幸せの始まりはパン屋から   作:小麦 こな

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第21話

3月も後半になって来て、テレビでは桜の開花情報などを耳にする機会が多くなってきた。寒さのピークも過ぎ去って、これから過ごしやすくてあたたかな春がやって来るんだな、なんて思い始めている。

 

私は今日もバンド練習の為、メンバーである有咲の家にある蔵に向かっている。

集合時間よりかなり早めなんですけど、暇なので早めに行っておしゃべりなり基礎練習なり出来たら良いなと思っています。

 

お店から出て、いつもの道で有咲の家まで行く。

その道の途中で公園の前を通るのだけど、みゆき君と出会って以来たくさんの思い出があるような気がするから、いつも公園の前に立ち止まっている。

 

別に立ち止まったからと言って何もするわけでは無いけど、今日も公園の様子を見ようかなと思い、公園を覗き込む。

昨日とは違う光景に、私は思わず足を止めてしまった。

 

「あれって……」

 

ちょっと大袈裟かもしれないけど、目をゴシゴシと擦ってからもう一回公園の中を見る。

間違いなく公園のベンチに座っているのは私の知っている男の子だった。

 

 

 

「今日はどうしたの?一人で公園のベンチに座っちゃって」

「……あ、沙綾。会うのは久しぶりだね」

 

私はすり足で、ベンチに座ってじーっと地面を見つめているみゆき君の隣にスッと座って優しく声を掛けた。

ベンチに座っていたみゆき君は制服姿だったから、部活の帰りにここで座っているのかな。

 

「どうしたの、か。部活サボって時間つぶし中かな?」

「え?部活サボっちゃって良いの?」

「良くはないけど、なんちゃら大臣賞受賞したし大丈夫でしょ」

「……みゆき君にあげたらいけなかった賞かも」

「もう貰っちゃったから返しませーん」

 

両手をあげながら変顔をするみゆき君。

まぁ学校の部活はクラブチームみたいに本気でやっているわけでは無く、悪い言葉になっちゃうけど趣味や時間潰しみたいなものだから気分転換も大事なのかな。

 

でも制服を着ているって事は、部活に行こうと思ったけど面倒になってここで時間を潰す……。そっちの方が面倒な気がしてきた。

せっかく制服着てここまで来たんだからあともうちょっと頑張ろうよ……。

 

「制服着て電車まで乗って来たのにサボるって面白いね」

「でしょ?こんな事俺にしか出来ないからね」

「ふふふふ。そうだね」

 

初春の風がサラサラと流れる公園内で、私はみゆき君に微笑み掛ける。

 

もうすぐ4月なんだよね。高校生になってもう1年も経つんだね、って時の速さを実感していると、私の心がある提案をしてきた。

せっかくだし、二人でお花見でもして来たら?そんな提案。

 

……うん。良いかもしれない。みゆき君は「花が好き」って言っていたし、季節らしい事をしたいよね。

心の奥底から出てきたこの提案は思いの外すぐに了承されたことにちょっと驚いている私の心に、ナイス提案!と語り掛けておいた。

 

「ね、みゆき君」

「……」

「流石に無視は怒るよ?」

「あ、はは。冗談に決まってるじゃん!……それで?どうした?」

「4月4日。たしか日曜日だよね。お花見行かない?」

「あー、4日。ちょっと待ってね」

 

みゆき君は素早く携帯を起動させてカレンダーを見ていた。みゆき君は携帯でスケジュールを管理する派なんだね。

私は手帳でスケジュールを管理している。だって手書きの方が予定が詰まってるー、って感じに浸れるし自分好みの絵を描いたりしてかわいく出来るから。

 

「んーもしかしたら部活があるかも……。顧問に聞いてみるから返事は後でも良い?」

「うん。後でも大丈夫!それともし予定が被っちゃったら、部活を優先して、ね?」

「えー、部活やだよー」

「ふふふふ。だーめ」

 

なんだか弟や妹をあやしているような錯覚にとらわれてしまって危うくみゆき君の口に人差し指を添えてしまうところだった。

そんな動揺をしっかりと隠すために、上を見た。

 

雲が多いけど、雲の量が8割ぐらいだから天気はギリギリ晴れなのかな。

 

「なぁ沙綾」

「うん?何?」

 

みゆき君に呼ばれたから君の方を向いたら、想像していたより顔が近くて一瞬ドキッ、とした。みゆき君の顔がニヤニヤ顔では無く真剣な顔つきだったから余計に、かもしれないな。

 

「ずっと、思ってたんだけどさ……」

「えっ、な、なにさ!?急に……」

 

真剣な顔のみゆき君って意外とかっこいいんだよね……じゃなくて!

ずっと、何を思っていたんだろう。私の心臓がトクトクと忙しく動き回っていて、この間見た恋愛映画のプロポーズシーンとほとんど同じ状況なんだけど、って考えるとドンドン顔が熱くなってきて。

こんな時に言うなんて、ずるいよ。

 

「沙綾……」

「う、うん……」

「ドラムスティックを持ってるけど、練習行かなくていいの?」

「……はぁ」

 

私の口から小さいけど、人生で一番重たいため息を吐いたと思う。身体全体をまとっていた緊張感がまるで息を吹きかけた綿毛のように空へ飛んで消えていった。

身軽になった私はジト目でみゆき君を見つめる。ばか。

 

「時間に余裕があるから大丈夫なんですっ!」

「なんで沙綾が怒ってんの?」

「いや、怒ってないから」

「顔が真っ赤だったから怒ってるのかなって……あっ!まさか!?」

「もう練習行くから!もう知らないよ!」

 

私はサッと立ち上がる。勢い良く立ったからか、緊張感が取れて身軽だからか分からないけどすごいスピードで立ったと思う。

それにみゆき君がニヤニヤし始めたから、って言う理由もあるかもしれない。

 

そのままの勢いで当初の目的である有咲の家に向かう事にする。

だけどその前に、一旦足を止めて振り返る。

 

「みゆき君っ!」

「わっ!まだ怒ってるの!?」

「お花見の連絡、待ってるからね!」

 

最後にウインクを添えてから公園を後にする。

言い終えてからみゆき君の方を一切見ていないからどんな顔をしていたか分からないけど、ちょっとはドキッとさせられたんじゃないかな。ふふふ、仕返しだよ。

 

 

 

 

バンド練習を終えて、私は家に帰ってお風呂に入る。

ぽちゃんと湯船に入れば、温かいお湯が一日頑張って冷え切ってしまった身体を癒してくれる。湯船から出て来る湯気は、モクモクと私の周りを取り囲む。

 

「おねーちゃん!けいたいがなってるよっ!」

 

妹の紗南(さな)がお風呂場に入って来て私に携帯を渡してきた。携帯を見るとメッセージが来ていたから紗南が電話と間違えたのだろう。

ありがとう紗南、と言って頭をなでてあげると「かみのけがぬれちゃうー」って言ってすぐにお風呂場から出て行ってしまった。

 

お風呂に上がってから携帯を確認しようと思ったけど、せっかく紗南が持って来てくれたから内容だけでも見ておこうかな。

私は手をタオルで十分に水分を拭きとってからメッセージを開示した。

 

「ふふふ。すっごく早く決まってるじゃん」

 

携帯を閉じて、着替えの上にポンッと置いた。

今日はいつもよりゆっくりお風呂に入ろうかな?もしかしたらのぼせてしまうかも。

 

 

4月4日、花見に行こうぜー

地元でいい場所があるから案内するよ

 

 

みゆき君から送られてきたメッセージを頭に浮かべながら、半身浴をすることにした。

 

 




@komugikonana

次話は4月1日(月)の22:00に投稿します。

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~次回予告~
4月4日。みゆき君とお花見をするため、私は電車に乗ってみゆき君の地元へお出かけ。待ち合わせ場所にはみゆき君はいたんだけど、なぜか元気が無さそうに見える。
「なぁ沙綾、今日は何の日か知ってる?」
何の日なの?みゆき君。

では、次話までまったり待ってあげてください。
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