愛香さんの誕生日に公開された俺ツイ新エピという供給でテンション上がって、急遽仕上げることができた第19話
「うわあああんん!!ちい姉がイキナリぶったぁぁぁ~~~~!!私なんにもしてないのにぃ~~~ひどぉいいぃぃぃ~~~~~!!!!!」
「うるさい!あんたよくそんなこと言えるわね!!」
姉のゲンコツにわんわん泣く妹と説教する姉。それと部屋をぶち抜いた先の壁に突き刺さっている白衣の美少女。
部屋の主である俺は、この状況をどうればいいんだ……
と、頭を抱えているところへ、インターホンの音が聞こえた。
「あぁ~……なんなんだよ、もう。ん?今のは、慧理那たちも来ちまったか……」
願わくば、これが状況を好転させる福音であってくれ。
俺――観束総二の今の心境を一言で表すならば。
困った。
これに尽きる。
俺の部屋への乱入に次ぐ乱入の大騒ぎから数分。
現在は場所をリビングに移し、登場人物は俺を含め六名となっていた。
まずは俺。
そして壁に突き刺さったリカバリーを終えてピンピンしているトゥアール。
更に、慧理那と彼女のメイドで護衛兼ツインテール部顧問の桜川先生。
もともと合宿の出発時間が迫っていたので、こっちの騒動が収まるよりも二人が来るのが早かった。
で、この四名の視線の先にいるのが残る二名。
「あんたはもう……朝から何回、ため息つかなきゃいけないのよ」
「だってだって……ぐす」
仁王立ちで
騒動の中心たる姉妹である。
「だから!あたしは学校の部活!その合宿なの!あんたがついて来れるわけないでしょ!!」
「そ、それでもっ、な、夏休みにちい姉がいないとかやだぁぁぁ~~~~~~~~~~~っっっ!!!」
「あぁぁ~~~もぉぉぉぉぉ~~~~~~!!」
リビングに移ってから、愛香と好香の間で同じようなやり取りが繰り返されていた。今ので何度目だったかな……
好香は泣いているが、愛香も聞き分けてくれない妹に頭を抱えていた。泣く子と何とやらには勝てないと言うが、この通り、泣いてる好香には愛香でも押し切れないものがあるんだよなあ。
聞き分けてくれない妹にお手上げになった愛香の、好香の鳴き声に負けず劣らずの叫び声が上がった。
そう。俺たちツインテール部――つまり、ツインテイルズは夏休みに強化合宿を行うことにしたのだ。
それが出発直前に“愛香を行かせまいとする好香”なんて思わぬトラブルに見舞われるとは。
「ついてっちゃダメならちい姉が行かないでよぉぉ~~~~~!!!」
「そんなのできるわけないでしょ……どうしたら諦めてくれるのよ」
さっき愛香に小突かれた(というのレベルの音では無かったが小突いたということであってほしい)痛みで泣いたのが引き金だったんだろうな。“ちい姉と一緒にいたい”と不満を吐き出す好香は、愛香にしがみついて離れそうにない。
いよいよ腰にしがみついてまでわんわん泣く妹をどうすることもできず、愛香の方は疲れた様子で声が小さくなってきた。
「うーむ。津辺のやつ、これほど妹に執心されているのか」
桜川先生は、全力で泣き落としにかかっている好香をいっそ感心した様子で眺めている。
「感心してないで知恵を貸してくださいよ。仮にも教師だし、こういう場合の子供に上手いこと言いくるめられる案とかありませんか?」
「無茶を言うな。私の本業はお嬢様の護衛だし、教師と言っても担当はお前たち高校生だからな。これが津辺と双子の弟くらいなら婚姻届を渡して執心の対象を私に変えられるんだが、あんな女児ではな……むしろあの粘り方は参考になるというか。うむ、どうだろう観束。お前が婚姻届にサインをしなければ津辺の妹を止めないと強気に懇願してみるというのは?」
「どうだろう、じゃない!この流れで当然のように婚姻届を持ち出さないでください!!」
縋れるなら藁でもいい現状なので、教師というだけで我ながら無茶振りを桜川先生にしたと思った。が、3倍返しくらいの無茶振りに襲われた。
このメイドさんが婚期を逃すまいと婚姻届を常載している人なのは慣れてしまったけど、日進月歩で婚姻届を押し売りするスキルに磨きがかかっている。子供の駄々からも技を見出さないでいただきたい。それ世間一般では、懇願でなく脅迫って言いませんかね。
ともかく。ずっと好香を知っている俺だって、ここまでとはちょっと予想外だったというか。
これまで愛香が学校行事なんかで外泊になる時は当然、俺も同様のスケジュールだった。その間の好香の様子は、後日に恋香さんの録画を見せてもらったりしてたんだが、その映像よりも大人しくなるどころかパワーアップしている気がする。
……いや、違うな。思い返せば恋香さんのアルバム映像でも成長する程にパワーアップしていた気がする。
両親が海外出張になった時はすんなり見送ってたと思うんだけどなあ好香。相手が愛香だとこうも嫌がるのか。
「正直、慧理那が外泊許可もらうのが一番の問題だと思ってたからな。こんなことになるとは……」
「わたくしも我が家が合宿の問題だとばかり思っていましたわ。ですが、どうしましょう……好香ちゃんのあの様子だと、初対面のわたくしは勿論、観束君が諭しても聞き入れてくれるでしょうか?」
「そうなんだよなあ……」
俺と慧理那は困り顔を見合わせた。
慧理那は家の格式が高い、いわゆるお嬢様だ。なので部活の合宿とはいえ外泊許可が下りるのかという不安があり、そこが事前の最難関だと思っていた。
結果としては、思っていたよりもすんなり許可が下り何の憂いもなくなったのだが。
「好香だってそのうち修学旅行とか行ったりするんだからね?あたしは付いていけないのよ?」
「しゅーがくりょこーは夏休みにはないもん」
憂いは無くなったと思ったんだけどなあ。
愛香にしがみついたまま、説得からぷいっと顔を背ける好香。まったく、落とし穴は何処にあるか分からないものだ。
慧理那の言う通り、好香特効の愛香でさえ説得に苦戦している現状を見れば俺たちに何ができるのか。
この合宿がただの部活なら、最終手段としては好香も連れていってやる、というのも出来なくはなかった(それもギリギリだと思うが)。しかし、俺たちの部活はツインテイルズ活動の方便であり、今回はヒーローとしての強化合宿。
加えて――合宿場所はなんと異世界なのだ。
とてもじゃないが好香を同伴させるのは無理だ。何としてでも諦めてもらうしかない。
「いっつも生意気なくせにこういう時だけ変に素直なんだからぁ……もうちょっと意地張って『ちい姉がいなくても何ともないよー』とかないの?」
「……ちい姉が夏休みにいない方がやだ」
「これなんだからぁぁ~……」
……諦めてもらうしかないんだけどなあ。
愛香はしゃがんで好香を抱きしめながらお手上げとばかりに天を仰いだ。そして、ちらりとこちらを振り向くと、援護射撃をしろとアイコンタクトを取ってきた。
すまん愛香。援護したいのはやまやまだが、今の好香にどう言えば効果的なのかがまじで分からん。
「はいはいはい!幼女に別れを惜しまれ泣きつかれるなんて良シチュは恐怖で泣き叫ばせる蛮族には似合わないと思います!!」
愛香の援護要請にここぞとばかりトゥアールが名乗りを上げ、豪快に背中から撃ち抜いてきた。
今まで静かだったのは、泣きつく好香を邪悪な目で凝視して涎を零し、泣きつかれる愛香をこの世ならざる怪異を見てしまった目で慄く、という忙しない二面相していたからなのだが、ついに抑えが利かなくなったのか。
「好香に涎をつけるんじゃねええええええええ!!!」
「天使の好香ちゃんは女神のトゥアールさんが涙をぺろぺろしてあげまおぎゃああああああああああ全身がべろべろになる恐怖うううううう!!」
だが背中から撃ってもその壁は頑丈すぎた。
人体構造を無視した、にゅるんとしか形容できない流体じみた動きで好香に絡みつこうとしたトゥアールを、愛香は好香を抱きしめたまま片手掴みで鞭のように振り回していた。
風圧と恐怖で歪む美少女だったはずの顔が縦横無尽に軌跡を描いている……
どーしてこーなったのか。
ちい姉の合宿について総二兄にじかだんぱんしに行ったら、追っかけてきたちい姉にぶたれて。そしたらなんかもーちい姉に行ってほしくないってことしか考えられなくなっちゃって、ちい姉にくっついてる以外になにもできなくなったんだよね。
だってしょーがないでしょ!
なんかちい姉怒るし、夏休みにいないくらい大したことないみたいに言うんだもん!!なんでちい姉いなくなる上に怒られなきゃいけないの!?ってなったら、どーしよーもなくなったんだもん。
「ちい姉どーしても行っちゃうの……?」
「深刻な顔やめなさいよ生き別れってわけでもないでしょうが」
「ぶああああああああああああああああああ」
「そうかなぁ……」
「そうよ!夏休みの合宿だって言ってるでしょうが!!」
「ぶああああああああああああああああ」
私の頭をぽんぽんってなでてくれるちい姉は、怒った顔からすっかり困った顔になってる。うー、私のわがままかもしれない。でもわかってるけどそれでも。
「ぶああああああああああああああああ」
……ちい姉いつまでトゥアールさん振り回してるんだろう。だんだん叫び声が気になってくるんだけど。
あ、そうだ。
「トゥアールさんは大かんげーって言ってくれたの……それでもいっしょに行っちゃダメ?」
総二兄のお部屋では、ちい姉がイキナリぶってきたから言いそびれちゃったんだけど、トゥアールさんOKしてくれたんだよね。どうかな?
「はぁ?……それ多分そういうことじゃないわね」
「ちがうの?」
ちい姉は一瞬、目を丸くしたけど、すぐにちがうって言ってきた。ちょっとだけトゥアールさんを振り回す勢いが強くなった気がするからホントみたい。
じゃあトゥアールさんが かんげー してくれたの何だったのもう。
「ぶああああああれはああまりの可愛さに目が眩んじゃっただけでごめんなさい好香ちゃんんんんんんんんんんん」
トゥアールさんもぶぉんぶぉん風を切りながらてーせーしてきた。何それそんなのありなの!?トゥアールさんは味方だと思ってたのに!!
「そんなぁ……」
「ぶああああああああああ合宿先はちょおおおおおおおおおおおっと遠い所になったんでええええええええ好香ちゃんをおおおおおおおおお一緒に連れて行ってあげるのは難しいんですよおおおおおおおおおおおお」
ぱん、と手を合わせて期待させてごめんなさいってトゥアールさんがあやまってくる。ちい姉に振り回されてはっきり見えないから多分だけど。
「ぶああああああああああああああでも愛香さんがお留守番はありだと思いますよおおお総二様はこの私に任せて愛香さんは部室の掃除に励んでくれるなら大歓迎ですよねぶははははあべっしゃあああああ!!!!!!」
「床の埃もはたくべきよねえ!!」
その代わりにちい姉のお留守番を てーあん してくれたトゥアールさんだったけど、思いっきり振り下ろされて床を人型に凹ませた。
総二兄が「ウチのリビング……」ってつぶやいてるのが聞こえたし、ちい姉もーちょっと気をつかった方がいいのかもよ。
ちい姉がトゥアールさんを
ちい姉はちらっとだけ総二兄を見て、すぐ私に視線を戻した。私を見るちい姉は、……?なんかちょっと顔紅くしてる?
「これ以上は時間が勿体ないし……く……こんなの言いたくなかったのに」
今度はぶつぶつ言いだした。私を見る目がちょっとキツくなった。な、なによ。今そんな顔されたら私は泣くんだからね!?
そー身構えたら、両手でぎゅっと私を抱きしめてくれて。
「好香さぁ。あたしを応援してくれるんじゃなかったの?」
総二兄に聞こえないように、私の耳にそーっとささやいた。
「あたしだけ合宿に行けなかったら、と、トゥアールに負けちゃうかもしれないけどそれでもいいの?」
ぼそぼそと言ってくるちい姉。ひどい、なんでそんなこと言うの。そんな、そんなの……
「えぇ!?それ言うのずるーいぃぃちい姉!!そんなこと言ったら私、私……!」
「ええい騒ぐな!あんたがいつまでも駄々こねるからでしょ!あたしだってこんなしょーもない説得言いたくなかったわよ!」
わ、私の気持ちを りよー しよーだなんて ひきょー だぞちい姉!本気でちい姉を おーえん してるのわかってるくせに!!スーパーゴリラのくせにこーゆー時だけなんでそんなこと言えるのひどい!!
ほら、自分だって言っててぷるぷるしてて、怒ってるのかはずかしーのかわからないじゃん!!
でもでも、そー言われたらこまる。ちい姉とはいっしょにいたいけど、コクハクも上手くいってほしーもん。トゥアールさん きょーてき だし、ハンデついたらちい姉だとちょっと……
「うぅ、ちい姉なさけないしぬけがけされたら逆転むつかしいもんね……」
「……このチビスケ。自分でダシにしたけど、あんたが生意気にそう思ってるのは腹立つわね」
うぐ。
抱きしめてくれるちい姉の腕の力がちょっと苦しくなった。自分で言ったクセになんで。ちい姉だってわがままじゃん。
ちい姉をおーえんしたら会えなくなる。
ちい姉と夏休みいっしょにいたらおーえんできない。
つらい……きゅーきょくのせんたく……!
「うううぅぅ~……ちい姉おーえんしたいけど夏休みずっとちい姉に会えないのもやだあ」
どっちも選びたくて決だんなんてできない。
……ほんとは私のわがままだけどさ。ちい姉のおーえんしたいんだから、私がお留守番するしかないんだけどさ。
わかってるけど……それでも夏休みにちい姉なしとか無理だもん!!やだ!!
「おや?好香ちゃんってば、もしかして勘違いしてるんじゃないですか?」
ひじょーな二択に身動きが取れなくなってたら、いつの間にか私に合わせてしゃがんでくれてたトゥアールさんが。もしかして、とひとさし指をぴっと立てて見せた。
ほんの一瞬前まで、床の凹みにピッタリめり込んでたのに復活はやいなあ。
「夏休みの合宿、って別に夏休みを全部使うわけじゃありませんよ?」
え。
え?
「……………そうなの?」
さらっと、すごい じゅーよー なこと言われて頭が真っ白になった。え?え?
トゥアールさんが、やっぱりって感じで私を見てニコニコしてる……あ、この顔知ってる。私をからかった時のおねーちゃんと同じ顔だ。な、なによぅ!?
「はぁ!?そんな勘違いしてたわけ!?八月の一週目には帰ってくるわよ」
うそ、思ってたよりずっと短い。
だ、だからって、ちい姉はかわいそうだと思って損した、みたいな顔してるのなによ!?
ちい姉もトゥアールさんもなによその顔!だって私そんなの聞いてなかったもん!!
「か、かんちがいとかじゃないもん!だってだって、ちい姉いつ帰るとか言わなかったもん!!」
「なーにその膨れっ面は。お姉ちゃんには教えた……あんたはぐーすか寝てたり、聞きもしないでそーじの家に飛び込んだりしたんでしょ。このお騒がせチビスケめ」
私のじごーじとくみたいな態度になるちい姉にむすっとしたら、おでこを指でぐりぐりとつつかれた。
「そもそも夏休み目一杯ツインテールについて部活することなんてあると思うの?」
ないね。たしかにそれはない。
総二兄が「本格的に研究したら夏休みじゃ足りないぞ」とか言ってるけど、それはない。そこは れーせー じゃなかった、うん。
でもちい姉が夏休みにお泊りなんて、急に言われたられーせーなはんだんができる人なんかいないでしょ。むう。
「助かったわトゥアール」
「もう少し可愛い泣き好香ちゃんを見ていたくもあったんですけどねー。流石にかわいそうですし、そろそろ出発時間ですから」
「悪かったわね妹が手間を……ん?あんたいつから好香の勘違いに気付いてたの?」
「いやー正直に言ってしまうと二人がループ口論してる途中から、ひょっとして……?と思ってました。でも、泣き好香ちゃんってご褒美とあわよくば愛香さんが合宿キャンセルなんて千載一遇のワンチャンだったんで!結果、自分のヘタレ具合で幼女に訴えかける自虐蛮族が見れたんでまあいいかなって思いましてグフフっふぉあばぁ!!!」
ひえっ。私そっちのけで話しだしたと思ったら、ちい姉に顎を殴られたトゥアールさんが一回転して倒れちゃった。
「まったく……何はともあれ、私がいないのはほんのちょっとだけだって好香もわかったんだし、もう大丈夫よね」
つかれたーって息を吐いて軽く伸びをするちい姉。くるっと向きを変えて、私から離れて総二兄のとこへ行こうとしてる。
え、ちょっと待ってよ。一歩進んだちい姉のシャツをあわててつかんだ。
「ん?どうしたの?」
振り返ったちい姉がふしぎそうに見てくる。どうしたのって。
「夏休みずっとじゃなかったけど……八月までちい姉がいないのも長いと思う」
うん。思ってたよりも短かっただけでじゅーぶん長いよ。ちい姉が帰ってくるまで待ってられるか……自信ない。てゆーかムリ。八月までちい姉いないとかやだ!!
「え?」
「え?」
ガックリと肩を落としたちい姉。なんで落ち込むの。
落ち込みたいのはちい姉とどーなるかがせとぎわの私だよ私。
「今のは聞き分けの無い妹がようやく納得してくれたって流れだったでしょうがこんのチビスケはあああああああ~~~~~~~~~!!!!!!!」
「はぇ!?あうあうああうあうあうだってだってだって~~~~~~~~!!」
ちい姉がぱっと目の前から消えたと思ったら、大声出して頬っぺた引っ張ってきた!!いたいいたいいたい!! 流れとか言われたってしょーがないじゃん!私はちい姉がいっしょじゃないとさびしーんだもん!!
ツインテール部の合宿までの道のりは遠い……
好香にしてみれば、7月の終わりから8月の一週目まで→月を跨ぐんだから実質2ヵ月だ2ヶ月!!長すぎる!!!
という感覚です。ちい姉の気苦労はもうちょっと続く。