レイシフトの私的な使用は法律で禁止されています   作:ペニーボイス

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令和早々"威光"を暴走させます、申し訳ありません





Ⅷ 陛下と"威光"に栄光あれ!

 

 

 

 

『古の英雄達も砲弾の事は知らない。

敵を撃ち砕く、火薬の力も同様に。

だが、恐れ知らずの我らが兵士はそれを武器にする。

さあ、進め、進め、進め、英国擲弾兵。』

 

-----ブリティッシュ・グレナディアーズ(英国軍歌)より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

専門家が側にいると、少なくとも俺のような人間は非常に助かる。

「技術者としてのプライド」なる物は産まれた時に母親の胎内に置いてきた。

仕事の何かに拘りを見出せたことも、やり方に拘ろうをしたこともない。

 

だから、カルデアの電力を司る配電盤に問題が起きた時、エジソン博士の元へ訪ねに行くのには何らの抵抗はなかった。

幸いにも俺の担当は直流に関係する装置で、エジソン好みの分野でもある。

「レフ・ライノールの9.11」から生き残ったもう1人の技師は交流関係する装置を担当しているので、俺がニコラ・テスラの元へ向かう必要もなかった。

 

 

今日も俺は、自身のクソみたいな知識ではどうにも解決できそうもない問題にブチ当たった結果、エジソンの力を借りることにしたのだ。

もう1人の生き残りは職人気質の塊のような人間なので、正直彼を頼るよりかは博士を頼る傾向にある。

たしかに俺の知識不足も問題かもしれないが、あの頑固爺の言う通りに一々最初から調べ通していてはまるで業務が回らない。

電気関係設備のそれぞれの問題だけに対処するのが俺たちの仕事じゃないし、その点検・管理・維持を合計2人でこなさなきゃいけないのに、一つの問題にじっくり取り組んでいるような時間はないのだ。

 

 

頑固爺とニコラ・テスラの仲は険悪そのものだった。

頑固爺が真剣な顔をして配線図とにらみ合っていた時に、テスラがそれを横から見て鼻で笑ってしまったのが原因だ。

テスラにとっては些細な問題でも、頑固爺は30年のキャリアをもって挑んでいたのである。

当然、不機嫌になった頑固爺はその怒りを俺にぶつけた。

いわゆる八つ当たりである。

テスラ博士、あとで覚えておいてくださいね?

 

 

反対にエジソンと俺の関係は概ね良好である。

彼の学歴は小学校での三ヶ月間と言うことになるのだが、そのせいもあってか彼の説明はテスラの迷路のような話よりかは分かりやすい。

単純に俺の知識量に問題しかないのだが、しかしながら、元々はただの"ペーペー"でしかなかったことは考慮していただきたい。

端くれを齧った程度の凡人にも分かりやすいという点では、エジソンはテスラよりもお伺いしやすがったのだ。

 

それに、エジソンにお伺いしやすい理由はもう一つある。

エジソンは睡眠を一日3時間しかとらない。

だからいつ行っても大抵起きているし、そして貴重な時間を割いて頂くにも関わらず、嫌な顔をされないのだ。

 

 

 

エジソンの協力の下、俺は配線盤の問題を速やかに解決する事が出来た。

そして、俺はこういう時、彼の頭脳の対価としてはささやか過ぎるのではあるが、キューバの葉巻とビールでお礼をする。

 

問題が解決したのは22時30分。

エジソンも今日は珍しく早めに休むとの事で、俺は彼と2人で誰もいない食堂へ向かう。

流石にこの時間になると食堂にいる人間はおらず、婦長によるカルデア禁煙キャンペーンはついこの間に終わっていた。

 

俺はホットコーナーでフレンチフライとソーセージを買い、ビール瓶をいくつか並べて、キューバの葉巻を一箱と灰皿二つをテーブルの上に置く。

2人とも、ス●ーフェイスのトニー・●ンタナのように葉巻を咥えると、火をつけて煙を薫せた。

エジソンがバ●ワイザーの王冠を開け、俺もヴァイツェンのそれをこじ開けると、2人で今夜に乾杯を捧げる。

 

 

確かに、俺は酒には弱い。

だが、ヴァイツェンと呼ばれる白ビールだけは全然大丈夫で、寧ろ好んで飲む傾向にある。

毎夜毎夜飲んでいるわけではないが、今日のように仕事が長引いた日には飲みたくもなるのだ。

恩人にラガーを飲ませて自分が高価なビールを飲むのもアレなんだが、エジソンはラガーの方が好みらしい。

 

まあ、何はともあれクソみたいな問題は片付いた。

換気扇を起動させ、誰もいない食堂で葉巻とビールを楽しんだところでバチが当たるもんでもないだろう。

俺はヴァイツェンを一口飲み込むと、ライオン顔の発明王にお礼を言った。

 

 

「本当にありがとうございます。博士がいなければ、アレを解決するのに何日取られたか。」

 

「気にするな、いつでも頼ってくれたまえ!シマズくんもシマズくんで段々と身につけているじゃないか!その調子で頑張ることだ!」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

エジソンがバ●ワイザーを一口飲み、俺もヴァイツェンを一口飲む。

葉巻を吸い、ソーセージに齧り付き、そしてまたヴァイツェンへ。

嗚呼、なんという至高の時か。

 

 

「話は変わるが…あの看護婦のキャンペーンが終わって、個人的にはホッとしている。ようやく喫煙所が使えるようになったからな。」

 

「本来、食堂も22時以降は喫煙可能ですからね。ようやくこうやってゆっくりできる。」

 

「ただ…あの看護婦の事だ、これからも口煩いに違いないだろう。」

 

「できれば喫煙中には会いたくありませんね。」

 

「うぅん…どうもあの手の看護婦は苦手だ。良き労働には良き息抜きが必要だ。人の3倍働くなら、人の3倍楽しまなければならない。」

 

「一日の終わりくらい自由にさせてもらいたいもんですが…」

 

「お2人の発言も一理あります。確かに精神衛生上、娯楽と息抜きは不可欠でしょう。」

 

「なのにあの看護婦ときたら…」

 

「………」

 

「………」

 

 

いや、婦長、いつの間に?

 

気がつけば俺の隣の席に婦長がいる。

赤い制服の上衣を椅子の背もたれにかけ、ワイシャツに包まれた"威光"をテーブルの上にドサッ置き、そして手にはエールの中瓶を持った婦長が。

俺は血の気が引いてくのを感じたし、エジソンもバ●ワイザーを落っことしかける。

 

 

やっべえええぇぇぇ…

さっきの会話丸聞こえじゃん。

てか、なんでそんなナチュラルに入ってきてんの?

なんでこんな普通のオッさんとライオン顔の発明王によるザ・中年チックな飲み会のテーブルにナチュラルに溶け込めんの?

仕事帰りのOLさんですか?

帰りがけにどっかの居酒屋に立ち寄って鬱憤晴らしてるOLさんですか貴女は?

 

 

「どうぞ、続けて下さい」

 

 

そう言ってエールの中瓶を一本一気に開けてしまう婦長。

飲みっぷりがもはや中年男性である。

つーか、続けられない。

俺もエジソンも、今では希少なキューバ産葉巻の火を消してしまうかしまわないかで悩んでいるのだ。

いや、あの、婦長?

「プハッ…ア〝〜、生き返るぅ〜」じゃなくてさ。

 

 

「ふぅ………残念ながら、カルデア禁煙☆キャンペーンは先週を持って終了しました。仕事終わりの息抜きぐらい大目に見ましょう。」

 

 

思いもよらない婦長の寛容さに、エジソンと顔を見合わせる。

いつもなら健康云々のお話…というよりお説教が

 

 

「と・は・い・え!!喫煙は貴方達の健康を害する行為です!!そのことをお忘れなく!!」

 

 

あ、やっぱり中身はいつも通りの婦長でしたね。

変な期待抱いてごめんなさいね。

もう喫煙に関して云々言わなくなるわけとかないよねごめんね。

 

いつもはプラチナブロンドっぽい長髪を頭の後ろで纏めている彼女は、今は髪を下ろして砕けた服装でいる。

こんな婦長も珍しい。

いつもは赤い英国陸軍の制服をピシッと着こなして、病気だの怪我だの聞くたびにすっ飛んでくるイメージしかないのだが。

 

 

「………他に何もお話する事がないのなら…クリミアのお話でもしましょうか?」

 

 

席に着いてまだ3分も経たないと言うのに、婦長は早くも3本目を開けている。

あのぉ、お酒の飲み過ぎも良くないと思いますというか…。

しかし、まあ、クリミアかぁ。

そういえば婦長とは禁煙がらみで云々かんぬんぐらいの会話しかしてなかったもんなぁ。

 

不凍港を手に入れたいロシア、ロシアの南下を防ぎたい英仏、これ以上の領土喪失は避けたいオスマン。

少なくとも、俺の知ってるクリミア戦争はこんな感じだ。

何というか…ぼんやりしていてよくは知らない。

 

 

「意外に思うかもしれませんが、イギリスがヨーロッパへ大規模な陸軍部隊を派遣したのは…ナポレオン戦争から第1次世界大戦までの100年間でクリミア戦争だけです。」

 

「ほ、ほぅ、それは確かに意外ですな、Ms.ナイチンゲール。」

 

 

突然の婦長の介入に、エジソンは気が動転しているのか普段は到底しそうもない言葉遣いを披露する。

そういえば第五特異点で色々色々あったとか何とか聞いた気もする。

 

言葉遣いの方はさておき、婦長の発言は考えてみれば意外な事実でもあった。

少なくとも俺からすれば、レッドコート(大英帝国陸軍の制服)は世界中で戦争していたイメージしかないのだから。

18世紀にはアメリカで、ナポレオン戦争ではヨーロッパで、19世紀に入ればインドのスィパーヒー、清国、ズールー王国、ボーア人、…日本の薩摩藩や長州藩とも戦火を交えていたかと思う。

ところがナポレオン戦争以降1世紀の間にヨーロッパにレッドコートの大軍を送ったかと言えば、クリミア戦争だけらしい。

婦長の言う通り…19世紀欧州の著名な戦争…例えば、ホルシュタイン・シュレヴィヒ戦争やら普墺戦争やら普仏戦争やらにはレッドコートの集団は出てこない。

どちらかと言えば、ナポレオン以降の19世紀欧州の戦争の主役はプロイセンであったように思える。

…若いセルビア人がオーストリア皇太子夫妻を撃つまでは。

 

 

 

「…不思議だとは思いませんか?」

 

「え?」

 

「イギリスの外交力なら、大規模な派兵をせずとも、ロシアの南下を防げた可能性は充分にあるでしょう。」

 

「婦長、俺にはおっしゃる意味が分かりません。」

 

「…当時のイギリスの内閣は、連立政権でした。首相はロシアに対して穏健的、外相と内相は強硬的。あの戦争自体、元々はオスマンとロシアの対立が原因です。内閣が機能していれば、仲裁さえできたハズ」

 

 

婦長が更にエールをもう一本空けて、次の瓶の王冠を外す。

開封したてのビールを更に一口クイっとやった弾みに、大きな"威光"がたゆんと揺れた。

た、確かにこんな馬鹿でかい"威光"に説得されたら有無も言えんわなぁ。

…あー、ダメだ。

俺も飲み過ぎだ。

思考回路が支離滅裂になってきてら。

 

とにかく、婦長が言いたいのは…恐らくは政府が安定していて、本来の大英帝国外交パワーを発揮できていれば、ロシアとオスマンの仲裁をできたのでは?という事ではないだろうか。

そうは言っても、衰退傾向にあったオスマンにロシアの相手は無理ゲーだったのではとも思えるが。

クリミア戦争の前世紀には二度の露土戦争に敗北しているし、エジプトとギリシャもその手から抜け落ちている。

イギリスが仲裁に出たところで、ロシアの南下が防げたかといえば疑問符がついて回る事だろう。

 

まあ、ともかく。

『歴史にもしもはない』なんていう言葉は確かに使い回された言葉だが、しかし、想像することはなんらの罪にも当たらまい。

クリミア戦争がもし英国の仲裁で防がれたとすれば…

 

 

「…婦長、貴女は…必要とされなかった」

 

 

いかん、本当に飲み過ぎてる。

思っていた事がそのまま唇の間からすり抜けてしまった。

 

 

「ええ、そうかもしれません。」

 

「…あー、そいつは…大変だな、シマズ君。」

 

「ええ、大変です、博士。なんたって、彼女がクリミアでした事を考えれば…」

 

 

近代的な野外衛生と看護師を"クリミアの天使"抜きで語るのはほぼ不可能だろう。

婦長は統計を用いて、保守的な軍人に環境の改善を迫った勇気ある明晰な女性なのだ。

そんな人物はそうそう現れるものではない。

 

 

「…昨日、マスターから興味深い話を聞きました。ジャンヌ・ダルクはご存知ですね?」

 

「ルーラーの?」

 

「そうです、シマズさん。彼女とマスターは、黒い方のジャンヌ・ダルクが作り上げた架空の世界に引き込まれた事があるそうです。百年戦争がイングランドの勝利で幕を閉じた、架空の世界に。」

 

「それは面白いですな、Ms.ナイチンゲール。」

 

「…私は…その話を聞いた時に思いました。もし、クリミア戦争にイギリスが参加しなければどうしていたか…」

 

 

ネタバレになるが(おい)、拗ねた邪ンヌがメフィストフェレスを使ってルーラー・ジャンヌを意地の悪い幻に引き入れた話なら小耳に挟んだ気がする。

 

 

「彼女…ジャンヌ・ダルクはこういったそうです。"己が選んだ己の道をひた走るのみ"と。未来を知って行動するのは非人間的だとすら言ったようです。」

 

「つまり…婦長、クリミア戦争に英国が参加しようが参加しまいが…貴女は自身のベストを尽くし続けただろうと…そう、おっしゃいたいのですか?」

 

 

婦長が立ち上がって、こちらへと歩み寄ってくる。

なんてこった、飲みすぎだよ婦長。

上気した…ニヘラっとした感じの笑みを向けながら迫ってくる婦長が一歩近づく度に、俺の理性が警鐘をバンバカ鳴らしやがる。

まるで頭の中でレッドコートの軍楽隊がブリティッシュ・グレナディアーズを演奏してるんじゃないかというぐらいにも思えた。

 

逃げ出そうかと思ったが、婦長の雰囲気がそれを許してくれそうもないし、それにたゆんたゆんしてる"威光"の同行が気になって、邪な好奇心が理性の警鐘と張り合っていた。

 

婦長は俺の目の前で立ち止まると…あろう事かその大きな"威光"で俺の頭をすっぽりと包んでしまった。

やっべ、興奮しそ(やめろ)

 

 

「ええ、勿論。私はベストを尽くし続けます。クリミアで大勢の兵士が犠牲になっても、なっていなくとも。そして…このカルデアでも、最善を尽くす事でしょう。」

 

「あ、あの、ふちょ、ふごっ、婦長!息が苦しっ、ふごっ」

 

「シマズさん、貴方の職務も、このカルデアでは不可欠なものです。」

 

「…………は、はあ。」

 

「ベストを尽くしなさい。そこのキメラを頼らずに済むように。」

 

「いや、キメラじゃないからね?」

 

「頑張りなさい。これは私からのご褒美です。今日はお疲れ様でした。」

 

 

"威光"は俺を解放して、婦長は上着と沢山の空ビンを持って去っていく。

俺はその背中を見ながら…ふともう一つ思い出した。

 

 

アメリカ人が当時鎖国中の日本に黒船を派遣できたのは、同じ頃クリミア戦争が欧州列強を釘付けにしていたからだと聞いた事がある。

 

もし英国の内閣がクリミア戦争への参戦を見送っていたならば、あるいは英国が仲裁に成功していたならば。

日本の開国はまだ当分遅れていた可能性は決してゼロではないだろう。

開国が遅れれば、時代遅れの統治システムは欧州列強に飲み込まれたかもしれない。

 

 

 

俺は中身の少ないヴァイツェンのビンを手に取り、レッドコートの女性に捧げた。

女王陛下に栄光あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 





キャラ崩壊著しく申し訳ありません。
電気関係云々は著者の職業とは関係のないただの創作上の設定として描写しておりますので、もしその手の方で「何言ってんだこいつ」と思われた方がいらっしゃいましたら所詮創作なんだなと生暖かい目で見ていただくと大変有難いです。
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