「ねえレッド。あの子、途中からしっかり声に出てましたわね」
「ああ。しっかりしてそうで抜けたところあるんだよ好香は。でも不意打ちにあんな褒め殺しされたらブルーもああなるんだな。でも、あの光景からブルーのツインテールをちゃんと見れるなら、やっぱりツインテールの素質あると思うんだけどなあ好香は」
ブルーと好香、2人から少し離れた場所でイエローと俺は小声で話している。好香はともかく普段のブルーなら気付きそうなのだが、その様子はない。
エレメリアンと戦う際は敵からもギャラリーからも恐れ戦かれることが常となっていたテイルブルー。それがまさかのテイルブルーと津辺愛香の両面から褒め称えられてしまい、完全に表情が弛緩している。正しくにやけ面ってやつだ。
『あの蛮族の舞を見た上でその様子なら本物のテイルブルーファンなんですねー好香ちゃん。いや奇特な幼女……でもそうでないと愛香さんは妹に恐怖を植え付けたことになりそうで流石に目も当てられないんですが』
トゥアールからの通信に同意する。
例によってエレメリアン出現を探知して出動した俺たちが見たのは巨大なリス―スクウェレルギルディにお姫様抱っこされている好香の姿だった。
いくらエレメリアンが極力、人間を傷つけないとわかっていても、鼻息荒い怪物が気絶しているい幼女を持ち上げていたら話は別だ。変態の現行犯すぎた。しかも対象がこっちの身内だったんだから始末に負えねえよ。
妹分に手を出されて俺の怒りにも火が付いたのだが、当然ながら隣の
急降下からの蹴りでスクウェレルギルディの頭を地面に埋めて好香をキャッチしたのがほんの助走。眠る好香をイエローに預けて埋まった怪物リスを引きずり出して、そこからが恐怖の本番。普段以上に容赦なく相手を血祭りにあげ出したので、俺はもちろんイエローも何も手が出せずじまいのまま終わってしまった。
というか俺とイエローはスクウェレルギルディと言葉を交わした覚えすらない……相手の名前を知ることができただけでも奇跡のような惨状だった。
「正体は知らなくても身内に怖がられるのは堪えるだろうしな。それも普段懐かれてる相手だと」
その怒りは正当なものであったのだが、表現方法が如何せん過激すぎだったのも事実。しかも小学生児童の視聴お断りな残虐シーン実演真っ最中のタイミングで好香が起きてしまったので、俺もヒヤヒヤしたんだよ。しかし、好香のキラキラした目でテイルブルーの手を握ってる様子からするに杞憂だったようだ……これも奇跡だと言われたら否定しづらいのが困るが。
「不安があるとすればテイルブルーを【愛香みたいにかっこいい】って思ってそうなところなんだけどな……」
「あ、そうですわね。今の様子を見る限りだとブルーを津辺さんだと気付いてはいないようですけれど」
『確かに。【身近な人間】と【
ツインテイルズの正体を秘する
俺は最初から母さんにバレていたというか盗み聞きされて自ら嬉々として参加されるという悪夢だったが、愛香と慧理那は家族には明かしていない。それを思うといつかテイルブルーの素顔に辿り着いてしまいそうな好香の様子に不安がある。
テイルブルーが受け入れられてるのは喜ぶべきことなのだが難しいもんだ。願わくば好香にはこのままテイルブルーにはしゃぐだけで済んでほしい。
ただトゥアールの言う通り、すぐにばれることもないはずだから対応を練る時間は十分にあるだろう。
『あ――いえ、やはりここは愛香さんにテイルブルーとして身も心も鬼になってもらい好香ちゃんを怖がらせてもらいましょう。お姉さんとヒーローのイメーイを完全に剥離させ!且つ怯え切った幼女をお隣に住む白衣のおねーさんが優しく癒して憧れの対象を変える!!コード【私色に染め上げろトゥアール!】これが完璧です!!!じゅるる』
「なるほど帰ったら身も心も鬼にしてあんたを血の色に染め上げるわ」
『私の声にだけ的確に反応した抹殺宣言!?』
それにトゥアールが急がなければならないのは30分以内に真っ赤な染物と化す己の運命への対策であろう。
「それじゃ今日は寄り道せずに帰らなきゃ駄目よ!で、しっかり休むこと。わかった?」
褒め殺しから我に返ったブルーは、帰っていく好香を手を振り返して見送っている。
この様子を見れば世間の評価も少しは変わりそうなのだが、悲しいかなそういう時に限ってギャラリーもTVカメラも不在での戦闘だった……もっとも、少女への優しい対応の前に過剰殲滅する一幕もあったので結局は世間に晒されていない方がよかったのかもしれないが。
『反りの合わない属性で同士討ちにでもなったんですかね。その場合は指揮官の采配が雑ということになりますが。反応の消失が倒されていたのならそれで良し、逃走していたとしてもスクウェレルギルディに劣る相手ならツインテイルズが助けた対象を即座に狙うようなことはできないと思います』
更に小さくなっていく好香の背中を見届けながら、トゥアールの言葉に俺たちは真剣な表情に変わる。――俺たちが出動した時点では、探知した
「エレメリアン同士で戦ったのか……?」
「敵組織の内部争い―ヒーローものでよくあるやつでしょうか?」
イエローは特撮ヒーロー知識か推測するが、アルティメギルの内情までは知らないとはいえ今までのやつらを見ているとそういう気配を感じることは無かった。ダークグラスパーという処刑人はいるが、表立って権力争いのようなことが起きる連中にも思えない。それに――
「でも内部争いに関わりそうなほどの強さでもなかったしなあ」
ブルーの容赦なしを差し引いてもスクウェレルギルディはそれほど強いエレメリアンではなかった。そのせいで、というとスクウェレルギルディが哀れだがテイルブルーの残虐ショーが若干ちょっとだけ、より過激に映っていたという面もあった気がする。
「好香に絡んだ変態連中がまだ生きてるっていうならそいつも見つけて血祭りにするだけよ……やっぱり追いかけて一緒に帰ろうかな。偶然会ったふりすれば大丈夫じゃない?」
『いえ愛香さん。心配なのはわかりますが止めた方がいいでしょう。好香ちゃんはテイルブルーに好意的ですから、このタイミングで接触すると偶然を装っても蛮族と蛮族をイコールで捉えてしまい正体に気付くかもしれません。異形の変態に絡まれた直後に姉が世間に名立たる人型の暴力と知ってしまうのはあまりに酷です』
「アンタ相手にしてるのと違って優しい姉で振る舞ってるわよあたしは!」
正体バレの可能性を否定するブルー。しかしまだ見ぬ相手の抹殺準備として既にバキバキ腕を鳴らす姿と毎日のようにトゥアールで実演する破壊の衝撃映像を見学させていることが優しい姉のイメージだけでフィルターが保持されているかは怪しいんだよな……。
そもそも【優しい姉】というだけの認識なら愛香より恋香さんの方が強いような気もする。むしろ愛香は【強い姉】であって【優しい姉】のカテゴリに入っているんだろうか?当の好香自体はどう捉えてるかは分からないが……
『とにかく。念のため、家に着くまでは好香ちゃんを
「そっか。ありがと」
『仲間の妹、まして幼女の安全に気を配るのは当然ですよ。あ、今も楽しそうにテイルブルーの真似して飛び跳ねてますね。いやー可愛い』
ブルーの素直な感謝に、トゥアールが冗談めかしてふふんと鼻を鳴らしているのが通信越しでもわかる。やはり普段の(一方的な)殴り合いは信頼の証だというのが、こういう時にわかる。
――だというのに人は何故、過ちを犯すのか。
「グフフ、スカートなの忘れてジャンプする幼女サイコーですね。最高画質にして保存しましょううへへトゥアールさんが見守ってますからね好香ちゃんげへへへ」
基地に帰った俺たちが見たのは、幼子を見守るはずの人間が血走った眼でよだれを垂らしながら超科学の粋を集めて一心不乱に盗撮している現場だった。
「不要なデータは削除しないとねえええええ!!!」
「スマホ世代にあるまじき物理的な削除おおぼあああああああ!!」
俺は画面に映る
ツインテイルズに助けられて無事、家に帰ると私1人。小学生の私がいちばん早く学校終るんだから当然だけど。リビングに入るなりランドセルを思いっきりソファーに投げ置いても叱られない私だけの時間、けっこー好き。
さて、どうしようか。いつもならTV見たりゲームしたりといろいろ忙しいんだけど、なんかそんな気分じゃない。宿題?もっとそんな気分じゃないよ。
自分の部屋に入ってベッドに転がる。ほんの少し前のいろいろ信じられない出来事をすぐに思い出しちゃう。
「ツインテイルズ……テイルブルーか……」
口をついて出てくるのは
「うふ、うふふふ……」
そのはずなのに思い出すだけで笑っちゃう。テイルブルーを思い出してると特に。誰もいないけど、恥ずかしくなって顔をかくそうと枕に押し付けたら足が勝手にバタバタしてきた。
「かっこよかったぁ……!はっ、いけないいけない!」
また無意識に呟いたセリフに慌てて首を振る。直接見ちゃったからテンション上がったけど、私のちょっと例外はちい姉のツインテールだけ!ちい姉に比べたら他のツインテールなんかどれも同じようにしか見えないんだから!!うん!
「そうよ、テイルブ、ツインテイルズはヒーローだからかっこいいの!いちばんはちい姉!!」
自分に言い聞かせてちい姉とテイルブルーを思い浮かべてしっかりと比較する。れいせーに比べればちい姉の方がすごいに決まってるんだから!
(ほら、やっぱりちい姉……でもあんな強そうに見えるツインテール……でもトゥアールさんボコボコにしてる時はちい姉だって!総二兄がさわってる時ならデレデレして可愛いし!でもテイルブルーだってもし総二兄がさわったら……!?)
うぐぐ比べる程にしょーはいが見えない。これがこーおつつけがたし、というやつなの!?うぅ……テイルブルーがかっこいいのは確か。でもちい姉には私がずっと見てきた分ポイント高いんだよかっこいい以外だってもあるもん。でもTV越しでは何度か見てたとは言え直接の一目でそのちい姉のツインテールくらいのインパクトを見せられるとテイルブルーが……
「うぅぅ~……かっこよかったけどやっぱり悔し~~~いいい~~~ぃぃぃ!!!」
いろいろ言ったけど、この一言につきるの!助けてくれた上にちい姉くらいかっこいいいとかテイルブルーはずるい。
自分の部屋だと落ち着かなくなった私は、今度はちい姉の部屋の前にいる。……テイルブルー本人の前であれだけはしゃいでしまった以上、もう遅い気もしてきたけど、何かちい姉が負けてないかくじつな証拠がほしくなったというか。
勝手に入るのはいけないしちょっとドキドキするけど……これも家に1人だけの時しかできないことだ。用心してそっとドアを開ける。そりゃ家には誰もいなんだけど。
「ちい姉だと家にいないのに気付いても不思議じゃないんだよね……」
昔からちい姉を驚かそうとして成功したことがない。最初は私が分かりやすいのかと思ったけど、ちい姉がおかしいだけってすぐにわかったんで細心のちゅーいが必要だ。ちい姉が野生どーぶつだって気付かせてくれたの総二兄も最近はツインテールの気配がどうとか言ってるの聞いたしあれだけど……
「と、そんなことよりも……うーん、なに探したらいんだろ?」
さてどうしよう。こそこそと勢い込んで入ってみたものの、これ以上することがないや。ちい姉>テイルブルーだとしょーめいできるアイテムとはいったい……?
「窓の向こうが総二兄の部屋ってことと、ちい姉が何か所か素手で壁凹ませてるくらいしか変わったところってないよねー……」
それでどうテイルブルーと比べればいいのか。もっとガサガサーっと探したいけどあんまり置いてあるもの動かすと勝手に入ったのちい姉にバレちゃうし。怒ったちい姉と怒ったテイルブルーを比べてみる、なんてゆーのは人間ができることじゃないからね。
手詰まりで部屋をぐるぐるしてると、姿見に映った自分が目についた。私は髪を結んでないからどっちってゆーと、おねーちゃんに似てるなんて言われるけど、ちい姉にだってちゃんと似てるんだよ。おもかげがあるってやつだ。
「ちい姉とテイルブルー……どっちもかっこいいんだよね」
私がかっこいいと思った人はどっちもツインテールだ。そういえばどうして私はツンテールがきらいって思うようになったんだっけ?
「私も……ツインテールにしてみたら」
――ちい姉やテイルブルーみたいになれるかな?
ほんの気まぐれだと思う。左右で髪をつまんでみた。鏡に映るツインテールもどきの私は……テキトーに作ったのを抜きにしても2人のようには見えない。
「ま、そうだよね」
また似合わない真似しちゃった。そう思って髪から手をはなそうとしたら
「わ、なに?」
ポケットで何かが光った。服ごしだけど虹色の光がもれてきてる。
「なんだろ前に映画館でもらったライトとか出し忘れてたのかな・・・?」
正体を確かめようと手を入れたら堅いものに触れる。手ですっぽりにげいれそう、大きさはそんなでもない。やっぱり映画でもらったライト?
「トゥアーーーール!!!私の部屋に忍び込んで何して――あれ!?」
「ひやああああああああああ!!!??」
どかーん、って勢いよく開け放たれたドアと怒鳴り声にびっくりしてポケットから手を引っ込めちゃった。ちい姉、帰ってきたの!?
「な、ななによちい姉!?ノックもしないで入って来て!」
私はちい姉とちがって気配なんかわからないんだからね。部屋に入る時はれーぎってゆーのを守ってよ!!
「あ、ごめん。気配を感じたからてっきり小細工しにきたトゥアールだと――そうよあたしの部屋じゃない!!」
びっくりしてちい姉に文句言ったけどそうだ、ちい姉の部屋だったここ……やっべ。
「好香ぁ~あんたまさか誰もいない時、いつもあたしの部屋に……?」
うわ、こっち見るちい姉の目がちょっとキツくなってきた。今日だけじゃないじょーしゅーはんだと勝手に判断されてるまずい。……じょーしゅーはんなんだけどね。
どーやって切り抜けようこれ。
「えへ☆」
「つまりあたしの勘違いじゃないのねわかった」
もーちょっと信じてよかわいい妹でしょ、ちい姉のはくじょーもの。のしのしと近づいてくるちい姉にごまかすように妹スマイルしてみたけどダメだこれ逃げなきゃ。
(逃げ道……ドアはちい姉のうしろだし……落ちつけ落ちつけ。すれ違いにちい姉の手をよけられたらいける!)
「はぁ、ほんっと人の気も知らないでこのチビスケは~~」
じりじりと後ずさりしながら逃げるさんだんを整える。その間にもちい姉は近づいて、いよいよ手を伸ばしてきた……ここだ!
「お」
頭を下げてダッシュ。ちい姉の手は空振り。ちらっと目を丸くしてるのが見えた。ふふん、どんなもんよ!ゆだんたいてきだちい姉。
「ふん、十年早いわよ」
「ふぎゃ!」
鼻で笑って足引っかけられた……体がふわっと浮いたと思ったら転ぶ前に捕まって脇に抱え込まれました。手足をばたばたと動かしてもがいてみたけどダメだ。それに見下ろしてくるちい姉の顔見たら動けなくなった。
うぅ、ちい姉相手でむぼーだった。テイルブルーの大暴れ生で見たせいで自分も逃げるくらいならできると思ったのが間違いだった……
「度胸は買うけど、これは往生際が悪いってのよばーか。ったく何してたか知らないけど散らかしてないでしょうね?」
「ごめんなさい……」
ちい姉の手が顔に近づいてくる。うぅ、ちい姉のデコピンめちゃめちゃ痛いのに……
……………
「……っ?あれ?」
目をつむって痛さに備えてると何も起きない。そーっと目を開けたら構えたままでちい姉の手が目の前で止まってる。上を見るとなんかちい姉がじっとこっち見てた。
「いいわ。今回はあの事でチャラにしてあげる」
「へ?」
溜息ついたちい姉は私の頭をぽんぽんと撫でるだけだった。なんで?ちい姉がお咎めなしにするとか珍しすぎて変な声が出ちゃった。なんかファンサがどうとかぶつぶつ言ってるのも聞こえたけど何のことだろう?とにかく助かったけど。
「ちい姉、変なものでも食べた?」
「気を付けないと追加分がチャラにならなくなるわよ。あーそうだ今日はベッドに放り込んで夜更かし許さないから、ちゃんと休みなさいよ。もし起きてたら今度こそキツいのお見舞いするからね」
部屋から運び出されて夕食になったら呼ぶから寝てろ、って自分のベッドに投げられて、次に私のランドセルまで運んできてくれた。
「なんか今日のちい姉優しい……?」
――この日はツインテイルズに会ったこと、いつもより優しいちい姉の方が気になって、ポケットの中身についてはすっかり忘れて寝ちゃった。
変態に絡まれた当日、身内で妹でファンという要素が重なり愛香さんがいつもより優しくなったので本日の認識攪乱装置さんは耐えた_(:3」∠)_