東方二次創作 普通の魔法使い   作:向風歩夢

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抵抗する下賎な神たち

「さて、まだ終わらせんぞ。下賎な神よ」

「あ、あ……。いた……い……」

 

 地面にうつ伏せに倒れ、絞り出すように声を出す雛。そんな雛に巨大蛇女『ナーギニー』の追撃が加わる。

 

「あぁあああああ!?」

 

 叫び声とともに厄神は悶絶する。ナーギニーの尾が雛の足に叩きつけられていた。雛は激痛で顔を歪める。

 

「どうだ、苦しいか? 下賎な神よ。だが、妾の忠臣たちが受けた苦しみはこの程度ではなかろう。もっと苦しめてから死なせてやるぞ?」

 

 ナーギニーが尾の先端を雛に向ける。明らかに雛の体のどこかを突き刺そうという体勢だ。

 

「させない!」

 

 そう声を張り上げたのは、秋姉妹の姉、秋静葉だった。静葉は両の手掌をナーギニーに向けると、空気を巻き起こし、落葉の風をぶつけるが……。

 

「……何かしたのか?」

「うっ……。ま、まるで効いてない!?」

 

 静葉の風がナーギニーにダメージを与えることはなかった。ナーギニーは動揺する静葉の表情を見て笑みを浮かべる。

 

「喜ぶがいいぞ? そんなに死に急ぎたいのならお前から殺してやろう」

 

 ナーギニーは攻撃対象を雛から静葉に変えると、くねくねと尾を動かしながら巨体をは思えぬスピードで静葉の間合いに入ると、巨大な尾を静葉の体に絡みつかせた。巻き付かれた静葉は体の動きを封じられる。

 

「うっ……。ぐっ……」とうめき声を上げる静葉にナーギニーが問いかける。

「さて、これから妾がお前にどのような裁きを下すと思う?」

 

 静葉にナーギニーからの質問に答える余裕はなかった。なんとかとぐろから抜け出そうともがいていたが、ナーギニーの尾はビクともしない。

 

「このまま、窒息させても良いが、それでは地味であろう? 派手に殺してやろうぞ」

 

 そういうと、ナーギニーは静葉に絡みつかせた尾に力を込めた……。……静葉の体から巨大なクラッキング音が鳴り響く。何重にもなったその音は静葉の体中の骨から発せられるものだった。静葉は悲鳴を出すこともできずに鮮血を口から噴き出す。静葉の体に絡みついていたナーギニーの尾……。その隙間から勢いよく静葉の血が花火のように飛び出していた……。ナーギニーは尾の力を緩めると、『花火の残骸』をポトリとその場に捨て置く。

 

「下賎な神にしてはなかなか鮮やかな散らせ方だったぞ?」

 

 地に落ちた静葉の体は腕や足があり得ぬ方向に曲がっている。上から下まで着衣は全て血で染まってしまっていた……。

 

「おねえちゃぁぁあああああああああああん!!」

 

 妹、穣子の悲痛な叫びが妖怪の山にこだまする。

 

「お姉ちゃん! しっかりして! 返事して!」

 

 必死に呼びかける穣子の言葉に静葉が反応することはなかった。静葉の眼は開かれたまままばたき一つする様子はない。瞳孔も開いたままだ……。いつ死んでしまってもおかしくない。そんな状態だった。

 

「ゆ、ゆるさない……!」

 

 穣子は双眼に涙を浮かべながらナーギニーを睨みつけた。

 

「ほう。これはお前の姉だったか。だが、心配するでない。お前もすぐにあの世に送ってやるぞ?」

 

 どこかで聞いたことのあるようなまさに悪役といった言葉を並べるナーギニー。そんな巨大蛇女に穣子は怒りの全てをぶつけようとしていた。

 

「ウォームカラーハーヴェスト!!」と叫びながら穣子は弾幕を撃ち放った。穣子の弾幕は鮮やかな紅葉色の球を円状に放出する。

 

「ほう。力のない神にしては綺麗な花火を撃つではないか」

 

 穣子の弾幕がナーギニーに命中するが、まったくダメージは与えられない。

 

「こっちが本命よ!」

 

 穣子はすでにレーザービームを撃ち放っていた。レーザーはまっすぐにナーギニーに向かう。

 

「ぬぅ……!?」

 

 ナーギニーは咄嗟に腕でビームをガードする。ビームがナーギニーの腕に突き刺さった。……しかし、それは突き刺さったというにはあまりに浅かった。時間経過とともに腕に刺さったビームが消えていく。

 

「……私の全力が……。化物め……」

「ふむ。妾に傷をつけるとは……。矮小な神にしては健闘したな。しかし……」

 

 ナーギニーは穣子に話しかけながら高速移動を開始する。そして、穣子をその巨大な尾を振り回して吹き飛ばした。吹き飛ばされた穣子の体は大樹に叩きつけられる。穣子は叩きつけられた衝撃で気を失ってしまった。

 

「その程度では妾に敵わぬな。すぐに楽にしてやるぞ」

 

 ゆっくりと穣子の元に近づこうとするナーギニー。そんなナーギニーの尾にチクりと痛みが走る。ナーギニーにとっては蚊に刺された程度の痛みだが……、振り返るとそこにはうつ伏せになりなからもなんとか片腕だけでリボンを飛ばし、攻撃している雛の姿があった。

 

 既に片腕をボロボロに潰され、両足も折られた雛は息を切らしながらもナーギニーを睨みつけていた。

 

「クク……。なんとも仲間思いな奴ではないか。その勇気を称えて……先に貴様から殺してやろう」

 

 ナーギニーは雛のリボンを掴むと引きちぎり、ゆっくりと雛の元に移動し尾の先端を雛に向けた。

 

「その可愛らしい顔をこの尾で貫き、見るも無残な姿にしてやろう……!」

「おやおや。なにか凄い音がしていると思って立ち寄ってみたら……、大変なことになってるじゃないか」

 

 ナーギニーの尾がピクリと止まる。雛の声でも穣子の声でも……もちろん静葉の声でもない。もっと幼いトーンの声が聞こえてくる。

 

「何奴……だ?」

 

 ナーギニーが振り返り問いかけようとした時だ。ナーギニーの尾の先端が薄い円形の何かに切断される……!

 

「うぐ!? がぁああああああ!?」

 

 尾を切断された痛みで絶叫を上げるナーギニー。痛みにこらえながら振り返った先には尾を切断した鉄の輪を持ち、カエルのような両目がついた奇怪な市女笠をかぶった少女が小さな体で大きく仁王立ちしていた。

 

「勝手なことされたら困るんだよね。この山は私たちの縄張りなんだからさ」

「貴様……! よくも妾の尾を……! 名を名乗れ!」

「人の名前を聞くときはまず自分が名乗るってのが礼儀だとおもうんだけどねぇ。ま、いいさ。傲慢な蛇妖怪さんにも教えてあげよう。私の名は洩矢諏訪子。守矢神社の神! ……でいいのかな?」

 

 いまいちはっきりしない自己紹介をしながら、洩矢諏訪子は後頭部をかくのだった。


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