「おーい! 霊夢ぅー!」
ここは幻想郷の東端に位置する博麗神社……。幻想郷に張られた大結界の要である。ほうきに跨り空を飛び、この神社の巫女『博麗霊夢』を呼ぶのは、彼女の友人『霧雨魔理沙』だ。魔理沙は魔法の森に構えた小さな家に住み、魔法の研究をしている。
年端のいかない少女の魔理沙が、安全とは言えない魔法の森に住んでいるのには理由がある。魔法の森には幻覚を見せる茸が生えており、その幻覚が魔法の力を鍛えるのに適しているからだ。凄い魔法使いを目指す魔理沙にとっては最高の環境というわけである。
だが霊夢からすれば、幻覚を見せる茸が生えている場所にわざわざ好んで住む魔理沙の行動は、理解しがたいものでしかない。霊夢はそんな魔理沙を変わり者扱いしていた。
「また来たのね、魔理沙。悪いけど、私は掃除中なの。弾幕ごっこの相手は後にしてちょうだい」
「なんだよ。つれないなあ。折角来てやったってのに。そんじゃ、私は掃除が終わるまで待たせてもらうぜ?」
「勝手にしたら? お茶が飲みたいなら、お好きにどうぞ」
「ええ……。淹れてくれないのか?」
「あんたはお客じゃないもの」
「ひどい扱いだぜ……。そんじゃ、勝手に淹れさせてもらうぜ。お邪魔しまーす!」
魔理沙は母屋に上がると、迷いなく台所へと向かう。普段から母屋に上がっているらしく、お茶の葉、急須、湯のみの位置も完全に把握している。勝手知ったる他人の家とはこのことだ。お茶を入れた魔理沙は母屋の縁側に移動し、湯のみを啜る。
「なあ、まだ掃除終わらないのか?」
「まだ少しも待ってないじゃない。終わるわけないでしょ」
「魔法の森からこんな幻想郷の端まで飛んできてるんだぜ? 掃除なんか後回しにして付き合ってくれても良いだろ?」
「そんなこと出来るわけないでしょ。まあ確かに、毎日毎日よく来るもんだわ。暇なの?」
「はあ、遠方遥々訪れたのにその言い草……。ちょっと酷いぜ」
「冗談よ」
「ホントに冗談かぁ?」
「ホントに冗談よ」
霊夢は境内の庭をほうきで掃除しながら、魔理沙に横顔を見せて微笑む。この二人はいつもこんな調子らしい。
……霊夢は毎日やってきては弾幕ごっこを要求する魔理沙のことを昔は鬱陶しいと思っていた。だが、あまりにも真っ直ぐに霊夢に向かってくる魔理沙に対して霊夢は特別な感情を持つようになっていった。霊夢は魔理沙を好敵手だと思うようになっていったのである。それは魔理沙も同じだった。最初は魔理沙も霊夢のことを良い練習相手だと思っていたにすぎない。だが、霊夢の圧倒的な弾幕センスに魅了され、惹かれていったのだ。彼女らの関係は奇妙なものだった。友達ではあるのだろうが、それを本気で口にすることはお互いになかった。なんとなく気が合うので、なんとなく弾幕ごっこの練習相手で、好敵手という間柄になったのだ。もっとも、弾幕センスは霊夢の方が圧倒的に上ではあるのだが……。
「さ、掃除終わったわよ。始めましょう、弾幕ごっこの練習を」
「待ってました! 私の改良したマスタースパークを見せてやるぜ!」
「建物には当てないでちょうだいよ?」