられたのが今日の朝の事。

 

こちとら久々にシフトから外れ、貴重な貴重な休日を始めようかと食堂へ向かった後のことであります。

私はエミヤ券を温存しておきたかったので、通常食堂へと向かい、コーンフレークとギリシャヨーグルトに冷凍ブルーベリーを突っ込んで食べ、何とも味気のない朝食を済ませてさあもう一眠りでもすっかなふぁ〜あ、か〜ら〜の、呼び止めである。

勘弁してくれ。

 

 

「そこの者!…確か…シマズとか言ったな!余の元へ来ることを許す!」

 

 

許さなくていいから。

一刻も私室に帰りたいんだよ、こちとら。

最初は知らないフリでもしようかと思ったが、ローマ皇帝が少し泣きそうな顔をすると言うあざとさを披露したがためにそれはできなかった。

 

 

「あの…私めに何のご用件でしょうか?」

 

「貴様は現代の演劇…映画とやらに詳しい方ではないか!」

 

 

語弊100%の内容を誰が教えたかは知らないが、たしかに俺は映画が好きだし、このあざといローマ皇帝に呼び止められる前までは今日一日を映画で潰そうと決意していた。

 

 

「ええ、たしかに………映画は好きですよ?」

 

「うんうん、そうであるかそうであるか。喜ぶといい!このネロ・クラウディウスが初めて手がけた映画の脚本を読む栄誉を貴様に与えてやろう!」

 

「………身にあまり過ぎる光栄ですので辞退させていただき」

 

「ぐすっ」

 

「喜んでご拝読させていただきます。」

 

 

赤セイバーってこんなあざといキャラだったっけ?

いつも大抵は明るくて…包囲戦中のレニングラードにぶち込んだらドイツ軍の砲撃がBGMに甘んじるほど闊達なサーヴァントじゃなかったっけ!?

いつからこんな奸計使いこなすような、ベリヤがドン引くレベルのあざといキャラになったのよ!?

 

だが、もう後には引けまい。

俺は自身の脚本を人に読ませる事をこの上なくたのしみにしていたと思わしきローマ皇帝の作品を受け取ってしまった。

 

いくら芸術好きとはいえ。

トライするならショートムービーあたりから始めた方がいいでしょうよ。

渡された分厚い脚本は、彼女の映画が30分そこらでは終わらない事を示している。

ゴットファーザーをpart1〜3まで全部足せばこの厚さになるかもしれない。

 

しかし受け取ってしまった以上は仕方ない。

ローマ皇帝は自信作の読書作文を先生に読んでもらう小学生みたく目を輝かせてこちらの反応を待っている。

私は第1ページ目を開き、内容を目にする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

冒頭の舞台はゲルマニア。

北方の蛮族を討伐するため、ネロ・クラウディウスは戦地へ赴く。

 

 

戦場は…どうやらなだらかな丘になりそうで、ローマ皇帝は今から荒れてしまう事になるであろうライ麦畑をゆっくりと歩いていた。

 

彼女はふとしゃがみ込み、土をひとつまみ掴んで匂いを嗅ぐ。

蛮族へ使者を送って既に2時間。

どうやら争いは避けられそうもない。

既に彼女の軍勢は戦闘隊形を整えていた。

ローマ軍特有の重装歩兵、巨大な投石機、属州の弓兵達。

そして忠実な騎士達からなる軍勢は長年ローマ帝国の拡大を支え、そしてその礎を築いてきた偉大なシステムなのである。

 

 

ネロ・クラウディウスは土を元の位置へ戻すと、甲冑に身に包み、未だ使者に返答を託さないゲルマニアの蛮族共の方を見やる。

今そこにあるのは中部ヨーロッパによくある針葉樹林で、何一つの音もない静かな場所だったが、やがてそこに現れるであろう蛮族が両手を挙げて出てくるかどうかでこのライ麦畑の運命も決まるのだ。

 

ローマの軍勢は明らかに苛立っていた。

あの蛮族共は自分達より遥かに巨大かつ、恐らくこの時代最も良くプロフェッショナル化された軍隊を見ても判断を渋っているらしい。

或いは無謀とも言える抵抗を試みる気なのかもしれない。

どちらにせよ、この戦場にいる全てのローマ軍が敵へのヘイトを募らせていて、ネロ・クラウディウスの副官(演・剣ジル)が全軍の代弁とも言える発言を彼女に対して行った。

 

 

「奴ら、まだ降伏しません。勝てるわけないのに。」

 

 

自ら軍を率いて出撃した勇敢なローマ皇帝は、ただ勇猛なだけではなかった。

思慮深く、そして常に油断というものを諌めている。

だから副官の軽率な発言を嗜めるようにこう返した。

 

 

「貴様は勝てるか?………余は?」

 

 

『〆*€#%$♪〒ウーダァァァアアア!!!』

 

 

その時、先ほどまで静まり返っていた針葉樹林から蛮族共が現れる。

ローマの軍勢には何と言ってるのかまるでわからないが、どうやら降伏を申し入れに来たのではなさそうだ。

もし降伏したいのなら槍や盾や弓を置いて来なければおかしいし、蛮族共はそれらの武器を高々と掲げていて、それどころか中央の男は使者の首を高々と持ち上げていたのだから。

 

中央の男が、どうやら蛮族の族長のようだった。

ほかの蛮族よりも良い毛皮を着ているし、巨大な大剣を持っている。

族長(演・ジークフリート )は、使者の首をローマの軍勢へ放り投げ声高く叫ぶ。

 

 

「〆*%#€〒$スマーナィィィイイイ!!!」

 

 

 

 

…………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「スタァァァァプ!!!!!」

 

「どうした?ここからが良いところだというのに。」

 

「どうしたもこうしたあるかァッ!!!パクリっつーんだよこういうのはッ!!!」

 

「なぁっ!?失礼な!!たしかに現代の映画とやらを参考にはしたが、そんな丸パクリみたいな事を言われる謂れはないぞ!?」

 

「謂れしかねえよ!!」

 

「証拠あってのことか!?余はこれでも裁判官をやっていた!!適当な事を抜かすならば斬ってくれようぞ!!」

 

「この後蛮族には勝つでしょ?」

 

「そうとも」

 

「そのあとアンタ家族殺されるでしょ?」

 

「そうとも」

 

「で、奴隷になっちゃうでしょ?」

 

「そうとも」

 

「んでもって剣闘士になるでしょ?」

 

「そうとも」

 

「最後は家族殺した奴を闘技場でぶっ殺すでしょ?」

 

「そうとも」

 

「途中で仲良くなったアフリカ系に『やっと自由になったな』って言われてエンドロールでしょ?」

 

「………何故分かる?」

 

「お前本当に元裁判官かこのやろおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

せめて途中で創作部分ブッこむぐらいの工夫はこなせや。

リメイクって言葉が生温く感じる。

もうまんま丸パクリ。

ついでに言えば時代背景適当にも程があるし、キャスティングも最悪。

すまないさんに蛮族の族長やらせんじゃねえよ。

謝りながら使者の首投げんじゃねえよ。

だったら最初っから斬んなよ。

 

 

何の映画見たかすぐに分かるレベルで酷い脚本である。

ラッセル・●ロウに憧れたかどうかは知らないが、あまりにもパクリ過ぎ。

つーかアレはローマ皇帝相手に復讐する剣闘士の話なのに、ローマ皇帝であるアンタが剣闘士してどうすんのよ。

 

もう本当に法の番人してたのか怪しくなってくるわ。

題材はリドリー・●コット、脚本は中国共産党の影響を受けたんじゃあるまいか。

普通は逆だと思うけど。

普通は中国共産党を題材にして、脚本はリドリー・●コット風にして現代社会のヒューマンドラマかドキュメンタリでも作るもんなんじゃないかな?

 

 

「うむぅ……そこまで似通っていたとは…」

 

「似通ってるんじゃありません、100%そのまんまです。」

 

「余としても工夫した場所はあるのだぞ?一応は。」

 

 

ネロ・クラウディウスは俺が開いているページとは別のページをめくった。

たしかにあの映画にはないシーンがそこにはある。

脚本の骨子からすればまるでどうでもイイようなシーンだったが、確かにそのページは惹きつけられるモノがあった。

 

 

「………奴隷の扱いが…俺の持ってるイメージとは違いますね…」

 

「そうであろう!そうであろう!」

 

 

剣闘士ネロがローマ入りするシーンで、奴隷がこき使われる場面が用意されていた。

たぶん、映画の方でラッセル・●ロウが売春婦からイチャイチャされるシーンを彼女なりに改編したものだろう。

彼女自身は側から見ているだけなのだが、その場面は中々に面白かった。

 

 

「…労働の後、しっかりと休みを与える旨を主人が述べていますね。俺のイメージだと、奴隷って鞭をパッチンパッチン打たれたら休みももらえずにこき使われる物だと思ってたんですが。」

 

「何を言うか!そんな事をすれば奴隷が衰弱するではないか!良いか?奴隷とは財産なのだぞ?決して安い出費ではないし、管理は細心の注意を払わねばならん。」

 

「うーん、ちょっと分かりづらいと申しますか…」

 

「例えば貴様が…そうだな、その腕時計とやらだ。決して安い買い物ではなかろう?」

 

「ええ、まあ。」

 

「ならできるだけ長く使用したいはず」

 

「はい」

 

「であれば、定期的に手入れをしてやらねばならぬし、動力も供給しなければなるまい。奴隷においても同じ事が言えるのだ。」

 

「つまり…奴隷もイタズラにこき使って消耗させるわけにはいかないという事ですか?」

 

「その通り!よく分かっておるではないか!」

 

 

奴隷の管理はさぞ大変だっただろう。

彼らは元は戦争捕虜だったり、或いは奴隷の子供で元から奴隷だったり、賊に捕らえられて市場に売り飛ばされる例もあったらしい。

故に様々な個性を持つ奴隷がいたハズだし、大勢の奴隷の中には口先がうまく主人を騙して旨味を得ていた奴隷もいたハズである。

いざ奴隷を買おうと言う時に、そういった個性まで見抜いて購入する事は難しいはずだ。

 

 

「奴隷といえども、余やほかのローマ人と同じ人間である。食がなければ動けぬし、反感を買い過ぎれば寝首を掻かれるやもしれん。だから良き働きをした奴隷には特別な褒美をやると良いぞ?」

 

「…例えば?」

 

「質の良い靴や衣類を与えてやったり、主人やその家族と同等の食事を与えてやったり。この脚本に書いた通り、休日を与えて外出を許してやるのも良いな。ただ、その際は逃亡しないように気を使う必要はあるが。」

 

「なるほど…目標があれば人は頑張りますからねぇ」

 

「最終的には解放してやるのも良いぞ。良く働いた奴隷を解放して、自由の身にしてやるのも主人の権利ゆえ。そうすれば、奴隷にとってはそれが生涯の目標になるであろう?」

 

「自身の自由を得るためにもよく働くようになる、という事ですね?」

 

「その通り。ローマとは寛大な社会なのだぞ?例え元奴隷であったとしても、良き働きをして主人に解放されれば、社会の一員として受け入れられるのである!」

 

 

寛大と言って良いものかどうかは分からないが、そういったシステムがローマ帝国の繁栄をもたらしたとどこかで読んだ事がある。

 

 

俺は脚本を閉じ、ネロ・クラウディウス陛下に自身の思いを伝える事にした。

 

 

「陛下。」

 

「なんぞ?」

 

「それをテーマにして脚本を書くべきでは?………グラディ●ーター丸パクリじゃなくて。」


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