次の日……、魔理沙はいつものように博麗神社を訪れていた。霊夢と弾幕ごっこの練習をするためである。
「……いい動きじゃない……」
霊夢がポツリと一言こぼし、口元を歪める。魔理沙の動きはここ最近で一番の仕上がりになっていた。理由は単純である。霖之助とのわだかまりが解消され、迷いがなくなったからだ。魔理沙は霊夢を超える高スピードで翻弄する。近距離戦も遠距離戦も……弾幕ごっこに必要な能力のほぼ全てが霊夢に劣る魔理沙ではあるが、ほうきに乗っている時の単純な最高速だけは霊夢を上回る。
魔理沙は霊夢の放つお札の弾幕をスピードで振り切りながら、霊夢に照準を合わせる。魔理沙の必殺技、『マスタースパーク』をお見舞いするために……。
「今日こそは、一本もらうぜ……!マスター……」
魔理沙がマスタースパークを放とうとした瞬間だった。霊夢が持つお札から強力な閃光が放たれ、魔理沙の視界が奪われる。あまりの眩しさに魔理沙はほうきを握っていない左腕で顔を覆う……と同時に移動を止めてしまった。
「スピードで上回ってるからって慢心し過ぎよ」
「ええ……」
視界が戻った時には、魔理沙の首元に背後から大幣がかけられていた。まるで、暗殺者がナイフでターゲットを始末するような形だ。
「いつの間に背後にまわったんだよ……」
魔理沙は冷や汗を額ににじませる。
「今回も私の勝ちね。お団子代よろしく」
「……いつも私がお団子おごってる気がするぜ……。くっそー……」
「休憩にしましょう。お団子おごってもらってるから、お茶くらいは出すわよ」
霊夢は魔理沙が落ち込んでいる姿を見て、切り替えさせようと休憩を提案する。魔理沙も一旦気持ちを落ち着けるため、霊夢の言葉に乗っかり、縁側でお団子を食べることにした。
ふたり揃って、縁側に腰を置き庭の方を向く。霊夢はある程度姿勢良く座り、目を閉じ、両手で持った湯のみをすする。一方魔理沙は両手を縁側に着き、体を後方に傾けながら、口を半開きにして空を見つめていた。それぞれにリラックスできる体勢を取りながら、お団子を食べていた時、魔理沙は思いだしたように口を開いた。
「……最近、平和だぜ……。異変も起こってないし……。なぁ、霊夢、最近おもしろいことやおかしいことはないのか?」
「ないわよ。というかあったら嫌よ」
「……お前、ホントやる気ないのな……」
「やる気がないわけじゃないわよ。私の仕事がないってことは、平和ってことなんだから……」
魔理沙は霊夢の反応を見て、水晶の件はまだ、霊夢の耳には入ってないだろうことを確認し安堵する。今回の異変疑いのある怪しい水晶の事件、魔理沙は自分が原因を見つけるまで霊夢には知られたくないのだ。
「よっと!」
魔理沙は縁側から立ち上がり、ほうきを手にする。
「そんじゃ、私は帰るぜ」
「……珍しいわね。こんなに早く帰るなんて……」
「ちょっと用事があるんだ」
「あっそう」
「おいおい、もう少しさみしそうにしてもらってもいいんだぜ? 『魔理沙……もう帰っちゃうの?』ってかわいらしく言ってくれても良いんだぜ?」
「なによ。その女々しい言い方は……。気色悪い……」
「たしかに……霊夢がそんな言葉を言ったら気色悪いな……。自分で言ってて鳥肌が立ってきたぜ……」
「……あんた、ケンカ売ってんの? ったく……」
「そんじゃ、また明日な……!」
「はいはい……」
魔理沙はほうきで飛び上がり、博麗神社を後にする。魔理沙はとりあえず、今日の目的地も人里にした。老婆が訪れているかもしれないと考えたのだ。
魔理沙は人里に降り立つ。今日も街ゆく人に声をかけ、老婆が来ていないか尋ねてまわった。しかしわかったことは老婆が人里を訪れたのは昨日の一度だけで、それ以降は人里に姿を現していないらしいということくらいだった。
「……婆さんと会うのは難しそうだな……。まあ、いいや。それなら今日はこのアイテムの正体を突き止めに行くか……!」
魔理沙は再び、ほうきにまたがる。妖怪の山と呼ばれる山。その麓に向かって飛び立った。